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オープンイノベーションの失敗事例に学ぶ|提携後に止まる6つの原因

「有力企業と提携したのに、実証から先へ進まない」。オープンイノベーションの失敗を防ぐには、相手の技術力だけでなく、自社の役割、判断者、事業化の条件も確認する必要があります。相手を替える前に、何が次の判断を止めているかを分けましょう。

本記事では、公開資料で確認できる3事例と、大企業の新規事業関与者888名への独自調査を基に、協業が止まる6つの原因を整理します。PoC(技術や事業の仮説を小さく確かめる実証)の開始前に合意する項目と、停滞した案件を立て直す手順まで紹介します。

実在企業の終了理由と、イノベーション総研が自社への応用として提案する点検項目は分けて説明します。読後には、次の会議で誰と何を決めるかを具体化できます。

この記事のポイント

  • 終了した協業を一括りにせず、事業不成立・相手の撤退・研究の完了を分ける
  • 連携先の能力と、自社の情報・人員・判断の準備を別々に確認する
  • 6つの原因から、次の判断を直接止めているものを一つ選ぶ
  • 検証する問い、双方の役割、判断基準、成果の扱いを合意して動く

目次

提携は成立したのに、オープンイノベーションが進まない理由

スーツ姿の二人が握手する手元
提携の合意に加え、双方が何を出し、誰が判断するかを具体化します。

オープンイノベーションは、社外の技術や知識と自社の資産を組み合わせ、新しい価値をつくる取り組みです。ただし、相手の技術が優れていても、それを試す顧客や現場、社内で判断する人がそろわなければ、提携から先へ進めません。

相手に足りない能力と、自社で用意していない条件を分ける

連携先を選ぶときに技術力や実績を確かめるのは、当然の準備です。しかし、相手の提案を受け取るだけでは、協業は動きません。自社も顧客への接点、試験環境、担当者の時間、予算を使う判断を提供する側だからです。

たとえば、現場のデータを使う共同開発で、データの利用許可が取れていないとします。この状態で開発会社を替えても、検証できない条件は変わりません。一方、必要なデータを渡したうえで合意した性能を満たせないなら、技術や開発体制の見直しが論点になります。

イノベーション総研では、連携先の評価と、自社が協業を進められる状態かの確認を分けます。相手の責任を曖昧にするためではありません。変更すべきものが技術なのか、役割なのか、社内の判断手順なのかを取り違えないためです。

外部連携の基本的な型や、自社だけで進める場合との違いは、オープンイノベーションの意味と進め方で確認できます。本記事では、すでに始めた協業が止まる原因と、次の案件での予防に絞ります。

終了した協業を、すべて失敗として扱わない

検証の結果、採算が合わないと分かり、追加投資を見送ることがあります。当初の学習目標を達成し、別の研究へ成果を移す終了もあります。「提携が続かなかった」という結果だけでは、判断の良し悪しを評価できません。

逆に、契約や会議が続いていても、得られた事実で何も決めていないなら、同じ費用を使い続ける理由が不明です。見るべきなのは、継続期間よりも、何を確かめ、何が分かり、その結果として何を選んだかです。

この区別をせずに終了案件を減点すると、担当者は問題を報告しづらくなります。事業として成立しなかったことと、問題を把握しても判断を先送りしたことは、振り返りでも別の項目にしてください。

オープンイノベーションの公開3事例|終了理由を分けて読む

共同プロジェクトの終了には、事業が成立しなかった場合、連携先が離れた場合、学習成果を次へ移した場合があります。ここでは公式発表で確認できる3事例を取り上げ、終了の事実と、自社で確認したい条件を分けて説明します。

TradeLens:技術が動いても、業界の参加と採算がそろわなかった

TradeLensは、MaerskとIBMが開発した貿易情報の共有基盤です。Maerskは2022年11月29日、実用可能な基盤は開発できた一方、必要な世界規模の業界協力を得られず、独立した事業を継続するための商業性に届かなかったとして、提供終了を発表しました。Maerskの公式発表は、技術面の成立と事業面の不成立を区別しています。

イノベーション総研がこの事例から重視するのは、共同開発の成功条件と、事業として続く条件を別々に置くことです。参加企業が増えて初めて価値が生まれる仕組みでは、開発の完了だけを次の投資の根拠にできません。

同様の基盤事業を検討する場合は、誰が情報を提供し、誰が利用し、誰が費用を負担するかを分けます。そのうえで、各参加者にとって既存の方法から乗り換える理由があるか、参加が想定より少なくても提供を続けられるかを検証します。「有力企業と組めた」だけでは、この確認の代わりになりません。

