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デジタル治療(DTx)は承認だけでは売れない|国内外9事例

デジタル治療(DTx)は、承認を取れば医療現場に広がるのか。
医療ソフトウェアを持たない企業は、どこから参入できるのか。

結論は、治療、診療導線、継続利用、支払いを一つにすることです。国内外9事例と4つの参入方法から、事業化の条件を整理します。

この記事の結論

DTxは、承認後の診療導線と継続利用まで設計して初めて事業になります。

  • 健康アプリとは、目的、臨床根拠、規制上の位置づけが異なります。
  • 国内外9事例は、製薬連携、人の支援、流通基盤へ事業を広げています。
  • 参入企業は、対象患者、医療者、最初の支払者を一組で決めます。

DTxは、ソフトウェアで治療を届ける仕組みです。デジタルセラピューティクス、デジタル治療、治療アプリとも呼ばれます。

スマートフォンのアプリが中心になるため、健康管理アプリの高機能版に見えるかもしれません。しかし、DTxは病気や障害の治療を目的にし、効果と安全性を臨床試験で確かめます。製品によっては、医師が処方し、医療機器として規制を受けます。

難しいのは、良いアプリを作ることだけではありません。承認後にも問題は残ります。医師が説明しにくい。患者が続けられない。病院の作業が増える。費用を払う人が決まらない、といった問題です。

本記事では、DTxの意味と仕組み、国内外9事例を整理します。そのうえで、新規事業として参入できる4つの入口を考えます。参入・提携・待機・見送りを分ける判断軸も示します。

デジタル治療(DTx)とは?ソフトウェアが治療を届ける仕組み

Digital Therapeutics Allianceは、DTxをソフトウェアによる治療と説明しています。病気や障害などを治療または軽減し、治療効果を示せるものです。

例えば、認知行動療法を毎日の課題に落とします。生活習慣の改善を患者ごとに案内する方法もあります。ゲームを通じて注意機能を訓練する製品もあります。単に記録するだけでなく、ソフトウェア自体が治療の一部を担います。

使い方は製品で異なります。単独で使うもの、薬と一緒に使うものがあります。医師や療法士の治療を補うものもあります。医療機関で処方コードを受け取る製品もあります。患者は自分のスマートフォンで数週間から数か月使います。

日本では、治療用ソフトウェアはプログラム医療機器に該当する場合があります。PMDAによると、単体ソフトウェアも規制対象です。疾病の診断や治療などを目的にする場合です。

大切なのは、デジタルで健康を支えることと、デジタルで治療することを分けて考えることです。

DTxと健康アプリ、オンライン診療、医薬品の違いを示す図
図1:Digital Therapeutics Alliance、PMDAの公表資料をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

デジタル治療と健康アプリは、目的・根拠・規制が違う

歩数、睡眠時間、食事を記録する健康アプリは、日々の健康づくりに役立ちます。ただし、病気の治療効果をうたわず、医療機器として承認を受けていないものも多くあります。

オンライン診療は、医師と患者を通信でつなぐ診療の方法です。DTxは、その診療の中や診療と診療の間で、患者へ治療内容を届けます。両者は組み合わせられますが、同じものではありません。

服薬管理アプリや遠隔モニタリングも区別が必要です。飲み忘れを防ぐ、血圧や血糖を医師へ送るといった機能は、治療を助けます。しかし、記録や通信だけでDTxになるわけではありません。ソフトウェアがどの治療を行い、どの結果を改善するのかが必要です。

さらに、「治療アプリ」と呼ばれる製品でも違いがあります。承認された使用目的や対象患者は製品ごとに異なります。記事や営業資料では、DTxと健康アプリを一括りにしません。製品の承認内容を確認します。

この違いを曖昧にすると、必要な臨床試験、薬事手続き、品質管理、販売方法を見誤ります。

DTxの現在地は、承認から継続利用へ移っている

日本では、治療用ソフトウェアの承認と保険適用が積み上がっています。CureAppはニコチン依存症と高血圧の治療アプリを実用化しました。2026年6月には、サスメドのMedcleも保険適用になりました。塩野義製薬のENDEAVORRIDEも同じ月に続きました。

