投稿日:2026.09.06 最終更新日:2026.09.20
家事代行は暮らしのインフラになるか?主要9社と新規事業の勝ち筋
家事代行は、掃除や料理を代わりにするだけのサービスなのか。
人を集め、予約アプリをつくれば事業になるのか。
結論は、利用者の希望、訪問、品質、鍵・補償を一つの運用へつなげられるかで決まります。市場、国内外9社、4つの事業機会から判断材料を整理します。
この記事の結論
家事代行の価値は、作業そのものより、暮らしへ継続的に入る運用にあります。
- 家政婦・ハウスクリーニングとの違いと市場の広がりを整理します。
- 国内外9社が、顧客、スタッフ、品質、鍵・補償をどうつないでいるかを解説します。
- 4つの参入方法と、参入・提携・待機・見送りの条件を示します。
目次
家事代行とは?家政婦・ハウスクリーニングとの違い
家事代行とは、利用者の自宅で、掃除、洗濯、料理、買い物などの日常的な家事を代わりに行うサービスです。道具や洗剤は原則として利用者宅のものを使い、決められた時間の中で複数の家事を組み合わせます。
似たサービスに家政婦とハウスクリーニングがあります。境目は企業や契約によって異なりますが、選ぶ側にも、事業をつくる側にも、次の分け方が分かりやすいでしょう。
| サービス | 主な契約・提供方法 | 得意な仕事 | 事業設計で重い機能 |
|---|---|---|---|
| 家事代行 | 事業会社、派遣・業務委託、マッチング | 日常の掃除、洗濯、料理、買い物 | 人材確保、研修、予約、代替手配、補償 |
| 家政婦 | 紹介所を介した個人契約など | 継続的で幅の広い生活支援 | 相性、勤務条件、契約管理 |
| ハウスクリーニング | 事業会社への作業発注 | エアコン、水回りなど専門清掃 | 専用機材、専門技能、作業別の見積もり |
家事代行は「家をきれいにする」だけの事業ではありません。時間内に何を優先するかを相談し、同じ品質で繰り返し、担当者が休んだときは代わりを手配する。生活へ継続的に入る運用までが商品です。
この点が、単発の清掃や人を紹介するだけのサービスとの大きな違いです。利用者は作業時間を買っているように見えて、実際には「家事を考え、指示し、やり直す負担」まで減らしたいと考えています。
家事代行の市場は、なぜ広がっているのか
国内市場は、共働き、高齢単身世帯、仕事と育児・介護の両立を背景に拡大してきました。ただし、需要があるだけでは普及しません。料金、他人を家へ入れる不安、サービスを担う人の不足が、利用の壁として残ります。
経済産業省の家事支援サービス業調査では、家事サービス業の2021年度売上高を約807億円と推計しています。2012年度の約6.2倍で、企業数は190社、従業者数は3,538人でした。対象範囲と推計方法をそろえた公表値として、市場の広がりを確認できます。

数字を見るときは、売上の伸びと供給力を分けて考える必要があります。家事代行は現場へ人が移動するため、予約が増えてもスタッフと訪問経路が足りなければ売上になりません。アプリの利用者数だけでは、事業の強さを測れないのです。
もう一つの変化は、個人だけが料金を負担する形から、企業や自治体が一部を支える形への広がりです。経済産業省は家事支援サービスの福利厚生導入を実証し、導入企業の66.1%が人手不足の解決につながると回答した結果を公表しています。
また、2025年4月から、企業には介護離職防止に向けた雇用環境の整備や、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認が求められています。厚生労働省の案内は、制度の周知だけでなく、仕事と介護を両立しやすい職場づくりを示しています。家事・生活支援を福利厚生に組み込む理由が、採用広報から離職防止へ広がっています。
暮らしのアウトソーシングを支える4つの層
