投稿日:2026.09.06 最終更新日:2026.10.01
フェムテックは誰の課題を解く?10社の事例と新規事業の考え方
フェムテックには、どのような商品やサービスがあるのでしょうか。女性の健康を支える事業に参入するとき、何から考えればよいのでしょうか。
フェムテックは、月経、妊娠・出産、更年期などの健康課題を、技術で支える製品やサービスです。事業を考えるときの要点は、利用する人、費用を払う人、医療を担う人を分けて設計することにあります。
悩みが深くても、本人が毎月料金を払い続けられるとは限りません。企業が費用を負担しても、従業員が安心して使えなければ、支援は届かないからです。
本記事では、国内外10社の取り組みを具体的に紹介します。市場規模と経済損失の違い、更年期ケアが注目される背景、医療と日常のケアの境界も整理しました。
自社の商品、顧客接点、技術を、どの課題へつなげるかを考えるための記事です。
情報確認日:2026年9月28日。料金は各社の公表条件で、日本での提供価格や相場ではありません。
医療上の適応・安全性と、当研究所による事業設計の例を分けて記載しています。
この記事の結論
フェムテック事業は、利用者・費用負担者・医療の役割を分けて考えます。
- 市場規模と経済損失は別物です。売上は、自社が提供する範囲から積み上げます。
- 国内外10社は、記録、相談、診療、機器、製品と異なる入口を選んでいます。
- 健康情報を守り、必要な支援へつなぐ仕組みまでが事業の品質になります。
目次
フェムテックとは?女性の健康課題を技術で支える取り組み
フェムテックは、月経・妊娠・更年期などの健康課題を技術で支える製品やサービスです。FemaleとTechnologyを組み合わせた言葉で、対象は生理管理アプリだけではなく、日々の記録から相談、検査、診療、職場の支援まで広がっています。
まず、誰のどの困りごとを扱う領域なのかを見ていきましょう。
フェムケアとの違いは、技術の使い方にある
フェムケアは、女性の健康課題に寄り添う商品やケアを広く指す言葉です。その中でも、アプリやセンサーなどの技術を使うものを、フェムテックと呼ぶことが多くあります。
ただし、市場調査や企業によって分類は異なります。
たとえば、吸水ショーツは日常の不便を減らす商品です。また、月経の記録アプリは、体調の変化を振り返る手段になります。
さらに、オンライン診療につながるサービスは、受診の時間や移動の負担を減らす仕組みです。
これらは同じ健康課題に関係していても、売る相手も、必要な証拠も違います。そのため、「フェムテック市場に入る」とだけ決めても、商品は具体化しません。
むしろ、「誰が、いつ、何に困り、今はどう対処しているか」まで絞る必要があります。
この絞り込みは、顧客の課題仮説を確かめる進め方でも解説しています。技術から商品を決める前に、困りごとの具体的な場面を置きます。
月経から更年期まで、必要な支援は変わる
月経の場面では、体調の記録や日用品、受診しやすさが論点になります。また、妊活・不妊治療では、情報選び、通院と仕事の両立、費用負担が関わります。
さらに、妊娠・産後には、身体の変化や育児を含む支援が必要です。
更年期では、不調について相談するきっかけや、適切な医療につながる道筋が重要になります。しかも、同じ人でも、必要な支援は一定ではありません。
そのため、年齢だけで区切らず、生活や仕事のどこで困っているかを見ることが大切です。
また、女性全員が同じ症状や希望を持つわけではありません。というのも、妊娠を望むか、治療を受けるか、職場へ伝えるかは、本人の選択だからです。
そのため、企業側の「支援したい」という意図だけで、利用を求めない設計が欠かせません。
フェムテックの市場規模は、何を含めるかで変わる
市場規模を読む際は、金額より先に対象範囲を確認します。消費財を含む市場と、アプリや医療関連サービスを中心とする市場では、同じ名前でも数字が違うためです。
ここでは、国内の二つの調査を例に整理します。
消費財・サービス市場は拡大。ただし予測を実績にしない
市場全体の大きさより、自社が提供する範囲の売上を積み上げます。そのため、消費財・サービスと医療関連の市場を分け、自社の商品や契約に近い数字を確認します。
矢野経済研究所の2025年11月公表資料では、国内のフェムケア&フェムテック市場を、2024年は803億9,100万円と推計しています。2025年の888億6,000万円は、同資料の見込み値です。
