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リスキリングとは?企業9事例から読む成功条件と新規事業

リスキリングは、講座を増やせば進むのか。
学んだ人を、新しい仕事へどう移すのか。

結論は、何を学ぶかより、学んだ後の仕事を先に用意することが重要です。国内外9事例から、成功条件と事業機会を読み解きます。

この記事の結論

リスキリングは、職務・技能・学習・配置・成果を一つにつなぐ経営施策です。

  • 研修やリカレント教育との違いを、仕事への接続で整理します。
  • 国内外9事例を、4つの市場レイヤーで解説します。
  • 4つの参入ルートと、参入・提携・待機・見送りの条件を示します。

目次

リスキリングとは?研修ではなく仕事の転換である

リスキリングとは、事業や仕事の変化に合わせて、新しい職務に必要な技能を身につけることです。単に講座を受けることではありません。学んだ人が新しい仕事を担い、事業の成果につながるところまでが本来の範囲です。

経済産業省の資料では、デジタル化などによる職業の変化に対応するため、必要な技能を獲得する取り組みとして説明されています。企業が主語になる点が、個人の学び直しと大きく違います。

似た言葉との違いを先に整理します。

言葉 主な目的 起点 到達点
リスキリング 新しい職務へ移る 事業戦略、職務の変化 配置、登用、転職、業務成果
アップスキリング 現在の仕事を高度化する 現職の能力課題 生産性や専門性の向上
リカレント教育 学校と仕事を行き来して学ぶ 個人の学習意欲 学位、教養、専門能力など
一般的な社員研修 共通知識をそろえる 組織運営上の必要 理解、受講、行動変容

違いは教材ではなく、仕事との接続です。同じAI講座でも、新しい職務を定義し、受講後に配置するならリスキリングです。全員に動画を配り、受講率だけを見るなら研修にとどまります。

リスキリングを職務・技能基盤、評価・証明、学習・伴走、配置・仕事接続の4層で示した図
図1|リスキリング市場を構成する4層。政府・企業・サービス各社の公開情報をもとにイノベーション総研作成。

本稿の結論は、リスキリングの成否は、学んだ後の仕事を先に用意できるかで決まるということです。新規事業の機会も、教材そのものより、職務の設計、技能の証明、配置、成果測定の間にあります。

なぜ今、学び直しより「配置」まで問われるのか

背景には、生成AIによる職務の変化と、日本の労働力不足があります。必要な技能が変わる一方、外部採用だけで必要人数を満たすことが難しくなりました。企業は、社内の人材を新しい仕事へ移す仕組みを求めています。

世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、2030年までに労働者の中核技能の39%が変化すると予測されています。また、世界の労働者を100人とすると、59人に学び直しや技能向上が必要になるとしています。

日本では、高齢化がもう一つの要因です。総務省統計局によると、65歳以上の就業者は930万人で過去最多です。就業者全体の13.7%を占めます。長く働く人が増えるほど、経験を新しい職務へ翻訳する仕組みが必要になります。

政策支援も続いています。厚生労働省が2026年1月に示した施策一覧には、企業向けの人材開発支援助成金、個人向けの教育訓練給付、相談支援、産学連携のプログラムなどが並びます。講座だけでなく、相談、技能証明、仕事との接続へ支援範囲が広がっています。

ただし、政策予算と市場規模は同じではありません。研修、eラーニング、人材紹介、タレント管理を合算した民間予測もありますが、対象範囲がそろいません。本稿では異なる予測を一本のグラフにせず、誰の予算がどの機能へ移るかを見ます。

リスキリング市場は4つの層で動く

この市場は、研修会社だけで構成されているわけではありません。企業が仕事の変化を見つけ、必要技能を測り、学習を提供し、新しい仕事へ配置するまでに4つの層があります。

主な機能 顧客が買うもの 代表例
1. 職務・技能基盤 職務定義、技能辞書、技能推論 人材の見える化、将来人材計画 TechWolf、Workday Skills Cloud
2. 評価・証明 実技試験、技能テスト、バッジ 実力の確認、採用ミスの削減 TestGorilla、HackerRank
3. 学習・伴走 教材、コーチ、学費制度の運営 技能獲得、修了、行動変容 Guild、Coursera、企業内大学
4. 配置・仕事接続 社内公募、異動、採用、副業 人材充足、定着、事業成果 Workday HiredScore、WAHVE

