新規事業の立ち上げ・事業化を支援するプロフェッショナルファーム

ブルーエコノミーは何が事業になる?国内外8事例と参入の考え方

ブルーエコノミーでは、何が事業になるのか。
養殖・海藻・環境再生・炭素除去の8事例から考えます。

ブルーエコノミーとは、海の環境を守りながら、その資源を持続的に使う経済活動です。養殖や海藻の食品利用だけでなく、海運、洋上のエネルギー、沿岸の観光、海の環境再生などを含みます。参入を考えるときは、海に良いことを、誰がお金を払う仕事にできるかまで具体化します。たとえば、養殖業者の餌代を減らす仕事と、企業に二酸化炭素の除去量を提供する仕事では、買い手も必要な技術も違います。本記事では、国内外8つの企業・機関の取り組みを紹介します。注目が集まる海洋炭素除去も、すでに確認できる成果と、これから実現する計画を分けて解説します。自社の設備や技術、顧客との接点を、どの仕事に生かせるかを考えるための記事です。

この記事の結論

海の環境を守る仕事を、支払う顧客と具体的な提供物に結び付けます。

  • 海洋産業全体と、ブルーカーボン・海洋炭素除去の違いを整理
  • 国内外8事例を、提供物と確認できる事業段階で比較
  • 自社の技術・設備・顧客接点から参入方法と懸念を考える

目次

ブルーエコノミーとは?海を守りながら産業を続ける考え方

ブルーエコノミーは、一つの新しい技術の名前ではありません。海から得る食料やエネルギーを、将来も使える状態で次の世代へつなぐ考え方です。企業にとっては、海の環境と事業の継続を一緒に考えることになります。

漁業だけでなく、海運や観光も含む

JICA(国際協力機構)は、水産物や海洋資源の利用、海運、観光などの経済的な利益と、環境への負荷を抑えることを結び付けています。海を使う事業すべてが、環境を守る事業になるわけではありません。資源を減らし続けたり、地域の暮らしを損なったりすれば、持続的な利用とは呼びにくくなります。JICA「水産ブルーエコノミー振興」

事業の入口は、扱うものから整理すると分かりやすくなります。魚や海藻を育てる仕事では、生産と食品の供給が中心です。海運や港では、輸送、燃料、設備の保守が仕事になります。海の観光なら、地域の自然を守りながら体験や滞在を提供します。

洋上風力のようなエネルギー供給、海洋生物を使う素材開発も、この広い範囲に入ります。海の環境再生や二酸化炭素の除去は、さらに別の仕事です。「海に関係する」という共通点だけで、同じ顧客に同じ商品を売れるわけではありません。エネルギー分野は、洋上風力の企業事例と参入余地で詳しく紹介しています。

新規事業では、既存の困りごとから入れる

たとえば、養殖業者が困っているのは、餌の価格や人手不足かもしれません。食品メーカーなら、使いたい海藻が毎年安定して手に入らないことが問題になります。自治体や漁業者は、海藻が育つ場所の減少に向き合っているかもしれません。

これらの困りごとに、自社が持つ画像解析、食品加工、材料、計測の技術を結び付ける余地があります。最初から海の事業をすべて手がける必要はありません。一方、陸上で使えた技術を海へ持ち込むだけでは、塩害や波、現場の作業条件に対応できない場合があります。

この記事では、広い海洋産業の中でも、養殖・海藻利用・環境再生・海洋炭素除去を詳しく扱います。食料を安定して作る仕事と、環境への貢献を確かめる仕事を見比べると、異業種から入れる役割が見えやすいためです。

ブルーエコノミーとブルーカーボンは何が違う?