対象には、月経、妊娠・産後、更年期などに関わる商品とサービスが含まれます。これは、商品の小売金額と、アプリ・サービスの利用者消費金額を基にした市場で、広告収入は含みません。矢野経済研究所の消費財・サービス市場調査

一方、同社の2026年1月公表資料では、女性関連ヘルスケア・医療市場を、2024年度84億9,200万円と推計しています。しかも、こちらは事業者売上高ベースです。
そのため、二つの数字を足したり、同じ市場の増減として比べたりはできません。矢野経済研究所のヘルスケア・医療市場調査
84億9,200万円の対象は、女性関連の健康記録アプリ、オンライン相談、郵送検査、産婦人科向け電子カルテ、骨盤底筋を鍛える椅子型機器です。同調査では市場を再定義しているため、過去に発表された同名の数字とも、そのまま増減を比べられません。
たとえば、法人向け相談サービスなら、対象企業数、契約単価、更新率が出発点です。
また、機器販売なら、販売台数だけでなく、返品、保守、交換も含めて考えます。
海外市場の予測を、そのまま日本の売上計画に使わない
海外の調査には、医薬品、医療機器、健康食品まで含むものがあります。当然、アプリ中心の市場とは規模が大きく変わります。
そのため、為替換算した数字を並べるだけでは、自社の事業機会は見えません。
海外で伸びた理由が、民間保険の給付や雇用主の医療費負担にある場合もあります。そのため、日本で同じサービスを売るなら、誰の予算に入るのかを改めて確認します。
人口や症状のある人の数は、契約件数ではないからです。
更年期ケアは、なぜフェムテックの注目領域なのか
更年期ケアが注目されるのは、個人の生活と、仕事を続ける環境の両方に関係するためです。ここでは、解決したい社会課題と、実際に商品へ支払われるお金を分けて考えます。
この区別がないと、事業計画が過大になりやすくなります。
年間約3.4兆円は、売上ではなく経済損失の試算
経済産業省は、月経随伴症、更年期症状、婦人科がん、不妊治療を対象に、社会全体の経済損失を年間約3.4兆円と試算しました。このうち、女性の更年期症状に関する損失は約1.9兆円です。
これは、欠勤や仕事のパフォーマンス低下、離職などを金額に換算した数字です。経済産業省の試算資料
経済産業省の試算方法の説明では、症状があっても対策を取っていない層の人数に、欠勤・仕事のパフォーマンス低下・離職などの割合と平均賃金を掛け合わせています。不妊治療は男女双方に関わりますが、この試算は女性側の就労への影響を扱っています。
年間約3.4兆円を、すべての女性の実際の損失を直接測定した値や、製品導入で回収できる額としては使いません。
この試算は、支援の必要性を考える材料になります。ただし、損失の全額がサービスの売上へ変わるわけではありません。
社会的な損失額と、顧客が支払う予算は別の数字です。
たとえば企業が費用を出すには、従業員の困りごとを把握し、既存の相談窓口では足りない理由を説明する必要があります。就業環境の見直しで対応できる部分と、外部サービスが必要な部分も分けます。
「更年期だから生産性が低い」と個人を評価する使い方は適切ではありません。本人が希望する支援へつながり、働き方を選べる環境を整える。
そのための事業として考えることが重要です。
メノポーズ経済は、更年期前後の支援を事業として捉える言葉
メノポーズ経済とは、更年期前後の健康や生活に関わる事業を捉える表現です。ただし、統一された市場区分ではなく、相談、医療、日用品、職場支援などが含まれます。
つまり、フェムテック全体の中にある、重要な需要のまとまりと見ると理解しやすいでしょう。
この領域では、検査や記録の後に何が起こるかが大切です。結果を見せるだけで、相談先が分からないままでは支援が途切れます。
一方、記録を診断の代わりに使うと、安全上の問題が生じます。
事業としての問いは、「不調を数値化できるか」だけではありません。むしろ、「困ったときに、必要な支援を選びやすくできるか」です。
そのため、症状の原因や治療の判断は医療機関が担い、事業者は自社の範囲を明確にします。
フェムテックの業界構造を、五つの役割で整理する
記録、相談・職場支援、診療、機器、製品の五つの役割から、自社で担う部分を選びます。すべてを自社で持つ必要はありません。
まず、既存企業が何を担い、その間にどのようなつなぎ目があるかを見ます。

たとえば、記録アプリは、利用者との継続的な接点を持ちます。また、企業向けの支援会社は、福利厚生として届ける経路を持ちます。
