新規事業の立ち上げ・事業化を支援するプロフェッショナルファーム

二酸化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)の事業機会|8事例と参入判断

二酸化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)へ参入したい。しかし、CO2回収装置を作れなければ事業にならないのか。そう考える企業は少なくありません。

実際のCCUSは、回収設備だけでは完結しません。排出源で集めたCO2を規格に合わせ、液化し、運び、地中へ貯留する必要があります。利用する場合は、燃料、化学品、コンクリートなどの買い手も必要です。さらに、削減量や貯留量を測り、契約と資金調達へつなげます。

先に、イノベーション総研の結論をお伝えします。

CCUS事業の勝敗は、回収率だけでは決まりません。CO2の引取先と輸送・貯留ルートを先に確保し、長期契約と測定データまで一体で商品にできるかで決まります。

2026年時点で、多くの事業会社が検討しやすい参入方法は次の6つです。

  1. 導入調査・FEED・統合PM
  2. 小中規模向け回収サービス
  3. 吸収材・フィルター・装置部品
  4. CO2集約・液化・船舶輸送
  5. 貯留評価・監視・MRV
  6. CO2利用製品・炭素価値化

本記事では、CCS、CCU、DACの違いを整理します。そのうえで、世界と日本の現在地、国内外8事例、6つの参入方法、収益モデル、リスク、参入判断を解説します。

対象は、化学、機械、エンジニアリング、海運、建材、IT、金融などの既存資産を生かし、CCUS市場で担う役割を決めたい新規事業責任者です。個人向けのカーボンクレジット購入や関連株の解説は扱いません。

CCUSは、回収装置の外で何が事業になるのか。
後発企業は、巨大プラントを持たずに参入できるのか。

結論は、CO2の行き先と契約・データをつなぐ仕事が商品になるということです。主要8事例と6つの参入方法から判断します。

この記事の結論

CCUSは回収装置だけで完結せず、CO2の行き先と長期契約をつなぐ事業に機会があります。

  • CCS、CCU、DACでは、CO2の出所と最終的な気候価値が異なります。
  • 国内外8事例から、発表、設計、建設、稼働、実績を分けて現在地を読みます。
  • 導入調査、回収サービス、材料、輸送、貯留・MRV、利用から参入位置を選びます。

目次

二酸化炭素を回収・利用・貯留するCCUSとは?仕組みの違いを整理する

CCUSは、CO2を回収し、利用または貯留する一連の技術と事業です。英語のCarbon Capture, Utilisation and Storageの頭文字を取っています。

似た言葉は、CO2をどこから集め、最後にどう扱うかで分けると分かりやすくなります。

CCUS・CCS・CCU・DACの違い
用語 CO2を集める場所 回収後の行き先 気候価値を見るポイント
CCS 工場、発電所、製油所など 地中へ長期貯留 回収から輸送・圧入までの排出、漏えい管理
CCU 工場や発電所など 燃料、化学品、建材などに利用 CO2の出所、製造エネルギー、製品内の保持期間
DAC 大気 地中貯留または利用 大気からの純除去量、エネルギー源、貯留の永続性
BECCS バイオマス由来の排ガス 地中へ長期貯留 バイオマス調達を含む全体の純除去量

CCSでは、濃いCO2を含む排ガスから分離するため、DACより回収しやすい場合があります。ただし、排出源ごとに濃度、不純物、圧力、温度が違います。既存工場へ後付けする場合は、蒸気、電力、敷地、停止工事も必要です。

DACは、大気中の薄いCO2を直接集めます。排出源の近くに置く必要はありません。その代わり、多くの空気を処理するため、電力と熱の条件が厳しくなります。

CCUは、CO2を資源として使います。ただし、使えば自動的に排出削減になるわけではありません。合成燃料は、使用時にCO2を再び放出します。建材へ鉱物として固定する場合は、長く保持できます。IEAも、CO2利用の気候効果は、CO2の出所、使うエネルギー、代替する製品、保持期間で変わると整理しています。

CCUS、CCS、CCU、DACの違いをCO2の出所、処理方法、最終的な行き先で比較した図
図1|CCUS・CCS・CCU・DACの違い。CO2の出所、処理、最終的な行き先からイノベーション総研が整理。

CCUS市場は拡大しているが、計画と稼働を分けて見る

CCUSは、研究だけの市場ではなくなりました。Global CCS Instituteの2025年版によると、商業規模のCCS施設は77件が稼働し、47件が建設中、610件が開発段階にあります。稼働中の回収能力は年間6,400万トンです。

