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デジタルプロダクトパスポートとは?対象・時期と企業の実例

デジタルプロダクトパスポート(DPP)は、製品の情報をデジタルで共有する仕組みです。材料や製造元、修理・再利用に必要な情報を製品と結び付けます。

EUでは製品ごとに導入が進み、対象となる電池には2027年2月18日から求められます。ただし、すべての製品に同じ日から義務が生じるわけではありません。

日本企業にとっても、欧州へ製品を売る会社だけの話ではありません。部品や材料を供給する会社には、取引先からデータの提出を求められる可能性があります。

事業としては、情報を集め、根拠を確かめ、更新し続ける仕事に機会があります。

この記事では、電池、素材、衣料品の具体例を通して、制度の対象と時期、企業が提供するサービスを整理します。自社で対応する場合と、対応を支える事業に参入する場合を分け、必要な準備と懸念を解説します。

この記事の結論

製品ごとの要件を確かめ、情報を集めて使い続ける業務を設計します。

  • 電池の対応期限と、衣料品などの制度整備の予定を区別
  • 6つの共同事例で、提供中の機能・実証・開発を比較
  • データ整備、接続、根拠点検、修理・再販売の4つの参入方法

目次

デジタルプロダクトパスポートとは、製品の情報を次の使い手へ渡す仕組み

たとえば、中古の電気自動車を買う場面を考えてください。外装がきれいでも、電池の状態は外から見えません。

修理する側は部品の情報を、再資源化する側は材料や解体に必要な情報を知りたいはずです。

こうした情報を製品の識別番号と結び付け、必要な人が確認できるようにするのがデジタルプロダクトパスポートです。英語のDigital Product Passportを略してDPPと呼びます。

「製品の履歴書」と考えると入口はつかみやすいでしょう。

ただし、記録する項目や更新の範囲は製品ごとに異なります。あらゆる製品の全履歴を、誰でも見られる仕組みという意味ではありません。欧州委員会のDPP概要

QRコードは情報への入口。記録を作る仕事は別にある

製品のQRコードを読み取ると、材料や使い方がわかるページへ進む。利用者から見れば、こうした形になります。

しかし、QRコードを印刷するだけでは、信頼できる情報はそろいません。

メーカーは、自社の設計情報に加え、仕入先の材料データなどを集めます。集めた数値がどの製品・どの工場・どの期間を示すかを確かめ、必要な項目へ対応させます。

さらに、誤りの訂正や状態の変化を誰が反映するかも決めます。

システムを選ぶ際は、「パスポートの画面を作れるか」だけで判断しません。「元の記録へ戻れるか」「変更した理由が残るか」も確認します。

画面と、その画面を支える業務は、分けて確認しましょう。

消費者、取引先、行政が、同じ情報を見るとは限らない

消費者が知りたい製品の基本情報と、修理業者が必要とする技術情報は違います。行政が確認する情報には、一般公開に向かないものもあります。

そのため、DPPでは立場に応じたアクセス権の管理が重要です。公開する情報、特定の相手へ渡す情報、社内に残す原資料を区別します。

機密性の高い配合や取引条件まで、無条件に開示する話ではありません。欧州委員会の電池パスポート解説

データを提出する仕入先から見れば、「誰に、何の目的で、どの範囲まで見せるか」が決まっていなければ、協力しにくくなります。情報収集の前に、利用条件を説明できることが大切です。

DPPはいつから必要?電池の期限と、他製品の制度整備を分ける

DPPの時期を調べると、2026年、2027年、2030年など、さまざまな年が出てきます。これは、対象製品や出来事が違うためです。

制度を決める時期と、企業が対応を求められる時期を混ぜないようにします。

電池には独立した電池規則があります。一方、衣料品などの基になるのは、持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)です。

