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HAPS商用化の現在地|空飛ぶ基地局を動かす主要9者と事業機会

HAPSは、空に基地局を置くだけの技術ではない。
通信品質と、飛行・点検・再投入を合わせて考える設備です。

結論は、飛行時間だけでなく、契約した品質で通信・観測を届けられるかで決まります。主要9社の実装と4つの参入方法から、事業機会を整理します。

この記事の結論

HAPSは、特定地域を広く覆う設備です。回収・更新できるかは機体ごとに確かめます。

  • 2026年8月の日本上空での通信試験が、9月に発表されました。
  • SoftBank、Sceye、AALTOなど主要9社の役割を具体的に解説します。
  • 4つの参入方法、採算を決める変数、七つのリスクを示します。

HAPSは、成層圏に通信設備を載せる「空飛ぶ基地局」です。地上基地局より広い範囲を見渡せ、しかも衛星より地上に近いのが特徴です。

そのため、災害時の通信、山間部や離島の通信、ドローンとの接続などで期待されています。

長い間、HAPSは「将来の技術」として語られてきました。しかし、状況は変わり始めています。

SoftBankは2026年9月2日、8月に日本上空で行ったSceyeとの試験サービスの成功を発表しました。一般端末との通信やドローン接続、機上処理を確かめた段階です。

ただし、飛べたことと、事業として続けられることは別です。というのも、HAPSは、機体、電池、通信装置、運航、地上網、保守を一つにつながなければ動かないからです。

つまり、勝負は、機体の性能だけでなく、着陸後の点検と再飛行まで含む運用にあります。

この記事では、主要9社と研究支援機関の公表情報をもとに、HAPSの仕組みと実証の到達点を整理します。そのうえで、新規参入企業がどこを狙い、何を懸念すべきかを考えます。

目次

HAPSとは?成層圏に置く「空飛ぶ基地局」

HAPSは「High-Altitude Platform Station」の略です。国際電気通信連合(ITU)は、地上から20〜50kmの高さで、地球に対して所定の位置に置かれる物体上の無線局と定義しています。

これは無線通信規則上の定義です。一方、企業は20km未満を飛ぶ成層圏機もHAPSと呼びます。

例えばSceyeの2026年日本試験は、同社の発表では高度16.5〜17kmです。本記事では企業が公表するHAPSの事例を扱い、名称だけでなく実際の高度と試験条件を記します。

旅客機が飛ぶ高さは、おおむね10km前後です。一方、低軌道衛星は、数百km上空を高速で周回します。

そしてHAPSは、その間にある成層圏で、一つの地域を長く見守ります。

通信で使う場合は、上空の機体に基地局や中継装置を載せます。その際、地上のスマートフォンへ直接電波を送る方法もあれば、地上のゲートウェイ局との間で通信を中継する方法もあります。

実際、ITUは、遠隔地、山岳、沿岸、砂漠の接続や、災害時の地上網の補完を主な用途に挙げています。

HAPSが注目される理由は、三つあります。

  • 地上工事が難しい地域にも、上空から広く通信を届けられる
  • 衛星より地上に近く、電波が届くまでの距離を短くできる
  • 回収可能な設計では、装置を交換して再投入する選択肢を持てる

地上へ戻して装置を交換できる設計は、需要の変化へ対応する選択肢になります。ただし、長期飛行した機体を無事に回収できるか、点検後に再投入できるかは別に確認します。

回収費・交換部品・再出発までの時間も採算に含めます。

地上基地局・HAPS・低軌道衛星の位置と役割
図1|地上・HAPS・衛星の役割を比較した当研究所の概念図。高度約20kmは目安で、事例には20km未満の飛行も含みます。回収・再利用の可否と実績は機体ごとに確認します。

地上基地局・HAPS・衛星は、どのように使い分けるのか

HAPSは、地上基地局や衛星を置き換える万能な設備ではありません。それぞれの弱点を補う中間層として考えると、役割が見えます。

比較項目 地上基地局 HAPS 低軌道衛星
主な位置 地上 成層圏 宇宙空間
得意な範囲 都市や需要密度の高い地域 特定地域の広域カバー 国境を越える広域カバー
設備の更新 比較的容易 回収できれば可能 打ち上げ後は難しい
主な強み 容量、保守、既存網との接続 広域性、短い通信距離、再配置 全球性、地上設備が少ない
主な弱み 山間部や災害時の工事 飛行、天候、電力、認可 打ち上げ費、端末、遅延、更新
向く需要 平時の高密度通信 災害、離島、ドローン、局所観測 海洋、航空、世界規模の通信

