投稿日:2026.07.14 最終更新日:2026.07.14
【比較用・テーマ標準版/装飾なし】新規事業のメンタルヘルスと孤独|888人調査が示す「成功しても消えない負担」と組織の処方箋
新規事業の担当者は、事業そのものの難しさに加えて、「精神的な負担」という見えにくい課題を抱えています。しかもこれは、担当者の性格や能力の問題ではありません。
私たちイノベーション総合研究所が実施した独自調査(『新規事業の実態と意思決定に関する調査』2026年4月、888名、調査実施:株式会社マクロミル)で、担当者が最も多く挙げたのはモチベーションの維持(32.7%)、次いで経営層への説明(30.6%)でした。そして本記事がもう一つ注目するのが、順位こそ下位ながら見過ごされやすい孤立感(20.2%)です。多くの担当者が、同じ壁の前でつまずいています。
この記事で最もお伝えしたいのは、こうした負担が「成功すれば消える」ものではない、という事実です。黒字化に到達した担当者でも、モチベーション維持の負担は33.7%でトップのまま。精神的な負担は、成果とは関係なく続きます。だからこそ、個人の頑張りに任せるのではなく、組織の仕組みとして向き合う必要があります。
本記事では、まず負担がどんな構造で生まれるのかを整理し、そのうえで「個人でできる対処」と「組織として整える仕組み」の両面から、具体的な打ち手をお伝えします。最後に、現場でよくある誤解とご質問にもお答えします。
💡 この記事の要点(先に3行)
- 精神的負担で最も多いのはモチベ維持32.7%。黒字化しても33.7%で減らず、成果とは無関係に続く
- これは個人の弱さではなく組織設計の問題。個人の4ステップと組織の仕組みの両輪で対処する
- 孤独は「気合」ではなく「場」で解く。負担とキャリアの損は別物で、前向きな影響は73.6%
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目次
新規事業担当者はなぜ孤独に消耗するのか|精神的負担の正体
調査では8つの負担が挙がりましたが、本記事ではそのうち、互いに連動しやすく、放置すると担当者を追い込みやすい3つ——モチベーションの維持・経営層への説明・孤立感——に注目します。
この3つは、それぞれ独立しているわけではありません。モチベーションの低下は、経営層とのズレや孤立感と連動して起こります。1つだけに対処しても、残りの2つが負担を押し戻してしまう。ここが厄介な点です。具体的な数字で見てみましょう。
本記事で取り上げる3つの負担(888名調査より)
| 精神的負担 | 割合 | なぜ負担になるのか |
|---|---|---|
| モチベーション維持 | 32.7% | 成果が出るまで2〜3年かかり、手応えを感じにくい |
| 経営層への説明 | 30.6% | 経営層との認識のズレが76%も存在する |
| 孤立感 | 20.2% | 社内外に相談できる相手が少なく、1人で抱え込む |
※調査で挙がった負担は全8項目(上記のほか、既存事業との関係調整28.1%、兼務の時間制約25.8%など)。本記事では、担当者を追い込みやすく連動性の高い3つに絞って解説します。
成功しても、負担は消えない
もう1つ、見逃せないデータがあります。事業を黒字化させた担当者でも、モチベーション維持の負担は33.7%でトップのままなのです。成功すれば楽になる、というのは思い込みにすぎません。黒字化のあとには、スケールや競合対応、組織拡大といった新しい課題が待っています。負担の種類が変わるだけで、負担そのものは途切れないのです。
「結果を出せば報われる」という前提で担当者を放置すると、成功した優秀な人ほど静かに疲弊していきます。
負担が積み重なる仕組み
これらの負担は、次の4つの要因が絡み合って積み重なります。とくに「経営層への説明」がつらいのは、担当者が判定会議のたびに、前提のズレを解消するところから話を始めなければならないからです。あらかじめフェーズごとの評価指標を経営層と合意しておくと、この説明コストは大きく下がります(詳しくはKPI設計で解説しています)。
- 成果が出るまでの時間が長い(2〜3年単位)
- 経営層との認識のズレが76%の割合で存在する
