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グリーン水素は「作る」だけでは売れない|国内外8事例と参入条件

グリーン水素は、再生可能エネルギーの電気で水を分解してつくる水素です。鉄鋼、化学、船舶燃料など、電気だけでは脱炭素化しにくい分野で期待されています。

ただし、水電解装置を設置すれば事業になるわけではありません。安い再エネ電力をいつ確保できるか。装置をどれだけ動かせるか。つくった水素をどう貯め、運び、誰が長期で買うか。これらが一つにつながって、初めて採算が見えてきます。

実際、世界では大規模な計画が増えた一方、投資決定や建設へ進めない案件も少なくありません。装置の供給能力より、需要家との契約や資金調達がボトルネックになっています。

この記事では、グリーン水素の仕組みと市場の現在地を整理します。さらに、国内外8事例を実装段階まで確認し、新規事業として狙える場所と、参入前に止めるべき条件を解説します。

この記事の結論

グリーン水素の成否は、装置の性能ではなく、電力・稼働率・輸送・需要家契約を一つの供給網にできるかで決まります。

  • 設備容量は増えていますが、需要家契約と投資決定を通過する案件は限られます。
  • 国内外8事例では、既存需要、隣接立地、標準化、運転データが商用化を前へ進めています。
  • 参入余地は、BOP・統合、運転最適化、オンサイト供給、証明・需要集約にあります。

グリーン水素とは?再生可能エネルギーで水を分解する水素

水素は、使うときに二酸化炭素を出さないエネルギーです。しかし、現在使われている水素の多くは、天然ガスや石炭などの化石燃料からつくられています。製造時に二酸化炭素が出るため、使う場面だけを見て「脱炭素」とは言えません。

グリーン水素は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電し、その電気で水を分解してつくります。水電解とは、水へ電気を流し、水素と酸素に分ける方法です。

一方、政策や契約では「色」ではなく、製造から輸送までに出る温室効果ガスの量で支援対象を決める動きが進んでいます。日本の水素社会推進法も「低炭素水素等」という考え方を採用しています。事業者は、再エネ由来だと説明するだけでなく、電力の由来と排出量を証明する必要があります。

水電解には、主に次の方式があります。

主な水電解方式の特徴と事業上の注意
方式 分かりやすい特徴 向きやすい場所 事業上の注意
アルカリ水電解 実績が長く、大型化しやすい 大規模・比較的安定した運転 設置面積と出力変動への対応を確かめる
PEM水電解 小型化しやすく、出力変動へ追従しやすい 太陽光・風力と連動する設備 貴金属部材と装置価格の影響を受ける
SOEC 高温の蒸気や工場排熱を使い、電力使用を抑えられる 製鉄所、製油所、化学工場 高温運転と長期耐久性の確認が必要
AEM 貴金属を減らせる可能性がある 小型・分散型を含む将来用途 大型設備での長期実績はまだ限られる

方式の優劣は、装置だけでは決まりません。工場排熱があるならSOECが候補になり、電力の変動が大きいならPEMや動的運転に対応したアルカリ方式が候補になります。選定は、電力、立地、需要量、運転方法から逆算します。

グリーン水素は拡大局面でも「計画」と「稼働」が遠い

IEAのGlobal Hydrogen Review 2026によると、世界の水素需要は2025年に1億トンを超えました。一方、低排出水素の生産は約100万トンで、全体に占める割合はまだ小さいままです。

水電解設備は増えています。世界の設備容量は2025年に4GWを超え、前年から倍増しました。新設容量の約4分の3を中国が占めています。

しかし、発表された計画と、実際に建設へ進む案件の間には大きな差があります。IEAは、2030年を目標とする低排出水素の計画量が27百万トンまで縮小したとしています。そのうち、投資決定済みなど実現可能性が高い生産量は6百万トン強です。

グリーン水素市場で計画から稼働までに生じる実行差
設備容量は増えているが、需要家契約、投資決定、建設、稼働の順に案件は絞られる。

ここから分かるのは、「市場が伸びるか」だけを議論しても足りないことです。案件ごとに、投資決定を通過したか、建設中か、需要家が決まっているかを分けて見る必要があります。