Quayside:連携先の撤退と、開発全体の終了は別だった

カナダ・トロントのQuayside再開発では、Waterfront Torontoが2020年5月7日にSidewalk Labsの撤退を公表しました。同時に、Quayside自体は今後も都市課題への解決策を探る機会であり、開発を進める考えを示しています。これはWaterfront Torontoの公式声明で確認できる範囲です。

自社へ応用したいのは、一社の離脱で何が止まり、何を継続できるのかを事前に整理する視点です。たとえば、複数の企業が関わる地域サービスなら、システム開発、現場運営、顧客窓口を一つの契約先へ依存させていないかを確認します。

ここで自社が書き出したいのは、代替可能な役割、他社では代替できない資産、引き継げる成果です。連携先の離脱で止まる部分と、自社で続ける部分を区分し、それぞれに引き継ぐ担当者を置きます。

E-Fan X:共同実証の終了後も、得られた知見を活用する

AirbusとRolls-Royceは、ハイブリッド電動推進の実証プロジェクトE-Fan Xを2020年4月に終了しました。Airbusの公式解説では、当初の主要目標を達成し、得られた知見をその後の取り組みに活用するとしています。

これは「終了したから技術検証は無駄だった」と扱わないための対照事例です。学習を目的とする共同研究なら、量産や販売に至ったかだけでなく、何を解明し、どの判断に使え、どこへ引き継いだかも評価する必要があります。

一方、学習成果を理由に、当初の事業目標を後から曖昧にするのも避けたいところです。開始時点で事業化を目指していたのか、技術の可能性を調べる実証だったのかを記録し、目標を変えた場合はその理由を残します。

成果を次へつなぐ例は、オープンイノベーションの成功事例でも紹介しています。3事例に共通する学びは、終了という言葉の中身を分けることです。事業の採算を判断したのか、一社との連携を見直したのか、研究の段階を終えたのか。その違いが、自社で置くべき予防策と引き継ぎ方を変えます。

新規事業の調査では、技術だけでなく社内の判断も壁になる

外部の能力を取り込んでも、自社の投資判断が動かなければ事業化は進みません。イノベーション総研が大企業で新規事業に関わった888名へ行った調査では、PoCや検証から事業化・拡大へ移る際の障壁として、次の項目が多く最上位に選ばれました。

事業化・拡大への移行で、最も大きい障壁として選ばれた項目

経営層の継続的な後ろ盾が不足19.6%
判断基準が曖昧で意思決定が停滞18.9%
投資判断の承認を得られなかった11.1%
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)。全回答888名を分母とした1位回答の上位3項目。小数第1位に四捨五入。

この結果を踏まえ、イノベーション総研では、外部連携の準備にも「自社で誰が、何を根拠に次の投資を判断するか」を含めるべきだと考えます。相手が技術や試作品を提供しても、経営層の後ろ盾や社内の判断基準までは代わりに用意できないからです。

これは新規事業全般の回答であり、外部連携だけに限った数値ではありません。自社では、技術の検証計画と並べて、社内の承認・予算・引受部門を点検する材料として使います。

経営層への説明が繰り返し差し戻される場合は、資料の枚数を増やす前に、判断者が知りたいことを確かめます。技術性能を示してほしいのか、顧客が支払う根拠なのか、事業部が引き受ける条件なのかで、追加すべき検証が変わります。

オープンイノベーションが止まる6つの原因と対策

ここからは、公開事例とイノベーション総研の実務知見を踏まえ、協業を点検する観点を6つに整理します。これは自社の案件を点検するための整理です。各項目では、起きている状態から、次に変える条件へ進みます。

1.提携そのものが目的になり、何を確かめるかが決まっていない

提携発表や面談件数を目標にすると、相手と会う活動は増えても、事業として何が分かったのかが残らないことがあります。テーマが広いままでは、提案を受ける側も「面白いが、もう少し具体的に」という感想しか返せません。

探索段階で幅広く話を聞くこと自体は有効です。ただし、探索を終える日と、その時点で選ぶ対象を置きます。実証へ進むなら、「誰の、どの問題を、どの方法で確かめるか」まで絞る必要があります。

たとえば、工場向けの点検サービスを検討する架空の案件なら、「AIで何かできないか」から「夜間点検の見落としを減らし、作業者が使えるか確かめる」へ変えます。技術紹介を受け続けるのではなく、現場で確認する作業が決まります。自社の案件でも、次回の面談を増やす前に、この一文を書いてください。

