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コンピュートインメモリとは?メモリ内演算の仕組み・7事例と参入機会

コンピュートインメモリ(CIM、メモリ内演算)とは、データを保存するメモリの内部やごく近くで計算し、演算器との間でデータを運ぶ負担を減らす半導体技術です。AI(人工知能)の処理で繰り返す掛け算と足し算などを対象に、応答時間や消費電力の改善を狙います。

ただし、高速なメモリを使うことや、対話AIが会話を覚える機能とは別です。メモリ内演算は、対象処理とソフトウェアまで合わせて初めて価値を判断できます。この記事では方式の違いと国内外7事例を整理し、製品供給・展示デモ・研究成果を分けて、既存製品の導入支援から研究開発までの参入機会を考えます。

この記事の結論

メモリ内演算は、回路の速さと顧客の仕事の改善を分けて評価します。

  • 保存したデータと演算を近づけ、移動の負担を減らす
  • 7事例で、製品供給・展示デモ・研究成果を読み分ける
  • 品質と総費用を確かめ、自社が担える仕事を選ぶ

目次

コンピュートインメモリは、何をメモリの中で計算するのか

コンピュートインメモリの中心にあるのは、保存した数値を毎回遠くの演算器へ運ばず、その場所で計算に使う考え方です。「メモリの容量を増やせば実現する技術」ではなく、記憶回路と計算方法を一緒に設計します。

AIの計算には、保存した係数を何度も読み出す仕事がある

画像認識や文章生成に使うAIモデルには、入力に対してどの程度反応するかを決める多数の係数があります。この係数は「重み」と呼ばれます。例えば、画像を検査するAIは、入力画像から作った数値に重みを掛け、それらを足し合わせる処理を繰り返します。掛け算と加算をまとめた処理が積和演算です。

通常の構成では、重みや中間結果をメモリに保存し、必要な値を演算器へ読み出します。演算器が速くても、値を読み出すまで待つ時間や、読み書きに使う電力が大きければ、その速さを生かし切れません。この制約は「メモリウォール」と呼ばれます。

メモリ内演算では、重みを保存した回路の内部や近くに計算機能を置きます。演算に必要な入力を渡し、まとめた結果を取り出せれば、重みを運ぶ回数や距離を減らせます。ただし、入力、計算結果、制御信号の移動までなくなるわけではありません。対象外の処理を別の演算器に任せる構成も一般的です。

この違いを、2行2列の架空の計算で図示します。実際の半導体は、数値の表し方、計算精度、回路の組み方が異なります。図は「何を動かし、どこで計算するか」を理解するための例です。

保存した重みを動かすか、その場所で計算するか

同じ架空の計算で比べる

重み:1行目[1, 2]、2行目[3, 4]。入力:[5, 6]。
結果:[1×5+2×6, 3×5+4×6]=[17, 39]。

通常の構成

メモリに重みを保存

重みを別の演算器へ読み出す

演算器で入力と計算し、結果を出す

メモリ内演算

重みを保存した回路へ入力を渡す

回路の内部や近くで計算

まとめた結果を取り出す

減らすのは、重みを運ぶ負担

入力・結果・制御信号の移動は残ります。対応しない計算は別の回路へ任せるため、全処理がメモリだけで終わるわけではありません。

図1:d-Matrix、Axelera AI、IBM Researchの公表説明を参考にイノベーション総研作成。2行2列の数値は仕組みを理解するための架空例です。実製品の回路構成・数値精度を再現した図ではありません。

高帯域メモリーや、会話の記憶とは目的が違う

高帯域メモリー(HBM)は、複数のメモリチップを積層してデータを一度に多く運ぶ技術です。メモリ接続規格(CXL)は、プロセッサーとメモリ等をつなぎ、容量の拡張や共有を支えます。どちらも重要ですが、データを置いた場所で演算する機能とは同一ではありません。

また、対話AIの「長期記憶」は、会話や利用者の情報を保存し、後の回答で参照するアプリケーションの仕組みです。半導体としてのメモリ内演算とは、買い手も評価方法も異なります。本記事は、半導体・計算基盤の技術を扱います。

メモリ内演算と近接技術の目的
比較する技術 主に変えること 導入時に確かめること
コンピュートインメモリ データ保存場所と演算の配置・方法 対応する計算、精度、変換ソフト、システム全体の効果
高帯域メモリー(HBM) メモリと演算器の間で運べるデータ量 帯域、容量、実装・冷却、供給条件
メモリ接続規格(CXL) メモリ等の接続、拡張、共有 対応機器、遅延、管理、容量の使い方
対話AIの長期記憶 過去の情報を回答へ再利用する仕組み 保存範囲、検索、更新・削除、情報管理

