新規事業の立ち上げ・事業化を支援するプロフェッショナルファーム

マテリアルズインフォマティクスとは?7事例でわかる材料開発と事業機会

熱に強い接着剤、充電しやすい電池、軽くて丈夫な部品。こうした製品を作るには、材料の組み合わせや作り方を何度も試す必要があります。

その候補選びを、AIやデータで助けるのが「マテリアルズインフォマティクス」です。

ただし、AIが良い材料を提案しても、すぐ売れるわけではありません。実物を作れるか、安定した品質で量産できるか、顧客の設備で使えるかは、別に確かめる必要があります。

事業機会は、AIの予測を、顧客が使える材料へつなぐ仕事にもあります。

この記事では、国内外の企業・研究機関による7つの取り組みを紹介します。仕組み、市場の見方、参入方法まで、材料開発を専門としない方にもわかる言葉で整理します。

この記事の結論

AIの提案を実験で確かめ、材料を使う顧客へつなぎます。

  • 7つの事例を、製品・取り組み・確認できた段階で比較
  • 予測、試作、量産、顧客採用を分けて理解
  • 配合支援、データ整備、試作・計測、材料販売の4つの入り方

目次

マテリアルズインフォマティクスとは?接着剤の開発で考える

マテリアルズインフォマティクスは、材料の研究開発にデータ分析やAIを使う手法です。英語のMaterials Informaticsを略して「MI」とも呼びます。

ここでいう材料には、金属やセラミックスだけでなく、樹脂、塗料、電池の材料なども含まれます。

AIだけで材料を完成させるのではありません。過去の実験や計算から得た情報を使い、「次に、どの候補を試すとよいか」を考えます。

配合を少し変えるだけでも、試す候補は増える

たとえば、熱に強い接着剤を開発する場面を考えます。以下は仕組みを説明するための架空例です。

樹脂の種類、添加剤の量、混ぜる温度を変えると、接着力や固まり方が変わります。熱には強くなっても、粘りが増えて工場で塗りにくくなるかもしれません。

性能が良くても、原料が高すぎれば採用されにくくなります。

そこで、過去の配合と測定結果をまとめます。「この配合では接着力が高い」「この温度では固まりすぎた」といった記録です。

AIがその関係を学ぶと、まだ試していない配合の結果を予測できます。

研究者は予測を参考に候補を選び、実際に作って測ります。予測と違った結果も残し、次の候補選びに使います。

経験を置き換えるというより、経験だけでは比較しにくい組み合わせを調べる助けになります。統計数理研究所の研究概要

AIの提案を実験で確かめ、次の配合へ戻す

例:熱に強く、工場で塗りやすい接着剤を作る

① 条件と結果を記録

樹脂・添加剤・温度接着力・粘り・原料費

② 次の候補を絞る

性能の予測だけでなく使えない原料も除く

③ 試作して測る

同じ測定条件で比較失敗した結果も残す

測定結果を次の予測へ戻す

架空の配合開発例。AIが材料の完成や量産を保証する図ではない。

図1:配合開発におけるAIと実験の往復。仕組みを説明する架空例として、イノベーション総研作成。

「結果を予測する」と「欲しい性能から候補を探す」は違う

マテリアルズインフォマティクスには、大きく二つの使い方があります。

一つは、配合や構造を入力して、材料の性質を予測する方法です。「この接着剤は、どの程度の熱に耐えそうか」と調べます。

これを順方向の予測、または順解析と呼びます。

もう一つは、欲しい性質から候補を探す方法です。「この耐熱性と塗りやすさを満たすには、どの配合がよいか」と考えます。

こちらは逆設計、逆解析と呼ばれます。

ただし、逆設計で出た候補が、そのまま製造できるとは限りません。使えない原料や、設備では実現できない条件を除く必要があります。

予測するAIに加えて、製造や用途を知る人が必要な理由です。

国内外の7事例から見る、マテリアルズインフォマティクスの使われ方

MIに関わる企業は、同じものを売っているわけではありません。材料メーカーが自社の開発に使う場合もあれば、分析ソフトや導入支援を他社へ提供する場合もあります。

