投稿日:2026.10.09 最終更新日:2026.10.09
Google CloudとOrange、AI活用を全社へ拡大 1000超の業務エージェントを導入
ニュースの要点
Google Cloudとスペインの通信事業者Orange Spainは、現地時間2026年10月8日、AIを使った社内業務の改革に向け、提携を拡大したと発表しました。Orange SpainはGoogleの企業向けAI基盤「Gemini Enterprise」を使い、人事、IT、営業、顧客対応などで1000を超える専用のAIエージェントを導入したと説明しています。
AIエージェントは、情報検索や業務処理を支援するソフトウェアです。今回の仕組みでは、専門的なプログラミング経験がない社員も、部門の仕事に合わせて作成できます。技術部門に開発が集中することを避け、業務の効率化を進める狙いです。
発表では、2018年から整備してきたデータ基盤を活用し、社内情報の検索や技術障害の分類などに使うとしています。導入費用、作業時間の削減量、収益への影響は公表されていません。
ニュース出典: Google Cloud/原題「Orange Spain Expands Partnership with Google Cloud to Industrialize AI Operations with Gemini Enterprise」(現地2026年10月8日)。リードは発表内容の日本語要約です。
イノベーション総研の考察
今回の事例で注目したいのは、1000という数だけではありません。社員が自分の仕事に合わせてAIを作る方法と、そのAIが使うデータを会社全体で管理する方法を組み合わせている点です。小さな試行を全社へ広げるときに、開発の速さと管理の責任をどう両立するかを考える材料になります。
2018年からのデータ整備が、全社展開の土台になっている
通信会社では、ネットワークの障害情報、契約、顧客からの問い合わせなど、種類の異なる情報を扱います。担当部門ごとに情報が分かれていれば、AIを導入しても、必要な情報を探す仕事は残ります。回答を作る能力と、正しい社内情報へ接続できることは別の課題です。
両社の発表によると、Orange Spainは2018年からGoogle Cloudとデータ基盤を整備してきました。分析用のデータをBigQueryに、蓄積するデータをGoogle Cloud Storageにまとめ、部門間で分かれた情報を統合したと説明しています。今回の全社展開は、こうした準備の上に成り立つという位置付けです。
AIを全社へ広げる前に、使える社内情報と、その管理者をそろえる必要があります。
イノベーション総研は、この経緯が重要だと考えます。1000を超えるAIを短期間で作れたという部分だけを取り出すと、それ以前の情報整備が見えなくなるためです。ただし、発表からは、各年にどのデータを整備し、どれだけ費用をかけたかまでは分かりません。
同社は、社内情報を検索してから回答を作る「検索拡張生成(RAG)」などを使うとしています。これは、AIの知識だけに頼らず、会社の情報を参照させる方法です。それでも、参照する資料が古ければ回答も古くなる可能性があります。情報の更新や閲覧権限を誰が管理するかは、導入後も残る仕事です。
自社でAIを使った新サービスや社内改革を進める場合も、最初に対象業務の情報がどこにあり、誰が正しさを確認できるかを整理します。AIの製品比較だけでなく、使わせる情報の準備を同じ計画に入れることが参考になります。
社員が作る自由と、会社が管理する責任を分ける
今回の仕組みは、少ないプログラミングでAIを作れる「ローコード」を使っています。業務を知る社員が、自分の部署の検索や処理に合わせて作ることを狙います。専門部署がすべての要望を受けて開発する方法とは、仕事の分担が異なります。
同時に、発表は、AIの連携や運用を会社側で一元管理すると説明しています。現場で作れるようにすることと、自由にすべてのデータへ接続させることは同じではありません。速く作る担当と、利用条件を決める担当の両方が必要になります。
現場でAIを作る権限を広げるほど、データ利用と運用の責任を明確にします。
例えば、社内資料を探すAIと、顧客への回答や業務の変更を行うAIでは、誤りが起きたときの影響が異なります。どこまで自動処理し、どこで人が確認するかを分けて考える必要があります。今回の発表では、個々のエージェントの承認基準や、人による確認の方法までは示されていません。
反対に、確認をすべて中央部門へ集めれば、開発を現場に分けても、公開や変更の段階で待ち時間が増える可能性があります。小さな業務支援と、顧客や契約に影響する処理を同じ手続にせず、影響に応じて管理することが、自社で検討すべき論点です。
提携相手を選ぶ際にも、AIの作成機能だけでなく、利用権限の管理、変更履歴、停止や修正の方法を確認します。今回の事例は、業務を知る社員と共通基盤を提供する企業を組み合わせる形ですが、その役割分担が実際に機能したかは、運用の結果で確かめる必要があります。
1000超の導入と、仕事の改善を同じ成果にしない
発表では、主要な業務部門へライセンスを割り当て、30日以内にライセンスの利用率がほぼ100%になったとしています。これは、割り当てたライセンスの利用についての会社説明です。全社員が毎日使った、すべてのAIが定着した、投資が回収できたという数字ではありません。
1000を超える専用AIについても、障害の識別・分類・担当先への振り分け、ログを使った原因分析、社内情報の検索、定型的な依頼処理などの用途が挙げられています。一方、用途別の利用頻度や、導入前後の処理時間、誤りの割合は公表されていません。
AIの展開数や利用率は入口の指標であり、業務の成果は時間・品質・費用で確かめます。
自社で同様の展開を評価する場合は、最初から作成数を目標にしすぎないことが重要です。検索なら必要な情報へ到達する時間、障害対応なら担当先へ正しく渡せた割合、顧客対応なら回答の確認や修正にかかる時間を測ります。人が後から直す作業も含めると、本当に減った仕事が見えやすくなります。
多く作ったAIが重複したり、更新されないまま残ったりすれば、管理費用が増える可能性もあります。全社へ拡大する判断には、継続して使うものを選び、使われないものを止める基準も必要です。今回の発表に、そうした整理の成果が示されているわけではありません。
次に確認したいのは、主要な用途の継続利用、業務時間と品質の変化、運用費用、人による確認の負担です。新規事業の担当者には、試行から拡大へ進む際に、利用された証拠と価値が生まれた証拠を分けて集めるという示唆があります。
まとめ
Orange SpainとGoogle Cloudは、長年整えてきたデータ基盤を使い、社員が業務に合わせてAIを作る取り組みを全社へ広げています。1000を超える導入という会社説明に加え、情報の土台と、現場・中央部門の役割分担を読むことが重要です。
自社への応用では、使うデータ、作成と管理の責任、業務成果の測り方を一緒に決めます。導入数だけで成功とせず、仕事の時間・品質・費用がどう変わるかを確認していきます。
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