新規事業はなぜ失敗する?約86%が感じた「失敗の予感」と判断設計【n=888】

新規事業の失敗は、仮説が外れたことそのものではありません。顧客や現場から違和感が上がっているのに、それを検証可能な論点へ変えられず、継続、ピボット、撤退の判断が止まることに本質的な問題があります。

イノベーション総合研究所『新規事業の実態と意思決定に関する調査』(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)では、回答者の85.6%が、直近で関わった新規事業について何らかの「失敗の予感」を持っていました。64.9%は進言が軌道修正につながった一方、20.7%、人数にすると約184名は、予感があっても進言できませんでした。

この結果から見えるのは、予感の有無だけではありません。悪い情報を出せるか、誰がいつ判断するか、結果に応じて資源配分を変えられるかという「判断設計」の差です。

本記事では、独自調査、累計100社超・500件以上の支援で蓄積した実務知見、公開企業の一次資料をもとに、次の内容を解説します。

  • 新規事業における失敗の定義
  • 失敗につながりやすい5つの構造
  • 7payとAmazon Fire Phoneの公開事例から読めること
  • 顧客、組織、KPIに現れる予兆
  • 継続、ピボット、撤退を決めるための実務フレーム
  • 失敗が見えた後の72時間、2週間、30日の立て直し方

失敗率の数字は新規事業の失敗率、原因の連鎖は新規事業の失敗原因、個別企業のケースは新規事業の失敗事例、撤退の条件は新規事業の撤退基準で詳しく扱います。本記事は、それらをつなぐ全体地図です。

本記事での調査結果の読み方

「失敗の予感」に関する設問は単一回答で、実際には14の詳細選択肢があります。本記事では、その選択肢を「予感あり・軌道修正につながった」「予感あり・進言できなかった」「予感なし」の3区分に集約しています。調査は回答者による回顧的な自己申告であり、結果は認識や関連を示すものです。特定の施策が成功を生んだという因果関係までは示しません。また、集計単位は回答者であり、回答数を独立した案件数とはみなしません。

新規事業の失敗は「予感」を判断に変えられないときに深刻化する

新規事業関与者の85.6%が直近案件で失敗の予感を経験したことを示す調査図

失敗を減らす出発点は、成功するアイデアを言い当てることではありません。現場が感じた違和感を、早い段階で検証可能な問いへ変えることです。

回答者の約86%は結果が固まる前に違和感を持っていた

調査の14選択肢を3区分に集約すると、結果は次の通りです。

集約区分 割合 読み方
予感があり、進言が軌道修正につながった 64.9% 顧客の声、目標未達、代替案、競合動向などを示し、修正につながった
予感はあったが、進言できなかった 20.7% データ不足、同調圧力、評価への懸念、撤退基準の曖昧さ、サンクコストなどがあった
予感はなかった 14.4% 事前に失敗を想起していなかった

上の2区分を合計すると85.6%です。ただし、ここでいう「予感」は、客観的に確認された予兆と同じではありません。回顧的な回答であるため、結果を知った後の見方が影響する可能性があります。それでも、多くの回答者が「結果の前に何らかの違和感があった」と認識している点は、レビューの設計を考えるうえで重要です。

たとえば「顧客ニーズが弱い気がする」という感覚だけでは、組織は動きにくいものです。そこで、次のように検証できる問いへ変換します。

  • 同じ課題を自発的に語る顧客は何社あるか
  • 現在の代替手段を変える理由は何か
  • 有償で試す意思を、誰がどの条件で示したか
  • 次のレビューまでに、どの事実が出たら仮説を修正するか

予感を仮説、観察事実、判断期限の3点に分けると、個人の不安ではなく事業の論点として扱えます。

20.7%、約184名が進言できなかった

予感がありながら進言できなかった人は20.7%で、888名に当てはめると約184名です。担当者の能力だけで説明するより、悪い情報を出したときの評価、反対意見を扱う会議、判断基準の有無を見る必要があります。

大企業では、企画を起案した人、予算を承認した人、実行する人が異なることが珍しくありません。「止めた方がよい」という進言が、過去の承認や担当者の努力を否定する発言として受け取られると、会議では反証より進捗、リスクより追加施策が報告されやすくなります。

対策は「異論を歓迎する」と宣言することだけではありません。レビュー資料に反証欄を設ける、会議前に反対意見を収集する、議事録に「何が起きたら判断を変えるか」を残すなど、行動の手順へ落とし込みます。

