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イノベーション会計とは?売上前の進捗を測る3段階と実践例

「面談も試作も進んだ。でも、追加予算を出してよいか分からない」。新規事業の会議で、こうしたやり取りが続いていませんか。

しかし、活動の件数だけでは、顧客に使ってもらえるのか、お金を払ってもらえるのかまでは分かりません。

イノベーション会計とは、まだ売上だけでは評価しにくい新規事業で、顧客への検証を通じて進み具合を確かめる考え方です。「何をしたか」ではなく、「何が分かり、次に何を決められるか」を測ります。

この記事では、基本の3段階、指標の選び方、経営報告の書き方を、一つの設備保全サービスの例で解説します。独自調査では、KPIが判断に機能していた群の15.7%、それ以外の群の9.1%が、黒字・投資回収の目処と社内での自走認知を含む段階に達したと回答しました。

この差を手掛かりに、数字を集めるだけで終わらせない会議の使い方も整理します。

この記事のポイント

  • 売上が出る前も、顧客に確かめた結果をもとに事業の進み具合を判断できる
  • 「現在地を測る→改善を試す→継続・方向転換を決める」の3段階で進める
  • 使う人の反応だけでなく、購入を決める人や導入を承認する部門にも確かめる
  • 報告は「確かめたいこと・試したこと・結果・解釈・次の行動」の5行でまとめる

目次

イノベーション会計とは、売上が出る前の事業の進み具合を測る考え方

イノベーション会計では、「このサービスは使われるか」「この価格で買ってもらえるか」を確かめ、その結果から次の開発や投資を決めます。ただし新規事業では、こうした見込みはまだ仮の考えにすぎません。

そこで、この仮の考えを「仮説」、顧客に話を聞いたり試作品を使ってもらったりして確かめることを「検証」と呼びます。

エリック・リースが提唱するリーンスタートアップの公式原則では、進捗を「検証された学び」で捉えます。ここでいう学びとは、単に知識が増えることではなく、顧客の反応を通じて、事業の見込みを確かめることです。

なお、作り込みすぎる前に顧客へ確かめる進め方は、リーンスタートアップの解説で詳しく紹介しています。

イノベーション総研が重視するのは、分かったことをもとに、次に使う予算と担当者まで決めることです。つまり、「顧客の反応が分かった」で報告を終えず、「だから、次は誰に何を確かめるのか」へ進めます。

これにより、検証の報告を、次の行動を決める材料にできます。

「便利そう」という感想だけでなく、実際に使うかを確かめる

試作品を見せて「便利そう」と言われても、実際の仕事で使ってもらえるとは限りません。「従来の作業を置き換えて繰り返し使った」なら、役立つ場面があると考える材料になります。

さらに「予算を持つ部門が見積もりを依頼した」なら、購入の可能性を具体的に検討できます。ただし、見積もり依頼も契約の確約ではありません。

期待と違う結果にも意味があります。たとえば「現場は使いたいが、費用を負担する部門には良さが伝わっていない」と分かれば、機能を増やす前に、費用に見合う効果を説明し直せます。

うまくいかなかった理由が分かり、次のやり方を変えられたことも、事業を進めるうえでの成果です。

財務会計やKPIとの違いは、検証結果から次の行動まで考えること

財務会計が売上や費用などの取引を記録するのに対し、イノベーション会計は、事業として成り立つ見込みを確かめるために使います。また、KPIは進捗を見るために選ぶ重要な指標です。

イノベーション会計では、KPIを測るだけでなく、「なぜその指標を見るのか」「結果を受けて何を変えるのか」まで考えます。

売上が出る前も、費用の管理は必要です。そのため、顧客の反応と合わせて、使った費用、作業時間、残りの予算を記録します。

そして繰り返し売れるようになったら、売上や粗利、契約の継続率なども重視し、利益を出して続けられるかを確認します。

独自調査で見る、KPIの運用と事業の到達段階

指標を持つこと、定期的に確認すること、判断に使うことは別です。独自調査では、888名に直近案件の目標・指標の運用を尋ねました。

「定期的に確認したが、経営層との認識がずれて判断基準として機能しなかった」が45.5%(404名)で、最も多い回答でした。

新規事業の目標・指標は、判断基準として機能していたか

経営層と合意した指標を定期確認し、判断基準として機能:28.6%(254名)

