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浸透圧発電はどこまで実用化した?福岡・欧州8事例と参入余地

浸透圧発電は、どこまで実用化しているのか。
膜や水処理の企業にも、参入余地はあるのか。

結論は、濃度差、正味電力、膜、既存インフラの4条件で決まります。福岡と欧州の8事例から、仕組みと事業機会を整理します。

この記事の結論

浸透圧発電は、排水と既存インフラを組み直す事業です。

  • 国内では福岡の実用設備が2025年8月に運転を始めました。
  • 有望なのは、濃縮海水や高濃度かん水と既存取排水を使える立地です。
  • 膜・部品、前処理・監視、設備統合、候補地評価から参入できます。

浸透圧発電は、海水と淡水などの塩分濃度差を電気に変える発電技術です。天候に左右されにくく、これまで捨てていた排水を使える点から、次世代の再生可能エネルギーとして注目されています。

2025年8月には、福岡市の海水淡水化センターで国内初の実用設備が運転を始めました。一方、ノルウェーでは、大手電力会社が河口水を使う開発から撤退した歴史もあります。

この二つは矛盾しません。河川水と海水を新たに取り込む発電所と、既存施設から出る濃縮海水と処理水を使う設備では、得られる圧力も建設費も違うからです。

本記事では、浸透圧発電の仕組み、PROとREDの違い、福岡と欧州の8事例を平易に整理します。そのうえで、膜メーカー、水処理会社、装置会社、デジタル企業がどこから参入できるかを考えます。

結論を先に述べます。浸透圧発電は「どの河口でも発電できる巨大電源」ではなく、まずは濃縮海水や高濃度の塩水が安定して出る施設に組み込む事業です。勝敗を分けるのは、発電機の最大出力ではありません。ポンプや前処理に使う電力を引いた正味電力と、既存の取排水設備を使える立地です。

自社の膜、ポンプ、計測、水処理、プラント運用の技術を、どの事業機会へつなげるか整理したい場合は、新規事業の無料診断で現在地を確認できます。

目次

浸透圧発電とは、塩分濃度差を電気に変える技術

浸透圧発電とは、濃い塩水と薄い水が混ざるときに生まれるエネルギーを電力として取り出す技術です。「塩分濃度差発電」「海洋濃度差発電」「ブルーエネルギー」と呼ばれることもあります。

身近な例で考えます。水だけを通し、塩を通さない半透膜で、淡水と塩水を仕切ります。すると、水は塩分の薄い側から濃い側へ移動します。両側の濃さを近づけようとする自然な動きです。

この水の移動を止めるために必要な圧力が、浸透圧です。浸透圧発電では、この力をタービンの回転やイオンの移動へ変え、電気をつくります。

佐賀大学海洋エネルギー研究所は、主な方式を圧力遅延浸透圧発電のPROと、逆電気透析発電のREDに分けています。どちらも濃度差を使いますが、発電までの道筋が異なります。

浸透圧発電の特長は、燃料を燃やさず、太陽光や風の強さにも直接左右されないことです。ただし、海水と淡水があれば自動的に利益が出るわけではありません。水を運ぶポンプ、汚れを取る前処理、膜の交換にも電力と費用がかかります。

浸透圧発電の仕組み
図1|PRO方式で濃縮海水と処理水から正味電力を得る流れ。福岡地区水道企業団、協和機電工業、佐賀大学海洋エネルギー研究所の公式情報をもとにイノベーション総研作成。

日本の浸透圧発電は、2025年に実用設備が動き始めた

国内では、福岡市東区の「まみずピア」に設けられた設備が大きな転機です。2025年8月5日に運転を始め、国内初の浸透圧発電の実用設備と位置づけられています。

福岡地区水道企業団によると、設備は海水淡水化センターから出る濃縮海水と、近隣の水処理センターから出る下水処理水を使います。どちらも従来は博多湾へ放流していた水です。