これらは競合するだけでなく、同じシステムに組み合わせる場合もあります。「HBM搭載」「CXL対応」という仕様だけでメモリ内演算ができるとは判断せず、どの回路で何を計算するのかを確認します。帯域と供給網はHBMの記事、接続と容量管理はCXLの記事で詳しく解説しています。

コンピュートインメモリの方式は、計算場所と数値の扱いで分ける

メモリ内演算の用語は、企業や論文によって範囲が重なります。名称の違いだけで優劣をつけるより、「演算回路はどこにあるか」「デジタル値で計算するか、電流などの物理量を使うか」の二つを確認すると理解しやすくなります。

メモリ内処理と、記憶回路を使う演算

メモリ内処理(PIM)は、メモリに処理機能を組み込み、外部のプロセッサーとのデータ移動を減らす広い考え方です。メモリ内部の区画であるバンクの近くに演算回路を置く方法などがあります。SamsungやSK hynixの事例は、この方向を理解する材料になります。

一方、コンピュートインメモリは、記憶セルの配列と計算をより密接に組み合わせる文脈で使われます。もっとも、両者を完全に別の技術群とする共通の線引きがあるわけではありません。本記事ではPIMも関連方式として扱い、各事例で実装を具体的に説明します。

デジタル方式とアナログ方式では、導入時の確認点が変わる

デジタル方式は、数値をビットとして扱い、記憶回路の中や近くで論理演算を行います。電源を切るとデータが消える高速な記憶回路(SRAM)を使う方式が、d-MatrixやAxelera AIで採用されています。ただし、デジタルだからどんなAIモデルでもそのまま動く、という意味ではありません。

アナログ方式は、記憶素子の電気的な性質や、回路に蓄える電荷などを計算に利用します。例えばIBM Researchは、電気抵抗を変えて数値を保存する相変化メモリを研究しています。多数の値を並列に扱える一方、ばらつきや雑音、読み出し時の変換を考慮し、必要な精度を確かめることが重要です。

デジタル・アナログ方式の確認点
見る軸 デジタル方式の例 アナログ方式の例
計算に使うもの ビットを扱う記憶・論理回路 抵抗、電流、電荷等の物理量
確認する課題 対応演算、数値精度、データ配置、回路面積 ばらつき、雑音、変換回路、補正・学習方法
共通して必要なもの モデルを実行回路へ割り当てるソフト、対象外処理との連携 同左。計算の一部がアナログでも全処理がアナログとは限らない

この表は方式の一般的な整理であり、製品の順位表ではありません。キオクシアのフラッシュメモリによる類似検索のように、対象の仕事に合わせた実装もあります。導入候補の分類名から機能を推測せず、製品資料や研究結果に戻る必要があります。参考:d-Matrixの技術説明、Axelera AIの技術説明、IBM Researchの研究紹介。

知りたいことから、メモリ内演算の検討を進める

近い状況を開き、本文の説明や比較を確認してください。採点や製品の適合を判定する診断ではありません。

01 意味と仕組みを知る

保存する値と計算場所を分けて読みます。

  • 重みと積和演算
  • データ移動の違い
  • 高帯域メモリーとの違い

仕組みを読む →

02 方式の違いを理解する

名称よりも実装を確認します。

  • メモリ内処理との関係
  • デジタルとアナログ
  • 対応する数値と回路

方式の違いを読む →

03 使える用途を探す

顧客の処理で何を改善するか考えます。

  • 端末の画像認識
  • 文章の出力生成
  • 検索での候補絞込み

用途と条件を読む →

04 企業と研究の事例を比べる

製品供給と研究成果を読み分けます。

  • 提供する機器とソフト
  • 展示デモと実利用
  • 確認できない採用成果

7事例を読む →

05 性能と採算を評価する

回路だけでなく全体の範囲をそろえます。

  • 同じモデルと品質
  • 装置全体の時間と電力
  • 導入・更新・保守の費用

評価項目を読む →

06 自社の参入方法を選ぶ

保有資産と引き受ける責任を対応させます。

  • 装置への組込み
  • モデル調整と評価
  • 回路・ソフト共同開発

4つの参入案を読む →

メモリ内演算が力を発揮しやすい用途と、効果が限られる用途

メモリ内演算の価値は「AIを使っているか」だけでは決まりません。同じ係数を繰り返し読む仕事が大きいか、必要な計算を実行できるか、移行後も要求精度を満たせるかが出発点です。

