投稿日:2026.10.01 最終更新日:2026.10.02
エンベデッドファイナンスとは?組込型金融の8事例と参入の考え方
エンベデッドファイナンスとは、買い物アプリや会計ソフトなどに、決済・送金・融資・保険の機能を組み込むことです。日本語では「組込型金融」と呼ばれます。
たとえば、会計ソフトで請求書を確認し、その画面から振込まで進める。飲食店が、毎日の売上を管理するシステムから運転資金を申し込む。金融機能を、顧客がもともと使っているサービスにつなぎます。
ただし、金融メニューを増やせば事業が伸びるわけではありません。大切なのは、顧客の仕事のどの途切れをなくすかです。別画面への移動や入力し直しを減らしても、審査、返金、障害対応は残ります。
この記事では、freee、JAL、トライアル、Kyashなどの国内例と、海外の通販・飲食店・旅行サービスを取り上げます。8つの取り組みから、誰に何を提供しているか、自社が参入するときに何を持ち、誰と組む必要があるかを考えます。
この記事の結論
金融機能を、顧客が必要な場面へつなぐ仕組みです。
- 組込型金融とBaaS・後払いの違いを理解する
- 国内外8事例の利用場面と、提供する企業の役割を読む
- 自社の顧客接点・業務データ・接続技術から参入を考える
目次
エンベデッドファイナンスとは、金融を「使う場面」へ近づけること
組込型金融を理解するには、「銀行へ行かなくなる」より、「必要な場面で金融を使う」と考える方がわかりやすいでしょう。銀行や貸金業者、保険会社の役割が消えるわけではありません。利用者との接点が、金融機関の窓口から日常のサービスへ広がります。
たとえば、通販サイトの出店者は、商品を仕入れたいと考えています。しかし、売上が入る前に仕入代金を払う必要がある。ここで出店者向けの資金調達を案内できれば、販売の仕事と金融の手続きがつながります。
旅行予約でも同じです。利用者が気にしているのは「保険商品を探すこと」ではなく、予約した旅行にどんな備えが必要かです。予約の流れの中で補償を選べれば、別のサイトで同じ旅行情報を入力する手間を減らせます。
一方、普通の広告との違いもあります。金融商品のリンクを置くだけなら、手続きは別の場所で始まります。組込型金融では、元のサービスのデータや操作を金融機能につなぎます。どこまでつながるかは、サービスと契約によって異なります。
ここで見たいのは、見た目の一体感だけではありません。「入力する」「審査を受ける」「お金が動く」「結果を確認する」のどこが変わったかです。この分け方で見ると、後ほど紹介する8事例の違いがはっきりします。
組み込むのは、決済だけではない
組込型金融には、次のような機能があります。同じアプリに複数の機能が入ることもありますが、利用条件と責任は機能ごとに確認します。
- 決済・送金:購入代金の支払い、出店者への売上の分配、取引先への振込
- 口座:サービスとつながる銀行口座、残高確認、チャージ
- 融資:事業者の仕入資金や、個人向けの借入申込み
- 保険・補償:旅行や購入の流れに合わせた補償の選択と請求
- 投資・資産運用:既存のアプリに、資産運用の申込みや管理をつなぐ
この記事では、日常の支払い・業務・旅行に近い前の4つを扱います。決済では返金が、融資では審査と返済が、保険では補償範囲と請求が問題になります。「金融APIをつなぐ」と一括りにすると、こうした違いを見落とします。出典:Stripeによる組込型金融の類型
BaaSとエンベデッドファイナンスは、どこが違う?