顧客理解と意思決定の両方が必要になる

同調査の「新規事業を推進するうえで大きいと感じた障壁」は、3位まで順位を付ける設問です。そのうち1位に選んだ割合は、「意思決定スピードの遅さ」が22.1%で最も高く、「顧客ニーズの見極め困難」は2.6%でした。

これは「顧客ニーズは重要ではない」という意味ではありません。また、意思決定の遅さが失敗を直接引き起こしたと証明する結果でもありません。大企業の新規事業関与者が、直近案件で最も大きいと感じた障壁として、社内の意思決定を多く挙げたという結果です。

顧客仮説を確かめることと、その結果で判断を変えることは一組です。今日できる最初の一歩は、チームで感じている違和感を一つ選び、「確かめる事実」と「判断する日付」を一行で書くことです。

新規事業の「失敗」とは何を指すのか

活動継続だが未到達63名と中止・撤退10名を比較し、4つの判断状態を示す調査図

「売上目標を下回った」「PoCで仮説が反証された」「撤退した」は、同じ失敗ではありません。定義を曖昧にすると、学びにつながる撤退まで隠され、判断しない継続が正当化されます。

仮説が外れたことは失敗ではない

新規事業は、顧客、課題、提供価値、収益モデルに関する仮説を検証する活動です。初期仮説の一部が外れるのは、検証が機能した結果でもあります。「この条件では顧客が買わない」と早く分かり、別の仮説へ移れたなら、事業成果には届いていなくても学習は残ります。

反対に、PoCが予定通り完了しても、次の意思決定に使われなければ、事業上の成功とは言いにくいでしょう。PoCとは何かでも解説している通り、PoCの目的は試作品を完成させることではなく、重要な不確実性を減らし、次の判断を可能にすることです。

撤退は判断が機能した結果になり得る

同調査の「直近で関わった新規事業が到達した最も進んだ段階」という単一回答では、「活動継続だが未到達」が63名、「中止・撤退」が10名でした。回答者数の比では6.3倍です。

ここで注意したいのは、この設問が同じ事業群を時系列で追ったファネルではないことです。回答者が直近案件について答えた「最も進んだ段階」であり、63名と10名を独立した案件数や一般的な失敗率として扱うことはできません。

本記事では、明確な進捗や判断期限がないまま活動が続く状態を、説明上「ゾンビ化」と呼びます。調査の「活動継続だが未到達」と回答した案件すべてが非合理だと断定する言葉ではありません。探索を続ける合理的な理由がある案件も含まれ得ます。問題は、継続理由、次の証拠、判断日が説明できない状態です。

継続・ピボット・撤退・ゾンビ化を分ける

経営会議では、案件を成功か失敗かの二択にせず、次の4状態に分けると議論が進みます。

状態 判断の根拠 次に決めること
継続 中核仮説を支持する証拠が増えている 次の不確実性へ投資する
ピボット 一部は有望だが、現仮説のままでは成立しない 何を残し、何を変えるか決める
撤退 重要仮説が反証され、代替案の期待値も低い 学びを記録し、資源を再配分する
ゾンビ化 証拠が弱く、継続理由、判断期限、責任者が曖昧 期限付きレビューを設定する

撤退基準に沿って仮説を棄却し、人員や予算を次の機会へ移したなら、ポートフォリオ運営として合理的な判断です。避けたいのは、判断に必要な情報を集めず、基準も更新せず、学習と資源配分が止まることです。

新規事業が失敗する5つの構造

新規事業の失敗を生む5つの構造

イノベーション総合研究所では、累計100社超・500件以上の支援で蓄積した失敗・停滞の記録を、5つの構造に整理しています。これはn=888調査から統計的に抽出した因子ではなく、支援現場で原因の連鎖を見立てるための実務フレームです。

失敗構造 現場に現れやすい状態 最初に確かめること
盲信したニーズ 賛同は集まるが、有償利用や行動変化の証拠がない 自社のCanではなく、顧客が放置できないMustを捉えているか
決裁者への情報不足 資料は多いが、前回から何が分かったか説明できない 反証された仮説と今回の決裁事項が明記されているか
組織の壁 短期売上の評価と探索活動が衝突する 専任度、予算、評価、既存事業との役割が整合しているか
企画の質 市場規模、技術、顧客課題、収益モデルの論理がつながらない 誰のどの課題を、何より良く解き、誰が対価を払うか
PoC計画の欠如 「もう少しデータが必要」が繰り返される 検証対象、合否条件、結果ごとの次の行動が決まっているか