計画上の発電電力は230kWです。ただし、施設内のポンプなどにも電力を使うため、外部で使える正味発電電力は約110kWです。年間発電量は最大約88万kWh、稼働率はメンテナンスを含め約90%を想定しています。

ここで重要なのは、「230kW発電できる」より「110kW残る」という事実です。浸透圧発電では、総発電量から補機の消費電力を引いた数字が事業価値になります。

もう一つの意味は、立地です。まみずピアには、海水淡水化の取排水設備があります。隣には下水処理水の流れがあります。新しく河川から水を引き、海水を取り込み、長い配管を造る必要がありません。

さらに、淡水化で通常の海水より濃くなった塩水を使うため、大きな濃度差を得られます。浸透圧発電の実用化は、膜性能だけでなく「濃い水と薄い水が、すでに隣り合っている場所」を見つけたことで進みました。

運転開始後は5年間の検証が予定されています。実用設備が動いたことと、全国へそのまま展開できることは別です。膜の汚れ、交換周期、季節による水質変動、保守工数、正味発電量を継続して見る必要があります。

PROとREDでは、浸透圧発電の仕組みが異なる

塩分濃度差から電気を得る代表的な方式は、PROとREDです。事業を考えるときは、二つを同じ「膜の発電」として扱わず、水質、濃度、設備、顧客に合わせて分けます。

PROは、水が膜を通る力でタービンを回す

PROはPressure Retarded Osmosisの略で、日本語では圧力遅延浸透と訳されます。半透膜を挟んで淡水から塩水側へ水を移動させ、高圧になった水流でタービンを回します。

主な設備は、半透膜モジュール、ポンプ、圧力交換器、タービン、発電機、前処理装置です。高濃度の塩水を使うほど強い浸透圧を得やすいため、製塩、海水淡水化、地熱、化学工場の排水と相性があります。

福岡の設備、デンマークのSaltPowerはPROです。機械、水処理、膜、プラント制御を組み合わせるため、既存の水処理企業が入りやすい方式でもあります。

REDは、塩のイオン移動から直接電気を取り出す

REDはReverse Electrodialysisの略で、逆電気透析と呼ばれます。陽イオンだけを通す膜と、陰イオンだけを通す膜を交互に並べます。塩水中のイオンが薄い側へ動くことで電位差が生まれ、電流として取り出します。

REDはタービンを使わず、膜の積層体であるスタックが中心です。低い圧力で動かせる一方、イオン交換膜の抵抗、流路の圧力損失、電極反応、膜の汚れが性能を左右します。

オランダのREDstackや、フランスのSweetch Energyがこの系統です。膜材料とスタック設計の知的財産を持つ企業にとって、PROとは異なる参入機会があります。

比較項目 PRO RED
電気を得る流れ 水の移動で圧力をつくり、タービンを回す イオンの移動で電位差をつくる
中心部品 半透膜、圧力容器、ポンプ、タービン 陽・陰イオン交換膜、スタック、電極
向きやすい水 濃縮海水、製塩かん水、高濃度排水 海水と河川水、濃縮水と低濃度水
主な難所 高圧対応、膜汚れ、ポンプ電力、圧力損失 膜抵抗、膜コスト、流路、電極、汚れ
主な参入企業 水処理、ポンプ、膜、EPC 膜材料、電気化学、スタック、制御

方式選定は、研究室での最高出力だけで決めません。年間を通じた水量と水質、前処理の費用、膜寿命、停止時間まで含め、正味発電量と保守費で比べます。

浸透圧発電の市場は、予測額より使える水の組み合わせで読む

浸透圧発電の市場予測は、調査会社によって大きく異なります。PROだけかREDも含むか、波力や潮流発電まで含むか、発電所の売上か膜や装置の売上かで金額が変わるためです。

新規事業の判断では、世界市場の数%を自社売上として置くより、使える立地から積み上げます。最初に確認する数字は、対象施設の数、水量、塩分濃度、取排水設備の距離、年間稼働時間です。