家事代行の競争は、利用者とスタッフを見つけるだけでは終わりません。予約、移動、研修、鍵、補償、法人請求などがつながって、初めて継続利用できます。事業構造は四つの層に分けると見通せます。

顧客接点は、個人向け広告だけではない
個人が検索して予約するB2Cは分かりやすい入口です。しかし、広告費が上がると、一度の利用で獲得費を回収しにくくなります。企業の福利厚生、自治体の産前産後支援、マンションの入居者サービス、保険・介護の周辺支援なら、まとまった利用者へ届きます。
誰に売るかだけでなく、誰が料金を払うかを分けて設計することが重要です。利用者、勤務先、健康保険組合、不動産会社、自治体が分担すれば、個人の負担を抑えながら継続利用をつくれます。
需給と運行管理は、移動時間を利益へ変える
同じ2時間の依頼でも、次の訪問先まで10分かかる場合と50分かかる場合では、スタッフの実質的な時給も事業者の粗利も変わります。予約システムの役割は空きを表示することではなく、移動、技能、希望時間、相性、代替要員を組み合わせることです。
利用者を広い地域で少しずつ集めるより、同じマンションや駅圏に集中した方が効率は高まります。家事代行は、全国の会員数より「一つの生活圏で予約を連続させられるか」が強さになる事業です。
現場品質は、研修と例外対応で決まる
掃除の仕上がりだけが品質ではありません。触れてはいけない物、使える洗剤、料理のアレルギー、ペット、在宅勤務中の動線など、家庭ごとに条件が違います。標準手順と個別条件の両方を扱う必要があります。
スタッフの評価を公開するだけでは、事故を防げません。採用時の確認、研修、作業記録、相談窓口、代替手配までを一つの運用にすると、担当者個人への依存を減らせます。
信頼インフラは、鍵・補償・データを扱う
利用者が最も不安を感じやすいのは、不在時の入室、破損、盗難、個人情報です。家事代行サービス認証も、安全・安心、サービス品質、接遇の三つから事業者を評価しています。
スマートロックは鍵の受け渡しを減らせますが、機器を付けただけでは十分ではありません。誰が、いつ、どの目的で入室したか。誤解錠や通信障害が起きたら誰が対応するか。保険の対象外は何か。デジタルと現場の責任をつなぐ設計が必要です。
家事代行の主要企業9社は、何をしているのか
企業を比べるときは、料金だけでなく、誰を顧客にし、スタッフをどう組織しているかを見ます。国内の主要サービスと、住宅・ヘルスケアへ広げた海外企業を合わせて九社整理します。
| 企業・サービス | 主な型 | 取り組みの中心 | 新規事業で見る点 |
|---|---|---|---|
| ベアーズ | マネージド型 | 家事、育児、高齢者支援、法人福利厚生 | 法人が利用料を補助する販売網 |
| ダスキン メリーメイド | 店舗網・標準化型 | 全国店舗、家事代行認証、清掃ノウハウ | 加盟店を含む品質管理 |
| CaSy | テクノロジー型 | 自動マッチング、需要予測、法人向け | 現場データを需給へ戻す仕組み |
| タスカジ | 個人間マッチング型 | プロフィール、レビュー、料理・整理収納 | 得意分野を価格と指名へ反映 |
| くらしのマーケット | 多カテゴリ市場型 | 450種類超、料金・口コミ比較、補償 | 家の困りごとの入口を横断保有 |
| ニチイライフ | 介護隣接型 | 家事、育児、自費介護を全国で提供 | 介護前後の連続した生活支援 |
| ピナイ家事代行サービス | 専門人材型 | フィリピン人スタッフ、研修、正社員雇用 | 人材供給と専門性を一体化 |
| Papa | 保険・雇用主組込型 | 高齢者の家事、移動、交流、受診支援 | 利用者以外を支払者にする設計 |
| Urban Company | 垂直統合型 | 研修、資材、アプリ、社会保障への接続 | ワーカー支援を品質と定着へ変える |
