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特定技能、企業はどう受け入れる?19分野・8社の実例

特定技能は、採用できれば終わりなのか。
企業8社は、採用の前後で何を支えているのか。

結論は、教育、在留管理、生活支援、キャリア形成を採用後の業務として運営できるかです。制度の基本と具体例から、採用と新規事業の判断材料を整理します。

この記事の結論

特定技能は、安価な人材を採用する仕組みではありません。

  • 1号・2号、19分野、採用要件、企業と登録支援機関の責任を整理します。
  • 教育、採用、在留管理、本人確認、生活支援に取り組む企業8社を解説します。
  • 四つの参入方法と、制度・人権・個人情報・採算の懸念を示します。

目次

特定技能とは?人手不足分野で即戦力を受け入れる制度

特定技能とは、人手不足が深刻な産業で、一定の技能と日本語力を持つ外国人材を受け入れるための在留資格です。2019年4月に始まりました。

対象は、介護、製造、建設、宿泊、農業、外食などです。2026年1月の方針変更でリネンサプライ、物流倉庫、資源循環が加わり、現在の対象は19分野です。ただし、新しい3分野は省令、試験、申請の準備時期が異なります。19分野すべてで、同じ日から採用できるわけではありません。

技能実習との大きな違いは、制度の目的です。技能実習は技能移転による国際貢献を掲げます。特定技能は、日本の人手不足分野で働く人材を確保する制度です。企業は人材を「実習生」ではなく、雇用する労働者として受け入れます。

この記事で伝えたい結論は、特定技能の成否は、採用人数ではなく、教育、在留管理、生活支援、キャリア形成を採用後の業務として運営できるかで決まるということです。

人材紹介だけでも、申請書類だけでも、長く働ける環境は完成しません。制度の基本、企業8社の取り組み、業界構造、新規事業の参入余地を順に見ていきます。

特定技能1号・2号と育成就労の違いを示す図
図1|特定技能1号・2号と育成就労の位置づけ。出入国在留管理庁の制度資料をもとにイノベーション総研作成。

特定技能1号と2号は何が違うのか

特定技能には1号と2号があります。1号は、相当程度の知識や経験を持つ人材向けです。2号は、より熟練した技能と実務経験を持つ人材向けです。

比較項目 特定技能1号 特定技能2号
技能水準 相当程度の知識・経験 熟練した技能と実務経験
在留期間 原則として通算5年まで 更新回数に上限なし
家族帯同 原則不可 要件を満たせば配偶者・子が可能
受入れ企業の支援計画 必要 1号のような義務的支援の対象外
主な確認方法 分野別技能試験、日本語試験など より高度な分野別試験と実務経験
1号からの移行 自動ではなく、分野ごとの要件を満たす必要がある

1号では、原則として分野別の技能試験と、JFT-Basicまたは日本語能力試験N4以上などの日本語要件を満たします。介護、バス・タクシー、鉄道の運輸係員などには追加要件があります。

技能実習2号を良好に修了した人は、対応する分野へ移るときに試験が免除される場合があります。ただし、修了した職種と希望する業務区分の対応確認が必要です。どの分野へも無条件で移れるわけではありません。

1号の在留期間は原則通算5年です。一方、2号への移行を希望し、試験予約が取れないなど一定の事情がある人には、通算6年を上限とする例外があります。企業は「5年で必ず終了する」と決めつけず、本人の希望と分野のキャリア経路を早めに確認する必要があります。

1号と2号の違いは滞在年数だけではなく、採用時からどの技能と経験を積むかという人材戦略の違いです。

特定技能の対象19分野と採用前の確認事項

特定技能の対象は次の19分野です。分野名が合っていても、実際に担当させる業務区分が対象外なら採用できません。

区分 対象分野
医療・生活支援 介護、ビルクリーニング、リネンサプライ
ものづくり・建設 工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、資源循環
交通・観光・物流 航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、物流倉庫
食・一次産業 農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業

特定技能2号の対象は11分野です。介護、リネンサプライ、自動車運送業、鉄道、物流倉庫、林業、木材産業、資源循環は対象外です。介護には、別に長期就労が可能な在留資格「介護」があります。

