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デジタル治療(DTx)は承認だけでは売れない|国内外9事例

デジタル治療(DTx)は、承認を取れば医療現場に広がるのか。
医療ソフトウェアを持たない企業は、どこから参入できるのか。

結論は、治療、診療導線、継続利用、支払いを一つにすることです。国内外9事例と4つの参入方法から、事業化の条件を整理します。

この記事の結論

DTxは、承認後の診療導線と継続利用まで設計して初めて事業になります。

  • 健康アプリとは、目的、臨床根拠、規制上の位置づけが異なります。
  • 国内外9事例は、製薬連携、人の支援、流通基盤へ事業を広げています。
  • 参入企業は、対象患者、医療者、最初の支払者を一組で決めます。

DTxは、ソフトウェアで治療を届ける仕組みです。デジタルセラピューティクス、デジタル治療、治療アプリとも呼ばれます。

スマートフォンのアプリが中心になるため、健康管理アプリの高機能版に見えるかもしれません。しかし、DTxは病気や障害の治療を目的にし、効果と安全性を臨床試験で確かめます。

製品によっては、医師が処方し、医療機器として規制を受けます。

難しいのは、良いアプリを作ることだけではありません。承認を得た後も、医師が説明しにくい、患者が続けられない、病院の作業が増える、費用を払う人が決まらない、といった問題が残ります。

本記事では、DTxの意味と仕組み、国内外9事例を整理します。そのうえで、新規事業として参入できる4つの入口を考えます。

参入・提携・待機・見送りを分ける判断軸も示します。

デジタル治療(DTx)とは?ソフトウェアが治療を届ける仕組み

DTxは、ソフトウェア自体が治療を届ける仕組みです。目的、臨床根拠、規制上の位置づけを確認します。

Digital Therapeutics Allianceは、DTxをソフトウェアによる治療と説明しています。病気や障害などを治療または軽減し、治療効果を示せるものです。

例えば、認知行動療法を毎日の課題に落とし込むもの、生活習慣の改善を患者ごとに案内するもの、ゲームを通じて注意機能を訓練するものがあります。いずれも単に記録するだけでなく、ソフトウェア自体が治療の一部を担います。

使い方は製品によって異なり、単独で使うもの、薬と一緒に使うもの、医師や療法士の治療を補うものがあります。医療機関で処方コードを受け取り、患者が自分のスマートフォンで数週間から数か月使う製品もあります。

日本で規制対象となるプログラム医療機器は、医療目的があり、意図したとおりに動かないときに生命・健康へ影響を与えるおそれがあるソフトウェアです。PMDAの説明では、影響がほとんどない一般医療機器相当のものを除いています。

アプリという形や「健康支援」という名称だけで判断せず、使用目的、機能、不具合時のリスクを確認します。

大切なのは、デジタルで健康を支えることと、デジタルで治療することを分けて考えることです。

DTxと健康アプリ、オンライン診療、医薬品の違いを示す図
図1:DTxと周辺サービスの役割を示す概念図。製品ごとの医療機器該当性は、目的とリスクを踏まえて判断します。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

デジタル治療と健康アプリは、目的・根拠・規制が違う

健康の記録、診療の通信、治療の提供を区別すると、必要な検証と責任を見誤りにくくなります。

歩数、睡眠時間、食事を記録する健康アプリは、日々の健康づくりに役立ちます。ただし、病気の治療効果をうたわず、医療機器として承認を受けていないものも多くあります。

オンライン診療は、医師と患者を通信でつなぐ診療の方法です。一方、DTxは、その診療の中や診療と診療の間で、患者へ治療内容を届けます。

つまり、両者は組み合わせられますが、同じものではありません。

服薬管理アプリや遠隔モニタリングも区別が必要です。飲み忘れを防ぐ、血圧や血糖を医師へ送るといった機能は、治療を助けます。

しかし、記録や通信だけでDTxになるわけではありません。ソフトウェアがどの治療を行い、どの結果を改善するのかが必要です。

さらに、「治療アプリ」と呼ばれる製品でも、承認された使用目的や対象患者は製品ごとに異なります。記事や営業資料でDTxと健康アプリを一括りにせず、製品ごとの承認内容を確認してください。

