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EU炭素国境調整措置(CBAM)で輸出実務はどう変わる?2026年対応

CBAMは、EUが輸入品の製造時に出た炭素へ価格を付ける制度です。日本語では「炭素国境調整措置」と呼ばれます。

2025年までの移行期間は、EUの輸入者が排出量を報告する段階でした。2026年1月からは本格運用に入り、排出量が証書費用へつながります。鉄鋼やアルミの日本メーカーにも、EU側の取引先から製品別の排出量や計算根拠を求める動きが広がります。

ここで必要なのは、会社全体の年間CO2を出すことではありません。どの工場で、どの製品を、どの材料とエネルギーで作ったかをたどり、対象製品に含まれる排出量を示すことです。

CBAM対応の中心は、報告書を一度作ることではなく、工場データと貿易実務を製品単位でつなぐことです。本記事では、制度、対象、日本企業の対応、国内外9社の取り組み、新規事業の参入余地を順番に説明します。

この記事の結論

CBAM対応の中心は、報告書ではなく、輸出品の排出量を工場からEU輸入者までつなぐ運用です。

  • 2026年から本格運用に入り、鉄鋼・アルミ・肥料・セメントには輸入者単位の年間50トン基準が導入されました。
  • 国内外9社は、貿易、工場、製品別排出量、供給者連携、検証・財務という異なる入口から支援しています。
  • 参入の入口は、対象判定、業界特化PCF、供給者回収BPaaS、検証準備・費用管理の四つです。

EU炭素国境調整措置(CBAM)とは?輸入品にも炭素価格を反映する制度

CBAMは、Carbon Border Adjustment Mechanismの略です。EU域外から輸入する一部の製品について、製造時の排出量に応じた費用を求めます。

EU域内の工場は、EU排出量取引制度で炭素費用を負担します。一方、規制の弱い国で作った製品だけが安くなると、EUの生産が域外へ移る可能性があります。これが「カーボンリーケージ」です。

欧州委員会は、輸入品にも域内品と同等の炭素価格を反映し、この移転を防ぐ制度としてCBAMを運用しています。

法的な義務を負うのは、原則としてEUの輸入者か間接通関代理人です。一定量を超える輸入者は「認定CBAM申告者」となり、輸入品に含まれる排出量を年次申告します。その量に応じたCBAM証書を購入し、提出します。

日本の輸出企業がEUへ直接証書を提出するわけではありません。それでも、EUの輸入者が申告するには、日本側の製造データが必要です。輸入者の義務が、取引条件を通じて輸出者とサプライヤーへ伝わる制度だと考えると分かりやすくなります。

CBAMが移行期間から本格運用へ移る流れ
図1:欧州委員会と経済産業省の公表資料をもとにイノベーション総研作成。2026年分の排出量は2027年の申告と証書提出につながる。

2026年からCBAMは何が変わったのか

制度は2023年10月に移行期間へ入りました。この期間は、EU輸入者が対象製品の量と排出量を四半期ごとに報告しました。証書の購入はありませんでした。

2026年1月からは本格運用です。欧州委員会の案内によると、対象となる輸入者には、認定申告者の資格、年次申告、証書の購入・提出が求められます。

ただし、2026年の輸入分について、その年中に証書を購入するわけではありません。CBAM証書の共通販売基盤は2027年2月から始まります。2026年分の最初の年次申告は、改正規則により2027年9月30日が期限です。

証書価格は、EU排出量取引制度の排出枠価格に連動します。欧州委員会が公表した価格は、2026年第1四半期が1トン当たり75.36ユーロ、第2四半期が75.28ユーロでした。2026年は四半期平均、2027年からは週平均で計算されます。

製造国ですでに炭素価格を支払ったと証明できれば、その分を差し引ける場合があります。また、EU側の無償排出枠が段階的に減るのに合わせ、CBAMの費用負担も2034年へ向けて段階的に強まります。

要するに、2026年は「すぐに証書を買う年」ではなく、「後で費用と申告につながる実績を作り始めた年」です。輸出企業には、2026年の工場データを後から説明できる状態が必要です。

CBAMの対象製品と年間50トン基準を整理する

対象は、セメント、鉄鋼、アルミ、肥料、電力、水素の6分野です。実際の判定は、製品名ではなくEUのCNコードで行います。ねじ、ボルト、一部の構造物など、素材そのものではない加工品も対象に含まれます。