採用前には、次の順で確認すると混乱を減らせます。

  1. 自社の事業が対象分野に入るか
  2. 任せる仕事が対象の業務区分に入るか
  3. 候補者が技能・日本語要件を満たすか
  4. 雇用形態、報酬、労働時間が基準を満たすか
  5. 分野別協議会への加入や追加手続が必要か
  6. 自社支援と登録支援機関への委託のどちらにするか

雇用は原則として直接雇用です。派遣が認められるのは、現時点では農業と漁業に限られます。農繁期だけ人材を増やす仕組みを他分野へそのまま持ち込むことはできません。

特定技能の受入れはどこまで進んだか

出入国在留管理庁の2026年3月末速報では、特定技能1号は404,527人、2号は12,420人です。1号の分野別受入れ上限は、2029年3月末までの合計で805,700人です。

1号の在留者数は、上限全体の約50.2%に達しました。ただし、これは「今後805,700人が新たに入国できる」という意味ではありません。2029年3月末時点までに在留する人数の上限です。

特定技能の在留者数と主要分野の上限消化率を示す図
図2|特定技能の受入れ状況。出入国在留管理庁の2026年3月末速報と分野別受入れ見込数をもとにイノベーション総研作成。

分野ごとの差は大きくなっています。外食業は47,714人で上限50,000人の95.4%です。飲食料品製造業は96,367人で72.2%、建設は51,055人で67.2%、介護は74,745人で58.9%でした。

外食業では上限に近づいたため、2026年4月から海外在住者を呼び寄せる一部の在留資格認定証明書について、一時停止措置が取られました。企業にとって重要なのは、全国合計だけでなく、自社分野の上限、審査状況、試験日程を見ることです。

登録支援機関は、2026年8月31日時点で11,579件あります。数が多いからこそ、料金だけで選ぶのは危険です。対応言語、夜間の相談、訪問範囲、労務知識、記録管理、担当者一人あたりの支援人数まで比べる必要があります。

企業が特定技能人材を採用するための要件

受入れ企業は、外国人本人の資格だけでなく、自社の雇用・支援体制も審査されます。主な要件は次の通りです。

  • 日本人と同等以上の報酬を設定する
  • 通常の労働者と同等の所定労働時間で雇用する
  • 労働、社会保険、税に関する法令を守る
  • 保証金や違約金を伴う契約に関与しない
  • 特定技能1号の支援計画を作る
  • 分野別協議会へ原則として申請前に加入する
  • 市区町村へ協力確認書を提出し、地域の共生施策を支援計画へ反映する
  • 在留、雇用、支援に関する届出を続ける

採用から就労開始までの基本は、対象分野と業務の確認、候補者の要件確認、雇用契約、1号支援計画、協議会と自治体の手続、在留申請、就労開始です。

ただし、技能試験と雇用契約の順番は常に固定ではありません。海外の送出国側に独自手続がある場合もあります。採用予定日から逆算し、分野別の最新資料を確認してください。

2025年4月からは、事業所所在地と外国人の住居地の市区町村へ「協力確認書」を提出する運用が始まりました。企業は自治体から共生施策への協力を求められた場合、必要な協力を行い、その内容を支援計画へ反映します。

この変更は、雇用と地域生活を別々に考えないという方向を示します。職場だけ整えても、住居、交通、医療、行政手続でつまずけば、働き続けることは難しくなります。

受入れ企業と登録支援機関の責任はどこで分かれるか

特定技能1号を受け入れる企業には、10項目の義務的支援が求められます。事前ガイダンス、入出国時の送迎、住居と生活契約、生活オリエンテーション、行政手続、日本語学習、相談・苦情、日本人との交流、企業都合で契約が終わる場合の転職支援、定期面談です。

企業は支援を自社で行うか、登録支援機関へ委託できます。全部を委託すると、企業が満たすべき支援体制の基準を満たしたものとして扱われます。しかし、雇用主としての責任は企業に残ります。

業務 受入れ企業 登録支援機関 外部サービス会社
雇用契約・賃金・労働時間 最終責任を持つ 状況確認や助言 労務管理ツールを提供
1号支援計画 自社実施または委託を決める 委託範囲を実施・記録 翻訳、住居、学習などを支援
在留申請・届出 必要情報と最終確認を担う 支援記録や実務を補助 管理システムを提供
日常の指揮命令 受入れ企業が担う 代替できない 代替できない
相談・問題発生時 職場の改善と雇用判断 多言語相談と状況把握 通訳、緊急窓口など