この枠組みの下で、品目ごとの具体的な要件が整えられます。

対象の電池は2027年2月18日から

対象となる電池のパスポートは、2027年2月18日から必要になります。EU市場へ投入される、または使用開始される電池についての要件です。

対象は、電気自動車用電池、軽輸送手段用電池、容量が2kWhを超える産業用電池です。軽輸送手段には、電動自転車などが含まれます。

2026年8月公表の準備用ガイダンスは、71のデータ項目を整理しています。ただし、71項目がすべて同じ時点で必須という意味ではありません。

必須、任意、条件付き、2027年2月には不要な項目が区別されています。欧州委員会の準備用ガイダンスの案内

実務では、対象電池の分類と、自社が担う立場を先に確かめます。部品メーカーと、完成した電池を市場へ投入する事業者では、同じ責任を負うわけではありません。

衣料品や家具は「要件を採択する予定年」に注意する

欧州委員会の作業計画では、鉄鋼は2026年、繊維・衣料品やタイヤ、アルミニウムは2027年です。家具は2028年などが示されています。

ここで示す年は、品目ごとの詳細な要件を定める規則の採択予定です。

採択予定年は、そのまま企業の対応期限ではありません。具体的な対象、必要な情報、移行期間を、品目別の規則で確認する必要があります。

「2027年に全衣料品で一斉に義務化」といった説明は避けましょう。欧州委員会の品目別導入計画

DPPの対象製品と、義務開始・要件採択・基盤稼働の区別
区分 公表されている時期・状態 企業が取り違えたくない点
対象となる電池 2027年2月18日からパスポートが必要 電池の種類と容量、市場投入・使用開始の条件を確認する
鉄鋼 詳細要件の採択は2026年の計画 採択と適用開始は別。成立した規則を確認する
繊維・衣料品、タイヤ、アルミニウム 詳細要件の採択は2027年の計画 すべての製品の対応期限と読み替えない
家具 詳細要件の採択は2028年の計画 自社製品が最終的な対象範囲に入るか確認する
EUのDPP登録基盤 2026年7月20日に稼働開始 基盤の稼働は、全製品への義務の開始ではない

この表は、導入の順番をつかむための整理です。契約や出荷の判断では、該当する規則の本文と製品別の要件を、法務・規制対応の担当者と確認してください。

「要件が決まる年」と「対応する期限」は別

対象製品と出来事を分けると、準備の順番が見えてくる

電池|義務の開始

2027年2月18日

電気自動車・軽輸送用産業用は容量2kWh超

衣料品など|採択の予定

繊維・衣料品は2027年

必要な情報を決める予定年。企業の対応期限とは違う

共通基盤|稼働の開始

2026年7月20日

EUの登録基盤が稼働。全製品の義務開始ではない

製品区分と取引先を特定する要件と期限を製品ごとに確認

出典:欧州委員会のDPP概要・電池パスポート・登録基盤資料。図は主要な区分の整理。電池の市場投入等の条件は本文参照。

図1:欧州委員会のDPP関連資料を基に、イノベーション総研作成。詳細要件の採択予定と、企業への適用開始は異なります。

EUの登録基盤ができても、製品データを全部預けるわけではない

2026年7月20日、欧州委員会はDPP登録基盤の稼働を発表しました。製品の識別情報などを登録する共通の仕組みで、準備を進めるためのテスト環境もあります。

一方、詳しい製品データは、責任を持つ事業者側で保持・提供する分散型の構成です。「EUがすべてのデータを保管し、更新もしてくれる」という理解は適切ではありません。欧州委員会の登録基盤の稼働発表

メーカーは、情報を継続して提供できる体制を自社や委託先と用意します。ここに、接続だけでなく、更新、障害対応、契約終了時の引き継ぎといった運用の仕事が残ります。

企業はデジタルプロダクトパスポートをどう使う?6つの実例

DPPに関わる会社は、すべて同じサービスを売っているわけではありません。製品へ導入するメーカー、データを収集する会社、パスポートを発行・管理する会社、内容を検証する機関があります。

以下は、共同の取り組みを一つの事例として整理したものです。「サービスの提供」「実データによる検証」「将来の開発」を区別して見てください。

企業の6つの取り組みと確認できる段階
取り組み 対象・顧客 確認できる内容と段階
Volvo Cars・Circulor 電気自動車EX90とその利用者 車両向け電池パスポートを展開。全車種への提供とは区別
デンソー・AESC・テュフ ラインランド ジャパン 電池メーカー、自動車メーカー 定置用電池の実データで共同検証。デンソーは生成・管理サービスの提供を開始
帝人・Circularise 高機能繊維と再生材料の取引先 使用済み製品から再生材料までを追跡する実証
ゼロボード 自動車・電池メーカーと仕入先 製品の温室効果ガス排出量の算定・連携を提供。パスポート機能は開発段階
T-Systems・Cofinity-X 自動車産業のデータ交換へ参加する企業 企業間の接続、データ準備、実業務での交換を支援
Chloé・Vestiaire Collective 対象商品の購入者・再販売者 製品のデジタルIDから中古販売へつなぐ機能。EU規則への全面適合の証明とは別