そして、医療機関や専門診療サービスは、診療と継続的な医療対応を担います。
さらに、機器や検査の会社は、測定方法、使いやすさ、製造品質を支えます。また、製品会社は、素材や処方、試験、販売網を持っています。
そのため、新規参入では、この五つを競合の一覧ではなく、組む相手の一覧として見ることもできます。
たとえば、職場で利用できる相談窓口があっても、予約後に受診しづらければ支援は止まります。検査キットが届いても、結果の意味や相談先が分からなければ、不安が増える可能性があります。
イノベーション総研が注目するのは、こうした支援の途切れる場所です。たとえば、独自のアプリを一から作る前に、既存サービスのどこで利用者が困るかを調べます。
そして、そこを改善する運用や連携にも、事業の余地があります。
国内外10社は、フェムテックで何をしているのか
10社の事例は、提供する支援、費用負担者、医療上の用途を分けて読むと参考になります。ここで比較するのは企業の優劣ではなく、誰へ何を届け、どこで対価を得るかです。
また、商用サービス、規制上の許可を受けた製品、過去の実証を区別して紹介します。
LIFEM:職場の学びと、個人の受診をつなぐ
LIFEMの「ルナルナ オフィス」は、月経、妊活・妊娠、更年期に関する法人向けの支援です。具体的には、企業での啓発と、医療機関と連携したオンライン相談・診療を組み合わせます。
つまり、従業員が自分で情報を探すだけの仕組みとは異なります。ルナルナの法人向けサービス
導入側の例がヤマハです。同社の2026年4月の発表では、月経・更年期のセミナー動画とオンライン診療を提供するとしています。
ここでは、男女を問わず学べる内容と、本人が利用する医療支援を分けています。さらに、休暇制度の見直しも併せて公表しました。ヤマハの導入発表
この事例から学べるのは、サービス単体ではなく職場環境と組み合わせる考え方です。ただし、商用導入の事実は確認できますが、導入だけで離職や医療費が減ったとは判断できません。
そのため、売り手は、導入後の使われ方まで支援範囲に入れる必要があります。
TRULY:更年期を、本人と職場の双方から支える
TRULYは、更年期に関する情報発信、ホルモン検査サービス「MENOPO CHECK」、法人向けの「TRULY for Business」を展開しています。女性だけでなく、男性の更年期や相互理解も扱う点が特徴です。
公式サイトでは、MENOPO CHECKを毛髪でホルモン量を調べるサービスとして紹介しています。また、法人向けには、学習と医師・専門家へのチャット相談を組み合わせています。
つまり、検査の販売だけでなく、知識や相談の不足にも接点を作るモデルです。TRULYのサービス紹介
ここで、検査結果を病気の診断と同一視しないことが重要です。そのため、新規参入する側は、何を測る検査なのか、何は分からないのかを示す必要があります。
さらに、結果から相談へつなぐ設計と、過剰な不安を生まない説明が、商品の品質になります。
Maven Clinic:人生の段階をまたいで企業の支援をまとめる
Maven Clinicは、妊活、妊娠・産後、更年期などを扱う、企業・健康保険プラン向けのサービスを展開しています。「Menopause & Midlife Health」では、専門職への相談、教育、ケアの案内、生活やキャリアの支援を組み合わせています。Mavenの更年期・中年期支援
企業から見ると、健康課題ごとに別々の窓口を導入する負担を減らせます。一方、利用者にとっては、人生の段階が変わっても相談の入口を持てることが価値です。
そのため、複数のサービスを並べるだけでなく、必要な支援へ案内する機能が重要になります。
同社は症状や就業継続に関する成果も発信しています。ただし、その値を日本企業の効果予測へ転用することはできません。
対象者や評価方法を確かめ、自社の顧客で何を測るかを別に決めます。成果の数字を採用するなら、回答者数、利用期間、比較対象、途中で利用をやめた人の扱いを確認します。
支援の構造と、その構造が生んだ成果を別々に評価する考え方です。
Midi Health:更年期の専門診療へ、オンラインでアクセスする
Midi Healthは、更年期前後の女性の健康を扱う、米国のオンライン診療サービスです。その料金ページには、初回と継続の診療、民間保険の対応、自費で利用する場合の区分が示されています。