従来は3層目の教材が中心でした。いま支払いが移りやすいのは、前後の層です。企業は「何人受講したか」より、「誰をどの仕事へ移せたか」「外部採用をどれだけ減らせたか」を知りたいからです。

1層目では、自己申告だけに頼らず、職務履歴や業務データから技能を推定するサービスが増えています。2層目では、履歴書より実技を重視する技能ベース採用が広がります。4層目では、社内の空き職務や短時間の仕事へ人を結びつけます。

この構造は、AIエージェントの記事ともつながります。AIが人事業務を自動化しても、配置や評価の責任は企業に残ります。そのため、判断根拠と人による確認を製品に組み込む必要があります。

企業・サービス9事例に見る実装の違い

各社の取り組みを見ると、成功例は講座数を増やしただけではありません。事業戦略、職務、技能データ、学習、配置のうち、少なくとも二つ以上をつないでいます。

事例 役割 主な取り組み 実装段階
NEC 事業会社・提供者 職種別技能評価、DX教育、社内可視化 全社運用
富士通 事業会社 リスキリングと社内公募を人材戦略へ統合 全社運用
日立製作所 事業会社 職務記述、LXP、学習推薦を接続 グループ展開
NTT東日本 事業会社 4段階・11職種のデジタル人材定義、副業 全社運用
TechWolf/HSBC 技能基盤 25万人規模の共通技能体系を構築 商用運用
TestGorilla 評価 実技中心の技能ベース採用 商用提供
Guild/Walmart 学習・伴走 前払い不要の教育制度と職務経路 商用運用
Workday/HiredScore 配置 AIによる採用・社内移動の支援 商用提供
WAHVE シニア就労 保険・会計の経験者を在宅業務へ接続 商用運用

この比較から、リスキリングは一社の製品で完結しないことが分かります。自社がどの層を持ち、どの層を提携で補うかを決めることが、参入設計の出発点です。

国内外9事例をリスキリング市場の4層へ配置したマップ
図2|国内外9事例の役割と実装段階。各社の公式情報をもとにイノベーション総研作成。

表で注目したいのは、事業会社とサービス会社の境界です。NECは自社人材を育てる一方、顧客向けのDX人材育成も提供します。日立や富士通の社内制度は、学習サービスや人材基盤の顧客事例にもなります。

国内企業のリスキリングは、職務と異動を先に変えている

国内4社は、教材より先に人事制度と職務を整えています。規模や呼び方は違っても、「学ぶ、証明する、動く」を一つの仕組みにしようとしている点は共通です。

NECは、200種類超の教育を職種別の技能評価へつないだ

NECは、マーケティング、営業、技術開発、研究開発など6領域に職種別人材育成委員会を置いています。2024年度には、スキルアセスメントの実施率が95%に達しました。評価結果を基に、職種ごとの不足技能と対策を決めています。

同社はDX人材向けに200種類以上のプログラムを開発しました。DXリテラシー研修は延べ104,907人、専門研修は延べ43,811人が参加しています。2024年度のDX人材は延べ11,935人で、デジタル証明書を付け、社内で氏名とともに可視化しています。

重要なのは、受講者数だけではありません。事業部門の責任者が必要技能を決め、評価と育成をつないでいる点です。新規事業では、教材より、職務別の技能基準と証明の運用に継続収益の余地があります。

富士通は、学習と年間約3,000人の社内異動を結びつけた

富士通は、事業ポートフォリオの変革と人材ポートフォリオを連動させています。2025年4月の中期経営計画レビューでは、社内ポスティングによる異動が平均で年約3,000人と説明しています。

同じ資料で、リスキリングによる自律的なキャリア形成、ジョブ型の採用・処遇も一体で示しました。つまり、学習だけを独立させず、成長領域へ人を動かす仕組みにしています。

