投稿日:2026.10.10 最終更新日:2026.10.11
理研とソフトバンク、量子計算の試験利用を拡大 新たに20件を採択
ニュースの要点
理化学研究所は2026年10月9日、ソフトバンクと共同で進める量子計算プロジェクト「JHPC-quantum」で、試験利用の第3期公募から20件の提案を採択したと発表しました。量子コンピュータとスーパーコンピュータを組み合わせ、産業や研究で役立つ用途を探すことが目的です。
新たな採択先には三菱電機、中外製薬、IHI、三井住友銀行などが含まれます。覚書の締結後、採択機関に2種類の量子コンピュータと「富岳」、GPUスーパーコンピュータ「ROQUO」の利用アカウントを付与し、アプリケーション開発を進めます。
提案の概要は11月9日のシンポジウムで説明する予定です。2026年度末までの成果を評価し、有望な案件は2027年度早期の大規模実験を支援します。実用上の性能優位や商用サービスの開始を発表したものではありません。
ニュース出典: 理化学研究所「JHPC-quantum、テストユーザプログラム拡大」(2026年10月9日)。リードは公式発表の日本語要約です。
イノベーション総研の考察
量子計算を新規事業に使えるかは、機械の性能だけでは決まりません。自社の計算課題を解けるか、従来手段より良い結果を得られるかを確かめる必要があります。今回の発表は、その検証に参加する企業と用途を広げる動きとして読むことができます。
量子計算の用途は、スパコンと比較して探す
量子コンピュータは、従来のコンピュータとは異なる原理で計算する装置です。ただし、あらゆる計算を置き換える万能な機械ではなく、何に使うと有利なのかを見極める段階にあります。
2023年のプロジェクト開始発表も、量子コンピュータそのものの開発ではなく、スパコンとの連携を目的としていました。量子側へ渡す処理と従来側に残す処理を組み合わせ、その有効性を調べる計画です。
量子計算の実証は、新しい装置を使うことではなく、従来の計算との違いを確かめることが出発点です。
素材探索なら、同じ精度の結果を得るまでの時間や費用を比較するという考え方があります。速さだけでなく、準備、計算のやり直し、結果の検証を含めると、業務に使えるかを判断しやすくなります。これは本記事の評価上の提案で、採択案件の公表済み指標ではありません。
採択20件は、新しい顧客の獲得実績ではない
2025年の開始発表では、試験募集と2度の公募による21件の採択を公表していました。今回の20件は、同じ基盤を利用する研究開発提案の追加です。有料顧客20社を獲得したという意味ではありません。
今回の審査では、基盤をどう使うか、スパコンを使う必然性、結果までの日程が重視されています。イノベーション総研は、技術への関心だけでなく、実行できる計算課題を持つ利用者を集める設計に意味があると考えます。
試験利用の参加数と事業成果は分け、計算課題を解決できた案件がどれだけあるかを追う必要があります。
提供側は利用者の反応から基盤を改善でき、利用者は異なる装置を試す機会を得られます。一方、分野や課題が違えば成果も異なるため、採択数だけを並べても普及度や性能は比較できません。個別案件の結果を確かめることが必要です。
大規模実験へ進む前に、業務上の合格点を決める
今回の発表は、年度末までの成果から大規模実験に進める案件を選ぶ方針も示しました。最初から全案件に大きな計算資源を投入するのではなく、小さな検証で有望な用途を見つける段階があります。
自社の実証へ置き換えるなら、現在の計算方法で困っていることを一つに絞ります。「計算時間を短くしたい」のか、「現在は扱えない問題を解きたい」のかで、必要な証拠が変わるからです。
次の投資判断には、技術の新しさではなく、自社の業務で必要な精度・時間・費用の条件を使います。
反対に、従来手段の改善で同じ目的を達成できるなら、量子計算を選ぶ理由は弱くなります。技術方式を先に決めず、従来の計算を続ける選択肢も残すことが重要です。今回の各提案の比較結果、費用、継続条件はまだ公表されていません。
11月の説明では、具体的な計算課題を見る
次に確認したいのは、11月9日に説明される提案の中身です。三菱電機は設計・製造、中外製薬は医療・創薬などの分野で採択されていますが、公表された所属と分野だけでは、解こうとする問題や成果を判断できません。
担当者が追うなら、課題、従来の方法、量子計算へ渡す処理、比較の条件を同じ順に整理します。量子計算の優位性が示されても、限定的な条件での結果なのか、現場のデータでも再現するのかを分けて読みます。
量子計算の参入判断では、採択企業の知名度より、公開される用途と比較条件を確認することが役立ちます。
研究成果から恒常的な利用へ移るには、運用、利用料金、支援体制の確認も必要です。今回の発表から、これらが決まったとは言えません。まず提案の説明を追い、その後の成果と大規模実験への選定を段階的に確認するのが妥当です。
まとめ
今回の20件採択は、量子計算の試験利用を産業界へ広げる動きです。商用化や性能優位の達成とは分けて捉える必要があります。
自社で検討する際は、現在の計算上の課題と比較基準を先に決め、提案、検証結果、大規模実験への移行を追います。技術の名前より、業務に使える証拠を確かめることが重要です。
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