一方、計画のすべてが予定どおり動くわけではありません。IEAの2026年更新では、稼働中または建設中の回収能力は前年版から10%超増えました。貯留能力も約25%増えています。ただし、計画全体の潜在的な回収能力は年間約4.25億トンで横ばいです。許認可、建設、資金調達の遅れにより、多くの稼働時期が2035年側へ後ろ倒しになりました。

市場を見るときは、施設数を一つにまとめないことが重要です。

CCUS施設の段階と事業計画での扱い
段階 確認できること まだ確認できないこと 事業計画での扱い
稼働中 回収設備が動き始めた 定常稼働率、原価、長期の貯留実績 実績値を確認する
建設中 資金と主要契約が進んだ 完工時期、性能、立ち上げ速度 遅延ケースを置く
基本設計・FEED 技術構成と概算費用が見えた 最終投資判断、融資、建設 売上確定と見なさない
構想・覚書 関係者の意向が示された 数量、価格、責任、資金 市場仮説として扱う

IEAは、直近2年間にCCUS案件で150億ドル超の商業融資が組成されたと報告しています。融資は、政府が回収、輸送、貯留のリスクを分担した市場へ集中しました。つまり、技術だけでなく、政策と契約が銀行融資へつながるかが市場形成を左右します。

「計画容量が大きい」ことと、「CO2が継続して貯留されている」ことは別です。

世界のCCUS施設を稼働中、建設中、開発段階に分け、回収能力と日本の政策目標を示した図
図2|CCUS市場の現在地。Global CCS InstituteとIEAの公表値をもとに、稼働、建設、開発、計画容量を分けてイノベーション総研作成。

日本のCCUSは、法制度と9案件から事業化へ進む

日本では、2026年5月22日にCCS事業法が施行されました。正式名称は「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」です。貯留事業とCO2導管輸送のルールを定め、試掘や貯留を事業として進める土台を整えました。

JOGMECは、2030年度までの貯留開始を目指す先進的CCS事業を支援しています。2024年度は9案件が選ばれました。3案件は国内のパイプライン輸送です。6案件は液化CO2の船舶輸送を想定し、そのうち4案件はアジア大洋州の貯留地を視野に入れています。

2026年度からは、船舶輸送案件のコストを下げるため、複数の排出源を地域単位でまとめる6クラスターの調査・設計も始まりました。液化、一時貯蔵、出荷設備を共用する考え方です。

日本の政策目標は、2030年までに年間600万から1,200万トンの貯留量へめどを付けることです。2050年には年間1.2億から2.4億トンが目安です。これは実績ではなく、政策上の目標です。

日本のCCUSで進む論点
日本で進む論点 現在地 新規事業への意味
貯留・導管の制度 CCS事業法が施行 許可、保安、監視、責任移転の実務が市場になる
国内案件 パイプライン型を含む先進的案件 排出源集約、圧縮、導管、地質評価が必要
越境案件 液化CO2を船で海外貯留へ 液化、港湾、船、契約、国際ルールが必要
地域クラスター 6地域で共用設備を検討 中規模排出源を束ねる運営者に余地
需要家の判断 価格と責任分界は形成途中 回収設備だけの提案では決まらない

日本では、回収技術の優劣だけでなく、排出企業を束ね、輸送と貯留の空き容量を確保する力が重要になります。

CCUSの業界構造は6層で捉える

CCUSを回収装置市場だけで見ると、参入機会を狭く捉えます。イノベーション総研では、排出量の把握から貯留・利用後の証明までを6層に分けます。

CCUSの6層バリューチェーン
主な製品・サービス 競争の中心 新規参入の論点
1.排出源・案件形成 排出量調査、適用技術選定、FEED、許認可 顧客理解、全体最適、投資判断 調査だけで終わらないか
2.分離・回収 吸収液、吸着材、膜、回収塔、圧縮 エネルギー、設備費、稼働率 排ガスごとに性能を証明できるか
3.集約・輸送 液化、タンク、パイプライン、LCO2船 規模、規格、日程調整 複数排出源を束ねられるか
4.貯留 地質評価、井戸、圧入、長期監視 容量、注入性、許認可、責任 地質リスクを誰が持つか
5.利用 合成燃料、化学品、コンクリート、鉱物化 水素・電力・原料費、製品価値 CO2利用量と利益を両立できるか
6.MRV・金融 測定、報告、検証、クレジット、保険、融資 データ完全性、基準、長期契約 削減量と貯留量を監査できるか