ここから分かるのは、リスキリングのKPIを受講率だけに置けないことです。異動、配置後の成果、定着までを追えるデータ基盤が必要です。提供企業には、人事制度へ深く入り込む力が求められます。

日立製作所は、職務記述とAIによる学習推薦を接続した

日立製作所は、ジョブ型人財マネジメントへの転換を進めています。2022年度末までに、グループ会社を含む約6万ポジションへ職務記述書を導入しました。職務と必要技能が見えることで、学習の目的が明確になります。

同社は2022年10月、学習体験プラットフォームを導入しました。現在の仕事、強化したい技能、学習履歴などを使い、AIがコンテンツを推薦します。日立アカデミーは、3万人規模で自律学習を促す取り組みにLinkedIn Learningを利用しています。

職務記述がないままAIに教材を薦めさせても、人気講座の推薦で終わります。日立の事例は、職務の定義が推薦精度と配置の前提になることを示します。

NTT東日本は、技能定義を副業と実践機会へ広げた

NTT東日本は、デジタル人材を技能レベルに応じた4段階と、11のジョブタイプで定義しています。同社の公開情報では、これまでに約9,000人のデジタル人材を輩出しています。

さらに、社内ダブルワークと社外副業を実践機会として使っています。社外チャレンジワークでは、約500人が社外へ活動の場を広げています。学んだ技能を本業以外で試し、経験として戻す設計です。

受講後の配属先が足りない企業にとって、副業や期間限定プロジェクトは重要です。新規事業では、学習者と実務課題を短期間で安全につなぐ仕組みが空白になっています。

海外プレーヤーは、学習を技能データと仕事へつなげる

海外5事例では、技能の推定、実技評価、教育制度、社内移動、シニア人材の仕事を別々の企業が担っています。共通点は、学習の入口より成果の出口を商品にしていることです。

TechWolfは、HSBCの25万人を一つの技能体系で見える化した

TechWolfは、従業員の自己申告だけに頼らず、既存の人事基盤や業務データから技能を推定する基盤を提供します。公式のHSBC事例では、5か月で25万人超を共通の技能体系へ整理しました。技術部門の3万人超は、より細かな技能プロファイルを持ちます。

HSBCはこの基盤を、人員計画、社内移動、能力開発へ使っています。TechWolfは既存の人事システムを置き換えず、データを補う位置に入ります。

後発企業が学ぶべき点は、技能辞書を作るだけでは足りないことです。日々の仕事で更新し、配置結果と照合するほどデータの価値が高まります。

TestGorillaは、履歴書より実技を前に置いた

TestGorillaは、職務に関連する技能テストを採用工程へ入れるサービスです。同社の2025年調査では、米英の回答企業の85%が技能ベース採用を使い、76%が何らかの技能テストを使っていると回答しました。

この数字はTestGorilla自身の調査であり、市場全体をそのまま代表するとは限りません。それでも、履歴書の経歴から能力を推測する方法から、実際の課題で確認する方法へ関心が移っていることは読み取れます。

生成AIで整った履歴書を作りやすくなるほど、短い実技課題や成果物の確認が重要になります。一方、試験が実務を正しく予測するか、受検者へ過度な負担をかけないかは継続して検証すべきです。

GuildとWalmartは、授業料の前払いをなくし職務経路を作った

Guildは、企業の教育給付制度を運営し、従業員、企業、教育機関をつなぎます。Walmartの「Live Better U」では、従業員が授業料を立て替える方式ではなく、企業が費用を直接負担します。

学べる分野は、データ分析、サイバーセキュリティ、技術など、事業上必要な領域に合わせています。Guildは学習の案内や伴走も担い、学習を社内の職務経路へ結びつけます。

このモデルの価値は、教材の数ではありません。前払いの負担を除き、迷わず選べる経路と伴走を設けたことです。日本でも、助成金申請、学習、配置を一体で扱うサービスに応用できます。

WorkdayとHiredScoreは、採用と社内移動を同じ画面で扱う

Workdayは2024年、AIを使う人材配置企業HiredScoreを買収しました。Workdayの技能基盤とHiredScoreを組み合わせ、外部候補者だけでなく、社内の人材を空き職務へ推薦します。