候補市場 濃い側の水 薄い側の水 顧客が解決したい課題
海水淡水化施設 淡水化後の濃縮海水 下水処理水 自家消費電力と排水負荷を減らす
製塩・塩洞窟 飽和に近いかん水 工業用水、河川水 製造時の未利用圧力を回収する
化学・鉱業・資源回収 高濃度の工程排水 処理水 排水処理費と電力費を同時に下げる
地熱・地下水 高塩分の地下水 冷却水、河川水 既存の流体から追加電力を得る
河口・デルタ 海水 河川水 連続する自然エネルギーを利用する

河口は資源量が大きく見えますが、新しい取水、導水、ろ過、環境対策が必要です。対して、工場や水処理施設には、すでに配管、ポンプ、運転員、電力需要があります。発電単価だけでなく、排水処理や脱炭素の価値も合わせやすくなります。

市場規模を算定するときは、候補施設ごとに「正味kW×稼働時間×電力価値」を置きます。そのうえで、排水処理費の削減、設備利用料、保守費、膜交換費を加減します。算定の考え方は、市場規模の調べ方TAM・SAM・SOMの使い分けも参考になります。

バリューチェーンは、膜から水インフラ運用まで4層ある

浸透圧発電は、発電装置だけで完結しません。膜・部品、モジュール、プラント統合、運用の四つがつながって、初めて正味電力を継続して得られます。

浸透圧発電のバリューチェーン
図2|浸透圧発電を支える4層と、各層の価値・評価指標。各社の公式情報と専用調査をもとにイノベーション総研作成。

第1層は、膜と高圧部品をつくる

PROでは、水を通しながら塩を通しにくい半透膜が必要です。高い圧力でも破れず、汚れても洗浄できることが求められます。REDでは、イオンを選んで通す膜の低い電気抵抗と耐久性が重要です。

高圧ポンプ、圧力交換器、シール、耐食配管、センサーも欠かせません。既存の海水淡水化、化学プラント、食品、医薬で使われている部品を、濃度差発電へ合わせる機会があります。

第2層は、膜を使えるモジュールにまとめる

膜が一枚高性能でも、事業にはなりません。大きな面積を小さな容器に収め、水を均一に流し、膜の交換と洗浄をしやすくする必要があります。

この層の競争力は、膜の性能と流路設計を一体で扱えることです。実際の排水には有機物、微粒子、微生物が含まれます。水質が変わっても圧力損失を増やさない設計が求められます。

第3層は、既存施設へ組み込む

水源の位置、配管の距離、流量、圧力、前処理、タービン、電力設備を一つのシステムにします。総発電量を増やすだけでなく、ポンプの電力を減らす水理設計が価値になります。

顧客は発電装置ではなく、止まらない水処理施設を運営しています。浸透圧発電を追加しても、本来の淡水化、下水処理、製塩を妨げない設計と責任分界が必要です。

第4層は、正味電力と水質を保証する

運用では、膜の差圧、塩分、流量、濁度、洗浄、停止時間を監視します。売電量だけでなく、排水の塩分をどこまで下げられたか、既存施設の電力をいくら相殺したかも評価します。

発電設備を販売するだけでなく、保守契約、膜交換、性能保証、ESCO型の成果報酬へ広げられます。長期の運転データを持つ企業ほど、次の立地で精度の高い採算設計ができます。

国内外8事例で見る、浸透圧発電の現在地

ここでは、企業と研究機関を、稼働中、実証中、部材供給、過去に終了した開発へ分けます。将来計画だけを「商用化」と呼ばず、確認できる設備と役割を中心に整理します。

企業・事業体 方式・役割 確認できる段階 事業として見る点
協和機電工業 PROシステム・EPC 福岡で実用設備を運転 水処理と発電の統合
福岡地区水道企業団・福岡市 水源・実証フィールド 5年間の検証を開始 既存の上下水道資産
東洋紡 PRO用中空糸膜 デンマーク設備へ供給 海水淡水化膜の技術転用
SaltPower・Nobian 高濃度かん水PRO 製塩所で100kW級を運用 工場内の濃度差と自家消費
Sweetch Energy ナノ材料を使う浸透圧発電 OPUS-1で実環境実証 膜とスタックの知財・量産
CNR 立地、河川、プラント運用 ローヌ川河口で共同実証 水利・運転・事業開発
REDstack・Wetsus REDスタック・研究 Afsluitdijkで実証 電気化学スタックの横展開
Statkraft 河口型PROの先行開発 2009年試験、2013年開発終了 発電原価と膜性能の教訓