需要が比較的固まりやすいのは、すでに水素を使っている製油所、化学、肥料などです。既存の水素を少しずつ置き換えられるため、設備の受け入れ先と利用方法を描きやすいからです。反対に、新しい需要設備まで同時につくる案件は、技術、許認可、資金調達の条件が増えます。

日本では、2024年10月に水素社会推進法が施行されました。価格差に着目した支援と拠点整備支援が用意されています。2025年のエネルギー白書は、低炭素水素などの供給網構築に3兆円規模の支援を行う方針を示しています。

ただし、支援制度は採算を自動的に保証するものではありません。長期で自立できる需要、排出量の削減効果、供給の確実性を示す必要があります。補助金を取れるかではなく、支援終了後も買い手が残るかを先に考えます。

コストを決めるのは装置価格より電力と稼働率

グリーン水素の費用は、水電解装置の価格だけでは決まりません。大きく分けると、電力、設備、運転・保守、貯蔵・輸送、資金の五つがあります。

なかでも電力は、水素をつくるたびに発生する費用です。安い太陽光や風力を確保できても、発電する時間が短ければ、水電解装置は止まります。装置が止まっている間も、設備投資の回収と保守費用は残ります。

そのため、「電気が安い」と「水素が安い」は同じではありません。電力単価と装置の稼働率を一緒に見ます。系統電力を使えば動かしやすくなりますが、排出量と電力料金が上がる可能性があります。再エネだけに合わせれば、排出量を下げやすい一方で、稼働率が下がります。

さらに、水素は体積当たりのエネルギーが小さく、そのままでは運びにくい物質です。圧縮する、液化する、アンモニアやMCHへ変える、パイプラインを使うなどの方法があります。それぞれに設備とエネルギーが必要です。

事業計画では、製造原価だけでなく、需要家の受け渡し地点までの費用を出します。最低でも、次の数字を一枚にまとめます。

  • 1時間ごとの再エネ発電量と電力価格
  • 水電解装置の稼働率と停止回数
  • 1kgの水素をつくるための電力使用量
  • 圧縮、貯蔵、変換、輸送の費用
  • 設備の交換周期と保守停止時間
  • 需要家が引き取る最低量と価格

ペロブスカイト太陽電池の記事で解説した発電設備も、単独では事業価値が決まりません。発電した電力を誰が、いつ、どの価格で使うかまでつなげる点は、グリーン水素と共通しています。

グリーン水素の供給網は六つの仕事でつながる

グリーン水素は、一つの製品ではありません。再エネ電力を確保し、水を処理し、水素を製造し、貯め、運び、使うまでの供給網です。

グリーン水素の供給網を構成する六つの仕事
装置の前後にある電力、水処理、貯蔵、輸送、需要家との接続まで含めて事業を設計する。

六つの仕事は、次のように整理できます。

  1. 再エネ電力を調達する
  2. 原水を設備に合う純水へ処理する
  3. 水電解装置と周辺機器を統合する
  4. 圧縮・貯蔵し、変動を吸収する
  5. パイプライン、車両、液化、キャリアで運ぶ
  6. 製鉄、化学、熱、燃料などの需要へ接続する

水電解装置の周辺には、整流器、熱交換器、ポンプ、ガス精製、センサー、安全装置などがあります。これらはBOPと呼ばれます。日本語では「プラントを動かす周辺設備」と考えると分かりやすいでしょう。

後発企業にとって、BOPは重要な参入点です。水電解のセルを一から開発しなくても、電力変換、水処理、遠隔監視、防爆、保守など、既存事業の技術を生かせるからです。

もう一つの重要点は、誰が全体の性能を保証するかです。装置メーカーが水素製造量だけを保証し、電力会社は供給量だけを保証し、運送会社は受け渡し後だけを担うと、境界で問題が起きます。統合する企業は、設備の前後を含めた責任分界を決める必要があります。

国内外8社のグリーン水素事例|実装段階まで見分ける

ここでは、国内外8つの企業・プロジェクトを取り上げます。重要なのは、発表された設備容量の大きさだけではありません。実証、受注、建設、稼働のどこにいるか。誰が水素を使うか。この二点を分けて見ます。