2.相手に任せる一方で、自社の情報や担当者を出していない

連携先へ成果を求める一方、自社の顧客情報、現場の制約、検証環境が渡っていない場合があります。相手は公開情報だけで考えるため、提案が一般論になりやすくなります。「理解が浅い」と評価する前に、具体化に必要な材料が届いているかを確かめます。

自社の技術や顧客情報を、無条件に開示する必要はありません。まず、公開できる情報、秘密保持の合意後に渡せる情報、共有しない情報を区分します。技術を開示できない場合も、試験への立ち会いや、合意した条件での性能確認など、確かめる方法を相談できます。

共同作業の計画には、相手の納品日だけでなく、自社が提供するデータ、試験場所、窓口、担当者の時間も記載します。提供が遅れたら、納期だけを据え置くのではなく、検証範囲と日程を双方で見直します。

3.会議は続くのに、継続・修正・終了を決める人がいない

議事録に「継続検討」が並ぶ場合は、情報不足と権限不足を分けて確認します。判断に必要な事実が足りないのか、事実はあるのに担当者だけでは決められないのかで、次の対応は違います。

各社で追加費用、期間延長、終了を決める人を明確にし、判断日を計画へ入れます。会議の議題も「進捗共有」ではなく、「今回の結果で次の試験へ進むか」のように、選ぶ内容で書きます。

追加検証を選ぶなら、何が分かれば判断が変わるかまで決めます。「もう少し情報を集める」だけでは終了日を置けません。反対に、どの結果でも決定が変わらないなら、追加資料より先に判断者へ確認する必要があります。

4.PoCは成功しても、販売・運用を引き受ける部門がいない

一定の条件で技術が動いたことと、顧客へ継続提供できることは同じではありません。報告書が完成してから販売部門へ持ち込むと、価格、保守、品質などの不足が初めて分かることがあります。

実証前に、事業化した場合に売る部門、品質を確認する部門、運用する部門を洗い出します。担当を正式に決められない段階でも、誰に引受条件を確認するかは決められます。すべての会議へ全員を呼ぶ必要はなく、検証計画と中間結果を確認する場を設けます。

工場で使うサービスなら、精度だけでなく、誤検知への対応、停止時の代替手段、運用工数も論点です。実証の評価項目にどこまで含めるかは、PoCから事業化へ進むための設計も参考に、実際に引き受ける部門と決めます。

5.成果が出てから、知財・データ・利益の配分を話し始める

「共同でつくる」という合意だけでは、できた成果を誰が何に使えるかは決まりません。以前から持っていた技術、新しく共同開発したもの、顧客から預かったデータを区別しないと、顧客への提供直前に協議が止まることがあります。

最初から将来のすべての権利条件を確定できなくても、持ち込み資産、利用目的、共有先、終了後に残したいものを整理できます。所有と利用を一つの問いにせず、「誰が持つか」と「誰がどの範囲で使えるか」を分けて法務・知財担当者へ渡してください。

特許庁のオープンイノベーションポータルでは、秘密保持、PoC、共同研究開発、ライセンス等のモデル契約書を確認できます。事業担当者は取引の実態と希望を整理し、個別の条項や法的な扱いは法務・知財担当者や専門家と詰めます。ひな形を使うだけで合意が完成するわけではありません。

6.承認にかかる時間と、試作品に求める品質が食い違う

一方は早く試して改善したいのに、もう一方は本番と同じ品質を求める。担当者は進めたいのに、社内承認の時期を相手へ伝えていない。こうした違いを「文化が合わない」の一言でまとめると、直すべき作業が見えなくなります。

開始時に、担当者が即答できる範囲、正式承認が必要な範囲、回答予定日を共有します。品質は「高品質」という表現ではなく、社内試験、限定した顧客での実証、正式提供の段階ごとに必要条件を決めます。安全・法令・情報管理に関わる確認を省いて速さを出すものではありません。

期限に間に合わないと分かったら、黙って保留せず、新しい回答日と、その間に進めてよい作業を伝えます。相手の人員を確保できる期限や、次の資金判断の時期も確認し、待つ・範囲を縮める・終了する選択を相談します。

複数の原因が重なる案件では、全部を同時に直そうとせず、次の判断を直接止めているものを選びます。データを共有できないのに分析精度を議論する、引受部門がいないのに機能を増やす、といった順序の逆転を避けることが先です。