厚生労働省の保険適用資料では、Medcleの材料価格は24,100円です。ENDEAVORRIDEは14,500円です。どちらも使える患者や医療機関の条件があります。アプリストアで自由に買うサービスとは異なります。

一方、米国の先行企業Pear Therapeuticsは2023年に経営破綻しました。同社は連邦破産法11条の適用を申請しています。FDAの許可があっても、事業が続くとは限りません。処方、保険償還、患者獲得の費用を支える必要があります。

現在の競争は、承認品目の数だけでは測れません。誰が患者へ紹介するのか。医師は何分で説明できるのか。患者は治療期間を終えられるのか。費用を払う保険者や医療機関は、どの成果を確認できるのか。実装の設計が問われています。

DTxの市場予測を見るときも注意が必要です。調査会社によって、処方型の治療アプリだけを数える場合があります。オンライン診療や健康管理まで含む場合もあります。対象が違えば、市場規模は大きく変わります。

事業判断では、一つの市場規模より三つの数字を見ます。一つ目は、対象となる患者の数です。二つ目は、そのうち製品を使える患者の割合です。三つ目は、医療者が処方し、患者が治療を終える割合です。最後の数字が低いと、大きな患者数を売上へ変えられません。

支払者が見る成果も分けます。患者には症状や生活の改善が重要です。医療機関には、診療時間と業務負担への影響があります。保険者や企業は、医療費や休業への影響を確認します。三者の価値がつながる製品ほど、継続契約を説明しやすくなります。

DTxが臨床根拠から継続利用と支払いへ進む事業化の流れ
図2:PMDA、厚生労働省、FDA、各社の公表資料をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

事業構造は、治療・データ・ケア・流通の4層で見る

DTx事業を理解するには、スマートフォン画面ではなく、その後ろにある4つの層を見ます。

第一は、治療の中核です。認知行動療法、行動変容、認知訓練などを、どの順番で患者へ届けるかを設計します。対象疾患、使用期間、注意事項、治療の終わり方も含まれます。

第二は、データです。患者の回答、利用状況、症状、センサー情報を扱います。何を集め、どの判断へ使い、誰が見られるかを決めます。個人情報と医療情報を守るだけでなく、ソフトウェア更新後も効果と安全性を追います。

第三は、ケアです。医師、看護師、心理職、理学療法士、コーチなどが関わります。アプリが人を置き換えるのかを決めます。人が対応できない時間を補う場合もあります。役割によって必要な人員と責任が変わります。

第四は、流通と支払いです。医師の処方、病院への導入、保険請求などがあります。企業の福利厚生や製薬会社との提携も選択肢です。誰が買い、どの成果に対価を払うかを決めます。

DTx産業を治療、データ、ケア、流通の4層で整理した図
図3:Deep Researchレポートと国内外事業者の公式情報をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

4層の一部だけを持つ企業も参入できます。ただし、自社の層と、医療上の責任を持つ相手、患者へ届ける相手を契約でつなぐ必要があります。

4層を一社で抱えると、開発費と固定費が重くなります。反対に分業しすぎると、障害や離脱が起きたときに責任が曖昧になります。患者から見た窓口を一つにし、裏側では役割を明確に分ける設計が必要です。

治療の中核を持つ企業は、診療と流通を提携で補えます。医療IT企業は、複数製品の導入とデータ連携を共通化できます。保険者は、対象者の選定と成果連動の支払いを担えます。自社の資産から近い層を選ぶと、無理な垂直統合を避けられます。

国内外9事例で見るDTxの現在地

DTxという言葉は、広い範囲で使われています。ここでは、規制当局が承認した治療用ソフトウェアを扱います。人の支援を含むデジタルケアも分けて見ます。製薬会社との伴走型サービスと撤退例も整理します。