- 新規事業の文脈を理解してくれる相談相手が、社内外に少ない
- 評価制度が既存事業のロジックのままで、結果が出るまで評価が下がる不安がある
ここで強調したいのは、これらが個人の弱さではなく、仕事の構造から生まれているということです。「メンタルが弱いから」と担当者個人の責任にする組織では、担当者は離職するか体調を崩すかの二択に追い込まれます。人を入れ替えても、次の担当者が同じ構造で疲れていくだけです。
では、この負担に対して、まず担当者自身には何ができるのでしょうか。
個人でできるメンタルヘルス対策|負担を分解する4ステップ
組織の仕組みを変えるには時間がかかります。その前に、担当者自身が今日から始められることもあります。コツは、気合で乗り切ろうとするのではなく、負担を扱いやすい形に「分解」することです。次の4つのステップで考えてみてください。

具体的には、以下のように進めます。大切なのは、これらを意志の力に頼らず「予定」として仕組みにすること。週次の振り返りや月1回の相談を、あらかじめカレンダーに入れてしまうのが、続けるいちばんのコツです。
| ステップ | やること | つづけるコツ |
|---|---|---|
| STEP1 言語化する | 負担がどの種類か(モチベ/経営層/孤立/その他)を週に1回書き出す | 正体が見えると、対処法も見えてくる |
| STEP2 小さな勝ちを作る | 月次・四半期で小さな達成感を意図的に設計する(顧客の反応、合意、MVPの稼働など) | 1ヶ月以内に手応えを可視化する |
| STEP3 相談先を増やす | 社内メンター・社外メンター・同業コミュニティの3方向を確保する | 1人の相手に依存しない |
| STEP4 身体のサインを見る | 睡眠・食欲・集中力を週に1回セルフチェックする | 悪化が続けば早めに産業医・カウンセラーへ |
ただし、個人の努力には限界がある
正直にお伝えすると、これらは応急処置です。精神的負担の多くは組織の構造から生まれるため、個人の対処だけで解決することはできません。セルフケアを続けながらも、根本的には次に述べる「組織の仕組み」を並行して整えていく必要があります。
CHECK
組織でできるメンタルヘルス対策|担当者を支える仕組み
ここまで個人でできることを見てきましたが、繰り返しになりますが、精神的負担の多くは個人の努力では届かない「組織の構造」から生まれます。だからこそ、本質的な解決は組織が仕組みで支えることにあります。
ポイントは、担当者が自分から声を上げなくても自動的に動く仕組みにすることです。「つらい人は相談してください」という受け身の制度は、いちばん相談できない人を取りこぼします。次の図が、その全体像です。

具体的には、次の7つの打ち手が有効です。すべてを一度に導入する必要はありません。自社の状況に合わせて、効果の高いものから順に整えていってください。
担当者のメンタルを支える、7つの仕組み
| 打ち手 | 内容 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 月次30分の定期対話 | 経営層と担当者が1対1で話す場を、制度として自動設定する | 認識のズレ76%を解消し、孤立感をやわらげる |
| 担当者コミュニティ | 新規事業の担当者を横断で集める月1時間の場(3〜4人でも可) | 学びの共有と、同じ立場の仲間との対話 |
| 社外メンター制度 | 担当者1人につき、社外メンターを1名つける | 利害から離れた相談ができ、離職を防ぐ(月数万円) |
| 産業医・カウンセラー | 窓口を明確にし、記録は評価と切り離すと明言する | 相談のハードルを下げる |
| 評価制度との接続 | 学習・判断・組織貢献で評価する(評価制度) | 結果偏重による負担をやわらげる |
| 年次の満足度調査 | 精神的負担・支援の十分さ・キャリア展望を毎年測る | 組織の健康度を継続的に改善する |
| 緊急相談ホットライン | 社内に知られず使える外部窓口を、組織の負担で用意する | 早期発見・早期対応につながる |
まず何から始めるか迷ったら。いちばん取り組みやすく効果が高いのは、「月次30分の定期対話」の制度化です。経営層との認識のズレと孤立感の両方に、同時に効きます。