狙いは、採用担当者の作業を速めるだけではありません。外部採用の前に、社内で必要技能に近い人を見つけ、学習と移動へつなぐことです。これにより、リスキリングが採用費の代替にもなります。

ただし、人事AIは評価や雇用機会へ影響します。推薦理由を説明できること、人が判断すること、異議を伝える経路を残すことが前提です。

WAHVEは、シニアの経験を保険・会計の在宅業務へ変えた

WAHVEは、保険と会計の経験者を、在宅の契約業務へつなぐ米国のサービスです。退職後も働きたい専門人材と、経験者不足に悩む企業を結びます。

対象業界を絞るため、一般的なシニア求人より、引受査定や業務管理などの専門性を確認しやすくなります。企業はフルタイム採用ではなく、必要な仕事量に応じて経験を買えます。

日本で応用するなら、品質管理、設備保全、知財、規制対応などが候補です。ただし、経験を肩書だけで評価せず、再現できる手順や判断基準へ分解する必要があります。

成否を分けるのは「仕事から逆算する」4条件

9事例を横断すると、成功条件は共通しています。学習コンテンツを先に選ばず、事業課題から職務、技能、学習、配置、成果へ順につなぎます。

事業課題から配置後の成果までをつなぐリスキリングの設計順
図3|研修で終わらせないリスキリングの設計順。国内外9事例をもとにイノベーション総研作成。

第一は、変えたい事業を一つ決めることです。「DX人材を増やす」ではなく、変える業務と成果を先に定義します。例えば、保守計画をデータで作る、営業提案の作成時間を半分にするなど、業務成果まで具体化します。

第二は、職務を作業単位へ分けることです。職種名だけでは、必要技能を決められません。作業、例外、判断、成果物、責任を分けると、何を人が学び、何をAIが補うかが見えます。フィジカルAIの記事で扱った現場業務でも、同じ分解が必要です。

第三は、技能を実務で証明することです。修了証だけでなく、実技、成果物、上司の観察、配置後の業績を組み合わせます。技能データは本人に不利な固定ラベルにせず、更新や訂正ができるようにします。

第四は、学ぶ前に実践先を確保することです。社内公募、兼務、副業、短期プロジェクト、顧客案件などを用意します。学習後の仕事が見えると、参加者は何のために学ぶか理解できます。

NEXT STEP

次のステップ

学びを、仕事と事業成果へ。

対象職務、必要技能、実務案件、配置後の成果を整理し、自社に合う参入位置を具体化します。

リスキリングで狙える4つの新規事業

参入余地はeラーニングの追加ではなく、4層の切れ目にあります。自社が持つ顧客接点、業界知識、人事データ、実務案件のどれを使えるかで入口を選びます。

参入ルート 最初の顧客 提供物 収益モデル 必要資産 提携先 主な懸念 止める条件
業界特化の技能基盤 人手不足の製造、金融、介護など 職務分解、技能辞書、技能推定 初期設計費+SaaS 業界の職務知識、業務データ HCM、労務、AI企業 推定誤り、個人情報 配置結果で精度を検証できない
実技評価・証明 採用や配置のミスに悩む企業 実務課題、採点、デジタル証明 受検課金+法人契約 評価設計、妥当性検証 業界団体、教育機関 バイアス、替え玉、受検負担 成果との相関を示せない
成果接続型の学習運営 DX・GXで職務転換する中堅企業 診断、講座選定、伴走、配置支援 月額運営費+成果報酬 顧客課題、コーチ、案件管理 研修会社、助成金専門家 補助金依存、途中離脱 配置先を用意できない
シニア専門知の仕事化 経験者不足の中小企業 技能棚卸し、短時間業務、契約管理 取引手数料+法人会費 専門家ネットワーク、品質管理 OB会、業界団体、保険会社 偽装請負、責任分界、品質 業務を小さく切り出せない