ただし、保険の適用や自己負担は、州や加入プランなどで異なります。Midiの保険・料金案内
2026年9月28日に確認した自費料金は、初回30分が250米ドル、再診15分が150米ドルです。保険が使える場合も、自己負担は加入プランで変わります。
処方や検査などに追加費用が生じることもあり、表示料金だけを利用者の総負担と考えないことが重要です。
利用者から見た価値は、専門的な相談へたどり着く手間を減らすことです。一方、事業としては、集客だけでなく、保険確認、予約、診療、継続受診を回す必要があります。
つまり、画面の使いやすさだけでは成立しないサービスです。
日本で参考にする場合も、同じ医療職が同じ業務を担えるとは限りません。そのため、診療主体や費用の扱いを、日本の制度に合わせて組み直します。
特に、海外で保険対応があるという事実を、日本でも保険が使えるという説明へ置き換えてはいけません。
Peppy:企業が支払い、従業員は個別に相談する
英国発のPeppyは、雇用主が費用を負担する健康支援サービスです。その更年期支援では、アプリを通じた専門職への相談や、継続的なケアを提供しています。
つまり、一般的な相談窓口だけでは対応しにくい課題へ、専門性を届ける考え方です。Peppyの更年期支援
特に参考になるのは、企業への報告と個人への支援を分けている点です。同社は、雇用主に集計した利用状況などを提供し、個人の健康情報は共有しないと説明しています。
費用を払う企業が、個々の相談内容まで知る必要はありません。そのため、日本で福利厚生型の事業を作る場合も、契約の相手と、健康情報を扱う相手を区別します。
そのうえで、従業員の安心を損なわずに、企業へ導入価値を説明できるかが分岐点です。
Flo Health:日常の記録アプリに、データ保護を組み込む
Flo Healthは、月経や妊娠などに関する記録・情報提供のアプリを展開しています。つまり、日常的な記録を通じて継続接点を持つモデルです。
また、現在の公式説明には、個人を識別する情報と健康データを切り離す「Anonymous Mode」があります。Floのプライバシー説明
一方、米国FTC(連邦取引委員会)は2021年、過去の健康情報の共有に関する申し立てについて、同社との和解命令を確定しました。これは当時の事案であり、現在も同じ運用をしているという意味ではありません。FTCの案件記録
この二つを併せて見ると、記録アプリにとってデータ保護が周辺機能ではないと分かります。そのため、広告や分析の仕組みまで含め、どこへ情報が送られるかを把握する必要があります。
むしろ、情報を多く集めることより、利用者が安心して記録できることが継続利用を支えます。
Natural Cycles:記録から、規制対象の用途へ踏み込む
Natural Cyclesは、体温情報などを使うアプリを展開しています。米国では18歳以上を対象に、避妊や妊娠計画に使うアプリとしてFDA(米国食品医薬品局)の許可を得ており、単なる生理予測アプリとは位置づけが異なります。
また、公式FAQでは月額・年額課金を説明しています。Natural Cyclesの公式FAQ
2021年6月のFDA資料には、Oura Ringから体温情報を取り込む機能の追加が記載されています。これは、計測を担う機器と、目的に応じて情報を処理するソフトウェアが組む例です。FDAの機器資料
学べるのは、同じデータでも使用目的で責任が変わることです。たとえば、体温の傾向を見せる機能と、避妊に使う機能を同列には扱えません。
また、海外の許可は日本の承認を意味せず、すべての機能の有効性を保証するものでもありません。そのため、参入では、表示する結果と、その結果が利用者の行動へ与える影響を確認します。
Embr Labs:身につける機器で、日常の不快感に対応する
Embr Labsは、手首で冷温感を与える「Embr Wave」を販売しています。その製品ページでは、アプリによるモード選択や時間設定を紹介しています。
つまり、ホットフラッシュ(急なほてりやのぼせ)、睡眠、快適さなどの場面を想定した機器です。Embr Waveの製品紹介
公式ページには、買い切り299米ドルと月額20米ドルのレンタルという二つの料金が掲載されています(2026年9月28日確認)。保証や返却などの条件は異なります。
事業設計では、購入時の負担を下げるだけでなく、返却された機器の再整備、交換、サポートの費用まで含めて比べます。
