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家事代行は暮らしのインフラになるか?主要9社と新規事業の勝ち筋

家事代行は、掃除や料理を代わりにするだけのサービスなのか。
人を集め、予約アプリをつくれば事業になるのか。

結論は、利用者の希望、訪問、品質、鍵・補償を一つの運用へつなげられるかで決まります。市場、国内外9社、4つの事業機会から判断材料を整理します。

この記事の結論

家事代行の価値は、作業そのものより、暮らしへ継続的に入る運用にあります。

  • 家政婦・ハウスクリーニングとの違いと市場の広がりを整理します。
  • 国内外9社が、顧客、スタッフ、品質、鍵・補償をどうつないでいるかを解説します。
  • 4つの参入方法と、参入・提携・待機・見送りの条件を示します。

目次

家事代行とは?家政婦・ハウスクリーニングとの違い

家事代行とは、利用者の自宅で、掃除、洗濯、料理、買い物などの日常的な家事を代わりに行うサービスです。道具や洗剤は原則として利用者宅のものを使い、決められた時間の中で複数の家事を組み合わせます。

似たサービスに家政婦とハウスクリーニングがあります。境目は企業や契約によって異なりますが、選ぶ側にも、事業をつくる側にも、次の分け方が分かりやすいでしょう。

サービス 主な契約・提供方法 得意な仕事 事業設計で重い機能
家事代行 会社とのサービス契約、仲介を通じた個人との契約など 日常の掃除、洗濯、料理、買い物 人材確保、研修、予約、代替手配、補償
家政婦 紹介所を介した個人契約など 継続的で幅の広い生活支援 相性、勤務条件、契約管理
ハウスクリーニング 事業会社への作業発注 エアコン、水回りなど専門清掃 専用機材、専門技能、作業別の見積もり

家事代行は「家をきれいにする」だけの事業ではありません。むしろ、時間内に何を優先するかを相談し、同じ品質で繰り返し、担当者が休んだときは代わりを手配するといった、生活へ継続的に入る運用までが商品です。

ただし、代替スタッフの手配や再作業は、すべての家事代行に共通する保証ではありません。サービス名だけでなく、契約相手と、会社が引き受ける運用の範囲を確認します。

家政婦紹介を通じた雇用と、事業者へのサービス発注も区別し、指示、費用、事故時の窓口を契約に合わせて決めます。

家事代行の市場は、なぜ広がっているのか

国内市場は、共働き、高齢単身世帯、仕事と育児・介護の両立を背景に拡大してきました。ただし、需要があるだけでは普及しません。

料金、他人を家へ入れる不安、サービスを担う人の不足が、利用の壁として残ります。

経済産業省の令和4年度委託調査報告書(家事サービス業、66〜67頁)では、2021年度の売上高は約807億円と推計されています。2012年度の約130億円に対して約6.2倍です。

帝国データバンクの企業概要データベース「COSMOS2」を基にした推計で、2026年現在の市場規模や、国内の家事代行取引をすべて実測した総額ではありません。

国内家事サービス業の市場規模と企業数・従業者数
図1|2012〜2021年度の推計の比較。売上高807億円、企業数190社、従業者3,538人は同資料の推計対象内の値で、現在の市場や全就業者の実数ではありません。COSMOS2を基にした経済産業省委託調査よりイノベーション総研作成。訪問密度等の点検は当研究所の提案です。

数字を見るときは、売上の伸びと供給力を分けて考える必要があります。というのも、家事代行は現場へ人が移動するため、予約が増えてもスタッフと訪問経路が足りなければ売上にならないからです。

そのため、アプリの利用者数だけでは、事業の強さを測れないのです。

個人以外の支払者を考える材料として、経済産業省の福利厚生導入に関する公表資料(16頁)があります。導入企業の66.1%が、人手不足の解決に「つながると感じる」「まあつながると感じる」と回答しました。

これは企業の期待・認識を尋ねた結果で、人手不足が解消した企業の割合や、離職者が減った割合ではありません。

法人向けに提案するなら、この期待を、実際に検証できる項目へ変えます。対象者のうち予約できた人数、継続利用、仕事と家庭の両立負担を導入前後で確認し、離職率を見る場合は人員構成や他の制度変更も記録します。