比較の軸は、社名の知名度ではなく、受け持つ仕事と確認された段階です。以下では、利用者の場面から各取り組みを読み解きます。

Volvo CarsとCirculor:車を買う人が、電池の情報へアクセスする

Volvo Carsは、電気自動車EX90に電池パスポートを展開しています。同社の案内では、電池の健全性に関する情報を示しています。

材料の追跡、製造に伴う排出量、再生材料の透明性を高める取り組みでもあります。提供は車種や市場によって確認が必要です。Volvo Carsの電池に関する案内

この取り組みを支えるCirculorは、サプライチェーンのデータを追跡し、電池パスポートを発行するサービスを提供しています。公開する項目の設定や、利用者の役割に応じた閲覧権限の管理も含まれます。Circulorの電池パスポート

この例からは、パスポートが企業内の規制資料にとどまらず、製品を使う人への情報提供にもなることがわかります。一方、パスポートの存在だけで中古価格の上昇や販売増加を断定することはできません。

事業として評価するなら、購入、修理、再販売のどの判断を助けるかを具体化する必要があります。

デンソー、AESC、テュフ:作る会社と確かめる会社が分担する

デンソーは2026年8月、電池パスポートの生成・管理サービスの提供を開始しました。自動車メーカーや電池メーカーに向けて、社内システムや仕入先から情報を集め、電池ごとのパスポートへまとめます。

利用者別の閲覧制御も機能に含まれます。デンソーのサービス開始発表

その前段として同年6月には、AESCの定置型蓄電システムの実データを使った共同検証を公表しています。デンソーが技術基盤を提供し、AESCが電池データを準備しました。

テュフ ラインランド ジャパンは第三者として、規則への適合性や実務上の使いやすさを検証しました。3社の共同検証

ここで確認されたのは、特定の実データを用いた検証です。すべての電池製品について認可を取得した、と読み替えてはいけません。

新規参入の観点では、発行システムを作ることだけが仕事ではありません。顧客のデータを提出できる形へ整える役割、内容を点検する役割もあります。

ただし、支援会社が制度上の責任者に代わって、無条件に適合を保証する契約には注意が必要です。

帝人とCircularise:再生材料の「元は何か」をたどる

帝人とCirculariseは、高機能繊維の循環利用を追跡する実証を進めています。対象の一つは、重量物をつり上げるベルト状の器具に使われるアラミド繊維です。

帝人の繊維から製品が作られ、使用後に回収され、再び材料へ戻る。その過程の情報を結び付け、再生材料の由来を確認できるようにしました。

Circulariseは、繊維、つり具、再生パルプについて公開パスポートを作成したと説明しています。Circulariseが公表する帝人の事例

炭素繊維でも、製造時に出た残材を短い繊維の材料へ戻す実証が紹介されています。これらは実証の成果であり、帝人の全製品へ導入済みという話ではありません。2025年4月の共同取り組みの発表

この例が示すのは、製品が別の材料に姿を変えても、情報のつながりを残す必要があることです。回収会社や再資源化会社には、引き取った物の識別、混合・加工の記録、次の買い手へ渡す証拠を整える仕事が考えられます。

単に「再生材を使用」と表示することより、実際の物流と記録を一致させる点が難所です。

ゼロボード:まず排出量を集め、取引先へ渡す仕事を担う

ゼロボードは「Zeroboard for batteries」を提供しています。電池の製造などに伴う温室効果ガス排出量を計算し、企業間で連携するためのサービスです。

製品単位の排出量は、カーボンフットプリント(CFP)と呼ばれます。

仕入先へデータを依頼する、自社製品の数値を計算する、顧客へ回答する、といった業務をつなぐサービスです。企業間でデータを共有する国内の取り組み「ウラノス・エコシステム」との連携も案内しています。Zeroboard for batteriesの機能