端末での画像認識と、データセンターの文章生成

工場の検査機器や監視システムでは、複数の画像を継続的に処理しながら、電力や発熱を抑えたい場合があります。既存の画像認識モデルを対応する半導体へ移せるなら、装置の消費電力、処理できる映像の数、応答時間を評価できます。Axelera AIの製品は、こうした端末側のAI処理を対象にしています。

データセンターでは、生成AIが文章を少しずつ出力する処理が候補になります。入力文章をまとめて処理する段階と、一単位ずつ出力を続ける段階では、計算とメモリ読み出しの比重が異なります。d-Matrixは、後者の出力生成を自社のアクセラレーターが担い、画像処理用プロセッサー(GPU)と組み合わせる構成を示しています。

ここで重要なのは、GPUを全面的に置き換えることが目的ではない点です。得意な処理を分担するために、モデル、データ配置、機器間の接続、実行ソフトをそろえます。処理を分けたために新たな転送や待ち時間が増えるなら、それも効果の計算に含めます。

類似検索では、候補を絞る仕事と最終判断を分ける

キオクシアは、画像や文章を数値の組として表すベクトルを対象に、フラッシュメモリの中で似ている候補を探す研究を公表しています。保存データと問い合わせを比較し、候補を絞った後、ホスト側の計算機が最終的な判定を行う構成です。

このように、メモリ内演算に任せる仕事を限定し、既存の計算機と分担することで使い道が見えてきます。研究成果を「検索サービスをそのまま置き換える製品」と読み替えることはできません。データの作り方、検索精度、更新方法、最終判定まで含めて評価する必要があります。キオクシアの研究説明。

逆に、通信待ちが大半を占めるサービス、対象半導体が不得意な計算の多いモデル、頻繁なモデル変更で変換作業が膨らむ用途は、演算効率だけを改善しても採算につながりにくい候補です。対象の処理時間を分解してから、技術を選びます。

コンピュートインメモリの7事例:供給製品と研究成果を読み分ける

この分野では、実際に供給される製品と、将来の実装に向けた研究成果が同時に発表されています。以下では国内外7社・研究機関について、提供するもの、想定する利用者、仕組み、確認できる段階を分けます。公表資料にない顧客名や導入効果は補っていません。

d-Matrix:文章生成の処理を担うCorsairと実行ソフト

米国のd-Matrixは、データセンター向けにCorsairというAI推論アクセラレーターを提供しています。推論とは、学習済みのAIモデルで入力に対する結果を計算することです。同社は、SRAMを利用したデジタルなメモリ内演算を、小さな半導体部品を組み合わせる構成に実装しています。

提供物は半導体だけではありません。Aviatorというモデルの変換・実行用ソフトや、サーバー・ラック構成も含みます。想定する買い手は、大規模クラウド、AI向けクラウド、先端AIの開発組織などです。GPUが入力処理を担い、Corsairが文章の出力生成を担う構成は、既存設備と専用機器を併用する方向を示します。

2026年6月9日の同社発表では、Corsairが本格生産に入り、優先顧客への数量出荷を始める段階とされています。これは量産開始の発表であり、任意の企業が即時購入できることや、個別顧客の本番運用成果まで確認できる情報ではありません。発表された性能改善も、特定のモデル・機器構成・実行方法の条件があります。

事業として注目する点は、製品を既存の推論サービスへ組み込み、要求する応答時間と運用条件を満たす仕事です。サーバーを追加するだけでなく、処理分担、モデル変換、監視、障害時の戻し方まで評価対象になります。出典:技術・製品説明、本格生産開始の公式発表。

Axelera AI:端末側の画像認識に、MetisとVoyagerを組み合わせる

オランダのAxelera AIは、端末側でAI推論を行うMetis製品群と、開発・実行ソフトのVoyagerを提供しています。デジタル方式のメモリ内演算を使い、保存した値を繰り返し読み出して別の演算器へ運ぶ負担を小さくする設計です。

公式の開発資料では、ボード、対応モデル、モデル変換、映像処理の組み方などを案内しています。買い手は、工場の画像検査、映像解析等を機器に組み込みたい装置メーカーや開発組織です。チップの公称性能だけでなく、カメラ入力から結果の利用までを作るソフトが導入を支えます。