共通のデータ基盤を用意する研究機関もあります。

まず全体を一覧にし、その後に取り組みの違いを説明します。共同の取り組みは、一つの事例として数えています。

材料開発を支える7つの企業・研究機関の取り組み
取り組み 主に扱うもの 公開情報で確認できる内容
MI-6・東京応化工業 半導体向け材料の配合開発 miHubと伴走支援を使った実務での活用
Matlantis・Atomis ガスを取り込む多孔性材料 計算による候補選別と実験の組み合わせ
日立ハイテク 配合データ、文献、顕微鏡画像 分析環境と分析支援の提供
Citrine・Panasonic 有機半導体の分子候補 計算による有望な分子の探索
旭化成 社内の材料開発・実験工程 研究者向け基盤とスマートラボの展開
Microsoft Research 無機材料の結晶構造 MatterGenによる生成と一部材料の合成検証
物質・材料研究機構(NIMS) 高分子・無機・金属などの材料データ MatNaviによるデータの検索・閲覧環境

比較するときは、対象の材料に加え、何が確かめられたかを見てください。分析サービスの提供、計算上の性能、実物の合成は、異なる段階の成果です。

以下では、その違いも含めて各事例を説明します。

MI-6と東京応化工業:ソフトの導入だけで終わらせない

東京応化工業は、半導体の微細な回路を作る際に使うフォトレジストなどを手がける材料メーカーです。フォトレジストとは、光に反応する性質を使って回路の模様を転写する材料です。

MI-6が公開した2026年1月の事例では、東京応化工業はmiHubと伴走支援を活用しています。特徴は、ソフトを渡すだけでなく、研究者とデータの整え方や分析方法を検討している点です。

若手とベテランの組み合わせによって、経験に基づく知識も開発へ取り込んでいます。

事例では、従来なら思いつかなかった組成の試作品を顧客へ紹介したことも語られています。ただし、顧客への紹介は、量産採用や売上が確定したこととは違います。MI-6・東京応化工業の導入事例

ここから考えられる事業上の示唆は、分析機能だけでなく、現場が使い続けられるようにする支援にも対価が生まれうることです。使う人が実験記録を整えられず、提案の意味も理解できなければ、高性能なソフトでも開発は進みません。

MatlantisとAtomis:性能だけでなく、材料のコストも考える

Atomisは、微細な穴を持つ材料の開発・事業化を進める企業です。代表的なものがMOF(金属有機構造体)で、金属と有機物を組み合わせた構造の穴に、特定のガスなどを取り込めます。

同社は原子レベルのシミュレーションサービス「Matlantis」を、実験前の候補選別などに使っています。公開事例では、独自のデータベースに性能だけでなくコストの情報も持ち、顧客の条件に合う候補を探しています。

計算結果を実験で確かめ、合わなければ検討に戻る進め方です。Matlantis・Atomisの事例

この事例で注目したいのは、「新しい構造を作れること」と「事業に使えること」を分けている点です。極めて高性能でも、特殊な原料が必要で高価なら、広く使う用途には向きません。

材料の設計自由度が上がるほど、候補を増やす技術と同時に、採算や製造条件から候補を減らす判断も重要になります。用途を知るメーカーや商社は、その判断に関わる入り方を考えられます。

日立ハイテク:配合表以外の情報も、開発に使える形へ変える

日立ハイテクは、MIの分析環境と分析支援を提供しています。公開事例では、配合から材料の性質を予測する方法に加え、欲しい性質から配合候補を探す方法を紹介しています。

さらに、特許や論文から必要な情報を取り出す支援、電子顕微鏡の画像を分類する支援もあります。MIの入力は、数値の並んだ表だけではないということです。日立ハイテクの活用事例

たとえば、同じ「粒子の状態」を調べる仕事でも、測定値が表に残っている場合と、画像しか残っていない場合では、最初の作業が違います。後者は、画像をどう分類し、何を材料の良し悪しとするかを決める必要があります。