CCUSでは、一層だけが先に完成しても事業になりません。回収設備が動いても、船や貯留井が遅れればCO2を引き取れません。貯留地があっても、排出源のCO2規格や搬出時期が合わなければ使えません。

後発企業の機会は、設備そのものより、層と層の接続にあります。

たとえば「複数工場と共同液化設備」「回収設備と長期保守」「圧入データと金融」「利用製品と炭素証明」を一つの契約へまとめる領域です。

CCUSの産業を案件形成、分離回収、集約輸送、貯留、利用、MRV金融の6層で示した図
図3|CCUSを支える6層。排出源から回収、輸送、貯留・利用、MRVまでの接続課題をイノベーション総研が整理。

主要8社のCCUS事業は、役割と実装段階が違う

主要企業は、同じCCUS市場でも別の課題を解いています。吸収液を売る会社、標準回収装置を納める会社、CO2を運ぶ会社、地下へ貯留する会社、利用製品へ変える会社があります。

ここでは、役割と事業化の証拠が異なる8事例を取り上げます。

国内外8事例の役割と実装段階
役割 企業・プロジェクト 具体的な取り組み 事業上の読み方
回収技術・小型装置 三菱重工業 KS-21吸収液、KM CDR、CO2MPACTを展開 大型実績と小中規模標準化を両立
モジュール回収・EPC SLB Capturi/Heidelberg Materials Brevikセメント工場で最大年40万トン回収 工場の排熱と既存工程を統合
輸送・貯留ハブ Northern Lights 欧州のCO2を船で受け、北海海底へ貯留 排出企業が共同利用できる開放型インフラ
液化CO2船 商船三井/MISC/PETRONAS 62,000m3級LCO2船を設計 日本・アジアの越境CCSを輸送で支える
固体吸着材・量産 Svante MOF系フィルター工場を稼働 材料を交換可能な工業製品として量産
固体吸着DAC Climeworks Mammothをアイスランドで稼働開始 低炭素電力・熱と地中貯留を同じ場所で確保
液体吸収DAC 1PointFive STRATOSを建設・立ち上げ 大型設備、貯留井、長期購入契約を統合
CO2鉱物化 CarbonCure 生コン工場へCO2注入装置と遠隔監視を提供 CO2固定とセメント使用量削減を製品価値にする

表の8事例は、回収、輸送、貯留、利用のどこで収益を得るかが異なります。以下では、各社が何を組み合わせて実装へ進んだのかを見ます。

三菱重工業|大型実績を小中規模の標準装置へ広げる

三菱重工業は、関西電力とアミン吸収液と回収プロセスを開発してきました。2025年5月時点で、KM CDR系プロセスを採用した設備を18プラントへ納入しています。

新しいKS-21吸収液は、従来系より再生時のエネルギー、劣化、揮発を抑える設計です。姫路第二発電所では、2025年に日量約5トンの試験設備を稼働させ、次世代技術を検証しています。

同社は大型プラントだけでなく、CO2MPACTという小中規模向け製品も展開しています。参入企業にとっては、吸収塔そのものより、排ガス前処理、熱統合、圧縮、遠隔監視、保守へ接続する余地があります。

SLB Capturi|セメント工場の排熱まで含めて回収する

SLB Capturiは、標準化した回収装置と大型統合設備を提供します。ノルウェーのBrevikでは、Heidelberg Materialsのセメント工場へ回収設備を納めました。2025年6月にLongshipの一部として運用が始まり、最大で年40万トンを回収する設計です。

重要なのは、装置を置いただけではない点です。セメント工場と圧縮設備から出る排熱を使い、回収、液化、一時貯蔵、船への積み出しまで統合しています。

工場ごとの個別設計を減らすため、同社はJust Catchというモジュール型も展開しています。廃棄物発電施設Twenceでは、年10万トン規模の設備を2025年に引き渡しました。標準装置と現場統合を分ける事業モデルです。

Northern Lights|輸送と貯留を共同利用サービスにする

Northern Lightsは、Equinor、Shell、TotalEnergiesの合弁です。欧州の排出企業から液化CO2を受け取り、船でノルウェー西岸へ運び、パイプラインで北海海底へ圧入します。

2025年8月に最初のCO2を貯留しました。第1段階の輸送・貯留能力は年150万トンです。商業契約を背景に、最低年500万トンへ増やす計画も決めています。

この事例は、排出企業が自社で貯留地を開発しなくても、共用インフラを利用できる形を示します。一方、受入規格、船の到着枠、圧入能力、長期責任を契約で合わせる必要があります。