いま止まっている場面から、最初の確認を選ぶ

近い項目を開き、次の会議で確認することを一つ選んでください。点数で優劣を判定する診断ではありません。

01 面談は増えるが、検証に進まない

相手探しと、今回確かめる問いを切り分けます。

  • 優先して確かめたい顧客の問題は何か
  • 探索を終えて対象を選ぶ日はいつか
  • 次の面談で確認したい事実は何か

検証する問いの決め方 →

02 提案が一般論のまま具体化しない

具体化に必要な情報を、自社が渡せているか確認します。

  • 共有できる顧客情報や現場条件は何か
  • 共有に必要な承認を誰が取るか
  • 担当者が共同作業に使える時間はあるか

自社が提供する材料の整理 →

03 毎回「継続検討」で会議が終わる

追加情報が必要なのか、決裁者が必要なのかを分けます。

  • 今回決めたい選択肢は何か
  • 各社で費用や期間を決める人は誰か
  • どの事実が得られれば判断が変わるか

判断者と判断日の決め方 →

04 実証の後を引き受ける人がいない

販売・品質・運用の条件を、実証の途中から確認します。

  • 顧客への提供を担う部門はどこか
  • 引受けに必要な性能や運用条件は何か
  • その条件を確かめる試験が含まれているか

事業化を引き受ける部門との調整 →

05 成果を使ってよい範囲が分からない

権利の結論を急ぐ前に、使いたいものと目的を整理します。

  • 以前から持っていた資産と共同成果を分けたか
  • 誰が何のために使う予定か
  • 法務・知財担当者へ確認する内容は何か

知財・データの論点の整理 →

06 回答待ちや品質の違いで作業が止まる

抽象的な文化の違いを、日程と品質条件へ分解します。

  • 担当者が決めてよい範囲はどこまでか
  • 正式承認の回答予定日はいつか
  • 試験段階で必要な品質を合意したか

速度と品質のすり合わせ →

イノベーション総研のCompassは、新規事業の状況と課題を整理する診断サービスです。外部へ任せる工程を決める前に、自社の判断・体制も含めて見直す入口として利用できます。

NEXT STEP

次のステップ

協業が止まる理由を分け、検証を実行できる体制へ

社内の判断や役割の不足を確認するなら、Compassで現状を整理できます。検証計画や試作、顧客への確認を進める人手が必要な場合は、事業化に向けた実行支援を確認してください。

協業前に合意する4項目|共同検証票の記入例

原因を点検したら、次の共同作業で使う計画へ落とします。イノベーション総研では、検証内容、双方の役割、判断方法、成果の扱いを分けた共同検証票を提案します。契約書を置き換える書面ではなく、担当者が同じ前提で動くための一覧です。

次は、メーカーと開発会社が工場の点検支援を試す架空の記入例です。成果を約束する数値例ではなく、曖昧な依頼を実行できる粒度へ変えるために示しています。

工場向け点検支援を共同検証するときの合意内容(架空例)
合意する項目 共同検証票への記入例 確認する人・時点
検証する問いと期限 夜間点検の見落としを減らし、作業者が使えるか。対象設備と試験期間を限定する 現場責任者と共同開発担当者が、着手前に対象と期間を確定
双方の役割と提供物 自社は利用許可を得たデータと試験場所、相手は試作品と技術担当者を提供する 双方の担当者が、提供日と不足時の対応を確認
次へ進む基準と判断者 現行業務と比べた見落とし、誤検知、運用負荷を確認し、追加投資の可否を決める 現場・品質担当が基準を確認し、各社の権限者が判断日に決定
成果・費用・終了後の扱い 持ち込み技術、共同成果、顧客データを分け、利用範囲と費用負担、終了後の残作業を整理する 事業・法務・知財担当が契約と照合し、開始前に合意

この記入例で大切なのは、「必要に応じて協力」「成功したら事業化」と書かず、作業と判断をつなぐことです。各項目について、双方が同じ説明をできるか確認します。一致していない部分は、始めてから調整する前提にせず、確認する人と期限を決めます。

合格基準は、現場で使う条件から逆算する

「精度が高ければ合格」では、誰が何を見て判断するのかが分かりません。見落としてはいけない異常、許容できる誤検知、作業者が対応できる量、利用できる設備条件を、現場とすり合わせます。その条件を満たすための試験方法と、比較する現行業務を決めます。

基準を数値にする場合も、業界共通の万能な合格値を当てはめません。同じ精度でも、事故につながる工程と、人が確認して補助的に使う工程では必要条件が異なります。対象外の設備や利用場面を明記し、検証していない範囲へ結果を広げないことが必要です。