表から分かるのは、実装が一社だけでは進んでいないことです。膜、装置、水源、運用を分けて持つ連携が、現在の共通形です。

協和機電工業は、水処理の現場からPROを実用設備へつないだ

協和機電工業は、福岡の設備でPROシステムの開発、建設、運用を担っています。公表値では、230kWの発電から補機電力を引き、約110kWを正味電力として取り出す計画です。

同社の強みは、膜だけではありません。海水淡水化、下水処理、ろ過、電気設備を扱ってきたため、異なる二つの放流水を止めずに扱えます。浸透圧発電を、水処理施設へ後付けする設備としてまとめています。

今後は、濃縮海水ではなく一般的な海水と下水処理水を使う技術も開発しています。実現すれば対象施設は増えますが、得られる濃度差が小さくなるため、膜性能と補機電力の条件は厳しくなります。

福岡地区水道企業団と福岡市は、放流水を事業資産に変えた

福岡地区水道企業団は、まみずピアから出る濃縮海水を提供します。福岡市は、和白水処理センターの下水処理水を提供します。二つの公共インフラが隣接するため、未利用だった流れを発電へ変えられました。

この事例は、自治体が発電技術を自ら作らなくても、新規事業の重要な担い手になれることを示します。安定した水量、敷地、許認可、既存設備、長期の運用データは、技術企業だけでは持てません。

一方、5年間の検証期間では、発電量だけでなく本来の水道・下水道運営への影響を見る必要があります。公共施設では、故障時の復旧、費用負担、データ公開も事業モデルの一部です。

東洋紡は、海水淡水化膜の知見を高濃度PROへ展開した

東洋紡は、デンマークのSaltPowerが開発した設備へ中空糸型のFO膜を供給しました。円筒の容器に細い膜を高密度で収め、濃い塩水と淡水を均一に流す構造です。

同社は海水淡水化向けRO膜を長く手掛けています。そこで培った耐圧性と膜製造を、圧力を受けながら水を通すPROへ応用しました。既存製品の顧客、品質保証、量産設備を新用途へ移す参入例です。

膜メーカーの収益は、設備の初回販売だけではありません。運転中の交換需要、用途別の膜設計、洗浄条件、性能診断まで持てれば、継続収益へつながります。

SaltPowerとNobianは、製塩所の濃いかん水を使う

デンマークのSaltPowerは、高濃度かん水を使うPRO設備を開発しています。Nobianの事例では、地下の岩塩層から塩を採る工程で生じる濃い塩水と淡水の差を使います。

東洋紡の公表によると、Nobianの製塩所に設けた設備は約100kWです。河口の海水より濃度の高い水を使えるため、同じ膜面積から大きな圧力を得やすくなります。

顧客にとっての価値は、電力を売ることだけではありません。製塩工程の中で使う電力を減らし、既存の配管と運転員を生かせます。発電技術を単独の発電所ではなく、工場の省エネ設備として売る考え方です。

Sweetch Energyは、バイオ由来膜とスタックの量産を狙う

フランスのSweetch Energyは、バイオ由来材料を使うナノスケール膜と流路を組み合わせたINODを開発しています。水を高圧で押すPROとは異なり、塩のイオン移動を電気へ変える系統です。

同社はCNRと、ローヌ川デルタでOPUS-1を運転しています。同社のプロジェクト説明では、実際の河川水と海水を使い、取水、ろ過、自動運転、膜洗浄を検証しています。

