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コマツの新規事業に学ぶ|製品から現場へ広げる4段階

「製造業が新規事業を始めるなら、既存製品とは別の市場へ出るべきだ」。その発想だけでテーマを探すと、自社が長年蓄積した顧客接点、機器データ、保守網、現場知識を使わない案が増えます。一方、既存製品の改良だけを続けても、顧客が本当に解決したい仕事全体には届きません。

コマツの事例が示すのは、製品を捨てずに顧客への責任範囲を広げる新規事業です。 建設機械という「モノ」を起点に、KOMTRAXで販売後の稼働を把握し、スマートコンストラクションで施工プロセスへ入り、EARTHBRAINで他社の技術や機械もつなぐ方向へ進んでいます。

本記事では、コマツの公式情報で確認できる事実を基に、この流れを「製品・稼働・施工・共創」の4段階へ整理します。そのうえで、自社のコア資産を顧客成果へ広げる手順、事業の境界を広げる判断基準、導入後に見る指標まで解説します。

この記事のポイント

  • コマツの新規事業を、製品・稼働・施工・共創の4段階で捉える
  • KOMTRAXを、販売後の顧客接点とデータ基盤を作った事例として読む
  • スマートコンストラクションを、機械から施工プロセスへ責任を広げた事例として読む
  • 自社の強みを残しながら、顧客成果へ一段ずつ事業範囲を広げる

目次

結論|コマツの新規事業は顧客への責任範囲を広げた

コマツの新規事業を顧客の業務全体から検討する会議のイメージ

コマツの事例を「建機メーカーがIT企業へ変わった」とだけ説明すると、重要な点を見落とします。公式情報では、高度化した製品である「モノ」と、施工プロセスを最適化するソリューションである「コト」を組み合わせ、顧客の現場全体の課題を解く方向が明示されています。

つまり、新規事業の起点は既存事業からの離脱ではありません。建設機械、販売・サービス、稼働データ、現場理解を残したまま、販売後の稼働、施工全体、企業間のデータ連携へ責任範囲を広げています。新しさは技術の種類よりも、顧客の成果をどこまで引き受けるかにあります。

コマツの事例から読み取る新規事業の4段階と顧客価値
段階 主な取り組み 顧客へ提供する価値 事業側に必要な能力
製品 建設・鉱山機械、ICT建機、自動化・電動化 作業性能、安全性、環境性能 製品開発、品質、生産、販売・保守
稼働 KOMTRAXによる遠隔確認 稼働状況の把握、保守や運用の改善 接続、データ管理、継続的な顧客接点
施工 スマートコンストラクション 測量、計画、施工、進捗など工程全体の最適化 業務設計、アプリ、導入支援、現場運用
共創 EARTHBRAINとオープンな連携 他社機を含む現場データの統合と高度化 パートナー設計、権利分担、プラットフォーム運営

4段階はコマツが公表している公式分類ではなく、公開情報を新規事業の設計に使うために当研究所が整理したものです。4つを同時に始めるのではなく、自社が現在持つ顧客接点から一段先へ進む順序として使います。

「別の市場」より「未解決の仕事」を探す

新規事業テーマを既存市場と新市場の二択で考えると、議論は業界名や製品カテゴリーに偏ります。しかし顧客は、機械そのものを所有することではなく、施工を安全に、期限内に、必要な品質と費用で終えるために機械を使います。製品の外側にある未解決の仕事へ目を向けると、新しい提供価値が見えます。

自社でも、製品購入の前後に顧客が行っている準備、判断、運用、保守、報告を時系列で並べてください。顧客が複数の会社や表計算、電話、人の経験でつないでいる箇所は、事業範囲を広げる候補です。

コア資産を制約ではなく参入優位へ変える

既存事業の資産は、新規事業の自由度を下げることもあります。一方、顧客現場へのアクセス、稼働機器、保守担当者、品質への信頼は、新規参入企業が短期間で持ちにくい資産です。重要なのは、既存製品を売るためだけに使わず、顧客の業務を理解し、改善する入口へ変えることです。

