投稿日:2026.08.31 最終更新日:2026.09.20
市場規模の調べ方|公開統計とフェルミ推定の6ステップ
市場規模は、使う判断と対象範囲を決めてから調べます。
定義の合う公開統計を探し、不足する部分は顧客数・導入率・単価などへ分解して推定します。大切なのは、数字だけでなく、どの前提で算出したかを説明できることです。本記事では、公開情報の探し先、フェルミ推定の計算例、検算、企画書への記載までを6ステップで解説します。
この記事の結論
市場規模の調査は、他の担当者が同じ条件で再計算できる形にして完了します。
- 市場規模によって変える意思決定を先に決める
- 公開統計、自社データ、仮置きを区別して計算する
- 出典、算出式、対象範囲、時点をセットで記録する
目次
市場規模の調べ方|6ステップの全体像
市場規模を調べる6ステップ
01
使う判断を決める
テーマ比較・稟議・投資判断など、数字の用途と必要な精度を決める。
02
市場を定義する
誰の、何に対する支出か。顧客・商品・地域・期間・単位をそろえる。
03
公開情報を探す
官公庁統計、業界団体、企業IRなどから、定義に合う情報を探す。
04
分解して組み立てる
対象者数、導入率、単価、頻度に分け、根拠と仮定を区別する。
05
両面から検算する
トップダウンとボトムアップを照合し、数字が違う理由を確かめる。
06
前提と一緒に記録する
出典または前提、算出式、対象範囲、基準時点を数字と一緒に残す。
市場規模は、一定の地域と期間における商品・サービスの取引量を、売上高、出荷額、支出額、数量などで表したものです。どの指標を使うかは、今回の意思決定に合わせて選びます。対象を定義し、情報を探して組み立て、別の方法で検算するまでが一つの工程です。
以降では、各ステップで何を決め、何を確認するかを順に見ていきます。市場調査全体の設計は、新規事業の市場調査|調べて決める4ステップもあわせて確認してください。
ステップ1|市場規模を使う判断を決める
同じ市場規模でも、用途によって必要な精度と範囲は変わります。複数テーマの優先順位を比べるなら、全テーマで定義をそろえた概算が役立ちます。投資判断や売上計画へ使うなら、顧客層、導入率、価格、販売能力まで分解した数字が必要です。
- テーマ比較:同じ単位と時点で相対的な大きさを比べる
- 追加調査の判断:どの前提が結論を大きく動かすかを探す
- 企画書・稟議:第三者が再計算できる前提と式を残す
- 事業計画:実際に接触・獲得できる顧客数へ絞り込む
最初に「この数字が変わったら、何を変えるのか」を一文で書きます。判断が変わらない範囲まで小数点を詰めても、調査の価値は増えません。
ステップ2|誰の何に対する支出かを定義する
市場規模の数字が食い違う主な理由の一つは、計算精度ではなく対象範囲の違いです。検索を始める前に、次の条件を一行で定義します。
顧客・商品・地域・期間・単位をそろえる
- 顧客:誰が利用し、誰が支払うのか
- 商品・サービス:何を含み、代替手段をどこまで含めるのか
- 地域:国内、特定地域、世界のどこか
- 期間:暦年、年度、単年度、累計のどれか
- 単位:売上高、支出額、数量、契約数のどれか
同じ名称の市場でも、売上高と出荷額、国内需要と国内生産では意味が異なります。 数字を転記する前に、資料の用語定義と注記を読みます。
含める範囲と含めない範囲を明記する
たとえば、ソフトウェアだけを対象にするのか、導入支援や運用費も含めるのかで数字は変わります。除外条件を先に書けば、会議で数字が違う理由を説明しやすくなります。
ステップ3|市場規模の公開情報を探す
公開情報は、官公庁統計から順に一方向へ探すのではなく、複数の情報源で対象範囲と更新時点を照合します。政府統計は母数や産業構造、業界団体は対象分野の数量、企業IRは顧客や価格の仮説を置く手がかりになります。
市場規模を探す5つの情報源