BaaSは、Banking as a Serviceの略です。銀行の口座・振込などの機能を、他社のサービスから使えるように提供する仕組みを指します。「銀行機能を部品として提供するもの」と考えると、意味をつかみやすくなります。
それに対して、エンベデッドファイナンスは、顧客のサービスに金融を組み込む使い方を表します。銀行機能だけでなく、決済、融資、保険なども含みます。BaaSは組込型金融を支える仕組みの一つであり、両者は同じ範囲の言葉ではありません。
APIは、別々のシステムが情報や指示をやり取りするための接続口です。たとえば、会計ソフトから銀行へ振込指示を送り、実行結果を受け取るときに使います。接続の技術と、金融を提供するための契約・審査は別の問題です。
| 言葉 | 何を表すか | 具体的なイメージ |
|---|---|---|
| エンベデッドファイナンス | 顧客サービスへ金融機能を組み込む使い方 | 会計ソフトから振込まで進める |
| BaaS | 銀行機能を他社へ提供する仕組み | 銀行の口座・振込機能をアプリへ接続する |
| API | システム同士の接続口 | 振込指示を送り、結果を受け取る |
| BNPL(後払い) | 商品を先に受け取り、支払いを後にする仕組み | 買い物時に後払いを選ぶ |
BNPLは、Buy Now, Pay Laterの略で、「今買って、後で払う」という意味です。後払いを購入画面に組み込む場合は、組込型金融の一例になります。ただし、組込型金融のすべてが後払いではありません。
国内外8事例で、組込型金融は何を変えたか
ここからは、利用者が実際に使う場面に沿って見ていきます。国内4例は会計・買い物・日常の支払い、海外4例は通販・飲食店・出店者管理・旅行です。共通するのは金融機能の追加ですが、減らす手間も、負う責任も異なります。
1.freeeとGMOあおぞらネット銀行:請求書と振込の入力し直しを減らす
経理担当者は、請求書を見て振込先と金額を確かめます。その後、銀行の画面に同じ内容を入力し、振込結果を会計に戻す。この行き来が残ると、支払いと会計処理が別々の仕事になります。
2026年1月に発表された「freee振込」は、freee会計の取引・請求書データを振込に使うサービスです。申請、振込の実行、証跡の管理をつなぎ、銀行の出金明細との照合まで行います。提供に当たり、GMOあおぞらネット銀行のフリー支店口座が必要です。口座開設には銀行の審査があります。出典:GMOあおぞらネット銀行の発表
変わるのは、「振込ボタンを会計ソフトに置くこと」だけではありません。請求書から会計まで同じ取引を追えるようにすることです。振込のたびにファイルを書き出し、銀行へ取り込み、実行後に照合する作業をつなぎます。
この例を新規事業として読むなら、請求データを持つサービスに強みがあります。ただし、取引が承認されたか、銀行が受け付けたか、実際に振り込まれたかは別です。接続する企業は、失敗した振込の通知や再実行まで考える必要があります。これは公表された機能から導く当社の設計上の論点です。
振込ボタンだけでなく前後の仕事をつなぐ
1 freee会計のデータ
請求先・金額を振込に使う入力し直しを減らす
2 申請・承認から指示
承認した支払いを
銀行へつなぐ
3 銀行で振込を実行
GMOあおぞらネット銀行フリー支店口座が必要
4 結果を会計に戻す
出金明細と取引を照合証跡を管理する
当社の確認事項
承認・受付・実行は別の状態
失敗の通知と再実行を決める
契約上の担当も別に確認
2.JALとドコモSMTBネット銀行:飛行機に乗らない日にも接点をつくる
航空会社は、利用者が飛行機に乗る日には接点を持てます。しかし、普段の買い物や支払いでは接点が少ない。JALの取り組みは、この日常の場面へ金融をつなぐ例です。
JAL NEOBANKは銀行サービス、JAL Payは日常の決済です。JALマイレージバンクアプリでは、マイルをためる・使う機能と、口座からのチャージ、支払いをつなげています。銀行側の公表対談では、決済の仕組みとアプリの開発を支えた経緯が説明されています。出典:銀行とJALの取り組み紹介
提携銀行の住信SBIネット銀行は、2026年8月に「ドコモSMTBネット銀行」へ商号を変更しました。銀行の現在の名称と、JAL NEOBANKという提携サービス名は分けて読みます。出典:商号変更の案内
