投稿日:2026.09.13 最終更新日:2026.09.20
医療DXは現場の仕事をどう変えるか|国内外8事例と事業機会
医療DXで、現場の何が変わるのか。
自社は、どの仕事を担えるのか。
医療DXとは、デジタル技術で医療の情報や仕事の流れを変えることです。予約や診療記録を電子化するだけではありません。同じ内容の入力を減らし、必要な情報を次の担当者へ渡せるようにします。まず見るべきなのは、現場に残る転記・確認・引き継ぎの仕事です。新しいシステムを入れても、別の画面に打ち直す仕事が増えては、負担は減りません。この記事では国内外8事例を通じて、国の取り組み、企業が提供するサービス、新規事業として参入する方法を整理します。
この記事の結論
新しいシステムだけでなく、入力・連携・運用にも事業機会があります。
- 受付・記録・薬局・情報基盤を8事例で整理
- 国の整備計画と実際のサービスを分けて理解
- 三つの参入方法から、必要な資産と責任を考える
目次
医療DXとは?電子化との違いを身近な仕事で考える
紙の問診票を画面に置き換える。これは電子化です。その回答が診療記録に入り、受付でも再入力しなくて済む。さらに、変更があれば担当者に伝わる。ここまで仕事をつなぐことが、医療DXを考える出発点になります。
厚生労働省は、診察や治療だけでなく、保健、介護、研究なども含めて医療DXを捉えています。共通化・標準化されたデータを生かし、業務やサービスを変える考え方です。厚生労働省「医療DXについて」
患者に便利でも、職員の仕事が増えることがある
たとえば、患者がスマートフォンから処方箋の画像を送れたとします。一方、薬局では届いた画像を印刷し、別の機械で読み込んでいたらどうでしょうか。患者の手間は減っても、職員には新しい作業が残ります。
このような問題は、機能の有無だけでは見つかりません。「情報を受け取った人が、次に何をするか」まで追う必要があります。後で紹介するMICINとNeoXの連携は、この受け渡しを事業にした例です。
イノベーション総研は、医療DXの事業機会を三つの仕事に分けて考えます。情報を入れる仕事、必要な場所へ渡す仕事、結果を確認して使う仕事です。この分け方は、公的な分類ではなく、参入先を探すための整理です。

電子カルテ、PHR、医療DXは同じ意味ではない
電子カルテは、診療内容を記録・管理する仕組みです。PHR(個人の健康・医療記録)は、本人が自分の健康情報を把握し、活用する考え方です。医療DXは、その両方を含みうる、より広い業務・サービスの改革を指します。
患者向けアプリを作るのか、病院内の仕事を変えるのかで、顧客も売り方も異なります。本記事は後者を中心に扱います。個人の記録を使うサービスは、PHRの企業事例と事業機会で詳しく整理しています。
国の医療DXは、何を整備しているのか
国の整備と民間サービスは、役割を分けて読むとわかりやすくなります。国が情報を共有する土台を整え、その土台や既存システムを使って、各施設の仕事を変えるサービスが生まれる構造です。
国の取り組みには、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定への対応を効率化する取り組みがあります。ただし、計画に書かれていることと、すべての医療機関で使えることは同じではありません。
| 取り組み | 何を変えるものか | 参入時に分けて確認すること |
|---|---|---|
| 電子カルテ情報共有サービス | 紹介状や検査などの情報を施設間で共有する | 共有対象の情報、参加施設、接続する製品 |
| 電子処方箋 | 処方・調剤に関する情報を電子的に扱う | 医療機関側と薬局側の対応、既存業務との接続 |
| 標準型電子カルテ | 診療所で使う基本機能と情報共有への対応を整える | 開発予定と利用開始、対象となる施設の違い |
| 診療報酬改定DX | 制度改定に伴うシステム対応を効率化する | 公的な仕様と、自社製品に必要な改修 |