一覧だけでは違いが伝わりにくいため、各社が解いている問題を一つずつ見ていきます。

ベアーズは、家事代行を企業の福利厚生へ広げる
ベアーズは、家事代行、ハウスクリーニング、ベビーシッター、高齢者支援などを展開しています。同社の法人向けページでは、福利厚生の累計導入実績を850社以上とし、定額または定率で企業が利用料を補助する仕組みを示しています。
注目点は、個人の「家事を頼みたい」という需要を、企業の「育児・介護による離職を防ぎたい」という課題へ結び付けたことです。従業員が直接予約し、企業は補助部分を負担するため、人事部が日々の手配を抱えずに済みます。家事代行を売る相手と、使う人が異なるB2B2Cの代表例です。
ダスキンは、店舗網と認証で品質をそろえる
ダスキンのメリーメイドは、掃除や日常家事を全国の店舗から提供します。公式ページによると、2026年3月時点で全国799店舗が家事代行サービス認証を取得しています。
店舗網は地域への到達力になりますが、店ごとの品質差がブランド全体へ影響します。そのため、標準手順、研修、認証、相談窓口をそろえる必要があります。この事例は、フランチャイズや地域事業者との連携では、販売網より先に「同じ約束をどう守るか」を設計すべきだと示しています。
CaSyは、人の調整をシステムへ移す
CaSyは家事代行とハウスクリーニングに加え、法人向けの福利厚生やオフィス清掃を提供しています。同社の技術説明では、自社開発のマッチングシステムで利用者とキャストをつなぎ、利用実績データから需要と供給を予測するとしています。
家事代行で利益を圧迫しやすいのは、作業時間だけではありません。電話やメールで候補者を探し、条件を確認し、予定を組み直す調整工数も重くなります。CaSyの示唆は、画面を便利にするだけでなく、裏側の割り当て作業を減らすことで価格と運用を両立させる点にあります。
さらに、CaSyとビットキーは、家事代行スタッフへ時間限定のデジタルキーを発行するAPI連携を行っています。不在時利用では、予約、本人確認、解錠権限、入退室ログを一つの流れにすることが重要です。
タスカジは、家事の得意を指名できる形にする
タスカジは、家事を頼みたい人とハウスキーパーが個人間で契約するマッチングサービスです。公式サイトでは、掃除、料理、整理収納、洗濯などを扱い、プロフィールとレビューから依頼先を選べます。
料理の作り置き、整理収納、掃除では、必要な技能も相性も違います。タスカジは「家事全般ができる人」と一括りにせず、得意分野を見えるようにしました。一方、個人間契約では、補償範囲、キャンセル、鍵、禁止作業を利用前に理解できる設計が欠かせません。選択肢を増やすほど、契約条件を分かりやすくする必要があります。
くらしのマーケットは、家の困りごとの入口を持つ
くらしのマーケットは、家事代行だけでなく、ハウスクリーニング、修理、引っ越しなどを横断する市場です。公式FAQでは450種類以上のカテゴリから、料金、口コミ、対応地域などで店舗を探せると説明しています。
家事代行の利用者が、エアコン清掃、家具の組み立て、不用品回収も必要とすることがあります。カテゴリを横断して顧客接点を持つと、一つの依頼から別の生活課題へ広げられます。ただし、出店者ごとの品質差は残るため、補償制度、カテゴリルール、口コミの運用が市場の信頼を支えます。
ニチイライフは、家事と介護の間をつなぐ
ニチイライフは、掃除や洗濯、料理だけでなく、育児、自費介護、外出の付き添い、見守りを扱います。公式サイトでは、全国47都道府県の78支店で提供し、依頼時間内なら複数のサービスを組み合わせられるとしています。
高齢者の生活課題は、掃除だけ、移動だけと分かれていません。公的介護保険の対象外となる家事や外出支援もあります。介護事業の人材育成や拠点を持つ企業は、家事代行を単独サービスにせず、介護前から介護中までの生活支援として設計できます。