利用者だけの満足度と、企業全体の効果を分けることが重要です。

また、厚生労働省の介護関係の法改正案内では、2025年4月から雇用環境整備や、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認などが義務化されています。家事代行の費用補助を義務づけた改正ではありません。

家事・生活支援は、法定の休業制度や相談体制を整えたうえで検討する追加施策と位置づけます。

暮らしのアウトソーシングを支える4つの層

家事代行の競争は、利用者とスタッフを見つけるだけでは終わりません。むしろ、予約、移動、研修、鍵、補償、法人請求などがつながって、初めて継続利用できます。

そこで、事業構造は四つの層に分けると見通せます。

家事代行ビジネスを支える4つの層
図2|4層はイノベーション総研による事業設計上の整理です。各機能を自社で保有することを求めるものではなく、提携する場合も担当と引き継ぎを決めます。

顧客接点は、個人向け広告だけではない

個人が検索して予約するB2Cは分かりやすい入口です。しかし、広告費が上がると、一度の利用で獲得費を回収しにくくなります。

企業の福利厚生、自治体の産前産後支援、マンションの入居者サービス、保険・介護の周辺支援なら、まとまった利用者へ届きます。

誰に売るかだけでなく、誰が料金を払うかを分けて設計することが重要です。利用者、勤務先、健康保険組合、不動産会社、自治体が分担すれば、個人の負担を抑えながら継続利用をつくれます。

需給と訪問管理では、移動を含めた採算を見る

同じ2時間の依頼でも、次の訪問先まで10分かかる場合と50分かかる場合では、スタッフの実質的な時給も事業者の粗利も変わります。予約システムの役割は空きを表示することではなく、移動、技能、希望時間、相性、代替要員を組み合わせることです。

利用者を広い地域で少しずつ集めるより、同じマンションや駅圏に集中した方が効率は高まります。家事代行は、全国の会員数より「一つの生活圏で予約を連続させられるか」が強さになる事業です。

現場品質は、研修と例外対応で決まる

掃除の仕上がりだけが品質ではありません。たとえば、触れてはいけない物、使える洗剤、料理のアレルギー、ペット、在宅勤務中の動線など、家庭ごとに条件が違います。

そのため、標準手順と個別条件の両方を扱う必要があります。

スタッフの評価を公開するだけでは、事故を防げません。採用時の確認、研修、作業記録、相談窓口、代替手配までを一つの運用にすると、担当者個人への依存を減らせます。

信頼インフラは、鍵・補償・データを扱う

利用者が最も不安を感じやすいのは、不在時の入室、破損、盗難、個人情報です。家事代行サービス認証も、安全・安心、サービス品質、接遇の三つから事業者を評価しています。

スマートロックは鍵の受け渡しを減らせますが、機器を付けただけでは十分ではありません。たとえば、誰が、いつ、どの目的で入室したか、誤解錠や通信障害が起きたら誰が対応するか、保険の対象外は何かを決めておく必要があります。

つまり、デジタルと現場の責任をつなぐ設計が必要です。

家事代行の主要企業9社は、何をしているのか

企業を比べるときは、料金だけでなく、誰を顧客にし、スタッフをどう組織しているかを見ます。国内の主要サービスと、住宅・ヘルスケアへ広げた海外企業を合わせて九社整理します。

企業・サービス 主な型 取り組みの中心 新規事業で見る点
ベアーズ マネージド型 家事、育児、高齢者支援、法人福利厚生 法人が利用料を補助する販売網
ダスキン メリーメイド 店舗網・標準化型 全国店舗、家事代行認証、清掃ノウハウ 加盟店を含む品質管理
CaSy テクノロジー型 自動マッチング、需要予測、法人向け 現場データを需給へ戻す仕組み
タスカジ 個人間マッチング型 プロフィール、レビュー、料理・整理収納 得意分野を価格と指名へ反映
くらしのマーケット 多カテゴリ市場型 450種類超、料金・口コミ比較、補償 家の困りごとの入口を横断保有
ニチイライフ 介護隣接型 家事、育児、自費介護を全国で提供 介護前後の連続した生活支援
ピナイ家事代行サービス 専門人材型 フィリピン人スタッフの雇用、社内教育、特区制度 人材供給と専門性を一体化
Papa 保険・雇用主組込型 高齢者の家事、移動、交流、受診支援 利用者以外を支払者にする設計
Urban Company 垂直統合型 研修、資材、アプリ、社会保障への接続 研修・支援の投入と、品質・定着の結果を分けて見る