指標を定期確認したが、経営層との認識がずれて機能せず:45.5%(404名)

定量的な指標は設定したが、実際の判断に活用せず:14.6%(130名)

定性的な目標のみで、数値指標は未設定:7.1%(63名)

明確な目標・指標を設定せず:4.2%(37名)

出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)

この結果を踏まえ、イノベーション総研は、集計する数字を増やす前に、「この数値がどうなれば、誰が、何を決めるか」を合意することを提案します。たとえば、現場は利用率の上昇を「試作を続ける理由」と考え、経営層は「販売を始める根拠」を求めているかもしれません。

確認する数字が同じでも、決めたいことが違えば、話はかみ合いません。

判断に機能した群は15.7%、それ以外は9.1%が自走段階と回答

見るべきなのはKPIの本数ではなく、結果を受けて予算・担当・次の検証が変わったかです。

同じ調査の到達段階と組み合わせると、KPIが経営層との合意のもとで判断に機能した群は15.7%(40名/254名)、それ以外の群は9.1%(58名/634名)が自走段階と回答しました。差は約6.6ポイントです。

「それ以外」には、指標を設定していなかった37名も含めています。

ここでの自走段階は、「単年度黒字または投資回収の目処が立ち、自走する事業として社内で認知されている」という回答区分です。

KPI運用を変えれば到達割合が上がると断定するものではありません。

例えば、利用者が増えても購入条件が未確認なら、「開発費を増やす」ではなく「決裁者へ価格と導入条件を確認する費用だけ認める」と判断できます。

下の設備保全サービスの例では、この限定した継続を具体化します。

イノベーション会計は「測る・改善する・判断する」の3段階

進め方は「いまの状態を測る」「改善策を試す」「続けるか方向を変えるか決める」の3段階です。以下では、工場の設備を点検する順番を提案するサービスを例に説明します。

なお、人数や期間を含め、説明のための架空例です。実際の支援事例や、達成すべき基準を示すものではありません。

1.改善前に、顧客がどのくらい使っているかを測る

改善の前に、どのくらい使われているかを記録します。この比較の出発点を「ベースライン」と呼びます。

この例では、設備保全担当者10名に、点検する順番を示す試作品を紹介しました。その結果、説明会では全員が操作しましたが、その後の2週間に実際の点検計画で自分から再利用した人は2名でした。

「10名が利用した」と報告すると、説明会で触った人と、仕事で再び使った人が混ざってしまいます。そこで「対象10名のうち、説明会後の2週間に実業務で1回以上再利用した人は2名」と記録します。

点検の仕事がなく、試す機会のなかった人がいれば、その理由も残します。

この確認のために、完成品を作る必要はありません。MVP(仮説を確かめるための最小限の製品)の考え方を使えば、簡単な画面や手作業でも試せます。

ただし大切なのは、改善した後にも同じ条件で利用状況を比べられることです。

2.改善策を一つ試し、利用が増えるか確かめる

次は、使われなかった理由を調べ、改善策を一つ試します。例では「なぜこの点検順なのか分からず、計画を変えられない」という声がありました。

そこで、画面に順位の理由を追加します。料金や他の機能は同時に変えず、変更点を絞ります。

同じ10名に続く2週間も使ってもらうと、同じ数え方で6名が再利用しました。2名から6名に増えたことは分かりますが、使い慣れた影響も考えられます。

そのため、画面の変更だけが原因とは言い切れません。二つの期間で点検の機会や担当業務が同じだったかも記録します。

次は初めて使う担当者でも試し、説明の追加が役立つかを確認します。

この段階では、数値の変化と、その理由についての推測を分けて報告します。「再利用は2名から6名に増えた」が結果、「順位の理由が伝わり、使いやすくなったのではないか」が推測です。

