投稿日:2026.09.07 最終更新日:2026.09.30
従業員支援プログラム(EAP)は相談窓口で終わらない|国内外8社
EAPは、従業員の悩みに専門家が対応する「従業員支援プログラム」です。会社が契約し、従業員が任意で相談する形が一般的で、家族が対象になるプランもあります。
相談内容は、仕事のストレスだけではありません。たとえば、家庭、介護、お金、法律、依存、ハラスメントなど、仕事に影響する生活上の問題も対象になります。
ただし、電話番号やアプリを配るだけでは、支援は機能しません。具体的には、従業員が安心して使えること、相談後に適切な専門家や医療へつながること、個人を特定しない形で職場の改善にも生かせることの三つがそろう必要があります。
EAPは、守秘性を保った個人支援と、職場の環境改善を組み合わせて評価します。
本記事では、EAPの基本と産業医(企業で従業員の健康管理を担う医師)・ストレスチェックとの違いを整理します。国内外8社の提供内容と企業の活用事例から、選定・効果測定・新規参入の判断軸を整理します。
情報確認日:2026年9月28日。サービス範囲は地域・契約により異なります。
本記事は企業の導入・事業検討向けの解説で、個別の診断や治療方針を示すものではありません。
この記事の結論
EAPは、従業員の相談を受け、適切な専門支援と職場改善へつなぐ仕組みです。
- 産業医・ストレスチェック・医療とは役割が異なり、相互の連携が必要です。
- 国内外8社は、相談入口、専門家への接続、生活支援、組織分析を別の強みとして持ちます。
- 参入では、支払者と利用者を分け、守秘性、専門職、緊急対応の責任を先に決めます。
目次
従業員支援プログラム(EAP)とは?従業員と組織の両方を支える仕組み
EAPは、Employee Assistance Programの略です。日本語では、従業員支援プログラムや社員支援プログラムと呼ばれます。
また、相談者個人だけでなく、管理職、人事、組織全体も支援する点が特徴です。
Employee Assistance Professionals Associationは、EAPを専門的な職場サービスと説明しています。目的は、職場の健全な機能と生産性を保つことです。
そのために、人の行動やメンタルヘルスに関する専門知識を使います。
従業員向けには、短期カウンセリングや情報提供を行います。また、必要に応じて、医療機関や法律家などへ紹介します。
一方、組織向けには、管理職への助言、研修、重大事故後の支援、個人を識別できないように集計した利用傾向の報告などがあります。
EAPには、社内に専門職を置く「内部EAP」があります。一方、外部の会社へ委託する「外部EAP」もあり、両方を組み合わせる形もあります。
社内の産業保健を補う専門職と、会社に直接話しにくいことを相談できる窓口を確保します。
利用の流れは、おおむね次のようになります。
- 従業員や家族が、電話、チャット、Web、対面で相談する
- 相談員が状況と緊急性を確認する
- 短期相談、医療、法律、介護など適切な支援へつなぐ
- 本人の同意と契約範囲に基づき、継続状況を確認する
- 企業には、個人を特定しない集計情報を返す
EAPは、診断や治療をすべて行う制度ではありません。むしろ、医療が必要な人を医療へつなぐ役割も持ちます。
また、企業が安全配慮や職場改善の責任を外部へ渡す仕組みでもありません。

相談窓口・産業医・ストレスチェックは何が違うのか
EAP、産業医、ストレスチェックは、いずれも職場のメンタルヘルスに関係します。ただし、役割と情報の流れは異なります。
代わりになるものではなく、連携させるものです。
| 比較軸 | EAP | 産業医・産業保健 | ストレスチェック | 医療機関 |
|---|---|---|---|---|
| 主な目的 | 悩みの早期相談と適切な支援への接続 | 健康管理と就業上の措置への助言 | ストレスへの気づきと職場環境改善 | 診断と治療 |