一覧だけでは違いが伝わりにくいため、各社が解いている問題を一つずつ見ていきます。

この分類は各社の主要な機能を比べるための整理で、優劣や成功率のランキングではありません。会社が複数の提供形態を持つ場合もあり、導入数・利用件数・人材育成への投資は、それぞれ異なる指標として読みます。

ベアーズは、家事代行を企業の福利厚生へ広げる

ベアーズは、家事代行、ハウスクリーニング、ベビーシッター、高齢者支援などを展開しています。同社の法人向けページでは、福利厚生の累計導入実績を850社以上とし、定額または定率で企業が利用料を補助する仕組みを示しています。

注目点は、使う従業員と補助する企業を分け、従業員が直接予約できるようにしたことです。850社以上は福利厚生の累計導入規模で、継続契約数や離職率改善の証明ではありません。

新規参入では、人事部の日々の手配を増やさずに、利用条件、補助額、請求を管理できるかが参考になります。

ダスキンは、店舗網と認証で品質をそろえる

ダスキンのメリーメイドは、掃除や日常家事を全国の店舗から提供します。公式ページによると、2026年3月時点で全国799店舗が家事代行サービス認証を取得しています。

同ページは2025年度の年間サービス実績を98万件以上としています。繰り返し利用を含むサービス件数で、98万世帯という意味ではありません。

認証店舗数は標準化の広がり、利用件数は提供規模を示すものとして読み、満足度や事故率の改善とは分けて確認します。

店舗網は地域への到達力になりますが、店ごとの品質差がブランド全体へ影響します。そのため、標準手順、研修、認証、相談窓口をそろえる必要があります。

この事例は、フランチャイズや地域事業者との連携では、販売網より先に「同じ約束をどう守るか」を設計すべきだと示しています。

CaSyは、人の調整をシステムへ移す

CaSyは家事代行とハウスクリーニングに加え、法人向けの福利厚生やオフィス清掃を提供しています。同社の技術説明では、自社開発のマッチングシステムで利用者とキャストをつなぎ、利用実績データから需要と供給を予測するとしています。

家事代行では、電話やメールで候補者を探し、条件を確認し、予定を組み直す調整にも時間がかかります。CaSyの技術説明は、この割り当てをデータで支える設計を示しています。

ただし、マッチング率100%は目標として記載されており、達成済みの実績ではありません。自社では、調整時間、希望枠の成立率、変更後の再手配まで測ります。

また、2020年6月9日のビットキーの発表では、CaSyとのAPI連携により、スタッフへ時間限定のデジタルキーを発行する取り組みが紹介されています。当時の連携事例であり、現在の全地域・全プランへの適用を示すものではありません。

不在時利用では、予約、本人確認、解錠権限、入退室記録をどうつなぐかが参考になります。

タスカジは、家事の得意を指名できる形にする

タスカジは、家事を頼みたい人とハウスキーパーが個人間で契約するマッチングサービスです。公式サイトでは、掃除、料理、整理収納、洗濯などを扱い、プロフィールとレビューから依頼先を選べます。

料理の作り置き、整理収納、掃除では、必要な技能も相性も違います。タスカジは「家事全般ができる人」と一括りにせず、得意分野を見えるようにしました。

一方、個人間契約では、補償範囲、キャンセル、鍵、禁止作業を利用前に理解できる設計が欠かせません。選択肢を増やすほど、契約条件を分かりやすくする必要があります。

たとえばタスカジの公式FAQは、鍵の紛失後に第三者が侵入した場合などの二次的な損害を、損害賠償保険の対象外として説明しています。「保険あり」で判断を終えず、鍵の保管・返却、紛失時の連絡と交換の負担まで確かめる必要があります。