この違いを曖昧にすると、必要な臨床試験、薬事手続き、品質管理、販売方法を見誤ります。

DTxの現在地は、承認から継続利用へ移っている

承認・保険適用・利用開始・事業の採算は別の関門です。対象患者数だけで売上を見積もりません。

国内では治療補助アプリの保険診療への導入が進んでいます。CureApp HTに加え、Medcleは2026年6月1日に保険適用・販売開始となりました。

ENDEAVORRIDEも同年6月の保険適用の対象となり、6月5日に発売されています。

厚生労働省の2026年5月の保険適用資料(冊子15・20ページ)に示された保険償還価格は、Medcleが24,100円、ENDEAVORRIDEが14,500円です。これは患者の窓口負担額や開発企業の利益ではありません。

同年6月適用の算定通知には対象患者、医師・医療機関などの条件があり、診察・指導管理とアプリの価格も分けて考えます。

一方、米国のPear Therapeuticsは、2023年4月に連邦破産法11条の適用を申請し、事業・資産の売却を目指すと発表しました。規制当局の許可と、事業を継続できる収支は別の問題です。

申請だけから治療効果の否定や単一の経営破綻原因を導くことはできません。

確認するのは、患者への紹介、医師の説明時間、登録・利用開始、治療完了、支払いまでの各段階です。どこで利用が止まり、誰に追加の負担が生じるかを測ります。

市場規模を比較する場合は、対象を処方型DTxに限定しているのか、健康管理やオンライン診療まで含めているのかを先に確認します。異なる範囲の予測値を、そのまま自社が獲得できる売上としないことが重要です。

自社の事業判断では、対象患者数から、製品の適応・保険条件を満たす人数、実際に処方される人数、利用を始める人数へ絞ります。完了率は治療と運用の指標として別に測り、契約上の売上計上時点と一致するかを確認します。

支払者が見る成果も分けて考えます。患者にとっては症状や生活の改善、医療機関にとっては診療時間と業務負担への影響、保険者や企業にとっては医療費や休業への影響が重要です。

そして、三者の価値がつながる製品ほど、継続契約を説明しやすくなります。

架空例:1,000人の患者候補を、そのまま売上へ掛けない

説明用に、候補1,000人のうち適応・保険条件を満たす割合50%、そのうち処方に至る割合40%、処方後の開始率80%と仮定すると、利用開始は160人です。その75%が完了するなら120人になります。

いずれも実績や業界平均ではなく、事業計画の計算例です。

材料価格に1,000人を掛けるのではなく、自社が受け取る単価・契約条件と、医療機関への導入費、患者支援、保守、臨床・薬事の費用を積み上げます。開始と完了を分ければ、利用者を増やす営業の課題と、治療を続けてもらう運用の課題も見分けられます。

DTxが臨床根拠から継続利用と支払いへ進む事業化の流れ
図2:当研究所による事業化の確認事項。法定の順序ではなく、支払者や診療運用は開発の早期から検討します。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

事業構造は、治療・データ・ケア・流通の4層で見る

治療・データ・ケア・流通の4層から、自社で担う仕事と提携先の責任を決めます。

DTx事業を理解するには、スマートフォン画面ではなく、その後ろにある4つの層を見ます。

第一は、治療の中核です。具体的には、認知行動療法(考え方や行動のくせを見直す心理療法)、行動変容、認知訓練などを、どの順番で患者へ届けるかを設計します。

また、対象疾患、使用期間、注意事項、治療の終わり方も含まれます。

第二は、患者の回答、利用状況、症状、センサー情報を扱うデータの層です。ここでは、何を集め、どの判断へ使い、誰が見られるかを決めます。

さらに、個人情報と医療情報を守るだけでなく、ソフトウェアの更新後も効果と安全性を追い続けます。

第三は、医師、看護師、心理職、理学療法士、コーチなどが関わるケアの層です。ここでは、アプリが人の仕事を置き換えるのか、人が対応できない時間を補うのかを決めます。

その役割によって、必要な人員と責任が変わります。

第四は、流通と支払いの層です。具体的には、医師の処方、病院への導入、保険請求のほか、企業の福利厚生や製薬会社との提携も選択肢になります。

そのうえで、誰が買い、どの成果に対価を払うかを決めます。

DTx産業を治療、データ、ケア、流通の4層で整理した図
図3:治療・データ・ケア・流通という当研究所の事業整理。法的な責任を限定する図ではなく、安全・品質は複数の役割に関わります。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