このように区別しておけば、次に何を確かめるかも明確になります。

3.検証を続けるか、顧客やサービスを変えるか決める

検証を続けるのか、対象顧客やサービスの内容を変えるのかを、結果をもとに決めます。たとえば、役立つ場面はあるが購入条件が分からないなら、次はその条件を調べます。

そもそも顧客が困っていないと分かったなら、別の顧客や課題を探します。このように事業の中心となる考えを変えることを「ピボット」と呼びます。

設備保全サービスの例では、利用者が増えても、購入を決める責任者や情報システム部門には、まだ確認していません。そこで本格開発は急がず、次の3週間は、初めて使う担当者での再確認と、購入・導入条件の聞き取りに絞ります。

利用者が増えたという結果だけで、「有料でも売れる」とは判断しません。

イノベーション会計では、利用率だけで「売れる」と判断しない

ノートパソコンに表示されたグラフと業績指標のダッシュボード
指標を見るイメージ。実際の運用では、数値と、その数値で判断する内容を対応させます。

利用率だけでは、事業として成り立つかは分かりません。法人向けサービスでは、使う人、購入を決める人、システムの導入を承認する人が異なるためです。

そのため、利用・購入・導入に加え、提供する自社の採算も分けて確認します。次の表は、それぞれで何を確かめればよいかをまとめたものです。

利用・購入・導入・採算を確かめるときに、記録したいこと
確かめること これだけでは判断しにくい記録 さらに確認したいこと
実業務で使う デモの満足度が高かった 従来の作業を何回置き換えたか。使わなかった場面と理由は何か
費用を払って買う 担当者が「導入したい」と言った 購入を決める人が価格や効果を確認し、見積もり・稟議・契約のどこまで進んだか
社内へ導入できる 技術的には動いた データを利用できるか、安全面の審査を通るか、現場の手順に組み込めるか
提供を続けられる 最初の契約を獲得した 顧客への支援にかかる時間や費用を差し引いて、利益を出せるか。継続して使ってもらえそうか

すべての項目を一度に調べる必要はありません。たとえば設備保全サービスのように、利用者が増えても商談が進まないなら、購入や導入の条件を先に確かめます。

つまり、利用率を上げ続けることが、その時点での最優先とは限りません。

割合だけでなく、何人が・いつ・何をしたかを書く

割合は、何人のうち何人かが分かる形で書きます。たとえば「再利用率60%」より「対象10名のうち6名が、2週間に1回以上、実業務で再利用した」の方が、結果を具体的に理解できます。

また、人数が少ない段階では、一人増減しただけで割合が大きく動く点にも注意します。

誰を対象に、いつ、どの行動を数えたかをそろえて比べます。たとえば、説明会での操作を数えた前回と、仕事での再利用を数えた今回では、割合をそのまま比較できません。

また、対象となる顧客の条件や観察期間も確認し、違いがあれば明記します。

指標に迷ったら、今回いちばん確かめたいことから選ぶ

指標が多すぎて迷うときは、「今回、最も確かめたいこと」を一つ決めます。たとえば、試作品が役立つかを知りたいなら再利用する人数、購入の可能性を知りたいなら予算責任者との商談や見積もりの状況が候補です。

事業の段階による選び分けは、新規事業のKPI設計で詳しく解説しています。ただし、費用や安全面など、別途確認が必要な項目を省くという意味ではありません。

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指標はあるのに、判断が進まないときに。

事業と組織の課題を整理し、どの認識のずれから解消するかを検討します。

検証を続けるかは、残る疑問を追加の検証で確かめられるかで決める

まだ分からないことがある場合は、それを追加の検証で確かめられるかを考えます。確かめられるなら、期限と予算を区切って続ける方法があります。

一方、購入の見込みや提供体制まで確認できた場合は、本格開発や販売拡大を検討できます。イノベーション総研では、「継続」を一括りにせず、次の5つに分けて判断することを提案します。

