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教育テクノロジー(EdTech)は教材から何へ変わった?主要9社と5事例

教育テクノロジー(EdTech)は、動画教材やAIドリルの呼び名なのか。
主要企業は、何を変えようとしているのか。

結論は、学習・指導・校務を一つの改善循環へつなげられるかです。主要9社と5事例から、導入と新規事業の判断材料を整理します。

この記事の結論

EdTechの競争力は、教材の量ではなく、学習・指導・校務をつなぎ、改善が回る運用データを持てるかで決まります。

  • EdTechは、教材配信から個別最適化、さらに学校・企業の運用基盤へ役割を広げています。
  • 主要9社は、学習者、教員、学校運営、企業研修という異なる入口から価値を作っています。
  • 新規参入は、教員業務、データ接続、実務学習、継続支援のうち、改善責任を持てる一工程へ絞ります。

EdTechは、動画教材やタブレット学習の呼び名ではありません。今は、学ぶ人の理解度を捉え、次の課題を選び、教える人の判断を助ける仕組みまで含みます。

変化の中心にあるのは生成AIです。ただし、生成AIを教材へ付ければ、よい教育になるわけではありません。答えを早く出しすぎれば、考える機会を奪います。学習履歴を集めすぎれば、子どもの個人情報を危険にさらします。現場へ新しい画面を増やせば、教員の仕事はかえって増えます。

この記事では、国内外の主要9社を比べます。さらに、特徴の異なる5つの事例を詳しく見ます。導入する側だけでなく、EdTechへ新規参入する側が、どこを担うべきかまで整理します。

教育テクノロジー(EdTech)を、なぜ今見直すべきなのか

理由は、学校へ端末が入ったからではありません。端末整備の次に、「何に使い、どう改善するか」が問われる段階へ移ったからです。

文部科学省は、学校のICT環境整備について2025〜2027年度の計画を示しています。生成AIについても、2024年12月に初等中等教育段階のガイドラインVer.2.0を公表しました。2026年4月には、教育データの利活用に係る留意事項を第4版へ更新しています。

政策の方向は、「使うか、使わないか」から「安全に、教育の目的へ使えるか」へ変わっています。

企業側でも同じ変化が起きています。教材を配るだけでは、利用が続いたか、業務が変わったか、能力が身についたかを説明できません。リスキリングの記事で整理したように、受講数より、仕事の変化へつながる設計が重要です。

EdTechの現在地を一言で表すと、教材のデジタル化から、学習と指導の運用設計への移行です。

EdTechは教材配信から学習・指導・校務をつなぐ運用基盤へ進化する
図1:EdTechの価値が、教材の配信から学習・指導・校務をつなぐ運用へ移る流れ。イノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

EdTechとは?教育DXとの違いをわかりやすく整理

EdTechは、EducationとTechnologyを組み合わせた言葉です。教育や学習の課題を、デジタル技術で解決する製品やサービスを指します。

対象は広く、次のようなものが含まれます。

  • オンライン授業や動画教材
  • AIが理解度に応じて問題を選ぶ教材
  • 教員が課題や成績を管理する学習管理システム
  • 生徒、教員、保護者をつなぐ連絡基盤
  • 指導案、採点、教材作成を助ける生成AI
  • 社員の学習と実務をつなぐ企業研修システム

一方、教育DXは、教育の仕事や制度そのものを見直す考え方です。EdTechは、その変革に使う手段です。

たとえば、紙の小テストを画面に置き換えるだけならデジタル化です。解答結果からつまずきを見つけ、次の課題を変え、教員の声かけにつなげるなら、教育DXへ近づきます。

EdTech、ICT教育、eラーニング、教育DXの違い
言葉 主な意味 判断の中心
ICT教育 デジタル機器を授業で使う 端末、電子黒板、オンライン会議 機器を使えるか
eラーニング ネット上で教材を学ぶ 動画、テスト、研修講座 配信と受講ができるか
EdTech 教育課題を技術で解く AI教材、LMS、校務支援、学習分析 学びや指導がよくなるか
教育DX 教育の仕組みを変える 個別最適な学び、データ連携、働き方改革 制度と運用まで変わるか