ここでは、測定して結果を見せるだけでなく、その場で使える操作へつなげています。ただし、更年期の診断や原因の治療を行う機器と同一視してはいけません。
本記事では、販売中の日常支援デバイスとして扱います。
機器を持つ企業には、こうした特定場面への応用が参考になります。たとえば、重量、充電、操作のしやすさ、使用を続けられるかも商品価値です。
逆に、センサーや材料の性能が高くても、毎日の使い方に合わなければ、販売後の満足にはつながりません。
Bonafide Health:製品と専門家の接点を組み合わせる
Bonafide Healthは、女性の健康に関わる製品を研究開発・販売する米国企業です。そして、大塚製薬は2023年12月、子会社Pharmaviteによる同社の買収を発表しました。
その発表では、科学的根拠を持つ製品や、医療専門家との接点が説明されています。大塚製薬の買収発表
アプリではなく、製品の根拠と販売網を組み合わせる参入方法です。素材や製品を持つ企業は、ゼロから消費者を集める以外に、専門家へ正しく情報を届ける経路を考えられます。
ただし、健康食品と処方薬は異なります。というのも、研究があることだけで、あらゆる症状への効果を表示できるわけではないからです。
そのため、成分、量、対象者、試験した製品の条件を分けて確認します。また、買収されたことも、すべての製品の効果や高収益を証明するものではありません。
アステラス製薬:治療薬では、販売後の安全管理までが事業になる
アステラス製薬のfezolinetantは、米国で「VEOZAH」として承認された非ホルモン治療薬です。具体的には、FDAは2023年5月、閉経に伴う中等度から重度のホットフラッシュへの治療薬として承認しました。FDAの承認発表
その後、FDAは重い肝障害のリスクについて注意喚起し、2024年12月には枠囲み警告(最も重い注意書き)の追加を公表しています。つまり、新しい治療選択肢の登場と、使用中の安全管理は、両方を見る必要があります。FDAの安全性情報
安全性情報には、投与前と投与開始後の定期的な肝機能検査も示されています。この事例で周辺事業者が考えるべき仕事は、診療側の指示に沿った予約・検査・連絡の管理です。
薬を届ける機能だけを作っても、安全に治療を続けるための運用は完結しません。
この例は、一般のアプリ事業者が治療薬へ参入すべきという話ではありません。むしろ、治療に関わるほど、試験、許認可、医療現場への情報提供、販売後の対応が重要になる例です。
もちろん、周辺企業にも、開発支援や運用を担う機会はありますが、必要な専門性と責任は重くなります。
使う人と払う人が違うと、事業モデルはどう変わるか
10社の違いは、技術だけではありません。具体的には、本人が商品を購入する事業、企業が契約する事業、医療費の支払いに関わる事業が併存しています。
そして、ここを分けると、販売方法と採算の見方がはっきりします。

個人課金では、繰り返し使う理由が必要
本人が購入する場合は、今の対処法より何がよくなるかが重要です。たとえば、記録の手間が減る、相談先を探しやすい、使う場面で不便が減るといった変化が、価格に見合う必要があります。
定期購入にすれば売上が安定する、とは限りません。というのも、悩みが変わる、使う必要がなくなる、費用が負担になるといった理由で解約されるからです。
そのため、長期契約へ囲い込むのではなく、必要なときに利用できる選択肢も含めて設計します。
機器なら販売後のサポート、アプリなら専門家への相談原価も発生します。売上から製造費や広告費だけを引いて採算を判断しないことが大切です。
法人契約では、導入と利用を別々に考える
企業向けなら、人事や健康経営の担当者が契約窓口になります。ただし、その担当者は利用者のすべての悩みを知っているわけではありません。
従業員への聞き取りと、企業への提案は分けて行います。
契約が取れても、周知が届かなければ使われません。たとえば、利用していることを上司に知られそうなら、相談をためらう人もいるでしょう。
そのため、導入後の案内、相談の入口、情報管理まで含めてサービスです。
イノベーション総研では、利用者の安心と、企業が更新を判断する材料を両立させることを重視します。たとえば、企業への報告は利用率や満足度の集計にとどめ、個別相談を評価や配置に使わせない設計です。
少人数の集計でも個人が分かる場合があるため、部署別に細かく見せすぎない配慮も必要です。
医療との接続では、予約の後まで責任を分ける