厚生労働省は、医科診療所向けの標準型電子カルテ「導入版」を2026年度中に完成させる方針を示しています。これは開発の目標です。全国の病院がすでに共通の電子カルテへ移った、という意味ではありません。厚生労働省の整備内容
新規事業の計画でも、この区別が重要です。「国の仕組みができれば自動的に売れる」と置かず、どの施設が、どの製品を、いつ更新するのかを確かめます。接続後の設定、職員への説明、問い合わせ対応にも仕事は残ります。
医療DXの市場は、何にお金が使われているかで読む
市場の大きさを見る際は、医療DX全体と、電子カルテなどの製品市場を混ぜないことが大切です。定義が広い数字ほど、自社が売る仕事との距離も大きくなります。
矢野経済研究所によると、2024年度の国内医療情報システム市場は3,018億3,900万円でした。メーカー・総販売元の売上高ベースです。電子カルテ、医事会計、部門システムなどが対象で、医療DXに関するあらゆる支出の合計ではありません。矢野経済研究所の市場調査
同調査は、新規導入中心の市場から更新中心へ移る動きも示しています。つまり、新規参入企業にとっては、何もない場所へ新しい製品を置く話だけではありません。すでに動く製品から、安全に情報と仕事を引き継ぐ必要があります。
医療機関、既存メーカー、研究企業では支払う理由が違う
病院や診療所が買うのは、診療や経営に必要な機能です。既存のシステムメーカーが買うのは、自社製品で不足する連携機能や運用支援かもしれません。研究を行う企業が求めるのは、適切な条件で利用できるデータや分析の支援です。
同じ「データを使う事業」でも、契約相手と提供物が変わります。市場調査では、利用者、導入を決める人、費用を払う人を別々に書き出すと、売る相手が見えてきます。
たとえば、看護師が便利だと感じる要約機能でも、院内の安全管理担当者が承認できなければ進みません。逆に、医療機関へ直接売るより、取引のある電子カルテ会社を通じて届けるほうが合う事業もあるでしょう。これは参入方法を選ぶ際の仮説であり、販売経路の優劣を一律に決めるものではありません。
国内外8事例から見る、医療DXで変わる仕事
ここでは、受付、診療記録、薬局との連携、データの受け渡しを取り上げます。提供中の製品と、導入先が公表された事例を分けました。企業を一列に順位付けするための表ではありません。
| 企業・導入先 | 主なサービス・取り組み | 変わる仕事・公表段階 |
|---|---|---|
| エムスリーデジカル/WAKA糖尿病・甲状腺クリニック | デジスマ診療 | 予約・問診・会計の連携。導入事例あり |
| Ubie/広瀬病院 | 生成AIによる書類・会話の整理 | 記録の下書きや転記を支援。活用事例あり |
| ヘンリー/正幸会病院 | クラウド電子カルテHenry | 電子カルテと医事会計の運用。導入事例あり |
| 富士通 | Healthy Living Platform | 医療データの標準化・連携。サービス提供 |
| MICIN・NeoX/くすりの福太郎 | クロンお薬サポートと薬師丸賢太の連携 | 処方箋画像の取り込み。32店舗で提供開始の発表 |
| InterSystems/Stanford Health Care | IRIS for Healthを使うChatEHR基盤 | 記録を集めて検索・要約へ渡す。導入事例あり |
| Metriport | 医療データ連携API | 米国の医療データを集約して提供。サービス提供 |
| Abridge/Kaiser Permanente | 診療会話からの記録作成支援 | 患者同意と医療職の確認を伴う導入を発表 |
同じ医療DXでも、受付を変える製品と、情報の裏側を支える基盤では仕事が違います。以下では、各サービスを使う場面と、参入企業が読み取れる論点を見ていきます。
1.エムスリーデジカル:予約の便利さを、受付と会計までつなぐ