4案の中で、自社が有利になるのは、既存の顧客接点と実務データを使える領域です。教材や基盤をゼロから抱えず、足りない層を提携で補う方が初期投資を抑えられます。

業界知識と仕事への接続力で4つのリスキリング事業を比較したマップ
図4|4つの新規事業と適した参入条件。市場構造と9事例をもとにイノベーション総研作成。

最初の候補は、業界特化の技能基盤です。後発の勝ち筋は、汎用教材ではなく、業界固有の仕事を技能へ翻訳することです。日本の製造、建設、介護、地域金融には、文脈で変わる判断が多く残ります。熟練者への聞き取りと業務データから、暗黙知を作業と判断条件へ翻訳できれば差別化できます。

二つ目は、評価と証明です。講座を作らず、学んだ能力が実務で使えるかを測ります。業界団体や教育機関と組み、採用、配置、受注資格へつなげると、単なる試験販売を避けられます。

三つ目は、成果接続型の運営です。複数の研修会社から教材を選び、参加者の伴走、実務案件、配置後の測定までを一つの契約で担います。中小企業では、何を学ぶかを決める人材が不足しているため、伴走型の需要があります。

四つ目は、シニア専門知の仕事化です。人材紹介ではなく、専門業務を月数時間から発注できる形へ変えます。事故や損害が起きたときの責任を明確にし、成果物のレビューや保険まで用意すると、取引の不安を下げられます。

参入前に押さえたい懸念と見送り条件

リスキリングは、人の評価と雇用に関わります。良い目的でも、設計を誤ると、学ぶ機会ではなく退職圧力や監視に見えます。事業性と同時に、本人の権利と責任分界を決める必要があります。

学習を本人責任にすると、必要な人ほど参加できない

業務時間外の学習だけを求めると、育児や介護がある人ほど不利になります。学習時間を業務として確保し、上司の評価基準も変える必要があります。会社都合の職務転換なら、費用と時間を個人へ押しつけない設計が基本です。

技能データは便利だが、誤ったラベルが機会を奪う

AIが「この技能がない」と推定すると、本人が知らないうちに候補から外れる恐れがあります。データの出所、推定と確認済みの区別、訂正方法を示すべきです。重要な配置や採用は、人が理由を確認します。

受講率を成果にすると、講座が目的になる

受講率や修了率は運営指標です。事業成果ではありません。異動率、配置後の立ち上がり、外部採用費、離職、品質、生産性など、元の経営課題へ戻して評価します。

補助金だけで成立するモデルは、制度変更に弱い

助成金は顧客負担を下げますが、利用条件や予算は変わります。補助がなくても顧客が払う価値を確認します。申請代行だけに依存すると、価格競争と制度変更の影響を受けやすくなります。

見送るべきなのは、配置先がないまま講座だけを売る事業、技能と成果の関係を測れない評価事業、本人が訂正できない人事AIです。顧客の予算が「研修を実施した事実」にしか付かない場合も、継続事業になりにくいと考えられます。

事業判断を4つに分けて考える

参入:業界の職務知識と実務案件がある

技能基盤、実技評価、仕事接続の一つから始めます。

提携:顧客と案件はあるが、学習・AI基盤がない

教材、HCM、評価技術は外部と組み、自社は業界設計を持ちます。

待機:配置後の成果データが取れない

異動や案件の結果を取得できる業務設計を先に作ります。

見送り:受講者数だけがKPIになっている

仕事を変えられない研修販売は、継続価値を作りにくいと考えられます。

自社は参入・提携・待機・見送りのどれか

参入判断は、市場成長率ではなく、自社が持つ資産で分けます。次の四つの結論に整理すると、必要以上に大きなシステム投資を避けられます。

判断 自社の状態 次の一手
参入 特定業界の職務知識と顧客案件がある 一職務の技能基準と実務評価から始める
提携 顧客と配置先はあるが、学習・AI基盤がない 教材、HCM、評価技術は外部と組む
待機 学習需要はあるが、配置後の成果を取れない 異動・案件データを取得できる業務設計を先に作る
見送り 受講者数しかKPIがなく、仕事を変えられない 研修販売ではなく別の顧客課題を探す