4層の一部だけを持つ企業も参入できます。ただし、自社の層と、医療上の責任を持つ相手、患者へ届ける相手を契約でつなぐ必要があります。

4層を一社で抱えると、開発費と固定費が重くなります。反対に分業しすぎると、障害や離脱が起きたときに責任が曖昧になります。

患者から見た窓口を一つにし、裏側では役割を明確に分ける設計が必要です。

たとえば、治療の中核を持つ企業は、診療と流通を提携で補えます。また、医療IT企業は、複数製品の導入とデータ連携を共通化できます。

さらに、保険者は、対象者の選定と成果連動(成果に応じて支払額が変わる方式)の支払いを担えます。このように、自社の資産から近い層を選ぶと、無理な垂直統合を避けられます。

国内外9事例で見るDTxの現在地

9事例は、何を提供し、どの段階まで確認できたかで比較します。臨床効果と商業上の成功は分けて読みます。

以下では、治療用ソフトウェア、製薬企業と連携する患者支援、人を含むデジタルケア、再建手続きの事例を分けて紹介します。9事例のすべてが同じ国で承認されたDTxではなく、疾患や試験条件も異なります。

製品の効果を順位づける表ではなく、担う仕事と事業化の段階を比較する表です。

9事例の役割と、確認できる事業化の段階
企業・製品 担う役割 確認できた段階 比較するときの注意
CureApp HT 診療と家庭での生活習慣改善を接続 国内承認・保険診療で提供 診療負担や採算は別に測る
サスメド Medcle 不眠の認知行動療法をアプリで支援 2026年6月保険適用・発売 175人の試験結果と現在の算定条件を区別
塩野義・Akili ゲーム型の小児ADHD治療補助 国内試験を経て2026年6月発売 海外製品と対象・処方条件が異なる
大塚・Click:Rejoyn 抗うつ薬使用中の外来治療を補助 2024年FDAクリアランス・米国発売 主要解析と別の解析で統計的結論が異なる
GAIA 疾患別の治療を共通基盤で開発 70超の製品開発を自社説明 開発数は承認数・成功数ではない
Sidekick・Pfizer アトピー性皮膚炎の患者支援 2022年に英国からの展開を発表 24市場への拡大は当時の計画
Hinge Health 運動と人の支援を組み合わせる 筋骨格系ケアを提供 サービス全体を処方型DTxとしない
Omada Health 多疾患のデジタルケア 保険者・雇用主向け基盤を提供 費用削減の予測と実績を分ける
Pear Therapeutics 処方DTxの開発・販売 2023年にChapter 11申請 臨床効果や単一の経営原因を断定しない

すべてを同じ市場として足し合わせると、規制、収益、責任の違いが見えなくなります。何を治療するかだけでなく、誰が使わせ、誰が支払い、途中で離脱した患者に誰が対応するかまで確認します。

国内外9事例を規制型、製薬伴走型、ハイブリッド型、撤退例に分けた図
図4:9事例の事業上の役割。国内承認、米国の認可、患者支援、再建手続きを区別し、試験結果や発表時点は本文に記載しています。 スマートフォンでは左右に動かすか、画像を開くと拡大できます。

CureAppは、診察と家庭の行動をつないだ

CureApp HTは、成人の本態性高血圧症の治療補助を目的とする国内承認製品です。患者が血圧や行動を記録し、生活習慣の改善に取り組む一方、医師はその記録を診療時の指導に用います。

公式案内では最大6か月のプログラムとされています。

事業上の着目点は、アプリと診療をつなぐ役割です。アプリの利用履歴だけでなく、患者が実践した内容を医師が確認し、次の指導へ生かせるようにしています。

医療機関への導入説明、患者の開始支援、診療上の確認作業まで含めたサービス設計が参考になります。

ただし、診療に組み込めることと、診察時間の短縮や企業の採算が実証されていることは別です。自社で応用する際は、医師・スタッフに増える作業も測り、臨床上の価値と運用負担を両方確認します。