国内外8社・プロジェクトのグリーン水素事例
企業・プロジェクト 主な取り組み 確認できる段階 事業上の示唆
旭化成・日揮HD 福島の水素でグリーンアンモニアを製造 実証運転 電解装置と需要工程をつなぐ
山梨県コンソーシアム 16MWの水電解とサントリー工場の熱利用 稼働・供給 需要家を隣接させ輸送を減らす
ENEOS 水素をMCHへ直接変換する技術 開発・実証 製造と貯蔵・輸送を一体化する
thyssenkrupp nucera 大型アルカリ水電解を鉄鋼・化学案件へ展開 受注・優先供給者選定 標準モジュールで大型化する
Sunfire 30MW設備と既存パイプラインで製油所へ供給 建設・試運転準備 既存需要とインフラを使う
Nel 次世代加圧アルカリ装置を商用化 商用提供・量産準備 個別設計を減らし総工費を下げる
Hysata 高効率な毛細管型水電解装置 初の商用受注 効率だけでなく量産移行を見極める
Verdagy 変動電源へ追従する動的アルカリ方式 商用設備で運転 稼働データを設計と保守へ戻す

旭化成と日揮HDは、水素をアンモニアの需要へつないだ

旭化成は、福島県浪江町のFH2Rで10MW級のアルカリ水電解装置を運用しています。2026年1月には、その水素を使い、日揮ホールディングスの実証設備がグリーンアンモニアの製造を開始しました。

この事例のポイントは、水素をつくる実証から、化学品をつくる工程へ進んだことです。旭化成は再エネの変動に合わせて水素を供給し、日揮HDはアンモニア合成設備を設計・建設します。

水素製造量だけを増やしても、使い先がなければ設備は動きません。既存の化学工程へ接続し、供給変動をどう吸収するかを確かめる点に事業上の価値があります。

山梨県コンソーシアムは、製造設備と熱需要を隣接させた

山梨県、東京電力グループ、東レ、カナデビア、シーメンス・エナジー、三浦工業などのコンソーシアムは、北杜市にGreen Hydrogen Park -Hakushu-を整備しました。NEDOの2026年8月発表では、16MWの設備が稼働し、2025年10月から隣接するサントリー天然水南アルプス白州工場へ水素を供給しています。

設備は、カナデビアの6MWとシーメンス・エナジーの10MWで構成されます。東レの炭化水素系電解質膜も使われています。需要側では、水素ボイラーで工場の熱源の一部を置き換えます。

重要なのは、製造設備と需要家が隣り合っていることです。長距離輸送を避けながら、供給と利用を同時に確かめられます。地域型のグリーン水素は、最初から広域販売を狙うより、近くにまとまった需要がある立地で始める方が成立しやすくなります。

ENEOSは、つくった水素を運びやすい形へ直接変える

ENEOSは、水とトルエンからMCHを直接合成する技術を開発しています。MCHは、常温・常圧で扱いやすい液体へ水素を載せて運ぶ方法の一つです。

従来は、水を電気分解して水素をつくり、その後にトルエンと反応させる工程が必要でした。直接MCH電解合成は、その工程を一体化し、設備とエネルギーの削減を狙います。NEDOの2025年度成果報告では、実証設備の開発と運転準備が示されています。

この事例は、水電解装置の外側にも技術機会があることを示します。海外の安い再エネで水素をつくれても、日本へ運ぶ仕組みが高ければ競争力は出ません。製造と輸送を別々に改善するのではなく、変換工程をまとめる発想です。

thyssenkrupp nuceraは、20MW単位の標準化で大型案件を狙う

thyssenkrupp nuceraは、アルカリ水電解装置「scalum」を20MW単位のモジュールとして展開しています。大型案件では、同じ単位を組み合わせて設備容量を増やします。

2025年8月には、豪州のグリーン鉄プロジェクトで、合計1.4GWの優先電解装置供給者に選定されたと発表しました。ただし、優先供給者への選定は、設備全体の最終投資決定や稼働とは異なります。