デジスマ診療は、予約、問診、受付、会計などをまとめて扱うサービスです。電子カルテとの連携により、患者が入力した情報を院内の仕事へつなぎます。ただし、使える連携機能は接続する製品などによって確認が必要です。デジスマ診療の機能
WAKA糖尿病・甲状腺クリニックの事例では、診察だけでなく、看護師や管理栄養士の予約枠も分けています。問診も一律に配るのではなく、必要な患者に案内する使い方です。単に予約をネット化する話ではありません。同クリニックの導入事例
この事例から注目したいのは、診療科や職種によって予約の意味が違う点です。診察枠が空いていても、必要な職員が対応できなければ受け入れられません。参入を考えるなら、汎用の予約画面より、特定の診療科に残る調整業務を調べる価値があります。
一方、スマートフォンを使わない患者への対応も欠かせません。電話や窓口をなくせるかではなく、複数の受付経路を職員がどう扱うかが設計の論点になります。
2.Ubie:書類や会話を、記録の下書きに変える
Ubie(ユビー)は、医療機関向けに問診や生成AIのサービスを提供しています。広瀬病院の事例では、紙の情報の読み取り、会話の文字起こし、紹介状の要約などへの活用が紹介されています。看護師や医療事務が整理した情報を、診療記録に生かす使い方です。Ubieによる広瀬病院の事例
ここで減らしたいのは、医療職の判断そのものではありません。必要な情報を探し、書き写し、下書きを作る仕事です。文字を読み取るOCR(画像の文字をデータ化する技術)やAIを、記録作成の前工程に置いています。
事業として見ると、要約の速さだけでは価値を測れません。下書きの確認に時間がかかるなら、削減効果が小さくなるからです。元の文章をすぐ見返せるか、どこを直したかを残せるか、といった機能も重要になります。
イノベーション総研は、医療AIの運用データには「うまく書けた文章」だけでなく、修正が必要だった場面を含めるべきだと考えます。ただし、患者情報を製品改善に使えるかは別の問題です。契約、利用目的、権限を確かめずに学習へ回してはいけません。
3.ヘンリー:クラウド化に合わせ、院内の働き方を変える
Henryは、クラウド型の電子カルテと医事会計のシステムです。正幸会病院は、2023年1月に同システムの運用を始めています。導入事例では、遠隔での医事業務や、既存記録の参照方法なども説明されています。ヘンリーの正幸会病院導入レポート
クラウド化は、単にサーバーの置き場所を変える話ではありません。どの職員が、どこから、どの情報を見られるかが変わります。そのため、院内の役割や確認方法も一緒に見直す必要があります。
特に難しいのは、古い記録をどう扱うかです。PDFで読める状態と、検査値を項目ごとに再利用できる状態は異なります。移行時には、すべてを同じ粒度で変換するのか、必要な記録に対象を絞るのかを決めます。
参入企業にとっては、移行対象の整理、データの照合、職員への説明に機会があります。ただし、施設ごとに手作業を増やすだけでは利益が残りにくくなります。共通化できる工程と、個別に見積もる工程を分けることが事業上の課題です。
4.富士通:データを受け渡すための共通基盤を提供する
富士通のHealthy Living Platformは、医療・健康データの連携や活用を支える基盤です。電子カルテ情報をHL7 FHIRに基づく形式へ変換し、日本向けの仕様であるJP Coreに対応する機能を紹介しています。本人の同意に関する仕組みや、データの抽出・整理も扱います。富士通のサービス説明
HL7 FHIR(医療情報を交換するための共通規格、読み方はエイチエルセブン・ファイア)は、後の章で具体的に説明します。ここでは、施設や製品が違っても情報を受け渡しやすくするルール、と捉えると理解しやすくなります。
この層の顧客は、アプリを使う患者だけではありません。情報を集める医療機関、連携機能を組み込む企業、適切な条件で研究に使う組織などが考えられます。