ピナイは、外国人材を専門サービスとして組織する
ピナイ家事代行サービスは、フィリピン人スタッフに特化しています。運営会社の説明では、2017年に東京都と神奈川県から国家戦略特区の家事支援外国人材受入事業者として認定され、2025年8月時点で家事代行スタッフ173人としています。
単に海外人材を採用するのではなく、フィリピンでの資格、日本家庭向けの研修、日本人オペレーター、正社員雇用を一体にしています。供給不足を解くには、採用数ではなく、言語、生活習慣、労務、相談体制まで含めて品質へ変える必要があります。外国人材制度の考え方は、特定技能の企業責任でも整理しています。
Papaは、健康保険と雇用主を支払者にする
米国のPapaは、高齢者や家族に、家事、買い物、移動、交流、デジタル利用支援などを提供します。公式サイトでは、Medicare Advantage、Medicaid、雇用主のプランを通じて利用できるほか、個人が直接支払う選択肢も案内しています。
同社が売っているのは、単なる軽作業ではありません。通院を続ける、退院後の生活を整える、孤立を減らすといった健康上の成果へ生活支援をつなげます。保険者や雇用主にとって意味のある指標を置くことで、利用者本人だけに料金を求めない構造をつくっています。
Urban Companyは、ワーカー支援を品質管理に変える
インド発のUrban Companyは、清掃、美容、修理などの訪問サービスを展開し、研修とアプリを組み合わせています。同社の公式資料では、2024年4〜12月の9か月に、サービス提供者の研修と技能向上へ約260万時間を投じたとしています。
また、2026年には国際労働機関と連携し、サービス提供者の社会保障登録を研修・アプリへ組み込む取り組みを発表しました。ワーカーを交換可能な供給として扱うのではなく、技能、道具、保障へ投資する。これが定着率と品質を高め、中抜きされにくい関係をつくります。
企業事例から見える、家事代行の4つの勝ち筋
九社は契約形態も提供範囲も異なります。それでも、継続利用と採算を両立する企業には共通点があります。新規参入では、次の四つを別々にせず、同じ運用へつなげることが重要です。
料金ではなく、指示の手間まで減らす
安いサービスでも、毎回細かく指示し、作業後に確認とやり直しが必要なら、利用者の負担は残ります。初回の希望を記録し、次回へ引き継ぎ、担当者が変わっても同じ水準で対応できることが継続理由になります。
AIを使うなら、会話を派手にするより、依頼内容の整理、作業手順の提案、注意事項の引き継ぎ、終了報告の要約へ使う方が実務的です。AIエージェントの新規事業で示したように、自動化する範囲と人が承認する範囲を先に分けます。
広域展開より、訪問密度を上げる
訪問型サービスでは、移動時間が売上を生まない時間になります。同じ建物、同じ駅、同じ法人の従業員へ予約を集中させれば、移動を短くし、急な欠員にも対応しやすくなります。
エリアを広げる指標より、連続訪問率、移動時間、希望枠の充足率、代替手配率を見るべきです。家事代行のブランドは広告で全国へ広げられても、現場の供給は生活圏ごとにつくらなければなりません。
個人以外の支払者を持つ
福利厚生、自治体、住宅、保険と組むと、個人の負担を抑えられます。ただし、支払者が増えると、利用者の満足だけでは契約を更新できません。企業には離職防止や利用率、不動産会社には入居者満足や解約抑止、保険者には健康行動への接続を説明する必要があります。
大切なのは、効果を大きく言うことではなく、誰のどの費用や損失を減らすのかを定義することです。家事代行の利用回数だけを成果にすると、利用を増やすほど良いという誤った運用になりかねません。
ワーカーを費用ではなく、供給資産として扱う