| 主な利用者 | 従業員、家族、管理職、人事 | 従業員、事業者 | 対象となる労働者 | 患者本人 |
| 主な提供者 | 心理職、相談員、各分野の専門家 | 産業医、保健師など | 実施者、実施事務従事者 | 医師、医療職 |
| 企業へ返す情報 | 原則として匿名の集計や組織傾向 | 就業上必要な意見など | 本人同意の範囲と集団分析 | 原則として本人の同意が必要 |
| 得意な場面 | 相談の入口、短期支援、紹介、管理職支援 | 就業配慮、面談、職場との調整 | 全体把握、本人の気づき | 症状の評価、治療、継続診療 |
| 単独でできないこと | 医療行為や企業責任の代行 | 生活課題全般の常時相談 | 相談や治療そのもの | 職場全体の制度運用 |
厚生労働省の指針は、職場のメンタルヘルス対策を四つのケアで整理しています。具体的には、セルフケア、管理職によるラインケア、事業場内産業保健スタッフによるケア、事業場外資源によるケアです。
このうち外部EAPは、主に四つ目に当たります。
重要なのは、外部へ委託しても、会社の役割は残ることです。厚生労働省の指針も、事業者が主体性を失わないよう求めています。
そのため、社内の窓口が外部資源と連携し、必要な医療機関や地域資源への接続を平時から整える必要があります。
ストレスチェックは検査の仕組みであり、相談を希望する人が利用するEAPとは役割が異なります。これは、検査結果を受けた本人が、自分の状態に気づく仕組みです。
また、集団分析は、職場環境の改善にも使います。さらに、高ストレス者への面接指導は、一定の要件に基づき医師が行います。
EAPが注目される三つの背景
EAPへの関心は、福利厚生の充実だけで生まれているわけではありません。実際には、職場のメンタルヘルス、孤独・孤立、制度対応が重なっています。
その結果、企業が担う支援の範囲も広がっています。
一つ目は、働く人のメンタルヘルスです。WHOの職場のメンタルヘルス指針は、組織への介入、管理職研修、個人支援、復職支援を扱っています。
個人の対処を支えるだけでなく、長時間労働、役割分担、ハラスメントなど職場側の要因を見直すことも、同時に検討する必要があります。
二つ目は、孤独を感じたときに相談できる先の必要性です。WHOの2025年報告は、世界のおよそ6人に1人が孤独を経験するとしています。
日本の内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(2025年)」では、孤独感が「しばしばある・常にある」は4.5%、「時々ある」は13.7%、「たまにある」は19.5%でした。全国の16歳以上を対象とした有効回答11,873人の結果で、従業員だけの割合やEAPを利用したい人の割合ではありません。
孤独は本人が感じる主観的な状態で、社会的な接点が客観的に少ない「孤立」とは区別します。出勤しているかだけで判断せず、困ったときの相談先を知り、安心して利用できるかを確かめます。
国際報告と日本調査は対象・測り方が異なるため、割合の大小を国の優劣として比較しません。
三つ目は、制度の広がりです。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。
厚生労働省の案内では、施行日は2028年4月1日です。
対象の人数は原則として企業全体ではなく事業場単位で確認します。義務化されるのはストレスチェックであり、EAPとの契約そのものではありません。
検査の実施者、結果の保管、高ストレス者への対応と、任意の相談窓口を分けて整備します。
制度対応は、EAPを導入すれば終わる話ではありません。むしろ、検査後の相談、医療への紹介、管理職支援、職場改善をどうつなぐかが問われます。
特に小規模事業場では、産業保健の人員が限られます。そのため、外部サービスの選び方と連携設計が、より重要になります。
EAPの業界構造は四つの機能で見る
EAP市場は、電話相談会社だけで構成されていません。むしろ、相談の前後にある機能まで見ると、本記事では四つの機能に整理します。