この表で先に決めるべきなのは、平常時の作業分担より、賃金の不一致、離職、病気、相談、在留期限切れなどが起きたときの判断者です。

登録支援機関は、支援業務をさらに別の会社へ再委託できません。住居や通訳など個別サービスを使う場合も、登録支援機関が支援全体の実施と管理を担います。

2027年4月からは、支援事業所ごとの常勤担当者、支援責任者の養成講習、支援人数に応じた人員配置などが導入される予定です。登録だけを取って少人数で広域を回るモデルは、見直しが必要になります。

支援を委託しても、賃金、労働時間、配置、職場改善を決める雇用主の責任は受入れ企業に残ります。

特定技能を支える企業8社は、何をしているのか

特定技能の周辺市場には、人材紹介、海外教育、在留管理、生活支援、本人確認など、異なる役割があります。ここでは8社を、どの工程に価値を出しているかで比べます。

企業 主な取り組み 主な事業レイヤー 公表段階
ONODERA USER RUN 海外教育、試験、紹介、入社後の定着支援 海外教育・紹介・支援 商用提供
ワタミエージェント 現地教育、紹介、登録支援、農業派遣、帰国支援 教育・紹介・就労 商用提供
PERSOL Global Workforce 農繁期に合わせた特定技能人材の派遣 農業派遣 商用提供
tokuty 特定技能の求人、面接、ビザ、入社後支援 越境マッチング 商用提供
Guidable 在留外国人・海外人材の採用プラットフォーム 採用・メディア 商用提供
SMILEVISA 在留申請、届出、面談、支援記録のクラウド管理 在留・支援管理SaaS 商用提供
GTN 住居、家賃保証、通信、金融、多言語生活支援 生活インフラ 商用提供
Liquid 在留カードIC読取、失効照会、期限管理 本人確認・RegTech 商用提供

8社は競合だけではありません。教育から生活支援までの間で、互いに不足する機能を補う提携候補でもあります。

特定技能を支える企業8社を5層で整理した図
図3|特定技能を支える主要8社の位置づけ。各社公式情報とDeep Researchをもとにイノベーション総研作成。

ONODERA USER RUNは、採用前の教育から定着までをつなぐ

ONODERA USER RUNは、アジア8か国で自社の教育拠点を運営し、日本語と特定技能試験の教育、企業とのマッチング、入社後の生活・学習支援までを一体で提供しています。

同社公表の2026年7月末実績は、累計教育人数12,367人、試験合格者10,010人、内定者8,338人、累計就労者6,578人です。この数字は同社事業の実績であり、市場全体の人数ではありません。

重要なのは、求人が出てから人を探すのではなく、海外の教育工程を自社で持つ点です。候補者の日本語力や仕事への理解を企業へ伝え、入社後も継続学習を支えます。採用前と採用後でデータが切れにくいモデルです。

同社の事例では、日南市、社会医療法人慶明会などが連携し、医療・介護の人材受入れと地域定着を進めています。企業だけでなく、自治体と住居を含めて受入れ環境を作る動きです。

ワタミは、教育・就労・帰国後までを一つの流れにした

ワタミエージェントは、カンボジア、ネパール、バングラデシュなどで教育・送出しの体制を持ち、人材紹介、在留手続の支援、入社後の定期フォロー、帰国後の就職支援までをつないでいます。

農業では、グループのワタミファームと連携し、特定技能1号人材を農場へ派遣します。農業は繁忙期と閑散期の差が大きいため、通年雇用だけではなく、地域や時期に合わせて人材を配置する価値があります。

2025年のサステナビリティレポートでは、2024年度の海外人材サポート人数を920人と公表しました。自社グループで受け入れるだけでなく、グループ外企業も支援しています。

PERSOL Global Workforceは、農繁期の波を派遣で埋める

PERSOL Global Workforceは、農業分野の特定技能人材を派遣しています。耕種農業と畜産農業に対応し、短期のスポット需要から通年需要まで支援します。