ブルーエコノミーは経済活動全体、ブルーカーボンは海の生態系が取り込む炭素を指します。さらに、装置や海水の化学的な性質を使う「海洋炭素除去」もあります。この三つを分けると、企業の取り組みを読み違えにくくなります。

比較のポイントは、対象が「産業」「生態系」「除去の技術」のどれなのかです。

ブルーエコノミー・ブルーカーボン・海洋炭素除去の範囲
用語 何を指すか 事業として確認すること
ブルーエコノミー 海の環境を守りながら資源を持続的に使う経済活動 顧客への価値、収益、環境や地域への影響
ブルーカーボン 海草・海藻、マングローブなどの生態系が取り込む炭素 増えた吸収・貯留量、保全の継続、算定の方法
海洋炭素除去 海を使って大気中の二酸化炭素を取り除き、長く蓄える取り組み 正味の除去量、蓄える期間、環境影響、検証方法

ブルーカーボンは、藻場などを守る活動と結び付きます。環境省も、海の生態系による炭素の取り込みと貯留を説明しています。ただし、海藻を育てた量と、長く蓄えた炭素の量は同じではありません。食べるために収穫した海藻の重さを、そのまま長期の炭素除去量に置き換えることはできません。環境省「ブルーカーボンとは」

海洋炭素除去には、異なる仕組みがある

海洋炭素除去は、英語の略称でmCDRと書かれることがあります。本記事では、主に日本語で表記します。工学的な手法では、海水が二酸化炭素を取り込む力を高める方法と、海水から二酸化炭素を直接取り出す方法を区別します。

前者の代表が、海洋アルカリ度増強です。アルカリ度は、酸を中和する能力の目安です。この能力を高め、海水が大気中の二酸化炭素を追加で取り込めるようにします。後者は海洋直接回収と呼ばれ、海水中にある二酸化炭素を装置で取り出します。Isometricによる仕組みの説明Capturaによる海洋直接回収の説明

下の図は、この違いを簡略化したものです。海に二酸化炭素を蓄えるのか、海水から取り出した後に行き先を用意するのかを見てください。

海水の吸収力を高める方式と、海水から二酸化炭素を回収する方式の違い
海洋炭素除去の方式。Isometric、Capturaの公表資料をベースにイノベーション総研作成。主な違いを示す概念図であり、処理・環境評価の全工程ではありません。

直接回収した二酸化炭素を燃料などに使えば、後で大気へ戻る場合があります。長期の除去として扱うには、回収後にどう蓄えるかまで確認します。工場などからの回収も含めた全体像は、二酸化炭素の回収・利用・貯留の事業機会で整理しています。

国内のブルーエコノミーは、どんな企業・機関が動いている?

国内では、食料の生産、海藻の活用、沿岸の環境再生など、すでに顧客や現場と結び付いた取り組みがあります。海外の炭素除去事例と合わせ、まず8事例の役割を並べます。

「事業段階」は、各社・各機関の資料から確認できる範囲です。将来の購入契約を、すでに納入した実績として数えてはいません。

主要8事例の提供物と確認できる段階
企業・機関 主な提供物・取り組み 主な相手 確認できる段階
UMITRON スマート給餌、魚の行動解析 養殖事業者 サービス提供
シーベジタブル 海藻の生産、加工、販売 飲食店、食品事業者、消費者 商品販売
JFEスチール 人工石材を使った藻場再生 自治体、漁業者 共同実証
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 Jブルークレジットの認証・発行 保全活動の実施者、購入企業 制度運営
Planetary Technologies 海洋アルカリ度増強による炭素除去 炭素除去を購入する企業 クレジット発行を確認
Captura 海水から二酸化炭素を回収する装置 事業開発者、二酸化炭素の利用者 実証設備の稼働
Ebb Carbon 電気化学処理による海洋炭素除去 炭素除去を購入する企業 将来分の購入契約
[C]Worthy 除去量を計算する海洋モデル 研究者、事業開発者、検証者 開発・公開

同じ海の事業でも、機械を売る会社、食品を売る会社、環境価値を確かめる機関があります。競合を探す前に、自社がどの役割を担うのかを決めると、提携相手も探しやすくなります。各事例の出典と見どころを、順に説明します。