そのため、参入企業は、どの層を担うかを明確にする必要があります。
第一は、相談の入口です。具体的には、電話、Web、アプリ、チャット、対面などがあります。
ここでは、従業員が勤務先へ知られる不安を持たず、迷わず使えることが重要です。
第二は、状況の見立てと振り分けです。まず、相談内容、緊急性、本人の希望を確認します。
そのうえで、短期相談で扱うのか、医療、法律、介護、社内手続きへつなぐのかを決めます。なお、AIを使う場合も、危機対応を人へ引き継ぐ基準が必要です。
第三は、支援の提供です。具体的には、心理相談、コーチング、セルフケア、法律相談、家族支援などがあります。
その際、自社の専門職で提供する会社もあれば、外部ネットワークを束ねる会社もあります。
第四は、組織への還元です。企業には、個人を特定しない集計、管理職向けの助言、研修、職場改善の提案を返します。
個別の相談記録をそのまま人事へ渡すのではなく、本人同意と利用目的を踏まえて情報を分けます。集計で個人が推測される場合は報告を控え、別の職場調査や管理職支援を通じて改善を検討します。

相談者と企業の間に情報の壁を置きながら、支援と職場改善はつなぐ必要があります。 個人への支援と企業への報告で、情報を受け取る相手と目的を分けて設計します。
国内外8社のEAP事例
EAP事業者は、同じ相談サービスを提供しているように見えます。しかし、得意な入口、支援範囲、専門職ネットワーク、企業への還元方法は違います。
八社を横並びにすると、競争軸が見えます。
次の比較は各社の公開するメニューの整理です。掲載した機能がすべて基本料金に含まれるとは限りません。
対応国、家族の範囲、回数上限、医療の提供資格、別料金の有無を見積もりでそろえます。
| 企業・サービス | 主な市場 | 相談の入口 | 支援範囲 | 組織向け機能 | 事業への示唆 |
|---|---|---|---|---|---|
| ピースマインド | 日本・グローバル企業 | 電話、オンライン、対面など | 心理支援、管理職支援、危機対応 | 研修、組織支援、グローバル対応 | 個人と組織を同じ設計で支える |
| アドバンテッジリスクマネジメント | 日本企業 | 電話、メール、SNS、訪問 | カウンセリング、復職支援、産業保健 | ストレスチェック、サーベイ、分析 | データと介入を一体化する |
| T-PEC | 日本企業・保険者 | 電話、健康相談チャットボット、訪問 | 心身の相談、法律、介護、両立支援 | 研修、職場改善、危機対応 | 幅広い生活課題を一つの窓口へ集める |
| Spring Health | 企業・ヘルスプラン | デジタル評価、ナビゲーター | セルフケア、コーチング、治療、投薬支援 | 成果測定、企業レポート | 初回の支援先選びを精密化する |
| Lyra Health | グローバル企業 | オンライン評価、マッチング | コーチング、治療、専門ケア、家族支援 | 管理職支援、危機対応、分析 | EAPと医療給付の分断を減らす |
| Modern Health | グローバル企業 | アプリ、自己評価 | セルフケア、グループ、コーチング、治療 | グローバル分析、職場支援 | 段階的な支援を多言語で提供する |
| TELUS Health | 企業・保険者 | アプリ、電話、対面 | 心理、法律、財務、介護、危機支援 | 復職、分析、組織支援 | 生活支援と臨床支援を統合する |
| ComPsych | グローバル企業 | 24時間の専門窓口 | 心理、法律、財務、生活支援、コーチング | 管理職支援、広報、レポート | 利用促進もEAPの提供範囲に含める |
八社はすべて相談機能を持ちますが、差はその外側にあります。導入企業は、支援範囲と組織支援のどちらを補いたいかを先に決める必要があります。
国内3社は個人と組織をどう支えるか