技術資産の棚卸しだけでは足りません。顧客接点、データ、現場で使われる判断、導入を支える人材まで含め、どの資産が顧客成果へ近づくために使えるかを確認します。技術資産を事業へつなぐ考え方は技術シーズを事業化する進め方も参考になります。

コマツの新規事業を4段階で読み解く

コマツの取り組みは、個別の製品やサービスを横に並べるだけではつながりが見えません。販売時点で終わっていた顧客関係を稼働へ延ばし、個々の機械から施工工程へ広げ、さらに他社と共に現場全体を扱う流れとして読むと、事業境界の変化が分かります。

公式サイトでは、顧客の施工プロセス全体をデジタルでつなぎ、最適化するソリューションと、それに親和性の高い製品を共に提供すると説明されています。4段階は、価値を足す順番であると同時に、責任・データ・収益の範囲を広げる順番です。

コマツの主要な取り組みと事業境界の広がり
時期 公式情報で確認できる動き 広がった対象 新規事業として読む論点
2001年以降 KOMTRAXの標準装備化を推進 販売後の機械の位置・稼働 製品販売後も続く顧客接点とデータを作る
2008年 無人ダンプトラック運行システムを商用導入 鉱山の運行 単体機の性能から複数機の運用へ広げる
2013~2015年 ICT建機を市場導入し、スマートコンストラクションを開始 建機操作と施工プロセス 機械とデジタル施工を一つの価値へつなぐ
2021年 4社共同でEARTHBRAIN発足に合意 全メーカーの機械・車両、材料、労務、安全、環境 自社単独から共創とオープンな基盤へ広げる
2024~2025年 新世代油圧ショベルとデジタル施工支援を接続 購入直後から使えるデジタル施工 ソリューション導入の障壁を製品側から下げる

出典:コマツの未来の現場に向けた技術紹介EARTHBRAIN発足の発表コマツレポート2025

各段階で顧客と交わす約束が変わる

製品段階では、性能、納期、品質、保守が主な約束です。稼働段階へ進むと、データの継続取得、状態の可視化、異常時の対応が加わります。施工段階では、機械以外の工程や人の動きまで扱うため、導入支援と業務変更への責任が大きくなります。

共創段階では、他社製品、通信、データ、アプリを含むため、自社だけで品質を完結できません。パートナーの選定、障害時の切り分け、データ利用、顧客窓口を決める必要があります。価値が広がるほど、契約と運営の設計も事業そのものになります。

技術ロードマップと顧客ロードマップを重ねる

自動化、電動化、デジタルツインなどの技術は、性能目標だけで進めると顧客の導入条件とずれることがあります。誰が使い、どの工程に組み込み、既存設備とどう接続し、どの指標が改善すれば継続するかを同じ時間軸で決めます。

研究開発テーマには技術成熟度だけでなく、顧客の業務成熟度、制度、教育、運用体制も置きます。技術が完成しても現場が使えないなら事業化は止まるためです。研究開発成果を事業化する手順では、この接続を段階別に整理しています。

KOMTRAX|販売後の機械を継続的な顧客接点へ変える

KOMTRAXは、建設機械の情報を遠隔で確認する仕組みです。コマツは2001年から標準装備化を進め、2025年6月時点で国内約25万2千台の装備車両が稼働していると公表しています。これは、機械を売った後にも状態を把握できる接点が広く存在することを意味します。

新規事業の観点では、遠隔監視の機能だけでなく、既存製品へ接続を組み込み、利用現場から継続的にデータを得られる構造が重要です。販売後の接点を持つと、保守の改善だけでなく、次に解くべき顧客課題を発見できます。