たとえば、大都市の通信容量を増やすだけなら、地上基地局の方が合理的です。一方、世界中を常時覆うなら、衛星群に強みがあります。

つまり、HAPSが向くのは「ある地域へ、広く、長く、必要に応じて装置を変えながら届けたい」需要です。

HAPSと他の手段は、競合だけではありません。たとえば、衛星からHAPSへ大容量データを送り、HAPSから地上端末へ配る構成も考えられます。

つまり、地上、空、宇宙をつなぐ設計が、商用化の中心になります。

なぜHAPSは今、実装段階へ進んだのか

HAPSの構想は新しくありません。ITUによる研究は1990年代半ばに始まりました。

それでも長く実用化が難しかったのは、機体を軽くしながら、昼夜を越えて飛ばす技術が足りなかったためです。

現在は、太陽電池の効率、電池の重量当たり容量、軽量素材、自律飛行、アンテナが進歩しました。ITUも、これらの進歩によりHAPSが現実的になったと説明しています。

通信ルールも前進しました。HAPSを携帯電話網の基地局として使う「HIBS」の枠組みが整い、一般の携帯端末と同じ周波数を使う方向が明確になっています。

ただし、既存の地上局や衛星、航空、気象との電波干渉を避ける必要があります。

ここで大切なのは、「規格が整ったから商用化できる」と考えないことです。というのも、HAPSは航空機であり、基地局であり、データ設備でもあるからです。

そのため、通信と航空の両方を、安全に運用する仕組みが必要です。

固定翼と飛行船では、HAPSの設計思想が違う

HAPSの機体は、大きく二つに分けられます。翼で揚力を生む固定翼型と、ヘリウムなどの浮力を使う飛行船型です。

固定翼型は「HTA」と呼ばれ、太陽光で発電してプロペラを回し、旋回飛行を続けます。機体を軽くしやすい一方、夜間も飛ぶには電池が必要です。

また、旋回するとアンテナの向きも変わるため、地上へビームを合わせ続ける制御が欠かせません。

飛行船型は「LTA」と呼ばれ、浮力で高度を保つため、機体を浮かせる電力を抑えられます。固定翼より重い装置を載せやすい可能性がある一方、巨大な船体が風を受けるため、上空で位置を保つ制御や離着陸時の安全が難所です。

固定翼型と飛行船型HAPSの比較
図2|固定翼型と飛行船型の主な論点を当研究所が整理。方式だけで性能は決まらず、搭載重量・電力・飛行条件を実機ごとに確かめます。

方式の違いを、浮く仕組みと運用上の負担で比べます。搭載できる重量や連続飛行日数は、同じ方式でも機体ごとに異なります。

比較項目 固定翼型 飛行船型
浮く仕組み 翼の揚力 ガスの浮力
上空での動き 旋回飛行 所定地域での位置保持
電力の主な負担 推進、通信、夜間飛行 位置保持、通信
装置の搭載 軽さを厳しく求める 比較的大きな搭載余地を狙う
主な難所 夜間電力、旋回中の通信 風、船体材料、離着陸
代表例 AALTO Zephyr、PHASA-35、Kea Atmos Sceye

