新規事業の立ち上げ・事業化を支援するプロフェッショナルファーム

新規事業フレームワーク20選|目的別の選び方と使い方

新規事業には、どのフレームワークを使えばよい?
20の手法を、目的と使った後の行動から選びます。

新規事業のフレームワークは、市場や顧客、事業の仕組みを整理するための道具です。有名な型を順に埋めるのではなく、次に決めたいことを一つにし、必要な手法を2〜3個へ絞ることから始めます。この記事では、3C分析、SWOT分析、リーンキャンバス、MVPなど20の手法を四つの目的別に紹介します。似た手法の違い、使う場面、結果から次に確かめることまで解説します。さらに、工場向けサービスの架空例と判断メモの記入例を使い、分析シートを実際の検証や会議の結論へつなぐ方法を整理します。初めて企画を担当する方も、いま必要な道具から読み進められます。

この記事のポイント

  • 新規事業で使う20の手法を、目的別に選べる
  • 市場を比べる、顧客を知る、事業を組み立てる、検証する、の違いを押さえる
  • 最初は2〜3個を目安にし、同じ内容を別のシートへ転記しない
  • 分析の結果に、次に確かめること・判断する人・期限を添える

目次

新規事業のフレームワークは「何を決めたいか」で選ぶ

フレームワークとは、考える観点や情報の整理方法を示した型です。新規事業では、市場の比較、顧客の理解、収益の仕組みづくりなど、目的によって使う型が変わります。名前を知っているものから順番に埋める必要はありません。

中小企業基盤整備機構のJ-Net21の解説も、課題と進め方を明らかにして、目的に合う道具を選ぶことを重視しています。イノベーション総研では、この考え方を「次の会議で何を決めるか」という一文に置き換えて使います。問いが具体的になるほど、調べることと使う型を絞れるためです。

たとえば「新規事業を考える」では広すぎます。「最初に話を聞く顧客を決める」「候補の市場を一つに絞る」まで狭めてください。次の表から、自分たちの問いに近い行を選ぶと、読み始める場所が分かります。

いま決めたいことと、最初に使う手法の対応
いまの問い 最初の候補 使った後に決めること
どの市場から始めるか 3C分析、TAM/SAM/SOM 優先する顧客の範囲と、調べる前提
顧客は何に困っているか ジョブ理論、カスタマージャーニー 確かめたい場面と、話を聞く相手
どの価値をどう事業にするか バリュープロポジションキャンバス、リーンキャンバス 最も不確かな顧客・価格・提供条件
何を試せば次へ進めるか MVP、KPIツリー、ステージゲート 今回の検証範囲と、結果を受けた選択肢

表の候補を全部使う必要はありません。同じ問いに答える道具を増やすより、足りない証拠を集めることを優先します。この記事では分析の型に加えて、顧客理解の考え方や、MVPのような検証手法も広く紹介します。

初めて使う場合は、選んだシートを一度だけ粗く埋めてみます。「分からない」と残った欄のうち、結論を大きく変えそうなものが、次に調べる対象です。空欄をなくしてから顧客に会おうとすると、社内の想像を整える時間ばかりが長くなります。

市場とアイデアを検討する8つのフレームワーク

市場の候補を増やすときと、候補を比べて絞るときでは、必要な作業が違います。次の8手法のうち、マンダラートとSCAMPER法は主に発想を広げる道具です。ほかの手法は、外部環境や自社の条件から案を見直す際に使います。

1. 3C分析|顧客・競合・自社を並べ、狙う市場を考える

3C分析は、顧客・市場、競合、自社の三つの視点から、どこで価値を出せるかを考える手法です。顧客が困っていること、現在選ばれている解決方法、自社が提供できることを、同じ市場の範囲でそろえます。

たとえば工場向けのサービスなら、競合製品だけでなく、表計算や手作業も顧客の選択肢です。自社の機能が多いことだけで優位とは決めず、「いまの方法から変える理由」を確認してください。整理後は、その理由を確かめる顧客を選びます。定義はJ-Net21の3C・SWOTの解説でも確認できます。

2. SWOT分析|自社の強みを、外部の機会につなげる

SWOT分析は、強み・弱みという社内の条件と、機会・脅威という社外の条件を整理します。四つの欄を埋めた後に、「この強みで、どの機会を取りに行くか」「この弱みを残したまま参入できるか」を考えます。

