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自治体DXは、手続きの後ろから変える|主要8社と事業機会

自治体DXは、オンライン申請を増やせば進むのか。
申請の後ろに、紙と転記が残っていないか。

結論は、受付から審査・通知までを一つの仕事として減らすことです。主要8社の実装と4つの参入方法から、事業の判断材料を整理します。

この記事の結論

自治体DXの成否は、住民向けの画面ではなく、受付から審査・通知までの仕事が減るかで決まります。

  • 基幹20業務の標準化とガバメントクラウド移行は、共通する業務を変える土台になります。
  • 主要8社は、住民接点、窓口、基幹・連携、クラウド、運用という異なる役割を担います。
  • 新規参入は、手続き別SaaS、データ連携、運用一体型BPaaS、共同利用基盤から選びます。

自治体DXというと、オンライン申請や生成AIを思い浮かべるかもしれません。しかし、住民がスマートフォンで申請しても、職員が内容を印刷し、別のシステムへ入力し直していれば、仕事はあまり減りません。

いま自治体では、基幹20業務の標準化、ガバメントクラウドへの移行、書かない窓口が同時に進んでいます。重要なのは、新しい画面を入れることではありません。受付、確認、審査、決裁、通知、記録までを一つの仕事として見直すことです。

本稿では、自治体DXの意味と政策の現在地を整理します。さらに、国内外8社の取り組みを比べ、企業が新規事業として参入できる場所と懸念を考えます。

自治体DXとは、住民接点から庁内業務まで変える取り組み

自治体DXとは、デジタル技術を使い、住民サービスと行政の仕事を作り直す取り組みです。紙をPDFに変えるだけではありません。住民が迷わず手続きでき、職員の確認や転記が減り、結果が早く届く状態を目指します。

デジタル庁は、窓口DXで「書かない、待たない、回らない」を掲げています。住民が同じ内容を何度も書かず、複数の窓口を回らずに済む姿です。同時に、職員の説明、確認、入力も減らします。

ここで大切なのは、住民向けの画面と庁内の仕事を分けないことです。オンライン申請だけを先に入れると、申請後に印刷や転記が残ることがあります。窓口システムだけを入れると、別の課との引き継ぎで紙が戻ることもあります。

自治体DXの成果は、導入したシステムの数では測れません。住民が使えたか、処理時間が短くなったか、職員の作業が減ったかで見ます。デジタルを使いにくい人への支援も、同じ設計の中へ入れる必要があります。

自治体DXで見直す手続き全体
図1:住民接点から庁内処理までを一つの仕事として見る自治体DX。デジタル庁の窓口DX方針をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

標準化と人手不足が、行政手続きの見直しを急がせる

自治体DXが急がれる理由は二つあります。一つは、住民記録、税、福祉など基幹20業務の標準化です。もう一つは、人口減少の中でも行政サービスを保つ必要があることです。

デジタル庁の標準化方針では、約1,800の地方公共団体が個別に作ってきたシステムの負担が課題とされています。制度改正のたびに個別改修が発生し、便利なサービスを全国へ広げにくいからです。

標準化の対象は20の事務です。自治体は原則として2025年度までの移行を目指してきました。一方、移行が2026年度以降となる「特定移行支援システム」もあります。2026年8月時点でも、仕様や移行支援に関する更新は続いています。

標準化は、すべての自治体が同じサービスになるという意味ではありません。共通する基幹業務をそろえ、オンライン申請やデータ連携を広げやすくする土台です。地域ごとの政策や住民支援は、その上で設計します。

ガバメントクラウドも目的ではなく手段です。共同利用、柔軟な拡張、運用監視などの利点が期待されます。ただし、移行後の費用、複数クラウドの運用、ネットワーク、既存システムとの連携は残ります。

人手不足も待ってくれません。窓口、福祉、税、子育てでは、制度を理解した職員の判断が欠かせません。単純な転記や照合を減らし、人にしかできない相談と例外判断へ時間を戻すことが必要です。