KOMTRAXを新規事業の基盤として読むための4つの視点
視点 製品販売だけの状態 接続後にできること 自社で最初に決める条件
顧客接点 問い合わせや定期点検が中心 稼働中の状態を継続的に把握 顧客が受け取る利点と同意
データ 個別の点検記録が分散 機器横断で傾向を確認 取得項目、粒度、保存期間
サービス 故障後の対応が中心 予防、運用改善、情報提供へ広げる 通知後に誰が何を行うか
社会連携 自社と顧客の利用に限定 災害時など別用途へ生かす 目的外利用、提供範囲、責任

2025年の災害時の建機位置情報提供に関する発表では、参加に同意した建機を対象に、位置、機種、データ取得日時などを国土交通省へ提供する取り組みが説明されています。既存データを別の社会課題へ使う場合にも、対象、同意、項目、期間が明記されています。

標準装備はデータ事業の入口を広げる

別売りのデバイスや追加作業が必要なら、接続できる顧客は一部に限られます。製品へ標準で組み込むと、導入の手間を減らし、継続的なデータ基盤を作りやすくなります。ただし、装備されていることと、顧客が価値を感じて使うことは別です。

自社製品でも、接続率だけでなく、顧客が確認した情報、通知後の行動、保守時間の変化まで追います。データを集めることを目的にせず、顧客の判断や作業がどう変わるかをサービス設計の中心に置きます。

二次利用は「使えるデータ」から考えない

蓄積データを新規事業へ使うとき、「何に売れるか」から考えると顧客の信頼を損なう恐れがあります。先に、どの顧客課題や社会課題を解くか、本人や企業の同意はどう得るか、元の目的とどこが違うかを確認します。

データの精度、更新間隔、欠損、代表性も説明できる状態にします。意思決定へ使うなら、誤差が生じた場合の責任や代替手段も必要です。KOMTRAXの災害時利用は、単に保有データを開放するのではなく、対象地域や提供期間を限定する点も参考になります。

現場データを営業・開発・保守へ戻す

接続データをデジタル部門だけが保有すると、事業全体の改善につながりません。営業は顧客の利用変化を理解し、開発は実環境での使われ方を把握し、保守は優先順位を変えられるようにします。そのためには、共通の顧客ID、閲覧権限、利用目的、更新頻度が必要です。

データが示す事実と、担当者の解釈を分けることも大切です。稼働が少ない理由は、故障、需要減、季節性、現場変更など複数あります。自動判断に任せず、顧客へ確認すべき条件を業務へ組み込みます。

スマートコンストラクション|機械から施工プロセス全体へ広げる

スマートコンストラクションは、建設現場の労働力不足に対応し、生産性を高めるため2015年に始まりました。コマツレポート2025では、2025年3月末時点でグローバル累計約4万現場へ導入されたと説明されています。

ここで事業の対象は、建設機械の性能から施工プロセスへ広がります。現場データを集め、地形をデジタル空間に再現し、分析やシミュレーションを現実の現場へ戻す仕組みです。顧客成果を工程単位で定義すると、製品単体では見えなかった未解決の仕事が事業になります。

顧客の業務を端から端まで描く

施工には、測量、設計データの準備、施工計画、機械操作、進捗確認、出来形管理、報告など複数の工程があります。一部をデジタル化しても、前後を紙や手入力でつなげば、待ち時間や転記が残ります。業務全体を描き、どの情報が次工程へ渡るかを確認します。

自社でも、製品が使われる一場面だけでなく、その前後の準備と判断を観察してください。顧客が自社製品へ情報を入力する前に何を調べ、使用後に何を報告するかを見れば、隣接する価値の候補が見つかります。

デジタルツインは画面ではなく判断の循環で評価する

コマツは、建設現場やIoT機器から集めたデータで地形をデジタル空間へ再現し、分析・シミュレーションの結果を現実の現場へ戻すと説明しています。重要なのは精緻な3D表示そのものではなく、現場の判断や作業が変わる循環です。

導入時には、誰が画面を見るか、異常や遅れをどう判断するか、現場へどの指示を返すかを決めます。閲覧回数より、判断までの時間、計画との差、手戻り、再測量、安全上の出来事がどう変わったかを見ます。