くらしのマーケットは、家の困りごとの入口を持つ

くらしのマーケットは、家事代行だけでなく、ハウスクリーニング、修理、引っ越しなどを横断する市場です。公式FAQでは450種類以上のカテゴリから、料金、口コミ、対応地域などで店舗を探せると説明しています。

450種類以上はサイト全体のカテゴリ数で、家事代行だけのサービス数ではありません。別カテゴリへ依頼を広げる場合も、作業ごとの契約内容と必要な許認可、補償の条件は個別に確認します。

家事代行の利用者が、エアコン清掃、家具の組み立て、不用品回収も必要とすることがあります。カテゴリを横断して顧客接点を持つと、一つの依頼から別の生活課題へ広げられます。

ただし、出店者ごとの品質差は残るため、補償制度、カテゴリルール、口コミの運用が市場の信頼を支えます。

ニチイライフは、家事と介護の間をつなぐ

ニチイライフは、掃除や洗濯、料理だけでなく、育児、自費介護、外出の付き添い、見守りを扱います。公式サイトでは、全国47都道府県の78支店で提供し、依頼時間内なら複数のサービスを組み合わせられるとしています。

全国に拠点があっても、希望地域・時間・作業の組み合わせで予約できるとは限りません。同社の対応エリア案内も、条件によって利用できない場合を示しています。

事業計画では拠点数と、対象顧客が実際に予約できる枠を分けて把握します。

高齢者の生活課題は、掃除だけ、移動だけと分かれていません。しかも、公的介護保険の対象外となる家事や外出支援もあります。

そのため、介護事業の人材育成や拠点を持つ企業は、家事代行を単独サービスにせず、介護前から介護中までの生活支援として設計できます。

ピナイは、外国人材を専門サービスとして組織する

ピナイ家事代行サービスは、フィリピン人スタッフに特化しています。運営会社の説明では、2017年に東京都と神奈川県から国家戦略特区の家事支援外国人材受入事業者として認定され、2025年8月時点で家事代行スタッフ173人としています。

173人は2025年8月時点の人数です。同社の会社概要は、2025年12月に大阪府・兵庫県でのサービス開始も記載しています。

公式サイトの運営・安全の説明では、清掃スタッフを雇用し、社内教育を行う形を示しており、採用だけでなく、家庭内での作業と情報管理を会社がどう支えるかが参考になります。

この例で使われているのは、国家戦略特区の家事支援外国人材受入制度です。外国人材の採用を検討する際は、特定技能など別制度の条件をそのまま当てはめず、対象地域、在留資格、雇用条件、受入事業者の要件を所管窓口で確認します。

Papaは、健康保険と雇用主を支払者にする

米国のPapaは、高齢者や家族に、家事、買い物、移動、交流、デジタル利用支援などを提供します。公式サイトでは、Medicare Advantage、Medicaid、雇用主のプランを通じて利用できるほか、個人が直接支払う選択肢も案内しています。

この事例で参考になるのは、非医療の生活支援を、米国の保険プランや雇用主の支援に組み込む契約構造です。通院や日常生活を支える狙いと、医療費・入院・孤立が実際に改善した結果は分けて読みます。

日本で同じサービスが保険給付になるとは限らないため、まず国内で費用を負担する相手と契約範囲を確かめます。

Urban Companyは、ワーカー支援を品質管理に変える

インド発のUrban Companyは、清掃、美容、修理などの訪問サービスを展開し、研修とアプリを組み合わせています。同社の公式資料では、2024年4〜12月の9か月に、サービス提供者の研修と技能向上へ約260万時間を投じたとしています。

約260万時間は研修・技能向上への投入量です。参加者一人当たりの技能がどれだけ上がったか、事故や離職がどれだけ減ったかを示す指標ではありません。

自社では研修時間と、研修後の再作業、相談、継続稼働の状況を分けて記録します。

2026年3月2日のUrban Companyと国際労働機関の発表は、インドの社会保障関連制度への接続に用いるe-Shram登録を、研修とアプリで支援するとしています。当時、サービス提供者5万9,000人の20%が登録済みで、全員の登録を目指す計画です。

登録支援を、全員の加入完了や定着率改善の実績とは扱いません。

企業事例から考える、家事代行の4つの事業設計

継続利用と採算を考える際は、指示の負担、訪問密度、支払者、働く条件を合わせて見ます。以下の四つは企業事例を参考にした当研究所の提案で、成功要因を統計的に特定したものではありません。