新規参入で同じ大規模基盤を作る必要があるとは限りません。特定の検査データをそろえる、施設ごとの違いを点検するなど、基盤の周囲にある仕事を担う選択肢もあります。ただし、基盤に接続できることと、研究へ利用してよいことは別です。
5.MICINとNeoX:薬局に残る「印刷して取り込む」を減らす
MICIN(マイシン)とNeoXは、オンライン服薬指導サービスと処方箋の読み取り機能を連携させました。2026年6月の発表では、くすりの福太郎の32店舗から提供を始めています。MICINの連携発表
対象は、デジタルで届いた処方箋画像を印刷し、薬局のシステムへ読み込む作業です。クロンお薬サポートで受け取った画像を、薬師丸賢太が読み取り、レセコンへ取り込みます。レセコンとは、診療や調剤の費用を請求するためのシステムです。
この例は、医療DXの事業機会をよく表しています。利用者の入口を増やすだけでは、受け手の仕事が増えることもある。その間の作業を減らすために、別々の製品をつないでいます。
参入するなら、画像を高精度で読む技術だけでなく、読み取れない画像や重複した受信をどう扱うかが論点になります。自動取り込みの範囲と、職員が確認する範囲を分けて提案すべきです。記事では、発表された作業時間の短縮を、すべての薬局に当てはまる効果としては扱っていません。
6.InterSystems:診療記録を探すAIの、その手前を支える
米国のStanford Health Careは、ChatEHRという、診療記録を自然な言葉で検索・要約する仕組みを開発しています。InterSystems(インターシステムズ)の事例によると、IRIS for Healthを使って情報を集め、AIへ渡す基盤を整えています。InterSystemsの導入事例
見た目はAIとの対話でも、その裏にはデータを集める仕事があります。記録が複数の場所に分かれていれば、毎回そこへ問い合わせる必要があります。使う情報を整理して渡せなければ、回答の速さや根拠の確認にも影響します。
ここから見えるのは、AIの画面を作る企業だけが競争の主役ではないことです。どの記録を参照したか、情報がいつ更新されたか、取り込めなかったものがないか。その状態を管理する企業にも役割があります。
日本で同じ事業が成立するかは、接続先の仕様や契約を別に確かめる必要があります。海外の導入例は、仕事内容を理解する参考になりますが、日本の医療情報へ同じ方法で接続できる証拠ではありません。
7.Metriport:ばらばらな医療データを、開発者へ渡す
Metriport(メトリポート)は、米国の医療データを集約して提供するAPIを展開しています。APIとは、別のシステムから機能やデータを使うための窓口です。病名、薬、検査、受診などの情報を、FHIR形式で受け取る仕組みを提供しています。MetriportのAPI説明
特徴は、データが届くたびに連携先へ知らせる仕組みもあることです。一度問い合わせれば、必要な記録が必ず同時にそろうとは限りません。利用する側は、到着済みの情報と、まだ届いていない情報を区別する必要があります。
これは、情報連携を製品にする際の重要な論点です。「見つからない」が、本当に記録がない意味なのか。接続先からまだ届いていないだけなのか。両者を区別できなければ、使う人に誤解を与えます。
参入企業が価値にできるのは、接続本数だけではありません。取得状況の表示、重複の整理、更新の追跡なども考えられます。ただし、米国で提供されるネットワークへの接続条件を、日本にそのまま持ち込むことはできません。
8.Abridge:診療会話の記録を支え、確認は医療職が担う
Kaiser Permanenteは2024年8月、Abridge(エイブリッジ)の記録作成支援を、40病院と600超の診療拠点で利用可能にしたと発表しました。会話から診療に関係する情報を整理する仕組みです。利用には患者の同意が必要で、記録に入れる前に医療職が内容を確認します。Kaiser Permanenteの導入発表