どちらが優れているかは用途で変わります。軽い通信装置を長く載せるのか、観測装置や機上サーバーを載せるのかに加えて、運用地域の日照や風も含めて選ぶ必要があります。

HAPSの事業は四つの層で動く

HAPS市場を機体メーカーだけで見ると、参入余地を狭く捉えてしまいます。以下は、当研究所が役割を四つに整理したものです。

一社が複数の役割を担う場合もあります。

第一は、機体と航空システムです。具体的には、翼、飛行船、自律飛行、推進、電力を一体で設計します。

ただし、長い開発期間と飛行実績が必要なため、後発企業には重い領域です。

第二は、機体に載せる部品と装置です。具体的には、電池、太陽電池、軽量材料、アンテナ、基地局、カメラ、センサー、機上計算機が入ります。

そのため、異業種の技術が活きやすい層です。

第三は、運航とネットワーク統合です。具体的には、気象予測、飛行管制、地上局、既存の携帯電話網、衛星との接続、点検をまとめます。

継続契約の候補ですが、運用要員・保守・代替機の費用を上回る料金で契約できるかが課題です。

第四は、通信とデータサービスです。具体的には、災害通信、山間部通信、ドローン接続、海洋監視、農地観測などを提供します。

ここで顧客は技術ではなく、通信の復旧時間や、見逃しの削減に対価を払います。

HAPSの価値は、四層がつながって初めて生まれます。たとえば、機体だけ優れていても、地上網とつながらなければ基地局になりません。

同様に、高性能なカメラがあっても、データを業務へ届けなければ売上になりません。

日本のHAPSは、試験サービスまで進んだ

通信会社のコア網(通信網の中枢部分)につなぎ、利用者が使うサービスとして動かした点に意味があります。

SoftBankは2026年9月2日、日本での試験サービス成功を発表しました。機体は8月9日に米国を出発し、8月23日に日本上空へ到達しています。

Sceyeの公式発表によると、機体は13日間で1万5,000km以上を飛行しました。日本の管理空域では7日以上運用され、一般の端末への通信、緊急通報、ドローン通信、機上サーバーでの処理が試されました。

その後、Sceyeの9月9日発表では、約30日・約3万kmの往復を経て米国へ戻り、追加試験後に計画した飛行終了と降下を行ったと報告しています。日本での通信試験と往復飛行は確認できますが、同じ機体を整備して再飛行した実績とは区別します。

SoftBankは、日本上空のHAPSからスマートフォンとドローンへ通信した国内初の試験だと発表しています。この試験は「飛行できるか」だけの実証ではありません。

商用化には、季節をまたぐ運用、複数機の交代、障害復旧、料金を含めた確認が残ります。SoftBankの同発表は、日本国内での商用化を2027年以降の目標としています。

実証の成功から、一般向けの提供範囲や売上が確定したとは判断できません。

Sceyeは飛行船型HAPSで通信と機上処理を実証した

Sceyeは、飛行船型の成層圏プラットフォームを開発しています。たとえば、今回の試験では、一般端末へテキスト、音声、インターネット、動画を届けました。

さらに、機上サーバーでもデータを処理し、地上のクラウドだけを使う場合より応答時間を短くしたと説明しています。

SoftBankが公表した機上処理の往復平均応答時間は68ミリ秒で、同試験のインターネット経由のクラウド処理より40%以上短い結果でした。この数字は試験での経路比較です。

全地域・全アプリケーションの遅延保証ではなく、実際の業務で処理場所を変えた効果を測る必要があります。

同社の強みは、大きな船体を通信設備や観測設備の土台にできる点です。一方、長期運用では、ガスの保持、風への対応、着陸と再整備が重要になります。

SoftBankはHAPSを地上網へ組み込んだ

SoftBankの2025年9月の説明によると、同年6月にSceyeへ出資し、日本国内でのHAPSサービス展開に関する独占権を取得する契約を締結しています。今回の試験では、自社のモバイル網とHAPSを接続しました。

また、2026年4月21日発表の動的ヌルフォーミング試験は、2025年12月に八丈島で、約3,000mを飛ぶ軽飛行機を使って行われました。位置や姿勢に合わせて電波を弱める方向を変え、地上局との干渉を抑えた試験です。

これは成層圏での長期飛行試験とは分けて評価します。

AALTO・NTTドコモ・Space Compassは固定翼HAPSで何を目指すか

もう一つの日本勢は、固定翼型のZephyrを使う陣営です。AALTO、NTTドコモ、Space Compassが、機体、携帯網、宇宙通信を分担しています。

AALTOはZephyrで67日間の飛行実績を積んだ

AALTOはAirbus傘下で固定翼型のZephyrを開発する企業です。2025年5月1日の発表では、同年2月20日から4月28日まで、67日6時間52分の連続飛行を記録しています。

