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レギュラトリーサイエンスとは?8事例でわかる評価と事業機会

新しい技術を、どう評価して社会へ届けるのか。
レギュラトリーサイエンスを、8事例から読み解きます。

レギュラトリーサイエンスは、新しい技術の効果や安全性を科学的に確かめ、社会で使うための判断につなげる科学です。医薬品や医療機器では、「つくれた」だけでは患者に届けられません。誰に、どの条件で使えるのかを示す証拠が必要になります。大切なのは、申請書を整える前に、何を確かめれば判断できるかを決めることです。この記事では、専門知識がない事業担当者にもわかるように、基本と8つの企業・機関の取り組みを説明します。さらに、試験、医療データ、開発支援のどこに事業機会があり、参入時に何を確認すべきかを整理します。

この記事の結論

評価の目的、データの品質、説明する責任をそろえることが重要です。

  • 公的機関、製薬会社、評価支援企業の8事例を紹介
  • 薬事との違い、データや計算モデルの使い方を整理
  • 三つの参入方法から、必要な資産と責任を考える

目次

レギュラトリーサイエンスとは、科学を「使う判断」につなぐこと

新しい技術について、問いを定め、証拠を集め、使う条件を判断する流れ
図1 評価は、使う場面から逆算する。PMDAのレギュラトリーサイエンス解説をもとに、イノベーション総研作成。

新しい技術には、期待できる効果と、まだわからない点が混在しています。レギュラトリーサイエンスでは、その不確かさを試験やデータで確かめます。良い結果を示すことだけが目的ではありません。

効果、安全性、品質を、根拠に基づいて評価する

PMDA(医薬品医療機器総合機構)は、科学技術を人と社会に役立てるための科学として説明しています。根拠に基づく予測、評価、判断を通じ、望ましい使い方へ調整する考え方です。PMDAの公式解説

医薬品なら、期待する効果があるか、どんな害が起こり得るか、品質を安定させられるかを調べます。効く可能性があっても、害との釣り合いが悪ければ使い方の再検討が必要です。逆に、条件を限定することで活用できる場合もあります。

対象は医薬品だけではありません。日本薬学会の解説では、医療機器、食品、化粧品なども挙げています。本記事では、企業や機関の取り組みを具体的に比較しやすい医療・医薬品分野を中心に扱います。日本薬学会の解説

「よく当たるAI」から「どこで使えるAI」へ問いを変える

たとえば、病気の兆候を画像から見つけるAIを考えてみます。社内の画像で正しく判定できても、別の病院や撮影装置で同じ性能になるとは限りません。

開発時の問いは、正解率だけでは不十分です。対象患者、撮影条件、見逃した場合の不利益、医師が確認する手順も関わります。この例は考え方を示すもので、特定製品の承認要件ではありません。

技術の性能と、実際に使う条件を一緒に評価する。ここに、研究成果を実用化へつなぐ仕事があります。医療用ソフトウエアの事業については、プログラム医療機器に関するPMDAの案内も確認できます。

薬事や規制のサンドボックスとは、何が違うのか

似た言葉でも、扱う問いは同じではありません。レギュラトリーサイエンスは評価と判断を支える科学です。薬事の仕事や規制改革とは重なる部分がありますが、置き換え可能な言葉ではありません。

評価・薬事・規制改革で扱う問いの違い
言葉 主に扱う問い 具体的な仕事の例
レギュラトリーサイエンス 何を根拠に、効果や安全性を判断するか 評価方法の開発、試験設計、データの信頼性評価
薬事 製品の開発・販売に必要な規制上の条件へ、どう対応するか 当局相談、申請方針、資料作成、規制情報の確認
規制のサンドボックス制度 新しい方法を限られた条件で実証し、制度の検討につなげられるか 実証計画の申請、条件を定めた実証、結果の報告
ルールメイキング 新しい技術や事業に、どのようなルールが必要か 関係者との議論、政策提案、標準づくり

表は役割を理解するための整理です。たとえば、薬事担当者が試験の設計へ関わることもあります。レギュラトリーサイエンスを研究部門だけの仕事と考える必要はありません。

ただし、規制を緩めてもらう活動と、科学的な評価を混同すると、必要な証拠を集め損ねます。実証制度そのものを知りたい場合は、規制のサンドボックス制度の使い方をご覧ください。