採用した人数だけでは供給力になりません。得意作業、対応エリア、勤務可能時間、研修、評価、事故対応を組み合わせて、継続して働ける状態をつくる必要があります。
報酬だけでなく、移動の短縮、キャンセル補償、相談窓口、技能認定、道具、保険が定着に影響します。新規参入企業がアプリだけを提供し、現場の負担を事業者へ残すと、需要が伸びた時ほど供給が崩れます。
家事代行事業を4つの判断に分ける
参入:顧客群、供給、事故対応を自社で管理できる
法人、住宅、介護などの既存顧客と、地域単位の訪問密度を起点にします。
提携:顧客接点はあるが、現場人材や補償が足りない
家事代行会社、鍵、保険、決済、介護・緊急対応との責任分界を決めます。
待機:スタッフや補償の範囲を確認できていない
販売を先行させず、提供地域、禁止作業、代替要員、情報管理を整えます。
見送り:安い人材やアプリだけで成立すると考えている
移動、欠員、研修、再作業、事故時の窓口を持てない計画は進めません。
家事代行で狙える4つの新規事業
既存の大手と同じ総合家事代行を、広い地域で始める必要はありません。自社がすでに持つ顧客接点から入ることで、一つの生活課題へ深く入る方法があります。

下の表では、四つの参入方法を、最初の顧客、提供価値、収益、補うべき相手で比べます。
| 参入方法 | 最初の顧客 | 提供価値 | 主な収益 | 補うべき相手 |
|---|---|---|---|---|
| 法人福利厚生型 | 人事、健康経営、健保 | 育児・介護と仕事の両立を支える | 法人基本料、利用料、運用費 | 家事代行会社、福利厚生、効果測定 |
| 住宅組込型 | 管理会社、デベロッパー | 不在時も使える生活サービスを物件へ組み込む | 戸当たり月額、従量課金、導入費 | スマートロック、保険、管理会社 |
| 高齢者生活支援型 | 介護事業者、保険者、家族 | 介護保険外の家事・移動・交流をつなぐ | 法人契約、会員料、訪問料 | 医療介護、自治体、緊急対応 |
| 家事代行事業者向けOS | 地域事業者、加盟店 | 予約、移動、研修、鍵、請求を一体化する | SaaS、決済手数料、保険・研修 | 決済、地図、保険、本人確認 |
四つに共通するのは、作業者を集める前に、自社が持つ顧客接点と解く課題を定めることです。
法人福利厚生型は、離職防止まで設計する
企業が料金を補助し、従業員が直接予約するモデルです。育児中だけでなく、遠方の親の生活支援や、突発的な介護にも広げられます。人事部が利用者の家庭事情を細かく知る必要がないよう、個人情報の境界を明確にします。
提供会社は、利用件数だけでなく、使える地域、予約充足率、再利用、従業員の負担変化を報告します。介護や育児の相談窓口と家事代行を別々に置くのではなく、必要な支援へ案内できる導線が価値になります。
住宅組込型は、移動と鍵の問題を同時に解く
マンション単位で導入すれば、同じ建物内で依頼を連続させられます。管理費に基本枠を含め、追加作業を住民が支払う方法なら、事業者は最低限の需要を見込みやすくなります。
一方で、管理会社の委託先だから安全だと短絡してはいけません。共用部から専有部へ入る権限、鍵の発行、事故時の連絡、住民からの苦情、スタッフの入館ルールを契約で分けます。住宅設備とサービス運用の両方を持つ相手との提携が必要です。
高齢者生活支援型は、介護との境界を明確にする
掃除、買い物、通院同行、会話、デジタル手続きは、高齢者の自立を支えます。離れて暮らす家族や、従業員の介護離職を防ぎたい企業が支払者になり得ます。
ただし、服薬、身体介護、医療判断、金銭管理へ踏み込むと責任が大きく変わります。家事代行でできること、資格者へ引き継ぐこと、緊急時に連絡する相手を明示します。境界を狭く定めることは、サービスを弱くするのではなく、安心して使える条件になります。