「技術力がある」「市場が伸びている」だけでは、案を比べられません。どの技術が、どの顧客の仕事で役立つかまで具体化します。社内で強みと思っていても顧客が評価するとは限らないので、選ばれた理由や利用実績と照らして見直します。

3. PEST分析|社会の変化が、事業の前提をどう変えるかを見る

PEST分析では、政治・経済・社会・技術の変化を整理します。目的はニュースの収集ではなく、需要、提供コスト、販売条件などに影響する変化を見つけることです。

たとえば人手不足を機会と考えるなら、「どの業務で、どの時間帯に人が足りず、現在いくら負担しているか」へ掘り下げます。変化と事業への影響を一組で書き、情報の基準日を残してください。制度や技術条件が変わったら、どの仮説を再確認するかも決めます。

4. 5フォース分析|市場の大きさだけでなく、利益の残りやすさを見る

5フォース分析は、既存企業との競争、新規参入、代替品、買い手、売り手の五つの力から業界の競争構造を捉えます。ハーバード・ビジネス・スクールの解説では、業界の魅力や利益の分かれ方を理解する枠組みとして示されています。

市場が成長していても、顧客が簡単に他社へ乗り換えられたり、重要な部材を一社に頼ったりすると、利益を確保しにくくなります。分析後は、最も強い圧力を一つ選び、価格以外で選ばれる条件や、供給先を替えられるかを調べます。

5. TAM/SAM/SOM|市場全体から、自社が獲得できる範囲へ絞る

TAMは対象となる市場全体、SAMは提供範囲や条件から対象にできる市場、SOMはそのうち実際に獲得を目指せる範囲を考える枠組みです。金額を置く前に、対象顧客、地域、商品、期間をそろえます。

「大きな市場の1%を取る」という計算だけでは、売上計画の根拠になりません。接点を持てる顧客数、営業体制、契約に必要な期間、提供能力から積み上げます。初期段階で率を決められないときは、まず会える顧客の範囲を具体的にしてください。

6. VRIO分析|保有する技術や資産を、使える強みかどうか確かめる

VRIO分析は、経営資源を価値、希少性、模倣されにくさ、それを活かす組織の観点から見ます。技術や特許を持っているだけでなく、それを顧客への価値と事業運営へつなげられるかを検討します。

珍しい技術でも、顧客の課題に役立たなければ事業上の強みとは言い切れません。販売や保守を担う体制がない場合も、資産を活かす条件が不足しています。分析後は、強みを証明する事実と、社内・外部で補う能力を分けてください。

7. マンダラート|中心テーマから、アイデアの切り口を広げる

マンダラートは、中央のテーマの周囲に関連する要素を書き出し、さらに発想を広げる方法です。最初から一つの製品案に決めず、用途、対象者、使う場面などを洗い出したいときに向きます。

たとえば「工場の点検を楽にする」を中心に置き、点検順、記録、引き継ぎ、部材の準備などへ展開します。発想の数は需要の証拠ではありません。書き終えたら、実際に困っている人へ話を聞ける案を選び、顧客理解の手法へ移ります。

8. SCAMPER法|既存の製品や仕事を、別の形へ変えて考える

SCAMPER法は、置き換える、組み合わせる、応用する、変更する、別の用途に使う、取り除く、並べ替える・逆にする、という切り口で発想を変える方法です。既存の製品や業務があり、その用途や提供方法を広げたいときに使います。

たとえば、点検機器そのものを売る案から、点検結果を届けるサービスへ考え直すことができます。ただし、発想が新しいだけでは購入理由になりません。変えた部分が顧客の負担を減らすか、提供側の仕事が増えすぎないかを確認します。

候補が十分に出ているなら、発想法を追加する必要はありません。優先する市場や顧客を決めたい場合は、新規事業戦略の決め方も参考に、比較する条件をそろえてください。

顧客の課題と提供価値を確かめる4つの手法

この段階で知りたいのは、顧客像の細かさではなく、何に困り、なぜ今の方法を選んでいるかです。四つの手法は「誰を見るか」「どの場面を見るか」「何を実現したいか」「どんな価値が合うか」を、それぞれ違う角度から整理します。

1. ペルソナ|話を聞く相手と、その人の状況を具体化する

ペルソナは、検討対象となる顧客を具体的な人物像として共有するための道具です。新規事業の初期には、役割、困る場面、現在の対処、購入への関わりなど、検証に必要な項目を優先します。

年齢、趣味、休日の過ごし方を詳しく書いても、今回の購買や利用に関係しなければ判断材料は増えません。想像で置いた項目には「仮説」と記し、顧客への聞き取り後に更新します。次に会う相手を選べる内容になったかで確認してください。