5つは別々に起きるとは限りません。ニーズを盲信すると反証データが上がらず、決裁者は判断できません。判断が遅れると追加PoCが始まり、担当者は疲弊します。一つの原因を決め打ちするより、どこから連鎖が始まったかを見つける方が、打ち手を絞りやすくなります。

当社の支援記録をもとに、企業を特定できないよう一般化した例があります。ある大企業の製造業では、PoCを3回行っても、毎回「もう少しデータが必要」で終わっていました。4回目の前に検証論点を3つに絞り、各論点のGo、修正、停止条件を定義したことで、初めて結果を事業化判断へ接続できました。変えたのは技術ではなく、PoCの判断設計でした。

5つの構造とフェーズ別の確認項目は、無料レポート『失敗の解剖学』でも整理しています。

公開事例から新規事業の失敗をどう読むか

7payとAmazon Fire Phoneの公開事実を判断設計の観点から整理した図

実名の公開事例は、失敗の具体像をつかむうえで有用です。ただし、外部から確認できるのは公表された経緯や財務上の結果までであり、一つの原因へ還元するのは危険です。ここでは事実と、本記事における実務上の読み方を分けます。

7pay:サービス開始翌日に問題が表面化し、約1か月後に廃止を決定

セブン&アイ・ホールディングスの2019年8月1日付資料によると、7payは同年7月1日にサービスを開始し、7月2日に身に覚えのない取引に関する問い合わせを受けました。8月1日にサービス廃止を決定し、9月30日24時に廃止しています。

同社は廃止判断について、全サービスを再開できる抜本対応に相応の期間が必要であること、その間は不完全なサービスしか提供できないこと、顧客の不安が残っていることから、当時のサービススキームで提供を続けるのは困難と説明しています。

実務上の読み方: セキュリティと顧客の信頼は、リリース後に改善すればよい周辺条件ではなく、提供開始前に満たすべき成立条件です。特に決済や個人情報を扱う事業では、通常の利用KPIだけでなく、「何が起きたら新規登録や提供範囲を止めるか」「誰が停止を決めるか」を事前に設計する必要があります。これは一次資料を踏まえた本記事の解釈であり、同社の公表した原因を単純化するものではありません。

Amazon Fire Phone:在庫評価と仕入先契約に1.7億ドルの関連費用

Amazonの2014年Form 10-Kでは、Fire Phoneの在庫評価と仕入先へのコミットメントに関連する費用を計上し、そのほぼ全額に当たる1.7億ドルを2014年第3四半期に計上したと報告しています。

この開示だけで、Fire Phoneの失敗原因を一つに特定することはできません。一方、物理製品を伴う新規事業では、需要が確かになる前に在庫や調達契約を拡大すると、仮説が外れた際の損失が大きくなることは読み取れます。

実務上の読み方: 顧客需要の検証と、在庫・調達の拡大判断を分けます。「一定の有償利用や継続率を確認するまで発注上限を引き上げない」といった段階ゲートを置けば、仮説の不確実性と不可逆な投資を切り離せます。

公開事例を使う目的は、失敗した企業を批評することではありません。どの時点で何を確認し、どの条件で投資、修正、停止を決めるべきだったかを、自社の判断ルールへ翻訳することです。より多くのケースは新規事業の失敗事例で扱います。

新規事業の失敗前に現れる3領域の予兆

新規事業の失敗前に現れる顧客・組織・KPIの3領域の予兆

失敗の予兆は、赤字や解約のような結果指標だけではありません。会議、KPI、顧客対話、チームの行動に先行して現れます。顧客、組織、KPIの3領域に分けると、点検しやすくなります。

顧客の予兆は「会話数」より「証拠の更新」に出る

ヒアリング件数が増えていても、仮説が一度も変わっていなければ注意が必要です。同じ説明を行い、肯定的な言葉だけを記録している可能性があります。

確認したいのは、顧客が課題を自発的に語るか、現在の代替手段に具体的な不満があるか、導入のための社内調整を進めるか、時間、信用、予算のいずれかを使ったかです。「あれば便利」という感想より、顧客の行動の方が強い証拠になります。

週次レビューでは「何社に会ったか」に加え、「どの仮説が強まり、どの仮説が弱まったか」を一行ずつ残します。更新が数週間止まったら、質問設計か対象顧客の選び方を見直す合図です。

組織の予兆は「認識のズレ」と同じ議論の反復に出る

同調査では、経営層と現場の認識に「大きなズレ」または「ある程度のズレ」があると答えた人が76.1%でした。これはズレが失敗を引き起こしたという因果を示すものではありませんが、同じ案件を見ながら、成功の定義や評価基準が揃っていないと感じる人が多いことを示します。