分析装置や検査業務を扱う企業にとっては、測るところからデータ化までをつなぐ仕事が考えられます。ただし、公開事例の一部は顧客名や適用条件が示されていません。

同じ効果がどの材料でも出るとは判断できません。

CitrineとPanasonic:計算上の有望候補と、製品の完成は別

Citrineが公開しているPanasonicとの事例は、有機半導体の候補を探す取り組みです。有機半導体は、有機分子などを使って電気を流す性質を持たせた材料です。

この事例では、多数の分子候補から有望な構造を絞り、計算で性能を調べています。従来の比較対象より、正孔という電気の運び手の動きやすさが25%高いと予測された分子を報告しています。

重要なのは、これが計算上の予測値であり、公表時点では合成を今後の段階としていたことです。Citrine・Panasonicの事例

「25%改善」という数字だけを読むと、完成した製品の性能が上がったように見えます。実際には、候補探索の成果です。

新規事業の検討では、発見、試作、量産、顧客採用のどこまで進んだ話かを確認する必要があります。

この区別ができると、提携先に求める役割も明確になります。候補を計算できる会社に、製造設備や顧客評価まで一度に求めるのではなく、残る工程を補う相手を探せます。

旭化成:AIの専門家だけでなく、現場の研究者が使う

旭化成は、社内の研究者がMIを実践する環境として「IFX-Hub」などを整えています。デジタル技術の専門部署だけでなく、材料を扱う研究者が使えるようにする取り組みです。

また、スマートラボでは、MI、シミュレーション、実験自動化を組み合わせています。材料を設計する工程だけでなく、実物を合成し、性能を評価する工程もつなごうとしています。

同社の公開説明では、複数の事業部で活用が進んでいます。旭化成のソリューション・事例

ここでの論点は、良いモデルを一つ作ることではありません。研究者が普段の仕事の中で使い、実験結果が次の分析へ戻る仕組みを作ることです。

外部企業の参入余地を考えるなら、教育だけ、システムだけと分けるより、どの研究工程で利用が止まっているかを見るとよいでしょう。ただし、この事例は旭化成内の基盤整備です。

その仕組み全体が外販ソフトとして購入できる、と読み替えることはできません。

Microsoft Research:欲しい性質から、材料の構造を生成する

Microsoft Researchが2025年1月に公表した「MatterGen」は、無機材料の結晶構造を生成するAIです。既知の候補を検索するだけでなく、求める性質などの条件に沿って構造を提案します。

公表された研究では、共同研究者が提案された材料を実際に合成しています。押し縮めにくさを示す「体積弾性率」は、設計条件の200 GPaに対して、実測が169 GPaでした。

GPaは圧力の単位です。この数値は、ある材料について生成から実験へ進んだ例であり、すべての要求を満たす材料を自由に作れることの証明ではありません。Microsoft ResearchのMatterGen研究

従来の検索と生成の違いは、候補の出し方にあります。一方、実際に作って性質を確かめる工程は残ります。

生成AIが進歩すると、実験や評価の仕事が不要になるのではなく、候補を確かめる体制の重要性が増すと考えられます。

科学研究へのAI活用を広く知りたい場合は、AI for Scienceの企業事例と事業機会で、創薬や実験自動化も含めて整理しています。

NIMS:材料データを探すための共通基盤を整える

物質・材料研究機構(NIMS)は、「MatNavi」という材料データベース群を提供しています。高分子、無機材料、金属など、複数の分野のデータを検索・閲覧できる基盤です。

材料を開発するには、自社の実験データだけでなく、既知の材料の性質を調べる作業も必要です。こうした基盤は、その出発点を支えます。

ただし、閲覧できることと、データをまとめて取得してAIの学習へ使えることは同じではありません。MatNaviはまとまったデータの取得を禁止する旨を明記しています。NIMS・MatNaviの案内