国内三社は、相談だけでなく、ストレスチェック、産業保健、研修、復職支援まで広げています。ただし、強みの置き方は異なります。
導入企業は、自社の不足機能に合う会社を選ぶ必要があります。
ピースマインドは心理支援と組織支援を一体で扱う
ピースマインドは、EAPを「はたらく人」と「組織」の両方へ課題解決策を提供するプログラムと定義しています。従業員の相談だけでなく、人事や管理職への助言、研修、組織の課題への支援も扱います。
特徴は、相談者の問題を個人だけへ戻さない点です。管理職が部下への接し方に迷う場面や、重大事故後のケア、グローバル企業の各国対応など、組織側の運用も支援します。
同社は、従業員の自主相談と人事・管理職相談を別のプランとして示し、訪問やグローバル対応をオプションにしています。導入企業は、窓口だけが必要なのか、管理職の対応支援まで必要なのかを分けて契約内容を確認します。
アドバンテッジリスクマネジメントはデータから介入へつなぐ
アドバンテッジリスクマネジメントは、ストレスチェック、パルスサーベイ、研修、カウンセリング、復職支援、産業保健を展開しています。個人への相談と、組織データの分析を組み合わせる形です。
相談窓口は、電話、メール、SNSなど複数の入口を持ちます。訪問カウンセリングもあります。
さらに、従業員向けのセルフケア学習、管理職研修、休職者の復職支援まで、介入手段を広く持っています。
選定時は、サーベイで課題を見つけた後に、研修、職場改善、相談、復職支援のどれを実行するかを確認します。分析後に実行する人と予算まで確認すると、測定だけで終わるのを防げます。
T-PECは心身と生活の相談を広い入口で受ける
T-PECは、24時間の健康相談、メンタルヘルス相談、法律相談、介護、治療と仕事の両立支援などを提供します。ストレスチェックや職場改善、研修、ハラスメント対策も扱います。
従業員の困りごとは、一つの分類に収まりません。たとえば、親の介護が睡眠不足を生み、仕事のミスにつながることがあります。
また、病気への不安が、職場の人間関係を悪化させることもあります。そのため、心だけに窓口を限定しないことで、相談の早い段階に接点を持てます。
同社は、事業所へ心理カウンセラーが訪問するサービスも提供します。これにより、社内の産業保健スタッフを補い、従業員、人事、管理職を支援します。
つまり、デジタルだけでなく、職場へ入る運用を残している点が特徴です。
活用事例|NTT-MEは、年代別研修と相談窓口をつないだ
T-PECが公開したNTT-MEのインタビューでは、若手のストレス対処と、管理職が変化に気づいて専門家へつなぐ力を育てる目的で、研修を組み合わせたと説明しています。2025年度は20・21歳と28・29歳に対象を分けたセルフケア研修、2025年10月はラインケア研修を実施しました。
2026年1月には、人材育成と労務厚生の担当が共同で、入社6年目の社員向けに3時間のオンライン研修を企画しました。グループワークを取り入れ、研修後もNTT東日本が導入したグループ向け相談窓口を利用できると案内しています。
対象者が次に相談する場所まで知らせた点が特徴です。
担当者は、予防・早期対応を重ねる中でメンタルヘルス不調による新規休職者が減ってきたと説明する一方、復職後の継続支援を課題に挙げています。公開資料には比較期間・人数・対照群がないため、EAPや研修だけによる減少幅は算出できません。
自社で参考にするのは、研修の対象と目的を分け、相談案内・専門家への紹介・復職後の支援まで担当を決めることです。
NEXT STEP
次のステップ
従業員支援の構想を、信頼される運用の設計図へ。
支払者、利用者、相談導線、専門職、データ境界、緊急対応、採算と見送り条件を整理します。
海外5社はEAPをケア基盤へどう広げたか
海外五社は、相談から専門家の紹介、生活支援、成果の報告までを組み合わせています。海外サービスの治療・投薬支援は、提供国の資格と医療制度を前提に比較します。
日本でも同じ医療行為を受けられるとは限らないため、日本語相談、国内医療機関への紹介、本人負担の範囲を確認します。