注目点は、材料の性能だけでなく、膜とスタックの製造工程、デジタル制御まで一体で量産しようとしていることです。ただし、OPUS-1は実証施設です。デルタ全体の発電可能量は、現在の発電量ではありません。

CNRは、河川運用と事業開発を提供する

フランスのCNRは、ローヌ川の水力発電や河川管理を担う事業者です。Sweetch Energyへ実証場所を提供し、水理試験、取水、ろ過、周辺設備の設計を支援しています。

CNRの役割は、技術を買う顧客にとどまりません。実際の水を扱い、環境との調整を行い、発電設備として運用できるかを確かめる共同事業者です。両社は浸透圧発電の展開に向けた共同事業体も設けています。

この形では、スタートアップがすべての設備と許認可を持つ必要がありません。技術企業とインフラ企業が、知財と立地・運用を分けて持つ参入モデルです。

REDstackとWetsusは、REDから膜スタックの横展開へ進む

オランダのREDstackは、研究機関Wetsusのブルーエネルギー研究から生まれた企業です。2015年には、海水とアイセル湖の淡水が接するAfsluitdijkでREDの実証設備を稼働させました。

REDでは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を何枚も重ねます。発電の研究で磨いたスタックは、脱塩や資源回収にも使えます。Wetsusの2025年の紹介では、REDstackが電気化学膜スタックの企業へ発展したことが示されています。

一つの発電市場だけに依存せず、同じ膜・流路・電極の技術を、水処理や金属回収へ広げる戦略です。浸透圧発電の立ち上がりが遅くても、周辺市場で売上と運転知見を積めます。

Statkraftの撤退は、河口型の採算条件を示した

ノルウェーのStatkraftは、2009年にTofteで世界初の浸透圧発電の試験設備を開きました。技術が動くことは確認できましたが、2013年に開発投資を止めました

同社は、競合する発電技術と同程度のコストへ届くほど、効率を高められないと判断しました。当時の膜は出力密度が低く、大きな膜面積と設備が必要でした。河口から大量の水を取り込む費用もかかります。

この失敗から、「浸透圧発電そのものが動かない」とは言えません。むしろ、通常の海水より濃い水、既存の取排水、工場内の自家消費という現在の事業条件が、なぜ重要かを示す比較対象です。

浸透圧発電の成否は、4つの条件で決まる

国内外の事例を並べると、勝敗は最高出力だけで説明できません。濃度差、正味電力、膜の生涯費用、立地という四つを同時に満たす必要があります。

浸透圧発電の採算を決める4条件
図3|浸透圧発電の採算を左右する4条件。福岡、SaltPower、Sweetch Energy、Statkraftの公式情報をもとにイノベーション総研作成。

条件1:濃い水と薄い水が、安定して供給される

塩分濃度差が大きいほど、取り出せるエネルギーは増えます。ただし、瞬間的に濃いだけでは足りません。年間を通じた濃度、流量、温度の変化を測る必要があります。

製塩所のかん水や淡水化後の濃縮海水は有望です。一方、工場の生産計画が変わると排水量も変わります。発電設備の稼働率を、顧客の本業に依存するリスクがあります。

条件2:ポンプ電力を引いても、電気が残る

浸透圧発電では、水を膜へ送り、ろ過し、圧力を保つために電力を使います。総発電電力ではなく、設備内で使う電力を引いた正味電力を見ます。

福岡の公表値は、総発電230kWに対し、正味約110kWです。差分は無視できません。水源が遠い、配管が細い、膜が汚れるほど、ポンプの消費電力が増えます。

条件3:膜の交換まで含めて利益が残る

膜は、出力、塩の遮断、耐圧性、汚れにくさを同時に求められます。最高性能の膜が、実際の排水で長く使えるとは限りません。

確認する数字は、単位面積当たりの出力だけではありません。年間の性能低下、洗浄回数、停止時間、交換周期、交換作業の費用を含めます。膜の販売価格が安くても、頻繁に交換すれば発電原価は上がります。