自治体DXを動かす三つの圧力
図2:標準化、人手不足、住民体験が同時に自治体DXを押す構造。デジタル庁の公開資料をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

自治体DXの全体像を、六つの仕事でつかむ

自治体の手続きは、申請だけでは終わりません。事業を考えるときは、六つの仕事に分けます。案内、申請、受付、審査、通知、記録です。

最初の案内では、住民が自分に必要な制度を見つけられることが重要です。サイト内検索やチャットだけでなく、質問へ答えると手続きを絞れるガイドも使われています。

申請では、入力のしやすさに加え、本人確認、電子署名、決済、添付書類が必要です。手続きごとに条件が違うため、汎用フォームだけでは足りない場合があります。

受付後は、不備の確認や問い合わせが集中します。ここを設計せずに申請だけ増やすと、職員の仕事が増えます。入力時に誤りを防ぎ、申請データを次の処理へ渡せることが大切です。

審査と決裁には、法令、条例、個別事情が関わります。AIやルール判定は、定型確認を助けられます。しかし、判断理由を残し、職員が修正できる形が必要です。

通知や支払いでは、郵送、口座振込、電子交付など複数の方法を扱います。最後の記録では、処理時間、不備率、問い合わせ内容を残し、次の改善へつなげます。

AIエージェントの記事で扱った自動化も、この六つのどこを任せるかを決めて使います。自治体では、権限、説明責任、誤処理時の復旧を民間以上に明確にする必要があります。

自治体DXを支える主要8社の役割

自治体DX市場は、同じ種類の会社だけでできていません。住民向けサービス、窓口、基幹、クラウド、運用代行では、顧客と責任が違います。

自治体DXを支える五つの層
図3:自治体DXを、住民接点、窓口、基幹・連携、クラウド、運用の五つの層で整理。各社とデジタル庁の公式情報をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

次の表では、8社を主な役割、提供内容、強みに分けて比べます。自社の競合を探すより、前後の工程を担う提携先を見つける読み方が有効です。

自治体DXを支える主要8社の立ち位置
企業 主な役割 提供しているもの 読み取れる強み
Bot Express 住民接点 LINE上の手続き基盤「GovTech Express」 住民が普段使う接点と自治体間のテンプレート共有
グラファー 申請・案内・連携 スマート申請、手続きガイド、外部システム連携 行政手続き向けUXと申請後のデータ連携
NEC 窓口・基幹 スマート行政窓口、標準準拠システム 窓口と大規模な基幹業務を組み合わせる力
TKC 窓口・基幹 TASKクラウド、かんたん窓口 市区町村の基幹業務とガバメントクラウド対応
TOPPANイクイップメント 本人確認・窓口 PASiD scanⅡ、PASiD Face マイナンバーカードを使う対面・非対面の受付
transcosmos 運用・BPO 問い合わせ、事務処理、デジタル運用 システム導入後の大量業務を運営する体制
OpenGov 海外の統合基盤 米国向け公共サービス・ERPクラウド 財務、調達、許認可、資産管理を同じ基盤で扱う
Tyler Technologies 海外の業務ソフト 行政、司法、公共安全、教育向けソフト 公共分野に特化した広い製品群と導入支援

この表から分かるのは、自治体DXが一枚岩ではないことです。住民向けフォームで強い会社が、税や福祉の基幹まで持つとは限りません。基幹に強い会社が、使いやすい案内や日々の問い合わせ運営まで担うとも限りません。

新規参入では、すべてを自社で作ろうとしないことが重要です。自社が握れる一つの工程を決め、前後を担う会社とつなぎます。とくに本人確認、基幹連携、BPOは、早い段階で提携先を決める必要があります。

Bot Expressは、日常のLINEを「スマホ市役所」に変える

Bot Expressは、自治体向けの対話型アプリケーション「GovTech Express」を提供しています。住民は新しい専用アプリを入れず、LINEの公式アカウントから手続きを進められます。