料金ではなく、指示の手間まで減らす

安いサービスでも、毎回細かく指示し、作業後に確認とやり直しが必要なら、利用者の負担は残ります。初回の希望を記録し、次回へ引き継ぎ、担当者が変わっても同じ水準で対応できることが継続理由になります。

AIを使うなら、会話を派手にするより、依頼内容の整理、作業手順の提案、注意事項の引き継ぎ、終了報告の要約へ使う方が実務的です。AIエージェントの新規事業で示したように、自動化する範囲と人が承認する範囲を先に分けます。

広域展開より、訪問密度を上げる

訪問型サービスでは、移動時間が売上を生まない時間になります。同じ建物、同じ駅、同じ法人の従業員へ予約を集中させれば、移動を短くし、急な欠員にも対応しやすくなります。

エリアを広げる指標より、連続訪問率、移動時間、希望枠の充足率、代替手配率を見るべきです。家事代行のブランドは広告で全国へ広げられても、現場の供給は生活圏ごとにつくらなければなりません。

個人以外の支払者を持つ

福利厚生、自治体、住宅、保険と組むと、個人の負担を抑えられます。ただし、支払者が増えると、利用者の満足だけでは契約を更新できません。

企業には離職防止や利用率、不動産会社には入居者満足や解約抑止、保険者には健康行動への接続を説明する必要があります。

大切なのは、効果を大きく言うことではなく、誰のどの費用や損失を減らすのかを定義することです。家事代行の利用回数だけを成果にすると、利用を増やすほど良いという誤った運用になりかねません。

スタッフが継続して働ける条件を整える

採用した人数だけでは供給力になりません。得意作業、対応エリア、勤務可能時間、研修、評価、事故対応を組み合わせて、継続して働ける状態をつくる必要があります。

報酬だけでなく、移動の短縮、キャンセル補償、相談窓口、技能認定、道具、保険が定着に影響します。新規参入企業がアプリだけを提供し、現場の負担を事業者へ残すと、需要が伸びた時ほど供給が崩れます。

家事代行事業を4つの判断に分ける

参入:顧客群、供給、事故対応を自社で管理できる

法人、住宅、介護などの既存顧客と、地域単位の訪問密度を起点にします。

提携:顧客接点はあるが、現場人材や補償が足りない

家事代行会社、鍵、保険、決済、介護・緊急対応との責任分界を決めます。

待機:スタッフや補償の範囲を確認できていない

販売を先行させず、提供地域、禁止作業、代替要員、情報管理を整えます。

見送り:安い人材やアプリだけで成立すると考えている

移動、欠員、研修、再作業、事故時の窓口を持てない計画は進めません。

家事代行で狙える4つの新規事業

既存の大手と同じ総合家事代行を、広い地域で始める必要はありません。自社がすでに持つ顧客接点から入ることで、一つの生活課題へ深く入る方法があります。

家事代行で狙える4つの新規事業
図4|4つの参入方法はイノベーション総研の事業案です。各社事例を参考に必要機能を整理したもので、この組み合わせで需要・採算が実証されたことを示す図ではありません。

下の表では、四つの参入方法を、最初の顧客、提供価値、収益、補うべき相手で比べます。

参入方法 最初の顧客 提供価値 主な収益 補うべき相手
法人福利厚生型 人事、健康経営、健保 育児・介護と仕事の両立を支える 法人基本料、利用料、運用費 家事代行会社、福利厚生、効果測定
住宅組込型 管理会社、デベロッパー 不在時も使える生活サービスを物件へ組み込む 戸当たり月額、従量課金、導入費 スマートロック、保険、管理会社
高齢者生活支援型 介護事業者、保険者、家族 介護保険外の家事・移動・交流をつなぐ 法人契約、会員料、訪問料 医療介護、自治体、緊急対応
家事代行事業者向けOS 地域事業者、加盟店 予約、移動、研修、鍵、請求を一体化する SaaS、決済手数料、保険・研修 決済、地図、保険、本人確認

