新規事業の立ち上げ・事業化を支援するプロフェッショナルファーム

新規事業の推進組織とは|動かす3条件と体制設計

新規事業部をつくれば、案件は動き出すのでしょうか。

新規事業の推進組織とは、新しい事業の検証と事業化を、人・予算・意思決定の面から支える体制です。部署を新設しても、承認待ちや兼務の時間不足が解消されなければ、担当者は動けません。まずは、決める人・使える時間・現場の権限をそろえることが必要です。この記事では、ソニーの支援体制の事例を手掛かりに、推進組織を動かす3条件、組織の置き方、既存部門との連携、体制設計書の記入例を解説します。新たに部署を立ち上げる方だけでなく、専任組織があるのに案件が進まない方、少人数の兼務チームで始める方にも使える内容です。

この記事のポイント

  • 新規事業の推進組織は、部署の新設より「決める人・使える時間・権限」を先にそろえる
  • 組織の置き方は、既存部門の力を借りる必要性と、既存ルールから離れる必要性で選ぶ
  • 営業・技術・法務などへの依頼は、窓口だけでなく対応時間と期限まで合意する
  • 事業化の前に、販売・運営を引き継ぐ責任者と受入条件を決める

新規事業の推進組織は、担当者が事業を進められる条件をつくる

新規事業の推進組織とは、新しい事業を探し、顧客に試し、事業化へ進めるために、人・予算・意思決定を支える体制です。新規事業部や事業開発室のような専任部署だけでなく、既存部門をまたぐプロジェクトチームも含みます。

案件ごとの担当者は、顧客の困りごとを確かめ、解決策を試し、次の行動を提案します。一方、推進組織の役割は、担当者だけでは動かせない予算、人員、専門部門の協力を使える状態にすることです。小さな会社では同じ人が両方を担っても構いませんが、仕事の違いは分けて考えます。

ソニーの事例:挑戦する場に加え、事業化を助ける人を用意した

ソニーの2023年11月の公式インタビューでは、新規事業を支援するSSAPについて、挑戦しやすい環境を整えるだけではアイデアが育たず、事業化のノウハウを伝えて伴走する「アクセラレーター」を導入したと説明しています。資金や場所だけでなく、担当者が不足する経験を補う支援も用意した事例です。ソニーの公式記事

この事例からイノベーション総研が重視するのは、挑戦を任せることと、実行に必要な支援を渡すことを一組にするという点です。自社で専門チームを常設できない場合でも、顧客面談に同席する営業、試作を相談できる技術者など、必要な協力を先に確保できます。

専任部署を置く意味が大きいのは、複数の案件や部門間の調整が増え、案件担当者だけでは対応しきれなくなったときです。案件が少ない初期には、小さな横断チームでも始められます。まず「担当者の仕事を、誰がどこまで支えるのか」を決めてください。

推進組織を動かす3条件は、決める人・時間・権限

組織図を描く前に、意思決定者との距離、担当者が使える時間、現場に渡す権限を決めます。「距離」は役職の上下ではなく、相談が届いて結論が返るまでの経路です。3条件を次のように具体化すると、設置後にどこで止まるかを見つけやすくなります。

1. 決める人と、回答を返す期限を決める

役員直下でも、報告を聞くだけで結論が別の会議へ持ち越されるなら、判断は速くなりません。追加予算、部門間の人員調整、事業の継続・停止について、最終的に誰が答えるかを確認します。経営側でこうした支援を担う責任者を、本記事では「スポンサー」と呼びます。

担当者からは、今回決めてほしいこと、確認できた事実、選択肢、希望する回答日を渡します。スポンサーは、承認か否認だけでなく、条件や追加確認事項を返します。「検討しておく」で終えず、誰がいつ返答するかまで残すことが大切です。

例えば、来週の顧客テストに必要な費用を判断するのに、翌月の定例会議まで待つ運用では間に合いません。会議外で決められる範囲や、責任者が不在のときの代行者を用意します。ただし、必要な専門確認を省略してよいという意味ではありません。

2. 担当時間を確保し、その分の既存業務を減らす

「新規事業を兼務する」と決めるだけでは、顧客への訪問や試作に使う時間は増えません。担当する曜日・時間、今月の成果物、減らす既存業務を、本人と兼務元の上司で合意します。予定が重なったときに、どちらを優先するかも決めておきます。