レギュラトリーサイエンスを支える8つの企業・機関

この分野には、すべてを一社で担う企業だけがいるわけではありません。評価方法を育てる機関、薬を開発する会社、データ解析を支援する会社などに分かれます。まず役割を見渡し、その後に具体的な仕事を見ていきましょう。

評価を支える8つの企業・機関の役割と段階
企業・機関 主な役割・提供内容 確認できる取り組みの段階
PMDA 研究、開発段階の相談、医療情報データベースの運営 公的業務として運用
AMED(日本医療研究開発機構) 評価技術の研究や標準化を支援 研究開発支援
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団 試験に使う標準品、研修、用語の維持管理 継続的な提供・運営
中外製薬 臨床試験データの品質管理と、再利用できる保管の仕組み 自社の開発業務・基盤整備
Certara 計算モデルを使う薬の開発支援、Simcypなど ソフトウエア・専門サービス提供
Aetion/Datavant 医療データの分析と証拠づくりを支える基盤 商用提供、2025年に買収完了
IQVIA 研究計画、医療データ、解析、規制・安全性の支援 商用サービス提供
Parexel 承認前後の研究設計、データ統合、安全性の評価支援 商用提供、実施事例を公表

同じ「支援」でも、公的な相談と民間の受託業務は別です。また、提供している事実だけでは、特定の製品が承認されたことや、利用企業の採算まではわかりません。以下では、公表内容と、そこから考えられる事業上の示唆を分けます。

PMDA:開発段階の相談と、市販後のデータ活用を担う

PMDAは、大学やベンチャー企業などに対し、開発初期に必要な試験計画等を相談する窓口を設けています。相談を通じて、どの論点を整理し、どの資料を用意するかを具体化できます。単に完成した申請書を受け取るだけではありません。RS総合相談・RS戦略相談

もう一つの取り組みが、MID-NET(医療情報データベース)です。電子カルテや診療費の請求情報などを扱い、医薬品の安全対策などに役立てます。PMDAは、データの品質管理・標準化に関する情報も公開しています。MID-NETの案内

ここから見えるのは、データを集めるだけでなく、同じ意味で比較できる状態へ整える重要性です。民間が関連サービスを考える場合も、公的機関の判断を代行すると売り込むのではなく、その判断に必要な準備を支える役割を検討します。

AMED:新しい技術を測る「物差し」の研究を支える

AMEDは、医薬品や医療機器などの品質・有効性・安全性を評価する研究を推進しています。評価技術の開発や標準化、判断基準の明確化につなげることが狙いです。AMEDのレギュラトリーサイエンス課

医療機器の関連事業では、生物学的な評価に加え、力学、化学、電気、情報などの工学的な評価基準も扱います。開発の手引きを検討し、新規参入を進めやすくする取り組みです。次世代型医療機器開発等促進事業

新しい材料や装置を持つ企業にとっては、製品そのものを売る以外に、評価方法や測定技術で関わる余地があります。ただし、研究支援への採択と、継続的に売れる評価サービスの成立は別です。研究成果を誰が使い、誰が費用を負担するかも考える必要があります。

RS財団:標準品や用語をそろえ、評価の土台をつくる

医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団は、日本薬局方などの標準品を製造・頒布しています。標準品とは、試験で物質を確かめたり量を測ったりする際に、比較の基準として使うものです。

同財団は、研修や出版に加え、医薬用語集の日本語版の維持管理も行っています。派手な新技術ではありませんが、試験結果や有害事象を共通の言葉で扱うための土台になります。財団の事業内容

事業の観点では、評価の信頼性を保つ日常業務にも需要があると読めます。ただし、既存の標準品と同じものをつくれば参入できるわけではありません。品質の証明、供給の安定性、用途への適合が問われます。

中外製薬:臨床試験のデータを、使い直せる形で管理する

中外製薬は、臨床試験のデータを集め、品質を確認する業務を紹介しています。2025年8月公開の記事では、担当者が試験の計画、データ収集の管理、承認申請資料の作成を支えると説明しています。取材内容は同年5月時点のものです。

具体例が、自社のデータ管理システム「CoDaMa」です。どこにどのデータがあるかを把握し、別の試験などでも使いやすくする取り組みです。システムの仕様やテストだけでなく、運用手順と記録の整備も行うとしています。中外製薬の取り組み

これは社内の開発基盤であり、外販サービスの紹介ではありません。参入企業が学べるのは、保存場所をつくるだけでは仕事が終わらない点です。記録の意味をそろえ、品質を確かめ、後から経緯を追えるようにする作業まで考える必要があります。