DTxに関わる国内外9事例と事業上の注目点
企業・組み合わせ 主な取り組み 位置づけ 事業上の注目点
CureApp 高血圧、ニコチン依存症、減酒などの治療アプリ 国内の承認DTx 医師用画面と診療報酬まで設計
サスメド 不眠障害へ認知行動療法を届けるMedcle 国内の承認DTx 2026年に保険適用・販売開始
塩野義製薬・Akili 小児ADHD向けENDEAVORRIDE 国内の承認DTx ゲーム型治療を医療流通へ接続
大塚製薬・Click Therapeutics うつ病症状の補助治療Rejoyn 米国の処方DTx 医薬品と併用する治療設計
GAIA うつ、不眠、不安などのソフトウェア治療 欧州のDTx基盤 共通基盤を複数疾患へ展開
Sidekick Health・Pfizer 炎症性疾患などのデジタル支援 製薬伴走型 薬と患者支援を複数国へ展開
Hinge Health 筋骨格系のデジタル理学療法 ハイブリッドケア センサーと療法士を組み合わせる
Omada Health 糖尿病、高血圧、肥満、筋骨格系の支援 多疾患デジタルケア 保険者・雇用主へ成果を説明
Pear Therapeutics 依存症などの処方DTxを開発 事業撤退例 承認後の流通と採算が課題

すべてを同じ市場として足すと、規制、収益、責任の違いが消えます。何を治療するかだけでは不十分です。誰が使わせ、誰が支払うかを見ます。途中離脱へ対応する人も確認します。

国内外9事例を規制型、製薬伴走型、ハイブリッド型、撤退例に分けた図
図4:各社、PMDA、厚生労働省、FDA、SECの公表資料をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

CureAppは、診察と家庭の行動をつないだ

CureApp HTは、成人の本態性高血圧症を対象とする治療補助アプリです。患者向けと医師向けの二つのアプリで構成されます。

患者は、血圧や生活の情報を入力し、減塩、運動、睡眠、節酒などの行動に取り組みます。医師は、診察時に医師用画面を見て、患者が診察室の外で何を実践したかを確認します。

ここで重要なのは、教材をスマートフォンへ移しただけではない点です。診察と診察の間に患者が行動し、その記録を次の診察へ戻す循環をつくっています。医師の指導を増やすのではなく、限られた診察時間で会話しやすくします。

同製品は保険診療の中で使われます。医療機関の導入、医師への説明、患者の開始支援が必要です。請求まで整えなければ利用は広がりません。CureAppはDTx-BASEも提供しています。薬事、保険収載、販売・流通を支援するサービスです。

新規参入企業にとっての学びは、治療アルゴリズムだけを資産と考えないことです。診療現場へ入れる手順、患者が続ける仕掛け、実際の利用データも競争力になります。

サスメドは、不眠の認知行動療法を日常へ届ける

サスメドのMedcleは、不眠障害の治療を支援するアプリです。7日間の睡眠衛生指導と睡眠表の後、8週間の認知行動療法をアプリで行います。

認知行動療法は、睡眠の習慣や考え方を見直す方法です。ただし、日々の記録と課題が必要で、専門家が十分にいない地域では受けにくいことがあります。アプリは、決められた治療内容を毎日届けることで、この不足を補います。

PMDAの審査報告書では、アプリの仕組み、対象患者、臨床試験の結果が確認できます。2026年6月には保険適用となり、販売が始まりました。

一方、利用できる患者と医師には条件があります。対象は軽症から中等症の不眠障害です。薬物療法に適さないか、同意しない人などに限られます。研修を受けた医師が治療を管理します。

この事例は、対象を広げれば売れるとは限らないことを示します。適する患者と使う医師を決めます。薬や対面治療へ切り替える場面も明確にします。その方が、安全に使いやすくなります。

塩野義製薬は、ゲーム型治療を医療流通へつないだ

ENDEAVORRIDEは、小児の注意欠如・多動症、ADHDの治療を補助するアプリです。ゲームのような課題を通じて、注意機能に関わる働きへ刺激を与えます。

基盤技術はAkiliが開発しました。米国では子ども向けのEndeavorRxを展開しています。成人向けにはEndeavorOTCがあります。Akiliの製品紹介では、処方型と一般向けの違いが分かります。

日本では塩野義製薬が事業化を担います。ENDEAVORRIDEとして承認を受けました。2026年6月の保険適用では、材料価格14,500円が設定されました。

この組み合わせの意味は、技術の導入だけではありません。海外のソフトウェアを日本の薬事と保険制度へ合わせます。医療機関、専門医、流通にも接続します。製薬会社の顧客接点が、アプリを患者へ届ける力になります。

