投稿日:2026.10.08 最終更新日:2026.10.08
日本ペイント、アクゾノーベルの建築用塗料事業を約2,160億円で買収へ
ニュースの要点
日本ペイントホールディングスは2026年10月5日、オランダの塗料大手アクゾノーベルが持つ東南アジアなどの建築用塗料事業を取得すると発表しました。グループ子会社が10月3日に契約を締結しており、取得価額の総額は13億5,000万米ドル、会社の換算で約2,160億円です。
対象はベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、豪州、パプアニューギニアの7カ国です。各国の会社の株式を取得する方法と、事業を譲り受ける方法を組み合わせます。日本ペイントは、現地の販売網や製造基盤を組み合わせ、建築用塗料の競争力を高める方針です。
最終的な買収完了は2027年半ばを見込んでいます。独立した取引であるインドネシアは、先行して2026年末に完了する見込みです。各国の規制当局の承認などが必要で、発表時点で全事業の取得が完了したわけではありません。資金は銀行借入と手元資金で賄い、新株発行は予定していません。
ニュース出典: 日本ペイントホールディングス/原題「アクゾノーベル社の東南アジア建築用塗料事業の買収について」/公開日2026年10月5日/公式発表、発表資料
イノベーション総研の考察
今回の買収は、全く知らない市場へ一から参入するものではありません。日本ペイントが既に事業を持つ地域で、別のブランドや販売経路を加える取り組みです。新規事業の担当者の方にとって参考になるのは、何を新しく作るかだけでなく、既存の基盤に何を加えれば成長を早められるか、という判断です。
新しい地域を開拓するより、既存の販売基盤を厚くする買収
建築用塗料は、住宅や建物に使う塗料です。今回の説明会資料では、小規模店や大型店を通じた販売と、開発事業者・施工業者への直接販売という二つの経路が示されています。同じ塗料でも、店頭で選ぶ顧客と、建設案件に合わせて購入する顧客では、商品の届け方が異なります。
日本ペイントは、NIPSEAグループを通じて東南アジアに販売・供給の基盤を持っています。そこへ、買収対象のブランドや販売網を加える方針です。資料は、この買収を、既存事業に近い事業を付け足して強化する「ボルトオン型」と位置付けています。
今回の買収の狙いは、未知の市場へ飛び込むことより、既に持つ販売・供給の基盤で扱える顧客と商品を増やすことです。
自社に置き換えると、買収候補の売上だけでなく、自社に足りない顧客層、販売経路、商品を埋められるかを確認する見方が参考になります。既存の顧客へ追加販売できるのか、相手の顧客へ自社商品を届けられるのかを分ければ、成長を期待する理由が具体的になります。ただし、両社の商品を扱うようになっても、販売店が実際に受け入れるかは別に確かめる必要があります。
買収価格を、統合後に増える利益から考える
対象事業の2025年の売上収益は2億9,100万米ドルでした。2024年の2億9,900万米ドルから減少しています。営業利益に減価償却費などを足した収益指標であるEBITDAも、同じ期間に6,900万米ドルから6,500万米ドルへ減っています。既存事業を買えば、直ちに成長が保証されるという数字ではありません。
これに対し、会社は2026年の対象事業の収益改善を予想し、買収後は調達、生産、物流、販売などを組み合わせる方針です。今ある事業の利益に、重複費用の削減や追加販売による改善を加えることで、買収価格に見合う収益を得ようとしています。これらは会社の計画であり、まだ実現した成果ではありません。
買収価格の妥当性は、相手の現在の売上だけでなく、統合で増やせる利益と、そのために必要な費用を分けて判断します。
新規事業の投資判断でも、買収しなくても得られる利益と、自社が関わることで初めて増える利益を混ぜないことが重要です。後者には、共同調達や追加販売といった理由が必要になります。一方、商品を統一する費用、販売店への説明、システムの切り替えなどが増えれば、想定した改善は小さくなる可能性があります。
会社は、買収から3年目までに、投じた資金に対する収益性が資金調達の負担を上回る見通しを示しています。投資収益率と資本コストを比べる考え方です。この目標には、統合を進める期限も含まれます。外部から買収を評価する場合は、目標の表明と、実際の利益・費用の推移を分けて追う必要があります。
切り離す事業では、顧客への供給を止めない移行が必要
今回は、売り手の全事業を買うのではなく、一部の地域・事業を切り出して取得します。会社を丸ごと引き継ぐ場合と違い、従来の調達、情報システム、物流などから、対象事業だけを独立させる工程が必要になることがあります。資料でも、事業の切り出し手続きを買収完了の条件の一つに挙げています。
日本ペイントは、移行期間のサービス契約を活用し、主要拠点や人員を維持する方針です。統合の途中でも、顧客が商品を買える状態を保つ考え方と読めます。ただし、契約の具体的な範囲、期間、移行費用は今回の資料では明らかではありません。
事業を切り出して買う場合は、買収後の効率化に先立ち、顧客への供給を続ける移行体制を確保する必要があります。
担当者の方が事業譲受や提携によるサービス移管を検討する際にも、初日から使える機能と、後から切り替える機能を分けると、実行上の問題を見つけやすくなります。売り手に一時的に依存する仕事、その終了期限、代わりの運営主体を整理しておくことが参考になります。
今後は、インドネシアとその他地域の取得完了、顧客への供給の継続、統合費用と利益改善を確認します。規制当局の承認や事業の切り出しが遅れれば、収益を得る時期も変わります。買収額の大きさだけでなく、予定した順序で移行できるかが、事業の成果を見極める観測点になります。
まとめ
日本ペイントの買収は、既存の地域基盤にブランドや販売経路を加え、成長を早めようとする事例です。自社への示唆は、取得する資産、自社との組み合わせで増える利益、供給を守る移行計画を分けて考えることです。契約の発表を成果とせず、取得完了とその後の統合を追う必要があります。
執筆:イノベーション総合研究所
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