Spring Healthは最初の支援先選びを変える
Spring Healthは、本人の状態と希望を確認し、適切な支援や専門家へつなぐ「Precision Mental Healthcare」を掲げます。同社のAI基盤は、支援先のマッチング、ケア計画、支援の継続、成果の測定を結び付ける設計です。
同社は、人による臨床監督、利用者のプライバシーと同意、AIの安全性評価を重視し、AIは専門職や臨床判断を置き換えないと説明しています。機能数だけでなく、人へ引き継ぐ判断と実際に受け入れる体制を比較する視点が得られます。
相性が合わないときに、相談先を変更できる手続きを用意することも重要です。EAP事業では、専門家の人数だけでなく、どの人をどの支援へつなぐかが価値になります。
Lyra HealthはEAPと専門ケアの分断を減らす
Lyra Healthは、コーチング、セラピー、投薬管理、複雑な課題への専門ケア、家族支援を提供します。管理職向けの支援や、組織のデータ分析も持っています。
Lyraは、複数のケアを一つの利用導線へまとめる方針を示しています。選定時には、短期相談の上限後、同じ専門家による支援を続けられるか、医療給付へ切り替わる場合に追加費用があるかを確認します。
このモデルは、医療提供者ネットワークの質と供給量が参入障壁になります。アプリだけを作っても、予約できる専門家が不足すれば価値は生まれません。
Modern Healthは段階的ケアを世界へ展開する
Modern Healthは、セルフガイド、グループ支援、コーチング、セラピーなどを組み合わせます。本人の希望と必要度に応じて、支援の強さを変える「Adaptive Care Model」を掲げています。
同社は、多国籍企業への提供を重視します。各地域の言語や文化に合わせた専門家ネットワークを持ち、企業側には全体像を返します。
グローバルEAPでは、翻訳だけでは足りません。というのも、資格制度、医療への紹介、緊急時の連絡先、相談文化が国ごとに違うからです。
そのため、共通の画面と、地域ごとの運用を分ける必要があります。
TELUS Healthは仕事と生活の問題を一つの入口へ集める
TELUS Healthは、心理支援に加えて法律、財務、家族等の生活上の支援を組み合わせ、TELUS Health Oneから各種のケアへアクセスできる仕組みを提供します。がんや子ども・家族の支援などは、追加サービスとして紹介しています。
対面のカウンセリングや危機時の対応も紹介していますが、24時間アクセスできることと、希望する専門職の面談をすぐ予約できることは別です。対応言語、受付後の流れ、追加プログラムの料金を確認します。
企業側には、利用状況だけでなく、職場への影響を測る仕組みを提供します。ただし、個人情報を細かく返すこととは違います。
従業員の信頼を守る集計単位が必要です。
ComPsychは個人のケアと管理職支援を組み合わせる
ComPsychのGuidanceResourcesは、心理相談、法律、財務、生活支援、ウェルビーイング・コーチングをまとめています。24時間の専門窓口と、対面・オンラインの相談を提供します。
同社は、管理職向け研修や重大事案への対応も提供しています。効果の測定については、支援へ到達するまでの時間、症状や生産性の変化、利用者の満足を分けています。
導入企業も、相談窓口を知らせるだけでなく、上司が相談を受けたときの対応まで準備します。
EAPの運営では、相談件数だけを追うと判断を誤ります。認知率、利用開始までの時間、紹介後の接続、再利用、管理職の活用など、導線の途中を見なければなりません。
8社から見えるEAPの競争軸
EAPの比較は、利用のしやすさ、支援の適合、専門職の品質、職場への還元で行います。むしろ、競争は、相談前の使いやすさ、相談後の接続、企業への説明へ移っています。
そこで、四つの軸で見ると選びやすくなります。