技術企業が単独で医療機関を開拓するには時間がかかります。疾患別の販売網を持つ企業と組む方が速い場合があります。製薬会社は、薬以外の治療選択肢と患者接点を得られます。

大塚製薬とClickは、薬との併用を製品の前提にした

Rejoynは、うつ病の症状を軽くするために使う処方型DTxです。22歳以上で抗うつ薬を使っている成人を対象とし、医師が管理する外来治療へ追加します。

6週間のプログラムには、感情と認知の訓練があります。認知行動療法にもとづく短い学習も含まれます。メッセージで継続を促します。単独の治療や、薬の代わりとして使うものではありません。

Click Therapeuticsが技術を開発し、大塚製薬が共同で事業化しました。FDAのデータベースでは、2024年3月30日の判断と対象用途を確認できます。

DTxを「薬をなくす技術」と説明すると、使い方を誤解されます。Rejoynは、既存治療へ追加する位置を明確にしています。新しい治療では、まず補う場面を決めます。その方が、医療現場へ導入しやすくなります。

Hinge HealthとOmadaは、ソフトウェアに人の支援を重ねる

Hinge Healthは、腰や関節などの不調を扱います。運動療法、センサー、理学療法士などを組み合わせます。患者は自宅で運動し、必要に応じて専門家の支援を受けます。

Hinge Healthの2026年レポートは、デジタルと対面を組み合わせる考え方を示しています。アプリだけで完結させず、迷いや痛みが大きい患者を人へつなぎます。

Omada Healthは、糖尿病、高血圧、肥満、筋骨格系などを一つのデジタルケア基盤で扱います。コーチや専門家が関わり、保険者や雇用主へ臨床結果と医療費への影響を説明します。

両社のサービスは、すべてが処方型DTxではありません。しかし、事業を広げるうえで重要な示唆があります。症状の変化や離脱の兆候を人へ引き継げることです。危険な兆候にも人が対応します。

完全自動化に見せる必要はありません。反復はソフトウェアが得意です。難しい判断は人が担います。その方が、継続率と安全性を両立しやすくなります。

GAIA・Sidekick・Pearの軌跡が示す事業化の難しさ

GAIAは、うつ、不安、不眠、痛みなどを対象に、個別化したソフトウェア治療を開発しています。共通技術基盤brocaを使い、複数の疾患と提携先へ展開します。同社は、70を超える製品を開発したと説明しています。

Sidekick Healthは、Pfizerとアトピー性皮膚炎などの患者支援を展開しました。薬を使う患者へ、症状管理、生活行動、医療者との連絡を組み合わせます。製薬会社の製品価値を、服薬以外の体験まで広げる形です。

2社は、疾患ごとにすべてを作り直しません。治療コンテンツ、患者画面、データ管理、運用を基盤化しています。新規事業では、次の疾患へ再利用できる部分が重要です。

一方、Pear Therapeuticsは依存症向けDTxなどを持っていました。FDAの許可も得ていましたが、2023年に連邦破産法11条を申請しました。SECに提出された発表では、事業または資産を売却する方針が示されています。

承認は必要な関門ですが、売上を自動的につくるものではありません。処方する医師と保険請求の導線が必要です。患者の開始支援と継続利用も欠かせません。販売費まで含めなければ、良い臨床データを事業へ変えられません。

9事例から見えるDTx市場の空白

第一の空白は、治療を始めるまでの運用です。医師が説明し、患者が登録し、スマートフォンの設定を終えるまでに止まる人がいます。医療機関ごとの導入支援、患者サポート、保険請求をまとめるサービスには余地があります。

第二は、離脱を減らす仕組みです。毎日の課題が負担になる人がいます。改善を実感できず、通知を見なくなる人もいます。離脱の兆候を見つけ、必要なら人へつなぐ運用が必要です。

第三は、複数の治療をまたぐデータ連携です。電子カルテ、薬、検査、ウェアラブルが別々にあります。DTxまで分かれると、医師は全体を判断しにくくなります。必要な情報だけを診察前に要約する接続機能が求められます。