新規事業の「孤独・孤立感」を解消する方法
3つの負担のなかでも、とくに見過ごされやすいのが「孤立感」です。新規事業は社内で「特殊な仕事」と見られがちで、既存事業の担当者とは話が噛み合いません。経営層とも認識がずれているため相談しづらく、社外にも同じ立場の人が少ない。こうして担当者は、静かに孤立していきます。
大切なのは、孤立を「本人の内向きな性格の問題」にしないことです。孤立は、新規事業という仕事の構造から生まれます。だから解決策も、気合ではなく「場」を用意することになります。

具体的には、次の3つの場が有効です。すべてを揃えるのが理想ですが、1つでも確保できれば孤立感は大きくやわらぎます。
| 場 | どんな場か | 運用のコツ |
|---|---|---|
| 社内コミュニティ | 同じ組織内の担当者が横断で集まる場(月1時間) | 役職を問わず対等に話す。秘密は守る。学びはA4×1枚で共有し、進行役は輪番制に |
| 社外コミュニティ | 業界を横断した、新規事業担当者どうしの場 | 勉強会やカンファレンスでつながり、自社を客観視する材料にする |
| 伴走支援者 | 期間限定で並走してくれる、外部の相談相手 | 利害から離れて深い対話ができる |
代表・長尾から
新規事業の担当者は、組織のなかで最も孤独な仕事です。大企業の新規事業とコンサルの両方を経験して、痛感しました。組織として孤独を減らす仕組みがないと、良い担当者ほど早く疲れてしまう。だからこそ、孤独は「気合」ではなく「場の設計」で解くべきなのです。
なお、精神的な負担は家族やパートナーにも波及します。仕事の状況を適度に共有しておくことも、中長期で見れば負担をやわらげる一助になります。
新規事業の精神的負担とキャリア|長く付き合う視点
ここまで見てきたとおり、新規事業の負担には「終わり」がありません。だからこそ、短期の我慢比べにするのではなく、キャリア全体の設計として捉えることが大切です。
たとえば担当者のキャリアを5年単位で描くと、負担を分散できます。1〜2年目は集中し、3〜4年目は学びを組織に還元し、5年目以降は別のテーマや役割に移る。こうした見通しがあるだけで、精神的な負担はずいぶん軽くなります。2〜3年でのローテーションや、キャリアパスをあらかじめ示しておくことも有効です。
つらさと、キャリアの損は別物
最後に、担当者本人に知っておいてほしいデータがあります。負担が大きい一方で、キャリアへの影響はむしろ前向きなのです。独自調査では、新規事業の経験がキャリアに前向きに働いたという回答が73.6%。離職・転職に至ったのはわずか1.4%でした。つらい経験と、キャリア上の損失は、イコールではありません。このことを知っているだけでも、「この経験は無駄になるのでは」という不安は軽くなります(関連:新規事業の失敗と退職)。
新規事業のメンタルヘルスに関する5つの誤解
最後に、新規事業のメンタルヘルスをめぐって、現場で繰り返し耳にする「誤解」を整理しておきます。これらを正しておくだけでも、組織の対応は大きく変わります。

よくある誤解と、その実態、そして対処法を一覧にしました。
| よくある誤解 | 実際はどうか | どう対処するか |
|---|---|---|
| ① メンタルが強い人だけが担当できる | 個人の強さに頼るのは、組織にとってリスク | 評価・コミュニティ・メンターなど3〜4つの仕組みで支える |
| ② 結果が出れば負担は減る | 黒字化群でもモチベ33.7%TOPで、負担は続く | 黒字化後も、継続的な支援を設計する |
| ③ 負担を訴えるとマイナス評価になる | 訴えづらくなり、問題の発見が遅れる | 評価と精神面は切り離す、と組織として宣言する |
| ④ 産業医は使いづらい | ハードルが高いまま、放置されてしまう | 「使ってよい」と明示し、専用の枠を設ける |
| ⑤ 孤独は個人の内面の問題 | 孤独は、組織構造の問題 | コミュニティ・メンター・定期対話で解消する |
補足すると、「話題にするのはタブー」「休むと復帰しづらい」という思い込みもよく見かけます。実際には、月次で「最近どう?」と一言聞く習慣から始めれば十分ですし、適切に休んだ人ほど、長い目で見たパフォーマンスは高い傾向があります。