サスメドは、不眠の認知行動療法を日常へ届ける

サスメドのMedcleは、不眠障害の治療を支援するアプリとして2026年6月に発売されました。7日間の睡眠衛生指導と睡眠表の後に、8週間の不眠の認知行動療法を行う構成です。

睡眠に関する習慣や考え方を、日々の課題を通じて見直します。

PMDA審査報告書の主要臨床試験(冊子19・23ページ)では、20歳以上の不眠障害患者175人を、治療用アプリと比較用のシャムアプリに割り付けました。8週時点のAISの平均変化は、アプリ群87人で6.7点低下、対照群88人で3.3点低下でした。

AISは不眠の程度を測る尺度で、低下が改善を表します。群間差は3.4点で、統計的に有意な差が報告されています(p<0.001)。

ここから読み取れるのは、試験で定めた対象・期間・比較条件での改善です。「睡眠アプリなら効く」「全利用者が治る」「利益が出る」とは意味が違います。

事業側は、この臨床上の価値を、対象患者が開始・継続できる運用へつなぐ必要があります。

保険算定の条件は、薬物療法に適さない、または同意しない軽症〜中等症の成人外来患者を基本とし、睡眠障害治療薬の服用、所定の併存疾患、交代勤務・夜勤などの除外条件があります。所定の研修を修了した医師による管理等も必要です。

条件の詳細と治療の適否は、現行の添付文書・通知を踏まえて医師が判断します。

塩野義製薬は、ゲーム型治療を医療流通へつないだ

塩野義製薬は2026年6月5日、ENDEAVORRIDEの発売を発表しました。小児ADHDの治療補助を目的とし、Akiliの技術を日本の臨床開発と医療流通へつないだ例です。

同発表によると、国内第3相試験は6〜17歳の164人を対象に、環境調整や心理社会的治療を続ける通常治療群と比較しました。6週時点のADHD-RS-IV不注意スコアの変化で統計的に有意な改善を報告しています(p<0.05)。

市販ゲーム一般の効果や、長期の学業成績を示す結果とは区別します。

Akiliの米国製品には処方型のEndeavorRxと成人向け一般販売のEndeavorOTCがありますが、国内のENDEAVORRIDEと利用条件は同一ではありません。国内保険診療では、算定通知に定める患者・医療機関・使用回数等の条件を確認します。

参考になるのは、技術のライセンスだけで完結させず、国内の患者を対象にした検証と、処方・説明・管理の導線を用意したことです。海外で展開されているから日本でも同じ売り方ができる、とは考えないことが重要です。

大塚製薬とClickは、薬との併用を製品の前提にした

Rejoynは、大うつ病の症状を軽減する処方型DTxです。FDAの資料では、抗うつ薬を使用する22歳以上の患者に対し、医療者が管理する外来治療へ追加する用途が示されています。

6週間の感情・認知訓練と学習を含み、薬の代替や単独治療ではありません。

2024年3月にFDAの510(k)クリアランスを取得し、大塚製薬は同年8月、米国子会社による発売を発表しました。Click Therapeuticsとの開発と、医療者の処方からアプリを利用する流れを組み合わせています。

効果を読む際にも確認が必要です。FDA公表資料のMirai試験では、主要解析対象の354人では、6週時点のうつ症状尺度MADRSの変化の群間差は1.78点で、事前に定めた有意水準を満たしませんでした(p=0.0568)。

一方、割付された全386人を対象にした別の解析では、差2.12点、p=0.0211と報告されています。対象集団と解析方法を省いて、良い数字だけを使うべきではありません。

事業への示唆は、規制上の認可、どの解析で示された効果か、保険・販売の成立を分けて確認することです。対象患者、比較治療、主要評価項目、継続利用を、開発と提携の初期段階でそろえます。

Hinge HealthとOmadaは、ソフトウェアに人の支援を重ねる

Hinge Healthは筋骨格系のケアで、アプリによる運動、3Dの動作確認、理学療法士やコーチ等の支援を組み合わせています。ソフトウェアだけでなく、人が運動内容や患者の状況に関わるサービスです。