UMITRON:魚の食欲を読み、餌やりを助ける

UMITRON(ウミトロン)は、養殖の餌やりを支える会社です。スマート給餌機「UMITRON CELL」や、魚群の行動から食欲を判断する技術を提供しています。海のデータを使うサービスや、生産・コストを管理するサービスも扱います。UMITRONのサービス一覧

この事例は、環境への貢献を、養殖業者の日々の仕事に結び付けている点が参考になります。餌を与える量や時間を調整できれば、費用と作業の負担を見直す余地が生まれます。導入を考える養殖業者には、「環境に良い機械」という説明だけでなく、自分の養殖場で何が変わるかが必要です。

参入する側は、魚種や海域の違いを確かめる必要があります。ある養殖場で役立つ解析でも、別の魚や濁った海では見え方が変わります。機器の設置後に、通信が切れたときや故障したときに誰が対応するかも商品に含まれます。画像解析の会社なら、給餌機全体を作るより、既存の設備会社と組む方法を考えられます。

シーベジタブル:海藻を育て、使い方まで届ける

シーベジタブルは、海藻の生産から加工・販売までを手がけます。地下海水を使う陸上栽培と、漁業者と連携する海面栽培を行っています。すじ青のりなどを扱い、社内のキッチンラボで料理や加工方法も研究しています。シーベジタブル「生産・加工・販売」

注目したいのは、育てる技術だけでなく、食材として使われるところまで仕事を広げている点です。珍しい海藻が採れても、飲食店が保存方法や調理方法を知らなければ、継続して仕入れにくくなります。食品メーカーには、味や色に加えて、規格や供給量も必要になります。

このため、食品加工や卸の経験がある企業にも参入の余地があります。乾燥、冷凍、調味、レシピ開発など、食材を使いやすくする仕事です。一方で、環境価値だけを理由に高く売れるとは限りません。味、使い勝手、価格、納期が合う商品として提案する必要があります。海藻の生産量から炭素クレジットの収入まで自動的に見込まないことも大切です。

JFEスチール:材料と地域の協力で、藻場の再生を試す

JFEスチールは、千葉県、鋸南町、保田漁業協同組合と藻場再生の実証を進める協定を結びました。2025年5月の発表では、鉄鋼スラグ製品である人工石材に、海藻の種苗を付けた糸を巻いて設置する計画を説明しています。海藻の種類、水深、食害対策の有無を変え、育ち方を調べる取り組みです。JFEスチールの発表

材料を海へ置くだけで、成果が決まるわけではありません。水温や、海藻を食べる魚の影響など、その場所で育ちにくい理由を確かめています。発表された実証期間は2025年4月から2028年3月です。ここでは、藻場の再生が完了した事例としては扱いません。

材料メーカーが参考にできるのは、製品と現場での確認をセットにする考え方です。自社材料の性能だけでなく、設置、観測、地域との調整を組み合わせます。使う材料の安全性や設置条件の確認も必要です。鉄鋼の副産物なら何でも海へ入れてよい、という話ではありません。

ジャパンブルーエコノミー技術研究組合:保全の成果を取引できる形にする

ジャパンブルーエコノミー技術研究組合は、「Jブルークレジット」の認証・発行を行っています。藻場などの生態系が吸収・貯留した二酸化炭素を算定し、審査を経てクレジットにする仕組みです。保全する側と、環境への貢献を購入したい企業をつなぎます。Jブルークレジットの公式案内

事業として見ると、海を守る活動に加えて、成果を説明する仕事が必要だと分かります。どこで何を行ったか、どの範囲を測ったか、どの方法で量を求めたか。こうした記録が、購入者の判断を支えます。

周辺には、現地調査、画像の解析、申請の支援などの役割を考えられます。ただし、資料作成を受託する会社が、認証機関のように発行を保証することはできません。また、同じ海を使う技術でも、工学的な炭素除去がこの制度の対象になると決め付けず、方法ごとの要件を確認します。