2. カスタマージャーニー|購入前から利用後までのつまずきを見つける

カスタマージャーニーは、顧客の行動や接点を時系列で整理する方法です。情報を探す、比較する、申し込む、使う、継続する、といった流れに沿って、どこで手間や不安が生まれるかを見ます。

たとえば「興味はあるが導入されない」場合、製品の機能ではなく、社内申請や初期設定で止まっているかもしれません。感情の変化を想像するだけでなく、実際にした作業や発言を記録します。最も重要なつまずきを選び、その場面を観察することが次の行動です。

3. ジョブ理論|顧客が、その状況で実現したいことを探る

ジョブ理論は、顧客が特定の状況でどのような前進を求めるかに注目します。Christensen Instituteの解説でも、属性や製品の特徴だけでは説明できない選択の理由を捉える考え方として説明されています。

「高性能な点検機器が欲しい」という要望の背景には、「急な故障でも、明日の生産計画を説明できるようにしたい」という目的があるかもしれません。直近に困った場面と、そのとき選んだ対処を聞きます。顧客が実現したい結果と、必要だと考える機能を分けると、別の解決策も検討できます。

4. バリュープロポジションキャンバス|顧客の困りごとと、自社の価値を対応させる

バリュープロポジションキャンバスは、顧客の用事、困りごと、望む成果と、自社の商品・サービスが生む価値の対応を整理します。Strategyzerの公式解説も、その対応を顧客の証拠で確かめることを重視しています。

顧客が困っているのは記録の手間なのに、自社は検知精度だけを訴えていないか、といったずれを見つけます。自社が提供できることと、顧客が変えたいことが重なる部分を確かめます。記入方法はバリュープロポジションキャンバスの書き方と記入例で詳しく解説しています。

フレームワークを選ぶ前に、いまの困りごとを確認

近い状態を開くと、先に確認することと、次に読む場所が分かります。

01 顧客の存在|誰の困りごとを解くかが曖昧

顧客の役割と、実際に困った場面を確かめます。

  • 次に会う相手を決めたか
  • 直近の行動を聞いたか
  • 現在の対処を知っているか

顧客理解の手法を見る →

02 収益の設計|価値はあるが、事業の仕組みが見えない

価値と、活動・収益・費用をつなげます。

  • 費用を払う人は誰か
  • 料金を受け取る対象は何か
  • 提供する仕事を洗い出したか

事業を組み立てる手法を見る →

03 実行体制|試したいことはあるが、検証を動かせない

必要な範囲と、実行する担当を整理します。

  • 今回試す範囲を絞ったか
  • 顧客と実施条件を合意できるか
  • 実行する担当者がいるか

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04 経営の本気度|資料はあるのに、会議の結論が出ない

今回の判断と、判断する人を明らかにします。

  • 会議で決めることは一つか
  • 判断者と範囲を合意したか
  • 次に判断する日を決めたか

会議の問いの決め方を見る →

05 社内の協力体制|部門ごとに前提や優先順位が違う

同じ案件をどう見ているか、違いを整理します。

  • 顧客の見立てを共有したか
  • 確認済みと予想を分けたか
  • 協力が必要な部門を特定したか

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06 撤退の規律|分析と検証が続き、やめる条件がない

結果を受けて継続・修正・停止を比較します。

  • 崩れたら案を変える前提は何か
  • 今回使う時間と費用を決めたか
  • 前回の判断理由が残っているか

判断メモの記入例を見る →

NEXT STEP

次のステップ

分析を、顧客への検証と実行につなげたい方へ

使う手法は選べても、顧客への確認や検証を動かす体制が足りない場合があります。イノベーション総研の新規事業立ち上げ支援では、検証設計、試作、初期顧客への提供、事業化の準備を支援します。

新規事業の戦略と収益の仕組みを組み立てる5つの手法

複数の指標やグラフを表示したノートパソコン

顧客への価値が見えてきたら、誰に届け、どの仕事を担い、何に対して料金を受け取るかをつなげます。次の五つは、対象市場、事業全体、成長方向、活動のつながりを見る手法です。すべてのシートで同じ全体像を描き直す必要はありません。

1. STP|顧客を分け、最初に狙う相手と選ばれる理由を決める

STPは、市場を分ける、対象を選ぶ、競合と比べた立ち位置を定める、という三つの観点です。新規事業では「誰でも使える」から一歩進み、まず誰に価値を届けるかを決めるときに役立ちます。