商船三井・MISC・PETRONAS|越境CCSの船を先に押さえる

商船三井は2025年、MISCとPETRONAS CCS Venturesと液化CO2船の船主合弁会社を設立しました。3社は、タンク容積62,000m3のLCO2船について基本設計を完了しています。

日本では、国内の排出源からマレーシアなど海外の貯留地へ運ぶ案件が検討されています。パイプラインを引けない長距離では、船が必要です。

ただし、船を造れば仕事が決まるわけではありません。CO2の温度・圧力・純度、港湾タンク、荷役設備、年間輸送量、欠航時の扱いを排出側と貯留側でそろえます。海運会社、商社、港湾運営者には、複数案件を束ねて稼働率を上げる役割があります。

Svante|回収材をフィルターとして量産する

Svanteは、MOFを塗布した固体吸着フィルターと回転式接触装置を開発しています。2025年5月、カナダで商業規模のフィルター工場を稼働させました。

同社によると、工場は最大生産時に、年間1,000万トンのCO2回収に必要なフィルターを作れる設計です。これは実際に年1,000万トンを回収した実績ではありません。フィルターの生産能力です。

SvanteはSAMSUNG E&Aと、スキッド型の標準回収設備を共同開発しています。材料を量産し、EPC企業が顧客設備へ組み込む役割分担です。化学、フィルム、塗工、加工設備を持つ企業が入りやすいモデルです。

Climeworks|DACを低炭素エネルギーと貯留へ直結する

Climeworksは、空気を固体フィルターへ通し、熱を加えてCO2を取り出すDACを開発しています。2024年5月、アイスランドでMammothの運転を始めました。全設備が動いた場合の公称回収能力は年3.6万トンです。

稼働開始時点では、72基の回収コンテナのうち12基が設置済みでした。公称能力と実際の回収量は分けて確認する必要があります。

立地の強みは、地熱由来の電力と熱を利用し、Carbfixの地下鉱物化へつなげられることです。DACでは、回収機だけでなく、低炭素エネルギーと貯留先を同時に確保する力が競争力になります。

1PointFive|大型DACを貯留井と長期購入契約で組成する

1PointFiveは、米国テキサス州でSTRATOSを建設・立ち上げています。液体吸収方式を使い、全面稼働時に年50万トンを回収する設計です。

2025年12月の同社開示では、初期段階の能力は最大年25万トンで、残りの系列が完成・試運転された後に年50万トンへ拡大するとしています。サイトには、2025年4月にClass VIの圧入井許可を得たことも示されています。

Microsoft、Amazon、ANAなどが初期購入者として紹介されています。ここでの商品は装置ではなく、測定された大気除去量と長期貯留です。設備、エネルギー、井戸、MRV、購入契約を一つの案件へまとめています。

CarbonCure|CO2をコンクリートの性能とデータへ変える

CarbonCureは、生コンを練る工程でCO2を注入します。CO2はカルシウムと反応し、炭酸カルシウムとして固定されます。装置は既存のバッチ設備へ後付けでき、注入量と運転データを遠隔で管理します。

顧客価値は、CO2を使うことだけではありません。強度を保ちながらセメント使用量を減らし、材料費と製品の炭素強度を下げることです。

CCU事業では、CO2を大量に消費するだけでは収益になりません。既存製品の原価、性能、販売価値のどれを改善するかが必要です。CarbonCureは、装置、運用支援、データを一体で提供する例です。