農家ごとに繁忙期が違えば、人材を地域間で配置しやすくなります。受入れ企業一社だけでは作りにくい稼働率を、複数の派遣先で高める考え方です。

ただし、派遣できる分野が限られること、住居や移動を含む運営が必要なことは変わりません。人を送るだけでなく、勤務先が変わっても支援と労務記録が切れない仕組みが求められます。

tokutyは、求人から入社後支援までを直接つなぐ

tokutyは、特定技能人材を採用したい企業と外国人を直接つなぐ求人プラットフォームです。求人掲載、面接、内定後のビザ申請、入社後のフォローを支援します。

同社は、在留カードの確認、期限アラート、自動翻訳などを備えた労務管理アプリ「Connectee」も提供しています。採用前の集客と、採用後の在留・コミュニケーション管理をつなぐ狙いです。

2025年には日清丸紅飼料と提携し、畜産・水産の事業者へ特定技能人材を紹介する取り組みを始めました。業界ネットワークを持つ企業と組むことで、求人企業の開拓と現場理解を補います。

Guidableは、採用データベースと外国人向けメディアを持つ

Guidableは、在留外国人向け求人、海外の特定技能人材採用、外国人向け調査・販促、生活情報メディアを展開しています。

公式サイトでは、229か国、25万人以上の在留外国人データベースを掲げています。特定技能だけに限らず、アルバイト、新卒、在留外国人の消費調査まで接点を持つことが特徴です。

2026年8月にはONODERA USER RUNのグループに入りました。国内在住者への接点を持つGuidableと、海外教育・紹介を持つONODERA USER RUNがつながることで、国内外の採用経路を補完できます。

SMILEVISAは、申請と支援記録を企業内へ戻す

SMILEVISAは、特定技能人材の在留申請、定期・随時届出、面談、相談、支援記録をクラウドで管理するサービスです。

同社公表では、導入300社以上、申請実績6,000回以上、管理人数8,000人以上です。手作業になりやすい期限確認と書類作成を標準化し、登録支援機関へ全面委託していた企業が自社支援へ移ることも助けます。

導入事例の聖隷福祉事業団は、介護分野で初めての受入れから自社支援を始めました。三島ファームは、農業分野で3人を受け入れる際に管理システムを使いました。システムの価値は、書類を減らすことだけではありません。人材の状況を自社で把握し、面談や職場改善に時間を使えることです。

GTNは、住居・通信・金融を生活インフラとして束ねる

GTNは、登録支援に加え、外国人向けの家賃保証、住居仲介、携帯電話、金融、多言語相談を提供しています。

入国直後は、国内の信用履歴や銀行口座がなく、部屋や通信を契約しにくい場合があります。GTNは外国人向けの審査と多言語支援を組み合わせ、来日前から生活立ち上げを支えます。

公式サイトでは、家賃保証約10万件、生活サポート約20万件、外国人携帯利用者36,000件を年間または現行の事業実績として公表しています。雇用契約の外にある生活上の摩擦を、独立したサービス市場として捉えた例です。

LiquidのGPASSは、在留カード確認を継続業務へ変える

LiquidのGPASSは、在留カードのICチップ読取、失効照会、期限管理、人材情報の共有を行う外国人材管理システムです。

採用時に在留カードを目視確認するだけでは、期限切れや在留状況の変化を追えません。GPASSは本人確認を一回の作業ではなく、雇用中の継続管理に変えます。

受入れ企業、登録支援機関、監理支援機関が同じ情報を使えるため、転記と確認漏れを減らせます。2027年の育成就労開始後は、複数の在留資格と移行時期を管理する需要がさらに増えます。

8事例から見える、採用後に価値が残る領域

8社を横断すると、成長するサービスは「人を紹介して終わる」形から離れています。共通点は四つです。

第一は、採用前の教育データを採用後へつなぐことです。日本語力、技能試験、希望職種、学習履歴が分かれば、配属と教育を個別化できます。

第二は、企業と本人の両方を顧客として見ることです。企業には採用と法令対応が必要です。本人には住居、通信、相談、学習、キャリアが必要です。片方だけを最適化すると定着しません。

第三は、制度業務を記録可能な工程へ変えることです。在留期限、面談、届出、支援実績を担当者の記憶に置くと、人数が増えたときに漏れます。システム化することで、担当者は相談と職場改善へ時間を使えます。