同社が提供する個別の医療機器と、サービス全体の位置づけは分けて確認します。

Omada Healthも、糖尿病、高血圧、予防・体重管理、筋骨格系のケアに、コーチや専門家を組み合わせています。保険者・雇用主向けには、導入、登録、請求、成果の説明までをサービスとしてまとめています。

両社を、すべてが処方型DTxであるかのように一括りにはしません。ソフトウェアによる反復支援と、人の判断・支援の分担が参考になります。

ただし、人件費、対応時間、医療機関への引き継ぎも費用として計画する必要があります。

経済性の資料を読む際は、医療費の削減見込みと実測値を分けます。例えばOmadaの紹介ページにはモデルによる予測を含む総削減額があり、サービス料金を差し引いた純削減額や、導入企業すべての実績と読み替えることはできません。

GAIA・Sidekick・Pearの軌跡が示す事業化の難しさ

GAIAは、対話型の共通技術基盤brocaを複数の疾患領域に利用しています。同社が示す「70超」はこれまでに開発した製品数であり、70すべての承認・販売・利益を意味するものではありません。

共通化できる機能と、疾患別に検証する治療内容を分ける点が参考になります。

Sidekick Healthの2022年発表は、Pfizerと連携したアトピー性皮膚炎の患者支援を、英国から展開する取り組みです。生活習慣や治療継続を支える機能を組み合わせています。

同発表の24市場は将来の展開計画であり、この資料だけで全市場への導入完了や治療成果を認定しません。

Pear Therapeuticsの2023年4月の発表では、連邦破産法11条の適用を申請し、事業全体または資産の売却を目指す間、縮小した運営を続ける方針が示されています。承認済み製品を持つ企業でも、資金と事業運営の課題は残ると分かりますが、この発表だけから破綻原因を一つに絞ることはできません。

当研究所が参入時に確認すべきと考えるのは、患者一人を利用開始へ導く費用、支援・保守の継続費、誰がいつ払うか、販売が遅れた際の資金です。臨床試験と規制対応の予算に加え、発売後の導入・運用予算まで用意します。

9事例から見えるDTx市場の空白

導入支援、継続支援、データ連携、開発・運用支援について、実際の負担と支払意思を確かめます。

以下は事例から当研究所が整理した事業仮説です。未充足の需要や支払意思が実証済みという意味ではなく、医療機関・患者・支払者への確認から具体化します。

第一の候補は、治療を始めるまでの運用支援です。医師の説明、患者登録、端末設定でどこに負担があるかを確認し、医療機関ごとの導入・患者支援・請求業務を補う余地を探します。

第二は、離脱を減らす仕組みです。毎日の課題が負担になる人や、改善を実感できずに通知を見なくなる人がいるため、離脱の兆候を見つけ、必要なら人へつなぐ運用が必要です。

第三は、複数の治療をまたぐデータ連携です。電子カルテ、薬、検査、ウェアラブルがすでに別々にある中でDTxのデータまで分かれると、医師は全体を判断しにくくなります。

そのため、必要な情報だけを診察前に要約する接続機能が求められます。

第四は、製薬・医療機器企業向けの開発・運用支援です。疾患の知識や顧客接点を持つ企業でも、ソフトウェア品質、薬事、臨床試験、患者サポートのすべてを内製するとは限りません。