注意したいのは、同じ製品紹介ページでも機能ごとに提供段階が違うことです。電池パスポートや一部の関連機能は開発段階として記載されています。

排出量の算定・連携ができることと、必要なパスポート機能がすべて提供済みであることは分けて判断します。

この事例から考えられる参入方法は、DPP全体を一度に作らず、顧客がすでに必要としているデータ業務を担うことです。見積もりでも、算定、データ収集、第三者確認、パスポート発行を一括りにせず、提供範囲を明らかにする必要があります。

T-SystemsとCofinity-X:接続した後、取引先と使える状態まで支える

自動車産業には、企業間のデータ交換の共通ルールを整える「Catena-X(カテナX)」があります。Cofinity-Xは、その仕組みに参加するためのサービスや市場を提供する企業です。

Catena-Xそのものと、個別のサービス会社は区別して考えます。

T-Systemsは、参加企業を「Dataspace Accelerator Program」で支援しています。接続、データ準備、実際のデータ交換が対象です。

単にアカウントを作るだけではなく、企業識別番号や接続環境を整え、交換相手と具体的な用途を決めるところまで扱います。T-Systemsの参加・接続支援

これは、システムがつながっていても、使えるデータと取引相手がなければ業務が動かないことを示しています。なお、特定のデータ交換基盤へ参加することが、あらゆる製品のEU規制で一律に義務付けられるわけではありません。

日本企業が周辺事業を考えるなら、顧客の既存システムと交換先の仕様をつなぐ仕事が候補です。接続後の項目変更やエラー対応まで受け持てるかが、継続利用につながる条件になります。

ChloéとVestiaire Collective:情報を、再販売の手続きへつなぐ

衣料品・ファッション分野では、製品情報を使って再販売をしやすくする取り組みもあります。Chloéは、対象商品のデジタルIDから、リセールサービスのVestiaire Collectiveへつなぐ仕組みを案内しています。

対象商品の識別情報を生かして、出品時の情報入力などを進められる形です。購入者にとっては、製品情報を見るだけでなく、手放す際の手続きへ進めることが価値になります。Chloéのリセールの案内

ただし、ブランド独自のデジタルIDや再販売機能が、そのままESPRの全要件を満たすと断定することはできません。利用者向けの機能と、制度上の適合は別に確認します。

この例からは、DPP周辺の事業を「情報の保管」だけで考えない視点が得られます。修理受付、買い取り査定、再販売など、情報を使って次の取引が進む場所にも機会があります。

詳しくは、リコマースの事業構造も参考になります。

業界構造は「集める・つなぐ・確かめる・使う」で読む

前章の会社を、単純な競合一覧として並べると、誰が何を売るのかがわかりにくくなります。DPPは複数の仕事の組み合わせなので、自社がどの仕事を担うかで、競合も提携先も変わります。

最初は、材料や製品の元データを集める仕事です。部品表、製造記録、排出量の算定結果などが、製品番号で結び付く状態を作ります。

次に、それらをパスポートや取引先のシステムへ渡せる形に変えます。

さらに、数値の根拠や入力漏れを確かめる仕事があります。その情報を修理、回収、再販売に使う仕事も必要です。

デンソーの発行・管理、ゼロボードの算定・連携、第三者による確認、Chloéの再販売は、それぞれ重心が違います。

メーカーが買うのは、画面だけではなく「回答できる状態」

たとえば、欧州の顧客から電池の情報提出を求められたメーカーを想定します。これは説明用の架空例です。

担当者が困るのは、情報欄のある画面がないことだけではありません。材料の担当部署がわからない、仕入先の回答がそろわない、数値の対象期間が違う、といった問題が残るかもしれません。

そこで価値になるのは、依頼項目と社内の記録を対応させ、不足分の担当を決め、根拠付きで回答できる状態にすることです。顧客が費用を払う仕事を、この単位まで具体化します。

パスポートの裏側には、情報を維持する仕事がある

電池メーカーが情報をまとめる場面で考える業務の流れ

① 集める|仕入先・社内

材料・製造記録・排出量
確認:製品番号と根拠の所在

② そろえる|メーカー

単位・対象期間・項目を統一
確認:不足データと回答担当

③ 渡す|発行・管理基盤

製品ごとに記録を結び付ける
確認:閲覧者別の公開範囲

④ 更新する|運用担当

変更・訂正を履歴に残す
確認:更新責任と引き継ぎ

点検は各段階で行う不明な値は推測で埋めない

出典:欧州委員会・デンソー・ゼロボードの資料を基に業務を整理。取引関係や、全電池共通の必須項目を示す図ではない。

図2:欧州委員会、デンソー、ゼロボードの公開資料を踏まえた業務の整理として、イノベーション総研作成。各社間の契約関係や、すべての電池に共通する必須項目を示す図ではありません。