ここで大切なのは、録音から記録までを完全無人にしていない点です。会話を整理する仕事と、医療記録として確定する仕事を分けています。導入数の多さだけでなく、この責任の置き方を見る必要があります。
事業開発では、生成した文章の質に加えて、確認しやすさも商品になります。発言者を取り違えていないか、否定表現を落としていないか、患者が話していない内容が混ざっていないか。こうした点を確かめる使い方まで設計することが重要です。
AIに任せる範囲と人へ戻す条件は、AIエージェントの事業参入でも扱っています。医療では、効率化と同時に、誰が記録を確定するかを明らかにする必要があります。
自社の状況から、次に確認することを選ぶ
該当する項目を開くと、記事の読む場所がわかります。点数を付ける診断ではありません。
NEXT STEP
次のステップ
現場の困り事を、医療DXの事業案につなげる
対象となる施設、変えたい仕事、自社が担える役割をそろえます。患者の個人情報は不要です。
医療情報の共通規格FHIRは、何を解決し、何を残すのか
FHIRは、医療情報を電子的に交換するための規格です。患者、検査、薬などの情報を共通の形で扱えるようにします。規格を作っているHL7は、情報を小さな単位に分け、組み合わせて使う仕組みとして説明しています。HL7のFHIR概要
ただし、共通の形にするだけで、すべての情報が正しくつながるわけではありません。「同じ検査の名前か」「単位が違わないか」「同じ患者の記録か」といった確認は残ります。
形式、意味、利用する権限を分けて考える
たとえば、二つの施設から検査値を受け取る場面を考えます。形式がそろっていても、測定した日時や単位が違えば、そのまま比較できないことがあります。これは形式の問題ではなく、内容をどう読むかの問題です。
さらに、技術的に受け取れる情報でも、自社が使ってよいとは限りません。誰の目的で、どの範囲の情報へアクセスするのか。本人への説明や同意をどう扱うのか。契約や制度に沿った確認が必要です。

情報が足りない状態を、隠さず伝えられるか
連携するサービスでは、取得できた件数だけでなく、取得できなかった情報も重要です。連携エラーがあったのに「異常なし」と見える画面は避けなければなりません。
たとえば、受け取った記録の更新時刻と、取得に失敗した項目を画面で分ける。必要な資料がそろっていないときは、担当者へ確認を促す。こうした設計は、情報を使う側の誤解を減らすためのものです。
AIで情報を探す仕組みを作る場合も同じです。参照する情報の範囲や更新状況が曖昧なら、回答の品質は安定しません。仕組みの基本は、RAG(資料を検索してから回答する生成AI)の解説も参考になります。
導入効果は「削減時間」だけで評価しない
医療DXの価値は、操作が速くなることだけではありません。確認し直す回数が減る、必要な情報を見つけやすくなる、担当者が変わっても仕事を引き継げる、といった変化もあります。
その一方で、費用の回収を説明するには、効果を金額へ置き換える際の慎重さが必要です。10分の作業が減っても、そのまま10分分の人件費が消えるわけではありません。空いた時間を、患者対応や別の仕事にどう使えるかまで見る必要があります。
| 評価するもの | 具体的に見ること | 見落としやすい費用・負担 |
|---|---|---|
| 入力・転記 | 一件の処理にかかる時間、再入力の回数 | 誤入力の修正、元データとの照合 |
| 記録の下書き | 作成から医療職の確認完了までの時間 | 誤りの発見、修正、説明にかかる時間 |
| 情報連携 | 必要な情報の到着、欠損、更新の遅れ | 接続設定、仕様変更、エラーへの対応 |
| 継続運用 | 職員が迷わず使えるか、止まった際に戻せるか | 教育、問い合わせ、復旧、契約終了時の移行 |
この表は、機能の処理時間だけで比較しないためのものです。作業が速くなる部分と、新たに必要になる確認や運用を同じ条件で見積もります。
月額料金の安さより、負担がどこへ移るかを見る