ソリューションの導入障壁を製品側から下げる

コマツレポート2025では、ICT建機やデジタル施工の導入を難しいと感じる顧客がいることを踏まえ、新世代油圧ショベルに3Dマシンガイダンスを標準装備し、購入後すぐに関連アプリや支援を使える方向が示されています。ソフトウェアを別途売るだけでなく、製品と導入支援を接続しています。

自社のデジタルサービスも、機能不足ではなく初期設定、データ準備、教育、既存業務との切替が普及を妨げている場合があります。顧客が最初の価値を得るまでの作業を測り、製品、営業、導入支援のどこで負担を減らすかを決めます。

NEXT STEP

次のステップ

既存製品を、顧客成果へつながる新規事業へ変える。

顧客業務、使える資産、不足能力、最初の実証を整理し、一現場から始める事業案へ落とし込みます。

EARTHBRAIN|単独開発から共創プラットフォームへ進む

コマツ、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所は、2021年にEARTHBRAINを共同で発足させることへ合意しました。発表では、4社の知見、技術を組み合わせ、全メーカーの建機や車両も対象にサービスを提供し、現場全体をオープンプラットフォームでつなぐ構想が示されています。

自社製品だけで現場全体を最適化できないなら、他社機、通信、データ処理、業務設計を組み合わせる必要があります。共創は不足技術を借りる取引ではなく、顧客成果を共同で運営する事業設計です。

共創プラットフォームを事業として成立させる設計項目
設計項目 先に決めること 曖昧な場合に起きる問題 確認する成果
顧客価値 どの現場成果を共同で改善するか 各社機能の寄せ集めになる 安全、生産性、環境、時間の変化
対象範囲 自社・他社のどの機械、データ、工程を扱うか 接続できない箇所が残る 対象現場での接続率と利用率
役割 開発、販売、導入、保守、問い合わせの担当 顧客が窓口をたらい回しにされる 解決時間と引継ぎ回数
データ 取得、利用、共有、保存、終了時の扱い 連携開始後に法務・顧客同意で止まる 同意取得と利用目的への適合
収益 料金、原価、投資、販売責任、更新 一社だけが負担を抱える 顧客単位の継続と粗利
出口 機能停止、契約終了、データ返却、代替 協業を止められず運営が重くなる 終了条件と移行手順の実行可能性

企業間連携では、得意分野の説明より先に、顧客へ一つのサービスとして届ける運営を決めます。基本的な設計項目はオープンイノベーションとはでも詳しく解説しています。

「自社製品だけ」という境界を外す条件を決める

他社製品を接続すれば、顧客は現場全体を管理しやすくなります。一方、自社製品の販売促進と、顧客の全体最適が衝突する可能性があります。プラットフォームの価値を優先する場面と、自社製品の差別化を保つ場面を明文化します。

接続仕様、データ項目、認証、サポート範囲を公開できるかも重要です。個別対応が増えるほど拡張性が下がるため、標準化する部分と有償で個別対応する部分を分けます。

共同出資より運営単位を見る

共創のニュースでは出資比率や参加企業名へ目が向きますが、自社への転用では、どの機能を独立した組織へ移し、誰が顧客契約と開発優先順位を持つかを見る方が実務的です。組織を作っても、親会社ごとの承認が必要なら速度は上がりません。

自社が共同会社を作らない場合でも、案件責任者、顧客窓口、ロードマップの決定者、費用負担、知的財産を一枚にできます。協業契約の締結ではなく、顧客へ提供し続ける運営が動くことを開始条件にします。

共創後も自社のコア能力を更新する

外部パートナーへデジタル機能を任せきると、自社が顧客課題やデータの意味を理解できなくなります。共同開発で得た知見を、製品設計、営業、保守へ戻す仕組みが必要です。何を自社に残し、何を相手へ任せるかは定期的に見直します。