同じ論点が複数回の会議で繰り返され、担当者、期限、判断条件が決まらない場合、「情報が足りない」のではなく、意思決定の設計が欠けている可能性があります。ほかにも、レビューのたびに成功の定義が変わる、ネガティブ情報が資料の末尾へ移る、意思決定者が会議で初めて重要情報を見る、といった変化は黄信号です。

KPIの予兆は「数値」より「判断への使われ方」に出る

同調査では、経営層との合意、定期モニタリング、判断への活用まで満たしてKPIが機能していた回答者は28.6%でした。裏返すと71.4%は、KPIを設定していても経営層とズレている、判断に使っていない、定性目標のみ、未設定のいずれかでした。

KPI形骸化の兆候は、数値が悪いことではありません。悪化しても行動が変わらない、改善しても次の投資が決まらない、担当者によって指標の定義が違う状態です。KPIは測定表ではなく、条件と行動を結ぶルールとして設計します。

たとえば「顧客ヒアリング10件」だけでは作業量です。「対象業種の意思決定者10名に聞き、同一課題の自発言及が5名未満なら対象セグメントを再設定する」とすれば、結果が次の行動につながります。新規事業のKPI設計では、探索段階と拡大段階で指標を切り替える方法を扱っています。

新規事業の失敗を防ぐ4つの判断設計

新規事業の予兆を判断へ変える4つの設計

失敗を防ぐとは、外れをなくすことではありません。誤った仮説へ追加投資し続ける時間を短くし、有望な仮説へ資源を移せるようにすることです。そのために、開始前または次回レビューまでに4つの設計を揃えます。

1. 成功の定義を段階別に揃える

「売上10億円」「PoC成功」「顧客に喜ばれる」が同じ会議に並ぶと、経営、ミドル、現場で成功の意味が分かれます。最終目標とは別に、今の段階を通過する条件を定義します。

  • 企画段階:顧客課題と全社戦略との適合を説明できる
  • PoC段階:中核仮説の合否を証拠で判定できる
  • 市場投入後:再現可能な顧客獲得と採算の見通しを示せる
  • 拡大段階:成長に必要な供給、組織、品質を再現できる

新規事業の立ち上げプロセスの各段階に、成果物だけでなくGo条件を置くと、資料完成やPoC実施そのものが目的になるのを防げます。

2. 反証条件を仮説と同時に書く

良い仮説は、正しさを主張できるだけでなく、どの事実が出たら修正するかを説明できます。たとえば「製造業の品質管理担当者は検査記録の作成に強い負担を感じている」という仮説なら、対象者、現在の行動、負担の強さ、対価を払う主体を確認します。

反証条件は、事業を否定するための罠ではありません。何が起きても「可能性はある」と解釈する状態を避けるガードレールです。結果を見る前に書くことで、都合よく基準を動かしにくくなります。

3. 判断者・期限・選択肢を一組にする

各検証に対し、判断者、判断日、必要な証拠、選べる選択肢を一行で結びます。選択肢は承認か否決だけにせず、継続、条件付き継続、ピボット、保留、撤退を置きます。ただし、保留には期限と追加で得る証拠を必須とします。

仮説 必要な証拠 反証条件 判断者 判断日 選択肢
対象顧客は現課題の解決に予算を付ける 有償試行への合意 対象10社中、有償試行0社 事業責任者 9月30日 継続・セグメント変更・停止

この一行があると、会議は説明会から判断会へ変わります。

4. 撤退基準を担当者評価から切り離す

同調査で、撤退基準を事前に明文化し、実際の判断でも守れた回答者は24.3%でした。約4名に1名です。基準を書くだけでなく、判断の場で機能させる必要があります。

担当者の評価が案件の継続だけに連動すると、悪い情報を早く出すほど不利になります。評価対象を、仮説検証の質、証拠の蓄積、適時のピボットや撤退、学びの再利用へ広げることで、早い進言を合理的な行動にできます。

撤退基準は自動執行のルールではありません。市場や全社戦略が変われば見直しも必要です。ただし、変更理由、承認者、新しい期限を記録し、都合のよい先延ばしと区別します。

新規事業の失敗が見えた後の立て直し方

新規事業の失敗が見えた後の72時間・2週間・30日の立て直し手順

複数の予兆が見えたとき、すぐに全停止する必要はありません。一方、通常運転のまま施策を追加すると、原因が見えにくくなります。72時間、2週間、30日の三段階で、事実整理、再検証、資源配分を分けます。