事業上の着眼点は、口座の数だけではなく、既存の会員が日常で使う理由をつくることです。航空会社の強みは金融技術より、会員との関係やマイルの使い道にあります。会員基盤を持つ企業は、「自社の顧客が金融機能を使うと、元のサービスにどんな価値が戻るか」を考えられます。
ただし、銀行口座、決済残高、マイルは同じものではありません。利用者が残高を混同しない表示と案内も、サービス設計の一部です。
3.みんなの銀行とトライアル:買い物アプリへのチャージを銀行口座につなぐ
買い物アプリを使うとき、支払い前のチャージがひと手間になることがあります。トライアルの「SU-PAY(スーペイ)」は、この手間に銀行との接続を使った例です。
みんなの銀行は2024年にSU-PAYへのAPI連携を始め、銀行口座からアプリへ直接チャージできるようにしました。SU-PAYはトライアルグループの買い物に使うアプリです。2025年には、連携する「スーペイ支店」も開設しました。出典:みんなの銀行の発表
「支店」といっても、新しいスーパーの店舗ではありません。銀行側の提携支店です。利用者はみんなの銀行の口座を開設し、その口座をSU-PAYにつなぎます。買い物アプリだけで、銀行口座の手続きがすべて不要になるわけではありません。
ここで提供する価値は、金融機能そのものより、買い物前の準備をしやすくすることです。地域の店舗、会員、頻繁な買い物という接点が、利用のきっかけになります。
新しく組込型金融を考える企業も、まず利用頻度を見るとよいでしょう。年に一度しか使わないサービスと、毎週使うサービスでは、口座をつなぐ負担に見合う価値が違います。連携後に何を便利にするかが曖昧なら、口座開設を勧める理由も弱くなります。
4.GeNiEとKyash:ウォレットから借入れを申し込む
Kyashは、スマートフォンで使う決済サービスです。GeNiE(ジーニー)との連携では、Kyashの利用画面から「スポットマネー」を申し込めます。融資を行うのはGeNiEで、借り入れた資金をKyashの残高へチャージする仕組みです。
2024年10月に提供を始めました。GeNiEの導入事例では、2025年7月から、Kyashで本人確認済みの利用者は、GeNiE側での追加の本人確認が不要になったと説明しています。これは、本人確認の重複を減らす個別サービスの例です。出典:GeNiEのKyash導入事例
ただし、借入れはチャージへのプレゼントではありません。審査を受け、返済する義務があります。「アプリから申し込める」と「誰でも借りられる」は違います。手続きが簡単になるほど、この違いを利用者へわかりやすく伝える必要があります。
企業側にとっては、既存の顧客接点と、貸金業者の機能を組み合わせる例です。当社の分析では、入力を減らす設計だけでなく、借入条件の説明、審査結果の案内、困った場合の窓口まで一緒に考えることが重要です。申し込みやすさだけを成果として追うと、利用者への配慮が抜け落ちます。
5.Shopify Capital:通販の売上と、次の仕入資金をつなぐ
通販の出店者には、商品が売れる前に仕入資金が必要です。Shopify Capitalは、Shopifyを利用する事業者へ資金を提供するプログラムです。地域により、売上から回収する資金提供や融資など、形が異なります。出典:Shopify Capitalの公式ヘルプ
利用対象は、所在地、店舗の履歴、Shopifyの利用状況などの条件で決まります。米国、カナダ、英国などを対象としており、日本は公式の対象国一覧に含まれていません。日本のShopify出店者が同じサービスを利用できる、と読まないようにします。
米国の融資はWebBankが提供します。Shopifyは、通販の運営画面と事業者の資金調達をつなぐ側です。銀行であることと、金融機能をサービスへ組み込むことは別だとわかる例です。出典:Shopifyの金融サービス
この取り組みから考えられるのは、取引データを持つ業務サービスの立場です。利用者の売上や注文を把握するサービスは、資金が必要になる場面も把握しやすくなります。ただし、売上が見えるだけで融資判断ができるわけではありません。返金、不正注文、季節変動などもあるためです。顧客データを金融機関へ渡す目的と条件も、事前に合わせる必要があります。
6.Toast Capital:飲食店の売上管理から運転資金へ進める
飲食店では、食材や人件費の支払いと、売上の入金のタイミングがずれます。米国のToastは、注文・決済などを扱う飲食店向けシステムに、資金調達の窓口を組み込んでいます。