2025年の制度改正で、少量輸入者の扱いが変わりました。鉄鋼、アルミ、肥料、セメントは、EUの輸入者ごとに4分野を合算します。年間の正味重量が50トン以下なら、原則として義務が免除されます。50トンを超えた場合は、その年に輸入した対象品全体が対象です。

電力と水素は、取引の性質が異なるため、この重量基準の対象外です。古い資料には「1回の貨物が150ユーロ以下」という説明も残っています。2026年の判断では、年間50トン基準を確認します。

CBAMの対象6分野と年間50トン基準
対象分野 代表的な品目 50トン基準 日本企業が最初に見る情報
鉄鋼 鋼材、ねじ、ボルト、構造物の一部 4分野の合算対象 CNコード、鋼材、製造工程、前駆体
アルミ 地金、板、形材、加工品の一部 4分野の合算対象 製錬・再生材、電力、加工歩留まり
セメント クリンカー、セメント 4分野の合算対象 焼成工程、燃料、原料由来排出
肥料 窒素肥料など 4分野の合算対象 原料、アンモニア、工程エネルギー
電力 EU域外から輸入する電力 重量基準の対象外 発電方式、送電経路、排出係数
水素 水素 重量基準の対象外 製造方式、電力、原料、設備

対象判定でよくある誤りは、完成品の一般名だけで判断することです。製品のCNコード、原産国、通関時の輸入者、年間量を同時に見ます。輸出企業は、EUの販売子会社や顧客ごとに輸入者が誰かも確かめます。

CBAMの対象6分野と年間50トン基準
図2:欧州委員会とRegulation (EU) 2025/2083をもとにイノベーション総研作成。50トンは鉄鋼・アルミ・肥料・セメントを輸入者単位で合算する。

日本企業はEU輸入者へ何を渡すのか

日本企業の役割は、立場によって変わります。EUに販売子会社があり、その会社が輸入者になる場合は、グループ内で申告業務を作ります。EUの顧客や商社が輸入者になる場合は、相手が申告に使える製造情報を渡します。

最初に必要なのは、対象製品を作った「設備」の情報です。工場全体の排出量だけでは足りません。製造工程、活動量、燃料・電力、前駆体、製品量、配分方法を結びつけます。

前駆体とは、対象製品の製造に使う中間材料です。ねじメーカーなら、線材など上流素材の排出量が重要になります。外注の熱処理や表面処理がある場合は、どの工程を計算範囲に含めるかも確認します。

実測値を使う場合は、認定された独立検証人の確認が必要です。欧州委員会の検証案内は、役割を分けています。非EUの製造事業者が排出量を計算し、検証人が方法、証拠、設備を確認します。その後、EU輸入者が申告に使います。

日本の製造事業者からEU輸入者へ渡る情報
関係者 主な役割 保有する情報 相手へ渡すもの
日本の製造事業者 対象品を製造し排出量を計算 工程、燃料、電力、材料、生産量 製品別の体化排出量と計算根拠
上流サプライヤー 前駆体や加工を提供 素材の排出量、設備、製造経路 前駆体データ、証拠、更新情報
商社・輸出者 商流と製品を対応付ける 品番、顧客、数量、CNコード 製品・工場・顧客の対応表
独立検証人 実測値を第三者確認 計算方法、原資料、設備 設備単位の検証報告書
EU輸入者 法的な申告と証書提出 輸入記録、排出量、炭素価格 年次申告、CBAM証書

経済産業省のねじ・ボルト向けガイドラインは、複雑な商流を前提にしています。中小メーカー、商社、部品メーカー、完成品メーカーの情報をどう集めるかを説明しています。これは、CBAMが環境部門だけの制度ではないことをよく示しています。

炭素データを5工程でつなぐ

対応業務は、大きく5工程に分けられます。第1は対象判定です。CNコード、原産地、輸入者、量から、どの取引が制度に入るかを特定します。

第2は工場データの収集です。燃料、電力、原材料、生産量、設備の稼働情報をそろえます。第3は製品別の排出量計算です。複数製品を同じ設備で作る場合は、排出量の配分ルールを決めます。

第4は検証と証拠管理です。計算結果だけでなく、使った係数、請求書、計量記録、配分理由、変更履歴を残します。第5はEU輸入者への連携です。製品、工場、期間を誤らず、申告に使える形式で渡します。