たとえば工場を業種だけで分けるのではなく、点検の頻度、担当者の人数、設備停止の影響で分けると、困り方の違いが見えます。自社に都合のよい二軸で位置づけるのではなく、顧客が比較する条件を確認してください。最初の対象と、今回は対象にしない顧客を明確にします。

2. リーンキャンバス|初期の事業仮説を一枚にし、危うい前提を探す

リーンキャンバスは、課題、顧客、提供価値、解決策、収益、費用などの事業仮説を一枚で共有する道具です。開発元のLEANSTACKは、ビジネスモデルキャンバスをスタートアップ向けに適応した形式として紹介しています。

初期の案では、欄の完成度より「これが違えば事業案が成立しない」という前提を見つけることが重要です。顧客が課題を重く感じているか、費用を払う相手がいるかなど、最も影響の大きい仮説を一つ選びます。その仮説を、聞き取りや小さな試作で確かめてください。

3. ビジネスモデルキャンバス|価値を届ける仕事と、お金の流れをつなぐ

ビジネスモデルキャンバスは、顧客、提供価値、販路、顧客との関係、収益、資源、活動、協力先、費用の九つの要素から事業全体を捉えます。Strategyzerの公式解説では、事業モデルの説明、設計、見直しに使う道具とされています。

販売部門は月額サービスを考えているのに、開発部門は個別受託を前提にしている、といった不整合を見つけるのに役立ちます。初期仮説の危うさを探るならリーンキャンバス、活動や協力先まで全体を合わせるならこちら、という選び分けができます。詳しくは新規事業のビジネスモデルの考え方をご覧ください。

4. アンゾフの成長マトリクス|市場と製品の、どちらを新しくするか分ける

アンゾフの成長マトリクスは、市場と製品をそれぞれ既存・新規に分け、成長の方向を整理します。既存顧客への販売拡大、新しい市場への展開、新製品の投入、新市場・新製品への展開を区別できます。

既存顧客へ新しいサービスを売る案と、初めての顧客へ初めての製品を売る案では、確かめる前提が異なります。四つの位置を成功しやすさの固定順位にせず、顧客接点、技術、販売方法のうち、今回新しく必要になるものを確認してください。

5. バリューチェーン分析|どの仕事が、顧客の価値と費用を左右するかを見る

バリューチェーン分析では、価値を届けるための活動を分け、それぞれの費用や差別化への貢献を見ます。新規事業なら、調達、開発、提供、販売、利用後の支援など、自社案に必要な仕事を並べます。

画面上は同じサービスでも、導入支援や故障対応の質が選ばれる理由になる場合があります。単なる業務一覧で終えず、顧客にとって重要な活動を特定してください。そのうえで、内製する仕事と外部に任せる仕事、社内に残す責任を決めます。

仮説を試し、次の投資につなぐ3つの手法

事業案を整理した後は、顧客が実際にどう行動するかを確かめます。ここでは、小さく試すMVP、変化を見るKPIツリー、次へ進むかを決めるステージゲートを紹介します。三つは同じ書式ではなく、検証と判断をつなぐ異なる役割を持ちます。

1. MVP|一つの重要な仮説を、最小限の形で試す

MVPは、重要な事業仮説について顧客から学ぶための最小限の製品や提供方法です。Lean Startupの公式方法論も、作ること自体より、実験から学び、続けるか方向を変えるかを判断することを重視しています。

点検順の提案に価値があるかを知りたいなら、初めから自動連携システムを作る必要はないかもしれません。担当者が作った点検順を届け、現場の使い方を見る方法もあります。ただし安全や情報管理に必要な対応は省けません。小さくするのは検証の範囲であり、必要な安全性ではありません。

2. KPIツリー|目標を、確かめられる要素に分ける

KPIツリーは、最終的な目標と、その変化に関わる指標を分解して示します。たとえば同じ月の売上を「契約社数×一社当たり売上」に分けるように、どの要素を調べ、改善するかを考えます。

新規事業の初期は、商談数や試作品の数を増やすだけでは需要を判断できません。試した顧客が再び使ったか、提示した条件で有償利用へ進んだかなど、仮説に対応する事実を追います。指標同士の関係は確定した因果とは限らないため、実測と照らして更新します。KGIとKPIの違いと決め方も参考になります。