72時間で事実と解釈を分ける

最初に、売上、利用、顧客発言、開発状況、費用、意思決定履歴を集めます。「顧客の関心がない」は解釈、「提案20社のうち次回商談へ進んだのは1社」は事実です。両者を別欄に書きます。

次に、当初の成功条件、現在の結果、差分、まだ確かめていない仮説を1枚にします。責任追及を先に行うと情報が防御的になりやすいため、まずは事実の共通認識を作ります。同時に、追加開発や広告など不可逆な投資のうち、原因が分からないまま拡大するものを一時停止します。

2週間で中核仮説を再検証する

すべてを調べ直すのではなく、成立性を最も左右する仮説を一つか二つ選びます。顧客課題が弱いのか、提供価値が伝わらないのか、導入障壁が高いのか、収益構造が成立しないのかを切り分けます。

同じ顧客、同じ質問、同じ資料で再検証しても、新しい情報は増えません。対象セグメント、提示方法、価格、代替案との比較のいずれかを変え、反応が変わった理由を記録します。ピボットを検討する場合は、新規事業のピボットで、残す資産と変更する仮説を分けて整理できます。

2週間後の出口は、成功の証明ではありません。「現仮説を続ける」「限定条件で続ける」「別仮説へ移る」「撤退する」のいずれかを選べる証拠を揃えることです。

30日で資源配分と評価を決め直す

中核仮説が変わったら、KPI、チーム、意思決定者、専任度、上限予算、次のレビュー周期も見直します。仮説だけを変えて体制を据え置くと、旧事業を別名で続けることになりかねません。

当社支援記録をもとに一般化した別の例では、あるIT・SaaS企業が黒字化の見通しを持てないまま2年間活動を続けていました。議論を止めていたのは熱意の不足ではなく、「どの条件ならやめるか」が設定されていなかったことでした。月次経常収益(MRR)と顧客獲得コストの条件を置き、経営会議で条件付き継続を決めたことで、次に集める証拠とチームの行動が揃いました。

30日後に必要なのは、前向きな物語ではなく、誰が、いつ、どの証拠で次の判断をするかという合意です。撤退を選んだ場合も、反証された仮説、再利用できる顧客知見、技術資産、パートナー関係を記録し、次の案件へ渡します。

判断を機能させる補助線は「第三者レビュー」と「実装責任」

第三者レビューと実行支援には、実務上の意味があります。ただし、外部サービスを導入すれば成果が出ると単純化するのは適切ではありません。重要なのは、判断から独立した視点と、決定事項を実行へつなぐ責任を持つことです。

第三者レビューは社内でも設計できる

第三者は外部コンサルタントに限りません。案件から独立した経営企画、別事業部の責任者、監査・リスク部門、社外有識者なども候補です。次の状態が続くときは、独立したレビューを検討します。

  • 経営層と現場で成功の定義が揃わない
  • 同じ論点が繰り返され、判断期限が延びる
  • 撤退やピボットを提案しにくい
  • データの解釈が固定化し、反証が扱われない

レビュー担当者の役割は、事業を評価して終わることではありません。事実と解釈を分け、判断条件を明らかにし、次に集める証拠を絞ることです。

実装責任者を決め、決定を行動へつなげる

正しい戦略や診断結果があっても、誰が会議後の変更を実行するか不明なら前進しません。実装責任者には、少なくとも次の権限と責任を持たせます。

  • 検証計画とKPIを変更する
  • 必要な人員や予算を意思決定者へ提案する
  • 顧客、開発、営業、既存事業の論点を統合する
  • 次回レビューで、前回決定の実行状況を報告する

McKinsey & Companyの2024年調査では、新規事業を繰り返し生み出すための構造や能力が成熟した企業は、初心者と評価された企業に比べ、規模と成長の期待を満たす成功率が2倍だったと報告されています。これは成熟した仕組みが成功を生む因果を証明するものではありませんが、個別案件の妙案だけでなく、資金、組織、リーダー、人材、能力開発を含む反復可能な仕組みを見る重要性を示唆します。