初期費用が低くても、施設側の設定作業が多ければ導入負担は大きくなります。反対に、導入支援が高く見えても、記録の照合や職員の教育が含まれていることもあります。比較するときは、何が料金に含まれるかをそろえます。
AIを使う製品なら、利用量に応じた費用にも注意が必要です。音声の処理、文章の生成、データの保管、確認を担う人の費用を分けて考えます。件数が増えたときに、売上よりも支援の工数が速く増えないかを見るためです。
導入した施設と、使い続ける施設を分ける
契約が成立しても、職員が使い続けるとは限りません。忙しい時間帯に元の手順へ戻るなら、その理由を調べます。機能が足りないのか、画面を切り替える手間があるのか、確認する人が決まっていないのかで、直す場所が変わります。
イノベーション総研は、利用率だけでなく、利用しなかった場面を記録することが大切だと考えます。対象外の患者や例外の書類を無理に処理させず、何を標準機能に含めるかを見直す材料にできます。
医療DXで新規事業を始める、三つの参入方法
大きな電子カルテを一から作る以外にも、参入する方法はあります。既存製品の間に残る仕事や、導入後に続く仕事から考える方法です。以下は企業事例を踏まえたIRIの事業仮説であり、各社が提携先を募集しているという意味ではありません。
1.特定の現場に絞り、入力と引き継ぎを減らす
診療科、施設規模、職種のいずれかを絞り、負担の大きい一つの仕事を扱います。たとえば、薬局での処方箋画像の取り込みや、診療所の予約と事前問診をつなぐ仕事です。提供先は、その仕事を持つ医療機関や薬局になります。
必要な資産は、現場の手順を知ることと、既存製品へ接続する力です。画面を作る技術だけでは足りません。忙しい時間帯、代理で来院する人、訂正が必要な書類など、標準の流れから外れる場面も知る必要があります。
不足する連携機能は、電子カルテや医事会計のメーカーと補う方法が考えられます。収益は初期設定と継続利用の対価を分けます。施設ごとの追加開発を、月額料金に際限なく含めないことが採算上の条件です。
2.既存メーカーの製品をつなぐ、連携の専門会社になる
接続やデータ処理に強い企業なら、医療機関へ直接アプリを売る以外の選択肢があります。電子カルテ会社や医療向けサービス会社へ、情報の変換、照合、取得状況の監視を提供する方法です。
提供物を「FHIRに対応させる」だけで終わらせず、対象の情報と接続先を明らかにします。検査値だけを扱うのか、紹介状まで含めるのか。読み出すだけか、書き戻しも行うのかで、必要な確認は変わります。
この事業の資産になるのは、接続仕様と、例外に対応した知見です。継続課金は、仕様変更への対応や監視など、続けて提供する仕事と結び付けます。接続先が変わるたびに全面改修が必要なら、共通化できる範囲を見直す必要があります。
3.導入後の教育・安全管理・復旧を支える
地域の医療機関との関係や、システム運用の経験がある企業に向く方法です。製品を販売するだけでなく、職員の権限設定、使い方の説明、問い合わせ対応、障害時の連絡を支えます。
技術的な監視を担う企業と、施設の業務を知る企業が提携する形も考えられます。月額の支援契約では、対応時間、対応する障害、施設側が担う作業を明確にします。連絡窓口を置くだけで、すべての障害を解決できるとは約束しません。
この役割では、復旧後に記録をどう照合するかも重要です。停止中に紙へ記録した情報があれば、再開後に誰がシステムへ戻すのか。運用支援の価値は、こうした現場の仕事までつながることで高まります。

参入前に確認したい、情報・責任・契約の懸念
医療DXでは、導入してから責任を決める進め方は避けたいところです。サービスが扱う情報と、止まったときに影響する仕事を先に明らかにします。
「つなげられる」と「使ってよい」は別の話
患者情報には慎重な扱いが求められます。技術担当者が接続できても、その情報を営業分析やAI学習へ自由に使えるわけではありません。利用目的、委託関係、アクセス権限、本人への説明などを、施設と確認する必要があります。