3. ステージゲート|段階ごとに、次へ進む条件と投資を決める

ステージゲートは、作業を進める段階と、次の段階へ進むかを判断する場を分ける仕組みです。Stage-Gate Internationalの説明でも、活動を行う段階と事業評価・継続可否を決めるゲートを区別しています。

自社へ取り入れる際は、資料の提出を通過条件にしないことが重要です。何を確かめたら次の予算を使えるか、誰が判断するかを決めます。証拠が足りなければ修正や追加検証、重要な前提が崩れたら停止も選べるようにします。全体の流れは新規事業の立ち上げプロセスで整理しています。

フレームワークを2〜3個に絞る、課題別の組み合わせ例

最初の組み合わせは、情報を整理する手法と、その前提を確かめる手法に分けると考えやすくなります。2〜3個は作業を増やしすぎないための目安であり、成功を保証する数ではありません。一つで問いに答えられる場合は、一つで十分です。

次の表では、手法の名前ではなく、次に確かめることが変わるかを見てください。すでに確認済みの部分に、別のシートを追加する必要はありません。

課題別に選ぶ手法と、結果を確かめる行動
困っていること 組み合わせ例 次に確かめること
市場は大きいが、最初の顧客が見えない 3C分析+TAM/SAM/SOM 接点を持てる顧客と、現在使っている代替手段
顧客の要望は聞いたが、提供価値が定まらない ジョブ理論+バリュープロポジションキャンバス+MVP 実際に困る場面と、提案した方法で行動が変わるか
試作は評価されたが、有償化できるか分からない リーンキャンバス+MVP+ステージゲート 支払う相手、料金の条件、有償検証へ進むための根拠

表の三つ目であれば、新たに市場分析を増やすより、費用を負担する人へ条件を確かめる方が問いに近づきます。大規模投資や規制・安全性が関わる案件では、これらに加えて必要な専門検討を行ってください。

架空の例|点検支援サービスを、顧客理解から小さな検証へ進める

センサー技術を持つ企業が、工場向けの点検支援サービスを検討する例を考えます。以下は説明のための架空例であり、実在企業の実績ではありません。今回の問いは「点検順の提案を、顧客が現場で使う価値があるか」です。

まずジョブ理論で、直近に点検順を決めた場面を聞きます。「設備の異常を知りたい」という一般的な要望だけでなく、急な故障が重なったとき、誰と相談し、どの情報で順番を決めたかを確認します。

次にバリュープロポジションキャンバスで、困りごとと提供価値を対応させます。聞き取りから点検順の説明に時間がかかると分かったなら、検知精度の高さだけでなく、「点検順とその理由を短時間で共有できる」価値を仮説にします。

その価値をMVPで試します。本番設備を自動制御せず、顧客と合意した範囲で点検順の候補を提示し、現場の担当者が使い方と判断理由を記録する方法です。実際の利用、安全上の制約、運用の手間を観察し、料金や購入条件は費用負担者へ別に確認します。

使われなければ、困りごとの見立てか提案方法を変えます。使われても運用負担が大きい場合は、その負担を減らすまで対象を広げません。シートを完成させたことではなく、顧客の行動と残った条件から次を決めます。

分析シートを、次の判断につなげる3ステップ

新規事業を進めるうえで、最大の障壁として挙がった項目

意思決定スピードの遅さ22.1%(196名)
目標・指標や撤退基準が曖昧15.9%(141名)
経営層の理解・コミットメント不足15.1%(134名)
全社戦略上の位置付け・方針が不明確14.4%(128名)
適切な人材の不足6.6%(59名)
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)。最大の障壁として1位に選ばれた上位5項目。

大企業で新規事業に関わった888名への調査では、最大の障壁として意思決定の遅さを挙げた回答が最多でした。次いで、目標・指標や撤退基準の曖昧さが挙がっています。図は、最大の障壁として1位に選ばれた上位5項目を示しています。

イノベーション総研は、この結果から、分析の内容と「結果を使って決める仕組み」を一緒に点検する必要があると考えます。資料はあるのに会議が進まない案件では、分析を増やす前に、足りないものが顧客の証拠なのか、判断する人や条件なのかを分けます。

1. ステップ1|今回決めることと、判断する人を一文にする

「市場を調べる」ではなく、「事業責任者が、初期の検証対象とする顧客を選ぶ」のように書きます。資料を作る担当者と、予算や進め方を決める人が別なら、その違いも確認してください。

ここで決める範囲を小さくすることも有効です。最終的な事業化の承認ではなく、限定した顧客への検証を始める判断であれば、今回必要な証拠と費用を絞れます。次の会議の前に、判断者とその範囲を合わせておきます。