海外の新しい動きを見るときは、装置の規模だけでなく、実際に確認された除去量と購入契約を分けて読む必要があります。ここでは、炭素除去を行う3社と、計算の基盤を作る1組織を紹介します。

Planetary:海水の吸収力を高め、クレジットの発行につなげる

Planetary Technologies(プラネタリー)は、海洋アルカリ度増強に取り組みます。カナダのTufts Coveで行った取り組みについて、認証機関のIsometricは2025年6月、625クレジットの発行を発表しました。購入先として、British Airways、Shopify、Stripeを挙げています。Isometricの発行発表

ここで確認できるのは、単なる構想や将来契約より先に進み、特定の案件でクレジットが発行されたことです。一方、この実績だけで、どの海域でも同じ費用で事業ができるとは判断できません。海の流れ、使う材料、現地での観測条件が変わるためです。

周辺企業には、材料の品質管理、投入設備、計測、データの記録を担う可能性があります。ただし、材料が安いだけでは採用条件を満たせません。材料を作り、運び、設備を動かすことで発生する排出も差し引きます。追加でどれだけ大気中の二酸化炭素を減らせたかを説明できる仕事が必要です。

Captura:海水から取り出した二酸化炭素の行き先まで考える

Captura(キャプチュラ)は、海水から二酸化炭素を取り出す装置を開発しています。2025年2月、Equinorと開発したハワイの実証設備の稼働開始を発表しました。公表した年間回収能力は1,000トンです。設備の処理能力は、実際に除去した量を表す数字ではありません。Capturaの稼働発表

同社は、電気を使って海水の成分を分ける技術と、気体を取り出す技術を組み合わせています。発表では、ハワイで回収した二酸化炭素を、養殖など地域の産業へ提供する用途も説明しています。回収した二酸化炭素の利用と、長期の貯留による炭素除去は、別の出口として考えます。

この事例から考えられるのは、膜や水処理設備、ポンプ、制御の企業が担う仕事です。買い手との商談では、回収できる量に加えて、電力、水の取扱量、部品の交換、設備停止時の対応が論点になります。回収装置の先に利用者や貯留先を用意できるかも、事業の範囲を左右します。

Ebb Carbon:将来の購入契約で需要をつくる

Ebb Carbon(エブ・カーボン)は、電気化学的な処理によって海の二酸化炭素吸収を促す技術を開発しています。同社は2024年10月、Microsoftとの合意について、今後10年間で最大35万トンの除去を対象にすると説明しました。これは将来分を含む合意であり、35万トンをすでに除去したという意味ではありません。Ebb Carbonの発表

このような購入の約束は、開発企業が設備や資金の計画を立てる材料になります。ただし、契約額、最低購入量、納入条件は、それぞれの契約で異なります。「最大」と書かれた数量をそのまま確定売上に置き換えることはできません。

日本企業が部品やサービスで参加する場合も、発注の時期と条件を確認します。設備が予定どおり立ち上がらなかったとき、納入が遅れたとき、除去量が認められなかったときに、代金と責任をどう扱うかが重要です。契約の相手が大企業でも、自社への発注まで保証されるわけではありません。

[C]Worthy:海の変化を計算し、検証できるようにする

[C]Worthy(シーワージー)は、海洋炭素除去の評価に使う計算基盤「C-Star」を開発・公開しています。海流や海水の性質などを計算し、除去の取り組みがある場合とない場合を比べるための基盤です。研究者、事業開発者、認証に関わる組織、第三者の検証者を利用者として挙げています。C-Starの公式説明

海では水が動くため、放流口の近くを一度測るだけで、事業全体の効果は分かりません。離れた場所への広がりや、時間がたった後の変化を考える必要があります。そこで、実測と計算を組み合わせ、ほかの人が同じ条件で確かめられる記録を残します。

計測やデータ処理の企業にとっては、装置を持たずに関わる手がかりになります。センサーの管理、データの欠落確認、計算に使った条件の保存などです。ただし、ソフトを動かすことと、除去量の正しさを保証することは違います。海洋科学の専門家と役割を分け、算定結果を誰が検証するかを決めます。