条件4:新しい土木工事を最小にできる

大量の水を扱う設備では、取水口、配管、ろ過、放流口が大きな投資になります。河口へ発電所を造るより、淡水化施設、下水処理場、製塩所へ追加する方が投資を抑えやすくなります。

立地は、技術の外側にある条件ではありません。水利、敷地、配管、環境影響、運転員を持つ事業者との契約が、後発企業にはまねしにくい競争力になります。

浸透圧発電への関わり方を4つの判断に分ける

参入:実水で使える技術と顧客接点がある

膜・部品、前処理・監視、設備統合など、自社資産に近い層から入ります。

提携:技術はあるが、水源・EPC・運転を持たない

水を持つ事業者と組み、データ、責任、収益を契約で分けます。

待機:年間の水量と水質をまだ測れていない

発電設備を造る前に、既存施設へ計測を入れ、候補地を絞ります。

見送り:世界市場と最大出力だけで計画している

顧客の費用、正味電力、膜交換、配管費を説明できない計画は進めません。

浸透圧発電で狙える4つの新規事業

新規参入は、発電所をすべて自社で造る方法だけではありません。自社の技術、顧客、投資余力に応じて、四つの入口を考えられます。

浸透圧発電で狙える4つの新規事業
図4|自社資産と負う責任から整理した4つの参入方法。主要8事例と専用調査をもとにイノベーション総研作成。

参入案1:膜・部品を複数の設備会社へ供給する

対象は、半透膜、イオン交換膜、膜支持体、シール、耐食配管、高圧ポンプ、圧力交換器、センサーです。材料、繊維、化学、ポンプ、計測の企業が検討できます。

最初の顧客は、浸透圧発電のモジュール会社や水処理EPCです。売るものは部品の最高性能ではなく、実水での耐久データ、交換手順、品質幅、長期供給です。

収益は、試作サンプル、量産部品、交換品、用途別の共同開発から得ます。足りない膜評価やプラント運用は、大学、水処理会社、実証サイトと組みます。

停止条件は、実際の排水で性能が急に落ちる、既存品より総保有費が下がらない、特定一社の計画に売上が依存する場合です。

参入案2:前処理と運転監視をサービス化する

膜の汚れや詰まりを抑えるろ過、薬品、洗浄、センサー、異常検知を提供します。水処理、化学品、IoT、設備保全の企業に向きます。

最初の顧客は、福岡型の淡水化・下水処理施設や、製塩・化学工場です。顧客の痛みは、発電量の低下よりも、予期しない停止と本業への影響です。

初期診断料、監視の月額利用料、膜寿命の延長に応じた成果報酬が考えられます。装置会社と組み、どこまでを監視会社が保証するかを契約で分けます。

停止条件は、必要な水質データを得られない、異常時に自動制御へ介入できない、削減効果より計測費が高い場合です。

参入案3:既存水インフラへ発電設備を統合する

海水淡水化、下水、製塩、地熱、化学プラントへ、PROまたはREDを追加します。水処理EPC、プラント会社、電気工事、自治体インフラの企業が中心です。

最初の顧客は、濃い排水と薄い処理水が近く、既存の取排水設備を使える事業者です。売電所を造るのではなく、電力費と排水負荷を下げる設備として提案します。

設計・建設費、保守契約、削減額に連動するESCO型の収益が考えられます。膜会社、タービン会社、自治体、電力会社との連携が必要です。

停止条件は、水源が遠い、本業設備の停止リスクが高い、正味電力が小さい、許認可と配管費を含めると投資回収が成立しない場合です。

参入案4:候補地評価と事業開発を担う

設備を製造せず、候補施設の探索、水量・塩分データの分析、概念設計、収益モデル、連携先の組成を提供します。エネルギー、水インフラ、商社、コンサルティングの企業に向きます。