市場規模は、含める仕事によって大きく変わる

DPPの市場予測を見る際は、ソフトの利用料だけか、タグ、接続開発、排出量の算定、導入支援まで含むかを確認してください。範囲の違う数字を並べても、比較にはなりません。

本記事では、定義のそろわない世界市場予測を一つの成長曲線にまとめません。新規事業の検討では、まず自社が受け持つ仕事から売上を考える方が有用です。

たとえば運用支援なら、「契約する顧客数×1社当たりの利用料」が出発点になります。ただし、取引先への問い合わせ、データ修正、接続先の変更対応が増えると、費用も増えます。

規制対象の製品数が多いことと、自社の利益が大きいことは同じではありません。

NEXT STEP

次のステップ

自社は、製品情報のどの仕事を担えるか

顧客が提出や情報更新で困っていることと、自社の業務知識・接続技術を整理します。必要なデータと提携先を明確にし、引き受ける仕事の範囲を考えます。

デジタルプロダクトパスポートで考えられる4つの参入方法

ここからは、公開事例を踏まえたイノベーション総研の分析です。特定企業が以下の事業をすでに実施し、利益を出していると主張するものではありません。

参入の入口は、自社が持つ顧客接点、業務知識、データ、設備で選べます。全領域を扱う発行プラットフォームを一から作ることだけが選択肢ではありません。

DPP周辺の4つの参入方法(イノベーション総研の分析)
参入方法 費用を払う顧客・渡す成果物 必要な資産と提携先 懸念・見送り条件
業種を絞ったデータ整備 電池・素材メーカーへ、項目対応表、根拠付きデータ、不足一覧を渡す 製造業務の知識、既存顧客、規制・算定の専門家 元データへアクセスできない、責任部署が決まらない
既存システムとの接続・運用 メーカーの情報システム部門へ、接続、更新、エラー対応を提供 基幹システムの接続技術、発行サービス会社、セキュリティの知識 個別開発が多すぎる、更新費用を顧客が負担しない
根拠確認と提出準備の支援 品質・環境部門へ、点検記録、証拠の所在、修正履歴を渡す 対象分野の試験・算定知識、独立した検証機関 確認できない内容の保証を求められる
修理・回収・再販売への活用 メーカーや流通会社へ、識別と受付・査定・再販売をつなぐ 回収拠点、修理網、買い手、商品識別の仕組み 情報が実物と結び付かない、取引が発生しない

まず、自社の既存顧客と資産が重なる仕事を選びます。足りない専門性を提携で補えるか、継続して発生する作業の費用を回収できるかまで考えると、実行可能な案へ絞れます。

1.業種を絞り、仕入先からのデータ収集を支える

たとえば、電池材料に詳しい商社や支援会社が、顧客の仕入先へ必要なデータを依頼し、提出形式を整える入り方です。顧客が受け取るものは、空欄を埋めた表だけではありません。

どの数値に根拠があり、どこが未回答で、誰に確認すればよいかがわかる記録です。

強みになるのは、特定業界の製品や工程を理解していることです。同じ材料名でも、製造拠点や加工条件で扱いが変わる場合があります。

用語の意味を理解せず、表の項目だけ合わせるサービスでは、重要な違いを落としかねません。

収益は、初期の整理費用と継続的な更新支援料に分けて考えられます。ただし、仕入先への督促や確認がすべて手作業なら、顧客数に比例して人手が必要です。

共通化できる項目と、専門家が判断する項目を分けることが採算上の論点です。

2.既存システムとパスポートをつなぎ、更新を引き受ける

情報システム会社なら、メーカーが使っている販売・生産管理システムと、DPPの発行サービスをつなぐ方法があります。新しい入力画面を増やすより、既存の記録から必要な情報を取り出せる方が、二重入力を減らせます。

ただし、最初に接続できれば終わりではありません。製品番号が変わる、項目の定義が変わる、送信先の仕様が変わる、といった変更が起こります。

失敗した送信を見つけ、原因を説明し、再送できる運用が必要です。

ここでは、初期の接続開発と月額の監視・保守を分けて契約することが考えられます。汎用の発行機能は既存サービスと組み、自社は特定業界の接続や運用に絞る選択肢もあります。