四つに共通するのは、作業者を集める前に、自社が持つ顧客接点と解く課題を定めることです。

法人福利厚生型は、利用条件と効果の確認を設計する

企業が料金を補助し、従業員が直接予約するモデルです。このモデルは、育児中だけでなく、遠方の親の生活支援や、突発的な介護にも広げられます。

ただし、人事部が利用者の家庭事情を細かく知る必要がないよう、個人情報の境界を明確にします。

提供会社は、利用件数だけでなく、使える地域、予約充足率、再利用、従業員の負担変化を報告します。介護や育児の相談窓口と家事代行を別々に置くのではなく、必要な支援へ案内できる導線が価値になります。

効果の確認では、対象者数、実利用者数、調査への回答者数を分けて報告します。離職率の変化は、賃金や勤務制度など他の施策も影響するため、家事代行だけの効果とは即断せず、まず予約のしやすさと両立負担が改善しているかを確かめます。

住宅組込型は、移動と鍵の問題を同時に解く

同じマンションの予約を続けて受けられれば、建物間の移動を減らせます。共通の利用枠を設ける案もありますが、管理費へ含めることを前提にせず、管理規約、契約、住民の合意、使わない住民の負担を確認します。

最初は任意加入で希望時間と利用頻度を測る方法も考えられます。

一方で、管理会社の委託先だから安全だと短絡してはいけません。むしろ、共用部から専有部へ入る権限、鍵の発行、事故時の連絡、住民からの苦情、スタッフの入館ルールを契約で分けます。

そのため、住宅設備とサービス運用の両方を持つ相手との提携が必要です。

高齢者生活支援型は、介護との境界を明確にする

掃除、買い物、通院同行、会話、デジタル手続きは、高齢者の自立を支えます。離れて暮らす家族や、従業員の介護離職を防ぎたい企業が支払者になり得ます。

ただし、服薬、身体介護、医療判断、金銭管理へ踏み込むと責任が大きく変わります。そのため、家事代行でできること、資格者へ引き継ぐこと、緊急時に連絡する相手を明示します。

つまり、境界を狭く定めることは、サービスを弱くするのではなく、安心して使える条件になります。

事業者向けOSは、現場を置き換えず支える

地域の家事代行会社は顧客との信頼を持っていても、予約調整、採用、研修、請求、鍵管理へ十分に投資できない場合があります。そこへ共通基盤を提供する参入です。

単なる予約SaaSでは価格競争になりやすいため、移動距離を含む割り当て、契約別の請求、研修履歴、事故時の記録、法人向けレポートまでつなぎます。現場運営を理解するBPOとの組み合わせは、AI時代のBPOでも扱っています。

参入前に確認したい5つの懸念

家事代行は、利用者の私生活と、働く人の安全の両方へ入る事業です。そのため、便利さだけを磨くと、事故、離職、赤字を見落とします。

そこで、少なくとも五つの懸念を事業計画へ入れます。

需要はあるのに、予約が成立しない

たとえば、希望する日時とスタッフの空きが合わなければ、登録者が多くても利用できません。そのため、曜日、時間帯、地域、作業技能ごとに需給を見ます。

むしろ、広告を増やす前に、受けられる依頼の種類と範囲を限定する方が有効な場合があります。

移動とキャンセルで、スタッフの収入が下がる

二時間の作業の前後に長い移動が入り、直前キャンセルの補償もなければ、表示時給が高くても働き続けにくくなります。キャンセル規定、最低保証、交通費、連続訪問の設計を、粗利と同時に見ます。

架空例:同じ2時間の家事でも、移動を含めると採算が変わる

以下は仕組みを説明する仮定で、料金相場や推奨賃金ではありません。税抜の利用料を2時間7,000円、事業者が負担する人件費を1時間1,800円、交通費・手配等の費用を1訪問1,000円とします。

移動時間も同じ単価で原価へ含めます。

架空例:1訪問の売上と、作業・移動等の費用
項目 移動合計60分 移動合計20分
利用料 7,000円 7,000円
作業2時間の人件費 3,600円 3,600円
移動の人件費 1,800円 600円
交通費・手配等 1,000円 1,000円
上記費用を引いた残額 600円 1,800円