四つの言葉は、対立するものではありません。ICTとeラーニングを手段として使い、EdTechで個別の課題を解き、その積み重ねで教育DXへ進む関係です。

EdTechが変えるのは、教材ではなく四つの仕事

EdTechを理解しやすくするには、製品名ではなく、誰の仕事が変わるかを見るとよいでしょう。

一つ目は、学習者の仕事です。理解度に合う問題を選び、間違えた単元へ戻り、学習計画を直します。生成AIは質問相手にもなります。

二つ目は、教員や講師の仕事です。課題作成、採点、説明文、保護者連絡の下書きを短くします。ただし、評価や声かけの最終判断は人が持ちます。

三つ目は、学校や教育事業者の仕事です。出欠、成績、学習履歴、教材利用をつなぎ、支援が必要な人を見つけます。

四つ目は、教材会社やサービス会社の仕事です。コンテンツを売って終わるのではなく、導入、研修、利用定着、改善までを提供します。

つまり、EdTechは「生徒向けアプリ」だけではありません。学習者、教員、組織、事業者の四者を動かす仕組みです。

EdTech市場はどこまで伸びるのか

EdTech全体には、学校向けICT、学習塾、語学アプリ、企業研修などが含まれます。調査会社ごとに範囲が違うため、世界市場の数字を一つに決めるのは適切ではありません。

国内で継続して確認しやすい数字として、eラーニング市場があります。矢野経済研究所は、2025年度の国内eラーニング市場を、事業者売上高ベースで3,923億5,000万円と見込んでいます。2026年度は3,978億円の予測です。

伸び率だけを見ると、急成長市場には見えません。しかし、中身は変わっています。少子化の影響を受けやすい個人向け学習だけでなく、法人研修、学校のデータ活用、生成AIによる教員支援などへ需要が移っています。

国内eラーニング市場は2025年度3923.5億円から2026年度3978億円へ
図2:国内eラーニング市場の推移。矢野経済研究所の公表資料をもとにイノベーション総研作成。EdTech全体ではなく、eラーニング市場の事業者売上高。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

投資判断で大切なのは、市場全体の大きさより、誰の予算から支払われるかです。

  • 自治体予算:端末、学習eポータル、AI教材、校務支援、活用支援
  • 学校予算:学習管理、入試・進路支援、保護者連絡
  • 学習塾予算:教材、講師支援、教室運営
  • 家計:語学、受験、資格、子どもの学習
  • 企業予算:研修、業務習得、人的資本、DX人材育成

同じ学習機能でも、支払者が変わると、営業期間、必要な証拠、単価、解約理由が変わります。

教育AI・個別最適化学習は、どう動くのか

個別最適化学習は、「AIが一人ひとりへ問題を出すこと」と説明されがちです。実際には、次の循環で動きます。

  1. 目標を決める
  2. 問題、会話、課題から学習データを得る
  3. 理解できた点と、つまずいた点を推定する
  4. 次の教材、問い、説明を選ぶ
  5. 教員や本人が結果を確認する
  6. 次の学習へ反映する

難しいのは三つ目です。間違えた問題だけを出し直しても、原因は分かりません。分数の理解不足が、方程式の誤答として表れている場合もあります。そのため、有力なサービスは単元の前後関係を持ち、どこへ戻るかを設計しています。

生成AIは、説明や会話を柔軟にできます。ただし、事実と違う説明をする可能性があります。だから、教科書や指導要領に沿う情報へ絞る仕組みと、教員が確認できる画面が必要です。

技術だけで個別最適になるのではありません。学習データ、教材の構造、対話設計、人の確認がそろって初めて、改善の循環が生まれます。

個別最適化学習は目標・学習・診断・次の課題・人の確認を循環させる
図3:個別最適化学習の基本循環。文部科学省、経済産業省、各社の公式情報をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