例えば週2日を使う計画なら、その2日を会議や資料作成だけで埋めず、顧客との対話や検証に必要な時間を予定へ入れます。これは時間配分の例であり、どの案件にも週2日を推奨するものではありません。必要な活動から時間を見積もり、実際に使えた時間とのずれを確認します。

予定どおりに時間を使えない状態が続くなら、担当者の残業で補うのではなく、扱う案件を絞る、既存業務を移す、専任者を置く、のどれかを上司が判断します。初動の具体的な仕事は、新規事業担当がやるべきことで整理しています。

3. 現場で決めてよい範囲と、承認が必要な範囲を分ける

顧客への質問内容を変えるたびに役員承認が必要では、検証が進みません。合意した対象・予算・期間の中で担当者が決めてよいことと、それを超えた場合に承認を求めることを分けます。

具体的には、通常の質問修正や承認済み予算内の試作は担当者が進める一方、追加投資、事業の対象変更、本番提供の開始などは責任者へ相談する、といった分け方です。金額や契約の境界は、自社の決裁規程と案件のリスクに合わせます。

権限を渡すとは、確認をなくすことではなく、誰が何を確認して決めるかを明確にすることです。個人情報、安全性、品質に関わる確認は、少額のテストでも必要になる場合があります。分からないことを担当者だけで判断させない相談先も、権限と一緒に渡してください。

新規事業の推進組織は、自社の条件に合う置き方を選ぶ

基本条件をそろえたら、既存部門内、全社横断の独立部門、子会社などの社外型から置き方を検討します。これは代表的な整理であり、横断チームと専任部署を併用する設計もあります。大企業の制度をそのまま写すのではなく、何のために独立性が必要かを確かめます。

次の表は、各形態が向く状況と、運営を始める前に解いておきたい課題を比べたものです。

新規事業の組織形態と、選ぶ条件・運営上の注意点
置き方 向いている状況 先に決めたいこと
既存部門内のチーム 既存の顧客、技術、販売網を使い、現在の事業に近い領域を試す 既存事業の目標とは分けて確保する時間・予算と、現場の決定範囲
全社横断の独立部門 複数部門の技術や人材を組み合わせる、または複数案件を育てる 各部門が協力する範囲、経営への相談経路、事業化後の受入先
子会社などの社外型 採用、提携、運営などを本体と異なる条件で進める必要がある 親会社の技術・顧客・ブランドを使う条件と、親会社に承認を求める事項

例えば、自社営業が持つ顧客接点を使わなければ検証できない案件は、独立させる前に協力の取り決めが必要です。一方、既存事業とは異なる採用や提携の仕組みが不可欠なら、部門内で対応できるか、別組織が必要かを検討します。

社内ルールが合わないという理由だけで社外化しても、親会社の承認が毎回必要なら、期待した速度は出ません。法人を分ける場合は管理負担も増えるため、まず現行組織で変えられる権限や運用を確認します。

体制で困っていることから、次の確認先を選ぶ

近い状態を開くと、確認項目と記事内の説明・関連支援が分かります。

01 承認待ちが長い

何を誰に決めてもらうか、期限とともに整理します。

  • 今回の判断事項
  • 最終的な決定者
  • 回答を受け取る日

判断を返す経路を確認する →

02 兼務で検証の時間が取れない

減らす既存業務と優先順位を、上司と合意します。

  • 実際に使える時間
  • 移管する既存業務
  • 衝突時の優先順位

担当時間の決め方を読む →

03 現場で決めてよい範囲が分からない

現場で進める事項と承認が必要な事項を分けます。

  • 予算と期間
  • 対象顧客と変更範囲
  • 専門部門への相談条件

権限の分け方を確認する →

04 既存部門に協力を頼めない

相手に依頼する仕事と時間を具体化します。

  • 依頼する仕事
  • 協力窓口と責任者
  • 回答・対応の期限

協力と責任の分け方を読む →

05 事業化の引き継ぎ先が決まらない

販売・提供を続けるための条件を先に確かめます。

  • 販売と運営の責任者
  • 必要な人員と予算
  • 引き受ける条件

事業化前の受入条件を確認する →

06 検証の実行を支える人が足りない

仮説整理から検証の実行まで、支援内容を確認できます。

  • 社内で担う仕事
  • 不足する経験・専門性
  • 支援を頼む期間

新規事業立ち上げ支援を見る →

NEXT STEP

次のステップ

体制を決めたら、実行できる検証計画へ

役割や時間を整理しても、顧客への検証を進められない場合は、新規事業立ち上げ支援の内容をご確認ください。事業の現在地とつまずきリスクを整理したい場合は、無料診断も利用できます。