8事例から分かるのは、CCUSの主役が一社ではないことです。回収能力の計画、稼働実績、輸送・貯留実績、利用製品の販売を分けて読みます。

技術と提携候補を知財から探す場合は、IPランドスケープの実務も参考になります。

CCUS事業で止まっている点を確認する

回収能力だけで判断せず、排出源、エネルギー、輸送、貯留・利用、契約、自社資産を分けて見直します。

01 CCS・CCU・DACの違いが曖昧

CO2の出所、行き先、保持期間から分けます。

  • 排出源
  • 貯留・利用
  • 実質削減量

違いを整理する →

02 市場の計画と実績を区別できない

稼働、建設、設計、構想を分けて確認します。

  • 年間実績
  • 稼働率
  • FID・契約

市場の現在地を見る →

03 主要企業の違いが分からない

8事例を役割と確認済みの実装段階で読みます。

  • 回収・装置
  • 輸送・貯留
  • DAC・利用

主要8事例を見る →

04 自社が売るものを決められない

6層から既存資産に近い入口を選びます。

  • 顧客基盤
  • 設備・データ
  • 不足する提携先

6つの参入方法を見る →

05 全体のリスクが見えない

回収率だけでなく、エネルギー、物流、地質、契約を確認します。

  • LCA
  • 受入規格
  • 長期責任

10のリスクを見る →

06 経営会議で行動を決められない

参入、提携、待機、見送りを同じ証拠で比べます。

  • 支払者
  • CO2の行き先
  • 採算・責任

4つの判断を見る →

NEXT STEP

次のステップ

回収技術を、CO2が動く事業へ。

排出源、回収方式、輸送、貯留・利用、長期契約、自社資産を整理し、CCUS市場で担う仕事を具体化します。

CCUSで狙える6つの新規事業

6つの方法は、自社が持つ顧客、技術、設備、責任能力によって向き不向きがあります。市場規模が大きい領域ではなく、既存顧客へ最も早く価値を届けられる領域から選びます。

CCUSで考えられる6つの参入方法
参入方法 向いている企業 最初の提供物 支払者・収益 主な提携先 最大の懸念
導入調査・FEED・統合PM EPC、コンサル、エネルギー、設備会社 排出源診断、方式選定、全体概念設計 排出企業/調査・設計・PM費 回収、輸送、貯留、法務 調査だけで終わる
小中規模向け回収サービス 装置、リース、保守、商社 標準回収設備と運転保証 排出企業/月額・従量課金 吸収材、熱源、CO2引取先 稼働率と引取先不足
吸収材・フィルター・装置部品 化学、膜、フィルム、機械、計装 材料、回収モジュール、圧縮・検査 回収事業者/製品・保守・ライセンス EPC、排出企業、研究機関 技術方式変更と案件遅延
CO2集約・液化・船舶輸送 海運、港湾、ガス、物流、商社 共用液化設備、タンク、輸送枠 排出・貯留事業者/処理・輸送料 港湾、船社、貯留会社 荷量不足と日程不一致
貯留評価・監視・MRV 資源、地質、測量、IT、保険 地質モデル、センサー、報告・監査 貯留事業者・金融/調査・利用料 掘削、認証、規制当局 長期責任とデータ欠損
CO2利用製品・炭素価値化 建材、化学、燃料、金融、SaaS 低炭素製品、LCA、クレジット管理 製品顧客/製品・手数料 CO2供給、水素、認証 製品プレミアム不足

最初から大型回収設備や貯留地を保有する必要はありません。顧客接点に近い方法から入り、必要な機能を提携で補うのが現実的です。

1.導入調査・FEED・統合PM

顧客は、回収装置を選ぶ前に、自社工場へCCUSが合うかを判断できていません。排ガス濃度、年間量、稼働時間、蒸気、電力、敷地、停止工事を調べます。そのうえで、回収率と費用を計算します。

成果物は技術比較表だけではありません。CO2引取先、輸送開始時期、貯留規格、責任、支援制度を含む投資判断資料にします。調査後のFEED、許認可、発注支援、統合PMへ続く契約を設計します。

市場調査を経営判断へつなぐ方法は、新規事業の市場調査も参考になります。

2.小中規模向け回収サービス

大型案件は、年間数十万から百万トン規模の排出源へ集まりやすい市場です。一方、食品、紙パルプ、廃棄物発電、中堅製造業には、専任チームと大型投資が難しい企業があります。

標準化した装置をリースし、運転、吸収材交換、遠隔監視を月額または回収量課金で提供します。重要なのは、装置の小型化だけではありません。集めたCO2を誰が引き取り、停止時にどう扱うかまで商品に含めます。

回収率保証だけでは採算が不安定です。最低利用料、従量課金、保守、データ提供を組み合わせます。

3.吸収材・フィルター・装置部品

回収コストの中心には、吸収材の再生に使う熱、送風・圧縮の電力、材料の交換、設備の大型化があります。

参入候補は、低劣化の吸収液、固体吸着材、分離膜、耐食部材、熱交換器、圧縮機、排ガス前処理、漏えい検知です。材料性能だけでなく、顧客の蒸気使用量、停止時間、設置面積、保守費をどれだけ下げるかを示します。

