投稿日:2026.10.07 最終更新日:2026.10.07
日立、暗号資産などの取引監視サービスを開始 企業間のリスク情報を共有
ニュースの要点
日立製作所は2026年10月5日、暗号資産やステーブルコインなどの取引に対応する「Digital Asset AML Platform」を10月1日から提供し始めたと発表しました。金融機関や暗号資産の事業者による、資金洗浄などの対策を支援する狙いです。
取引後のリスク監視、送金前のウォレットアドレスの評価、トークンの流れの可視化を提供します。外部のブロックチェーン分析や制裁・犯罪などの情報を組み合わせ、企業間でリスク情報を共有する仕組みです。共有対象はアドレスや取引ハッシュなどで、個人の属性情報ではないと説明しています。
リスクの評価を基に取引への対応を決めるのは利用企業です。対応するネットワークやトークンは契約条件によって異なり、すべての取引に一律に対応するという発表ではありません。
ニュース出典: 日立製作所(PR TIMES配信)/原題「日立、暗号資産・ステーブルコインなどのデジタルアセット取引向けAMLモニタリングサービスDigital Asset AML Platformを提供開始」/2026年10月05日/発表本文
イノベーション総研の考察
デジタル資産は事業者の境界をまたいで動きます。一社が自社内の取引だけを見る方法では、前後の資金移動を把握しにくいことが課題です。日立の事業は、その不足を情報共有で補うものとして捉えられます。
一社の取引監視から、企業間で手がかりを持ち寄る
AMLは資金洗浄への対策を指します。今回のサービスでは、取引の流れを追い、外部の情報や他社が得たリスクの手がかりを組み合わせます。各社のデータを全部集めるのではなく、疑わしい資金移動を見つけるための情報を共有する設計です。
利用企業の担当者にとっては、自社の取引だけでは見えなかったつながりを確認できる可能性があります。一方、共有したという事実だけで不正を見つけたことにはなりません。情報を使って何を追加で確認するかが、サービスの利用価値になります。
企業間データ事業の価値は、各社が単独では見えない判断材料を補えるかにあります。
担当者の方が企業間のデータ事業を考える場合も、保有データの量より、各社が単独では見えない何を補うかを定めます。共有する情報を絞ることは、提供側の負担や利用目的を明確にすることにもつながります。
共同実証を経て、10月に商用提供へ進んだ
日立は7月の発表で、2025年の実証に続き、2026年も金融機関などと共同実証したと説明していました。情報の共有と分析を複数の参加者で試し、10月のサービス化を予告していました。今回の発表は、その予定から実際の提供へ進んだ段階です。
実証は、技術が動くかだけでなく、他社の情報をどの形式で受け取り、誰が確認するかを試す機会になります。利用者が複数いる事業では、一社の都合で入力や判断の手順を決められないため、共同で試す意味があります。
共同実証からの商用化と、業界全体の業務共同化は、異なる段階として追います。
ただし、当事者が示す共同AMLセンターの構想は、今回のサービス開始と同じではありません。サービスを提供し始めたこと、センターを将来設けること、業務全体を共同化することを分けて追う必要があります。導入社数や削減効果は今回未公表です。
疑わしい情報を共有しても、不正の確定にはならない
アドレスにリスクの手がかりがあることと、その利用者の取引が不正だと確定することは別です。日立も、最終的な判断は利用企業が行うとしています。AIや外部分析を使うことによって、判断の責任まで外へ渡せるわけではありません。
金融庁の検証結果でも、情報共有の可能性とともに、情報の正確性や更新、追加の検証が論点になっています。これは今回のサービスの効果を独立に保証する資料でも、あらゆる情報共有を一括で認める説明でもありません。
共有サービスには、情報を渡す仕組みだけでなく、訂正と最終判断の責任分担が必要です。
自社で共有サービスを設計するなら、誤った情報が出た際に、誰が訂正し、すでに受け取った企業へどう知らせるかを決めます。疑わしさの程度と理由を示し、利用者が確認できることが、情報を増やすことと同じくらい重要です。
導入後は、確認の質と作業時間を同時に見る
監視を広げると、確認すべき取引が増える可能性があります。通知を増やしても担当者が処理できなければ、重要な取引の確認が遅れます。リスクの把握と作業の負担をセットで測る必要があります。今回、その改善実績は示されていません。
次に見たいのは、利用企業、対象の取引、確認時間、追加調査につながった割合です。これらはイノベーション総研が提案する観測点であり、公表された成果ではありません。異なる会社を比較する際は、取引量や対象の違いも考慮します。
情報量ではなく、確認の質、作業時間、追加負担を合わせて導入を判断します。
読者の事業でも、データを受け取るだけの段階から、担当者が使って判断できる段階へ進める必要があります。継続利用の判断には、料金と追加の確認負担に見合う価値があるかを、一つの業務で試してから共有先を広げる進め方が考えられます。
まとめ
日立は共同実証を経て、デジタル資産の取引監視サービスを提供し始めました。情報を共有するだけで判断を代替するのではなく、確認に役立つ手がかり、訂正の仕組み、利用企業の責任を組み合わせる点が、データ連携事業を考える読者への示唆です。
執筆:イノベーション総合研究所
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