EdTech主要9社は、何を変えようとしているのか

主要企業を並べると、競争が教材の数だけではないことが分かります。

EdTech主要9社の提供内容と注目資産
企業・組織 主な顧客 主なサービス 変えようとしている仕事 注目する資産
atama plus 塾、予備校、企業 atama+、Sketto 個別学習と業務習得 解答データ、教材、現場改善
COMPASS 自治体、小中学校 Qubena AI教材と学習データ活用 教科書準拠、学習履歴、CBT
ベネッセ 自治体、小中学校 ミライシード 授業、演習、テスト、カルテ アプリ横断の学習データ
Classi 中学校、高校 Classi 学習、指導、校内連絡 模試、学習記録、対話履歴
Studyplus 塾、学校 Studyplus for School 学習管理と教室運営 教材横断の学習記録
MagicSchool 教員、学校、学区 教育AI基盤 指導案、評価、連絡 教員業務の利用文脈
Khan Academy 学習者、教員、学区 Khanmigo AIチューターと教員支援 教材体系、対話の安全設計
Speak 語学学習者 Speak 発話練習と即時支援 音声、発話、会話設計
Duolingo 個人学習者 学習アプリ 継続しやすい学習体験 大規模な学習行動データ

九つの企業は同じ市場で競っているように見えて、入口が違います。学習者、教員、学校運営、企業研修のどこから入るかを分けると、自社が正面から競う相手と、提携できる相手が見えてきます。

EdTech主要9社を学習者・教員・学校運営・企業研修の役割で比較
図4:EdTech主要9社の主な役割。各社の公式情報をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

この表から見えるのは、三つの競争軸です。

第一に、誰の画面から入るかです。学習者、教員、管理者では、必要な使いやすさが違います。

第二に、どのデータを持つかです。解答だけか、学習時間、教材、出欠、成績、会話、実務成果までつなぐかで、できる判断が変わります。

第三に、誰が導入を決めるかです。個人が数分で始めるサービスと、自治体が調達するサービスでは、販売の設計がまったく異なります。

事例1:atama plusは、AI教材を教室運営と結びつけた

atama plusの「atama+」は、生徒の解答から理解度を見立て、必要な単元へ戻るAI教材です。公式情報では、全国4,500教室以上の塾・予備校へ提供し、累積解答数は10億件としています。

重要なのは、AIだけで教える形にしていないことです。AIは診断と学習順の調整を担います。教室の人は、目標設定、学習状況の確認、声かけを担います。機械と人の役割を分けています。

同社は、この知見を企業の業務習得にも広げています。業務習得AIシステム「Sketto」は、動画研修ではなく、実際の業務に近い練習へ重心を置きます。

この事例から学べるのは、個別最適化の横展開です。教科を変えるだけではありません。「理解度を測り、次の課題を出し、人が支える」という運用を、社員教育へ移しています。

事例2:Qubenaは、AI教材を自治体の学習基盤へ広げた

COMPASSのQubenaは、小中学校向けの学習eポータルとAI型教材です。小学校と中学校の主要5教科へ対応し、教科書に沿った問題も用意しています。

Qubenaの公式サイトでは、2026年9月時点で220自治体以上、2,300校以上への導入を示しています。個人へ直接販売せず、自治体や学校を主な顧客にしている点が特徴です。

このモデルでは、よい教材だけでは足りません。年度、学年、教科書、アカウント、端末、学習履歴を扱います。先生が授業や家庭学習へ無理なく組み込めることも必要です。

Qubenaは、問題を出す機能に加え、学習履歴やデジタルテストを授業改善へ使う方向を強めています。これは、単体教材から、学校の判断を支えるデータ基盤への移行です。

事例3:ミライシードは、授業から評価までを一つに寄せる

ベネッセのミライシードは、小中学校向けのオールインワン型サービスです。協働学習の「オクリンクプラス」、AIドリルの「ドリルパーク」、デジタルテストの「テストパーク」、学習履歴を見る「カルテ」をそろえています。