一つ目は、利用までの摩擦です。守秘の範囲が分かりやすいか、会社を通さず予約できるか、勤務時間外や家族も使えるか、多言語へ対応できるかを見ます。
二つ目は、支援の適合です。相談員との相性だけでなく、本人の課題に合う専門性があるか、短期相談の範囲を超えたときに医療や法律への紹介方法が整っているかが重要です。
三つ目は、供給の品質です。具体的には、相談員の資格、経験、研修、監督、記録、安全管理を確認します。
たとえば、全国対応を掲げても、地域や言語によって予約の待ち時間が違う場合があります。
四つ目は、組織改善です。企業へ返す情報が、個人を特定せず、職場の判断に使える形になっているかを見ます。
そのため、利用件数だけでなく、相談テーマ、接続状況、管理職の課題、職場ごとの偏りを安全に扱う設計が必要です。
EAPを選ぶときは、次の質問をベンダーへ確認するとよいでしょう。
- 従業員は会社を通さず利用できるか
- 企業へ返す情報と、返さない情報は何か
- 小規模部署では、再識別(匿名データから個人を割り出すこと)をどう防ぐか
- 緊急性が高い相談を、誰がどこへつなぐか
- 短期相談の上限後に、支援をどう継続するか
- 専門家の資格、研修、監督をどう管理するか
- 利用されていない部署へ、どう案内を変えるか
- 個人支援から職場改善へ、何を提案できるか
EAP導入は利用導線から設計する
導入時は、対象者、相談内容、社内外の引継ぎ、周知、見直しの担当を決めます。むしろ、相談者が制度を知り、安心し、適切な支援へ移るまでの導線です。
そのため、人事だけで決めず、産業保健、法務、情報セキュリティ、現場管理職も関わる必要があります。
最初に、対象者を決めます。たとえば、正社員だけか、家族、契約社員、海外拠点も含むかを明確にします。
というのも、対象が曖昧だと、必要なときに利用を断ることになるからです。
次に、相談テーマとチャネルを決めます。たとえば、メンタルヘルスだけか、介護、法律、財務、ハラスメントも扱うかを選びます。
また、電話、チャット、対面のどれが必要かは、勤務形態と年齢構成で変わります。
第三に、社内外の役割を決めます。具体的には、産業医、人事、上司、外部EAP、医療機関が、どこで引き継ぐかを文章にします。
あわせて、本人の同意が必要な情報と、緊急時の例外も明確にします。
第四に、周知を設計します。というのも、入社時に一度案内するだけでは足りないからです。
そこで、異動、昇格、育児、介護、災害、組織変更など、困りごとが増える場面で案内します。働き方改革の記事で整理したように、制度は使われる業務導線へ置く必要があります。
第五に、見直しの会議を決めます。その場では、個人の相談内容は共有せず、認知、利用、接続、待ち時間、組織課題を確認します。
契約更新時だけでは遅いため、四半期など一定の周期が必要です。
従業員支援の効果は利用率だけで決めない
EAPの効果測定では、利用率がよく使われます。しかし、利用率が高いほど良いとは限りません。
重大事故や組織再編で相談が急増する場合もあるからです。
指標は、四つの段階に分けると整理できます。
- 認知:制度を知る人の割合、案内への到達
- 接続:相談開始までの時間、予約完了、紹介先への到達
- 支援:継続率、本人が感じた有用性、課題に合う支援の提供
- 組織:休職、復職、離職、欠勤、職場環境、管理職の対応
最初から休職率の低下だけを約束すると、別の要因を混同します。人員配置、景気、採用、働き方も影響するからです。
利用のしやすさと支援への到達を先に測り、休職・離職への影響は他の要因も含めて検討します。
相談内容の件数が少ない部署にも注意が必要です。というのも、問題がないのではなく、制度を知らない、使いにくい、守秘性を信じていない可能性があるからです。
そのため、利用しない理由を匿名調査やヒアリングで確かめます。
企業が受け取るレポートは、意思決定に使える粒度が必要です。同時に、少人数の部署や珍しい相談テーマでは、個人が推測されないよう集計を止める基準も必要です。
架空例|延べ相談回数と実人数を分ける