Toast Capitalの融資はWebBankが提供します。対象の判断には、Toastで処理したカード取引や店舗の情報などを使います。返済では日々のカード売上の一定割合を充てる仕組みを案内しています。ただし、返済期限や所定の条件もあるため、「売上が落ちれば返済義務もなくなる」とは言えません。出典:Toast Capitalの公式説明
利用者が欲しいのは、金融メニューの多さではありません。食材の仕入れや設備の更新を止めずに、店を運営することです。日常業務を扱うシステムと金融をつなぐと、資金の相談先を探す手間を減らせます。
Shopifyとの共通点は、事業者が毎日使い、売上の流れが見えるサービスだという点です。違いは、通販の在庫や発送と、飲食店の仕入れや店舗運営という業務の内容です。参入企業が選ぶべきなのは「融資の機能」だけでなく、どの業界のどの支出を理解するかです。
7.Stripe Connect:複数の売り手への売上分配をサービスに組み込む
通販の出店型サービスや予約サイトでは、顧客から受け取ったお金を、複数の売り手へ届ける必要があります。売り手の登録、支払い、売上の分配、返金を個別に作ると、運営の仕事が増えます。
Stripe Connectは、こうしたサービスを運営する企業向けに、決済と売上分配の仕組みを提供します。顧客が見る購入画面だけでなく、売り手の登録や管理に使う部品も組み込めます。こちらは、業界サービスに金融機能を提供する側の例です。出典:Stripe Connect
重要なのは、決済を外部に任せても、すべての損失を外部へ移せるわけではないことです。Stripeの公式資料は、返金などで残高がマイナスになった場合の責任が、決済の方式と設定で変わると説明しています。運営企業自身のマイナス残高は、運営企業が責任を負います。出典:Connectのリスクと責任
たとえば、売り手へ入金した後に顧客へ返金する場面を考えます。売り手の残高が不足していれば、お金を戻す手段と負担者が問題になります。以下の図はこの一般的な論点を示す当社の整理であり、個別のStripe契約条件を一律に図示したものではありません。
入金した後の返金で誰がお金を戻す?
1 顧客が商品を購入
運営サービスを通じて売り手の代金を受け取る
2 売り手へ売上を分配
売り手が入金を受け取るまだ取引は終わらない
3 後日、返金が発生
売り手の残高が足りないと資金を戻す手段が問題に
↓ 残高不足の確認へ
運営企業が確かめること
売り手:残高と返金の対象
決済事業者:戻す方法・状態
自社:資金負担と問い合わせ
方式・設定・契約で変わる
8.Cover GeniusとPriceline:旅行予約に合う補償と、請求手続きをつなぐ
旅行サイトのPricelineは、Cover Geniusの仕組みを使い、フライト、ホテル、レンタカーなどの予約に合わせて旅行の補償を提供しています。2024年の提携発表では、米国とカナダの利用者向けに提供すると説明しています。出典:PricelineとCover Geniusの提携発表
Cover Geniusの「XCover(エックスカバー)」は、補償の提供と購入後のサポートをつなぐ仕組みです。利用者はアカウントから契約内容を確認し、対象となる請求を進めます。支払いが行われるのは承認された請求であり、申し込めば無条件に補償されるわけではありません。
2026年7月のCover Geniusの公表でも、Pricelineは提携先として挙げられています。ここでは、旅行予約と補償をつなぐ提供例として扱います。出典:Cover Geniusの2026年発表
当社が注目するのは、販売後の手続きまで含む点です。購入画面で補償を選べても、事故やキャンセルの際に窓口がわからなければ、利用者の困り事は残ります。保険会社などと組む際は、補償範囲の説明、請求書類、受付窓口を合わせる必要があります。契約を売る場面と、利用者が助けを求める場面を別々に設計しないことが重要です。
エンベデッドファイナンスの動向は、提供済みと計画を分けて読む
8事例を見ると、組込型金融は、買い物の決済だけでなく、経理や店舗運営へ広がっています。ただし、発表が増えていることと、どの企業でも利益が出ることは別です。市場を見るときは、金融機能の種類と、実際に使える段階を確認します。
業務の前後までつながるサービスが出ている
freee振込では、支払いの前にある請求データと、後にある会計処理までつなぎます。Toastも、融資だけでなく、飲食店の資金管理に関わる機能を案内しています。出典:Toastの金融機能