一つの回収方式へ専用化しすぎると、案件の中止や方式変更に影響されます。水素、バイオガス、ガス精製などへ転用できる部材にすると、売上を平準化できます。

4.CO2集約・液化・船舶輸送

複数工場のCO2を集め、共用設備で液化し、タンクへ貯め、船やパイプラインへ渡す事業です。日本の越境CCSでは重要な役割になります。

難しさは、量だけではありません。排出源ごとにCO2の純度と不純物が違います。工場の停止時期も異なります。貯留側が受けられる規格と年間枠に合わせ、前処理と配船を組みます。

地域の荷量が少ない初期は、設備稼働率が上がりません。最低取扱量、共同利用料金、増設条件を長期契約に入れます。

5.貯留評価・監視・MRV

地中貯留では、容量だけでなく、CO2を予定速度で注入できるかが重要です。地質モデル、試掘、井戸設計、圧入圧力、地震・漏えい監視を組み合わせます。

MRVはMeasurement, Reporting and Verificationの略です。どれだけ回収し、輸送し、貯留したかを測り、報告し、第三者が検証できる状態にします。

計装、衛星、地下解析、データ基盤、監査に機会があります。ただし、ブロックチェーンを使うだけでは証明になりません。センサーの校正、欠測処理、境界条件、監査証跡が必要です。

6.CO2利用製品・炭素価値化

候補は、コンクリート鉱物化、炭酸塩、化学品、メタノール、合成燃料です。製品ごとに、必要なCO2純度、電力、水素、保持期間、市場規模が違います。

合成燃料では、CO2より水素と再生可能電力の費用が大きくなる場合があります。建材では、固定できるCO2量だけでなく、セメントや天然原料を減らせるかが重要です。

LCA、環境価値の証明、顧客のScope 1・3への反映、クレジット発行を支援するサービスも対象です。クレジット価格だけに頼らず、製品原価と販売プレミアムを先に確認します。

CCUSの6つの参入方法を参入難度と事業化までの時間で配置した図
図4|CCUSの6つの参入方法と推奨順序。位置は市場規模予測ではなく、公開情報をもとにしたイノベーション総研の定性評価。

CCUS事業が成立する5つの条件

5条件は、6つの参入方法に共通する事業化ゲートです。一つだけを満たしても、継続事業にはなりません。

条件1:減らしにくい排出と支払者が明確である

まず省エネ、電化、燃料転換で減らせる排出を確認します。それでも残るセメントのプロセス排出などにCCUSを当てます。誰が、何の義務や顧客要求のために費用を払うかも必要です。

条件2:回収より先にCO2の行き先がある

貯留井、船、パイプライン、利用工場の開始時期と受入規格を確認します。回収設備だけを先に建てると、CO2を処理できず停止します。

条件3:長期収益を複数の契約で支える

処理料、輸送料、貯留料、製品販売、政策支援、クレジットを分けます。一つの補助金やクレジット価格だけを返済原資にしません。

条件4:エネルギーとLCAを含む実質削減量が見える

回収率だけでなく、蒸気、電力、圧縮、液化、輸送、製品製造で出るCO2を引きます。DACと合成燃料では、低炭素電力と水素が特に重要です。

条件5:責任分界とMRVを商品にしている

設備停止、規格外CO2、船の遅延、圧入停止、漏えい、データ欠損のとき、誰が判断し、費用を負担するかを決めます。契約と運転データを一致させます。

ビジネスモデルを整理する場合は、新規事業のビジネスモデル設計もご覧ください。

技術起点でCCUSを始めると、引取先が最後に残る

CCUSは、吸収液、膜、圧縮機、船、地質解析など、技術の魅力が強いテーマです。そのため「自社技術で何ができるか」から始まりやすくなります。

イノベーション総研は「新規事業の実態と意思決定に関する調査」を実施しました。顧客起点で自走段階と答えた割合は17.6%でした。技術起点では6.3%です。約2.8倍の差があります。本記事の「自走段階」は、単年度黒字または投資回収の目処が立ち、自走する事業として社内で認知されている回答区分です。実現済みの黒字化率ではありません。

イノベーション総研の調査に見る顧客起点と技術起点の差
出発点 回答数 自走段階の回答割合
顧客起点 91名 17.6%
技術起点 48名 6.3%

この調査は2026年4月に、過去5年以内に従業員1,000名以上の企業で新規事業に関わった888名を対象に実施しました。CCUSだけを対象にした調査ではないため、割合は参入判断を直接示す数値ではありません。技術を磨く前に、支払者とCO2の行き先を確かめるという検討順序の参考として使います。