第四は、分野の知識を持つ相手と組むことです。農業なら季節と住居、介護なら日本語とケア現場、建設なら現場配置と安全、外食なら店舗教育が重要です。外国人材という横断知識だけでは、現場の課題を解けません。

8社の共通点は、採用前に得た情報を、採用後の支援と職場改善へ戻そうとしていることです。

辞書的な制度説明と事業機会の間には、この「採用後の運営」があります。ここを商品にできる企業が、紹介手数料だけに頼らない関係を作れます。

特定技能市場は五つの層で捉える

Deep Researchと企業事例をもとに、特定技能の周辺市場を五つの層へ整理します。

主な仕事 代表例 顧客が評価する点
1. 海外教育・送り出し 日本語、技能教育、試験、渡航準備 ONODERA USER RUN、ワタミ 合格だけでなく、仕事理解と定着
2. 採用・マッチング 求人、面接、紹介、配属 tokuty、Guidable、PERSOL 採用速度、候補者の適合、分野知識
3. 在留・支援管理 申請、期限、面談、届出、記録 SMILEVISA、登録支援機関 漏れの防止、担当工数、監査可能性
4. 本人確認・RegTech 在留カード、失効照会、権限管理 Liquid 不法就労防止、継続確認、情報共有
5. 生活・キャリア基盤 住居、通信、金融、日本語、2号移行 GTN、教育・金融事業者 定着、生活の立ち上がり、長期就労

市場の入口は人材紹介ですが、長く残るデータは採用後に生まれます。どの支援が遅れたか。どの職場で離職が起きたか。日本語と技能がどう伸びたか。2号へ移れる状態か。これらを企業と本人の同意のもとで蓄積できれば、支援の質を改善できます。

一方、五つの層をすべて自社で持つ必要はありません。自社の強い層を決め、隣の層との情報と責任の受け渡しを標準化する方が現実的です。

NEXT STEP

次のステップ

人材紹介ではなく、採用後も価値が残る仕組みを設計する。

対象分野、顧客課題、本人の体験、許認可、支援原価、自社に残るデータを整理し、現実的な参入方法へ落とします。

新規事業として考えられる四つの参入方法

イノベーション総研では、特定技能の周辺で考えられる参入方法を四つに分けます。制度変更を伝えるだけの情報サイトではなく、企業または本人が毎月使う業務へ入れるかが判断軸です。

特定技能の新規事業参入ルートと責任境界を示す図
図4|特定技能の新規事業参入マップ。主要8社の事例、出入国在留管理庁資料、Deep Researchをもとにイノベーション総研作成。

次の表は、顧客、商品にする業務、自社資産、提携先、最大の懸念を一度に比べるためのものです。

参入方法 主な顧客 商品にする業務 自社に必要な資産 主な提携先 最大の懸念
分野特化の採用・育成 介護、建設、食品、農業などの企業 現地教育、選考、配属、入社後研修 分野知識、採用チャネル、教育 現地学校、業界団体、登録支援機関 紹介後に価値が残らない
在留・支援オペレーションSaaS 受入れ企業、登録支援機関 期限、申請、面談、届出、証跡 制度更新、業務設計、セキュリティ 行政書士、労務専門家、eKYC 画面外の手作業が残る
生活インフラの組み込み 受入れ企業、本人、自治体 住居、通信、口座、保険、相談 多言語顧客対応、審査、地域網 不動産、通信、金融、自治体 一人あたり対応費が高い
定着・キャリア基盤 受入れ企業、本人 日本語、技能、面談、配置、2号移行 学習・職場データ、分野別評価 教育機関、業界団体、転職支援 効果測定に時間がかかる

四つのうち、自社が顧客接点と責任の両方を持てる入口を選びます。足りない機能は、許認可を含めて提携先へ明示します。

分野特化の採用・育成は、現場の仕事から設計する

人材紹介会社が多い市場で、国籍と人数だけでは差別化できません。介護の記録、食品工場の衛生、建設現場の安全など、配属後の仕事を教育内容へ戻します。

売上は紹介手数料だけでなく、教育、試験、配置、定着支援を組み合わせます。ただし、本人へ不透明な費用を負担させるモデルは避けます。採用企業が得る価値と負担する費用を明確にします。