不足する仕事と外部委託の予算を具体的に確認します。

SaMDの記事で扱う開発基盤と接点があります。また、ブレインテックの記事で扱う神経データも関係します。

さらに、フェムテックの記事で扱う女性特有の課題にも応用できます。そして、疾患別の診療導線へ組み込むことで、事業機会が具体化します。

自社はDTx事業のどこへ入れるか

治療、製薬伴走、複合ケア、流通から近い入口を確認します。

01 疾患知見と臨床研究に強い

治療アルゴリズムと臨床根拠を作り、製品の中核を担います。

  • 対象患者を絞れる
  • 臨床試験を設計できる
  • 薬事と品質の責任を持てる
02 製薬・医療機器の顧客基盤を持つ

既存治療と組み合わせ、患者の診察間を支えます。

  • 疾患別の販売網がある
  • 患者支援へ広げられる
  • 共同開発先を選べる
03 医療人材と運用に強い

アプリの反復支援と、人による例外対応を組み合わせます。

  • 医師や療法士と連携できる
  • 危険時の引継ぎを決められる
  • 継続率を運用で改善できる
04 医療ITと流通に強い

導入、患者登録、請求、データ連携を共通基盤にします。

  • 医療機関の業務を理解する
  • 複数製品へ標準化できる
  • 問い合わせと障害へ対応できる

NEXT STEP

次のステップ

治療ソフトウェアを、使われ続ける事業へ。

患者、医療者、臨床根拠、薬事、支払い、運用責任を一つの事業構造に整理します。

DTxの新規事業は、4つの入口から考える

治療開発だけでなく、患者支援や運用からの参入も考えられます。担当する機能に応じた安全管理が必要です。

第一は、治療の中核をつくる参入です。これには、疾患領域の専門家、臨床研究、治療アルゴリズムを持つ企業が向きます。

その分、臨床試験と薬事の責任が重く、開発期間も長くなりますが、製品の中心を持てます。

第二は、製薬・医療機器の伴走サービスです。既存製品を使う患者へ、生活支援、副作用の記録、服薬継続、診察間の学習を提供します。

つまり、薬そのものを作らなくても、治療体験とデータの設計で参入できます。

第三は、人を含むハイブリッドケアです。具体的には、アプリ、オンライン診療、看護師、心理職、療法士、コーチを組み合わせます。

そのうえで、ソフトウェアが毎日の支援を担い、例外や危険な兆候を人へ引き継ぎます。

第四は、医療機関への導入、患者登録、問い合わせ、保険請求、電子カルテ連携、実利用データを支える流通と運用の基盤です。複数のDTxを扱えれば、個別製品に依存しない事業をつくれます。

どの入口でも、最初に対象疾患、患者、医療者、支払者を一組にします。「多くの慢性疾患に使える基盤」から始めると、臨床上の価値と営業先がぼやけます。

デジタル治療の懸念は、薬事・効果・継続・支払いに集まる

効果だけでなく、利用継続、安全対応、更新、情報管理、支払いまでを設計します。

最初に確認するのは、薬事上の位置づけです。目的、機能、リスク、表示・広告を整理し、SaMD一元的相談窓口等で確認します。

医療機器該当性、薬事開発、医療保険は相談の範囲が異なるため、承認の相談だけで保険や広告も解決したと考えないことが重要です。

次に、臨床試験と日常診療の利用条件の違いを確認します。開始率、完了率、離脱理由を追うとともに、症状・安全性と医療者の負担も評価します。

アプリを長く使うこと自体を、治療効果と同じ指標にしないことが重要です。

三つ目は、ソフトウェアの更新です。OSや外部サービスの変更だけでなく、治療内容や画面の変更も影響するため、品質と安全性を確認してから公開します。

四つ目は、医療情報とサイバーセキュリティです。症状、服薬、行動などの情報を扱うため、必要なデータと利用目的、権限、保存期間、事故対応を設計します。

個別の法令・指針への適合は専門家と確認します。

五つ目は、責任の境界です。全アプリが急変や危険な症状を自動検出するとは限りません。

検出できる範囲と限界、患者からの相談への対応時間、医療者へ連絡する条件を明示し、製品会社・医療機関・支援会社の担当を決めます。

最後は支払いです。患者、医療保険、企業、製薬会社のどこが対価を負担するかを確認し、その契約で評価する成果を定めます。

症状の改善、診療負担、治療継続、医療費への影響を一つの指標にまとめず、測定方法と費用を合意します。

参入・提携・待機・見送りは、臨床責任で分ける

参入の基準はアプリ開発力だけでなく、臨床根拠・責任体制・患者への導線・費用負担がそろうかです。

参入は、対象疾患の専門性と臨床試験の体制を持つ場合に向きます。品質管理や医療機関への導入力も必要です。

すべてを自社で持つ必要はありません。ただし、治療上の責任を引き受けます。

提携は、強い資産が一部にある場合の選択肢です。たとえば、製薬会社は疾患と販売網、IT企業はソフトウェア基盤、保険者は支払いと利用者、医療法人は診療運用を持っています。

