投稿日:2026.09.08 最終更新日:2026.09.20
二酸化炭素除去(CDR)はどう事業になる?10事例と参入条件
CDRとは、Carbon Dioxide Removalの略です。人の活動によって大気中の二酸化炭素を取り除き、地中、土壌、鉱物、製品などへ貯留します。日本語では「二酸化炭素除去」や「炭素除去」と呼ばれます。
木を植えることだけがCDRではありません。空気からCO2を直接回収するDAC、バイオ炭、バイオマスの地下貯留、岩石の反応を速める方法などがあります。方法ごとに、費用、貯留期間、必要な土地や電力、測りやすさが違います。
CDRの事業価値は、CO2をつかまえる装置だけでは決まりません。正味で何トンを除去し、長く貯留し、契約した量を納め続けられるかで決まります。本記事では、国内外10事例を使い、CDRの仕組み、企業の取り組み、新規事業の参入方法、懸念を整理します。
この記事の結論
CDRの事業価値は、回収装置より、正味除去を測り、長く貯留し、契約量を納め続ける仕組みで決まります。
- CDRは、大気中のCO2を人為的に取り除き、地中、土壌、鉱物、製品などへ長く貯留する活動です。
- 国内外10事例では、原料、装置、貯留、MRV、認証、長期購入、金融の分業が進んでいます。
- 参入余地は、地域資源型CDR、装置・EPC、dMRV、調達・金融の四つです。
目次
CDR(二酸化炭素除去)とは?排出削減・CCSとの違い
IPCCはCDRを、人為的な活動で大気中のCO2を取り除き、地質、陸域、海洋、製品へ長く貯留することと定義しています。自然に起きる森林や海洋の吸収を、そのままCDRとは呼びません。人が意図して吸収や貯留を増やす必要があります。
排出削減は、工場、発電所、車などから新たに出るCO2を減らします。CDRは、すでに大気中にあるCO2を取り除きます。両方が必要ですが、順番は削減が先です。IPCCも、CDRは深い排出削減の代わりにならないと示しています。
CCSは、工場や発電所の排ガスからCO2を回収し、地中へ貯留する技術です。化石燃料由来の排ガスを回収するだけなら、排出を避ける技術であり、通常はCDRではありません。大気から直接回収するDACCSや、植物が吸収した炭素を回収して貯留するBioCCSは、条件を満たせばCDRになります。
| 用語 | CO2の出発点 | 主な目的 | CDRになる条件 |
|---|---|---|---|
| 排出削減 | 新たに出るはずの排出 | 排出を減らす | 大気から取り除かないため、CDRではない |
| 化石由来CCS | 工場・発電所の排ガス | 排出を大気へ出さない | 通常は削減であり、CDRではない |
| DACCS | 大気 | 空気から回収して地中貯留 | 使用エネルギーなどを引いた正味除去が必要 |
| BioCCS | 植物が吸収した炭素 | バイオ由来CO2を回収・貯留 | バイオマスの再生と持続可能性が必要 |
| バイオ炭 | 植物が吸収した炭素 | 分解しにくい炭へ変えて土壌などに貯留 | 原料、製造排出、貯留の追跡が必要 |
企画時は、回収設備の名称より先に、炭素の出発点が大気由来かを確認します。ここを曖昧にすると、排出削減をCDRとして売る誤りが起きます。

事業企画では、回収量と除去量を分けます。装置が1,000トンを回収しても、電力、熱、輸送、原料調達で500トンを排出すれば、正味除去は最大でも500トンです。さらに、貯留中の漏出や、別の場所で増えた排出も確認します。
CDRはどの方法でCO2を除去するのか
CDRには、自然の吸収を利用する方法と、工業設備を使う方法があります。片方が常に優れているわけではありません。自然由来は比較的早く始めやすい一方、山火事、伐採、土地利用の変化で炭素が戻る可能性があります。工業型は長期貯留を設計しやすい一方、設備投資とエネルギーが必要です。
| 主な方法 | 仕組み | 主な貯留先 | 事業で見る条件 |
|---|---|---|---|
| 森林・土壌炭素 | 植物の光合成と農法で炭素を増やす | 木、土壌 | 土地権利、基準線、逆転、農家への還元 |