新規事業のメンタルヘルス・孤独に関するよくある質問
現場でいただくことの多いご質問に、簡潔にお答えします。
Q. 休職すべきか、判断に迷います
A. 睡眠・食欲・集中力の悪化が2週間続くなら、産業医・カウンセラーへの相談をすぐ検討してください。先送りするほど、回復に時間がかかります。
Q. 上司に精神的な負担を伝えてよい?
A. 伝えるべきです。ただし「つらい」だけでなく、「月次の定期対話を増やしたい」など具体的な行動で伝えると、上司も動きやすくなります。
Q. 社内に相談相手がいない場合は?
A. 社外メンター・コーチ・産業医を確保しましょう。社内に固執すると孤立感が増します。コーチング協会や業界団体、LinkedIn経由でも見つけられます。
Q. 黒字化しても負担が減りません
A. 役割を変えるのも一つの手です。別部門や別テーマへの異動が、負担の種類を変えてくれます。継続するかは、本人の希望と組織のニーズの両面で判断を。
Q. 組織として、メンタルを測る指標は?
A. (1)月次の自己申告スコア (2)離職率 (3)産業医の利用率 (4)社内コミュニティの参加率、の4つを継続して追うのがおすすめです。
Q. 負担がピークのとき、どうすれば?
A. (1)一度仕事を止める(有給・休暇)(2)産業医・カウンセラーに相談 (3)家族・友人と過ごす、を最優先に。働きながらの対処は、回復を遅らせます。
Q. リーダー層のメンタルは?
A. じつはリーダー層のほうが孤独感は強い傾向にあります。黒字化率も約8.7%と平均を下回り、負担の高い構造です。経営層からの月次対話が緩和に効きます。
Q. メンタルヘルス対策は、業績にプラス?
A. はい。離職率の低下・継続率の向上・学習の蓄積を通じて、新規事業の打率に寄与します。対策が充実した組織ほど、黒字化率も相対的に高い傾向が見られます。
なぜ、自社だけでは進みにくいのか
ここまでの打ち手は、どれも自社で始められるものです。ただ実際の現場では、「自社だけだと起きやすいつまずき」もよく見られます。
| よくあるつまずき | なぜ自社だけだと起きやすいか |
|---|---|
| 原因を取り違える | モチベの問題だと思ったら、実は評価制度や経営層とのズレが原因だった、というケースは多い。当事者だけでは切り分けが難しい |
| 制度は作ったが使われない | 「評価に響くのでは」と現場が本音を出せず、受け身の制度は形だけになりやすい |
| 一過性で終わる | 立ち上げても運用が続かず、数ヶ月で自然に消えてしまう |
こうしたつまずきは、利害から離れた第三者の視点と、定着までの伴走があると避けやすくなります。私たちイノベーション総合研究所は、888名の調査データと現場経験をもとに、自社に合った支援体制づくりをお手伝いしています。
まとめ|新規事業のメンタルヘルスは組織設計の問題
新規事業担当者のメンタルヘルスは、個人の問題ではなく、組織設計の問題です。本記事の要点を振り返ります。
📌 この記事のまとめ
- 最も多い負担はモチベ維持32.7%・経営層説明30.6%。孤立感20.2%は順位こそ下位だが、見過ごされやすい本記事の焦点。黒字化しても33.7%で減らない
- 個人でできるのは、負担を分解する4ステップ(言語化→小さな勝ち→相談先を増やす→身体のサイン)
- 組織は、月次対話・コミュニティ・社外メンター・産業医・評価制度の接続などを、仕組みで整える
- 孤独は性格ではなく構造の問題。社内・社外・伴走の「3つの場」で解く
- つらさとキャリアの損は別物。前向きな影響が73.6%、離職・転職はわずか1.4%
優秀な担当者ほど、負担を1人で抱え込みがちです。放置すれば、組織から新規事業の人材が静かに失われていきます。逆に言えば、支援の仕組みを段階的に整えることが、新規事業を継続的に生み出せる組織の土台になります。まずは、できるところから一つずつ始めてみてください。
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- 出典:イノベーション総合研究所『新規事業の実態と意思決定に関する調査』(n=888)
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「うちの新規事業にも当てはまる」と感じた数字があれば、ぜひ社内での問題提起にお使いください。
出典
- 中小企業庁『2017年版 中小企業白書』第2部第3章「新事業展開の促進」(2017)
- イノベーション総合研究所『新規事業の実態と意思決定に関する調査』(2026年4月、888名、調査実施:株式会社マクロミル)
監修者
長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表)
大手化学メーカーR&D、大手シンクタンク系コンサル(日本総研)、ブティック系戦略コンサル、大手飲料メーカー新規事業開発部を経て、2024年にイノベーション総研を創業。累計100社超・500件以上の新規事業支援実績を持ち、「評論ではなく実装」を掲げる実装特化型プロフェッショナル・ファームを運営。