データを使う事業では、量や内容だけでなく、利用条件も確認が必要です。公開されている情報を集めれば、すぐ独自の材料AIを作れるとは限りません。

データの権利を確かめ、顧客が使える条件を整えることも、事業の土台になります。

マテリアルズインフォマティクスの業界は、どんな仕事で成り立つか

7事例を工程で並べると、企業の違いが見えてきます。「MI企業」という一括りでは、比較すべき相手を間違えやすくなります。

何を受け取り、何を成果物として返すのかで整理しましょう。

同じ「材料AI」でも、担う仕事は違う

主な役割の整理。企業間の取引を示す図ではない

データを探す

NIMS:材料の性質や構造を検索できる基盤

候補を計算・提案する

MI-6、Matlantisなど:配合や構造を絞る

実験・計測へつなぐ

日立ハイテク、旭化成:分析・測定・自動化

用途と製品を開発する

東京応化工業、Atomis:顧客が使える材料へ

各社は複数の役割を担う。詳しい製品・段階・出典は本文に記載。

図2:各社・各機関の公表資料をベースに、イノベーション総研作成。主な役割を整理した概念図であり、企業間の取引関係や唯一の分類を示すものではありません。

ソフトを売る会社と、材料を売る会社では収益の源泉が違う

分析ソフトを提供する会社なら、利用料や分析支援の対価が事業になります。顧客は材料メーカーなどの研究部門です。

継続して使ってもらうには、操作のしやすさだけでなく、実際の開発で役立つ候補を提案できることが必要です。

材料メーカーの場合は、MIを使って得た材料を販売する形が考えられます。AIは開発手段であり、顧客が買うのは接着剤や電池材料などです。

顧客にとって重要なのは、AIを使ったかどうかより、必要な性能、価格、供給量を満たすかどうかです。

この間に、測定、実験の受託、装置の接続、研究データの整備などの仕事があります。すべてを一社で担う必要はありません。

ただし、担当の境界でデータが途切れると、実験結果が次の分析に戻らなくなります。

競合だけでなく、提携先として見る

たとえば、分析ソフト会社が装置メーカーと同じ仕事をしているとは限りません。片方が候補を出し、もう片方が試作品を測る関係を作れる場合があります。

一方で、データ整備から分析まで一体で提供する会社もあります。新たに参入するときは、「AIを持っているか」だけで競合を比べず、顧客のどの工程まで引き受けるのかを見る必要があります。

自社が材料の顧客接点を持つなら、用途の条件を分析会社へ伝える役割を担えます。測定装置を持つなら、信頼できる測定結果を返す役割が考えられます。

研究開発から事業化へ進む全体の論点は、研究開発の事業化を進める方法も参考になります。

市場規模を見るときは、MIソフトと材料DXを混同しない

マテリアルズインフォマティクスの市場を調べると、金額の大きく違う予測が見つかります。計算違いとは限りません。

ソフトだけを数える調査と、関連する材料・開発・サービスまで数える調査では、対象が違うためです。

矢野経済研究所は、2026年3月の発表で、マテリアルDXの世界市場を2025年に約1.04兆円、2030年に約3.17兆円としています。前者は見込み、後者は予測です。

メーカー出荷金額ベースの4分野合計で、関連材料・開発・サービスなどを含みます。MIソフトの売上だけを表す数字ではありません。矢野経済研究所の市場調査発表

マテリアルDX市場予測の範囲と数値
比較する項目 この市場予測の範囲
地域 世界。日本国内だけの市場ではない
2025年 1兆371億8,000万円・見込み
2030年 3兆1,653億5,000万円・予測
集計 有機材料、無機材料、プロセス、計測の4分野
注意点 調査対象の「AI・機械学習を活用した材料設計」は、この4分野の金額集計から除かれる

市場の広がりを知る参考にはなりますが、この総額をそのまま自社の対象市場にはできません。たとえば、塗料の配合支援を提供するなら、対象となる塗料メーカー数、開発案件数、支払える金額から考える必要があります。

また、研究費から支出する単発案件と、毎年更新されるソフト利用料では、同じ売上額でも継続性が違います。市場規模を示すだけでなく、誰の予算で、何に対して支払われるのかまで落とし込みましょう。