自社の状況から、次に確認することを選ぶ

該当する項目を開くと、記事の読む場所がわかります。点数を付ける診断ではありません。

01 言葉の違いを知りたい

海洋産業全体と炭素に関する取り組みを分けます。

  • 産業の範囲
  • 生態系の保全
  • 工学的な除去

違いを確認する →

02 国内の事例を読みたい

養殖、海藻、環境再生の仕事を確認します。

  • 提供するもの
  • 使う人
  • 事業の段階

国内4事例を見る →

03 海外の技術を知りたい

海洋炭素除去の仕組みと現在地を整理します。

  • 装置と計測
  • 実証と発行
  • 計画と実績

海外4事例を見る →

04 収益の仕組みを知りたい

環境への貢献と支払いの条件を分けます。

  • 商品販売
  • 運用の対価
  • 環境価値

収益を確認する →

05 参入方法を考えたい

自社の強みを特定の仕事へ結び付けます。

  • 食品と加工
  • 設備と材料
  • 計測とデータ

参入案を見る →

06 事業案を相談したい

顧客と役割、実施できる条件を絞ります。

  • 支払う顧客
  • 責任の分担
  • 判断の条件

相談前の整理を見る →

NEXT STEP

次のステップ

海を使う事業で、自社が担える仕事を見つける

食品、設備、計測、データ、地域との連携。自社の強みをどの顧客の仕事に生かせるか、参入案と提携先の条件を整理します。

海の環境を守る仕事には、誰がお金を払うのか

8事例を見比べると、収益の入口は大きく異なります。食品や機械を買う顧客、日々の運用を委託する顧客、環境への貢献を購入する顧客を分けて考えると、事業案を具体化できます。

商品を売る仕事と、成果を売る仕事を分ける

海藻を食品として売るなら、買い手は飲食店や食品メーカーなどです。味、品質、納期に対して代金を払います。養殖の機械なら、餌代や作業負担をどれだけ改善できるかが検討材料になります。顧客にとっての経済的な効果を、現在の方法と比べて示します。

一方、クレジットの取引では、一定の方法で確かめた吸収・除去量が対象になります。商品を納めた記録だけでは足りず、環境面の成果を説明する記録が必要です。保全活動への協賛金とも区別します。協賛を受けたことと、認証された炭素価値を販売したことは同じではありません。

下の図では、提供物と支払う相手を対応させています。事業案を説明するときも、「海のために何をするか」の隣に、この組み合わせを書きます。

海藻食品は食品の買い手、運用支援は現場の事業者、環境価値は購入企業という収益の違い
ブルーエコノミーの収益の入口。本文の8事例をベースにイノベーション総研作成。顧客と提供物を考えるための整理であり、各社の契約条件や収入内訳を示すものではありません。

たとえば、海藻を育てる事業で、食品販売と環境価値の販売を組み合わせる構想は考えられます。ただし、それぞれに買い手と成立条件が必要です。食品として出荷した量、長期に蓄えた炭素、地域保全への協力を一つの成果として重ねて数えないようにします。

取引の前に、納品物と維持管理を決める

計測サービスなら、センサーを置くところまでか、データを整理するところまでかを決めます。月ごとの観測報告を納品する契約と、クレジットの発行量に応じて代金を受け取る契約では、負うリスクが変わります。

海の現場では、波や風で作業できない日もあります。船や潜水作業を手配する費用、機器の洗浄、交換部品なども見込む必要があります。契約では、作業できなかった期間の扱いと、データが欠けた場合の対応を先に決めます。

もう一つ重要なのは、誰が維持管理を続けるかです。藻場の造成や装置の設置が終わっても、観測や保守は残ります。補助金で設備を入れる場合も、その後の費用を誰が負担するかまでつながっていなければ、継続した事業としては組みにくくなります。点検を担う機器の事業については、水中ドローンの主要事例も参考になります。

ブルーエコノミーの市場規模を、どう事業計画に使う?