同社は2025年4月の公式コミュニティ記事で、MetisとVoyagerの顧客への出荷と、生産環境への導入を説明しています。現在も開発用資料を公開していますが、そこからすべての装置やモデルで同じ処理性能が出るとは言えません。自社の映像、対象モデル、同時入力数、温度条件で確認する必要があります。

この事例は、研究用半導体を一から開発する参入だけでなく、供給製品を装置に組み込み、現場の検査や監視の仕事を完成させる参入があることを示します。出典:デジタル方式の説明、出荷・導入に関する公式記事、開発資料。

Samsung:高帯域メモリーに演算機能を組み込むHBM-PIM

韓国のSamsungは、2021年に高帯域メモリーへ処理機能を組み込んだHBM-PIMを発表しました。外部の演算器だけに計算を任せるのではなく、メモリ内のバンクに演算機能を配置し、データの行き来を減らす方向です。

対象は、データセンター等でAI処理を担うシステムです。既存のメモリの役割を保ちながら計算機能を加える発想は、新しいアクセラレーターを全面的に導入する場合とは異なる、メモリとシステムの共同設計を必要とします。

ただし、2021年の技術発表は、一般に販売されるHBMのすべてが同じ演算機能を持つという証拠ではありません。HBMの世代が新しくなったことと、PIM機能が供給され、対象ソフトで利用できることは分けて確認します。発表資料にある速度・電力の改善値も、評価に使った処理とシステム条件に結び付いた値です。

この事例から検討できるのは、メモリ側の機能を利用する実行方法や、利用条件を評価する仕事です。自社が購入できる部品と開発環境を確かめずに、「通常のHBMを交換すれば使える」と提案しないことが大切です。出典:HBM-PIM開発の公式発表。

SK hynix:AiMチップから、AiMX搭載サーバーの展示へ

韓国のSK hynixは、2022年にメモリ内へ計算機能を組み込むAiMチップの開発を発表しました。当時の資料では、AI処理を担う企業との協業に向けた計画も示しています。チップ開発の発表と、その後の製品採用を同じ段階として扱うことはできません。

2026年9月のAI Infra Summitでは、同社はAiMチップ、AiMを使うAiMXアクセラレーターカード、そのカードを搭載したサーバーを並べて展示しました。来場者が大規模言語モデルによるサービスを体験するデモも実施しています。大規模言語モデルとは、多数の文章等から学習し、文章の生成や理解を行うAIモデルです。

ここで確認できるのは、チップ単体の説明から、カード・サーバー・サービスの展示へ進んでいることです。公開資料に具体的な商用顧客の採用条件や継続運用の成果は示されておらず、展示を一般販売や大規模導入の実績に置き換えるべきではありません。

注目すべき仕事は、半導体の性能をサービスの応答へつなぐ機器とソフトの統合です。メモリの処理機能だけでなく、カード、サーバー、モデル実行を合わせて見ることで、提携に必要な相手が具体化します。出典:2022年の開発発表、2026年9月の展示報告。

キオクシア:3次元フラッシュメモリで、似ているデータを絞り込む

日本のキオクシアは、3次元フラッシュメモリを用いた類似ベクトル検索を研究しています。保存された数値と問い合わせの数値を比較し、メモリ内の電流を使って候補を絞る仕組みです。保存容量を削減しない方法を研究している点も特徴です。

2026年9月28日に公開した説明では、3ビット・128次元のベクトルによる検索を検証しています。3ビットは数値の表現に使う桁数、128次元は一つのデータを表す数値の項目数です。紹介された判別結果は特定の計算条件における結果であり、任意の検索サービスの正解率ではありません。

同研究では、メモリ内で候補を絞った後、ホスト側が最も類似したデータを決定し、ラベルを推定します。メモリだけで最終結果をすべて出す構成ではありません。成果の学会発表は2026年5月、同社の技術紹介は同年9月です。

この情報は研究段階の成果です。市販のデータ保存装置に同じ機能が標準搭載されているという意味ではありません。検索向けに検討するなら、実データの表現方法、候補からの取りこぼし、更新、ホスト側の再計算を一体で扱う必要があります。出典:キオクシアの技術紹介。

慶應義塾大学:計算資源を再構成できる回路を研究

慶應義塾大学は、科学技術振興機構の支援を受けた研究として、データ保存、積和演算、アナログ値からデジタル値への変換に必要な機能を、一つのセルへ組み合わせるメモリ内演算技術を2024年2月に発表しました。回路が占める面積を減らし、AIモデルに合わせて計算資源を再構成する方向です。