コマツのShonan Innovation Labの紹介では、分散していた研究・開発機能を集約し、技術検討からテストまでを同じ開発棟で進める構造が説明されています。外部共創と同時に、社内の技術連携と検証速度を高めることも必要です。

コマツの事例から学ぶ4つの設計原則

コマツの事例を自社へ移すとき、KOMTRAXやスマートコンストラクションと同じ名称や機能を作る必要はありません。見るべきなのは、どの顧客成果を起点にし、既存資産をどう接続し、事業の境界をどの順番で広げたかです。

次の4原則は、製造業、素材、設備、BtoBサービスなど、既存事業を足場に隣接領域へ進む企業で使えます。模倣する対象は完成したサービスではなく、責任範囲を広げる判断の順序です。

原則1|製品の利用目的を事業定義にする

顧客が製品を買う理由を、「所有したいから」ではなく「どの仕事を終えたいから」と表現します。建機なら掘削や運搬だけでなく、工事を安全に予定通り終えることが上位目的です。自社製品の一つ上の目的を決めると、隣接する工程が見えます。

ただし範囲を広げ過ぎると、何でも支援する事業になります。顧客が対価を払う成果、自社資産が効く工程、改善を測れる指標の三つが重なる範囲へ絞ります。

原則2|データ取得と顧客行動を一対にする

センサーやアプリを導入しても、誰も判断に使わなければ価値になりません。各データ項目について、誰が、いつ見て、何を判断し、どの作業を変えるかを決めます。使われないデータは取得をやめる判断も必要です。

顧客へ返す価値が明確なら、同意やデータ品質の議論もしやすくなります。自社側の分析用途だけでなく、顧客が受け取るレポート、通知、提案、作業変更までを一つのサービスとして設計します。

原則3|導入までの仕事も商品に含める

BtoBのデジタルサービスでは、契約後に初期設定、マスター整備、既存システム接続、現場教育が必要です。ここを顧客任せにすると、受注は増えても稼働しません。最初の価値を得るまでの作業を標準化し、役割と所要期間を示します。

導入支援を無償の付帯業務にせず、必要工数を原価へ含めます。顧客の習熟に応じて、初期支援、定着支援、改善提案のどこを有償化するかを決めます。

原則4|自社単独で解けない境界を明示する

顧客成果に必要な技術や販路をすべて内製する必要はありません。まず自社が持つべき顧客理解、品質責任、コア技術を決め、その外側をパートナーと組みます。委託、提携、共同開発、出資、共同会社は、必要な統制と投資に応じて選びます。

パートナー数を成果にせず、共同で提供した顧客価値、導入数、継続、解決時間を見ます。連携先の探索方法より、選んだ後の役割と出口を先に作ることが重要です。

自社の新規事業へ移す3ステップ

既存製品のデータと顧客業務をつなぎ新規事業を検証する現場のイメージ

自社への転用では、大規模なプラットフォーム構想から始めません。既存顧客の一つの仕事を選び、現在の資産で改善できる範囲を見つけ、短期間で導入と効果を確かめます。

最初の案件で確かめるのは、将来の市場規模ではなく、顧客が実際に行動を変え、対価を払う条件です。「業務を描く→資産を接続する→一現場で測る」の順なら、構想を顧客事実へ早く接続できます。

既存事業を起点に顧客成果へ責任範囲を広げる3ステップ
ステップ 実施すること 成果物 次へ進む条件
1. 業務を描く 顧客の準備、利用、保守、報告を観察し、待ちや手戻りを確認 顧客業務図と未解決の仕事 改善対象と現状値を顧客と合意できる
2. 資産を接続する 製品、データ、顧客接点、技術、人材を一つの価値へ組み合わせる 最小サービス、役割、利用条件 自社が担う理由と不足能力を説明できる
3. 一現場で測る 限定した顧客・現場で導入し、前後差と運用負担を測る 利用記録、効果、原価、副作用 継続、修正、停止を事実で判断できる