同社の公式情報では、2026年6月時点で全国350以上の自治体が導入しています。予約、申請、給付金、粗大ごみ、防災など、実装される手続きは自治体ごとに異なります。

注目したいのは、入口の便利さだけではありません。自治体職員が手続きを設定し、他自治体の実装例を参考にできる点です。一つの自治体で作った知識が、別の自治体へ広がる構造があります。

埼玉県美里町の給付金事例は、デジタル庁のマイナンバーカード活用事例にも掲載されています。LINE上の申請と本人確認をつなぐ取り組みです。自治体向け事業では、機能よりも「同じ手続きの再利用」が成長を速めると分かります。

一方、LINEで完結させる範囲は慎重に決めます。個人情報、障害時の代替、LINEを使わない住民への経路を用意する必要があります。入口が使いやすくても、受付後に手入力が残れば全体の効果は小さくなります。

グラファーは、オンライン申請の後ろまでつなぐ

グラファーは、「Graffer スマート申請」と「Graffer 手続きガイド」などを提供しています。スマート申請は、フォーム、本人確認、電子署名、決済を行政手続き向けにまとめたサービスです。

同社の北九州市事例では、オンライン申請のデータをkintoneへ自動連携しています。申請を受け取った後に、職員がExcelや別画面へ転記する課題へ踏み込んだ例です。

町田市では、保育施設の入園事務について、申請受付から点数付け、基幹連携までを一つの流れへ変える取り組みを進めています。同社は年間5,800時間以上の削減見込みを公表しています。これは町田市の対象業務と設計に基づく見込みであり、他自治体へそのまま当てはまる数字ではありません。

重要な示唆は、オンライン化の価値が申請数ではなく、後続工程で決まることです。申請データを何へ渡し、どの確認を自動化し、例外を誰が直すかまで決める必要があります。

NEC・TKCは、書かない窓口と基幹の標準化を担う

NECは、「スマート行政窓口ソリューション」を提供しています。デジタル庁のサービスカタログでは、書かない窓口の入力支援、職員が帳票を追加できる機能などが示されています。

NECの強みは、窓口だけでなく基幹業務やクラウド移行まで扱える点です。ただし、大規模な統合は関係部署が増えます。導入時には、どの課のどの処理時間を減らすかを先に決める必要があります。

TKCは、市区町村向けの「TASKクラウド」シリーズと「かんたん窓口システム」を展開しています。2026年度の自治体窓口DXSaaS提供事業者にも選ばれました。同社の2026年公表資料では、顧客市町村の標準準拠システムとガバメントクラウドへの移行も進めています。

両社に共通するのは、制度改正と基幹業務への対応です。新興企業が住民向けの体験を速く変える一方、大手や専門ベンダーは、税、住民記録、福祉など止められない仕事を支えます。

新規参入者にとっては、基幹を置き換えるより、標準化後も残るデータ連携、例外処理、職員支援へ入る方が現実的です。基幹ベンダーと競うのではなく、前後の摩擦を減らす役割を考えます。

国内外のGovTechから見える、実装の違い

自治体DXの実装は、住民向け画面だけでは決まりません。本人確認、運用、部門横断の基盤、公共分野への理解という四つの違いから、国内外の企業を見ていきます。

TOPPANイクイップメントは、本人確認を窓口へ組み込む

TOPPANイクイップメントは、マイナンバーカードを使う窓口製品を提供しています。製品名は「PASiD scanⅡ」と「PASiD Face」です。デジタル庁は、2026年に大阪府豊中市の活用例を紹介しました。

対面ではカードから情報を読み取り、申請書への記入を減らします。非対面では本人確認を含む手続きにつなげます。ここでの価値は、カードを読む機械ではありません。窓口、申請書、本人確認、職員操作を一つの流れへ入れることです。

transcosmosは、導入後の仕事を運用として引き受ける

transcosmosは、自治体や行政向けに、問い合わせ対応、事務局、デジタル運用などを提供しています。自治体DXでは、給付金や制度変更のたびに件数が大きく変わります。繁忙期の人員、研修、品質管理まで扱える運用会社の役割は大きくなります。