在留・支援SaaSは、制度更新と現場運用を一緒に売る

在留期限の通知だけでは、表計算ソフトから置き換わりません。面談が遅れたときの判断、退職や休業の随時届出、支援担当者の引継ぎ、自治体との連携までを業務として設計します。

書類作成には行政書士法などの業務範囲が関係します。SaaS、行政書士、受入れ企業の役割を契約と画面で分ける必要があります。

生活インフラは、入国直後の不便を束ねる

住居、通信、銀行、保険は、それぞれ別市場です。しかし、外国人材にとっては入国直後に同時に必要になります。来日前の本人確認と勤務先情報を、同意を得て複数サービスへつなげれば、手続を短くできます。

重要なのは、受入れ企業が契約者なのか、本人が契約者なのか、料金と解約条件を分かりやすく示すことです。囲い込みではなく、本人が選べる状態を作ります。

定着・キャリア基盤は、1号から次の選択肢を見える化する

1号の採用時点から、技能、日本語、現場経験を記録します。2号、在留資格「介護」、他の職種など、本人が目指せる経路と要件を見える形にします。

企業にとっては、離職率だけでなく、欠勤、教育時間、配置変更、試験合格、現場評価を見られます。定着を感覚で語らず、職場改善へつなぐサービスです。

顧客、収益、提携先を一枚にまとめる方法は、新規事業のビジネスモデル設計も参考になります。

参入前に確認したい制度・人権・収益の懸念

外国人材の事業では、制度に従うだけでなく、本人の選択と生活を守る必要があります。参入前に少なくとも六つの懸念を分けます。

第一は、制度変更です。対象分野、上限、試験、届出、支援体制が変わります。法改正ニュースを出すだけでなく、顧客の業務とシステム設定へ反映する担当が必要です。

第二は、業務範囲です。職業紹介、労働者派遣、登録支援、在留申請書類の作成は、それぞれ許可や資格、役割の制約があります。提携先へ任せる業務と自社が担う業務を分けます。

第三は、人権と費用です。候補者が保証金や過大な借金を負っていないか。母国語で条件を理解したか。転職や退職を不当に妨げていないか。採用人数より先に確認します。

第四は、個人情報です。在留カード、顔画像、住所、家族、健康、相談内容は機微な情報です。採用会社、支援機関、住居会社、金融会社の間で、目的を決めずに共有してはいけません。

第五は、支援原価です。夜間の相談、地方への訪問、住居探し、職場との調整は人手がかかります。月額を安く見せても、担当人数が増えるほど品質が下がるモデルは続きません。

第六は、紹介後の売上です。採用手数料だけでは、候補者不足と制度変更の影響を受けます。教育、支援、管理、生活、キャリアのうち、顧客が継続して対価を払う業務が必要です。

検討初期には、新規事業の失敗原因も合わせて確認してください。顧客課題より先に自社サービスを決めると、制度対応だけの受託になりやすいためです。

特定技能への関わり方を4つに分けて考える

参入:分野顧客・人材接点・運営知識の二つ以上がある

対象分野と地域を絞り、採用後も使われる業務を商品にします。

提携:許認可や多言語支援を自社だけでは持てない

行政書士、登録支援機関、教育機関、生活事業者と責任を分けます。

待機:新分野や2027年変更で前提が固まらない

顧客の業務量と困りごとを測り、制度確定後に再判断します。

見送り:安価な紹介以外の強みが残らない

採用後の支援と本人への責任を他社任せにするモデルは選びません。

自社は参入・提携・待機・見送りのどれか

特定技能周辺へ参入するかは、外国人材市場が伸びるかだけで決めません。自社が持つ資産と、負える責任で分けます。

参入は、特定分野の企業顧客、海外または国内の人材接点、採用後の業務知識のうち二つ以上を持つ場合です。対象分野と地域を絞り、継続利用される業務を商品にします。

提携は、顧客接点はあるが、許認可、多言語支援、在留管理、生活インフラの一部を持たない場合です。紹介会社、登録支援機関、行政書士、教育機関、自治体との役割を明文化します。