公式発表には、畳み込みニューラルネットワークという画像処理等で使うAIモデル向けの評価で、毎秒の演算回数を1ワット当たりに換算した値が、同じ演算精度の従来技術と比べて約10倍になったとあります。これはその回路・モデルの評価条件における研究結果であり、製品の消費電力が一律に10分の1になるという意味ではありません。

想定される利用は、将来のAI半導体や端末向け計算回路です。この発表で確認できる段階は、学会で示された研究成果であり、顧客に提供する量産製品の情報ではありません。企業が事業化を検討する場合には、回路技術だけでなく、製造方法、対応モデル、評価用の環境、利用できる権利の範囲を研究側と確認することになります。

出典:慶應義塾大学の公式発表。

IBM Research:アナログの計算とデジタルの制御を統合する

IBM Researchは、相変化メモリの抵抗値にAIモデルの重みを保存し、回路の性質を利用して積和演算を行うアナログAIチップを研究しています。2023年8月の発表では、64個のメモリ内演算コアを持つチップを説明しました。

各コアには、アナログ値をデジタル値へ変換する回路や、簡単な非線形処理等を行うデジタル回路も組み込まれています。さらに、コア間の通信や複雑な処理を担うデジタル部分があります。「アナログ方式」は、システム全体がアナログだけで動くという意味ではありません。

同社は、アナログ回路の雑音やばらつきを含めて学習・推論を試せる公開ソフト、IBM Analog Hardware Acceleration Kitも提供しています。研究者やモデル開発者が、機器の特性を踏まえた学習方法を検討するための道具です。公開ソフトを使えることと、研究チップを量産製品として購入できることは別です。

この事例は、回路開発とモデル調整が切り離せないことを示します。事業案としては、雑音を考慮したモデル評価や対応する学習方法の開発が考えられますが、実機で再現できるか、研究機関とどの範囲を分担するかの確認が前提です。出典:アナログAIチップの研究紹介、公開ソフトの公式リポジトリ。

7事例を、買い手と公表段階で比較する

参入候補を選ぶ際は、方式の名前だけでなく、いま入手できるものを比較します。研究成果への参画と、供給製品を使った顧客への導入では、必要な資金、相手、売上までの仕事が違います。

7社・研究機関の提供物と公表段階
企業・研究機関 提供物・研究対象 想定する利用者 本文出典で確認できる段階
d-Matrix Corsair、実行ソフト、サーバー・ラック構成 大規模クラウド等 2026年6月に本格生産・優先顧客向け数量出荷開始を発表
Axelera AI Metis、Voyager、開発資料 端末・装置の開発者 製品出荷と生産環境への導入を公式に説明
Samsung 演算機能を組み込むHBM-PIM AIシステムの開発者 2021年の技術開発発表。通常のHBMと区別が必要
SK hynix AiM、AiMX、搭載サーバー AI基盤の開発者 2026年9月にカード・サーバーとサービスの展示デモ
キオクシア 3次元フラッシュでの類似検索 将来の検索・計算基盤の開発者 2026年5月の学会成果を9月に技術紹介
慶應義塾大学 再構成可能なメモリ内演算回路 将来のAI半導体開発者 2024年2月の研究成果・学会発表
IBM Research アナログAIチップと評価用公開ソフト 研究者、モデル・回路開発者 チップの研究成果と、公開ソフトの提供

この比較から、すぐに事業化を検討しやすい入口と、共同研究から始める入口を分けられます。表に供給量、納期、個別顧客の収益を記載していないのは、本文の出典だけでは確認できないためです。

NEXT STEP

次のステップ

メモリ内演算の技術を、顧客が任せたい仕事へ

装置への組込み、モデル変換、評価、共同開発。買い手の課題と、自社の資産、使える製品、必要な提携先をそろえ、担う仕事を具体化します。

演算効率だけでなく、サービス全体の採算を測る

メモリ内演算の評価では、チップの演算性能、モデルの処理速度、利用者が待つ時間を区別します。回路単体の優れた値が、そのまま装置やサービスの利益になるわけではありません。

「何倍速い」の前に、測っている範囲をそろえる

1ワット当たりにできる演算回数は、回路の電力効率を見る指標です。しかし、数値の精度、どの演算を一回と数えるか、周辺回路を含むかによって条件が変わります。精度の違う値を並べて製品の順位を決めることはできません。