大型化では、セル性能だけでなく、調達、据え付け、試運転の繰り返しを減らす必要があります。標準モジュールは、現地工事のばらつきを抑え、複数案件で設計を再利用するための事業モデルです。

Sunfireは、既存パイプラインと製油所需要を組み合わせる

ドイツのSunfireは、加圧アルカリ方式と高温SOECの二つを展開しています。Bad Lauchstädt Energy Parkでは、30MWの加圧アルカリ水電解設備を供給しています。

2025年10月には、6基のスタックの搬入を開始したと発表しました。風力発電から水素をつくり、既存のガスパイプラインを転用して、地域のTotalEnergies製油所へ供給する計画です。

製油所は、すでに水素を使っています。新しい用途を一から作るより、既存需要の一部を置き換えやすい場所です。さらに、既存パイプラインを使えれば、輸送設備を最初から全て新設する負担を減らせます。

Nelは、プラントの個別設計を減らそうとしている

ノルウェーのNelは、2026年5月に次世代の加圧アルカリ水電解システムを商用発表しました。25MWのプラントを基準に、機器だけでなく周辺設備を含む構成を標準化しています。

グリーン水素設備では、案件ごとに設計を変えると、工期と工事費が膨らみます。Nelは、配管や電源、制御まで含めた設計の単純化を競争軸にしています。

一方、商用発表と、各地で長期安定稼働することは同じではありません。購入側は、提示された費用だけでなく、納期、保証範囲、部品交換、現地保守の体制を確認する必要があります。

Hysataは、高効率技術から初の商用供給へ進んだ

豪州のHysataは、毛細管現象を使って電解液を供給する独自構造を開発しています。電極で発生する気泡による抵抗を抑え、少ない電力で水素をつくることを狙います。

2026年6月、同社はMW級設備の初の商用受注を発表しました。顧客名は公開されておらず、2027年前半の納入予定です。

この段階では、技術の効率だけで勝者とは決められません。量産品質、保守、長期耐久性、顧客設備との接続が次の評価点です。新技術へ参入・提携するときは、実験値、第三者評価、商用受注、稼働実績を分けて確認します。

Verdagyは、出力変動へ追従する運転データを蓄積する

米国のVerdagyは、変動する再エネ電力へ追従しやすい「eDynamic」アルカリ水電解装置を開発しています。同社によると、カリフォルニア州の2MW設備では、商用サイズのセルで2万1,000時間を超える運転を行っています。

Verdagyの公式情報では、GW級の製造工場と、設備全体を最適化する設計ソフトも紹介しています。競争力の中心を、装置単体から運転設計へ広げています。

再エネと連動する設備では、起動停止や部分負荷が劣化へ影響します。どの電力価格なら動かすか。どの状態なら止めるか。運転データを蓄積し、保守と制御へ戻せる企業は、販売後にも継続収益を作れます。

事例から見える空白は装置の外側にある

8事例を見ると、水電解のセル効率だけで競争しているわけではないと分かります。商用化へ進む企業は、標準設計、需要家接続、輸送、保守、資金調達まで範囲を広げています。

参入余地が大きいのは、次の五つです。

  • 再エネ発電量と装置劣化を同時に見る運転制御
  • 純水、整流器、圧縮機などBOPの標準パッケージ
  • 水素漏れ、圧力、設備状態を遠隔で監視する安全・保守
  • 排出量と電力の由来を証明するデータ管理
  • 複数の需要家をまとめ、最低引取量をつくる契約設計

特に見落とされやすいのが、需要の集約です。一社の需要が小さければ、設備を十分に動かせません。地域の工場、物流、熱需要をまとめれば、設備容量と輸送を最適化できます。

浸透圧発電の記事では、既存の取排水設備を持つ場所から始める考え方を示しました。グリーン水素も同じです。再エネ、用水、工場需要、輸送設備が近い場所ほど、事業化の条件を減らせます。

また、装置メーカーの生産能力が余る局面では、単純な販売代理だけでは価格競争に巻き込まれます。顧客の電力条件と需要工程を理解し、複数メーカーから適切な構成を選び、稼働後まで責任を持つ方が差別化しやすくなります。