既存部門の協力と、事業化後の引き継ぎを先に決める

グラフ資料と電卓を置いた机で、向かい合う二人が握手している様子

推進組織を独立させても、既存部門の力を借りずに事業を育てるのは難しい場合があります。独立性を保つことと、協力を得ることは両立させて設計します。

「営業部に協力してもらう」では、誰がどこまで動くか分かりません。「対象顧客へ面談を打診する」「試作品の利用条件を確認する」のように仕事を切り分け、窓口、使える時間、回答期限を合意します。協力を頼まれた部門の通常業務との調整は、担当者任せにせず、部門長同士で行います。

推進組織の事務局、案件の実行責任者、経営側の判断者が混同されると、資料を集める人に投資判断まで求められます。次のように仕事を分けると、誰に何を頼むかが明確になります。

案件を進めるために分ける責任と、具体的な仕事
責任を持つ人 主な仕事 混同しないこと
案件の事業責任者 顧客・技術・収益の情報をまとめ、次の行動と必要な支援を提案する 全ての専門実務を一人で抱える役割ではない
推進組織の事務局 会議、案件情報、専門家への相談、決定後の対応を管理する 会議を開いたことを、投資が承認されたことにしない
経営側のスポンサー 予算・人員・部門間の衝突を調整し、権限の範囲で判断する 励ますだけで、担当者へ問題を戻さない
営業・技術・法務などの担当者 依頼された専門事項を確認し、実施できる条件と残る課題を返す 専門上の了承と、事業全体の投資判断を分ける
事業化後の受入責任者 販売・提供・保守などを引き継ぐ条件を確かめる 「事業化したら営業へ渡す」の一言で済ませない

これらは必ず5人を配置するという意味ではありません。兼任する場合も、議事録に「何の立場で、何を決めたか」を残します。推進組織の責任者の仕事を詳しく確認する場合は、新規事業部長の役割も参考になります。

本番提供の前に、売る人・運営する人と受入条件を合意する

顧客への試作品テストを担当した人が、そのまま契約、販売、問い合わせ対応まで続けられるとは限りません。本番提供に進む前に、価格や契約条件、品質、提供原価、問い合わせ先、障害時の対応を誰が引き受けるか確認します。

例えば、試作品を使った顧客の反応がよくても、利用者が増えるたびに開発担当者が個別対応する状態なら、販売拡大より先に運営体制を整える必要があります。受入部門が断る場合も、「協力的でない」と扱わず、足りない人員、予算、手順を具体化します。

受入先は完成後に探すのではなく、事業化へ進む条件の一つとして決めます。検証で分かったことを事業計画へつなぐ方法は、仮説検証の進め方で確認できます。

新規事業の推進組織が止まったら、直近の案件から原因を探す

体制が機能しているかは、部署の人数や会議の回数だけでは分かりません。直近で止まった案件を一つ選び、「何を待っていたのか」をたどります。原因によって、直すべき相手と仕組みが変わります。

承認待ちが続くなら、判断者と必要な情報を確かめる

相談の相手に決定権がないのか、判断材料が足りないのかを分けます。前者なら決定者へ届く経路を直し、後者なら必要な情報と追加確認の担当者を決めます。資料を増やす前に「何が分かれば判断できるか」と聞くことが出発点です。

検証が進まないなら、確保時間と協力の約束を見直す

顧客面談が予定どおりできなかった理由を確認します。既存業務で時間を使ったのか、営業への紹介依頼が届いていなかったのかで対策は異なります。担当者の予定表と依頼の記録から、実際に止まった箇所を探してください。

案件の継続だけが決まるなら、次に進む条件を置く

「もう少し検証する」を繰り返している場合は、次回までに確認することと、その結果で変える判断が曖昧かもしれません。活動件数だけでなく、顧客の購入条件、提供上の制約、収益の前提など、今回の段階で必要な情報を選びます。新規事業のKPI設計では、段階に合う指標の考え方を紹介しています。