サービスを選ぶ側にとっては、同じモデルとデータで要求品質を満たし、どれだけの時間と電力で結果を返すかが重要です。画像検査なら誤検出・見逃し、文章生成なら出力品質や遅い応答の頻度も測ります。速度が改善しても品質が落ちた場合、同等の成果を得た比較にはなりません。

下図は架空のサービスを使った説明です。通信・前処理・後処理に60ミリ秒、対象演算に40ミリ秒かかるとします。対象演算だけを5倍速くして8ミリ秒に短縮しても、合計は100ミリ秒から68ミリ秒です。改善は32%、処理時間の比では約1.47倍であって、サービス全体が5倍速くなるわけではありません。

対象演算の高速化と、サービス全体の改善は別

架空例:同じ要求品質を満たし、通信・前後処理の時間は変わらない場合。

導入前:合計100ミリ秒

通信・前後処理60ミリ秒 + 対象演算40ミリ秒

対象演算だけを5倍速くする

40ミリ秒 ÷ 5 = 8ミリ秒。他の時間は60ミリ秒のままです。

導入後:合計68ミリ秒

通信・前後処理60ミリ秒 + 対象演算8ミリ秒

全体の時間短縮は32%

100 → 68ミリ秒。処理時間の比では約1.47倍であり、全体が5倍速くなったわけではありません。

実際の導入で加える測定:結果の品質、同時処理数、発熱、装置全体の電力、モデル更新と保守の費用。

図2:イノベーション総研作成。実企業の測定値や性能・収益の予測ではなく、測定範囲をそろえるための架空例です。棒の長さは導入前の100ミリ秒を共通の基準にしています。

置き換えではなく、総費用と運用条件を比較する

導入費用には、半導体やボードの価格のほか、モデルの変換、対応しない処理の作り直し、性能評価、機器間の接続、運用担当者の習熟が含まれます。継続費用には、電力・冷却、保守、モデル更新時の再評価、障害時に別構成へ戻すための設備や作業があります。

架空の採算例として、月間の電力・運用費を20万円減らせても、モデル変更への対応と保守が月15万円増えるなら、差し引きの継続改善は月5万円です。初期費用300万円の単純回収には60か月かかります。この計算は性能予測ではなく、費用の範囲をそろえるための例です。実際には設備寿命、稼働率、売上への寄与、資金費用等も別に検討します。

同じ条件で比べる評価項目
比較項目 記録する条件 見落とすと起きること
品質 モデル版、実データ、許容する誤差 速くても必要な結果を得られない
応答時間 前後処理・通信込み、同時利用数、遅い応答 チップの速度と利用者の体験が一致しない
電力・発熱 ボード・装置全体、待機と負荷、周囲温度 演算部の改善が周辺回路の消費で薄まる
更新と保守 変換時間、再評価、対応モデル、復旧方法 変更のたびに費用と停止時間が増える
経済性 初期費用、継続費用、寿命、稼働、対価 省電力だけでは投資を回収できない

採算を比べる基準は、特定の方式を使ったかどうかではなく、同じ要求を満たす構成の総費用です。既存のGPUや通常の端末向けAI半導体も比較対象に残し、メモリ内演算を選ばない判断を含めて評価します。

コンピュートインメモリの参入機会は、保有資産によって変わる

メモリ内演算の新規事業は、独自半導体の開発だけではありません。供給製品を利用する仕事、モデルを対応させる仕事、測定の仕事、回路そのものを開発する仕事では、引き受ける責任と必要資産が異なります。以下は公表事例を踏まえたイノベーション総研の事業案であり、各社の募集案件や収益実績ではありません。

1.装置メーカー向けに、端末への組込みを提供する

画像検査や映像解析の装置メーカーを買い手とし、供給可能なボードと実行ソフトを使って、カメラ入力から判定結果までの処理を提供する案です。装置設計、対象業界の画像データ、現場の設置・保守に強みがある企業が検討できます。

提供物は「半導体の転売」だけではなく、対応するモデル、装置への接続、温度や負荷を含む検証結果、更新手順です。半導体ベンダー、ボード・筐体の供給企業、現場の装置担当者との提携が必要です。対価は開発・導入費と、保守・更新費として組み立てられますが、実現可能な価格は買い手に確かめます。