検証後に選ぶ5つの進め方と、会議で決めること
選択肢 選ぶ際に確認すること 会議で決める内容
限定して継続 まだ分からないことがあるが、追加の検証で確かめられそう 次に確かめること、費用と作業時間の上限、担当者、次の判断日
次段階へ進む 本格開発や販売拡大へ進むために必要な、購入・導入・採算の見込みを確認できた 開発や販売を広げる範囲、確認する指標、計画を見直す条件
方向転換する 想定した顧客や使い方には合わないが、別の顧客や用途に可能性がある 対象顧客やサービスのどこを変え、何から試すか
保留する 顧客側の体制などが整わず、今すぐ試しても必要なことを確認できない 再開する条件、その条件を確認する人と日付
中止する 購入や採算の見込みがなく、別の用途や追加の検証も期待しにくい 終了する作業、顧客への対応、残す記録、人員と予算の振り向け先

設備保全サービスの例は「限定して継続」です。つまり、次の3週間で購入・導入条件を調べるのであって、本格開発へ進むと決めたわけではありません。

そして、購入側の条件を満たせないと分かれば、その時点で対象や提供方法の変更も検討します。

追加予算は、次に何を確かめるために使うかを決めてから承認します。また、期間内に確認できなかった場合も、自動的に延長せず、追加で試す理由があるかを確認します。

保留や中止の条件は、新規事業の撤退基準も参考に整理してください。

大企業でイノベーション会計を使うなら、追加予算の条件を先に決める

追加予算を出す条件は、検証が終わってからではなく、始める前に決めます。具体的には、事業担当者が案を作り、予算を承認する責任者と確認してください。

さらに、他部門の協力が必要なら、人員を出す部門や導入を承認する部門にも、必要な作業と条件を相談します。

検証前に、確認すること・予算・担当者・決裁者を決める

検証を始める前の打ち合わせでは、次の4点を決めます。「良い結果なら継続」のような約束ではなく、何を確認し、誰が判断するかまで書いておくと、結果が出てから評価の基準が変わることを防ぎやすくなります。

  • 決めたいこと:試作を続けるのか、本格開発へ進むのかを明記する
  • 確認すること:誰の、どの行動を、いつまでに確かめるかを決める
  • 予算と作業時間:外注費と社内の作業時間に上限を設け、試す範囲を決める
  • 担当者と決裁者:結果をまとめる人と、予算や継続を最終判断する人を決める

設備保全サービスの例なら、「再利用する人が増えた場合は、購入・導入条件の調査まで進める。本格開発の承認は別に行う」と合意します。また、情報システム部門への確認が必要なら、相談先と用意する資料も決めておきます。

具体化すると、「次の3週間に限り、外部への支出30万円と社内の作業20時間を上限に、購入責任者への聞き取りと導入審査の確認を行う」と決めます。これは説明用の架空の条件で、推奨予算ではありません。

30万円に社内作業の費用は含めず、時間と社内の計算単価から別に把握します。

3週間後、購入責任者の賛同は得られても、設備データを外部へ送る許可が取れていなければ、本格開発の前提は残っています。許可の見通しと期限を確認し、送信しない方式へ変えるか、条件が整うまで保留するかを判断します。

賛同者の数を増やしたことだけで予算を自動追加しません。

複数の事業を比べるときは、残りの予算と期間も確認する

複数の新規事業を比べるときは、検証で分かったことだけでなく、利益の見込み、使った費用と時間、残りの予算・期間も確認します。Strategyzerの指標解説も、不確実性、収益性の見込み、学びと時間、費用を合わせて見る考え方を示しています。

イノベーション総研は、顧客の理解が深まった案件でも、提供にかかる費用や運営を担う部門が分からないまま、事業を拡大すべきではないと考えます。逆に、当初の見込みが外れた案件でも、別の有望な顧客が見つかったなら、そこを試す価値は残ります。