待機は、新しい3分野の試験や運用、2027年の支援体制変更など、収益前提がまだ固まらない場合です。制度が変わるまで何もしないのではなく、既存顧客の業務量と困りごとを測ります。

見送りは、安価な人材紹介だけで利益を出そうとする場合です。本人の費用負担、採用後の離職、支援品質、制度変更を他社任せにすると、価格以外の強みが残りません。

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専門家へ相談する前に整理したい七つの情報

特定技能の採用や新規事業について相談するときは、次の情報を用意すると、制度説明だけで終わりにくくなります。

  1. 対象分野と実際に任せたい仕事
  2. 必要人数、採用地域、希望時期
  3. 国内在住者と海外在住者のどちらを想定するか
  4. 賃金、労働時間、住居、通勤の条件
  5. 自社支援と外部委託の考え方
  6. 採用後に困っている業務と現在の担当者
  7. 継続事業として残したい顧客接点やデータ

この七つが分かれば、採用を先に進めるのか、受入れ体制を整えるのか、支援サービスとして事業化するのかを分けられます。

イノベーション総研では、市場規模だけでなく、顧客課題、既存プレーヤー、責任分界、収益、提携先、見送り条件まで整理します。新規事業コンサルティングの進め方もご覧ください。

特定技能に関するよくある質問

制度の基本と、企業からよく出る疑問を短く整理します。

Q. 特定技能1号は何年働けますか

A. 原則として通算5年までです。ただし、2号移行を希望し、試験予約が取れないなど一定の要件を満たす人には、通算6年を上限とする例外があります。

Q. 特定技能2号なら家族と暮らせますか

A. 要件を満たせば、配偶者と子の帯同が可能です。2号を取れば自動的に永住できるわけではありません。

Q. 特定技能はどの業種でも採用できますか

A. できません。対象は19分野ですが、実際の採用では分野ごとの業務区分、受入れ基準、協議会、試験と運用開始時期を確認します。

Q. 登録支援機関へ委託すれば、企業の責任はなくなりますか

A. なくなりません。1号支援の全部を委託できても、雇用契約、賃金、労働時間、職場環境など、雇用主としての責任は受入れ企業に残ります。

Q. 技能実習2号を修了すれば、試験なしで移れますか

A. 対応する職種・作業と特定技能の業務区分が一致するなど、要件を満たせば試験免除になる場合があります。別分野へ無条件で移れるわけではありません。

Q. 特定技能人材は転職できますか

A. 同じ在留資格で認められる分野・業務区分などの条件を満たし、在留資格変更など必要な手続を行えば転職できます。自由に別業種へ移れるという意味ではありません。

Q. 育成就労は特定技能とどうつながりますか

A. 育成就労は2027年4月に始まる予定で、原則3年間で特定技能1号水準まで育成する制度です。1号へ移るには、原則として技能と日本語の試験に合格する必要があります。

まとめ|特定技能は採用後の運営で差がつく

特定技能は、外国人を採用するためだけの制度ではありません。企業が雇用主として責任を持ち、1号では生活と就労の支援を続ける仕組みです。

19分野の受入れは広がっていますが、分野ごとに上限、業務区分、試験、追加手続が違います。1号と2号、技能実習と育成就労も混同しないことが重要です。

企業8社の事例から見えたのは、海外教育、採用、在留管理、本人確認、住居・通信、キャリアをつなぐ動きです。紹介で終わらず、採用後の業務とデータを改善できるサービスに価値が残ります。

新規事業として検討する場合は、自社が強い分野と工程を決めてください。持たない許認可、支援、生活インフラは提携し、異常時の責任まで契約へ落とします。

特定技能の採用・支援市場で、自社が参入、提携、待機、見送りのどれに当たるか整理したい企業は、イノベーション総研へご相談ください。制度説明ではなく、具体的な顧客、サービス、収益、責任分界まで一緒に設計します。

参考文献・一次情報

制度、人数、企業事例の確認に使った主な一次情報です。

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対象分野、主要企業、採用後の未解決業務、提携先、許認可、支援原価、責任分界を整理し、参入・提携・待機・見送りの条件へ落とします。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

出入国在留管理庁と、ONODERA USER RUN、ワタミ、PERSOL、tokuty、Guidable、SMILEVISA、GTN、Liquidの公式情報。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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