投稿日:2026.09.29 最終更新日:2026.09.29
サムスンら、ハナ金融の新本社に金融業務向け専用5G網を構築
ニュースの要点
サムスン電子は2026年9月28日、SKテレコム、ハナ金融グループと協力し、韓国・仁川のハナ金融の新本社に、金融業務向けのプライベート5G網を構築したと発表しました。プライベート5Gは、特定の組織や施設が専用に使う携帯通信ネットワークです。
新本社の16フロアで、複数のグループ会社と数千人の従業員が利用する環境を整備しました。サムスンが通信機器を提供し、SKテレコムが企業向けネットワークに関わります。金融機関に求められる安全性を保ちながら、パソコンやタブレットなどの端末で業務を行える場所を広げる狙いです。
ニュース出典:Samsung Newsroom「Samsung, SK Telecom, and Hana Financial Group Build Korea’s First Private 5G Smart Office in the Financial Sector」(2026-09-28)。発表原文
イノベーション総研の考察
新しい通信技術を事業にする際、速度や接続台数だけを説明しても、顧客が既存設備を変える理由にはなりません。今回の導入は、金融機関の情報管理という制約から、専用ネットワークの用途を絞り込んだ事例として読めます。
ハナ金融は会社別の管理を保ち、働ける場所を広げる
金融業務では顧客の個人情報や取引情報を扱うため、誰が、どの端末から、どの情報へ接続できるかを管理します。サムスンの発表は、韓国の金融機関にはネットワーク分離の要件があり、通常の無線接続を広げにくかったと説明しています。これは韓国の事例であり、日本の制度が同じだという意味ではありません。
今回の網では、一つの設備上で通信を論理的に分ける「ネットワークスライシング」を使い、各子会社が自社の方針に応じた環境を持てるようにしました。共通の本社へ集まっても会社別の管理を維持できることが、複数社・数千人で使うための条件になっています。
発表は、暗号化や不正通信対策、USIMによる認証などを挙げています。ただし、専用5Gを導入したという事実だけで、あらゆる情報漏えいを防げるわけではありません。端末管理や利用権限を含めた運用が必要です。
専用5Gの価値は、通信の速さより、金融業務の管理条件を保ったまま働ける場所を増やすことにあります。
提供側は、通信品質の説明を、会議室への移動や部署間の共同作業といった具体的な利用場面につなげる必要があります。
新本社での一括導入と、既存支店の置き換えは採算が違う
今回の場所は新本社です。建物や端末の整備と同時にネットワークを計画する場合、既存設備を動かしたまま段階的に置き換える場合とは、費用も作業の順序も異なります。新本社で構築できたことは重要ですが、そのまま既存支店でも経済的に成立するとは限りません。
既存拠点では、有線網や別の無線網が残り、複数の環境を並行して管理する期間が生まれます。支店ごとに利用人数や建物の条件も違います。導入側が求めるのは新しい設備の追加ではなく、仕事を止めずに切り替えられることです。
新築での導入実績を横展開するには、既存設備から移るための費用と手順を別に商品化する必要があります。
新規事業として狙う市場も、まず新設拠点に絞るのか、移行支援まで含めて既存拠点へ広げるのかで変わります。
サムスン・SKテレコム・金融側の境界に保守の負担が生まれる
今回の組み合わせには、通信機器を供給する企業、ネットワークを扱う通信会社、金融業務を運営する利用者がいます。各社の得意分野を合わせられる一方、障害や設定変更が起きたときに、誰がどこまで対応するかという接点が増えます。
例えば、新しい端末がつながらない場合、電波の問題なのか、認証設定なのか、業務システムの制限なのかを切り分ける必要があります。利用者が複数の窓口へ問い合わせなければならないなら、業務の自由度が増えても運用負担は大きくなります。
複数社でつくるネットワーク事業では、導入時の役割分担だけでなく、障害と変更の窓口を一つのサービスとして設計することが重要です。
発表では詳細な責任分担や保守費用は確認できません。提供範囲を評価する際に追加確認したい部分です。
ハナ金融で減った作業と維持費が、次の販売先を決める
担当者の方が通信網の導入効果を確かめる際、次に知りたいのは、どの仕事が変わったかです。移動後の接続準備、会議室の使い方、レイアウト変更、端末設定など、業務ごとに導入前後を比べると、便益の所在が分かります。今回の発表には、その定量結果は示されていません。
費用も機器代だけでなく、保守、認証管理、端末対応、既存網との二重運用という継続的な負担を含める必要があります。安全性の要件を満たす別の方法と比較してこそ、専用5Gを選ぶ理由を説明できます。
横展開の根拠にすべきなのは「先進的な拠点ができた」ことではなく、改善した業務と追加費用の釣り合いです。
技術を提供する企業にとっても、顧客の制約と改善対象を一つずつ対応させることが、次の市場を見つける出発点になります。
まとめ
ハナ金融の導入事例は、専用5Gを金融業務の安全性と働き方の両立へ使う取り組みです。新規事業の視点では、技術の性能を売るのではなく、顧客固有の制約を解く用途に絞った点が参考になります。次に見るべきは、実際に減った作業と、運用を含む費用です。
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執筆:イノベーション総合研究所
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