発表には、インド洋上の指定区域で飛行を終了したことも記されています。

長期飛行と、回収して繰り返し使えることは別の実績です。飛行期間を延ばせれば発着頻度を減らせる可能性はありますが、回収率や部品交換費が悪化すれば採算は変わります。

通信事業では、次の機体へ交代するときにサービスを保てるかも確認します。

NTTドコモは一般の4G端末との通信を確認した

NTTドコモとSpace Compassは2025年3月3日の発表で、ケニア上空約20kmのZephyrを介し、地上の4G端末と通信した結果を報告しています。下り通信では4.66Mbpsを超える速度が確認されました。

基地局を地上に置き、機体の装置で中継する方式です。

ここでの要点は、専用端末を使わなかったことです。利用者が普段のスマートフォンを使えるなら、端末の普及を一から始める必要がありません。

一方、広い地域で同時に何人を収容できるかは、別に検証が必要です。

Space Compassは空と宇宙と地上をつなぐ

Space Compassは、NTTとスカパーJSATが設立した会社です。HAPSを単独設備として売るのではなく、地上網や衛星と組み合わせる「Space RAN」を進めています。

2024年には、NTTドコモ、Space Compass、みずほ銀行、日本政策投資銀行などの日本連合が、AALTOへ1億ドルを出資する方針を発表しました。同発表は取引完了の条件と規制当局の承認を前提としており、契約発表と払込完了は区別します。

機体を買うだけではなく、日本向けサービスを共同でつくる動きです。

HAPSでは、通信会社がすべてを内製する必要はありません。むしろ、機体運航、周波数、地上ゲートウェイ、顧客契約を組み合わせる事業者が必要です。

そして、Space Compassは、その統合役を狙っています。

BAE SystemsとKea Aerospaceは観測・防衛へどう進むか

HAPSの用途は携帯電話だけではありません。同じ地域を長く見られるため、海洋、災害、国境、インフラの観測にも向きます。

BAE Systems/PrismaticはPHASA-35を再利用できる機体へ近づけた

BAE Systems傘下のPrismaticは、固定翼型の「PHASA-35」を開発しています。同機は35mの翼を持ち、機体重量は約150kgです。

そして、2023年と2024年に成層圏で飛行し、高度6万6,000フィート超へ到達しました。

2024年12月の発表では、24時間飛行し、情報収集用の無線センサーを搭載した試験を報告しています。さらに、着陸後、2日で再飛行できる状態に戻したと同社は説明しています。

これは、HAPSの事業化で重要な「回収して、点検し、また飛ばす」運用へ一歩近づいた例です。

Kea Aerospaceは海洋観測から需要をつくる

Kea Aerospaceは固定翼型のKea Atmosを開発しています。2025年2月の発表によると、Mk1bは2月8日に高度56,284フィートへ到達し、8時間20分飛行して着陸しました。

Mk1は日の出から日没までの運用を想定した機体で、数か月の連続飛行を目指すMk2は別の開発計画です。

2026年5月8日の発表では、3月の試験で約42,000フィートから撮影し、画像をほぼリアルタイムに取得したと報告しています。ドイツ航空宇宙センター側のチームが遠隔支援しました。

これは撮影・伝送の実証であり、海域を数か月連続で商用監視した実績ではありません。

この事例からは、機体の高度だけでなく「必要な画像が、判断に間に合う時間で届くか」を測る意味が読み取れます。海洋監視なら、発見精度、通知までの時間、見逃しと誤報を顧客に確認し、既存の航空機・衛星・巡視との違いを検証します。

スマート農業のように、現場が判断を変えられる情報かどうかが重要です。

電池・材料・電波制御がHAPSの滞空を支える

HAPSの商用化は、機体メーカーだけでは進みません。夜間電力、翼の耐久性、電波干渉という見えにくい課題を解く企業が、事業の成否を左右します。

Ampriusの電池はZephyrの夜間飛行を支えた

固定翼型は、昼に太陽光で発電し、夜は電池で飛びます。ところが、電池が重いと、翼や推進装置も大きくなります。

つまり、軽さと容量は、機体全体の設計を決める条件です。

Amprius Technologiesは、AALTOの67日間飛行に自社の高エネルギー密度電池が使われたと発表しています。電池会社にとって、HAPSは販売数量の大きい市場ではないかもしれません。