移動が40分短いだけで、この仮定では1訪問の残額が1,200円変わります。ただし残額は会社の利益ではなく、さらに営業費、採用・研修費、本部費、欠員・再作業の負担などを差し引きます。

予約を密集させても無理な移動や休憩削減を求めず、実際の契約に沿った労務管理と費用計上を行います。

品質事故が、担当者個人の責任になる

破損、紛失、アレルギー、転倒などが起きたとき、スタッフだけに判断を任せると対応が遅れます。報告手順、一次対応、保険会社への連絡、利用者への説明、再発防止を事業者が持つ必要があります。

データが増えるほど、プライバシーの責任も増える

住所、家族構成、在宅時間、鍵、室内写真、健康状態は、生活を推測できる情報です。そのため、必要以上に集めず、利用目的、閲覧権限、保存期間、削除方法を決めます。

また、AIで作業指示を要約する場合も、外部サービスへ何を送るかを確認します。

法人契約を取っても、現場が回らない

福利厚生やマンションで数百人へ案内すると、特定の曜日や地域に予約が集中します。そのため、契約時の想定利用率だけで人員を用意すると、使いたいときに予約できず、契約更新を失います。

そこで、対象地域を段階的に広げ、供給の上限を法人へ共有します。

誰がどこまで責任を持つのか

提携先が多いほど、利用者から見た責任者が曖昧になります。家事代行会社、マッチング事業者、住宅管理会社、法人、スマートロック会社の役割を、事故が起きた場面から逆算して決めます。

次の表は連絡と作業を設計するための担当例で、法的な責任の所在を一律に決めるものではありません。雇用・請負・個人間契約の別と、各社の規約・保険条件に合わせて、契約と実際の運用を確認します。

場面 運用上の主担当候補 事前に決めること
本人確認・採用 雇用主またはマッチング運営者 身元確認、資格、就労条件、再確認頻度
作業範囲・品質 家事代行会社または提供者 禁止作業、手順、引き継ぎ、再作業条件
鍵・入退室 サービス運営者と住宅・鍵事業者 権限発行、失効、ログ、障害時の入室
破損・盗難疑い 顧客窓口を持つ事業者 初動、証拠保全、保険、説明、再発防止
スタッフの安全 雇用主または発注・仲介事業者 ハラスメント通報、退室権限、利用停止
個人情報 データを取得・利用する各社 利用目的、共同利用、保存、削除、委託先

利用者には、一つの窓口で相談できることが大切です。というのも、裏側で責任を分けても、利用者に各社へ連絡させる設計では信頼を失うからです。

そのため、最初に受けた会社が状況を整理し、提携先へつなぐ運用まで確認します。

スタッフ側の安全も同じ重さで扱います。たとえば、密室でのハラスメント、無理な追加作業、盗難の疑いを受けた場合に、作業を中止し、記録し、支援を受けられる仕組みが必要です。

つまり、信頼は利用者だけの安心ではなく、働く人を守る制度でもあります。

NEXT STEP

次のステップ

総合家事代行を始める前に、自社が持つ生活者接点を見つける。

法人、住宅、高齢者支援、地域事業者のどこから入り、誰が払い、どこまで責任を持つかを整理します。構想の具体化や検証から事業化までの実行支援は、TeamPro Pilotsのサービスページで確認できます。

家事代行事業へ参入するかを、4つの判断に分ける

市場が伸びているから参入する、競合が多いから見送る、という二択では不十分です。自社の資産と足りない機能を見て、参入、提携、待機、見送りに分けます。

参入する条件

特定の生活圏、法人、住宅、高齢者支援など、最初の顧客群をまとめて獲得できます。さらに、スタッフの採用と定着、事故時の窓口、移動を含む採算を自社が管理できるなら、参入を検討できます。

強いのは、すでに顧客接点を持つ企業です。不動産、介護、福利厚生、人材、保険、住宅設備の企業は、家事代行を単独で売らず、既存サービスの価値を上げる機能として入れられます。

提携する条件

顧客や販売網はあるが、現場人材、研修、補償、鍵管理を持たない場合です。家事代行会社を下請けとして扱うのではなく、予約上限、品質指標、事故対応、データの扱いを共同で設計します。