市場規模の数字は、海に関わる経済活動の大きさを知る材料です。ただし、海洋産業全体の数字を、自社が売ろうとする商品や新しい炭素除去市場の規模として使うことはできません。

OECDの数字は、海洋経済全体の付加価値

OECD(経済協力開発機構)の2025年報告書では、世界の海洋経済の実質の総付加価値は、1995年の1.3兆米ドルから、2020年の2.6兆米ドルへ拡大したとしています。総付加価値は、生産額から原材料などの中間投入を差し引いて生み出した価値です。企業の売上高を単純に足した数字ではありません。OECD「The Ocean Economy to 2050」

この統計には、沿岸観光や海洋の石油・ガス採掘など、幅広い活動が含まれます。したがって、「環境を守る新市場が2.6兆ドルある」とは読めません。また、2025年に公表した報告書でも、この比較の対象年は2020年です。公表年とデータの年も分けます。

事業計画で必要なのは、対象を絞った数字です。たとえば、特定の魚種を育てる養殖場のうち、自社サービスを使える条件の拠点はどれだけあるか。海藻を一定の規格で仕入れたい食品メーカーはどれだけあるか。顧客候補と実際の利用条件に近づけて考えます。

炭素除去の市場は、契約と実績を分ける

海洋炭素除去のニュースでは、将来の契約量、設備の年間能力、発行されたクレジット量が並びます。それぞれ意味が異なるため、合計して市場の成長率を作らないようにします。

市場を調べる目的が、設備の販売先を探すことなら、設計や建設の時期が大切です。計測の仕事を探すなら、実証や運用の予算、必要な測定項目を確認します。クレジットを売る事業なら、購入者が受け入れる方法と、納入までの費用が中心になります。

イノベーション総研では、こうした対象の違いを残したまま、事業案ごとに売上の前提を置きます。「大きな市場の1%を取る」という計算だけでは、必要な顧客数も営業の難しさも分からないためです。

ブルーエコノミーへ参入するなら、自社のどの強みを使う?

参入方法は、自社が海の現場を運営できるかによって変わります。食品の顧客を持つ企業と、材料や計測に強い企業では、最初に引き受ける仕事も違います。以下は、事例から考えた参入案です。

表では、足りない機能を補う相手まで整理しました。すべてを自社で持つ前提にせず、責任を持てる範囲を選びます。

自社の強みから考える海洋事業への参入方法
自社の強み 提供する仕事と主な買い手 補う相手・機能 主な懸念
食品の加工技術や販路 食品メーカー向けの海藻原料、配合・用途開発 生産者、品質管理、物流 味や規格のばらつき、供給量、採用価格
材料や水処理の技術 事業開発者向けの部材、処理・制御設備 海洋の実証先、施工・保守会社 塩害、付着物、交換費、環境適合性
計測やデータの技術 運営者向けの観測、データ整理、算定支援 海洋研究者、現地調査、第三者検証 測定の欠落、不確かさ、検証責任
地域との接点と運営力 自治体・企業向けの沿岸保全や現場運営 漁業者、専門技術、継続的な資金 合意形成、長期管理、費用分担

最初に狙うべきなのは、自社が性能や品質を説明でき、買い手が必要性を感じる仕事です。設備を保有するほど売上は大きくなり得ますが、その分、稼働や保守の責任も増えます。部品供給や観測の受託でも、顧客の重要な問題を解ければ事業案になります。

食品分野は、使う場面を一つに絞る

海藻原料を売るなら、「健康的な食材」と広く説明するより、どの食品で何の役に立つかを具体化します。たとえば、香りを付ける用途なのか、食感を整える用途なのかで、求められる規格は変わります。これは事業案を考える例であり、特定原料の性能を保証するものではありません。