ただし、この飛行での採用だけで他用途への適合性は決まりません。航空・防衛・ドローンへ広げる場合は、温度条件、安全性、充放電回数、供給量を用途ごとに確かめます。

TOPPANは包装・建装材の技術を翼へ転用した

SoftBankとTOPPANホールディングスは2026年4月、固定翼HAPS向けの翼用膜材を共同開発しました。強い紫外線、低温、高濃度のオゾンに耐えながら、軽さを保つ材料です。

同発表の工程は、2027年度までの耐久性能検証、2028年度までの量産技術確立を目指し、2029年以降に商用利用を予定するHTA型へ搭載するというものです。材料開発の発表を、量産完了や、2026年のSceye飛行船型への採用実績とは混同しません。

注目すべきは、TOPPANがHAPS専業ではないことです。同社は、包装用フィルムと建装材の加工・評価技術を、成層圏という新しい用途へ転用しました。

つまり、HAPSへの参入は、機体を一から作ることだけではありません。むしろ、既存技術を、成層圏の条件へ合わせ直す方法があります。

NICTは通信と地上網の共存を支える

SoftBankの動的ヌルフォーミング研究の一部は、情報通信研究機構(NICT)のBeyond 5G基金事業として実施されました。NICTはここでは研究支援機関であり、次の比較表の9社には含めません。

上空基地局の電波が地上局を邪魔しないよう、機体の動きに合わせて電波の弱い方向を制御します。

通信品質は、上空から電波が届けば終わりではありません。というのも、既存網を傷めず、利用者が移動しても接続を保つ必要があるからです。

そのため、研究機関と通信会社が、実際の周波数環境で検証する意味はここにあります。

主要9社から見えるHAPS商用化の条件

9社の取り組みを並べると、競争は「最も長く飛んだ会社」だけでは決まらないと分かります。四層をまたぐ連携と、実証データの蓄積が重要です。

表では、試験・開発・出資の公表内容と、導入前に確認したい条件を分けています。右列は当研究所の点検案で、各社に問題があることを示すものではありません。

企業・機関 主な役割 確認できた取り組み 次に問われること
Sceye 飛行船型機体 日本で端末・ドローン通信と機上処理 季節をまたぐ運用と複数機交代
SoftBank 通信・統合 日本初の試験サービス、干渉制御 商用料金、運用範囲、品質保証
AALTO 固定翼型機体 Zephyrで67日間飛行 量産、交代運航、回収率
NTTドコモ 携帯通信 一般4G端末との接続 同時接続、商用エリア設計
Space Compass ネットワーク統合 AALTO出資、Space RAN 地上・空・宇宙の運用統合
BAE Systems/Prismatic 固定翼型機体 24時間飛行、2日で再飛行可能な状態 長期滞空と顧客ミッション
Kea Aerospace 観測型機体 日中機の成層圏飛行、画像取得試験 長時間化とデータ販売
Amprius 電池 Zephyrの長期飛行を支援 寿命、低温、供給安定性
TOPPAN 翼用材料 軽量・耐久膜材と評価法 量産と実飛行での耐久性

商用化の条件は、五つにまとめられます。

  1. 昼夜を越えて飛び続けられる
  2. 通信・観測装置を軽く、小さく、低消費電力にできる
  3. 上昇、滞空、下降、点検、再飛行を安全に回せる
  4. 既存の地上網や衛星と干渉せずにつながる
  5. 通信の復旧や観測の改善を、顧客価値として測れる

一回の成功だけで、五つの条件を年間を通じて満たせるとは判断できません。HAPSでは、飛行実績、通信実績、保守実績、顧客の利用実績を一つの記録にする必要があります。