欲しい数字と資料の対象範囲が合うかを、次の表で見比べます。掲載された金額だけで選ばず、各情報源がどこまでを集計しているか確認してください。
| 情報源 | 主に確認すること | 採用前の確認点 |
|---|---|---|
| 官公庁統計 | 企業・事業所数、人口、支出、出荷、売上 | 統計単位、対象産業、調査年 |
| 公的機関 | 業界構造、政策対象、事業者動向 | 推計か実測か、引用元 |
| 業界団体 | 会員企業の出荷量、販売量、利用状況 | 非会員を含むか、カバー率 |
| 民間レポート | 市場定義、予測、セグメント別動向 | 調査方法、対象範囲、発行時点 |
| 上場企業IR | 顧客層、価格帯、販売数量、成長要因 | 自社定義と市場全体の区別 |
政府統計は、e-Statの統計データ検索から分野や作成機関を指定して探せます。BtoBの企業数や売上構造を確認する場合は、総務省・経済産業省の経済センサス‐活動調査が一つの入口です。
数字を採用する前に定義・単位・時点を確認する
検索結果の見出しや要約だけで数字を採用しません。元資料の用語、対象者、集計範囲、単位、基準時点、改定の有無まで確認が必要です。産業別に集計する場合は、e-Statの統計分類・用語で分類の意味を確認できます。
ステップ4|フェルミ推定で市場規模を組み立てる
自社が狙う市場と完全に一致する統計がない場合は、市場を要素へ分解して計算します。フェルミ推定では、既知の数字を起点に、不明な導入率や単価などを仮定として置きます。前提を分けることは、判断の精度を上げるために次に何を確かめるか、その優先順位を選ぶ手がかりです。
BtoB・BtoCの基本式へ分解する
BtoBの基本式:対象企業数 × 導入率 × 1社当たり年間単価
BtoCの基本式:対象人口 × 利用率 × 年間利用頻度 × 1回当たり単価
式は市場の取引構造に合わせて変えます。利用者と支払者が異なる場合や、初期費用と継続費用がある場合は、別々の計算が必要です。価格仮説を売上と収益の仕組みへつなげる考え方は、新規事業のビジネスモデルで解説しています。
公開統計・自社データ・仮置きを区別する
計算に使う数字は、根拠の種類ごとに扱いを変えます。特に自社の商談結果を市場全体へ広げる場合と、未検証の数値を置く場合を区別してください。
| 根拠区分 | 例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 公開統計 | 企業数、人口、世帯数、産業別売上 | 出典、対象範囲、時点を記録する |
| 自社データ | 商談数、成約率、試験導入率、提示価格 | 対象条件と件数を残し、母集団へ無条件に広げない |
| 仮置き | 未検証の導入率、利用頻度、単価 | 仮定と明記し、検証後に更新する |
検証すべき仮定がどのセルにあるか、資料上で見分けられるようにします。 根拠区分を文字で記載し、必要に応じてセルの色も補助に使います。
悲観・中位・楽観の3ケースで感度を見る
不確かな要素は一点で決めず、幅を持たせます。すべての要素を同時に細かく変えるのではなく、結果への影響が大きい導入率や単価などを選び、悲観・中位・楽観の3ケースで比較します。
いま、どこで詰まっていますか
近い状態を1つ開くと、次に確認する項目が分かります。
NEXT STEP
次のステップ
市場規模の前提を、次の検証計画へつなげる。
導入率や単価など、結論を大きく動かす仮定から検証の優先順位を定めます。
市場規模の計算例|架空のBtoB市場
対象企業数 × 導入率 × 年間単価で計算する
01
対象企業数
1,000社
02
導入率
10%
03
1社当たり年間単価
120万円
計算結果:年間1億2,000万円
この計算では、対象企業のうち導入が見込まれる企業数を求め、1社当たりの年間支払額を掛けています。対象企業すべてが導入するとは置かず、利用する割合を別の前提として扱うのがポイントです。