食品メーカーに既存の販路がある企業なら、用途の候補を聞き、生産者と規格を合わせる仕事から入れます。逆に、栽培だけを先に増やしても、出荷後に使い方を探す状態では在庫を抱えやすくなります。食品を作れることと、継続して使ってもらえることを分けて考えます。

技術分野は、現場で続けて使えるところまで見る

膜、ポンプ、センサーなどを供給する企業は、既存の技術を生かせる可能性があります。ただし、顧客が買うのは試験室の性能だけではありません。海水に接した状態でどれだけ使えるか、汚れをどう取り除くか、交換にどれだけ手間がかかるかが問われます。

このため、実証先との提携には意味があります。販売会社の紹介だけでなく、故障や保守の情報を得られる相手かを確認します。顧客の設備全体を請け負わず、特定の部材や観測業務から入り、対応できる範囲を広げる考え方もあります。

データ分野は、判断に使える記録を提供する

海のデータを集めるだけでは、顧客の支払い理由が弱い場合があります。養殖の作業を変えるために使うのか、環境への影響を確認するためか、炭素量の検証を支えるためか。使う判断から逆に必要な項目を決めます。

特に炭素除去では、測定・報告・検証をまとめてMRVと呼びます。初めて参入する企業は、三つを一括して保証するのではなく、自社が受け持つ部分を明確にします。計測の記録、計算モデル、独立した審査は役割が異なります。元データに戻って確かめられる状態まで整えることが、単なる画面表示との差になります。

参入前に確認したい、環境・地域・採算の懸念

海の事業では、顧客との契約だけで着手できるとは限りません。環境への影響、海域を使う条件、地域との関係を同時に確認します。炭素除去の効果と、地域にとって望ましい活動かどうかも別の論点です。

環境への影響と、実施できる条件

海洋アルカリ度増強などでは、国際的にも環境への影響や取り扱いの議論が続いています。IMO(国際海事機関)は、2025年のロンドン条約・議定書の会合について、海洋環境の保護を中心に置いた慎重な対応を説明しています。海外で実証した技術だから、日本の海でも同じ条件で実施できるとは判断できません。IMO「Marine geoengineering」

具体的な事業では、場所と行為を特定し、関係する所管機関に確認します。取水、排水、物質の投入、海底や沿岸への設備設置では、確認する内容が変わります。既存の設備を使う場合も、元の許認可や契約の範囲でできると決め付けないことが必要です。

実施前の海の状態を記録し、運用後に何が変わったかを見られるようにします。変化が想定を超えたときの停止、原因調査、再開の判断者も決めます。安全性について不明な点が残る場合は、事業開発だけで判断せず、専門家と所管機関の確認を優先します。

買い手との契約だけで、地域の合意は得られない

費用を払う相手と、海を使うことに同意する相手は別です。クレジットを購入する企業がいても、その海で漁をする人の心配が解消されるわけではありません。沿岸の自治体、漁業者、設備の管理者など、誰と話す必要があるかを早い段階で整理します。

説明する内容も、二酸化炭素の量だけでは足りません。作業する場所、船の動き、漁への影響、異常時の連絡先、観測結果をどう公開するかが重要です。反対が出た後に広報だけで対応するのではなく、事業の設計に現場の意見を取り込める関係を作ります。

正味の成果と、続けられる採算

炭素除去では、取り込んだ量から、材料の製造や輸送、電力などに伴う排出を差し引きます。測定に不確かさがあれば、その扱いも必要です。発行できる量が想定より少ない場合でも、支払う費用は残ります。

事業計画では、売価だけでなく、観測や審査の費用、保守費、設備を動かせない期間を確認します。食品や副産物を売って収益を補う場合も、規格を満たす製品と買い手が必要です。別の売上を足せば自然に採算が合う、とは考えません。環境価値の証拠や取引の役割は、カーボンクレジットの事業と参入余地でも整理しています。