Certara:計算モデルで、薬の使い方を検討する

Certaraは、MIDD(計算モデルを活用した医薬品開発)のソフトウエアや専門サービスを提供しています。試験データや薬の性質をモデルへ組み込み、開発上の問いを検討する方法です。CertaraのMIDD支援

たとえばSimcypは、体内で薬がどう動くかを予測するための基盤です。異なる患者集団での薬の動きなどを検討する用途を示しています。Simcypの製品説明

ここで売っているのは、計算速度だけではありません。どのデータを使い、モデルをどの範囲で信頼できるかを説明する専門性も必要です。計算上の結果だけで臨床試験が不要になるわけではなく、置き換えられる範囲や追加の試験は個別に確認します。

Aetion/Datavant:医療データを、研究の問いに答える証拠へ変える

Aetionは、実際の診療などで得られたデータを分析し、医療上の証拠をつくる基盤を提供しています。このようなデータはRWD(実際の診療などで集まるデータ)、分析して得る証拠はRWE(実診療データに基づく証拠)と呼ばれます。

Datavantは、データ接続の機能とAetionの解析を組み合わせる方針を公表しました。買収は2025年7月11日に完了し、Aetionは同社のライフサイエンス事業の一部になっています。買収方針の発表完了の発表

注目したいのは、データへの接続と、研究に使えるかの評価・分析をつなぐ動きです。もっとも、データを結び付ければ偏りが消えるわけではありません。対象患者や記録項目が研究の問いに合うかは、別途確かめる必要があります。

IQVIA:研究計画とデータ、解析を一組で支援する

IQVIAは、実診療データに基づく証拠づくりについて、研究設計、データ、解析、規制・安全性などのサービスを提供しています。顧客の問いに応じ、適切な研究方法を選ぶことを重視しています。IQVIAの提供内容

たとえば、製品を使った後の状態を調べるのか、既存の治療と比べるのかで、必要なデータは変わります。大きなデータベースを持つことと、その問いに答えられることは同じではありません。

この例から、新規参入では「データを保有しています」だけでは弱いと考えられます。対象領域の知識、研究計画、品質確認までつなぎ、顧客が何を判断できるようになるかを示す必要があります。公表されたサービスの範囲から、個別案件の成果まで推測はできません。

Parexel:複数の診療記録をつなぎ、長期の安全性を調べる

Parexelは、承認前後の研究を支援しています。公表事例では、希少疾患の薬について、長期の安全性を調べる仕事を紹介しています。患者が複数の診療先にかかるため、一か所の記録だけでは状況を捉えにくい案件でした。

同社は診療の経路を整理し、患者登録、診療費の請求情報、検査データなどを共通の形式へ変換したと説明しています。単にファイルを集めるのではなく、必要な情報がどこにあるかを調べてから分析につなげています。Parexelの公開事例

同社は2024年の学会案内でも、この安全性調査とデータ基盤の構築を紹介しています。事例発表の案内

これは企業が公表した支援事例です。顧客や薬の名称、支援による費用削減は本文では確認できません。それでも、記録の所在を調べ、意味をそろえる仕事が評価を支えている点は、事業を考えるヒントになります。

8事例を通して見えてくるのは、試験以外の情報も組み合わせて判断する動きです。ただし、「データが増えたから、試験は不要になる」と読むのは早計です。使う目的と、根拠としての信頼性が問われます。

実診療データは、量よりも問いへの適合が重要

FDA(米国食品医薬品局)は、RWDと、それを分析して得られるRWEを区別しています。記録があるだけでは、製品の効果やリスクについての証拠にはなりません。FDAの定義と関連情報

2024年7月のFDAの最終ガイダンスは、電子カルテや診療費の請求データを用いる際の考慮事項を示しました。対象は医薬品・生物学的製剤の規制上の判断です。この文書を、日本のあらゆる医療サービスにそのまま当てはめるものではありません。FDAのガイダンス

事業担当者が意識したいのは、「何人分あるか」だけを売り文句にしないことです。誰の記録か、必要な結果が残っているか、途中で追えなくなる患者がいないかを確認します。病院の業務改善と研究への二次利用も分けて考えましょう。医療DXの事業と課題も参考になります。

計算モデルの評価方法にも、共通の考え方が整う

ICH(医薬品規制調和国際会議)は、2026年1月29日にM15ガイドラインを採択しました。計算モデルを活用した医薬品開発について、計画、モデルの評価、証拠の文書化などの原則を示しています。ICH M15最終版