顧客ごとの例外が多い場合は、受注価格に保守費用が織り込まれているかを確認します。

3.データの根拠を点検し、検証機関へ渡せる状態にする

試験会社や環境データに詳しい企業は、入力内容と原資料の対応を点検する仕事を考えられます。どの測定結果を使ったか、計算範囲は何か、古い数値が混じっていないかを確認する支援です。

ここで、提出準備の支援と、独立した第三者による検証は区別します。自社が作った記録を自社で点検することと、外部機関が独立に確かめることは、同じではありません。

必要な資格、独立性、確認範囲は、契約先や制度に応じて整理します。

顧客に渡す成果物は、曖昧な「適合済み」の印だけでなく、確認した項目、見た根拠、残った不足です。根拠が出ない数値まで保証するよう求められるなら、引き受ける範囲を変えるか、受注を見送る必要があります。

4.修理や再販売で使われる情報を、実際の取引へつなぐ

回収・修理・中古流通の事業者には、製品情報を次の取引に使う入り方があります。製品を識別し、修理受付や査定の画面へ進める、といったサービスです。

大切なのは、記録と実物が一致することです。タグが破損した製品、部品が交換された製品、複数の製品が混ざった材料では、識別が難しくなります。

現場で確認する方法や、判断できない場合の扱いまで設計します。

収益は、メーカー向けのシステム・運用料、修理や買い取りの手数料などが候補です。ただし、どの料金を得られるかは契約によります。

情報を集めても回収量や取引が増えなければ、費用を回収できない場合があります。都市鉱山の回収・再資源化のように、物を集めて売る現場の条件も合わせて見る必要があります。

持っている資産から、提供する仕事を選ぶ

発行システムを一から作る以外の入り方も考えられる

製造業の知識・顧客接点

→ データの収集・整備

足りないと難しい:原資料

既存システムの接続技術

→ 接続・更新の運用

足りないと難しい:保守体制

算定・試験の専門知識

→ 根拠の点検・提出準備

足りないと難しい:検証相手

回収網・修理網・買い手

→ 修理・再販売への接続

足りないと難しい:実物の識別

顧客・支払者・責任を決める決まらなければ、開発を待つ

本文の公開事例を踏まえたIRIの分析。各社の提供サービス一覧ではない。

図3:本文の企業事例を踏まえた参入方法の整理として、イノベーション総研作成。記載した収益や受注を保証するものではありません。

導入・参入でつまずくのは、データの不足と責任の曖昧さ

DPPを導入する企業にも、サービスを提供する企業にも共通する懸念があります。それは、情報を表示する機能と、表示する内容を維持する責任が切り離されることです。

ここでは、事業の検討時に確認したい点を整理します。すべてを自社で解く必要はありませんが、誰が解くかが決まっている必要はあります。

元データがない場合、推測で埋めない

仕入先から必要なデータが返ってこない場合、まず理由を分けます。そもそも測っていないのか、形式が違うのか、機密情報なので渡せないのかで、対処が変わります。

未測定なら測定や算定、形式の違いなら変換、機密性の問題なら開示範囲の調整が必要です。すべてを「データ収集の自動化」で解けるわけではありません。

推計を使える場面でも、許される条件と根拠を明示します。

AIで資料から候補の値を抽出することは考えられます。しかし、記載のない値を生成して埋めることは、証拠を作ることにはなりません。

業務へAIを組み込む際の責任分担は、AIエージェントの事業化でも扱っています。

接続できても、相手と意味がそろっているとは限らない

同じ「重量」という項目でも、製品だけか、包装を含むかで値は変わります。排出量なら、どの工程まで計算したか、どの期間のデータかをそろえる必要があります。

形式の変換と、意味の一致は別の仕事です。システム間で数字を送れたことだけを成功条件にせず、受け取る側が目的どおり解釈できるかを確かめます。

発行サービスを比較するときも、対応している規格名だけで判断しません。対象製品の具体的なデータを一件使い、識別、項目、権限、更新の流れを確認する方が、違いを理解しやすくなります。