IRIとしては、後発企業が総合学習プラットフォームを正面から作ることは勧めません。既存企業は教材数、顧客基盤、人事システムとの接続で優位だからです。

一方、特定業界の職務を細かく理解し、学習後の実務案件まで持てる企業には機会があります。特に、熟練者の判断を若手へ移す製造保全、地域企業のDX、介護の業務改善、規制産業の実務評価は、汎用教材だけで解けません。

最初に決めるのは、作るシステムではなく、誰がどの仕事へ移り、何が改善すれば顧客が払い続けるかです。顧客デジタルツインの記事で示したように、AIによる推定は、現実の結果と照合して初めて事業判断に使えます。

支援会社を選ぶなら、研修会社かではなく実装範囲を見る

外部支援を使う場合は、保有教材の多さだけで選ばない方が安全です。事業戦略、職務設計、技能評価、学習、配置、成果測定のどこまでを担うかを確認します。

選定時には、次の点を質問します。

  • 対象職務を、作業と判断に分解した経験があるか
  • 受講前後ではなく、配置後の成果をどう測るか
  • 教材を売ることと、最適な学習を選ぶことの利益相反をどう扱うか
  • 個人データの出所、推定、訂正、保存期間を説明できるか
  • 顧客側へ職務定義、評価基準、運用手順を残すか
  • 技能が不足した人だけでなく、仕事側を変える提案もできるか

提案書に研修一覧しかなく、配置先や責任者が決まっていない場合は注意が必要です。逆に、実務案件を持ち、経営課題からKPIを決め、知見を社内へ残す会社は、継続運用まで支援しやすいと考えられます。

リスキリングのFAQ

検索でよく問われる点を、事業と人事の判断に絞って答えます。制度の対象や助成率は変わるため、申請時には必ず公的機関の最新情報を確認してください。

Q. リスキリングと社員研修の違いは何ですか?

A. リスキリングは、新しい職務へ移るための技能獲得です。社員研修は共通知識の習得も含みます。受講後の職務、配置、成果まで決めているかが実務上の違いです。

Q. リスキリングは何から始めればよいですか?

A. 教材選びではなく、変えたい事業課題と職務から始めます。次に必要技能を決め、現状との差を測り、学習と実務案件を用意します。

Q. 企業の成功事例に共通する点は何ですか?

A. 職務定義、技能評価、学習、配置のうち複数を接続している点です。NEC、富士通、日立、NTT東日本は、受講だけでなく社内可視化、異動、公募、副業へつないでいます。

Q. シニア人材にもリスキリングは必要ですか?

A. 必要な場合がありますが、全員へ同じデジタル講座を配る方法は適しません。経験を作業と判断へ分解し、新しい仕事で不足する技能だけを補う方が有効です。

Q. リスキリング事業の有望な参入領域はどこですか?

A. 業界特化の技能基盤、実技評価、成果接続型の学習運営、シニア専門知の仕事化が候補です。教材単体より、技能の証明と仕事への接続に継続価値があります。

まとめ:リスキリングを学習で終わらせない

リスキリングは、講座を増やす施策ではありません。事業戦略から必要な職務を決め、技能を測り、学び、実務へ配置し、成果を戻す仕組みです。

国内外9事例は、価値が教材の前後へ移っていることを示します。職務と技能を見える化するTechWolf、実技で測るTestGorilla、教育制度と職務経路をつなぐGuild、社内移動を支えるWorkday、シニアの専門知を仕事にするWAHVEが、それぞれ違う層を担っています。

新規事業では、総合プラットフォームを目指す必要はありません。自社が詳しい業界の一職務を選び、技能の証明か実務への接続を解く方が、顧客価値を作りやすくなります。参入、提携、待機、見送りを分ける基準は、学習後の仕事と成果データを持てるかです。

参考資料

本文の数値と企業事例は、次の公的機関・企業の公式情報を確認しました。民間企業の調査値は、その企業による調査であることが分かる形で記載しています。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

経済産業省、厚生労働省、総務省統計局、世界経済フォーラム、NEC、富士通、日立製作所、NTT東日本、TechWolf、TestGorilla、Guild、Workday、WAHVEの公式資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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