NEXT STEP

次のステップ

「グリーン水素を作る」から、売れる供給網の設計へ。

需要家、電力、設備、輸送、責任分界を一つの事業構造にし、参入・提携・待機・見送りの条件を明確にします。

グリーン水素市場へ参入する四つの方法

グリーン水素へ参入する方法は、水電解装置を自社開発することだけではありません。自社がすでに持つ顧客、設備、制御、素材の資産から、四つの入口を選べます。

グリーン水素市場へ参入する四つの方法
後発企業は、装置製造よりも、需要家の近くで統合・運用・証明を担う方が参入しやすい。
グリーン水素市場への四つの参入方法
参入方法 向く企業資産 顧客へ提供する価値 主な収益 最初に確かめること
BOP・統合エンジニアリング 電力設備、水処理、配管、プラント 現地工事を減らし、早く安定稼働させる 設計・機器・工事・保守 既存設備との接続条件
運転最適化・予防保全 EMS、AI、センサー、設備保全 電力費と劣化を抑え、稼働率を高める SaaS、保守契約、成果報酬 取得できる運転データ
オンサイト水素供給 工場顧客、設備金融、O&M網 顧客の初期投資を抑え、必要量を供給する 水素の従量課金、長期契約 最低引取量と代替燃料価格
証明・需要集約 排出量管理、商社、地域ネットワーク 由来を証明し、複数需要を束ねる 手数料、認証支援、取引管理 証明基準と契約責任

参入方法1:BOPと既存設備の接続を標準化する

水電解装置を導入しても、工場の受電設備、水質、蒸気、圧力、保安基準が違えば、そのまま動きません。毎回ゼロから設計すると費用と工期が増えます。

電機、水処理、プラント、配管の企業は、よくある工場条件ごとに標準パッケージを作れます。どこまでを工場で組み立て、どこからを現地工事にするかが競争力になります。

参入方法2:電力と劣化を一緒に最適化する

再エネの発電予測、電力価格、水素タンク残量、需要量、装置の劣化を一つの画面で扱います。単純に安い時間へ動かすだけではなく、起動停止で増える負担も含めて判断します。

価値を示すには、削減した電力費だけでなく、交換を延ばせた期間、計画外停止、供給不足を測ります。装置メーカーをまたいでデータを扱えることが、後発企業の強みになります。

参入方法3:オンサイト供給で需要家の投資負担を下げる

顧客の工場内や近隣に設備を置き、事業者が保有・運転し、水素を使用量に応じて販売します。顧客は大型設備を買わずに始められます。輸送距離も短くできます。

ただし、長期契約を取れないまま設備を持つと、稼働率のリスクを供給側が抱えます。顧客の生産計画、停止期間、代替燃料価格を確認し、最低引取量を契約へ入れます。

参入方法4:排出量の証明と需要集約を担う

今後は、水素が再エネ由来かを、電力の購入証明だけで説明することが難しくなります。製造時間、電源、輸送、変換をつなぎ、単位当たりの排出量を記録する必要があります。

商社、金融、排出量管理の企業は、証明と契約を組み合わせられます。地域の複数需要家をまとめ、供給者へ長期需要を示せれば、設備投資の成立にも貢献できます。

カーボンクレジットの記事でも、価値は量だけでなく証拠で決まると解説しました。グリーン水素も、低炭素性を追跡できなければ、支援制度や顧客の削減目標へ使いにくくなります。

契約前に決める責任分界と見送り条件

グリーン水素は、設備、電力、輸送、需要が別企業に分かれやすい事業です。問題が起きたときに責任の空白を作らないよう、契約前に境界を決めます。

グリーン水素事業で契約前に決める責任と見送り条件
論点 先に決める責任 見送り・再設計の条件
電力 調達量、再エネ証明、出力抑制時の負担 必要稼働率を満たす電力が確保できない
製造設備 水素量、純度、効率、停止、部品交換 保証条件が実際の変動運転と合わない
保安 漏えい検知、緊急停止、訓練、連絡 事故時の指揮系統と費用負担が曖昧
貯蔵・輸送 受け渡し地点、圧力、損失、遅延 輸送費を含む価格が代替手段を大幅に超える
需要 最低引取量、品質、停止時の代替供給 長期契約なしで設備投資を回収できない
環境価値 排出量計算、データ保存、第三者確認 由来と排出量を顧客へ説明できない