反対に、現場力はあるが法人営業やシステムが弱い地域事業者は、福利厚生会社、SaaS、保険会社との提携が有効です。足りない機能を買うのか、共同商品にするのかを明確にします。

待機する条件

実証の対象地域でスタッフを確保できない、提携先の補償範囲が確認できない、法人が従業員データをどこまで渡せるか決まっていない場合です。販売を先に始めず、提供範囲と責任を固めます。

待機中も、顧客への聞き取り、既存サービスとの業務分解、地域別の供給調査は進められます。事業の開始日を急ぐより、最初の利用で信頼を失わないことを優先します。

見送る条件

安い人材を集めれば利益が出る、アプリを作れば需給が合う、事故は保険会社が処理するという計画は見送るべきです。移動、欠員、研修、再作業、顧客対応を含めると、作業単価だけでは採算を判断できません。

また、医療・介護行為、金銭管理、子どもの安全などへ、必要な資格と運用なしで広げる計画も止めます。提供範囲を狭くしても価値を出せないなら、家事代行ではなく別の方法で課題を解く方が安全です。

よくある質問

家事代行を利用する側と、事業へ参入する側では、確認したい点が異なります。ここでは、仕組みと事業判断に関する代表的な疑問へ答えます。

Q. 家事代行とハウスクリーニングの違いは何ですか?

A. 家事代行は、利用者宅の道具を使い、時間内に掃除、洗濯、料理などの日常家事を行うのが基本です。ハウスクリーニングは、専用機材や洗剤を使い、エアコンや水回りなど特定箇所を専門的に清掃します。

Q. 家事代行会社は何を基準に選べばよいですか?

A. 時間単価だけでなく、最低利用時間、交通費、鍵預かり、担当者変更、再作業、キャンセル、補償の対象外を確認します。家事代行サービス認証の有無も、安全・安心、品質、接遇を見る一つの手がかりです。

Q. 家事代行市場は今後も伸びますか?

A. 共働き、高齢化、企業の育児・介護支援は需要を支えます。一方、スタッフ不足、移動時間、料金負担、心理的不安が成長を制約します。需要予測だけでなく、地域ごとの供給と継続率を見る必要があります。

Q. 家事代行は法人の福利厚生にできますか?

A. 可能です。企業が定額または定率で利用料を補助し、従業員が直接予約する仕組みがあります。導入時は、対象者、上限、課税、個人情報、利用可能地域、予約が集中した場合の対応を確認します。

Q. 家事代行の新規事業で、最初に見る数字は何ですか?

A. 会員数より、希望枠の充足率、移動時間、連続訪問率、再利用率、スタッフ定着率、事故・再作業率を見ます。法人・住宅向けなら、対象者への到達率と、契約単位での継続理由も必要です。

まとめ|家事代行の価値は、作業より運用にある

家事代行は、掃除や料理を代わりに行うサービスです。しかし、事業としての価値は、人が訪問して作業することだけではありません。

希望を引き継ぎ、移動を短くし、担当者が変わっても品質を守り、事故時には一つの窓口で対応する。その運用が商品になります。

国内外九社の事例からは、四つの方向が見えます。法人や住宅を通じて顧客へ届くこと、個人以外の支払者を持つこと、鍵と補償を含めて不在時の利用を安全にすること、そしてワーカーの研修と働きやすさへ投資することです。

イノベーション総研では、家事代行の新規事業を考える際、最初から全国向けの総合サービスを目指しません。自社が持つ顧客接点と生活課題を起点に、どの地域で、誰が払い、どこまで責任を持つかを決めます。

その条件がそろわない場合は、提携、待機、見送りも含めて判断します。

参照した主な資料

情報確認日:2026年9月27日。市場推計、企業の期待、導入・利用規模、将来計画を区別して記載しています。

事業設計は当研究所の提案、費用計算は架空例です。主な一次情報は以下のとおりです。

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顧客接点、供給、訪問密度、鍵・補償、法人・住宅・介護との提携を整理し、参入条件へ落とします。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

経済産業省、厚生労働省、ベアーズ、ダスキン、CaSy、タスカジ、くらしのマーケット、ニチイライフ、ピナイ、Papa、Urban Companyなどの公式情報。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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