当社の分析では、こうした方向は「金融商品を追加する競争」より、「業務をどこまで続けられるかの競争」と捉えると理解できます。単独の振込や融資は、他社も提供できます。それでも利用者が元のサービスに残る理由は、入力、承認、売上管理とつながっていることです。
ただし、便利になったという説明だけで効果を決めつけないことも重要です。入力の回数は減っても、例外処理が増える場合があります。導入後に比較するなら、通常処理の時間と、失敗した取引の対応時間を分けて見ます。
提携の発表を、提供開始と取り違えない
みんなの銀行とトランザクション・メディア・ネットワークス(TMN)は、2026年5月に基本合意を発表しました。銀行口座と直接つなぐ前払い・後払いの仕組みを、小売へ広げる計画です。開始目標は2027年度で、仕様や必要な資格などの検討を含みます。出典:みんなの銀行の基本合意発表
このような計画は、新しい顧客接点を示す材料になります。しかし、既に広く使われているサービスと同じ表に並べると、実現した範囲がわからなくなります。自社の提携先を探す場合も、発表済みか、接続できるか、対象業界で提供した実績があるかを順に確かめます。
大きな市場規模より、対象となる取引を特定する
組込型金融の市場推計には、決済の処理額、サービス事業者の売上、融資残高などが混在しやすくなります。定義が違う数値を一つの成長グラフにすると、自社の事業機会を大きく見積もってしまいます。
参入を考えるなら、まず「どの顧客の、どの取引へ入るか」を決めます。経理向けなら取引先への支払い、飲食店向けなら日々の売上と仕入資金、予約サイト向けなら購入と補償です。その取引がどのくらい発生し、自社がいくら受け取れるかを分けます。
組込型金融の収益モデルは、処理額と自社の売上を分ける
組込型金融では大きな額のお金が動きます。しかし、その全額が自社の売上になるわけではありません。口座残高、融資した金額、決済した金額は、それぞれ別の数字です。自社が受け取る利用料や手数料の配分を、先に確認します。
主な収入の考え方は3つあります。どれを採るかは、提供する仕事と提携契約で決まります。
- 利用料:振込や資金管理などの機能を使う企業から、月額や処理ごとの料金を受け取る
- 手数料の配分:決済や金融サービスの提供者と、契約で定めた収入を分ける
- 元のサービスの売上:金融機能により利用が続く、購入や出店が進むなど、既存事業の収入につなげる
3つ目は効果を測りにくい点に注意が必要です。金融機能の導入後に売上が伸びても、広告や価格変更の影響かもしれません。利用者数だけでなく、金融機能を使った人の取引がどう変わったかを見ます。
手数料率が小さい事業は、問い合わせの増加も効く
次は計算の考え方を示す仮の例です。自社が受け取る割合を処理額の0.2%と置きます。実際の相場や、特定企業の契約条件を示したものではありません。
| 月の処理額 | 自社の受取割合(仮定) | 自社の月の受取額 | ここから確認する費用 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 0.2% | 2万円 | 接続、監視、問い合わせ、提携先への支払いなど |
| 1億円 | 0.2% | 20万円 | 同左。件数や例外処理で変わる |
| 10億円 | 0.2% | 200万円 | 同左。規模に伴う追加体制も必要 |
この例では、処理額が1億円あっても、受取額は月20万円です。これは利益ではありません。専任の担当者や夜間対応を置くなら、その費用も考えます。
実際の見積もりでは、料金に既に含まれる費用と、別途払う費用を確認します。二重に引く必要はありません。一方、失敗した振込、返金、審査結果への質問などは、APIの利用料だけでは読めない費用です。
「大きな金額が流れるから儲かる」ではなく、「いくら受け取り、どの仕事を残すか」から収益を考えます。費用を払う顧客が決まらない場合は、先に新規事業の事業計画を整理する方が有効です。
自社の強みから、検討する入り口を選ぶ
近い状況を開き、確認する条件と本文の参入案を見てください。採点する診断ではありません。
NEXT STEP
次のステップ
顧客の業務と金融を、どうつなぐか
イノベーション総研は、顧客が困る業務、提供する機能、対価の受け取り方、必要な提携先を整理します。金融機能を増やす前に、自社が担える仕事を具体化しませんか。
エンベデッドファイナンスへ参入するなら、どの資産を使う?