BPOの記事で整理したように、BPOは単なる人の派遣ではありません。手順、権限、品質指標、改善を業務単位で引き受けます。自治体向けでは、個人情報、再委託、事故対応の管理がさらに重要です。

OpenGovは、部門別ソフトを一つの公共サービス基盤へまとめる

米国のOpenGovは、財務、予算、調達、許認可、資産管理、住民問い合わせなどを公共サービス基盤として提供しています。2026年の公式サイトでは、2,000以上の政府機関が利用するとしています。

日本の自治体へ同じ製品をそのまま移す話ではありません。学べるのは、申請フォーム単体ではなく、部門をまたぐデータと業務を共通基盤へ寄せる発想です。統合が進むほど、権限と監査ログの設計が重要になります。

Tyler Technologiesは、公共分野に特化して業務を広げる

Tyler Technologiesは、行政、司法、公共安全、教育など公共分野向けソフトを広く提供しています。同社の公式情報では、支払い、ERP、許認可など自治体の基幹的な仕事を対象にしています。

特徴は、汎用ソフトを公共向けに売るのではなく、制度と業務へ深く合わせている点です。公共調達では、機能の多さだけでなく、制度改正への対応、導入支援、長期運用が選定理由になります。

自社は自治体DXのどこへ入れるか

顧客接点、ソフトウェア、運用、地域網から近い入口を確認します。

01 自治体や住民との接点がある

件数の多い手続きを選び、案内から通知までを変える入口があります。

  • 対象業務と担当課を特定できる
  • 現行の処理時間を測れる
  • 利用できない住民も把握できる
02 データ連携に強い

申請データを基幹へ渡し、二重入力を減らす入口があります。

  • 標準仕様を追える
  • 例外とエラーを監視できる
  • 事故時の責任を決められる
03 業務運用に強い

問い合わせ、不備確認、入力代行までをBPaaSとして担えます。

  • 繁忙期の人員を確保できる
  • 個人情報を管理できる
  • 改善を契約へ入れられる
04 地域を束ねられる

複数自治体の共同利用と運営事務局を担えます。

  • 費用分担を調整できる
  • データ権限を決められる
  • 退出時の条件を用意できる

NEXT STEP

次のステップ

デジタル機能を、職員の仕事が減る事業へ。

住民接点、受付、審査、通知、基幹連携、運用を整理し、自社が継続して担える入口を設計します。

自治体DXで新規事業を作る四つの入口

自治体DXは大きな市場に見えます。しかし、「自治体向けDXをやる」という構想では広すぎます。自社の資産から、住民接点、連携、運用、小規模自治体の共同利用のどこへ入るかを決めます。

自治体DXで狙える四つの参入方法
図4:自社資産から選ぶ自治体DXの四つの参入方法。主要企業の実装例をもとにイノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

次の表は、各参入方法について、最初に解く課題、提供内容、提携先、確認事項を対応させたものです。自社が持つ資産に最も近い一行から検討します。

自治体DXへ新規参入する四つの方法
参入方法 最初の顧客課題 提供するもの 提携先 最初に確かめること
手続き別SaaS 申請や予約が紙・電話に残る 案内、申請、本人確認、通知 ID、決済、基幹ベンダー 対象件数、不備率、利用できない住民
データ連携 オンライン申請後に転記が残る API、データ変換、エラー監視 申請SaaS、基幹ベンダー 標準仕様、例外率、責任分界
運用一体型BPaaS 職員が設定・問い合わせまで抱える SaaSと受付・不備確認・入力代行 BPO、地域人材、セキュリティ 月別件数、教育時間、再委託条件
共同利用基盤 小規模自治体が個別調達できない 共通テンプレート、共同窓口、運営事務局 都道府県、町村会、地域SI 合意形成、費用配分、退出条件