同じ問題が複数の案件で繰り返されるなら、個別の進め方だけでなく、権限配分や部門間の業務分担を見直します。反対に、顧客の需要が確かめられない案件を、組織再編だけで立て直せるとは限りません。案件の問題と体制の問題を切り分けることが重要です。

体制設計書は、今の案件を使って1枚から始める

全社共通の制度を完成させる前に、一つの案件で運用できる設計書を作ります。組織図だけでなく、今回の目的、役割、時間、権限、協力先、判断日を同じ紙面に置きます。

以下は、既存顧客向けの点検支援サービスを検証する架空の例です。実在の支援実績ではなく、人数・期間・予算は記入方法を示すための例です。

点検支援サービスの検証に向けた体制設計書の記入例
設計する項目 記入例
今回の目的 現場の点検担当者だけでなく、費用を負担する部門が導入する条件を確かめる
事業責任者と協力者 企画担当Aが検証を統括。営業Bが面談を打診し、技術Cが試作への質問に対応する
確保する時間 4週間、Aは週2日を担当。定例集計を他担当へ移し、営業Bは面談調整に週2時間を確保する
現場の権限 承認済みの対象顧客・予算・情報管理条件の中で、質問と画面案を修正する
経営側の判断者 スポンサーDが追加費用と部門間の調整を判断。自分の権限外の事項は所定の決裁者へ上げる
次の判断 4週後に、導入条件の確認結果と提供費用の見積もりを基に、次の検証・修正・停止を決める
事業化に向けた宿題 営業部門と運営部門の責任者が、販売・問い合わせ対応を引き受ける条件を提示する

この設計書で大切なのは、担当者名を埋めることだけではありません。営業Bの時間が取れないと分かったら、面談対象を減らすのか、ほかの営業が協力するのかを判断できます。予定より費用が必要になった場合も、誰に何を相談すべきか分かります。

未決の欄は隠さず、決める人と期限を書きます。初回の検証が終わったら、承認待ち、予定と実際の稼働のずれ、引き継げなかった仕事を振り返り、設計書を更新してください。確認の抜けを探すときは、新規事業チェックリストも使えます。

新規事業の推進組織でよくある質問

人数、社長直轄、経営企画との兼務、評価の考え方を補足します。

Q. 新規事業の推進組織には何人必要ですか?

A. 一律の適正人数はありません。顧客への確認、試作、収益の検討、社内調整に必要な仕事と時間を洗い出して決めます。兼任できる役割はまとめても、誰が事業全体を判断し、誰が実行するかは明確にしてください。

Q. 推進組織は社長直轄にするべきですか?

A. 複数部門にまたがる人員や予算の判断が必要なら、社長や担当役員へ直接相談できる体制は選択肢になります。ただし、直属であることだけでは十分ではありません。決める事項、回答期限、不在時の代行者も決めます。

Q. 経営企画部が新規事業の推進組織を兼ねてもよいですか?

A. 兼ねることは可能です。ただし、計画の取りまとめや審査だけでなく、顧客への確認や検証を実行する人と時間を別途確保します。管理する仕事と、案件を動かす仕事を同じものとして扱わないことが大切です。

Q. 新規事業担当者を売上だけで評価してよいですか?

A. 販売前の検証段階では、売上だけで仕事の進み具合を捉えるのは困難です。確かめるべき前提を検証し、事実を共有し、次の判断につなげたかを確認します。販売を始めたら、売上・原価・継続利用・運営負荷なども段階に合わせて評価へ加えます。

まとめ|まず一つの案件で、決める人・時間・権限を合わせる

新規事業の推進組織は、担当者が事業を進めるための体制です。意思決定者との距離、確保する時間、現場の権限をそろえたうえで、自社に合う組織の置き方を選びます。

独立性を高める場合も、営業や技術などの協力を切り離してはいけません。依頼する仕事と対応期限を決め、事業化の前には販売・運営を引き継ぐ責任者を置きます。

最初の確認は、「今止まっている案件で、誰のどの判断、またはどの協力が足りないのか」です。一つの案件で確かめると、部署を新設する必要があるのか、既存の役割や権限を直せばよいのかが見えてきます。

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ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

ソニーグループ「Discover Sony」のSSAPに関する公式インタビュー(2023年11月30日)。本文の該当箇所にリンクを記載。組織設計の提案はイノベーション総研の解釈として区別しています。

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