| バイオ炭 | 残渣を熱分解し、分解しにくい炭へ変える | 農地、建材など | 原料の持続可能性、炉の温度、利用先の追跡 |
| バイオマス貯留 | 植物残渣を乾燥・密封し、分解を止める | 地下施設 | 原料調達、密封、地下水、長期監視 |
| DACCS | 吸着材や溶液で空気からCO2を回収する | 地質層、鉱物 | 低炭素電力、熱、水、貯留許可、設備稼働率 |
| BioCCS | バイオ燃料・廃棄物施設のCO2を回収する | 地質層 | バイオマスの由来、回収率、輸送、貯留 |
| 風化促進・鉱物固定 | 岩石やアルカリ性材料とCO2を反応させる | 炭酸塩鉱物 | 反応速度、粒度、重金属、測定方法 |
| 海洋型CDR | 海水のアルカリ度や生物作用を利用する | 海水、海洋堆積物 | 生態系影響、追加性、広域での測定 |
表から分かるのは、方法ごとに必要な資産が違うことです。まず自社が確保できる原料、土地、電力、貯留先を置き、成立しない方法を外します。

2026年にEUが定めた恒久的な炭素除去の認証方法は、DACCS、BioCCS、バイオ炭の三つを対象にしています。これは、ほかの方法に価値がないという意味ではありません。規制に使える共通の測定方法を作れるほど、科学と実装が進んだ手法から制度化されたと見る方が正確です。
事業では、方法名から入らず、地域にある資源から考えます。農林業残渣が多いならバイオ炭やバイオマス貯留、低炭素電力と地質貯留が近いならDACCS、アルカリ性の副産物があるなら鉱物固定が候補です。資源と貯留先が離れるほど、輸送費と責任の分断が増えます。
CDRクレジットが売上になるまでの流れ
CDRでCO2を取り除いただけでは、すぐに売上になりません。方法論を選び、計測計画を作り、第三者検証を受け、登録簿で証書を発行します。買い手へ移転した後、気候目標などへ使うときに償却します。
最初に決めるのは基準線です。何もしなければ炭素はどうなったかを置きます。農業残渣が自然に分解していたのか、別の用途へ使われていたのかで、追加的に固定した量は変わります。
次に、工程全体の排出を引きます。原料の収集、加工、電力、熱、輸送、圧入、監視までを含めます。測定誤差が大きい場合は、安全側へ差し引く必要があります。
その後、貯留が続くことを監視します。森林や土壌では逆転時の補填、地中貯留では漏出監視、バイオ炭では製造温度と利用場所の記録が要ります。正味除去量を説明する証拠は、現場作業と同時に集めます。
Isometricの登録簿は、証書ごとに証拠、計算、発行、移転、償却の履歴を公開しています。CDRの価値は、トン数だけでなく、第三者が後から追える状態にすることで生まれます。
二酸化炭素除去の市場は、契約から納入へ移っている
CDR市場には、発行済みの証書を買う取引と、将来の除去を先に契約する取引があります。新しい施設は建設費が大きく、運転実績が少ないため、長期購入契約が資金調達の前提になります。
Microsoftは、2024年度に約2,193万トンの炭素除去を契約したと公表しています。Frontierは、2030年までの購入コミットメントを総額18億ドルへ広げました。大口購入者が将来需要を約束し、初期施設の建設を支える構造です。
ただし、契約量は納入済み量ではありません。施設が遅れる、予定した原料が集まらない、認証で除去量が減る、許可が遅れる、といったことがあります。Frontierも、初期企業は遅延または未納になる可能性があると明記しています。
そのため、CDRの市場を見るときは、四つの数字を分けます。施設の設計容量、実際の総回収量、検証後の正味除去量、買い手へ納入済みの量です。大きな契約があっても、最後の納入まで進んでいるとは限りません。
日本では、2026年9月時点で日本CDR協議会に84社が参加しています。東京都もCDRクレジット創出を支援しています。技術実証だけでなく、方法論、流通、販売先を一つにつなぐ段階へ移っています。
CDRを進める国内5事例は、何をつないでいるのか
国内では、農業、素材、DAC、商社、金融が異なる入口からCDRへ入っています。重要なのは、技術名ではなく、地域資源、測定、貯留、買い手をどうつないでいるかです。