第四は、中小の製薬・医療機器企業向けの共通基盤です。疾患の知識や医療機関との接点があっても、足りない機能があります。ソフトウェア品質、臨床試験、薬事、患者サポートです。すべてを一社でそろえることは簡単ではありません。

SaMDの記事で扱う開発基盤と接点があります。ブレインテックの記事で扱う神経データも関係します。フェムテックの記事で扱う女性特有の課題にも応用できます。疾患別の診療導線へ組み込むことで、事業機会が具体化します。

自社はDTx事業のどこへ入れるか

治療、製薬伴走、複合ケア、流通から近い入口を確認します。

01 疾患知見と臨床研究に強い

治療アルゴリズムと臨床根拠を作り、製品の中核を担います。

  • 対象患者を絞れる
  • 臨床試験を設計できる
  • 薬事と品質の責任を持てる
02 製薬・医療機器の顧客基盤を持つ

既存治療と組み合わせ、患者の診察間を支えます。

  • 疾患別の販売網がある
  • 患者支援へ広げられる
  • 共同開発先を選べる
03 医療人材と運用に強い

アプリの反復支援と、人による例外対応を組み合わせます。

  • 医師や療法士と連携できる
  • 危険時の引継ぎを決められる
  • 継続率を運用で改善できる
04 医療ITと流通に強い

導入、患者登録、請求、データ連携を共通基盤にします。

  • 医療機関の業務を理解する
  • 複数製品へ標準化できる
  • 問い合わせと障害へ対応できる

NEXT STEP

次のステップ

治療ソフトウェアを、使われ続ける事業へ。

患者、医療者、臨床根拠、薬事、支払い、運用責任を一つの事業構造に整理します。

DTxの新規事業は、4つの入口から考える

第一は、治療の中核をつくる参入です。疾患領域の専門家、臨床研究、治療アルゴリズムを持つ企業が向きます。臨床試験と薬事の責任が重く、開発期間も長くなりますが、製品の中心を持てます。

第二は、製薬・医療機器の伴走サービスです。既存製品を使う患者へ、生活支援、副作用の記録、服薬継続、診察間の学習を提供します。薬そのものを作らなくても、治療体験とデータの設計で参入できます。

第三は、人を含むハイブリッドケアです。アプリ、オンライン診療、看護師、心理職、療法士、コーチを組み合わせます。ソフトウェアが毎日の支援を担い、例外や危険な兆候を人へ引き継ぎます。

第四は、流通と運用の基盤です。医療機関への導入、患者登録、問い合わせを支えます。保険請求、電子カルテ連携、実利用データも扱います。複数のDTxを扱えれば、個別製品に依存しない事業をつくれます。

DTx事業へ参入する4つの入口
図5:国内外9事例の事業構造をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

どの入口でも、最初に対象疾患、患者、医療者、支払者を一組にします。「多くの慢性疾患に使える基盤」から始めると、臨床上の価値と営業先がぼやけます。

デジタル治療の懸念は、薬事・効果・継続・支払いに集まる

最初の懸念は、薬事区分の誤りです。健康支援として始めたサービスでも、治療効果をうたうと規制対象になる可能性があります。表示、広告、営業資料まで含め、早い段階で専門家へ確認します。

次は、臨床試験と実際の利用の差です。試験では、決められた期間を使えても、実際の診療では止まることがあります。承認時の効果だけでは不十分です。導入率、開始率、完了率、途中離脱の理由を追います。

三つ目は、ソフトウェア更新です。OSや外部サービスを変更すると影響が出ます。治療内容や画面の変更も同じです。品質と安全性を確認してから公開します。

四つ目は、医療情報とサイバーセキュリティです。症状、服薬、行動、生活時間など、機微な情報を扱います。必要以上に集めないこと、権限を分けること、事故時に止めて説明できることが必要です。

五つ目は、責任の境界です。危険な症状をアプリが見つけたとき、誰がいつ対応するのか。患者が内容を誤解したとき、誰が説明するのか。製品会社、医療機関、提携企業の役割を決めます。

最後は、支払いです。患者、医療保険、企業、製薬会社の誰が買うのかによって、求められる成果が変わります。症状の改善、治療完了、医療費、休業日数など、支払者が確認したい結果を先に合わせます。