ミライシード公式サイトによると、2026年4月時点で約12,000校、410万人以上が利用しています。

この事例の要点は、機能の多さではありません。授業で考えたこと、演習した結果、テスト、振り返りをつなげようとしている点です。

学校では、便利なアプリが増えるほど、ログイン、名簿、データ確認が分かれます。ミライシードは、複数の学習場面を一つの入口へ寄せ、先生が次の指導へ使いやすくする立場を取っています。

後発企業が同じ総合基盤を正面から作るのは重いでしょう。一方、既存基盤とつながる専門機能、データの見方、導入支援には余地があります。

事例4:MagicSchoolは、教員の「細かい仕事」から入った

米MagicSchoolは、学校向けの生成AI基盤です。授業案、評価基準、問題、教材の難易度調整、保護者向け文面など、教員が毎日行う細かな仕事を支援します。

MagicSchoolの公式情報では、教員、児童生徒、学校、学区の四者を一つの基盤で扱います。教員が個人で試せる無料版を用意し、学校や学区の管理へ広げる形です。

この入り方は、新規事業の参考になります。最初から学校全体の大規模契約を狙うのではなく、教員個人が困っている一つの作業を短くします。使う人が価値を感じた後に、管理、セキュリティ、可視化を学校単位で売ります。

ただし、自由な文章生成を学校へ入れるだけでは不十分です。同社は、生徒データをAIの学習に使わないこと、教員が管理できること、学校向けの安全機能を前面に出しています。教育では、便利さと同じくらい、誰が止められるかが重要です。

事例5:Khanmigoは、答えではなく「次の問い」を設計した

Khan AcademyのKhanmigoは、学習者向けAIチューターと、教員向けアシスタントを組み合わせたサービスです。

特徴は、すぐに答えを示すのではなく、学習者へ問いを返し、考え方を進める設計です。生成AIの能力を、解答の代行ではなく、思考の支援へ使っています。

もう一つの注目点は流通です。Khan Academyの公式発表によると、Microsoftの支援を受け、教員向けKhanmigoを180以上の国・地域へ広げています。

教育AIでは、モデル性能だけで勝つのは難しくなります。既存の教材体系、教育上の制約、教員との信頼、配布経路を組み合わせる必要があります。

音声学習では、Speakも別の答えを示しています。Speakの公式発表では、音声対話型AIチューターへ特化し、2024年12月時点で累計1.62億ドルを調達しました。人前で話す恥ずかしさを減らし、何度も発話できる場を作っています。

KhanmigoとSpeakに共通するのは、汎用チャットを置いただけではないことです。学習目的に合わせて、会話の進め方そのものを商品にしています。

EdTech導入が止まる五つの理由

EdTechは、導入すれば自動的に使われる製品ではありません。よく止まる理由は五つあります。

1. 課題より先に製品を選ぶ

「AI教材を入れたい」から始めると、授業で使うのか、家庭学習で使うのか、教員の作業を減らすのかが曖昧になります。最初に減らしたい仕事と、改善したい学びを一つずつ決めます。