組込型金融への参入は、自社が銀行や保険会社になることだけではありません。顧客接点、業務ソフト、接続技術、運用体制を生かす入り方があります。ここでは、公表事例を踏まえた当社の参入案として4つを整理します。
業務ソフトのデータから、支払いの仕事をつなぐ
会計、受発注、予約などの業務ソフトを持つ企業は、元の取引データを使えます。最初の顧客は、そのソフトを使い、入力や照合に時間をかけている事業者です。金融機能の利用料や、上位プランの料金を払う理由を作ります。
必要な資産は、金融APIだけではありません。誰が支払いを承認したか、どの請求に対応するか、変更があったかという履歴です。提携する銀行や決済事業者と、失敗時の通知、再実行、結果の取り込みを合わせます。
freeeの例に近い入り方ですが、同じ会計機能を作る必要はありません。建設の出来高払い、卸売の締め支払いなど、特定業界の複雑な仕事を扱う余地も考えられます。ただし、これらは当社の仮説です。顧客の負担と支払い意向を確認し、提供済みのサービスがないかも調べます。
会員や店舗の接点から、日常の支払いへ入る
小売や会員サービスを持つ企業は、日常的に使う理由を作れます。必要な資産は会員数だけではなく、来店頻度、アプリの利用場面、購入後の問い合わせ対応です。
金融機関と組み、口座やチャージを導入する場合も、既存の決済手段との比較が必要です。利用者が新しく口座を開く負担を上回る利点があるか。アプリの利用条件や残高の説明が理解されるか。店舗で困った利用者を案内できるかを考えます。
この入り方では、利用者に直接高い料金を払ってもらうより、元の事業への効果を狙う場合があります。その分、金融機能だけの採算と、既存事業への効果を混ぜない管理が必要です。小規模な会員基盤なら、新しい口座より既存の決済手段の接続から検討する方法もあります。
売上を持つ業界で、資金需要と提携先をつなぐ
通販や飲食店のように、売上と支出を理解できる業界では、資金調達への接続を考えられます。最初の顧客は、日常業務で使うシステムの利用者です。必要な資産は取引データ、業界の資金繰りへの理解、本人や法人の確認、問い合わせ体制です。
提携先は、貸付けを行い、審査や契約を担う金融機関などです。自社が何を案内し、どのデータを提供し、どの報酬を受け取るかを合わせます。顧客の売上が下がる場面では、資金需要も貸倒れへの懸念も変わります。
「売上データがあるので、誰でも貸せる」という入り方は避けます。審査、貸付け、返済、苦情の担当が決まらないなら進めません。個人向けの借入れでは、利用者にわかりやすい説明ができるかも重要です。
金融機能を使う企業へ、接続と運用の支援を提供する
自社に大きな会員基盤がなくても、導入する企業の仕事を支える入り方があります。必要な資産は、業務システムと金融システムをつなぐ技術、取引の記録を突き合わせる知識、障害を調べて復旧する体制です。
費用を払うのは、組込型金融を導入する企業です。システム構築だけでなく、日々の照合、失敗時の通知、問い合わせの切り分けを提供する案が考えられます。提携先には、金融事業者と既存の業務ソフト提供者が必要になります。
たとえば「送金に失敗した」という問い合わせを受けたとき、銀行の受付前か、受付後か、送金先の確認待ちかを区別します。こうした対応を商品にできれば、接続後にも価値を提供できます。ただし、責任の範囲や対応時間が曖昧なまま、何でも受ける契約にはしません。
組込型金融で見落としやすい懸念と、見送り条件
参入案を決めたら、利用者に見える画面と、その裏で残る仕事を分けて確認します。使いやすい画面でも、お金と記録が合わない、問い合わせ先がわからない、必要な資格が未確認という状態では進められません。
1.接続できることと、適法に提供できることは違う
口座、送金、融資、保険では、必要な資格や登録、説明、個人情報の扱いが異なります。どの機能を誰の立場で提供するかによって、自社が担う行為も変わります。「銀行と組めば、自社には何の確認もいらない」と決めつけないことが重要です。
金融庁は、事業者の相談窓口としてFinTechサポートデスクを設けています。参入前に、提携先と専門家を交え、実際の業務と必要な手続きを確認します。この記事の事例紹介は、個別の法的な可否を判断するものではありません。出典:金融庁の相談窓口