| 企業 | CDR手法 | 現在の取り組み | 事業化の要点 |
|---|---|---|---|
| サグリ | 土壌炭素 | 北海道で農法転換とクレジット創出を実証 | 衛星・土壌データと農家支援を一体化 |
| TBM | 炭酸塩化 | 排ガスと焼却灰でCO2を炭酸カルシウムへ固定 | 廃棄物処理と素材価値を組み合わせる |
| Planet Savers | DACCS | ゼオライトDAC、海外貯留、認証、流通を検証 | 装置の外に貯留・認証・販売網が必要 |
| TOWING | バイオ炭 | MUFGと3年間、計210トンのJ-クレジット契約 | 土壌改良と炭素価値を農業に載せる |
| 住友商事・Graphyte | バイオマス貯留 | 米国合弁で商用施設を拡張し、日本企業へ販売 | 技術、販売、資金、長期納入を統合 |
国内事例の共通点は、CDR単体を売らず、農業、廃棄物処理、素材、販売網へ組み込んでいることです。後発企業は、既存顧客の工程へ除去価値を足せる場所を探します。

サグリは、農法転換と衛星データを一つの事業にする
東京都の2026年度採択事業で、サグリは北海道の農地を対象に、土壌炭素を増やす農法への転換を進めます。衛星、気象、土壌のデータを使い、農業の変化を測る計画です。
農家にとっては、クレジット収入だけでは農法を変えにくい場合があります。収量、肥料費、作業量、土壌の状態も同時に改善できることが必要です。購入企業には、どの農地で何が変わったかを説明できるデータが要ります。サグリの示唆は、MRVを単独商品にせず、営農支援へ組み込むことです。
TBMとPlanet Saversは、回収後の出口まで検証する
TBMは、木質バイオマス発電所の排ガスと未利用の焼却灰を使い、CO2を炭酸カルシウムへ固定する方法を実証します。廃棄物だった灰に炭素を固定し、素材として使えれば、処理費と製品価値を組み合わせられます。
ただし、排ガス中のCO2が化石由来なら、それを固定してもCDRとは限りません。バイオ由来の割合、工程排出、製品中での貯留期間を分けて測る必要があります。方法論づくりが事業の中心になります。
Planet Saversは、東京大学発のゼオライトを使うDACを開発しています。大気中のCO2を回収し、海外で地下貯留し、認証を経て東京都の市場へ流通できるかを検証します。DAC装置だけで完結せず、輸送、貯留国の制度、登録簿、買い手までつなぐ設計です。
TOWINGは、バイオ炭を土壌改良とCDRへ使う
TOWINGは、植物残渣などから高機能バイオ炭「宙炭」を作ります。三菱UFJ銀行とは、バイオ炭由来のJ-クレジットを3年間で計210トン取引する契約を結びました。
バイオ炭は、炭素固定だけでなく、土壌改良、肥料利用の効率化、残渣利用を同じ農地で進められます。一方、原料の由来、熱分解温度、製造時の燃料、農地への施用量を追えなければ、正味除去を説明できません。農家、装置運営者、認証、購入者のデータを一つにすることが拡張条件です。
住友商事とGraphyteは、商用技術へ販売網と資金を足す
住友商事は2026年6月、米Graphyteと合弁会社の設立に合意しました。Graphyteは農林業残渣を乾燥、圧縮、密封し、地下へ貯留するCarbon Castingを展開しています。
米国アーカンソー州のLoblollyは2年以上稼働し、年間5万トンの除去能力へ拡張中です。住友商事は北米での案件拡大と、日本企業を含む買い手の開拓を担います。CDR事業では、技術企業だけでなく、用地、許認可、販売、金融、長期納入を束ねる事業者が必要だと分かります。
海外のCDR企業5事例は、どこまで商用化したのか
海外では、DAC施設の運転、長期購入契約、透明な登録簿、需要集約が進んでいます。計画と実績を分けるため、設計容量、稼働状況、許認可、契約方法を確認します。
Climeworksは、DAC・再生可能エネルギー・鉱物化を一体化する
Climeworksは、アイスランドでDAC施設Mammothを稼働させました。最大年3万6,000トンの設計容量を持ち、空気から回収したCO2をCarbfixが玄武岩層へ送り、鉱物として固定します。