そこで、足りない層を互いに補い、一つの患者導線へつなぎます。

待機は、技術はあるものの、対象患者と支払者が決まらない場合です。広い基盤を先に作らず、疾患を絞り、医療機関や製薬会社との関係をつくります。

治療用製品として必要な根拠や安全管理、問い合わせ・事故対応を用意できない場合は、その形での参入を見送ります。健康増進サービスを選ぶ場合も、名前だけを変えて治療機能を提供するのではなく、実際の機能と表示に合う規制対応が必要です。

判断の中心は、アプリを作れるかではありません。患者へ治療を届け、その結果と安全に責任を持ち、対価が続く運用をつくれるかです。

DTxに関するよくある質問

事業の検討で生じやすい疑問を整理します。個別の治療選択は医師に相談してください。

Q. DTxは健康アプリと何が違いますか?

A. DTxは、病気や障害の治療または軽減を目的にします。ソフトウェア自体が治療を届けます。健康アプリは記録や健康づくりが中心です。製品の目的、臨床根拠、規制上の位置づけを確認します。

Q. DTxは医師の処方が必要ですか?

A. 製品と国の制度によって異なります。日本の保険診療で使うアプリには、医師の処方や管理が必要なものがあります。米国にも処方型DTxがあります。一方、一般向けの製品もあります。

Q. デジタル治療は薬の代わりになりますか?

A. 一部は単独で使われますが、すべてが薬を置き換えるわけではありません。薬と併用するもの、医師の指導や認知行動療法を補うものもあります。製品ごとの対象患者と治療上の位置づけが重要です。

Q. DTx企業はどこで収益を得ますか?

A. 保険診療の材料価格や技術料があります。保険者・雇用主との契約もあります。製薬会社との共同開発やライセンス、患者の自己負担も選択肢です。支払者が求める成果で事業モデルが変わります。

Q. DTxへ参入するのに医療機関は必要ですか?

A. 治療の中核を開発する場合は、臨床研究、医師の管理、実際の診療導線が必要です。運用基盤や患者サポートで参入する場合も、医療機関との連携が欠かせません。単なるアプリ開発会社だけでは完結しにくい領域です。

Q. DTx事業で最初に決めることは何ですか?

A. 対象疾患と患者、使う医療者、最初の支払者を一組にします。その後、ソフトウェアが担う治療を決めます。人へ引き継ぐ条件、評価する成果、薬事上の位置づけも整理します。

まとめ|DTxは、治療効果を運用へつなげて初めて事業になる

治療の根拠を、患者が使い始めて続けられる診療運用と、継続できる収支につなげることが事業化の条件です。

DTxは、治療をソフトウェアで届ける新しい方法です。患者は診察室の外でも治療へ取り組めます。

認知行動療法、生活習慣の改善、認知訓練などを広げられる可能性があります。

国内では2026年に不眠障害と小児ADHDの治療補助アプリが保険適用となり、選択肢が増えました。海外では、医薬品との併用、人を含むハイブリッドケア、複数疾患に使う共通基盤が進んでいます。

一方、承認だけでは事業になりません。医師が使える診療導線、患者の開始と継続、問い合わせと事故対応に加えて、支払者が確認できる成果も示す必要があります。

新規参入では、治療の中核、製薬企業の患者支援、人を含むケア、流通・運用支援から役割を決め、不足する機能を提携で補います。いずれも担当業務の安全・品質・データ保護の責任は残ります。

DTxの競争力は、画面の美しさではありません。治療が必要な患者へ届き、続き、医療者が判断でき、結果に応じた対価が回る仕組みにあります。

参考文献

製品の用途・臨床試験・制度・事業段階の確認に用いた一次資料です。

情報確認日:2026年9月28日。制度と製品の適用条件は変更されるため、導入時は現行の添付文書・通知等を確認してください。

本記事は事業検討のための整理であり、個別の診断・治療を勧めるものではありません。事業への示唆は当研究所の考察、人数の試算は架空例です。

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対象患者、診療導線、臨床責任、最初の支払者、提携先を整理し、参入・提携・待機・見送りを支援します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

Digital Therapeutics Alliance、PMDA、厚生労働省、FDA、SEC、CureApp、サスメド、Akili、GAIA、Sidekick Health、Hinge Health、Omada Healthの公式資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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