2. 画面と入力を増やす

現場に新しいログイン、名簿登録、課題配信、確認画面を増やすと、便利さより手間が勝ちます。既存のID、教材、校務、連絡とのつながりを確認します。

3. 利用率だけで成功を判断する

ログイン数や学習時間は、使われたことしか示しません。理解度、再学習、教員時間、出席、実務成果など、目的に近い指標が必要です。

4. AIへ最終判断を渡す

生成AIは、もっともらしい誤りを出すことがあります。成績、進路、支援の優先順位など、本人への影響が大きい判断は、人が確認して決めます。

5. 導入後の仕事を決めない

教材やモデルは更新されます。問い合わせ、誤答、データ修正、保護者説明、事故対応を誰が担うか決めないと、利用が増えるほど現場が疲れます。

自社はEdTechのどこへ入れるか

顧客、教育業務、データ、導入後の責任を確認します。

01 教員や講師の業務を理解している

教材、評価、連絡など、頻度が高い一つの仕事を短くします。

  • 利用者へ直接聞ける
  • 導入前後の時間を測れる
  • 最終確認を人に残せる
02 教育データを安全につなげられる

学習、校務、教材のデータを、目的と権限を決めて接続します。

  • 必要な項目を限定できる
  • 標準へ対応できる
  • 削除と事故対応を設計できる
03 特定業界の実務を教材へ変えられる

研修を視聴で終わらせず、実際の仕事に近い課題へ変えます。

  • 現場業務を分解できる
  • 成果を測れる
  • 機密情報を守れる
04 学習の継続を支援できる

対話、音声、声かけを、依存を生まない範囲で設計します。

  • 対象者を絞れる
  • 人が介入できる
  • 解約理由を改善できる

NEXT STEP

次のステップ

EdTechを、機能ではなく改善事業に。

顧客、教育業務、学習データ、既存基盤、導入後の責任を整理し、自社が継続して担える入口を設計します。

EdTechの新規事業で狙える四つの参入方法

後発企業が、基盤モデルや総合LMSを一から作る必要はありません。自社の顧客、業務、データに近い場所から入る方が現実的です。

EdTechへ新規参入する四つの方法
参入方法 最初の顧客 提供する価値 必要な資産 主な提携先 主な懸念
教員業務コパイロット 学校、学習塾 教材、評価、連絡の下書き 教員業務の知識、テンプレート LMS、校務、生成AI基盤 誤り、確認負荷、著作権
教育データ接続・分析 自治体、学校法人 分散データを指導へ使う データ連携、可視化、標準対応 学習eポータル、校務ベンダー 個人情報、調達、責任分散
実務直結型の企業学習 企業の事業部、人事 研修を実務成果へつなぐ 業界業務、演習、評価 業務SaaS、研修会社 機密情報、成果測定
学習継続支援 個人、塾、企業 対話、音声、声かけで継続を助ける 会話設計、行動データ 教材会社、専門家 依存、誤助言、解約率

四つの参入方法は、必要な技術ではなく、顧客と改善責任の持ち方で分けています。後発企業ほど、既存サービスと競合する機能より、自社だけが理解できる業務や利用場面を起点に選ぶ方が現実的です。

EdTechの新規事業は教員業務・データ接続・実務学習・継続支援から選ぶ
図5:EdTechへ新規参入する四つの方法。Deep Researchと主要企業の事例をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

参入先を選ぶときは、機能ではなく、改善の責任を持てる範囲を見ます。

たとえば、教材会社が教員業務へ入るなら、教材内容だけでなく、授業前後の作業を理解する必要があります。業務SaaS会社が企業学習へ入るなら、研修コンテンツより、実務データとの接続が強みになります。

AIエージェントの新規事業で説明したように、AIは自律性が高いほど責任範囲も広がります。教育では、誤った出力の影響が学習者へ残るため、機能より先に監督の仕組みを決めます。