条件を変えるときは、理由と再承認を残す

新規事業では、試して初めて分かることがあるため、計画変更は起こります。問題は変更自体ではなく、目標や期限だけが書き換わり、何を根拠に変えたかが分からなくなることです。

共同検証票を更新するときは、新しく分かった事実、変える作業、追加費用や期間、再承認した人を残します。変更前の基準も保管し、結果が悪かったから合格条件を緩めたのか、前提が変わったから別の検証へ進むのかを説明できるようにします。

開始前に止める条件まで置く方法は、新規事業の撤退基準の作り方で詳しく扱っています。共同案件では、自社だけの判断日でなく、相手側の承認時期と整合させてください。

停滞したオープンイノベーションを立て直す4ステップ

すでに止まりかけている案件では、新しい提案を集める前に、今ある事実と約束をそろえます。次の4ステップで、検証を直すのか、範囲を縮めるのか、終了するのかを判断できる状態に戻します。

1.会議回数ではなく、確かめた事実を集める

まず、顧客、技術、運用、採算について、実際に分かったことを整理します。提案書に書かれた見込みと、顧客が発言したこと、試験で観測したことは別です。記録には出所と条件を付け、担当者の印象だけで「ニーズがない」「技術は問題ない」とまとめないようにします。

たとえば、現場担当者が好意的でも、予算を持つ人には話していない場合があります。その場合は「購入意向あり」ではなく、「利用者の関心は確認したが、購入の判断は未確認」です。こう書き分ければ、次に話す相手が明確になります。

2.次の判断を止めている条件を一つ選ぶ

次に、6つの原因へ照らし、いま最も直接的に進行を止めている条件を特定します。相手側の成果が足りないなら、約束した作業と実際の実施内容を確認します。自社の担当やデータ提供が遅れているなら、その不足を先に扱います。

解消しないまま顧客への正式提供や大きな追加投資へ進むと、やり直しの負担が増えます。未整理の知財やデータの利用範囲を広げる作業は、関係者と確認するまで留めます。ただし、既存顧客への対応、安全管理、合意済みの保守まで一律に止めないよう、継続する業務も明記します。

3.修正・縮小・追加検証・終了を比べる

「続けるか、やめるか」だけでは、方法を直せば答えが出る案件まで終了させるおそれがあります。目的が変わっていないか、判断材料を追加できるか、必要な人と費用を確保できるかを同じ項目で比べます。

停滞した共同検証で、状況に応じて選ぶ次の対応
選択肢 選ぶ状態 次に定めること
方法を修正する 確かめる価値のある問いは残るが、現状の方法では答えが出ない 対象・方法の変更理由、担当、必要費用と期限
対象を縮小する 一部には成立の見込みがあるが、全対象を同時に扱えない 残す対象、今回は外す対象、限定しても続ける価値
不足する点だけ追加検証する 限られた事実を確認すれば、継続・終了の判断を変えられる 得たい事実、入手方法、その結果ごとの次の選択
協業を終了する 今回の目的に進めず、追加費用を使う根拠も置けない 終了手順、顧客対応、成果・データ・費用の処理と責任者

追加検証を選ぶ理由は、まだ可能性があるからではなく、判断を変える事実を得られるからです。同じ対象に同じ方法を繰り返しても不足が埋まらないなら、検証方法か対象を変える必要があります。

4.各社の担当者と、次に決める日を確定する

方針が決まったら、担当者、成果物、期限、次の判断日へ分解します。「社内に確認する」で止めず、誰に何を確認し、いつ相手へ回答するかまで記録します。双方が同じ最新版を参照できる保存先も決めます。

たとえば、販売部門の引受条件が不足している案件なら、共創担当者が条件を推測して埋めるのではなく、販売責任者と運用担当者に確認する場を設定します。確認結果で検証項目を変える必要がある場合は、相手側の費用・日程も含めて再合意します。

協業を終えるときは、成果を使える条件まで引き継ぐ

終了報告は、経緯を説明して終わる資料ではありません。次の担当者が同じ失敗を繰り返さず、利用できる成果を探せる状態にすることが役割です。知見があっても、使う権限や引受人が不明なら、別の案件で活用できません。

終了理由を「ニーズがなかった」の一言にしない

想定した顧客に課題がなかったのか、課題はあるが支払いにつながらなかったのか、試験条件が合わず判断できなかったのかを分けます。それぞれ、見直すべきものは顧客、提供方法、検証方法と異なります。