相談から診療へ進むときは、診療主体、費用、緊急時の対応を明確にします。というのも、プラットフォームの問い合わせ窓口と、医療上の相談先は同じとは限らないからです。
さらに、受診できない場合にどう案内するかも決めます。
海外の事例は、サービス設計の参考です。ただし、保険制度や医療職の業務範囲まで同じとは限らないため、日本では専門家の確認が必要になります。
つまり、見た目のアプリを再現するだけでは、同じ事業にはなりません。
フェムテックの企画を、六つの問いで整理する
点数をつける診断ではありません。未確認の条件を見つけるための整理です。
フェムテックの新規事業は、四つの入り方から考える
法人の相談・受診支援、日常の記録、特定場面の機器・製品、医療の運用支援が参入候補です。法人顧客、生活者との接点、素材・機器、医療連携では、有利な入口が違うためです。
ここでは、四つの参入方法と不足しやすい機能を整理します。
| 参入方法 | 持っていると強いもの | 商品にする価値 | 組む相手 | 採算・継続の確認点 |
|---|---|---|---|---|
| 職場の相談・受診支援 | 法人営業、人事への接点 | 周知から利用、相談への案内 | 医療機関、専門相談会社 | 契約更新、利用のしやすさ、支援原価 |
| 日常の記録・案内 | アプリ、既存の利用者接点 | 記録負担や情報探索の手間を減らす | 医療監修、データ管理の専門家 | 継続利用、有料化、問い合わせ負担 |
| 特定場面の機器・製品 | 素材、製造、品質管理 | 生活の不便を具体的に減らす | 試験機関、流通、必要に応じ医療機関 | 使い続けられるか、返品、保守費 |
| 医療・専門サービスの裏側 | 業務システム、連携技術 | 予約、同意、説明、記録の運用を支える | 医療法人、専門職、法務 | 誰の作業が減るか、責任、導入負担 |
四つのうち、すべてを狙う必要はありません。というのも、最初から健康課題を網羅すると、専門家の確保や運営が複雑になるからです。
むしろ、顧客の困りごとを一つに絞り、必要な連携を増やしていく方が、価値を説明しやすくなります。
法人との接点があるなら、受診までの途切れを減らす
人事向けサービスや研修をすでに提供している企業は、その接点を使えます。ただし、研修の本数を増やすだけでは、本人の困りごとが解決するとは限りません。
たとえば、職場の研修後に相談先が見つからないという課題があれば、専門窓口への案内を整えます。また、相談後に予約が難しいなら、対応できる医療機関や時間帯を検討します。
このように、どこで止まっているかによって、提供する機能は変わります。
この場合の競争相手は、他のフェムテック会社だけではありません。たとえば、既存の産業保健、健康保険組合の相談、地域の医療機関も代替手段です。
そのため、それらを置き換えるのか、つなぐのかを明確にします。
素材や機器があるなら、使う場面を一つに絞る
素材、センシング、温度制御などの技術を持つ企業は、日常の特定場面へ応用できます。着用の負担、充電、手入れ、廃棄といった使い方まで見て、既存商品との差を確認します。
ここで注意したいのは、技術の性能と、利用者にとっての改善は別だという点です。測定精度が上がっても、その情報で行動が変わらなければ価値は限定的です。
逆に、特別なAIがなくても、困る場面を確実に減らせる商品には意味があります。
医療を持たなくても、運用を支える入口はある
予約、説明文書、同意の管理、専門職への引き継ぎなど、医療の周辺には運用業務があります。業務システムの企業なら、診療そのものではなく、これらを支える入り方も考えられます。
その際は、一般的な顧客管理システムの機能を並べるだけでは不十分です。誰がどの情報を閲覧できるか、相談先が変わったときに何を引き継ぐか、誤送信をどう防ぐかまで具体化します。
技術と顧客価値のつなぎ方は、ブレインテックの事業化事例でも扱っています。扱う技術は違っても、結果を見せた後の運用まで考える点は共通です。
懸念は、データ・効果表示・医療・採算の四つに分ける
企画時点で、健康情報の保護、効果表示、医療への引き継ぎ、提供費用を確認します。健康情報を扱う以上、売ってから考えるのでは遅い論点があります。
特に、次の四つは企画時点から確認します。
健康情報を、人事評価や広告へ流さない
病歴などは、個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たります。取得や第三者提供には原則として本人の同意が必要です。