HAPS事業を4つの判断に分ける

参入:実機と顧客の両方が見える

成層圏仕様へ作り直し、飛行・通信・顧客成果を一つの実証にします。

提携:一つの技術や業務に強い

機体会社や通信会社と組み、自社は部品、評価、業務成果を握ります。

待機:搭載枠や認可が定まらない

地上や航空機で先に売り、仕様が固まるまで実績を蓄えます。

見送り:別の手段で安く解ける

地上局、ドローン、航空機、衛星で十分なら、HAPSにこだわりません。

HAPSで狙える四つの新規事業

新規参入企業が、最初から機体を開発する必要はありません。以下は、既存の強みを使うための四つの参入案です。

市場の需要や収益性を実証した分類ではなく、顧客・機体会社との検証に使う仮説として整理します。

HAPSで狙える四つの新規事業
図3|当研究所が提案する四つの参入案。継続収益は料金方式の仮説であり、顧客需要・採算を確認した実績ではありません。

参入案1:軽量・低消費電力の通信ペイロード

アンテナ、基地局、信号処理、放熱を一体化し、機体へ載せる事業です。その顧客は機体会社と通信会社です。

収益としては、装置販売に加え、干渉制御やビーム制御をソフトウェア利用料にできます。

勝つ条件は、地上用装置を軽くしただけにしないことです。というのも、低い気圧では空冷が効きにくく、温度差も大きいからです。

さらに、振動、紫外線、電力制約を含む成層圏仕様が必要です。

参入案2:運航・保守の統合ソフトウェア

気象予測、飛行経路、電池残量、通信需要、機体交代、点検を一つにまとめます。収益は、機体数や運用地域に応じた利用料と、運航支援です。

差別化は、画面の見やすさではありません。むしろ、上昇から再飛行までのデータをつなぎ、停止の原因を予測できるかです。

AIエージェントの新規事業で扱ったように、判断を自動化する場合も、最終権限と例外処理を設計する必要があります。

参入案3:空・宇宙・地上をつなぐ中継サービス

HAPSと地上局、衛星、別のHAPSをつなぎます。具体的には、電波や光通信を使い、混雑や天候に応じて経路を切り替えます。

その顧客は、通信会社、衛星会社、官公庁です。

例えばSceyeの2026年9月23日発表では、SoftBankなどが地上からレーザーでHAPSを追尾し、反射信号を連続して受ける試験を行いました。将来の光通信へ向けた位置把握・測距の成果で、高速データ通信が完成したという発表ではありません。

中継事業では、次に実データの転送量と、悪天候時の代替経路を確かめます。

価値は最大速度だけではありません。むしろ、接続が切れたときに別経路へ移し、サービスを続けることです。

ただし、複数の事業者をまたぐため、責任分界と利用料の精算が難しくなります。

参入案4:業務特化の観測・通信サービス

海洋監視、山火事、送電線、農地、災害現場など、一つの業務へ絞ります。機体は外部から調達し、センサー、解析、通知、業務システムへの連携を商品にします。

この方法は、顧客価値を説明しやすくなります。たとえば、画像を売るのではなく「巡視回数を減らす」「異常発見を早める」と売ります。

ラストワンマイル物流のように、現場作業と例外対応まで分解すると、収益モデルが見えます。

四つの案を、最初に支払う顧客と、必要な提携先で比較します。料金方式は設計案であり、継続収入を得られるかは契約と運用費の確認が必要です。

参入方法 最初の顧客 売るもの 継続収益 主な提携先
通信ペイロード 機体会社、通信会社 軽量基地局、アンテナ 制御ソフト利用料 機体、半導体、試験機関
運航・保守 運航会社 管制、予測、点検 機体・地域別利用料 気象、航空、保険
中継サービス 通信・衛星会社 通信経路、地上局 帯域・品質保証料 光通信、地上網、衛星
業務特化サービス 官公庁、インフラ、海運 監視、検知、通知 月額、地域別契約 機体、センサー、業務システム

機体を保有しない事業でも、データを入手できない期間や運航の遅れは顧客への提供に影響します。提携先へ任せる業務と、自社が負う品質・費用の範囲を明確にしてから採算を計算します。

HAPSの採算を決める六つの変数

HAPSの市場規模予測は、調査会社によって大きく異なります。というのも、通信、観測、防衛、気球まで含めるかで、対象が変わるためです。

そのため、市場規模の大きさだけで参入判断をしてはいけません。

採算は、次の六つの変数で見ます。

変数 見る数字 悪化すると何が起きるか
一回の滞空期間 連続運用日数 発着と点検の回数が増える
稼働率 提供可能時間の割合 売れる時間が減る
搭載余力 重量、電力、放熱 通信容量や観測性能が下がる
交代運航 切替時間、予備機数 サービス停止が増える
顧客密度 地域当たりの契約額 広く飛んでも売上が増えない
保守費 回収、点検、部品交換 継続収益が利益に残らない