ただし、国際的な合意と、各地域での実施は別の段階です。ICHは、合意後に各地域の手続きで実施すると説明しています。特定の計算手法が、すべての申請で一律に認められたという意味ではありません。ICHの手続き

こうした動きは、モデルを動かす会社だけでなく、評価の記録を整理する会社にも関係します。入力データ、前提、適用できる範囲を追えるようにすることが、顧客への提供価値になり得ます。

自社の状況から、次に確認することを選ぶ

該当する項目を開くと、記事の読む場所がわかります。点数を付ける診断ではありません。

01 基本を知りたい

科学的な評価が、何の判断につながるかを確認します。

  • 誰が使うか
  • 何を評価するか
  • 何を判断するか

基本の考え方を見る →

02 薬事との違いは

申請の仕事と、評価を支える科学を分けます。

  • 試験を設計するか
  • 申請を準備するか
  • 制度を検討するか

役割の違いを見る →

03 企業事例を知りたい

機関の役割と企業の提供内容を読みます。

  • 公的な支援か
  • 社内の開発か
  • 外部への提供か

8つの事例を見る →

04 評価を外注したい

依頼する目的と責任を明確にします。

  • 何を決めたいか
  • データは使えるか
  • 誰が説明するか

三つの条件を確認する →

05 参入方法を考えたい

既存の資産から仕事を選びます。

  • 測定技術があるか
  • データに詳しいか
  • 開発経験があるか

三つの入口を比べる →

06 事業案を相談したい

製品、判断、証拠を整理します。

  • 顧客は誰か
  • 何が不足するか
  • 自社は何を担うか

相談前の情報をまとめる →

NEXT STEP

次のステップ

評価の困りごとを、自社が担える事業へ

対象製品、顧客が判断できない理由、自社が担える仕事を整理します。患者情報や秘密の試験データは不要です。

評価を外注する前に、そろえたい三つの条件

評価の目的、データの品質、説明する責任の三つをそろえ、使える証拠につなぐ構造
図2 目的・品質・責任をそろえる。PMDA、FDA、ICHの公表資料を参考に、イノベーション総研作成。個別の法的要件を示す図ではありません。

評価支援を依頼するとき、「データを分析してください」だけでは依頼が曖昧になります。何の判断に使うかが決まっていないと、立派な報告書ができても使い道が残りません。イノベーション総研では、事業の整理として次の三つを確認します。

目的:誰が、何を決めるための評価か

研究を続けるための社内判断、当局への相談、製品の導入検討では、知りたいことが違います。最初に、判断する相手と決めたいことを一文にします。

たとえば「解析精度を上げる」ではなく、「この患者集団に使える可能性を、次の開発会議で判断する」と置きます。そのうえで、比較対象、評価指標、確認できない範囲を専門家と相談します。

品質:データの意味と、処理の経緯を追えるか

病院ごとに同じ項目名でも、測定方法や入力時点が違うことがあります。欠けている記録も、単に空欄を埋めれば済むとは限りません。データがどのようにつくられたかを理解する必要があります。

解析結果から元のデータや処理へ戻れることも重要です。後から質問を受けた際に、どの条件を使い、どの版のプログラムで計算したかを説明できるようにします。記録の標準化については、MID-NETの調査計画に関する参考情報にも具体例があります。

責任:誰が結果を確認し、外部へ説明するか

支援会社が解析しても、その結果を顧客企業が説明できなければ、業務として使いにくくなります。契約では、納品物だけでなく、質問への対応、記録の保管、変更後の再解析も整理したいところです。

データの利用権限、個人情報の扱い、研究上の手続きは、案件に応じて専門家へ確認します。匿名化という名前だけで、自由に再利用できるとは判断しません。事業計画には、こうした確認にかかる費用と期間も織り込みます。

レギュラトリーサイエンスの事業規模は、買い手の予算から考える

この分野を一つの市場規模で捉えると、事業の対象を見誤りやすくなります。薬事の外部委託、臨床研究、分析ソフト、標準品では、買い手も契約も違うためです。

隣接市場の金額を、足し合わせない

規制対応の自動化を扱うRegTechと、医薬品の評価支援は同じ市場ではありません。また、同じ案件がデータ利用料、解析費、開発支援費として複数の調査に含まれる可能性もあります。