データを匿名にしたつもりでも、それだけで扱いを判断しないことが大切です。研究利用や外部提供を事業に含めるなら、具体的なデータと用途を示し、法務や情報管理の専門家を交えて確認します。
人が確認するなら、その負担まで含めて設計する
「最後は医師が確認する」と書くだけでは、使いやすいサービスにはなりません。何を確認し、どこに元情報があり、誤りをどう直すかが必要です。確認画面を別に開く回数が増えれば、負担が別の場所へ移るだけになります。
特にAIの下書きでは、もっともらしい文章と、内容が正しい文章を分けます。未確認の文章が確定済みの記録に見えない表示も必要です。診断・治療を目的とする機能を含める場合は、記録支援とは別に、SaMD(医療機器プログラム)の制度と事業化の確認が必要になります。
安全管理と復旧を、委託先任せにしない
厚生労働省は、医療情報システムの安全管理ガイドライン第7.0版を2026年6月に公表しています。医療機関・薬局向けのチェックリストや、事業継続計画の資料も用意されています。厚生労働省の安全管理資料
クラウドを使っていても、施設側の端末、職員のアカウント、委託先への連絡などの確認は残ります。誰が監視し、誰が利用を止め、誰が再開を判断するかを、契約と運用でそろえることが大切です。
更新や契約終了の費用を、見積もりから落とさない
医療機関が製品を変更するとき、記録を持ち出せるかは重要な問題です。データの形式、対象期間、移行費用、契約終了後の保管を確かめます。導入時に安くても、離れにくい契約では長期の判断を誤りやすくなります。
参入企業も、更新や移行を無償で引き受け続けない設計が必要です。標準で対応する範囲と、追加費用が発生する範囲を明らかにすれば、顧客も継続利用を判断しやすくなります。
自社が担う仕事を決めるために、三つの情報をそろえる
最初から医療DX全体の構想を作る必要はありません。まず、誰の仕事を変えたいかを一つに絞ります。病院の医療事務、診療所の受付、薬局の職員では、困る場面が違うためです。
次に、いまの仕事の流れを書きます。情報がどこから届き、誰が確認し、どの画面へ入力し、どこへ渡すのか。この順番を書くだけでも、製品の間に残る作業が見えてきます。
最後に、自社で提供できるものを重ねます。現場との関係、接続技術、運用経験のうち、どこに強みがあるでしょうか。不足する部分は、提携先と補うのか、対象範囲を狭めるのかを考えます。
逆に、利用目的を説明できないデータを前提にする案や、確認する人が決まらないAIの自動処理は、いったん見送る判断も必要です。参入しない条件まで整理することで、進める案の根拠が明確になります。
イノベーション総研への相談では、患者の個人情報は不要です。対象とする施設、困っている仕事、自社が持つ機能を、個人が特定されない形でお知らせください。事業開発の支援内容と照らし、顧客、提携先、収益の条件を整理します。
医療DXについて、よくある質問
電子カルテとの違いや、情報連携の条件など、医療DXを調べるときに迷いやすい点をまとめます。詳しい事例と参入方法は、前の各章をご覧ください。
まとめ:医療DXは、情報を次の仕事へ渡せるかが重要
医療DXの主役は、電子カルテやAIという製品名だけではありません。患者が入力した内容を受付へ、会話や書類を診療記録へ、必要な情報を別の施設へ渡す仕事があります。
8事例に共通するのは、情報をデジタルにするだけでなく、使う人の作業へつなごうとしている点です。ただし、接続、確認、復旧の仕事が消えるわけではありません。誰が担うかを決めることで、サービスとして提供しやすくなります。
参入を考える際は、現場の知識、接続技術、運用経験を出発点にします。大きな市場の一部を取るという見方から、一つの困る仕事を引き受ける見方へ。そこから、顧客と提携先に説明できる事業案を作っていきます。
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