強みは、回収装置だけでなく、地熱由来のエネルギー、貯留、第三者検証までをつないでいる点です。ただし、設計容量は正味除去の納入量ではありません。設備の立ち上げ、エネルギー使用、稼働率を引いた実績を追う必要があります。
1PointFiveは、許認可と大口購入を先にそろえる
1PointFiveは、米テキサス州でSTRATOSを建設しています。全設備が稼働した場合、最大年50万トンを回収する設計です。2025年4月にはCO2を地中へ圧入するClass VI井戸の許可を得ました。
Microsoft、Amazon、ANA、Bainなどが初期購入者として示されています。大規模DACでは、吸着設備の性能だけでなく、EPC、電力、水、貯留井、監視計画、買い手を建設前から組みます。新規参入企業は、プラント本体ではなく、この周辺工程から入る余地があります。
Heirloomは、長期購入契約をプロジェクト金融へ変える
Heirloomは、石灰石が空気中のCO2を吸収する反応を速めるDACを開発しています。米国で年1,000トン規模の商用施設を運転し、Microsoftと最大31万5,000トンの長期購入契約を結びました。
同社は、この契約が将来施設のプロジェクト金融に必要な予測可能な収入を作ると説明しています。買い手が将来の除去を約束し、金融機関が設備資金を出せる構造です。一方、契約量と納入済み量を分け、施設ごとの運転実績を確認する必要があります。
Isometricは、CDRの証拠を公開する登録基盤を作る
Isometricは、CDRの手法別プロトコルと登録簿を運営しています。証書ごとに、計算、証拠、第三者検証、発行、移転、償却を公開します。開発企業は、設備を動かすだけでなく、必要なデータを継続的に提出します。
2026年には、自然由来、DAC、河川アルカリ化など複数の手法で証書発行を進めています。CDRの新規事業は、装置やプロジェクトだけではありません。データ収集、計算、監査支援、証拠管理にも独立した市場があります。
Frontierは、初期CDR企業の需要をまとめる
Frontierは、複数企業の購入需要をまとめ、CDR企業と複数年契約を結びます。2026年6月には、2030年までの購入コミットメントを総額18億ドルへ拡大しました。
オフテイク契約では、供給企業が技術、建設、検証などの節目を満たした後に購入代金を支払う設計です。初期技術へ売上の見通しを与えながら、買い手の未納リスクを抑えます。需要集約と技術審査を組み合わせる点が特徴です。

10事例から見える、価値が残る場所
第一は、地域資源を長期契約へ変える役割です。農林業残渣、土壌、焼却灰、低炭素電力、地質貯留は、地域ごとに散らばっています。原料と貯留先を確保し、住民や地権者と合意し、買い手へ届ける事業者が必要です。
第二は、正味除去量を作る運用です。回収装置の最大能力ではなく、原料、電力、輸送、停止、漏出を引いた量を安定して出します。技術開発より、保全、品質管理、異常対応が競争力になる段階があります。
第三は、証拠を作るデータ基盤です。原料の重量、炉の温度、電力の由来、農地の位置、輸送距離、圧入量、貯留状態を記録します。あとから作る報告書ではなく、現場の作業と同時にデータを残す設計が必要です。
第四は、契約量と実納入の差を引き受ける金融です。複数手法を組み合わせ、遅延時の代替調達、保険、支払条件を設計します。CDRの買い手は技術リスクをすべて負いたくありません。供給企業は完成前に資金が必要です。この間を埋める事業に余地があります。
第五は、買い手の利用目的へ合わせることです。自主的な気候目標、取引先からの要請、将来の制度対応では、必要な耐久性と証拠が違います。カーボンクレジットの記事で整理した通り、同じ1トンでも用途に耐える証拠がなければ価値は残りません。
自社はCDRのどこへ入れるか
近い資産を開き、自社で持つ責任と提携が必要な部分を確認します。
NEXT STEP
次のステップ
「何トン回収できるか」から、「何トンを正味で納められるか」の事業設計へ。
原料、工程排出、貯留、MRV、認証、買い手、未納責任を一つの構造にし、参入・提携・待機・見送りの条件を明確にします。
新規事業としてCDRへ参入する四つの方法