市場規模の調べ方では、この絞り込み方を解説しています。

AIで良い候補が見つかっても、材料の事業化が止まる理由

候補探索が速くなることは、材料開発にとって大きな利点です。しかし、候補の数が増えても、測定できなければ次へ進みません。

実験で性能が出ても、顧客の工場で同じ結果が出るとは限りません。

MIの効果を判断するときは、次の4段階を分けると、期待と実態のずれを減らせます。

「良い候補」と「売れる材料」を分ける

何が確かめられたかで、次に必要な仕事が変わる

1 候補の予測

ある:計算上の性能
まだ:実物での再現

2 試作品の測定

ある:実験での結果
まだ:量産時の安定性

3 量産条件の確認

ある:品質・原価の検証
まだ:顧客での採用

4 顧客の採用

ある:用途に合う評価
確認:継続発注・供給

本文の公開事例を踏まえた編集部の整理。各社の到達段階は本文で区別。

図3:研究の成果と事業化の成果を分ける見方。本文の企業事例を踏まえたイノベーション総研の整理。

条件が違う実験を、同じデータとして学ばせてしまう

同じ名前の材料でも、原料の銘柄や測定条件が違えば、結果が変わります。温度の記録がない、配合量の単位が違う、失敗した試験が残っていない。

こうした状態では、AIは原因を適切に比較しにくくなります。

最初に必要なのは、データを大量に集めることとは限りません。「何を変え、どう作り、どう測った結果なのか」をそろえることです。

データの量だけを導入条件にすると、手元の記録を使えるかどうかを見落とします。

予測の評価にも注意が必要です。よく似た試料を学習用と評価用に分けただけでは、新しい配合や別の製造条件で役立つかはわかりません。

実際に使う場面に近い条件で、未知の候補を選ぶ力を確認します。

材料の性能だけを上げ、顧客の使い方を見ていない

接着力が高い材料でも、顧客の塗布装置で扱えなければ使われません。耐熱性が高くても、工程の時間が長くなれば、生産性が落ちる場合があります。

そのため、AIに探させる条件には、性能だけでなく、製造、原価、供給の条件も入れる必要があります。顧客がどの条件で不採用にするかを先に知るほど、採用につながりにくい候補を早く外せます。

この点では、材料に詳しい営業や用途開発の担当者も重要です。分析担当者だけでは、顧客の設備変更にかかる費用や、供給先を切り替える難しさまで把握できないことがあります。

研究室では作れても、量産で品質がそろわない

少量の試作と量産では、混ぜ方、熱の伝わり方、乾燥の条件などが変わります。研究室で一度成功した配合でも、量を増やすと同じ品質にならない場合があります。

このため、材料の組成だけでなく、製造条件も一緒に考えます。温度や時間などの工程条件をデータで扱う方法は、プロセスインフォマティクスと呼ばれます。

MIで材料を選び、製造部門へ渡せば終わりではありません。量産で品質が変わったとき、材料の設計へ戻れるようにする必要があります。

新規事業としては、その受け渡しを支える解析、計測、試作支援にも仕事が生まれます。

データを使える範囲と、成果の扱いが決まっていない

配合や不具合の記録は、企業の重要なノウハウです。外部サービスへ渡す前に、保存場所、アクセスできる人、サービス改善の学習への利用、契約終了時の扱いを確認します。

共同開発であれば、持ち込むデータと、新たに得た実験結果を分けて整理します。学習済みモデルを他社案件で使えるか、発明が生まれた場合にどう扱うかも、契約の検討事項です。

具体的な権利や契約条件は、知財・法務の担当者と確認してください。

事業計画で「複数社のデータを集めて強くする」と考えていても、各社から利用の合意を得られなければ成立しません。技術の検証と並行して、どのデータをどの目的で使えるかを確かめる必要があります。