3ステップでは、技術検証だけで終わらせず、導入担当、利用者、支払者、運用責任者を確認します。新規事業の検証設計はPoCから事業化へ進む方法も参考になります。

ステップ1|製品の前後で顧客が困る場面を観察する

顧客インタビューで「欲しい機能」を聞くだけでは、現在の業務に埋め込まれた問題を見落とします。実際の作業、判断、引継ぎ、報告を見て、時間、人数、手戻り、事故、停止、費用を記録します。製品へ直接関係しない工程も対象にします。

困り事が大きくても、顧客が変えられない制度や慣行がある場合があります。現場担当者だけでなく、導入責任者、情報システム、購買、安全管理など、変更へ影響する人を確認します。

ステップ2|既存資産と不足能力を同時に置く

自社の強みだけを並べると、提供できる機能の組み合わせになります。顧客成果から逆算し、必要な能力のうち、既存資産で担えるもの、不足しているもの、外部と組むものを分けます。データがあっても分析や導入支援がなければ、別の能力が必要です。

既存部門の協力は無償資源として扱いません。営業の顧客紹介、保守の現場対応、開発の仕様変更に必要な時間を見積もり、案件の原価と責任へ含めます。

ステップ3|一現場で導入から運用まで通す

実証実験では、デモが動くことではなく、顧客業務へ組み込まれ、担当者が使い、結果を基に判断するところまで確認します。導入準備にかかった時間、問い合わせ、例外対応も記録し、継続時の原価へ反映します。

一現場で有効でも、別の顧客へそのまま広げられるとは限りません。顧客固有の設定と共通機能を分け、二件目で必要な追加作業を測ります。再現できる部分が増えてから対象業界や地域を広げます。

導入後の指標と責任を決める

製品販売からサービスへ広げると、売上だけでは進捗を判断しにくくなります。初期には接続、利用、業務変更が先に起き、継続や収益は後から表れます。一方、接続台数やデータ量だけを追うと、顧客成果が生まれないまま運営費が増えます。

段階ごとに、顧客成果、利用、収益、運営の指標をつなぎます。最上位は顧客成果とし、接続数や機能利用は成果へ至る途中の指標として扱います。

製品から現場ソリューションへ広げる事業の評価指標
階層 確認すること 指標例 主な責任者
顧客成果 顧客の仕事が改善したか 工期、停止時間、手戻り、安全、生産性、費用 事業責任者と顧客責任者
利用 サービスが判断と作業に使われたか 接続率、継続利用、通知後の行動、業務適用率 プロダクト責任者
導入 最初の価値までの負担は適切か 稼働までの日数、設定工数、教育、問い合わせ 導入支援責任者
収益 継続可能な経済性があるか 単価、継続、粗利、顧客別支援原価 事業責任者と経理
基盤 他顧客へ再現できるか 共通機能比率、二件目工数、障害解決時間 開発・運用責任者

指標は段階に応じて入れ替えます。探索中に粗利だけを求めず、拡大期に実証件数だけを追わないようにします。新規事業のKPI設計は新規事業のKPI例と選び方で詳しく解説しています。

顧客成果の基準値を導入前に取る

導入後に効果を聞いても、以前の状態が記録されていなければ比較できません。対象工程の時間、人数、手戻り、停止、費用などを導入前に測り、顧客と定義をそろえます。数値化しにくい安全や判断の質は、行動指標と事例を併用します。

自社のサービス以外の要因も記録します。繁忙期、天候、案件規模、担当者経験が変われば結果に影響します。厳密な実験が難しくても、比較条件を残せば次の判断材料になります。

製品部門とサービス部門の責任を分け過ぎない

製品は納品、サービスは利用という別のKPIを持つと、顧客が導入できない問題を押し付け合うことがあります。顧客が最初の価値を得るまでを共同の指標にし、製品仕様、アプリ、営業説明、教育のどこを変えるかを一つの会議で決めます。