参入・提携・待機・見送りは、臨床責任で分ける

参入は、対象疾患の専門性と臨床試験の体制を持つ場合に向きます。品質管理や医療機関への導入力も必要です。すべてを自社で持つ必要はありません。ただし、治療上の責任を引き受けます。

提携は、強い資産が一部にある場合です。製薬会社は疾患と販売網を持ちます。IT企業はソフトウェア基盤を持ちます。保険者は支払いと利用者、医療法人は診療運用を持ちます。足りない層を補い、一つの患者導線へつなぎます。

待機は、技術はあるものの、対象患者と支払者が決まらない場合です。広い基盤を先に作らず、疾患を絞り、医療機関や製薬会社との関係をつくります。

見送りは、治療効果の根拠を持てない場合です。医療上の責任を負えない場合も該当します。問い合わせと事故対応を用意できないなら参入しません。健康増進サービスとして価値を出す選択もあります。

DTx事業への参入、提携、待機、見送りを分ける判断図
図6:国内外9事例と医療事業の責任構造をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

判断の中心は、アプリを作れるかではありません。患者へ治療を届け、その結果と安全に責任を持ち、対価が続く運用をつくれるかです。

DTxに関するよくある質問

Q. DTxは健康アプリと何が違いますか?

A. DTxは、病気や障害の治療または軽減を目的にします。ソフトウェア自体が治療を届けます。健康アプリは記録や健康づくりが中心です。製品の目的、臨床根拠、規制上の位置づけを確認します。

Q. DTxは医師の処方が必要ですか?

A. 製品と国の制度によって異なります。日本の保険診療で使うアプリには、医師の処方や管理が必要なものがあります。米国にも処方型DTxがあります。一方、一般向けの製品もあります。

Q. デジタル治療は薬の代わりになりますか?

A. 一部は単独で使われますが、すべてが薬を置き換えるわけではありません。薬と併用するもの、医師の指導や認知行動療法を補うものもあります。製品ごとの対象患者と治療上の位置づけが重要です。

Q. DTx企業はどこで収益を得ますか?

A. 保険診療の材料価格や技術料があります。保険者・雇用主との契約もあります。製薬会社との共同開発やライセンス、患者の自己負担も選択肢です。支払者が求める成果で事業モデルが変わります。

Q. DTxへ参入するのに医療機関は必要ですか?

A. 治療の中核を開発する場合は、臨床研究、医師の管理、実際の診療導線が必要です。運用基盤や患者サポートで参入する場合も、医療機関との連携が欠かせません。単なるアプリ開発会社だけでは完結しにくい領域です。

Q. DTx事業で最初に決めることは何ですか?

A. 対象疾患と患者、使う医療者、最初の支払者を一組にします。その後、ソフトウェアが担う治療を決めます。人へ引き継ぐ条件、評価する成果、薬事上の位置づけも整理します。

まとめ|DTxは、治療効果を運用へつなげて初めて事業になる

DTxは、治療をソフトウェアで届ける新しい方法です。患者は診察室の外でも治療へ取り組めます。認知行動療法、生活習慣の改善、認知訓練などを広げられる可能性があります。

国内では2026年に不眠障害と小児ADHDの治療補助アプリが保険適用となり、選択肢が増えました。海外では、医薬品との併用、人を含むハイブリッドケア、複数疾患に使う共通基盤が進んでいます。

一方、承認だけでは事業になりません。医師が使える診療導線が必要です。患者の開始と継続、問い合わせと事故対応も欠かせません。支払者が確認できる成果も示します。

新規参入では、4つの入口から担う役割を決めます。治療の中核、製薬伴走、複合ケア、流通・運用基盤です。不足する層は提携します。臨床責任を持てない場合は、健康支援から始める選択もあります。

DTxの競争力は、画面の美しさではありません。治療が必要な患者へ届き、続き、医療者が判断でき、結果に応じた対価が回る仕組みにあります。

参考文献

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対象患者、診療導線、臨床責任、最初の支払者、提携先を整理し、参入・提携・待機・見送りを支援します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

Digital Therapeutics Alliance、PMDA、厚生労働省、FDA、SEC、CureApp、サスメド、Akili、GAIA、Sidekick Health、Hinge Health、Omada Healthの公式資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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