通信サービスなら、利用者数だけでなく、災害時の待機料や通信会社との卸契約を見ます。観測サービスなら、撮影枚数ではなく、顧客業務の削減額や損失回避額を見ます。

HAPSは、一機の性能より「年間に何日、契約した品質で使えたか」で評価すべき事業です。飛行時間と契約上の提供時間を区別したうえで、どの技術条件がサービス停止につながるかを確かめます。

架空例:25日飛べたら、30日契約の何割を提供できたか

以下は、指標の違いを示す説明用の架空例です。実機の性能や業界平均ではありません。

顧客が買うのは、機体の滞空時間ではなく、必要な品質で使える時間です。

ある地域に30日間・24時間の通信を提供する契約を想定し、その間に対象機が25日間飛行したとします。ただし、飛行中にも合計48時間、必要な通信品質を満たせませんでした。

代替機や地上網による補完はないと仮定します。

架空例:飛行できた時間と、契約品質を満たした時間
区分 時間 契約時間に対する割合
契約で必要な時間 720時間 100%
対象地域での飛行時間 600時間 83.3%
品質を満たした時間 552時間 76.7%
提供できなかった時間 168時間 23.3%

この例では552÷720=76.7%です。

83.3%の飛行率だけを示すと、通信品質を満たさない48時間を見落とします。実契約では、対象エリア・端末・速度・同時接続数、計画停止を分母から除くか、代替経路を含めるかを合意し、その定義で集計します。

そのうえで、予備機や地上回線を追加した場合の提供時間と総費用を比べます。飛行日数を延ばす案だけでなく、短い停止を補完する案も検討し、同じ契約品質で安い構成を選びます。

HAPS参入で見落とせない七つの懸念

HAPSには大きな可能性がありますが、失敗しやすい点もはっきりしています。特に、飛行実証の成功だけで事業計画を作ると危険です。

1.夜間の電力収支が崩れる

昼に発電しても、夜に推進と通信を続けられなければ高度を保てません。しかも、冬や高緯度では、日照時間が短くなります。

そのため、平均的な日ではなく、厳しい季節で見積もる必要があります。

2.上昇と下降で天候に負ける

成層圏は比較的安定していても、そこへ向かう途中は風や雲を通ります。しかも、巨大で軽い機体は、地上付近の風にも弱いのが実情です。

そのため、滞空性能だけでなく、飛ばせる日の割合が重要です。

3.通信装置の熱が逃げない

空気が薄いと、地上と同じ冷却方法は使えません。しかも、通信容量を増やすほど、電力と熱が増えます。

そのため、装置単体ではなく、機体の電力・熱設計と一緒に試験すべきです。

4.地上網へ干渉する

同じ周波数を使えば、一般端末へつなぎやすくなります。その反面、地上基地局の通信を邪魔する恐れがあります。

そのため、位置と姿勢に合わせたビーム制御、国境をまたぐ調整が必要です。

5.通信の出口が詰まる

HAPSから端末へ高速で通信できても、HAPSと地上の基幹網をつなぐ回線が細ければ全体は速くなりません。雨に弱い高い周波数や、雲に遮られる光通信は、別経路を用意する必要があります。

6.認可と責任分界に時間がかかる

HAPSは、上空へ向かう途中で航空機の空域を通ります。そのため、飛行許可、周波数、落下時の責任、個人情報、観測データを整理しなければなりません。

さらに、通信会社、機体会社、運航会社のどこが責任を持つかも決めます。

7.顧客が実証費しか払わない

技術に関心を持つ企業は多くても、継続契約へ進むとは限りません。実証の前に、平時の利用料、災害時の待機料、最低利用量を話し合う必要があります。

NEXT STEP

次のステップ

HAPS対応ではなく、顧客業務の改善を設計する。

用途、機体方式、搭載条件、提携先、運航責任、継続収益を分け、参入位置を具体化します。技術の用途探索や顧客検証、連携先の開拓に関する支援は、TeamPro Technologiesのサービスページで確認できます。

参入・提携・待機・見送りをどう分けるか

HAPSは、夢の大きさで参入を決める領域ではありません。自社の強みと、飛行・通信・顧客の実績を結びつけられるかで判断します。

参入が向くのは、軽量材料、低消費電力通信、運航、観測業務など、成層圏へ移せる強みがある会社です。実機へ載せる提携先と、費用を払う顧客の両方が見えていることが条件です。