CDRへの参入方法は、自社が持つ資産から選びます。装置メーカー以外にも、農業、廃棄物、建設、IT、金融、商社に役割があります。
| 参入方法 | 最初の顧客 | 提供価値 | 自社で持つもの | 主な提携先 | 最初に確かめること |
|---|---|---|---|---|---|
| 地域資源型CDRの開発 | 農家、林業、廃棄物施設、自治体 | 未利用資源を除去価値へ変える | 原料網、地域合意、現場運営 | 認証、販売、研究機関 | 原料の追加性と10年以上の確保 |
| 装置・素材・EPC | CDR開発事業者 | 回収、熱分解、鉱物化、貯留を安定稼働させる | 装置、素材、保全、施工 | 電力、貯留、保険 | 正味除去原価と稼働率 |
| dMRV・認証データ | 開発事業者、登録簿、購入企業 | 現場データを監査可能な証拠にする | センサー、計算、データ統合 | 検証機関、研究者 | 1トン当たりの測定費と不確かさ |
| 調達・長期購入・金融 | 大口購入企業、CDR事業者 | 長期需要と建設資金を結ぶ | 顧客、審査、契約、資金 | 保険、銀行、認証 | 未納率と代替調達費 |
参入方法は技術の新しさではなく、自社が持つ資産と負える責任から選びます。不足する機能が一つなら提携し、正味除去と未納責任の両方を説明できなければ待機します。

地域資源型は、クレジットの販売だけを目的にすると続きません。農家の収益、廃棄物処理費、土壌や製品の性能など、本業の価値を先に置きます。炭素価値は収益を補う位置づけにします。
装置・EPC型は、最大回収量ではなく、正味除去原価、稼働率、保守時間、交換部品、エネルギー源を保証条件に入れます。CCUSの事業機会でも、装置の外に輸送、貯留、監視、保険があると解説しました。CDRでは、さらに大気由来炭素の証明が加わります。
dMRV型は、報告画面を作るだけでは差別化しにくいでしょう。センサーの校正、データ欠損の扱い、不確かさの控除、プロトコル更新、監査対応まで持つ必要があります。現場機器や業務ソフトへ深く入るほど、継続収益を作りやすくなります。
金融型は、将来の契約量を売上と見なさず、施設の節目ごとに支払います。技術、許認可、建設、運転、認証のどこで未納が起きるかを分けます。複数の手法と地域を持つことで、代替調達を用意します。
失敗しやすい九つの懸念
一つ目は、削減と除去の混同です。工場排ガスを回収しただけでCDRと呼ばないよう、炭素の出発点を確認します。
二つ目は、総回収量と正味除去量の混同です。電力、熱、原料、輸送、貯留の排出を引きます。
三つ目は、貯留の逆転です。森林火災、土地転用、バイオ炭の不適切な利用、地中貯留の漏出に備えます。
四つ目は、原料の奪い合いです。残渣がすでに燃料、飼料、堆肥へ使われている場合、CDRへ回すことで別の排出が増える可能性があります。
五つ目は、測定費が粗利を消すことです。小さな農地や分散設備では、現地調査と検証の固定費が高くなります。集約単位と自動計測を先に設計します。
六つ目は、認証前の数量を確定売上として扱うことです。検証後に除去量が減ることがあります。予想量、検証量、発行量、納入量を分けます。
七つ目は、長期契約の未納です。設備の完成遅延、原料不足、許可、故障をシナリオへ入れます。代替調達と返金条件を決めます。
八つ目は、地域合意の遅れです。地下貯留、採石、農法転換、海洋実証では、住民、地権者、漁業者、自治体との合意が必要です。技術検証と並行して進めます。
九つ目は、少数の大口買い手への依存です。長期契約は事業を支えますが、価格と仕様を特定企業に握られます。用途と顧客を分散します。
見送る条件も決めます。炭素の出発点を特定できない、正味除去を測れない、貯留先を追えない、原料を長期確保できない、未納責任を分けられない場合です。技術が魅力的でも、売れる除去を継続して作れなければ事業にはなりません。
CDR事業の品質は、五つの証拠で見分ける
第一は、大気由来の炭素である証拠です。DACなら空気から直接回収します。バイオマスなら、植物が大気から吸収した炭素であり、原料が再生されることを示します。
第二は、追加性です。CDRの収入がなくても同じ活動が起きていたなら、全量を追加の除去とは言いにくくなります。既存の廃棄方法と比較します。