対象者1,000人の企業で、半年間に40人が合計100回相談したと仮定します。この期間の実人数の利用率は40人÷1,000人=4.0%です。
100回÷1,000人の10.0%は延べ回数の指標であり、利用者の割合ではありません。説明用の数字で、推奨利用率や業界平均ではありません。
| 確認する段階 | 記録する内容 | 次の判断 |
|---|---|---|
| 窓口の認知 | 匿名アンケートで対象者が利用方法を知っているか | 知らない場合は案内の場所・言葉を変える |
| 相談の利用 | 期間、対象人数、実利用者数、延べ回数 | 繰り返し利用と新規利用を区別する |
| 紹介後の到達 | 本人同意の範囲で予約・利用を確認。未確認も残す | 未接続の理由を聞き、紹介先や連絡方法を見直す |
| 職場側の改善 | 担当者、変更した業務、実施日、確認方法 | 個人の記録を使わず、実施状況と職場環境を確かめる |
医療機関を案内した人数と、実際に受診した人数も分けます。確認できない人を「改善した」「支援をやめた」と決めつけず、追跡の可否を記録します。
部署比較では、人数、業務、勤務形態、相談内容の違いが残るため、単純な順位づけは避けます。
EAPの構想を、六つの詰まり方で整理する
接続、評価、守秘性、AI、供給、利益相反の未確認条件を見つけます。
EAPで狙う四つの新規事業
新規参入は、総合EAPを最初から作る方法だけではありません。むしろ、専門性、販売先、データ、地域ネットワークのどれを持つかで入口が変わります。
ここでは、四つの方法を比べます。
一つ目は、特定課題に絞った専門EAPです。たとえば、介護、がん、育児、依存、外国人、若手管理職など、支援の空白があるテーマへ絞ります。
また、総合EAP事業者と競うより、紹介先として組み込まれる方法もあります。
二つ目は、相談後のナビゲーション基盤です。具体的には、社内制度、医療、法律、地域資源を整理し、相談者に合う支援へつなぎます。
つまり、価値はチャット画面ではなく、紹介先の質と接続完了の確認にあります。
三つ目は、小規模企業向けの共同利用型です。具体的には、単独では産業保健や相談窓口を持ちにくい企業を束ねます。
そのため、業界団体、保険会社、金融機関、自治体などを販売パートナーにできます。
四つ目は、組織改善の運用支援です。具体的には、匿名集計、管理職支援、研修、職場改善を一体で提供します。
ただし、相談データを売るのではありません。むしろ、再識別を防ぎ、組織の課題だけを安全に返す設計が中心です。
イノベーション総研では、参入先を決める前に、支払者、利用者、紹介先、責任者を分けます。EAPでは、費用を払う企業と、情報を守られるべき従業員が異なります。
そのため、企業の契約判断と、従業員の相談内容を守る運用を分けることが必要です。
採算条件は契約単価より供給密度で見る
EAPは、デジタルサービスに見えても、人の供給が原価になります。EAPの採算には、相談対応に加え、専門職の待機・品質管理・企業への導入支援も含めます。
全国・多言語へ広げる場合は、必要な予約枠や待機体制と、品質管理の費用を確認します。
Modern Healthの公式案内には、従業員一人当たり月額(PEPM)と利用に応じた料金の選択肢があります。料金方式を比べるときは、対象人数だけでなく、含まれる相談回数、追加支援、初期設定や研修の費用もそろえます。
費用は、相談対応、専門家への支払い、システム、法人営業、導入支援、利用促進、危機対応、品質管理に分かれます。
特に見落としやすいのは、待機供給です。たとえば、24時間対応を掲げるなら、相談がない時間にも体制を持つ必要があります。
また、地方や特定言語の相談が少なくても、契約上の対応を用意しなければなりません。
採算を見るときは、次の単位をそろえます。
- 契約企業一社当たりの対象人数と月額売上
- 利用者一人当たりの初回対応と継続支援の原価
- 紹介先ネットワークの維持費と空き枠
- 導入時の設定、周知、研修にかかる工数