「何が分かったか」と「残りの予算で何を確かめられるか」をセットで比べます。

イノベーション会計の経営報告は、検証から次の行動までを5行で書く

経営報告は、「何を確かめたか」「何をしたか」「結果はどうだったか」「どう考えるか」「次に何をするか」の順で書くと、判断までの流れが伝わります。Strategyzerの実験報告の考え方を参考に、イノベーション総研が設備保全サービスの例を5行でまとめました。

設備保全サービスの検証結果を、次の予算判断へつなぐ報告例(架空)
報告する行 そのまま書き換えて使える記入例
1.確かめたいこと(仮説) 点検する順番の理由が分かれば、設備保全担当者は実際の仕事でサービスを再利用するのではないか
2.試したこと(実験) 画面に順位の理由を追加した。同じ担当者10名について、変更の前後それぞれ2週間の利用状況を確認した
3.結果 仕事で1回以上再利用した人は、10名中2名から6名に増えた。利用記録と使わなかった理由は別紙に残した
4.結果をどう考えるか(解釈) 説明を加えたことが役立った可能性がある。ただし、使い慣れた影響も考えられる。購入・導入の条件は、まだ確認していない
5.次にすること(判断) 本格開発へは進めず、次の3週間を追加の検証に使う。事業責任者が、初めて使う担当者での再確認と、予算責任者・情報システム部門への聞き取りを行う。3週間後の会議で、次の進め方を決める

4行目では、確認できたことと未確認のことを分けます。そして5行目では、次に行う作業を決めます。

実際に使う際は、5行目に承認された費用・作業時間の上限と、次回の判断日も書き加えてください。

報告の最後には、「次にすること・担当者・期限」を残します。あわせて、利用記録や顧客の発言など、根拠資料へのリンクも添えておくと、関係者が後から確認できます。

そして次回の会議は、前回決めた作業を実施したか、何が新たに分かったかから始めましょう。

技術検証を終えた後の受入部門や購入条件は、PoCから事業化へ進むための設計で詳しく扱っています。イノベーション会計の報告は、その判断に必要な結果と残る条件を共有するために使います。

イノベーション会計を形だけにしないために、避けたい5つの運用

記録の形式を整えても、評価の仕方や会議の進め方が変わらなければ、報告の負担だけが増えてしまいます。特に避けたいのが、次の5つです。

それぞれ、起こる問題と直し方を確認してください。

1.段階が違う事業を、同じ売上目標で評価する

顧客の困りごとを探している事業と、販売を拡大している事業では、確認すべきことが違います。どちらにも同じ売上目標を課すと、初期の担当者は顧客を調べるより、根拠の薄い売上予測を作ることに時間を使いかねません。

まず各事業の報告に、「いまの段階」と「次に決めたいこと」を書きます。ただし、報告の形式は共通にしても、見る指標まで同じにする必要はありません。

たとえば、顧客を探す段階なら困りごとの具体性、販売を始めた段階なら購入や継続の状況を確かめます。

2.面談や試作の件数だけで、事業が進んだと判断する

面談20件、試作3件と報告しても、事業の見込みがどこまで分かったかは伝わりません。実際、好意的な相手に同じ説明を繰り返すだけでも、件数は増やせてしまいます。

そのため件数は、予定どおり活動できているかを確認するために使います。

件数の次に「今回分かったこと」と「次に変えること」を一文ずつ加えます。書けない場合は、面談を増やす前に、聞く相手と質問を見直しましょう。

たとえば「導入したいという声は多いが、予算を持つ人には聞けていない。次はその人に価格と購入条件を確認する」と書けば、次の仕事が明確になります。

3.良い結果に見せるため、集計する対象を後から変える

使わなかった人を集計から外すと、見かけの利用率は上がります。しかし、それでは最初に確かめたかったことに答えられません。

目標達成だけで担当者を評価すると、不都合な結果を報告しにくくなる点にも注意が必要です。

誰を対象に、いつ、何を数えるかは、検証前に記録します。もし新しい事情が分かって変更する場合も、元の条件を消さず、変更の理由・承認者・日付を残します。

また、期待どおりでなかった結果も、原因を調べて次の改善に生かしたなら、担当者の仕事として評価します。

4.結果が出ているのに、続けるかどうかを年度末まで決めない

年度末まで判断を待つと、顧客が使わないと分かった後も、予算があるという理由で開発を続けてしまうことがあります。反対に、次の検証へ進める案件が、決裁待ちで止まる場合もあります。