四つを同時に始める必要はありません。手続き別SaaSやデータ連携で業務を知り、運用や共同利用へ広げる順序も考えられます。

手続き別SaaSは、狭い業務から横展開する

最初の入口は、粗大ごみ、施設予約、給付、子育てなど、件数が多い手続きを選ぶ方法です。利用者と担当課がはっきりしているため、導入効果を測りやすくなります。

ただし、フォームを作って終わりにしません。不備確認、通知、台帳更新までを調べます。一つの手続きで型を作り、似た自治体へテンプレートとして広げます。

データ連携は、申請後の二重入力を減らす

二つ目は、住民向けサービスと基幹システムの間へ入る方法です。標準仕様に沿って、入力内容を変換し、誤りを検知し、処理結果を返します。

価値は接続本数ではなく、手作業の削減です。基幹側の仕様変更、文字、住所、添付書類、例外処理を扱える必要があります。誤ったデータを書き込んだ場合の戻し方も決めます。

運用一体型BPaaSは、職員の仕事を純減させる

三つ目は、ソフトウェアと業務運用を一緒に提供する方法です。初期設定、住民向け案内、問い合わせ、不備確認、入力代行までを組み合わせます。

自治体にとっては、導入作業が増えにくい利点があります。事業者には、採用、教育、繁忙期、品質管理の負担があります。AIで一部を自動化しても、人が必要な例外の件数を原価へ入れます。

共同利用基盤は、小規模自治体を面で支える

四つ目は、複数自治体がサービスと運用を共同利用する方法です。一団体ごとに同じ仕様書と運用体制を作らず、県や広域連合などがまとめます。

技術より、合意形成と運営が難しい事業です。費用負担、データ権限、変更手続き、退出時のデータ返却を決めます。地域のSI事業者や金融機関が、事務局として価値を出せる余地があります。

自治体DXへ参入するときの七つの懸念

第一は、調達までが長いことです。予算要求、RFI、仕様書、公告、審査、契約という流れがあります。公募が出てから営業を始めても、顧客の課題を理解する時間が足りません。

第二は、単年度予算と長期運用のずれです。システムは何年も使いますが、費用は年度ごとに審査されます。初期費用を抑えても、利用量やクラウド費が増えると継続が難しくなります。

第三は、個人情報とセキュリティです。誰が、何の目的で、どのデータへ触れるかを決めます。委託先の再委託、ログ、事故連絡、データ削除まで契約へ入れます。サイバーセキュリティの記事も参照してください。

第四は、アクセシビリティと利用格差です。スマートフォンや日本語を使いにくい人もいます。オンライン、対面、電話を別々に作るのではなく、同じ業務へつながる入口として設計します。

第五は、例外処理です。住所表記、世帯、代理申請、添付不足など、行政手続きには例外があります。自動化率だけを追うと、難しい案件を人へ押し戻し、かえって負担が増えます。

第六は、ベンダーロックインです。画面、データ、業務手順が一社だけの形式になると、乗り換えにくくなります。データ出力、API、標準仕様、契約終了時の移行支援を確認します。

第七は、成果の測り方です。アカウント数やフォーム数だけでは、住民と職員の価値が分かりません。完了率、処理日数、不備率、問い合わせ回数、職員時間、利用できなかった人を測ります。

リスキリングの記事で扱ったように、導入後の仕事と役割を変えなければ、研修だけでは定着しません。自治体DXでも、担当課が自分で改善できる体制が必要です。

参入・提携・待機・見送りをどう決めるか

自治体DXへの参入は、技術の新しさで決めません。顧客接点、制度知識、本人確認、基幹連携、運用体制のうち、何を自社が持つかで決めます。

自治体DX事業への参入判断
図5:保有資産と責任範囲から選ぶ、自治体DX事業の参入・提携・待機・見送り。イノベーション総研作成。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

参入してよいのは、対象業務と担当課が明確で、処理件数と現行時間を測れ、事故時の責任範囲を決められる場合です。一つの自治体だけの受託開発にせず、再利用できる部分も見えています。