NEXT STEP

次のステップ

材料開発の、どの仕事を担えるか

自社のデータ、設備、用途の知識から、顧客へ提供する仕事を整理します。分析だけでなく、試作や量産へつなぐ相手も含めて考えます。

マテリアルズインフォマティクスで新規事業を始める4つの入り方

ここからは、前述の事例を踏まえたイノベーション総研の分析です。各社が以下のサービスを提供していると主張するものではありません。

参入方法は、自社の強みと、顧客の止まっている工程から考えます。AIモデルを一から開発することだけが選択肢ではありません。

材料AI周辺の4つの参入方法(編集部の分析)
入り方 想定顧客と提供する仕事 対価の取り方の例 欠けると難しいもの
用途を絞った配合支援 塗料・接着剤などの開発部門へ、条件付きの配合候補を返す 案件別の支援料、継続分析の利用料 用途の知識、実験できる相手
研究データの整備・接続 研究所の実験記録と装置の出力を、比較できる形へ整える 初期構築料、保守・運用料 原データの理解、装置との接続
試作・計測と分析の一体提供 材料メーカーへ、候補の試作品と測定結果を返す 試験費、解析費、共同開発費 再現性のある測定、設備・安全管理
AIを使った材料・用途開発 部品・製品メーカーへ、条件に合う材料を供給する 材料販売、条件が合えば技術ライセンス 量産、品質保証、顧客の採用経路

同じAIを使っていても、渡す成果物と引き受ける責任が変わります。まず自社が提供できるものを選び、足りない設備や顧客接点は、提携で補えるかを考えます。

1.塗料や接着剤など、一つの用途に絞って支援する

すべての材料を扱う汎用AIを目指さず、特定の用途の配合開発を支援する入り方です。たとえば、塗料の耐久性と乾燥時間、接着剤の接着力と塗りやすさを同時に考えます。

顧客が欲しい成果物は、「予測モデルを作りました」という報告だけではありません。試す候補、その理由、避ける条件、次に測る項目まで渡せると、実際の開発につながります。

自社に分析技術はあっても材料の知識がなければ、用途を知るメーカーや試験機関との提携が必要です。逆に、材料に詳しい会社は、既存の分析基盤を使うこともできます。

懸念は、案件ごとの作り込みが多すぎて、売上が増えても担当者の負荷が減らないことです。共通化できる仕事を見極めます。

2.実験記録と装置をつなぎ、分析できるデータを作る

研究所にはデータがあっても、部署ごとの表計算ファイル、装置独自の出力、紙の記録に分かれていることがあります。それを、試料番号、配合、工程条件、測定結果でつなぐ仕事です。

顧客が受け取るものは、単なるデータ一覧ではありません。「この結果は、どの試料を、どの条件で測ったものか」を追える状態です。

誤った単位や欠けた項目を見つける仕組みも含められます。

情報システム会社や分析装置を扱う会社が入りやすい一方、装置ごとに個別対応が増える懸念があります。導入後に誰が項目を追加し、測定方法の変更を反映するかまで決めないと、最初だけ整ったデータベースになります。

3.試作・計測を持つ強みを、AIの提案と組み合わせる

AIが候補を増やしても、確かめる実験が追いつかなければ、開発は進みません。そこで、分析と試作・計測をまとめて提供する入り方があります。

たとえば、受託試験会社が分析会社と組み、候補の試料を作る、同じ条件で測る、結果を次の予測へ戻す仕事を引き受けます。顧客側で分析と実験の依頼先を別々に調整する負担を減らせます。