そこで、新規参入の初期検討では、想定顧客数と受注できる仕事から規模を考えます。「製薬会社すべて」では広すぎます。疾患領域や開発段階を絞り、実際に予算を持つ部門と契約単位を確かめます。

評価支援の買い手と、収支に含めたい費用
提供する仕事 想定する買い手・契約単位 見落としたくない費用
試験・評価サービス 開発企業、試験ごと・研究計画ごと 試料調達、品質管理、設備、再試験
データ整備・解析 製薬企業や研究支援会社、研究ごと 利用許諾、データ確認、専門家のレビュー
評価ソフト・記録管理 開発・解析部門、利用契約や導入案件 適合確認、変更管理、保守、問い合わせ対応
開発準備の支援 スタートアップ等、調査・計画単位 専門家との連携、当局照会に伴う追加対応

表は料金相場ではなく、収支を組み立てるための例です。売上の見込みだけでなく、納品後も続く作業を数えます。顧客ごとの追加対応が大きければ、ソフトを提供していても人手に依存する事業になります。

承認の可能性と、顧客が買う理由は別に確かめる

評価方法として優れていても、既存の委託先を変える理由がなければ受注できません。顧客が困っているのは、時間、データの不足、専門人材の不足のどれでしょうか。

安さだけで比較される仕事なのか、既存の方法では答えられない問いを扱うのかでも、事業の条件は変わります。技術を先に売り込む前に、顧客が今どの作業へ費用を払い、何に不満があるかを調べます。新規事業の企画書の構成では、こうした根拠を事業判断へつなぐ整理方法を扱っています。

自社の資産から考える、三つの参入方法

測定技術は試験支援、医療データの知識は解析支援、業務知識は開発準備へつながる対応関係
図3 保有する資産と参入役割の対応。本文の企業・機関の公表内容をもとに、イノベーション総研作成。提携の募集状況を示すものではありません。

レギュラトリーサイエンスという大きな看板で参入するより、一つの評価作業へ絞る方が顧客に説明しやすくなります。以下は、イノベーション総研が事例から整理した参入仮説です。個別企業との提携や受注を保証するものではありません。

測定技術を持つ企業は、特定の評価を支える

材料、センサー、分析装置などの技術を持つ企業なら、特定の品質や性能を測る仕事が候補になります。開発企業や試験機関を顧客とし、試験の受託、測定機器、関連する消耗品などで収益化を考えます。

必要なのは、装置が動くことだけではありません。同じ条件なら同じ結果が得られるか、既存の評価方法と何が違うか、測れない範囲はどこかを説明します。医療分野の評価経験が不足する場合は、研究機関や試験機関との連携が前提になります。

医療データに強い企業は、使える状態へ整える

病院の業務や医療データに詳しい企業には、記録の整理、項目の対応付け、解析の準備という入口があります。想定顧客は、製薬会社、研究機関、開発を支援する会社です。

収益の単位は、データ整備の受託、研究ごとの解析、継続的な管理などが考えられます。ただし、データを使う権限と、解析の妥当性を判断する専門性が必要です。統計・疫学の専門家、医療機関、法務担当者と役割を分けて設計します。

開発業務に詳しい企業は、評価の準備を支援する

医療分野の開発経験を持つ企業なら、評価の論点整理や記録管理の仕組みづくりが候補です。開発企業が、どの情報を誰へ相談すべきか迷っている場面を支えます。

提供物は、必要な評価の整理、既存データの不足の確認、専門家への相談準備などです。案件単位の支援から始め、繰り返し使える記録や管理機能を蓄積する方法が考えられます。正式な薬事判断や当局との専門的な対応は、経験を持つ担当者と分担します。

どの入口でも、承認を約束する営業は適切ではありません。顧客が判断できる材料を整えることを提供価値に据えます。新規事業の進め方や体制づくりについては、イノベーション総研の事業開発支援をご覧ください。

レギュラトリーサイエンスへの参入で、見送りたい条件は何か

需要がありそうでも、自社が担えるとは限りません。とくに医療分野では、評価の誤りが患者への不利益につながり得ます。販売開始の前に、提供範囲と、引き受けられない仕事を明確にします。

データを使う根拠や、結果を確かめる体制がない

利用許諾が曖昧なデータを前提にした事業は、収集や解析へ進む前に整理が必要です。また、AIが出した結論を、専門家が確認できないまま納品する設計も見直します。

ここでの選択肢は、すぐに撤退することだけではありません。データを扱わない準備支援へ範囲を変える、専門家と提携する、利用条件が整うまで待つ、といった方法があります。