責任範囲として、対応モデル、入力条件、判定結果の扱い、障害時の復旧方法を契約でそろえます。継続供給される機器がない場合、現場データを使った精度確認ができない場合、既存装置に対して費用と運用を改善できない場合は見送ります。

2.AIモデルを移すための変換・実行最適化を提供する

半導体や推論基盤を導入する企業を買い手とし、既存モデルを対応する計算へ割り当て、対象外の処理を既存機器へ戻す実装を提供する案です。AIモデルと低い階層のソフトウェアを扱える人材、実機へのアクセス、性能を再現できる評価環境が必要です。

モデルが使う数値の精度を調整する量子化や、処理を回路へ割り当てるコンパイルを含みます。ベンダーの開発キット、モデル開発者、システム運用者と連携し、対応範囲、品質の維持、更新時の再検証を納品物にします。

対価はモデルごとの移植・検証費や、更新を含む継続支援費が候補です。ただし、製品の非公開部分へ自由にアクセスできるとは限りません。必要な開発情報や実機が使えない、対応しない処理が大半を占める、変更のたびに作業費が導入効果を上回る場合は、受注範囲を縮めるか見送ります。

3.同じ条件で比べられる評価サービスを提供する

採用を検討する装置メーカー、クラウド企業、半導体開発者を買い手とし、品質・処理時間・消費電力・更新負担を同じ条件で測る案です。測定機器、比較構成、実データを扱う権限、結果を再現できる手順が資産になります。

チップ単体の計測と装置全体の計測を分け、モデル版、温度、同時処理数、測定範囲を記録します。ベンダーの技術者と買い手の運用者が、同じ試験条件を確認できる報告書を提供します。第三者試験や受託評価の費用が対価の候補です。

評価に必要な機器とデータが入手できない場合や、試作チップと市販装置を同じ条件で比べられない場合は、実施できる測定だけに限定します。資料の公称値を並べるだけでは、実機評価サービスとしての価値は成立しません。

4.回路・素子・評価ソフトの共同開発へ参加する

半導体メーカーや研究開発部門を買い手・共同研究相手とし、回路、記憶素子、ばらつきを補う技術、モデル評価ソフト等を開発する案です。慶應義塾大学、IBM Research、キオクシアの事例は、回路と計算方法を一緒に研究する重要性を示しています。

必要なのは、設計技術、製造・測定環境、研究人材、知的財産を扱う体制です。大学、製造受託企業、設計ツール企業、モデル開発者と、研究の到達点と費用を分担します。共同研究費、受託開発費、条件を確認した技術ライセンスが対価の候補になります。

研究成果から製品までには、製造時のばらつき、信頼性、量産時の歩留まり、利用ソフト、供給責任の仕事が残ります。製造・評価へ進む道筋がない、権利や成果の帰属を合意できない、顧客が求める用途を特定できない場合は、事業化を急がない判断が必要です。

メモリ内演算の事業化で、見落としやすい5つの懸念

参入案の魅力とともに、使えない条件を先に確かめることが大切です。研究の到達点と顧客に提供する責任の間に、どんな仕事が残っているかを確認します。

対応する計算が、顧客のモデルの一部にとどまる

積和演算が速くても、モデルには別の計算、データの並べ替え、前後処理があります。対象外の処理を別機器に移す費用まで含めると、効果が小さくなる可能性があります。モデル全体の処理分担と移動量を測り、主要な遅さが対象演算にあることを確認します。

数値精度と実データの品質が、期待値を満たさない

使える数値精度や、アナログ回路のばらつきに合わせた調整が必要になる場合があります。演算の誤差が小さくても、業務で必要な判定精度を維持できるとは限りません。顧客のデータと許容基準で比較し、品質を下げた結果を同等性能として扱わないことが必要です。

機器の供給と開発環境が、事業の予定に合わない

学会発表、展示デモ、評価用の貸出し、一般供給は別です。初期顧客だけが利用できる製品もあります。部品、開発ソフト、サポートの入手条件と、継続供給の見通しを確かめます。研究資料に書かれた機能だけを根拠に、顧客へ納期を約束してはいけません。

モデル更新への対応が、一度の導入で終わらない

新しいモデルや演算を使うたびに、変換、調整、再計測が必要になる場合があります。特定ベンダーのソフトへの依存も生じます。更新時に誰が何を直し、どこまで保証するか、別の構成へ戻せるかを決めておく必要があります。