それでも、回収材を開発する前に「誰が、どの排出を、どの引取先へ運ぶために支払うか」を問う根拠になります。

CCUSへの参入前に確認したい10のリスク

リスクは、回収設備の性能だけではありません。バリューチェーン全体の時間差と責任を確認します。

1.回収率を排出削減率と同じにする

設備が排ガス中の90%を回収しても、蒸気、電力、圧縮、輸送で排出が増えます。設備境界とLCA境界を分けます。

2.発表された能力を実績と考える

公称能力、建設中、試運転、年間実績は別です。稼働率、回収量、貯留量を確認します。

3.CO2利用をすべて恒久貯留と扱う

燃料は利用時にCO2を放出します。飲料、温室、短寿命製品も保持期間が短い用途です。削減主張を用途別に分けます。

4.蒸気と電力の追加費用を軽く見る

回収設備は工場のエネルギーバランスを変えます。余剰蒸気があるか、ボイラー増設が必要か、電力契約が変わるかを確認します。

5.CO2の受入規格を後で決める

水分、酸素、硫黄分などの不純物は、液化、輸送、腐食、圧入へ影響します。排出源から貯留地まで共通規格を作ります。

6.輸送と貯留の開始時期がずれる

工場、液化基地、船、港湾、井戸の一つが遅れると全体が止まります。中間貯蔵と代替引取先を設計します。

7.地下の容量だけで貯留地を評価する

地質上の総容量が大きくても、注入速度、圧力、井戸本数、許認可で年間受入量は変わります。

8.地域との合意を技術説明だけで進める

住民や自治体は、安全性だけでなく、地域便益、雇用、交通、緊急時対応を見ます。計画初期から情報を共有します。

9.クレジット購入者が続く前提を置く

DACなどの除去は、少数の大口購入者へ依存しやすい市場です。購入期間、価格、納入遅延、代替購入者を確認します。

10.政策支援を恒常収益と考える

税額控除、差額支援、補助金は市場形成を助けます。一方、政権や制度で条件が変わります。制度が縮小した場合の料金も計算します。

自社はCCUSのどこへ参入できるか?

自社に合う入口は、技術だけでは決まりません。既存顧客、保有設備、引き受けられる責任、必要な提携先を合わせて考えます。

自社資産と参入方法の対応
自社の資産 第一候補 次に確認すること
工場顧客、設備設計、エネルギー診断 導入調査・FEED・統合PM 貯留・利用契約までつなげられるか
リース、保守網、遠隔監視 小中規模向け回収サービス CO2引取先と最低稼働率を確保できるか
化学、膜、塗工、熱交換、圧縮、計装 材料・装置部品 顧客の熱・電力・停止時間を下げられるか
海運、港湾、ガス、物流、商社 集約・液化・船舶輸送 複数排出源と貯留地の時期を合わせられるか
地質、掘削、測量、衛星、データ 貯留評価・MRV 長期監視と責任移転へ対応できるか
建材、化学品、燃料、金融、SaaS CO2利用・炭素価値化 製品価値だけで採算が立つか

複数に当てはまる場合は、顧客とCO2の行き先をすでに持つ方法を優先します。技術はあるが引取先がない場合は、貯留事業者や利用企業との提携から始めます。

CCUSへ参入・提携・待機・見送りをどう判断するか?

判断は、期待度ではなく、顧客、行き先、採算、責任の証拠で分けます。

参入を検討しやすい

  • 電化や燃料転換だけでは減らしにくい排出と支払者が明確
  • CO2の引取先、輸送方法、開始時期が確認できる
  • 自社機能が総費用、稼働率、責任のどれかを改善する
  • 遅延と制度変更を入れても採算の道筋がある

提携から始める

  • 回収技術はあるが排出企業と貯留先がない
  • 排出企業は持つが輸送・貯留の契約を組めない
  • 地質やMRVは強いが、長期責任と金融機能がない
  • CO2利用技術はあるが、製品販売とLCA認証が弱い

待機する

  • 採用する回収方式と必要エネルギーが決まっていない
  • 輸送・貯留の開始時期と受入規格が未確定
  • 政策支援の制度設計が事業成立の大半を占める
  • 顧客の関心が実証や広報にとどまる

見送る

  • 市場成長率だけが参入理由
  • 回収設備だけを作り、CO2の行き先を考えていない
  • 補助金とクレジットがなければ顧客価値がない
  • 既存の省エネ、電化、燃料転換のほうが安く減らせる

判断項目を数値化する場合は、新規事業の事業性評価も利用できます。

CCUSの相談先は何を基準に選ぶべきか?