結果を確認する会議の日は、検証を始めるときに決めます。たとえば、毎週使うサービスなら数週間後、購入手続きに時間がかかるサービスなら、その進み具合を確認できる時期が候補です。

そして会議では、継続の可否だけでなく、次に確かめることと使える予算を決めます。

5.記録を担当者しか見られない場所に置く

議事録や利用記録が担当者の個人フォルダにしかないと、他部門が同じ情報を確認できません。担当者の異動や事業の中止で資料の場所が分からなくなれば、別のチームが同じ調査をやり直すことにもなります。

5行の報告と根拠資料は、関係者が確認できる場所にまとめます。特に、どんな顧客に話を聞いたか、何が期待と違ったか、導入にはどんな条件があるかを残してください。

個人情報や秘密情報は、見られる人を制限します。イノベーション総研は、事業を中止する判断と、そこで得た知見を残す判断は分けることを提案します。

よくある質問|イノベーション会計の始め方

初めて取り入れる際に迷いやすい点を、短くまとめました。

Q. イノベーション会計はスタートアップだけのものですか

A. いいえ。大企業の新規事業や研究開発にも使えます。顧客に使ってもらえるか、購入してもらえるかがまだ分からない段階で、何を確かめるかを整理します。大企業では、結果に応じて追加予算を出す条件や、誰が承認するかも先に決めてください。

Q. 売上が出ていない場合は何をKPIにしますか

A. いま最も確かめたいことに合う指標を選びます。試作品が役立つかを知りたいなら、仕事で繰り返し使った人数が候補です。購入の可能性を知りたいなら、予算責任者との商談や見積もりの状況を確認します。利用者の好反応だけで、購入まで見込まないようにします。

Q. イノベーション会計の数値は毎週更新すべきですか

A. 必ず毎週更新する必要はありません。顧客が使う周期や購入手続きに合わせ、変化を確認できる時期に更新します。結果を話し合う会議の日は、検証を始める前に決めておきましょう。

Q. イノベーション会計とKPI管理は何が違いますか

A. KPIは、進捗を見るために選ぶ重要な指標です。イノベーション会計では、その指標を測る理由と、結果に応じて次に何をするかまで考えます。数字の一覧を作るだけでなく、検証結果を開発や予算の判断に使います。

Q. イノベーション会計で撤退を決められますか

A. 撤退を自動で決めるものではありません。責任者が判断するために、事前に決めた条件、検証で分かったこと、まだ分からないこと、残りの予算と期間を整理します。追加で確かめる価値があるかも確認し、続ける・変える・保留する・中止するなどを決めます。

まとめ|まず「次の会議で何を決めたいか」を一文で書く

まずは進行中の事業を一つ選び、「次の会議で何を決めたいか」を一文で書いてみてください。次に、判断するためにまだ分からないことと、それを確かめる方法を整理します。

大きな管理システムを先に導入する必要はありません。

検証が終わったら、結果と自分たちの解釈を分け、次の作業・担当者・期限まで決めます。この流れを繰り返すことが、活動の報告を、事業を前へ進める判断に変える第一歩です。

自分たちで整理するには、冒頭の「PoC事業化判断キット」を使い、今回決めたいことと未確認の条件を一枚にまとめてください。何が原因で判断が止まっているのかを整理したい場合は、新規事業の診断・分析サービス Compassも活用できます。

顧客への確認が足りないのか、社内の認識がずれているのかを分け、先に取り組む課題を検討します。

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まず今回の判断と未確認事項を一枚へ。事業・組織の課題から整理する支援もご案内します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

The Lean Startup公式原則、Strategyzerの実験報告・指標解説。参照箇所に出典を記載しています。

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