外部支援を使う場合も、判断を丸投げするのではなく、社内の意思決定者と実装責任者を明確にしたうえで、独立した視点や専門性を補う位置付けにします。

新規事業の失敗に関するよくある質問

Q.新規事業の失敗率は本当に9割ですか
A.「9割失敗」をすべての新規事業に共通する統計として扱うのは適切ではありません。成功の定義、観測期間、対象企業、分母に含む案件の段階で割合が変わるためです。本調査で「黒字化到達」を最も進んだ段階として選んだ回答者は11.0%でしたが、残る回答者をすべて失敗と分類することはできません。PoC中、市場投入後、拡大中の回答も含まれます。
Q.新規事業が失敗する最大の原因は何ですか
A.一つの原因で説明するより、原因の連鎖を見る方が実務的です。本調査では、障壁の1位として「意思決定スピードの遅さ」を選んだ人が22.1%で最も多い結果でした。一方、個別案件では、顧客課題、提供価値、収益性、技術、組織などの複数要因が重なります。自社で最初に証拠の更新や判断が止まった箇所を特定することが出発点です。
Q.有名企業の失敗事例をそのまま自社へ当てはめてもよいですか
A.そのまま当てはめるのは避けます。公開資料で分かるのは、発生した事象や企業が公表した説明までです。外部から見た推測を「原因」と断定せず、どの不確実性があり、どの段階ゲートや停止条件が自社に必要かへ翻訳して使います。
Q.スタートアップの失敗要因と大企業の失敗原因は同じですか
A.共通する論点はありますが、同じ統計としては扱えません。CB Insightsの現行レポートは、400件を超えるスタートアップのポストモーテムを分析対象としています。一方、本記事の独自調査は、大企業で新規事業に関与した888名による直近案件の回顧回答です。母集団、失敗の定義、設問、集計方法が異なるため、「スタートアップは市場で失敗し、大企業は社内で失敗する」と単純に対比することはできません。外部のランキングは、自社で確かめる仮説の一覧として使うのが適切です。
Q.PoCに失敗したら撤退すべきですか
A.PoCで何を検証したかによります。技術的実現性の反証が事業全体を否定するとは限らず、対象顧客や提供価値を変えれば成立する場合があります。一方、中核となる顧客課題が弱く、代替仮説も見つからない場合は、追加開発より撤退の検討が合理的です。PoCの前に、結果ごとの継続、修正、停止条件を定めます。
Q.撤退した担当者は評価を下げるべきですか
A.撤退の事実だけで評価すると、悪い情報が遅く上がる組織になりやすくなります。見るべきは、反証を早く捉えたか、根拠に沿って判断したか、損失を限定したか、学びを次へ残したかです。無基準な継続より、基準に基づく撤退の方が組織全体の資源効率を高める場合があります。

本記事のまとめ|新規事業の失敗は「早く学び、決める仕組み」で減らす

📌 この記事のまとめ
  • 「失敗の予感」に関する14選択肢を3区分に集約すると、回答者の85.6%が何らかの予感を持っていました
  • 20.7%、約184名は予感があっても進言できず、個人だけでなく判断構造を見る必要があります
  • 「活動継続だが未到達」は63名、「中止・撤退」は10名でしたが、回答者数であり、独立案件数や失敗率ではありません
  • 失敗は、ニーズの盲信、決裁情報の不足、組織の壁、企画の論理欠落、PoC計画の欠如が連鎖して深刻化します
  • 7payとFire Phoneの公開事例は、成立条件、停止条件、不可逆投資の段階ゲートを事前に設計する重要性を示します
  • 成功定義、反証条件、判断者と期限、撤退基準を揃えると、予感を継続、ピボット、撤退の判断へ変えやすくなります

新規事業は、仮説を外さない競争ではありません。外れたときに早く学び、続ける、変える、止めるを選べる組織ほど、次の挑戦へ資源を回せます。失敗を隠すのではなく、悪い情報を早く判断へ変えられる仕組みを作ることが重要です。

自社の案件で、どこに判断の空白があるかを整理したい場合は、意思決定、認識整合、KPI、撤退基準、顧客対話、外部視点の6因子から現在地を確認できます。

COMPASS

新規事業の判断構造をCompassで確認する
自社の新規事業が、継続・ピボット・撤退のどの判断状態にあるかを6因子で可視化できます。

出典・参考資料

この記事の監修者
👤
長尾 浩平 / 株式会社イノベーション総合研究所 代表

大手化学メーカーR&D、大手シンクタンク系コンサル(日本総研)、ブティック系戦略コンサル、大手飲料メーカー新規事業開発部を経て、2024年にイノベーション総研を創業。累計100社超・500件以上の新規事業支援実績を持ち、「評論ではなく実装」を掲げる実装特化型プロフェッショナル・ファームを運営。

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