2. ステップ2|事実・解釈・未確認を分け、不足する証拠を集める

顧客が実際にした行動は事実、その行動から担当者が考えた理由は解釈、まだ確かめていない購入条件は未確認です。これらを一つの欄に混ぜると、担当者の予想が、確認済みの前提として引き継がれてしまいます。

たとえば「面談先が便利だと話した」は発言の記録ですが、「有償で継続する」は別の仮説です。発言の日時や状況を残し、次は価格を提示したときの判断や、継続利用の行動を確認します。すべての欄を詳しくするのではなく、今回の結論を左右する前提から確かめてください。

3. ステップ3|判断・担当・期限を、分析結果の隣に残す

シートを説明し終えたら、今回の判断と、次に確かめることを記録します。「引き続き検討する」だけで終わらず、誰が、何を、いつまでに確認するのかを残すことで、次回は前提の変化から話を始められます。

次の表は、その記入例です。項目の数を増やすことが目的ではないので、手元の議事録やシートに追記しても構いません。

分析結果に添える判断メモの記入例
残す内容 点検支援サービスの架空例
今回決めること 点検順の提案を、限定した現場で試すか
確認済みと未確認 点検順の説明に手間があることは聞き取り済み。現場での使いやすさと料金の受容は未確認
今回の判断と理由 本番導入ではなく、手作業での限定検証へ進む。利用行動を先に確かめるため
判断者・担当者 事業責任者が判断し、検証担当者が顧客と実施条件を調整する
期限と見直す条件 合意した検証終了日に再判断。使われない、または運用負担が大きい場合は提案を修正する

これで、新しい型を使う理由も明確になります。次の判断を変える材料が増えないなら、フレームワークを追加しません。根拠はあるのに関係者の見方が合わない場合は、新規事業リスク診断(Compass)で、認識の違いと判断材料を整理する選択肢もあります。

新規事業フレームワークについて、よくある質問

初めて使うときや、いくつも手法が候補になったときに迷いやすい点を整理しました。手法の知名度より、現在の問いと持っている情報に合うかで選んでください。

Q. 最初の一つを選ぶなら、どのフレームワークがよいですか?

A. 市場を選ぶなら3C分析、顧客が困る場面を深めるならジョブ理論、事業仮説の全体像を見るならリーンキャンバスが候補です。万能な一つを探すのではなく、次に決めたいことから選んでください。

Q. フレームワークは、必ず2〜3個使う必要がありますか?

A. 必ずではありません。2〜3個は作業を増やしすぎないための目安です。一つで問いに答えられるなら追加は不要です。新しい情報や判断材料が増える場合だけ、役割の異なる手法を組み合わせます。

Q. リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスは、両方必要ですか?

A. 同じ内容を転記するだけなら、両方は不要です。初期案の危うい仮説を見つけるならリーンキャンバス、活動・資源・協力先まで事業全体をそろえるならビジネスモデルキャンバスが候補になります。現在の問いに合う方を選びます。

Q. 空欄が埋まらない場合は、どうすればよいですか?

A. 想像で埋めず、未確認と残してください。その中から結論を大きく変えそうな前提を選び、誰に聞くか、何を調べるか、どの小さな検証で確かめるかを決めます。すべての欄を埋めることが目的ではありません。

Q. AIにフレームワークを作らせてもよいですか?

A. 観点の洗い出しや情報の整理には使えます。ただし、AIが生成した顧客像や市場数値を確認済みの事実として扱わないでください。一次情報や顧客の行動と照合し、出典を確認できない箇所は仮説または未確認として残します。

本記事のまとめ|次に決めたいことから、使う道具を絞ろう

新規事業に使えるフレームワークは多数ありますが、同時に使う数を増やす必要はありません。市場を比べる、顧客を知る、事業を組み立てる、検証する、という目的を分け、現在の問いに必要なものを選びます。

まず、次の会議で決めたいことを一文にしてください。その問いに合う手法を選び、事実と未確認を分け、判断者・担当者・期限を添えます。完成した資料の枚数ではなく、「何が分かり、次に何をするか」を説明できる状態を目指しましょう。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

中小企業基盤整備機構 J-Net21、Harvard Business School、Christensen Institute、Strategyzer、LEANSTACK、Lean Startup、Stage-Gate Internationalの公式解説。本文に原典リンクを掲載。調査:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、大企業の新規事業関与者888名)。点検支援サービスの記入例は架空です。

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