参入・提携・待機・見送りは、何で判断するか

四つの選択肢を、次のように分けると判断しやすくなります。

参入は、特定の顧客へ届ける経路があり、その顧客の学習や指導業務を理解し、導入後の改善まで担える場合です。

提携は、顧客や業務知識はあるものの、学習基盤、教材、AI、安全管理の一部が足りない場合です。既存LMSや学習eポータルへつなぐ方が、開発も営業も短くなります。

待機は、顧客の課題は見えるものの、データ利用の合意や支払予算が定まっていない場合です。小さな実証より先に、誰が何の成果へ支払うかを決めます。

見送りは、汎用生成AIと同じ回答しか出せない、学習データを合法かつ安全に扱えない、導入後の問い合わせや誤りに対応できない場合です。

技術があることと、教育事業を運営できることは別です。

EdTech事業の責任分界は、契約前に決める

教育には、学習者、保護者、教員、学校、自治体、教材会社、AI基盤会社が関わります。事故が起きてから役割を決めるのでは遅すぎます。

EdTech事業で決める責任分界
論点 学校・導入者 EdTech事業者 AI・クラウド事業者
利用目的 教育目的と対象者を決める 目的に合う機能を提供する 契約範囲で処理する
データ 必要な項目と権限を決める 収集、保管、削除を管理する 基盤の安全性を担保する
AI出力 教員が重要判断を確認する 出典、制限、修正方法を示す モデル仕様と更新情報を示す
教材 授業との整合を確認する 著作権と内容品質を管理する 無断学習や再利用を防ぐ
事故対応 本人・保護者へ連絡する 原因調査、停止、再発防止を行う 基盤障害と侵害へ対応する
改善 現場の声と成果を共有する 製品と運用を改善する 性能と安全対策を更新する

文部科学省の教育データ利活用留意事項第4版は、利用目的、必要性、個人情報、安全管理、委託先を確認する材料になります。教育データ標準5.1も、サービス間の接続を考えるうえで重要です。

「データを集めれば後で役立つ」という発想は避けます。何のために必要か、誰が見られるか、いつ消すかまで決めます。

EdTechのよくある質問

EdTechを導入する側、事業として参入する側から寄せられやすい疑問を、短く整理します。

Q. EdTechとeラーニングの違いは何ですか?

A. eラーニングは、インターネットで教材を学ぶ方法を指すことが中心です。EdTechはより広く、AI教材、学習管理、校務、データ分析、教員支援まで含みます。

Q. EdTechで教師は不要になりますか?

A. 不要にはなりません。AIは問題選択、下書き、記録整理を助けられます。一方、学習者の状態を見て声をかけること、評価や進路を判断することは、人が担う必要があります。

Q. 個別最適化学習は、問題を自動で出すことですか?

A. それだけではありません。目標、学習データ、つまずきの診断、次の課題、人による確認を循環させることです。単元の前後関係と、教員が介入できる仕組みが重要です。

Q. EdTech企業は、どこで差別化できますか?

A. 教材の量だけでは差別化しにくくなっています。特定の教育業務、独自の学習データ、現場に合う運用、既存システムとの接続、導入後の改善が差になります。

Q. 学校向けEdTechへ参入する際の壁は何ですか?

A. 自治体や学校の調達、年度計画、個人情報、教材との整合、ID連携、教員研修です。製品開発より、導入と運用に時間がかかる場合があります。

Q. 企業研修もEdTechに含まれますか?

A. 含まれます。特に、学習内容を実際の仕事へ適用し、成果を測る仕組みは成長領域です。受講数ではなく、業務時間、品質、売上などとのつながりを示す必要があります。

まとめ:EdTechは、学習と指導の改善を回す事業になる

EdTechは、教材を画面へ移す段階を越えました。今の競争は、学習者の理解、教員の判断、学校運営、企業の実務を、どこまで一つの改善循環へつなげられるかです。

主要企業の事例からは、三つの共通点が見えます。

  • 汎用AIではなく、教育の目的に合わせて会話や課題を設計する
  • 学習者だけでなく、教員や管理者の仕事へ入り込む
  • 教材の量ではなく、改善に使えるデータと運用を積み上げる

新規事業としては、総合プラットフォームを正面から作るより、教員業務、データ接続、実務学習、継続支援のいずれかへ絞る方が現実的です。

最後に問うべきなのは、「AIで何を教えられるか」ではありません。「誰のどの判断をよくし、その結果へどこまで責任を持てるか」です。

参照文献

市場、制度、企業事例は、次の一次情報と公表資料を確認しました。

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顧客、支払者、提供範囲、提携先、学習データ、AI出力、導入後の責任を整理し、参入・提携・待機・見送りの判断を支援します。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

文部科学省、経済産業省、矢野経済研究所、およびatama plus、COMPASS、ベネッセ、Classi、Studyplus、MagicSchool、Khan Academy、Speak、Duolingoの公式資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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