最初の顧客は、排水を持つが活用方法を決められない自治体や工場です。塩分濃度だけでなく、配管距離、前処理、本業の運転、電力単価、環境価値を一つの投資判断にします。

候補地調査、基本設計、共同事業の組成、運転後の成果管理が収益源です。装置を持たない分、複数方式を公平に比べられる立場を取れます。

停止条件は、必要データを出せない、土地や水の利用権を確保できない、技術会社の計画値だけで採算を置く場合です。

参入前に確認したい、浸透圧発電のデメリットと懸念

浸透圧発電は、連続運転できる可能性がある一方、低密度のエネルギーを大量の水から集める設備です。利点だけで判断せず、次の懸念を事業計画へ入れます。

膜の汚れと濃度分極で、出力は下がる

実際の河川水や下水処理水には、微粒子、有機物、微生物が含まれます。膜表面に付着すると、水やイオンが通りにくくなります。膜の近くで塩分濃度が偏る濃度分極も、理論上の圧力差を弱めます。

対策には前処理と洗浄が必要ですが、設備費と消費電力が増えます。短期試験の最大出力ではなく、数か月から年単位の平均出力を確認します。

正味電力が小さくなる可能性がある

水を大量に動かすため、配管の摩擦やろ過の詰まりがそのまま電力消費へ表れます。発電電力が増えても、ポンプ電力が同じだけ増えれば価値は残りません。

見積もりでは、定常運転だけでなく、起動、停止、洗浄、非常時の電力を含めます。総発電量と正味発電量を同じグラフで示すことが重要です。

水源と顧客に依存する

浸透圧発電は、燃料を買わない代わりに、水の流れへ依存します。淡水化施設が止まれば濃縮海水も止まります。工場の製品構成が変われば、排水の塩分や温度も変わります。

長期契約では、最低水量、水質の範囲、停止の通知、改修費の負担を決めます。水を提供する側と発電設備を運営する側で、責任を曖昧にしません。

環境負荷は、燃焼しないことだけでは判断できない

設備は水を取り込み、ろ過し、混ぜて放流します。取水による生物への影響、洗浄薬品、放流水の塩分と温度、膜廃棄を評価する必要があります。

既存の放流水を使う方式は、新規取水を減らせる可能性があります。ただし、現場ごとの環境影響評価を省けるわけではありません。

規模を大きくすると、同じ性能が出ないことがある

研究室の小さな膜と、何千枚もの膜を使う設備では、流れの偏りと保守の難しさが変わります。装置を大きくしたときに、膜の全体へ同じ水を流せるとは限りません。

実証では、最高出力だけでなく、連続運転時間、停止原因、膜交換時間、作業人数、交換部品の供給を記録します。

NEXT STEP

次のステップ

発電所を造る前に、自社が持つ入口を見つける。

膜、部品、水処理、監視、顧客、立地のどこから入り、誰と組み、どこまで責任を持つかを整理します。

浸透圧発電へ参入するかは、4つの判断に分ける

自社に関連技術があっても、すぐに発電事業へ進む必要はありません。参入、提携、待機、見送りを、顧客と責任の持ち方で分けます。

判断 向いている状態 次に確認すること
参入 実水で使える膜・部品・水処理技術と顧客接点がある 正味電力、交換周期、本業への影響を現場で測る
提携 技術はあるが、水源、EPC、運転、許認可を持たない 水を持つ事業者と責任・データ・収益を分ける
待機 候補顧客はいるが、年間の水量と水質を測れていない まず既存設備へ計測を入れ、候補地を絞る
見送り 世界市場の大きさだけで、顧客と正味電力を説明できない 発電ではなく、水処理や部品の既存市場を検討する

参入判断で最初に聞くべき相手は、発電技術の研究者だけではありません。施設を止められない運転責任者、排水処理費を持つ環境部門、設備投資を決める経営者です。

技術起点の新規事業は、性能を説明するほど顧客価値が見えにくくなることがあります。浸透圧発電でも、「何kW出るか」だけでなく、「誰の何の費用を、どこまで減らすか」へ翻訳します。

イノベーション総研では、候補顧客、水源データ、技術の実装段階、提携先、収益モデル、停止条件を一つの事業仮説へ整理します。膜や水処理の技術シーズから事業を組み立てたい場合は、技術シーズ事業化支援をご覧ください。