ただし、情報の内容や取得経路によって扱いが異なるため、実際の設計は専門家と確認します。個人情報保護委員会のガイドライン
規約へ書くだけでは十分ではありません。実際には、管理画面、外部の分析ツール、通知、メール配信まで、情報が流れる先を確認します。
また、部署の人数が少ない場合には、名前を消しても本人を推測できることがあります。
収集する項目は、支援に必要なものに絞ります。あわせて、保存期間、削除や利用停止の窓口、委託先の扱いも説明します。
つまり、個人の健康情報を集めること自体を、事業の目的にしない設計です。
こうした論点を見落とさないために、新規事業のリスクを整理する考え方も参考になります。項目を並べるだけでなく、誰が対応するかまで決めておきます。
「研究がある」と「この商品に効果がある」を分ける
成分に関する研究があっても、自社製品の条件と同じとは限りません。というのも、対象者、量、利用期間、比較対象が違えば、説明できる範囲も変わるからです。
また、利用者の感想と、比較試験の結果も分けて扱います。
健康食品、医療機器、医薬品では、表示や広告の確認事項が異なります。また、海外での認証を、日本国内の効果保証として使うこともできません。
そのため、販売前に薬事・広告表示の確認を受けます。
特に、更年期のあらゆる不調を一つの商品で解決できるような見せ方は避けます。何を支援し、何は支援できないかを明確にすることが、信頼と問い合わせ対応の負担軽減につながります。
医療へつなぐ責任と、緊急時の対応を曖昧にしない
相談サービスは、常に診断や治療ができるわけではありません。そのため、対応時間、相談できる内容、医療機関への案内方法を示します。
特に、体調が悪化したときに、アプリの返信だけを待つ設計にしないことも重要です。
AIで回答する場合には、専門職への引き継ぎ条件を決めます。また、自動回答が処方や診断の代わりになるような説明は避けます。
さらに、業務支援として使う場合も、誰が確認し、誤りを修正するかを設計します。
導入企業数だけでは、採算は分からない
法人契約では、営業、導入支援、専門職、個別相談、レポート作成に費用がかかります。利用が増えるほど原価も増えるサービスでは、契約単価と利用条件を合わせて考えます。
一方、利用率が低いままなら、翌年度の更新理由が弱くなります。契約数と利用率だけでなく、支援へつながったか、相談の待ち時間は長くないか、利用者が安心して使えたかも確認します。
課金方法を考える際は、新規事業の収益モデルの作り方も参照できます。定額契約でも、利用回数に応じて原価が増える部分は分けて計算します。
導入前後の変化を測るときも、制度変更や働き方の影響が混ざります。欠勤の減少をすべて自社サービスの成果にせず、何を測り、どこまで解釈できるかを整理して伝えることが大切です。
架空例|法人向け相談サービスの利用率と原価を分ける
以下は説明用の架空例で、相場や既存企業の実績ではありません。利用対象500人の企業が、年間120万円(税別)の相談サービスを契約したとします。
同じ1年間で登録者が100人、相談した人が40人、延べ相談が80回なら、集計は次のようになります。
| 確認する数字 | 計算 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 対象者全体の登録率 | 100人 ÷ 500人=20% | 利用開始までの案内が届いたか |
| 対象者全体の相談利用率 | 40人 ÷ 500人=8% | 相談を使った人の広がり |
| 登録者の相談利用率 | 40人 ÷ 100人=40% | 登録後に相談へ進んだ割合 |
| 相談利用者1人当たりの回数 | 80回 ÷ 40人=2回 | 専門職の対応量を見積もる材料 |
相談1回の直接費を5,000円、契約ごとの導入支援・運営固定費を年間75万円と仮定すると、費用は40万円+75万円=115万円です。売上120万円との差は5万円ですが、全社共通費や税金を差し引く前の残額であり、最終利益ではありません。
また、相談しなかった人にも、情報閲覧などの価値がある可能性があります。利用率だけで成功・失敗を決めず、利用しない理由、待ち時間、支援への満足と原価を合わせて、次年度の価格や提供体制を見直します。
個人の症状や相談内容を、人事の評価材料にはしません。
NEXT STEP