この確認では、「金融機能を提供する」という言い方を分けます。利用者へ何を説明するか、申込みをどう受け付けるか、どこまでお金を扱うか、誰の指示を金融機関へ送るかを整理します。説明できない部分が残るなら、提携契約を先に確定しません。
2.残高の表示と、お金の記録が一致するか
利用者のアプリに残高が表示されても、銀行側の記録と一致しているかは別の確認です。各社が違う記録を持つ場合、取引ごとの識別番号と、結果を突き合わせる仕組みが必要になります。
米国では、金融サービスをつなぐSynapseの破綻に関連し、記録の不一致が利用者の資金アクセスを妨げた問題を、連邦預金保険公社(FDIC)が説明しています。銀行の破綻に備える制度と、銀行以外の事業者が破綻した際の問題は同じではありません。出典:FDICの説明
これは米国の事例であり、その制度を日本へそのまま当てはめるものではありません。当社が読み取る論点は、画面、取引記録、金融機関の記録を一致させる重要性です。接続先が止まった際に、利用者ごとの記録を取り出せない設計は避けます。
3.返金や不正利用の負担者が決まっているか
決済が成功した後にも、取消し、返金、不正利用の申立てが起こります。売り手へ入金した後に返す場合は、誰が資金を出すかが問題になります。
Stripeの例が示すように、負担は方式や設定によって変わります。自社の想定する取引で、利用者、売り手、金融事業者、運営企業のどこへ問い合わせが来るかを追います。通常の取引だけで料金を見積もらず、返金が増えた場合の資金と対応件数も確認します。
入金後の返金や売り手の撤退について、契約と運用が決まらないなら開始を見送ります。顧客に「金融事業者へ聞いてください」と言うだけでは、元のサービスへの信頼も守れません。
4.顧客データを使える範囲が明確か
顧客の売上、購入履歴、本人確認の情報は、金融機能に有用です。しかし、元のサービスで集めた情報を、別の目的に自由に使えるわけではありません。
どの情報を誰へ渡し、何に使い、利用者へどう説明するかを確認します。金融機能への連携を断った場合に、元のサービスへどんな影響があるかも整理します。手続きの簡単さと、利用者が内容を理解して選べることは両立させる必要があります。
Kyashのような本人確認の連携も、個別の仕組みです。他のサービスで同じ情報を使えると推測してはいけません。データを持っていることより、適切に利用できる範囲が確認できていることが重要です。
5.提携先を変える、サービスを終える場合に対応できるか
金融機能は、接続先の仕様や料金、提供方針に影響されます。サービスを終了する場合も、画面を消すだけでは終わりません。取引の履歴、残高、返済、補償の請求などを扱う必要があります。
開始前から、取引記録の出力、問い合わせの引継ぎ、利用者への通知を考えます。提携先が変わっても、自社が説明すべき取引を追えるかを確認します。自社側に記録がなく、接続先の画面を頼りにするだけなら、復旧や引継ぎが難しくなります。
参入判断では、最初に提供する機能を小さくすることも有効です。これは内容を薄くするためではありません。支払いを扱うなら、その支払いの開始から失敗時の対応まで、責任を決められる範囲で提供するためです。
エンベデッドファイナンスのよくある質問
用語の違いと、参入を考える際の出発点をまとめます。自社が必要とする機能によって、提携先と確認する条件は変わります。
まとめ:組込型金融は、顧客の仕事と責任をつなぐ事業
エンベデッドファイナンスは、金融を日常のサービスへ近づけます。会計ソフトの支払い、買い物のチャージ、通販や飲食店の資金調達、旅行の補償では、必要な機能も利用者の困り事も違います。
参入企業の強みは、金融機能の数だけでは決まりません。顧客の業務を理解し、入力や照合の手間を減らし、失敗した取引まで追えることが重要です。顧客接点、取引データ、接続技術、運用体制のどれを持っているかで、入れる仕事が変わります。
まずは、顧客が困る一つの仕事を選びます。その仕事に金融をつなぐ価値、費用を払う人、必要な提携先、残る責任を整理します。使いやすさと、お金を確実に扱う仕事を同時に考えることが、参入の出発点です。
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会員基盤、業務ソフト、取引データ、運用体制。自社の強みを使い、どの顧客へ何を提供するかを整理します。イノベーション総研への相談で、参入案と不足条件を具体化しませんか。