自社は進むべきか、提携すべきか、待つべきか

参入の判断は、技術が新しいかどうかだけでは決まりません。支払う顧客、自社が担う役割、実施と運用の条件が具体的になっているかを確かめます。どれかが曖昧なら、その部分を埋める仕事が先です。

下の図は、事業案を検討するときにそろえたい三つの条件です。採点の道具ではなく、社内で話が食い違っている場所を見つけるために使います。

支払う顧客、担う役割、実施する条件をそろえて海洋事業の参入案を考える
海洋事業の参入案を具体化する条件。本文の企業事例と事業化の論点をベースにイノベーション総研作成。

顧客の課題が明確で、自社が提供物の品質を説明できるなら、参入案を進められます。顧客はいるが海の現場を扱えないなら、施工や保守を担う企業との提携を考えます。計測に強いが海洋の科学的な判断ができないなら、研究者との役割分担が必要です。

一方、購入条件や制度上の扱いが決まっていない案件では、大きな設備投資を待つ判断もあります。顧客と合う価格にならない、長期の管理を担えない、環境への影響を管理できない場合は、見送りや別の用途への切り替えを検討します。

相談の前には、「想定する顧客」「納めるもの」「自社の強み」を一枚にまとめると、話を進めやすくなります。そこに、まだ確認できていないことを添えます。たとえば、海域での利用条件、部材の寿命、購入者の必要量です。分かっていることと仮説を分けると、次に聞く相手が明確になります。

イノベーション総研では、事業開発の支援の中で、こうした顧客と提供物の整理、参入方法、提携先の条件を検討します。海洋の技術や環境評価を代わりに認証するサービスではありません。専門的な確認と、事業としてどこを担うかの判断を分けて進めます。

ブルーエコノミーのよくある質問

事業を検討するときに混同しやすい点を、短く整理します。

Q. ブルーエコノミーは、海洋産業と同じ意味ですか?

A. 海洋産業を広く扱いますが、海の環境を守り、資源を持続的に使うことが重要です。海に関わる事業というだけで、環境や地域への貢献が確認できたことにはなりません。

Q. 海藻を育てれば、炭素クレジットを売れますか?

A. 自動的に売れるわけではありません。対象となる活動や算定方法を確認し、増えた吸収・貯留量を示す必要があります。食品として出荷する海藻の量と、長期に蓄えた炭素の量も分けます。

Q. 海洋の設備を持たない会社でも参入できますか?

A. 食品加工、部材、制御、計測、データ整理などの役割を考えられます。自社が提供するものを決め、海域での作業や専門的な評価など、足りない機能を補う相手と組みます。

Q. 海洋炭素除去は、排出削減の代わりになりますか?

A. 排出削減を続けたうえで、残る排出への対応などに使う考え方です。回収・除去を掲げるだけでは足りず、事業に伴う排出を差し引いた量、長く蓄える方法、環境への影響を確認します。

海の価値を、顧客が必要とする仕事につなげる

ブルーエコノミーには、食料を届ける仕事、現場の負担を減らす仕事、海の環境を再生する仕事があります。新しい炭素除去技術の周辺にも、装置だけでなく、計測や検証を支える役割が生まれています。

参入を考えるときは、まず具体的な買い手と提供物を決めます。そのうえで、環境への影響と長期の運用を誰が担うかを確認します。自社で持たない機能は、責任の境界を決めたうえで提携によって補います。

海の将来性を語るだけで終わらせず、どの現場で、誰の困りごとを、どこまで解くのか。その組み合わせが、事業案を具体的にする出発点になります。

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誰に何を納めるか、環境への影響をどう確かめるか、維持管理を誰が担うか。事業案と実行体制の整理をご相談いただけます。海域の利用や環境評価に関する専門判断は、所管機関や対応する専門家と分けて進めます。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

JICA、OECD、環境省、UMITRON、シーベジタブル、JFEスチール、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合、Planetary、Isometric、Captura、Ebb Carbon、[C]Worthy、IMOの公表資料。出典は本文に記載。参入方法や収益の整理はイノベーション総研の分析。

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