周辺回路や運用費を含めると、改善が薄まる

メモリ内の演算が効率的でも、入力・出力の変換、データ移動、待機、冷却、保守の費用は残ります。研究の演算効率と、買い手が支払う総費用を同じものと考えないことが重要です。比較条件をそろえた上で、採用しない場合の構成も残します。

自社が担う仕事を決めるための確認項目

最初に決めるのは、特定の半導体を使うことではなく、誰のどの仕事を改善するかです。発表を見て関心を持った段階と、顧客へ提供条件を約束する段階を分けて検討します。

自社の提供範囲を選ぶ判断表
判断すること 集める情報 見送り・再検討の条件
顧客の課題 応答の遅さ、電力・発熱、装置の制約と支払者 困っている仕事や支払者が特定できない
技術の適合 モデル、対象演算、数値精度、前後処理 主要な課題が対象演算の外にある
利用できるもの 実機、開発情報、ソフト、サポート、供給条件 提案に必要な機器・情報を入手できない
提供責任 精度、更新、保守、復旧、データの管理 自社と提携先の分担を合意できない
対価と採算 総費用、寿命、稼働、価格への顧客反応 既存構成より顧客価値を改善できない

半導体を設計する資産がなくても、現場のデータ、装置への組込み、モデル調整、信頼できる測定手順が参入の入口になる場合があります。一方、公開ソフトを動かせることだけで量産技術や顧客の導入権限を持つことにはなりません。自社が保有する資産と、足りない資産を分けて整理します。

コンピュートインメモリに関するよくある質問

以下では、意味、既存技術との違い、利用段階、効果、参入方法について整理します。個別製品を採用できるかどうかは、その製品の供給条件と自社の用途を照合して判断します。

Q. コンピュートインメモリとは何ですか?

A. データを保存するメモリの内部やごく近くで計算し、演算器とのデータ移動を減らす半導体技術です。AIの積和演算や類似検索などが対象になります。入力や結果の移動、対象外の処理までなくなるわけではありません。

Q. 高帯域メモリー(HBM)と何が違いますか?

A. 高帯域メモリーは、メモリと演算器の間で一度に運べるデータ量を増やす技術です。コンピュートインメモリは、保存場所と演算の関係を変えてデータ移動を減らします。高帯域メモリーに演算機能を組み込む方式もありますが、通常の高帯域メモリーがすべて対応するわけではありません。

Q. すでに製品として利用できるのですか?

A. 供給製品を公表している企業もあれば、試作・展示・研究段階の技術もあります。d-MatrixはCorsairの本格生産開始を発表し、Axelera AIはMetis等の出荷・導入を説明しています。利用できる機器、対応モデル、開発ソフト、納期と支援条件は個別に確認する必要があります。

Q. AIの消費電力を一律に減らせますか?

A. 一律には減らせません。対象演算の比重、数値精度、入力・出力の変換、通信、周辺回路等で効果が変わります。研究チップの演算効率と、装置・サービス全体の消費電力を分け、同じ要求品質と測定範囲で比較します。

Q. 半導体を開発できない企業にも参入機会はありますか?

A. 供給製品の装置への組込み、モデルの変換・実行最適化、同じ条件での性能評価などが候補です。現場のデータ、開発環境、提携先、保守体制等が必要です。研究回路の共同開発とは必要資産と責任が異なるため、自社が引き受ける仕事を限定して検討します。

まとめ:保存場所と計算を近づけ、顧客の仕事で効果を確かめる

コンピュートインメモリは、AIのデータ移動による制約を改善する技術です。ただし、方式の名称や回路の性能だけで事業価値は決まりません。対象の計算、数値精度、ソフト、周辺機器を合わせ、顧客が求める品質と総費用で判断します。

7事例には、供給製品、サービスの展示デモ、研究チップ、公開評価ソフトが含まれます。その違いを押さえることで、いま使える製品の導入を支えるのか、将来の技術を共同開発するのかを選べます。自社の資産を、買い手、提供物、提携先、対価、見送り条件につなげることが、次の検討の出発点です。

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方式の魅力から先へ進み、対象の処理、要求品質、実機とソフト、更新・保守、顧客の総費用を整理します。自社が担える仕事と事業化に必要な条件をご相談ください。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

d-Matrix、Axelera AI、Samsung、SK hynix、キオクシア、慶應義塾大学・科学技術振興機構、IBM等の公表資料。本文の該当箇所に出典。方式比較、2図、4参入案、5懸念と判断表はイノベーション総研の分析・提案。計算・時間・採算の数値例は架空で、実企業の成果ではありません。

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