次のステップ
健康課題への関心を、自社が届けられる事業へ。
顧客、費用負担者、必要な専門性を分け、参入方法と提携先を整理します。
フェムテックへの参入・提携・待機・見送りをどう判断するか
市場への関心が高くても、今すぐ自社開発することが最適とは限りません。顧客への接点と、必要な専門性がそろうかで判断が変わります。
ここでは、事業案を四つの選択肢へ分けます。

参入を検討しやすいのは、具体的な困りごとと購入理由があり、自社が担う範囲を説明できる場合です。既存の顧客や販路があっても、今回の健康課題に対する信頼を持っているかは別に確認します。
提携が向くのは、顧客接点や技術はある一方、医療や専門相談を持たない場合です。相手の名前を企画書に載せるだけでなく、対応範囲、品質、費用、データ、契約終了時の引き継ぎを決めます。
待機が必要なのは、関心は確認できても、費用負担者や継続利用の条件が見えない場合です。この段階では、大規模な開発へ進む必要はありません。
むしろ、どの相手の、どの条件が分かれば判断できるかを整理します。
見送りを考えるのは、過剰な効果表示や、本人が望まないデータ共有が採算の前提になっている場合です。医療の責任を誰も引き受けない計画も、そのまま進めるべきではありません。
イノベーション総研では、良いテーマかではなく、自社が責任を持って届けられるかで判断します。というのも、関心があることと、実行条件がそろうことは別だからです。
また、健康課題の切実さを、強引な販売の理由にしない姿勢が求められます。
イノベーション総研に相談するとき、何を整理できるか
相談では、利用者・運用者・費用負担者・決裁者を分け、誰の何を確かめるかを整理します。たとえば、既存顧客、商品、技術が、どの健康課題と結びつくかという段階から整理できます。
なお、私たちが扱うのは、診療ではなく新規事業の判断と設計です。
たとえば、法人向けサービスなら、利用者、運用者、費用負担者、決裁者を分けます。というのも、同じ企業でも、この四者が求める条件は異なるからです。
つまり、従業員に歓迎されることと、人事が予算化できることを、同じ質問で確かめない考え方です。
聞く相手や質問の作り方は、法人向けの顧客インタビューの進め方で詳しく解説しています。本人の健康に関する質問は、回答を断れることも明確にして進めます。
イノベーション総研の「顧客対話分析レポート」では、面談前の仮説整理と、対話ログの記録・集計・振り返りを扱っています。この記事で整理した四つの役割に応じて、聞く内容と購入条件を分けて記録します。
フェムテックでは特に、本人へ聞くべきことを、企業担当者の推測だけで埋めないようにします。
相談時には、次のような情報があると論点を絞りやすくなります。
- すでに接点がある顧客や、提供中の商品・技術
- 困りごとを聞いた相手と、その人の役割
- 個人販売と法人契約の、どちらを考えているか
- 自社で担いたい範囲と、外部へ任せたい範囲
- 医療連携や健康データの扱いで気になっている点
顧客の課題、提携先、販売経路、収益モデルをつなげて整理します。診療、薬事、法務の専門判断が必要な箇所は分け、自社で判断できる部分と、専門家へ確認する部分を明確にします。
フェムテックのよくある質問
最後に、事業を検討する際によく出る疑問をまとめます。定義、費用負担、医療との境界を分けると、企画の混乱を減らせます。
まとめ:健康課題と、支援が届く仕組みを一緒に考える
フェムテックの事業化では、健康課題と、安心して支援が届く仕組みを一緒に設計します。月経や更年期などの困りごとに対して、記録、相談、医療、職場の支援をどう届けるかを考える領域です。
企業事例を読むときも、機能の数より、支援が途切れない仕組みに注目します。
新規事業として重要なのは、利用する人、費用を払う人、医療を担う人を分けることです。そのうえで、自社の技術や顧客接点を、どの場面へつなぐかを決めます。
市場の成長や社会的な損失の大きさだけでは、参入の答えは出ません。本人が安心して使え、費用負担者が価値を理解し、必要な専門性を確保できる。
その条件をそろえることが、長く続く事業の土台になります。
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自社の強みを、安心して使われる支援へつなぐ。
女性の健康課題にどう関わるか、企画の初期段階から相談できます。顧客の課題、収益モデル、提携先、参入時の懸念を一緒に整理します。