提携が向くのは、一つの部品や業務には強いものの、飛行や通信の責任を持てない会社です。機体会社や通信会社と組み、自社は評価方法や業務成果を握ります。

待機が向くのは、性能は出せても、搭載枠や認可が定まっていない場合です。仕様の固定を待つ間に、地上や航空機で使える製品を先に売ります。

見送りが合理的なのは、地上基地局、ドローン、航空機、衛星で同じ課題を安く解ける場合です。HAPSでなければならない理由がないなら、技術の新しさだけで参入すべきではありません。

HAPSの相談先に必要なのは、実装を横断する力

HAPSの事業機会は、通信、航空、材料、データの境界にあります。一つの技術だけ詳しくても、事業全体の成立条件は判断できません。

相談先には、少なくとも四つの視点が必要です。

  • 顧客が費用を払う業務を定められる
  • 機体・部品・運航・サービスの責任を分けられる
  • 実証済みの事実と、企業の将来計画を分けられる
  • 参入だけでなく、提携・待機・見送りも提案できる

イノベーション総合研究所では、技術の説明だけでなく、顧客、競合、提携先、規制、収益モデルを一つの事業仮説にまとめます。HAPSへの参入を検討する際は、保有技術がどの層で価値を持つか、誰と組むべきかから整理できます。

HAPSについてよくある質問

ここでは、HAPSの検討でよく出る疑問へ、短く答えます。詳しい判断では、機体方式と利用地域を分けて考える必要があります。

Q. HAPSとは何ですか?

A. HAPSは、成層圏に長く滞空する航空機や飛行船へ通信・観測装置を載せる仕組みです。通信に使う場合は「空飛ぶ基地局」と呼ばれます。

Q. HAPSと人工衛星の違いは何ですか?

A. HAPSは衛星より地上に近く、特定地域を継続して覆うことを目指す設備です。地上へ戻して装置を交換できる設計もありますが、回収・再飛行の実績は機体ごとに確認します。衛星は広域を覆える一方、打ち上げ後の修理や用途変更が難しい点が異なります。

Q. HAPSは日本で商用化されていますか?

A. SoftBankは2026年9月2日、日本上空で8月に実施したSceyeとの試験サービスの成功を発表しました。同発表の日本国内での商用化目標は2027年以降です。試験で使えた端末や地域を、そのまま一般向けの提供範囲とは扱いません。

Q. HAPSは普通のスマートフォンで使えますか?

A. 一般端末との通信実証は行われています。SceyeとSoftBankは日本で一般端末へ通信し、NTTドコモとSpace Compassもケニアで4G端末との接続を確認しました。商用時の対応機種やエリアは、提供事業者の設計で変わります。

Q. HAPSへ新規参入するなら、どこが有望ですか?

A. 後発企業には、機体そのものより、軽量・低消費電力の通信装置、運航・保守ソフトウェア、中継、業務特化の観測サービスが現実的です。自社技術が成層圏の重量、電力、熱、認可の条件を満たすかを先に確認します。

まとめ|HAPSは飛行実績を事業へ変える段階に入った

HAPSは、地上基地局と衛星の間を埋める成層圏プラットフォームです。2026年8月に日本上空で行われた試験では、一般端末、ドローン、機上処理が確認され、9月に結果が公表されました。

一方、商用化の勝敗は一回の飛行では決まりません。昼夜を越える電力、通信の干渉、上昇と下降、点検、機体交代、顧客契約を回し続ける必要があります。

主要9社の動きから見えるのは、HAPSが一社で完結しない産業だということです。機体、電池、材料、通信、運航、データサービスをつなぐ企業に機会があります。

新規参入では、機体開発から始める必要はありません。自社の強みを成層圏向けに作り直し、実機へ載せる相手と、継続して費用を払う顧客を同時に見つけることが重要です。

参考情報

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HAPSの技術シーズを、運用できる事業へ。

顧客、機体、搭載条件、ネットワーク、運航、規制、収益モデルを整理し、参入・提携・待機・見送りの条件へ落とします。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

主な外部出典

情報確認日:2026年9月27日。ITUおよび本文で挙げた各社の公式発表を確認しています。発表時の実績と将来計画、当研究所の参入案、説明用の架空例を区別しています。

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