安全は、装置メーカーへ一括して任せられるものではありません。水素は漏れやすく、着火範囲が広い物質です。換気、検知、緊急停止、立入管理、教育を設備と運用の両方で設計します。

事業化を急ぐほど、正常時の計画に目が向きます。しかし、供給不足、装置停止、停電、輸送遅延、需要家の工場停止が起きたときに、誰が判断し、誰が費用を持つかが重要です。

イノベーション総研では、参入判断を次の順番で行うことを勧めています。

  1. 水素を必要とする工程と代替手段を決める
  2. 最低需要量と許容価格を確認する
  3. 需要地から逆算して製造・輸送方式を選ぶ
  4. 自社で持つ責任と提携先の責任を分ける
  5. 支援制度がなくても残る価値を確認する
  6. 見送り条件へ一つでも該当したら、設備投資の前に再設計する

この順番なら、装置を選んだ後で買い手を探す逆転を防げます。技術が優れていても、需要と責任分界が整わなければ、待機または見送りが合理的です。

グリーン水素についてよくある質問

Q. グリーン水素とブルー水素の違いは何ですか?

A. グリーン水素は主に再生可能エネルギーの電気で水を分解してつくります。ブルー水素は天然ガスなどから水素をつくり、発生する二酸化炭素を回収・貯留する考え方です。実際の契約や政策では、名称より、供給網全体の排出量を確認することが大切です。

Q. グリーン水素は、いつ安くなりますか?

A. 装置の量産だけでなく、再エネ電力の価格、設備の稼働率、金利、輸送距離、需要家契約で変わります。世界平均の一つの年を待つより、自社の需要地で受け渡し価格を試算し、代替燃料との価格差を確認する方が実務的です。

Q. 水電解装置は、どの方式を選べばよいですか?

A. 安定した大規模運転、出力変動、工場排熱、設置面積、必要圧力などの条件で選びます。方式名から先に決めず、電力の1時間ごとの変動と需要側の運転を示し、複数方式を同じ条件で比較してください。

Q. 中小企業にもグリーン水素の事業機会はありますか?

A. あります。セル製造は大型投資が必要ですが、電力変換、水処理、漏えい検知、遠隔監視、保守、排出量証明、需要集約には既存技術を生かせます。自社顧客が持つ熱・化学工程を理解している企業にも機会があります。

Q. グリーン水素事業で最初に確認することは何ですか?

A. 需要家の工程、年間使用量、許容価格、停止時の代替手段です。次に、再エネ電力、製造、貯蔵、輸送を組み合わせます。装置の見積もりから始めると、使い先や稼働率が後回しになりやすいためです。

まとめ|グリーン水素は需要家から逆算する

グリーン水素は、再エネ電力で水を分解する技術です。しかし、事業としての勝負は、電解槽の中だけでは決まりません。

世界の設備容量は増えていますが、需要家契約と投資決定が不足し、多くの計画は建設へ進めていません。国内外8事例でも、商用化へ近づく案件は、既存需要、隣接立地、標準設備、輸送、運転データを組み合わせています。

新規参入では、BOP・統合、運転最適化、オンサイト供給、証明・需要集約が現実的な入口です。自社が持つ技術だけでなく、誰のどの工程を、どの価格で置き換えるかから考えます。

最初に決めるべきことは、水電解装置の方式ではありません。需要家、受け渡し地点、最低引取量、責任分界です。支援制度は、その事業を成立させる助けとして使い、支援終了後にも残る価値を設計することが重要です。

主な参考情報

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

IEA、資源エネルギー庁、NEDO、旭化成、日揮HD、ENEOS、thyssenkrupp nucera、Sunfire、Nel、Hysata、Verdagyの公式サイト・公表資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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