第三は、ライフサイクル排出を引いた正味量です。電力、燃料、装置、輸送、貯留、監視を含めます。Microsoftの高品質CDR基準も、工程全体の気候効果を確認しています。
第四は、貯留期間と逆転時の対応です。何年保つかだけでなく、誰が監視し、炭素が戻ったときにどう補うかを確認します。
第五は、証書の一意性です。同じ除去を国、企業、商品が重ねて主張しないよう、登録、移転、償却を追います。購入時には、プロジェクト名だけでなく、証書番号と証拠へのリンクを受け取ります。
高価格なら高品質とは限りません。初期技術は高くても測定が未成熟なことがあります。安い自然由来でも、追加性と地域便益が明確な案件があります。価格ではなく、用途に必要な証拠と責任で選びます。
自社は参入・提携・待機・見送りのどれか
参入を選ぶのは、原料、装置、現場、データ、顧客、金融のどれかで強みを持ち、正味除去と未納責任を説明できる場合です。すべてを内製する必要はありませんが、自社が持つ責任は明確にします。
提携を選ぶのは、地域資源や顧客を持つ一方、認証、貯留、金融が不足する場合です。初期段階では、方法論と販売先を持つ相手を先に入れます。設備完成後に認証方法を探すと、必要なデータが残っていないことがあります。
待機を選ぶのは、手法の認証が整っていない、貯留許可が未確定、買い手の用途が定まらない場合です。待機中も、原料量、工程排出、顧客の支払意思を測り、将来の参入条件を作れます。
見送りを選ぶのは、除去の定義を満たさない、クレジット販売以外の顧客価値がない、長期の監視責任を負えない場合です。排出削減、資源循環、土壌改良として価値があっても、CDR事業として売らない判断があります。
イノベーション総研では、技術の魅力だけでなく、最初の支払者、現場運用、証拠、認証、契約、責任を一つの事業構造にします。参入、提携、待機、見送りを同じ表で比べると、自社が持つべき機能が見えます。
CDRについてよくある質問
CDRについて相談時に多い疑問を、事業判断に必要な範囲へ絞って答えます。
まとめ:売れる除去は、技術・貯留・証拠・納入で作る
CDRは、大気中のCO2を取り除き、長く貯留する活動です。排出削減や化石由来CCSとは役割が違います。DAC、バイオ炭、バイオマス貯留、鉱物固定、土壌炭素など、方法ごとに必要な資源と責任も異なります。
国内外10事例を見ると、商用化には装置だけでなく、原料、低炭素エネルギー、貯留、MRV、認証、長期購入、金融が必要です。特に、契約量と納入量を分け、正味除去を継続して証明できることが重要です。
新規事業では、地域資源型CDR、装置・EPC、dMRV、調達・金融の四つから、自社資産に近い入口を選びます。大気由来炭素、正味除去、貯留、買い手、未納責任を説明できるなら参入します。足りない機能が明確なら提携し、除去の境界と責任を示せない計画は見送ります。
参考資料
本文の定義、制度、企業事例は、次の公式資料を中心に確認しました。
- IPCC AR6 Synthesis Report Annex I
- IPCC AR6 WGIII CDR Factsheet
- 環境省「二酸化炭素除去(CDR)」
- EU Commission Delegated Regulation 2026/285
- 東京都「CDRクレジット創出促進事業」採択事業者
- 日本CDR協議会
- TOWINGと三菱UFJ銀行のJ-クレジット売買契約
- 住友商事とGraphyteのCDR合弁事業
- Climeworks Mammoth
- 1PointFive STRATOS
- HeirloomとMicrosoftの長期購入契約
- Isometric Registry
- Frontierの購入コミットメント
- Microsoft Carbon Removal Program
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CDRの事業機会を、自社の資産と責任から具体化する。
地域資源、装置、データ、顧客、資金の資産を整理し、誰が支払い、何を自社で持ち、誰と組むかを設計します。