更新する人と、契約が終わった後の扱いを決める

製品を出荷した後も、修理や再利用に必要な情報が使われる場合があります。そこで、どの情報をいつまで保持し、変更時に誰が更新するかを決めておきます。

サービス会社を変える場合や、事業を終了する場合も考えます。識別情報、記録、添付した証拠を取り出せるか。

移行中に参照できなくならないか。公開範囲が変わらないか。

導入時の機能表では見落としやすい点です。

自社がサービスを売る側なら、この継続費用を見積もりへ含めます。安い発行単価だけで受注し、長期の維持費を負担し続ける契約は避けたいところです。

参入前に、顧客の一件を最後までたどる

検討の入口では、顧客の実際の製品を一件選ぶと、話を具体化できます。次の項目を、担当者名や記録の所在とともに整理してください。

  • 対象製品と取引先:何を、どの市場の、誰へ売るのか
  • 求められる情報:法律上の要件と、顧客独自の依頼を分けられるか
  • 元の記録:どの部署・仕入先が持ち、利用の合意を得られるか
  • 不足を埋める相手:算定、測定、法務、接続、独立検証のどれが必要か
  • 費用と責任:誰が支払い、変更や誤りに誰が対応するか

顧客の提出業務が明確で、必要なデータも利用できるなら、範囲を絞った支援を検討できます。データや専門性が足りなければ、基盤会社や検証機関との提携を先に考えます。

一方、対象製品も費用負担者も決まらず、無条件の適合保証だけを求められるなら、開発を急がない判断が必要です。事業構想の段階から整理する場合は、新規事業企画書の構成を使い、顧客の課題と提供範囲を一枚にまとめると検討しやすくなります。

デジタルプロダクトパスポートのよくある質問

制度を調べ始めた段階で、特に混同しやすい点をまとめます。欧州委員会のDPP FAQと、ESPR FAQの技術面の説明(問51)も参照できます。

Q. 日本国内だけで販売する製品にも、すぐ義務がありますか?

A. EUのDPP要件は、対象製品をEU市場へ投入する場合などに関わります。日本国内だけで販売するすべての製品へ、一律に同じ義務が生じるわけではありません。ただし、EU向け製品の材料や部品を供給していれば、取引先から情報を求められることがあります。直接の法的義務と、取引上の依頼を分けて確認します。

Q. 電池パスポートとDPPは同じですか?

A. DPPは製品情報を共有する仕組みの総称で、電池パスポートは電池規則に基づく具体的な仕組みです。対象となる電池と時期が決まっています。電池で必要な項目を、そのまま衣料品や家具へ当てはめることはできません。

Q. ブロックチェーンは必須ですか?

A. DPPを作る技術は、ブロックチェーンに限られません。重要なのは、該当する製品の要件に沿って、識別、アクセス権、データの信頼性、継続した参照などを実現することです。採用技術の名前だけで適合を判断せず、対象製品の要件とサービスの機能を照合してください。

Q. 中小企業は、専用システムを自社開発すべきですか?

A. 必ずしも自社開発は必要ありません。既存サービスの利用や、取引先が使う基盤への接続も選択肢です。まず求められる情報と手元の記録の差を確認し、データ整備、接続、運用のどこを外部へ任せるかを決めます。利用料だけでなく、社内の作業や更新の費用も含めて比較しましょう。

まとめ:製品情報を使える状態にする仕事を考えよう

デジタルプロダクトパスポートは、製品に関する情報を、次の使い手へ渡す仕組みです。対象電池の期限は2027年2月18日ですが、他の製品は詳細要件の採択予定と適用開始を分けて確認する必要があります。

企業の事例を見ると、発行・管理、排出量の算定、データの接続、独立した検証、修理・再販売まで、異なる仕事があります。画面を作るだけでなく、根拠のある情報を集め、利用者に合わせて渡し、変化を反映する体制が重要です。

新規事業として考えるなら、顧客が提出や取引で困っている一つの製品から始めましょう。自社の業務知識、顧客接点、接続技術、回収網を、その仕事に結び付けることで、具体的な参入方法を検討できます。

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対象の業界、最初の顧客、渡す成果物、継続して必要になる仕事を整理しませんか。自社で担う範囲と提携が必要な範囲を分け、参入の可否を検討します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

欧州委員会、Volvo Cars、Circulor、デンソー、Circularise、ゼロボード、T-Systems、Chloéの公式資料。出典は本文の該当箇所に記載。参入案はイノベーション総研の分析。

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