- 重大事案や夜間対応に備える固定費
- 契約更新へ必要なレポートと法人支援の工数
AIによるセルフケアでどの業務を補えるかは、安全性と運用費用の両方から検証します。導入しただけで原価削減が実現するとは限らず、危機の見逃しを含むリスクへの対応も必要です。
相談を減らすことを目標にせず、適切な支援へ人を割り当てるために使うべきです。
守秘義務・医療・緊急対応の責任分界
EAPは、人の健康と雇用に関わる情報を扱います。そのため、機能が豊富でも、責任分界が曖昧なら導入できません。
事業者と導入企業の双方が、平時と緊急時の判断を決める必要があります。
最初の論点は、守秘性です。具体的には、相談内容を誰が見られるのか、企業へ何を返すのか、本人の同意をどこで取るのかを示します。
特に小規模部署では、匿名集計でも個人を推測できるため、報告しない閾値(下限の人数)が必要です。
会社に内容を開示しない「守秘」と、事業者にも氏名を伝えない「匿名利用」は別です。予約や継続支援で本人確認が必要な場合もあるため、誰が何を見るかを案内に明記します。
厚生労働省の指針(個人情報の保護)も、利用目的、本人の同意、必要最小限の提供範囲を重視しています。緊急時の共有は契約だけで決めず、適用法令に沿って判断する運用が必要です。
次は、医療との境界です。というのも、カウンセリング、コーチング、情報提供と、診断・治療は違うからです。
そのため、医療が必要な状態を見分け、資格を持つ専門家や医療機関へ紹介します。また、海外提供では、地域ごとの資格と遠隔医療の扱いも確認します。
三つ目は、緊急対応です。自傷他害の差し迫った危険などは通常の予約対応と分けます。
ハラスメント相談は、本人支援と企業の事実調査を区別したうえで、安全への緊急性を個別に確認します。そのため、24時間受付の有無だけでなく、誰が緊急性を判断し、地域の救急・医療等へどう連絡するかを決めます。
日本で生命・身体に差し迫った危険がある場合は、通常のEAP予約を待たず119などの緊急窓口を利用します。
四つ目は、雇用判断との距離です。EAPの相談員が、人事評価や処分を決めるべきではありません。
そのため、産業医の就業上の意見、会社の人事判断、本人への支援を分けます。特に、相談記録を人事データへ安易に統合してはいけません。
参入を見送る条件も必要です。たとえば、専門職の質を監督できない、緊急対応の紹介先がない、利用者と企業の情報境界を説明できない、低価格を保つために相談後の支援を切る、といった条件です。
このいずれかに当たるなら、総合EAPを名乗るより、担う機能を限定した方が安全です。
EAPに関するよくある質問
EAPの導入担当者から出やすい質問を整理します。契約前に、社内制度との違いと、相談情報の扱いを確認してください。
まとめ:EAPは相談後の接続で差がつく
EAPは、従業員の悩みを受ける相談窓口です。同時に、管理職、人事、産業保健、医療、生活支援をつなぐ運用でもあります。
国内三社は、相談と組織支援、産業保健、生活支援を組み合わせています。海外五社は、デジタルの入口、専門家マッチング、治療、成果測定を一つの基盤へまとめています。
導入企業は、利用率だけを追わないことが重要です。守秘性、相談開始までの時間、紹介先への接続、専門職の質、組織改善まで見ます。
新規参入では、総合EAPを最初から目指す必要はありません。特定課題、ナビゲーション、小規模企業の共同利用、組織改善など、自社が責任を負える機能から入れます。
最も避けたいのは、アプリや電話番号を用意しただけで、支援したことにする状態です。相談者が次の支援へ進めるか、企業が職場の原因を直せるか。
この二つを運用で確かめることが、EAPを機能させます。
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EAPの相談機能を、支援が途切れない事業へ。
自社の顧客基盤、専門性、販売パートナーを整理し、参入ポジション、収益、守秘性、医療連携と見送り条件を具体化します。