懸念は、設備の稼働率と試験の再現性です。少量の特殊な試験ばかりでは、設備と人の費用を回収しにくくなります。

安全に扱える材料の範囲や、やり直しの費用負担も含め、受ける仕事を決める必要があります。

4.MIを自社の材料開発に使い、材料を販売する

材料メーカーなら、ソフトを外販せず、自社の材料を良くするためにMIを使う方法があります。顧客が必要とする性能と供給条件を満たし、材料の販売につなげる形です。

この場合、AIの予測精度だけでは事業の成否を測れません。顧客が評価を始めたか、必要な価格で作れるか、採用までの試験に進めるかが重要になります。

AI導入の費用だけでなく、試作、量産準備、顧客評価までの費用を見ます。

技術のライセンスを考える場合も、相手が再現できる製法や条件が必要です。「AIが候補を出した」というだけでは、受け取った企業が使える技術にならないことがあります。

自社の研究成果をどの顧客へ届けるかを整理する際は、技術シーズの事業化も合わせて読むと、材料の強みと用途を結びつけて考えられます。

導入・参入の前に、何を確認すればよいか

最初から大きな開発体制を作る必要はありません。まず、顧客が困っている一つの材料、一つの開発工程に絞ると、必要なデータと役割を整理しやすくなります。

打ち合わせでは、次の三つを具体的な資料で確認すると有効です。これは点数を付ける診断ではなく、事業を検討するための確認事項です。

何が改善すれば、顧客は費用を払うのか

実験回数、開発期間、材料性能のどれを変えるのかを決めます。「AIを使いたい」だけでは、価値を判断できません。

たとえば、顧客の負担の中心が測定待ちであれば、候補を出す時間だけ短縮しても全体は速くならないかもしれません。現在の作業を、候補選び、試作、測定、判断に分けて確認します。

その改善を確かめるデータと設備があるか

実験記録を一件、最初から最後までたどってみます。原料、配合、工程、測定条件、結果が結びついているでしょうか。

新しい候補を出したとき、実際に試せる設備と担当者はいるでしょうか。

確認できなければ、いきなり予測サービスを売るより、データ整理や試験設計から始める方が適切な場合があります。提案する仕事を変える判断も、事業開発の一部です。

どこまでを自社で受け持ち、何を約束しないか

候補の提案、試作品の提供、量産条件の検討、顧客採用の支援は、それぞれ違う仕事です。成果物と責任範囲を分け、足りない設備や知識を持つ相手を探します。

顧客が一度の分析で量産採用まで保証するよう求める場合は、そのまま受けないことも必要です。何を確かめれば次へ進めるかを合意し、確認できない成果を約束しないようにします。

マテリアルズインフォマティクスのよくある質問

仕組みを知った後でも、データや人材、費用の面で迷うことはあります。導入を検討する際によく出る疑問を整理します。

Q. MIと生成AIは同じですか?

A. 同じではありません。MIは、材料開発にデータ分析やAIを使う広い考え方です。過去の実験から性能を予測する方法も含みます。生成AIは、その中で新しい分子や結晶構造などの候補を作る方法として使われることがあります。

Q. データが少ない会社でも使えますか?

A. 使える場合はありますが、件数だけでは判断できません。対象の材料、記録の品質、予測したい性質、既存の知識や計算を併用できるかで変わります。まず手元のデータで何を比較できるかを確認し、必要な実験を整理します。

Q. 材料の専門家は不要になりますか?

A. 不要にはなりません。AIに探させる条件を決め、提案を実際に作れるか判断し、測定結果を解釈するには材料の知識が必要です。顧客の使い方や量産条件を理解する人も欠かせません。

Q. 導入費用はどのくらいですか?

A. ソフトの利用だけか、データ整備、分析支援、実験まで含むかで大きく変わります。一律の相場を置くより、利用料、初期整備、計算費用、社内の作業、試作・測定の費用を分けて見積もることが重要です。提供範囲をそろえて比較してください。

まとめ:材料を「見つける」先の仕事まで考える

マテリアルズインフォマティクスは、材料の候補をデータで絞り、実験と往復しながら開発を進める手法です。7つの事例からも、配合支援、原子レベルの計算、実験自動化、データ基盤など、異なる仕事が組み合わさっていることがわかります。

AIが良い候補を出すことと、顧客が採用できる材料になることは別です。その間にある、測定、試作、量産、用途の条件を具体的にするほど、自社が担える仕事が見えてきます。

新規事業として考えるなら、「どんなAIを作るか」の前に、「誰の、どの材料開発を前へ進めるか」を決めましょう。自社のデータ、設備、材料の知識、顧客接点を、その仕事に結びつけることが出発点になります。

CONTACT

お問い合わせ

自社の材料・技術を、具体的な事業へ

用途や顧客の候補、提供する成果物、必要な提携先を整理しませんか。研究成果と顧客の採用条件を分け、進める事業と見送る事業を考えます。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

統計数理研究所、MI-6、Matlantis、日立ハイテク、Citrine、旭化成、Microsoft Research、物質・材料研究機構、矢野経済研究所の公開資料。本文の各該当箇所に出典を記載。参入案はイノベーション総研の分析。

この記事をシェアする