提携を選ぶのは、住民向けの使いやすさは作れても、本人確認や基幹連携がない場合です。逆に、BPO網はあってもソフトウェアを持たない会社は、申請SaaSやAI企業と組めます。

待機すべきなのは、現行業務を測れていない場合です。処理件数、繁忙期、例外率、問い合わせ、担当者の時間が分からないと、効果も原価も置けません。

見送るべきなのは、実証の採択だけを売上と考える場合です。また、AIの判断を職員が確認できない、データを返せない、デジタルを使えない住民への代替経路がない事業も見送ります。

長期的な強みは、機能数ではありません。制度改正を反映する力、他自治体へ移せる業務テンプレート、例外処理の運用データ、改善を続ける体制です。

自治体DXについてよくある質問

自治体DXを検討するときに、自治体と参入企業の双方から出やすい疑問を整理します。

Q. 自治体DXとデジタル化は何が違いますか

A. デジタル化は、紙や対面の処理をデジタルへ置き換えることです。自治体DXは、住民体験、業務手順、組織、データの使い方まで見直します。オンライン申請を入れても転記が残るなら、変革は途中です。

Q. 自治体DXで最初に取り組みやすい業務は何ですか

A. 件数が多く、手順が比較的そろい、担当課と成果を測りやすい業務です。予約、申込、証明、粗大ごみ、給付などが候補です。件数だけでなく、不備率と後続作業も確認します。

Q. 書かない窓口を入れれば、窓口DXは完成しますか

A. 完成しません。デジタル庁も、SaaSの導入だけでは不十分と説明しています。窓口とバックヤードの業務を見直し、案内、申請、審査、通知までつなぐ必要があります。

Q. ガバメントクラウドへ移れば、費用は必ず下がりますか

A. 必ず下がるとは限りません。共同利用や柔軟な拡張の利点はあります。一方、移行、ネットワーク、運用監視、データ転送、既存連携の費用もあります。移行前後で同じ条件を置いて比べます。

Q. 民間企業が自治体DXへ参入するには何が必要ですか

A. 対象業務の制度理解、公共調達への対応、情報管理、導入後の運用が必要です。すべてを持たない場合は、基幹ベンダー、本人確認、BPO、地域事業者との提携を先に設計します。

Q. 自治体DXの成果は、何で測ればよいですか

A. 住民側は完了率、待ち時間、来庁回数、問い合わせ回数で見ます。職員側は処理時間、不備率、転記回数、例外対応時間で見ます。使えなかった住民の数も確認し、便利さの偏りを防ぎます。

自治体DXは、手続き全体を減らしてこそ意味がある

自治体DXは、住民向けの画面を新しくするだけでは完成しません。申請後の確認、審査、決裁、通知、記録までをつなぎ、住民と職員の負担を同時に減らす必要があります。

Bot Expressとグラファーは、使いやすい住民接点と申請の横展開を進めています。NECとTKCは、窓口と基幹業務を支えます。TOPPANイクイップメントは本人確認、transcosmosは運用を担います。OpenGovとTyler Technologiesは、公共分野に特化した統合基盤の可能性を示しています。

企業の参入機会は、手続き別SaaS、データ連携、運用一体型BPaaS、共同利用基盤の四つです。自社の資産と責任範囲を決め、前後の工程を担う会社と組むことが出発点になります。

スマートシティの記事が都市全体のデータとサービスを扱うのに対し、本稿の自治体DXは行政手続きと庁内業務が中心です。両者を混ぜず、誰のどの仕事を減らすかを明確にすると、事業の輪郭が見えてきます。

参考文献

制度、実装状況、企業の提供内容は、次の一次情報を中心に確認しました。

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住民体験、庁内業務、データ連携、公共調達、責任分界を一つの事業構造にし、参入・提携・待機・見送りの判断を支援します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

デジタル庁、およびBot Express、グラファー、NEC、TKC、TOPPANイクイップメント、transcosmos、OpenGov、Tyler Technologiesの公式資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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