浸透圧発電に関するよくある質問

浸透圧発電の検討時に聞かれやすい点をまとめます。方式名や将来の理論量ではなく、現在確認できる実装条件を中心に答えます。

Q. 浸透圧発電とは、簡単に言うと何ですか?

A. 塩分の濃い水と薄い水が混ざるときの力を、電気に変える技術です。PROは半透膜を通る水でタービンを回し、REDはイオン交換膜を通る塩のイオンから電流を取り出します。

Q. 浸透圧発電は日本で実用化されていますか?

A. はい。福岡市の海水淡水化センター「まみずピア」で、2025年8月に国内初の実用設備が運転を始めました。正味発電電力は約110kW、年間最大約88万kWhの計画で、運転開始後5年間を検証期間としています。

Q. 浸透圧発電は天候に左右されませんか?

A. 太陽光や風の強さには直接左右されません。ただし、濃い水と薄い水の流量、水質、施設の稼働に依存します。設備利用率は、水源を安定して確保できる立地で高くなります。

Q. 浸透圧発電のデメリットは何ですか?

A. 膜の汚れと交換費、大量の水を動かすポンプ電力、取排水設備の建設費が主な課題です。発電電力ではなく、補機電力を引いた正味電力と、生涯の保守費で判断します。

Q. PROとREDのどちらが有望ですか?

A. 一律には決められません。高濃度かん水と水処理・高圧設備がある施設はPRO、イオン交換膜とスタックを生かす開発はREDが候補です。水質、濃度差、前処理、膜寿命、顧客の既存設備で比較します。

Q. 浸透圧発電へ新規参入するには、発電所を造る必要がありますか?

A. 必要ありません。膜・ポンプ・センサーの供給、前処理と監視、既存施設への統合、候補地評価という入口があります。自社がすでに持つ技術と顧客に近い層から入り、足りない設備と運転は提携で補います。

まとめ:浸透圧発電は、排水とインフラを組み直す事業である

浸透圧発電は、海水と淡水の濃度差を使う再生可能エネルギーです。日本では福岡の実用設備が動き、欧州でも製塩所、河口、膜スタックで異なる実装が進んでいます。

一方、河口型を先行開発したStatkraftは、当時のコストと効率では競争できないと判断しました。技術が動くことと、事業として続くことは別です。

現在の有望な方向は、濃縮海水や高濃度かん水を持ち、取排水設備がすでにある施設への組み込みです。発電電力、排水処理、本業の省エネという複数の価値を一つの契約にできます。

新規参入では、完成設備だけを見ません。膜・部品、前処理・監視、プラント統合、候補地評価から、自社の強みに近い入口を選びます。そして、正味電力、膜寿命、水源契約、本業への影響が成立しなければ止める条件を先に決めます。

浸透圧発電に関する技術シーズや顧客候補を、実行可能な参入案へ整理したい場合は、イノベーション総研へご相談ください。参入、提携、待機、見送りのどこに置くべきかから一緒に検討します。

参考資料

記事で確認した主な一次情報です。企業の将来計画は、確認済みの設備・運転実績と分けて記載しました。

  1. 福岡地区水道企業団「浸透圧発電について」
  2. 協和機電工業「PRO 浸透圧発電システム」
  3. 東洋紡「中空糸型FO膜を浸透圧発電プラントに採用」
  4. Nobian「Pilot project with SaltPower」
  5. Sweetch Energy「OPUS-1」
  6. CNR「Osmotic power plant at Barcarin」
  7. REDstack「Our Heritage」
  8. Statkraft「Statkraft halts osmotic power investments」
  9. 佐賀大学海洋エネルギー研究所「海洋濃度差発電」

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

主な外部出典

福岡地区水道企業団、協和機電工業、東洋紡、Nobian、Sweetch Energy、CNR、REDstack、Wetsus、Statkraft、佐賀大学海洋エネルギー研究所の公式情報。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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