事業者向けOSは、現場を置き換えず支える
地域の家事代行会社は顧客との信頼を持っていても、予約調整、採用、研修、請求、鍵管理へ十分に投資できない場合があります。そこへ共通基盤を提供する参入です。
単なる予約SaaSでは価格競争になりやすいため、移動距離を含む割り当て、契約別の請求、研修履歴、事故時の記録、法人向けレポートまでつなぎます。現場運営を理解するBPOとの組み合わせは、AI時代のBPOでも扱っています。
参入前に確認したい5つの懸念
家事代行は、利用者の私生活と、働く人の安全の両方へ入る事業です。便利さだけを磨くと、事故、離職、赤字を見落とします。少なくとも五つの懸念を事業計画へ入れます。
需要はあるのに、予約が成立しない
希望する日時とスタッフの空きが合わなければ、登録者が多くても利用できません。曜日、時間帯、地域、作業技能ごとに需給を見ます。広告を増やす前に、受けられる依頼の種類と範囲を限定する方が有効な場合があります。
移動とキャンセルで、スタッフの収入が下がる
二時間の作業の前後に長い移動が入り、直前キャンセルの補償もなければ、表示時給が高くても働き続けにくくなります。キャンセル規定、最低保証、交通費、連続訪問の設計を、粗利と同時に見ます。
品質事故が、担当者個人の責任になる
破損、紛失、アレルギー、転倒などが起きたとき、スタッフだけに判断を任せると対応が遅れます。報告手順、一次対応、保険会社への連絡、利用者への説明、再発防止を事業者が持つ必要があります。
データが増えるほど、プライバシーの責任も増える
住所、家族構成、在宅時間、鍵、室内写真、健康状態は、生活を推測できる情報です。必要以上に集めず、利用目的、閲覧権限、保存期間、削除方法を決めます。AIで作業指示を要約する場合も、外部サービスへ何を送るかを確認します。
法人契約を取っても、現場が回らない
福利厚生やマンションで数百人へ案内すると、特定の曜日や地域に予約が集中します。契約時の想定利用率だけで人員を用意すると、使いたいときに予約できず、契約更新を失います。対象地域を段階的に広げ、供給の上限を法人へ共有します。
誰がどこまで責任を持つのか
提携先が多いほど、利用者から見た責任者が曖昧になります。家事代行会社、マッチング事業者、住宅管理会社、法人、スマートロック会社の役割を、事故が起きた場面から逆算して決めます。
| 場面 | 主に責任を持つ主体 | 事前に決めること |
|---|---|---|
| 本人確認・採用 | 雇用主またはマッチング運営者 | 身元確認、資格、就労条件、再確認頻度 |
| 作業範囲・品質 | 家事代行会社または提供者 | 禁止作業、手順、引き継ぎ、再作業条件 |
| 鍵・入退室 | サービス運営者と住宅・鍵事業者 | 権限発行、失効、ログ、障害時の入室 |
| 破損・盗難疑い | 顧客窓口を持つ事業者 | 初動、証拠保全、保険、説明、再発防止 |
| スタッフの安全 | 雇用主または発注・仲介事業者 | ハラスメント通報、退室権限、利用停止 |
| 個人情報 | データを取得・利用する各社 | 利用目的、共同利用、保存、削除、委託先 |
利用者には、一つの窓口で相談できることが大切です。裏側で責任を分けても、利用者に各社へ連絡させる設計では信頼を失います。最初に受けた会社が状況を整理し、提携先へつなぐ運用まで確認します。
スタッフ側の安全も同じ重さで扱います。密室でのハラスメント、無理な追加作業、盗難の疑いを受けた場合に、作業を中止し、記録し、支援を受けられる仕組みが必要です。信頼は利用者だけの安心ではなく、働く人を守る制度でもあります。
NEXT STEP
次のステップ
総合家事代行を始める前に、自社が持つ生活者接点を見つける。
法人、住宅、高齢者支援、地域事業者のどこから入り、誰が払い、どこまで責任を持つかを整理します。
家事代行事業へ参入するかを、4つの判断に分ける