顧客の判断と関係のない「高精度」を売ろうとしている

どれだけ精度が高くても、顧客が確認したい条件から外れていれば採用されません。測定できることを先に決め、後から用途を探すと、このずれが起こりやすくなります。

顧客の試料、対象患者、利用環境で何を確かめたいかを聞きます。その条件に対応できないなら、別の用途を選ぶか、提供を見送る判断が必要です。

個別対応を増やしても、費用を回収できない

契約後に、データの修正、追加解析、説明資料の作り直しが重なることがあります。それらが価格に含まれていると、受注が増えるほど負担が増える事業になります。

追加対応をどこまで引き受け、何を別契約にするかを決めます。顧客がその費用を負担できない場合は、支援範囲を小さくする必要があります。「将来は自動化できる」という期待だけで、現在の赤字を説明しないことが重要です。

相談前に、製品・判断・証拠を一枚にまとめる

新規事業の相談を具体化するには、専門用語を増やすより、今わかっていることを並べる方が役立ちます。最初から完成した開発計画は不要です。不明な点も、そのまま質問として残します。

  • 誰に、何を提供する製品・サービスなのか
  • 次に誰が、どの判断を行うのか
  • その判断に使えそうな試験結果やデータは何か
  • まだ確かめられていない条件は何か
  • 自社が担う仕事と、外部の専門家へ依頼する仕事は何か
  • 誰の予算で、どの単位の契約を考えるのか

薬事上の相談を考える場合、PMDAのRS総合相談は、対象になるかの確認や一般的な制度説明を行う入口です。無料の事前面談と、有料の対面助言は役割が異なります。個別の対象や手続きは、PMDAの相談案内で確認してください。

一方、誰を顧客とし、自社の強みをどの仕事で生かすかは事業戦略の問いです。イノベーション総研へ相談する場合は、上の項目のうち、製品・顧客・自社の役割を共有してください。規制当局の判断や臨床上の助言ではなく、参入方法と事業の成立条件を整理します。新規事業の相談窓口からお問い合わせいただけます。

レギュラトリーサイエンスについてよくある質問

最後に、初めてこの言葉に触れた方が迷いやすい点をまとめます。用語を覚えることより、評価がどの判断に使われるかを理解することが重要です。

Q. レギュラトリーサイエンスを簡単にいうと?

A. 新しい技術の効果や安全性を科学的に確かめ、社会でどう使うかの判断につなげる科学です。医薬品や医療機器では、試験、データ解析、評価方法の開発などが関わります。

Q. 薬事申請の資料を作る仕事と同じですか?

A. 同じではありません。申請資料の作成にも関わりますが、その前に、どんな試験やデータが必要かを考える仕事も含みます。評価結果をもとに、製品の使い方や追加の検討を考えることも重要です。

Q. AIや医療データを使えば、臨床試験を省けますか?

A. 一律には省けません。使う目的、データの品質、モデルの適用範囲などに応じて判断されます。必要な試験や、既存データで補える範囲は、薬事・臨床の専門家や当局への相談で確認します。

Q. 医薬品を開発しない企業にも、事業機会はありますか?

A. 測定技術、データ整備、解析、記録管理、開発準備などが候補です。ただし、医療分野の専門性や利用権限、品質を確認する体制が必要です。自社で持たない機能は提携で補い、承認そのものを保証する提供は避けます。

まとめ|「判断できない理由」を解く仕事に、事業の入口がある

レギュラトリーサイエンスは、規制を避ける技術ではありません。新しい製品を、どの条件で使えるか判断するための科学です。PMDAやAMED、民間企業の取り組みを見ると、試験、標準化、モデル、医療データをつなぐ仕事が見えてきます。

新規参入では、対象を広げすぎず、顧客が判断できずにいる一つの理由を探します。測れないのか、データが使えないのか、結果を説明できないのか。その不足と自社の資産が合う場所から、事業を考えましょう。

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自社は、評価を支えるどの仕事を担えるか

測定技術、データの知識、開発経験から事業の入口を整理します。顧客、提供範囲、足りない専門性を確認し、参入・提携・待機・見送りを考えます。薬事・臨床上の判断とは分けた事業戦略の相談です。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

PMDA、AMED、FDA、ICH、本文の企業・機関の公表資料。出典は各箇所に記載。参入方法と採算の確認項目はイノベーション総研の分析。

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