CCUSの相談先を、回収装置の知識だけで選ばないことをおすすめします。案件には、化学、機械、電力、海運、地質、法務、金融が関わります。

次の6点を確認してください。

  1. CCS、CCU、DACの気候価値を分けて説明するか
  2. 発表、FEED、最終投資判断、建設、稼働を分けるか
  3. 回収より先に輸送・貯留・利用の引取先を確認するか
  4. エネルギー、LCA、稼働率、総費用を扱えるか
  5. 長期契約、政策支援、金融、MRVを一緒に設計できるか
  6. 参入しない条件を説明できるか

初回相談では、「当社が今は参入しないほうがよい条件は何ですか」と聞いてください。市場の期待だけでなく、行き先、採算、責任から見送り条件を答えられるかを見ます。

まとめ:CCUSはCO2の行き先を売る事業になる

CCUSは、世界で77件の商業施設が稼働する段階へ進みました。日本でもCCS事業法が施行され、2030年度までの事業開始を目指す案件が動いています。

一方、計画容量と実際の回収・貯留量には差があります。回収装置だけを先に作っても、輸送、貯留、利用、長期契約がそろわなければ事業になりません。

イノベーション総研は、参入方法を次の6つに整理しています。

  1. 導入調査・FEED・統合PM
  2. 小中規模向け回収サービス
  3. 吸収材・フィルター・装置部品
  4. CO2集約・液化・船舶輸送
  5. 貯留評価・監視・MRV
  6. CO2利用製品・炭素価値化

大型の回収・貯留設備は、大きな市場を狙えます。その代わり、巨額投資、許認可、長期契約、地質リスクを引き受けます。多くの事業会社には、既存顧客と技術を使い、バリューチェーンの接続を商品にする方法が現実的です。

市場の大きさより、減らしにくい排出と支払者を確認します。回収率より、CO2の行き先と全体の実質削減量を確認します。

この全体を契約とデータでつなげられる企業が、CCUSの計画を稼働へ変える過程で価値を得ます。

CCUSの新規事業に関するよくある質問

ここでは、参入検討で生じやすい6つの疑問に答えます。

Q. CCUSとCCSの違いは何ですか?

A. CCSは、回収したCO2を地中へ貯留します。CCUSは、貯留に加えて、燃料、化学品、建材などへの利用も含む広い言葉です。利用による削減効果は、エネルギーとCO2の保持期間で変わります。

Q. DACもCCUSに含まれますか?

A. 含まれます。DACは大気から直接CO2を回収する方法です。回収後に地中へ長期貯留すれば、炭素除去になります。合成燃料へ使う場合は、利用時にCO2が戻るため、永久除去とは分けます。

Q. 日本でCCSはすでに商用化していますか?

A. 法制度は整い、複数案件が設計や調査を進めています。ただし、先進的CCS事業の多くは2030年度までの貯留開始を目標とする段階です。実証、基本設計、最終投資判断、建設、稼働を分けて確認します。

Q. 回収装置を作らなくても参入できますか?

A. できます。導入調査、熱統合、液化、港湾、船舶輸送、地質評価、監視、MRV、CO2利用製品などに機会があります。自社の既存顧客と設備に近い入口から選びます。

Q. CCUS事業の最大のリスクは何ですか?

A. 回収、輸送、貯留の開始時期がずれることです。一つが遅れると全体が止まります。各設備の契約、規格、最低量、遅延時の費用負担を先に決めます。

Q. DACは今から参入しても遅くありませんか?

A. 装置単体での参入は難易度が高い領域です。一方、低炭素電力・熱の確保、吸着材、装置量産、貯留、MRV、購入契約には未解決課題があります。公称能力ではなく、実際の除去量と原価を確認します。

主な出典

主な根拠は、行政機関、国際機関、企業の公式資料です。構想、計画、建設、稼働を分けて確認しています。

執筆・調査:イノベーション総合研究所 編集部
監修:長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

CONTACT

お問い合わせ

CCUSの参入位置を、判断できる形へ。

減らしにくい排出、CO2の行き先、自社資産、提携先、長期収益、責任を整理し、参入・提携・待機・見送りの条件へ落とします。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

IEA、Global CCS Institute、経済産業省、JOGMEC、三菱重工業、SLB Capturi、Northern Lights、商船三井、Svante、Climeworks、1PointFive、CarbonCureなどの公式資料。

この記事をシェアする