市場が伸びているから参入する、競合が多いから見送る、という二択では不十分です。自社の資産と足りない機能を見て、参入、提携、待機、見送りに分けます。
参入する条件
特定の生活圏、法人、住宅、高齢者支援など、最初の顧客群をまとめて獲得できます。さらに、スタッフの採用と定着、事故時の窓口、移動を含む採算を自社が管理できるなら、参入を検討できます。
強いのは、すでに顧客接点を持つ企業です。不動産、介護、福利厚生、人材、保険、住宅設備の企業は、家事代行を単独で売らず、既存サービスの価値を上げる機能として入れられます。
提携する条件
顧客や販売網はあるが、現場人材、研修、補償、鍵管理を持たない場合です。家事代行会社を下請けとして扱うのではなく、予約上限、品質指標、事故対応、データの扱いを共同で設計します。
反対に、現場力はあるが法人営業やシステムが弱い地域事業者は、福利厚生会社、SaaS、保険会社との提携が有効です。足りない機能を買うのか、共同商品にするのかを明確にします。
待機する条件
実証の対象地域でスタッフを確保できない、提携先の補償範囲が確認できない、法人が従業員データをどこまで渡せるか決まっていない場合です。販売を先に始めず、提供範囲と責任を固めます。
待機中も、顧客への聞き取り、既存サービスとの業務分解、地域別の供給調査は進められます。事業の開始日を急ぐより、最初の利用で信頼を失わないことを優先します。
見送る条件
安い人材を集めれば利益が出る、アプリを作れば需給が合う、事故は保険会社が処理するという計画は見送るべきです。移動、欠員、研修、再作業、顧客対応を含めると、作業単価だけでは採算を判断できません。
また、医療・介護行為、金銭管理、子どもの安全などへ、必要な資格と運用なしで広げる計画も止めます。提供範囲を狭くしても価値を出せないなら、家事代行ではなく別の方法で課題を解く方が安全です。
よくある質問
家事代行を利用する側と、事業へ参入する側では、確認したい点が異なります。ここでは、仕組みと事業判断に関する代表的な疑問へ答えます。
まとめ|家事代行の価値は、作業より運用にある
家事代行は、掃除や料理を代わりに行うサービスです。しかし、事業としての価値は、人を派遣することだけではありません。希望を引き継ぎ、移動を短くし、担当者が変わっても品質を守り、事故時には一つの窓口で対応する。その運用が商品になります。
国内外九社の事例からは、四つの方向が見えます。法人や住宅を通じて顧客へ届くこと。個人以外の支払者を持つこと。鍵と補償を含めて不在時利用を安全にすること。ワーカーの研修と働きやすさへ投資することです。
イノベーション総研では、家事代行の新規事業を考える際、最初から全国向けの総合サービスを目指しません。自社が持つ顧客接点と生活課題を起点に、どの地域で、誰が払い、どこまで責任を持つかを決めます。その条件がそろわない場合は、提携、待機、見送りも含めて判断します。
参照した主な資料
数値と企業事例は、次の一次情報を中心に確認しました。
- 経済産業省「家事支援サービス業等の動向」
- 経済産業省「家事支援サービス導入による効果検証」
- 経済産業省「家事代行サービス認証」
- 厚生労働省「介護関係の法改正のポイント」
- ベアーズ「家事代行の福利厚生」
- ダスキン「メリーメイド」
- CaSy「テクノロジー」
- タスカジ公式サイト
- くらしのマーケット「店舗・サービス探し」
- ニチイライフ公式サイト
- ピナイ・インターナショナル「会社概要」
- Papa公式サイト
- Urban Company「Training and certification」
CONTACT
お問い合わせ
家事代行を、価格勝負ではない生活支援事業へ。
顧客接点、供給、訪問密度、鍵・補償、法人・住宅・介護との提携を整理し、参入条件へ落とします。