終了時の記録には、次の項目をそろえます。契約などの原本を重複して保管するのではなく、正式な保存先と確認担当者へたどれるようにします。

  • 開始時の目的と、検証対象にした顧客・技術・利用場面
  • 確認できた事実、否定された仮説、確認できなかったこと
  • 継続せず終了を選んだ理由と、判断者
  • 再利用できる成果物、利用できる範囲、追加許可が必要な範囲
  • 顧客対応、データの返却・削除、費用精算などの残作業と担当者
  • 再開を検討する条件、記録の保存先と管理者

「今回は使わないが、別用途では使えるかもしれない」成果は、用途だけでなく成立した条件を残します。試験した設備、データの条件、未検証の範囲が分かれば、次の担当者が利用可否を確認しやすくなります。

再開条件を決め、保管したままの案件を増やさない

再開条件は「市場が伸びたら」より具体的に書きます。必要な性能を満たす技術が利用可能になる、引受部門が決まる、対象顧客の予算が確保されるなど、終了判断の根拠を変える出来事に結び付けます。

誰がその変化を確認するかも決めておきます。すべての終了案件を定期会議へ戻すのではなく、条件が変わった案件を検討対象にするためです。技術知見を別の用途へ移す場合は、技術シーズを事業化する進め方も参考に、新しい顧客の課題から検証を組み直します。

失敗事例を自社の協業へ生かすためのよくある質問

ここでは、事例の選び方、協業相手の変更、期限、契約、外部支援についての疑問を整理します。自社の状態に近い問いから確認してください。

Q. 公開された失敗事例が少ない分野では、どう学べばよいですか

A. 同業種に限らず、自社と似た協業の仕組みを持つ事例を探します。複数社の参加が必要な基盤事業、共同研究、販売提携では、確認すべき条件が違います。公式に確認できる出来事と、自社で点検したい論点を分け、分からない内部事情を推測で埋めないようにしてください。

Q. どのような場合に協業相手の変更を検討しますか

A. 自社が約束した情報・人員・試験環境を提供したうえで、相手が合意した役割を果たせない場合や、必要な技術・提供体制と合わないと分かった場合です。先に不足する条件と改善の可否を双方で確認し、変更に伴う引き継ぎ、費用、成果の利用条件も含めて比較します。相手を替えても残る社内の課題は、別に解消する必要があります。

Q. PoCは何か月で終了すべきですか

A. 一律の期間ではなく、確かめる問い、顧客の利用周期、試験環境の準備に必要な時間から決めます。開始時に中間確認日と最終判断日を置き、延長する場合は、追加で得る事実と費用を示します。延長しても判断材料が変わらないなら、単に期間を増やすのではなく、検証方法や継続の是非を見直します。

Q. 秘密保持契約を結べば、共同開発を始めても大丈夫ですか

A. 秘密保持の取り決めだけで、開発する範囲、費用負担、成果の利用、終了時の対応まで決まるとは限りません。事業担当者は、何を提供し、何をつくり、誰がどう使うかを整理してください。必要な契約や個別の条項は、取引の実態に応じて法務・知財担当者や専門家と確認します。

Q. 外部支援会社には、どの仕事を任せればよいですか

A. 不足している工程を具体化して選びます。たとえば顧客への確認、試作品の開発、検証計画の設計では必要な専門性が異なります。相手へ頼む作業と、自社が決めることを分け、成果物だけでなく、得られた顧客情報や判断の根拠を社内に残せるかも確かめます。会社の知名度や提案の広さだけで選ばないことが大切です。

まとめ|相手を替える前に、次の判断と自社の役割を決める

オープンイノベーションの失敗事例は、有名企業の結末を覚えるためではなく、自社で変えられる条件を見つけるために読みます。終了理由を分けたうえで、目的、自社の提供物、判断者、事業部への引き継ぎ、成果の扱い、速度と品質の違いを点検してください。

まずは現在の案件について、「次の会議で何を決めるのか。そのために、自社と相手が何を用意するのか」を一枚に書きます。空欄があれば、相手選びをやり直す前に、確認する人と期限を置くことが第一歩です。

検証の設計や実行体制を自社だけで整えにくい場合は、役割を絞って外部支援を使う方法もあります。判断材料と知見を社内に残すことを前提に、必要な工程だけを相談してください。

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連携先の問題か、社内の判断・体制の問題かが分からない。実証の後を引き継ぐ部門が決まらない。現在止まっている場面を起点に、整理すべき条件と必要な支援をご相談いただけます。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

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