ただし責任者は一人置きます。顧客成果、ロードマップ、価格、投資を統合して判断する事業責任者がいなければ、各部門は自分の範囲だけを最適化します。

撤退条件も段階別に置く

顧客価値が確認できない、利用が定着しない、個別対応を減らせない、継続的な粗利が見込めない場合は、修正や停止を判断します。技術が完成していることや、既に投資した金額は継続理由にしません。

一方、成果はあるが自社の販売網や運営能力が不足する場合は、提携、ライセンス、分離も選択肢です。撤退を「事業を捨てる」だけでなく、顧客価値を別の形で残す判断として設計します。

コマツの新規事業に関するよくある質問

コマツの事例を自社の新規事業へ応用する際に生じやすい疑問へ答えます。個別の技術や規模をそのまま比較せず、顧客への責任範囲、使った資産、導入順序を確認してください。

Q. コマツの新規事業の特徴は何ですか

A. 建設機械という既存の「モノ」を土台に、稼働データ、施工プロセス、企業間連携へ価値提供を広げている点です。公式情報でも、製品とソリューションを組み合わせ、顧客の現場全体の課題を解く方向が示されています。本記事では、その広がりを製品・稼働・施工・共創の4段階へ整理しました。

Q. KOMTRAXは新規事業とどう関係しますか

A. KOMTRAXは建設機械の情報を遠隔で確認する仕組みです。新規事業の観点では、販売後にも顧客とつながり、現場データを基に保守や運用、新しい用途へ価値を広げられる基盤として読めます。自社で応用する際は、取得データと顧客が変える行動を一対で設計します。

Q. スマートコンストラクションは建機の機能ですか

A. 単体の建機機能だけではありません。建設現場の施工プロセスをデジタルで可視化し、測量や計画、施工、進捗など現場全体の最適化を目指すソリューションです。製品とデジタルサービス、導入支援を組み合わせて顧客成果へつなぐ点が重要です。

Q. EARTHBRAINはなぜ共同で設立されたのですか

A. 2021年の公式発表では、コマツ、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所の知見や技術を組み合わせ、建設業界のDXを進める目的が示されています。全メーカーの機械や車両も対象にし、現場全体をつなぐには、建機だけでなく通信、センサー、システム、事業開発の能力が必要だからです。

Q. 中小企業もコマツの進め方を応用できますか

A. 大規模なプラットフォームを作る必要はありません。既存顧客の業務を一つ選び、自社製品の前後にある待ちや手戻りを見つけ、保有データや顧客接点で改善できる小さなサービスを一件で試せます。規模よりも、対象、顧客成果、役割、継続条件を限定することが重要です。

まとめ|製品外の顧客成果を一つずつ引き受ける

コマツの公式情報からは、建設機械の高度化に加え、KOMTRAXによる販売後の接点、スマートコンストラクションによる施工工程の最適化、EARTHBRAINによる企業間の共創へ事業範囲を広げる流れを確認できます。自社へ移すべきなのはサービス名ではなく、顧客成果へ責任を広げる順序です。

  • 顧客が製品で終えたい仕事を一段上の目的から定義する
  • 製品、顧客接点、データ、保守網を顧客成果へ接続する
  • 接続数ではなく、顧客の判断や作業が変わったかを見る
  • 導入準備と現場定着を商品と原価へ含める
  • 自社で持つ能力と、外部と組む能力の境界を決める
  • 一現場で効果、運用負担、収益性を確かめてから広げる

まず既存顧客を一社選び、自社製品を使う前後で、顧客が人手でつないでいる作業を書き出してください。そのうち、顧客の損失が大きく、自社の資産で改善できる一つを選べば、既存事業を足場にした新規事業の検証を始められます。

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製品・データ・顧客接点を、次の事業へつなぐ。

既存事業の強みを残しながら、顧客への責任範囲を広げる順序と実行体制を具体化します。

ARTICLE INFORMATION

この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

コマツの企業サイト、ニュースリリース、統合報告書。各参照箇所にリンクを記載しています。

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