この例で優先して検証するのは、結果を大きく動かす導入率と年間単価です。対象企業へのインタビューや試験提案を通じて、現在の代替、予算の出所、導入条件、支払意思を確認します。BtoBで役割別に確認する方法は、BtoB顧客インタビューのやり方を参照してください。
ステップ5|トップダウンとボトムアップで検算する
一つの式だけで市場規模を確定すると、その式に含まれる前提の誤りを見つけにくくなります。全体市場から対象範囲へ絞るトップダウンと、顧客数や取引単価から積み上げるボトムアップを併用します。
| 方法 | 出発点 | 向いている用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| トップダウン | 産業全体の売上、支出、出荷など | 市場の上限、周辺市場との比較 | 自社が届かない範囲を含みやすい |
| ボトムアップ | 顧客数、導入率、単価、頻度 | 売上計画、販売能力との接続 | 導入率や単価の仮定に左右される |
二つの推定値が違うときは、単純な平均より、前提差の確認が先です。 顧客範囲、地域、期間、売上と出荷、導入率、価格のどこが違うかを確認します。差は誤差ではなく、まだ確かめるべき前提を示していることがあります。
ステップ6|企画書に4項目をセットで記載する
市場規模の数字と一緒に残す4項目
01
出典または前提
資料名・表番号・URL、または仮定を置いた理由。
02
算出式
何と何を掛け、どの条件で対象を絞ったか。
03
対象範囲
顧客、商品、地域、期間、単位、除外条件。
04
基準時点
統計年、計算日、次に更新する条件。
企画書や稟議書では、市場規模の数字だけを大きく示さず、第三者が対象範囲と計算を追える情報を同じ場所に置きます。出典・式・対象範囲・時点が追えると、前提が変わった際にも更新しやすくなります。
市場の上限、自社が提供できる範囲、短期に獲得できる範囲を分ける必要がある場合は、TAM・SAM・SOMの考え方へ接続します。本記事では、その前段となる市場規模の算出実務に焦点を当てています。
市場規模の調べ方で起きやすい4つの失敗
計算が合っていても、その数字を事業判断に使えないことがあります。対象範囲、根拠の記録、検算、調査の目的という4つの観点から、提出前に確認してください。
大きな市場を、そのまま自社の機会と扱う
産業全体の市場規模には、自社が提供しない商品、届かない地域、異なる価格帯が含まれることがあります。上限を示す数字と、実際に狙う顧客範囲を分けてください。
出典や前提を書かず、数字だけを残す
計算結果だけでは、更新も検証もできません。元資料、対象範囲、仮定、計算日を数字と一緒に残します。
一つの算出式だけで確定する
一つの式は、一つの前提構造しか映しません。別の出発点から計算し、差が生まれた条件を確認します。
精度を上げること自体が目的になる
市場規模は将来を言い当てる数字ではありません。判断を変える可能性が高い前提から検証し、得られた事実で更新できる状態をつくることが重要です。
市場規模の調べ方に関するよくある質問
市場規模を調べる際によく迷う5つの点を整理します。指標や資料の選び方から、データがない場合の算出、TAM・SAM・SOMとの関係まで短く答えます。
本記事のまとめ|市場規模は前提とセットで示す
市場規模は、今回の意思決定に合う範囲へそろえ、公開情報と仮定を区別して算出します。別の方法でも検算し、差が出た前提から確かめてください。
最後に、別の担当者が同じ条件で再計算できるかを確認します。難しければ、数字を細かくする前に、出典・算出式・対象範囲・基準時点を補うことが次の一手です。
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対象市場、算出式、検証すべき導入率や価格を、次の意思決定から逆算して整理します。