日本の工場からEU申告までのCBAMデータ連携
図3:欧州委員会、経済産業省のガイダンスをもとにイノベーション総研作成。対象判定、算定、検証、申告を別々の表計算にしないことが重要になる。

難しいのは、5工程の担当部署が異なることです。CNコードと輸入量は貿易部門、材料と品番は調達・生産管理、燃料と設備は工場、計算方法は環境部門、証書費用は財務が持ちます。

一つの巨大システムを入れる前に、製品番号、工場、設備、材料、輸出先をつなぐ共通キーを決めます。月次で更新できる最小データを定義し、根拠資料の保存場所と承認者を固定します。

CBAM市場は5つの機能で競争が始まっている

関連市場を「排出量算定SaaS」とだけ見ると、参入余地を見誤ります。実務には、貿易データ、製造データ、製品別排出量、サプライヤー連携、検証・申告の5つが必要です。

CBAM支援市場を構成する五つの機能層
機能層 解く課題 主なデータ 代表的な企業・基盤
対象判定・貿易 どの輸入が対象か CNコード、通関、数量、輸入者 SAP、osapiens
製造データ どの工程で排出したか MES、BOM、燃料、電力、設備 Siemens、NTT DATA
PCF・体化排出量 製品別にいくらか 活動量、係数、配分、前駆体 Sphera、CarbonChain、Zeroboard
サプライヤー連携 上流データをどう集めるか 質問票、設備、前駆体、証拠 osapiens、booost、SiGREEN
検証・申告・費用 誰が確かめ、どう提出するか 検証報告、XML、証書、会計 SAP、Sphera、欧州CBAM Registry

強い企業は、一つの計算機能だけで終わりません。SAPはERPと財務、Siemensは工場と製品を起点にします。CarbonChainは素材・コモディティに深く入ります。osapiensは複数規制とサプライヤー連携をまとめます。

CBAM支援市場を構成する5つの機能層
図4:Deep Researchレポートと各社の公表資料をもとにイノベーション総研作成。算定の前後にある貿易、工場、検証、財務が差別化要因になる。

国内外9社の取り組みから支援サービスを読む

ここでは、CBAMや製品別排出量に関わる9社を整理します。サービスの対象は同じではありません。EU輸入者の申告を助ける企業、日本の製造現場からデータを作る企業、複数規制をまとめる企業に分かれます。

国内外9社のCBAM・製品別排出量への取り組み
企業 主な起点 取り組み 顧客が解ける課題
osapiens 規制・サプライヤー 対象判定、データ回収、費用予測、XML出力 複数拠点・多数サプライヤーの運用
SAP ERP・財務 貿易、排出量、証書債務、会計を連携 CBAM費用を調達・財務へ反映
CarbonChain 素材・コモディティ 取引単位の排出量、申告検証、XML、供給者回収 鉄鋼・アルミ等の排出と費用比較
Sphera LCA・リスク管理 供給者回収、体化排出量計算、申告様式 LCA知見を規制対応へ使う
Siemens SiGREEN 工場・PCF 製品別排出量の計算・共有、CBAMモジュール 工場データを供給網へ渡す
Microsoft 業務アプリ Copilot StudioのCBAM推計エージェント 自社データに合わせた簡易推計
Zeroboard 国内GHG・PCF 製品別排出量、サプライヤー一次データ、多言語 国内工場のPCF基盤を作る
Booost サステナビリティERP PCF、データ連携、複数開示・規制対応 CBAM以外の開示とデータを共用
NTT DATA 原価・システム実装 原価計算を応用した製品別CFPと業務定着 既存ITを使い製品別データを作る

osapiensは輸入・調達・供給者データを一つの流れにする

osapiens HUB for CBAMは、輸入申告と調達データから対象品を探し、サプライヤーへデータを依頼します。体化排出量と将来の証書費用を計算し、EUへ提出するXMLまで作る構成です。

特徴は、供給者向けの学習と質問を同じ運用に入れていることです。データを要求するだけでは、回答方法が分からないサプライヤーが増えます。必要項目を説明し、不備を戻し、回答履歴を残す機能が価値になります。

SAPは炭素量を財務上の負債へつなげる

SAPのCBAM構想は、通関データ、CNコード、サプライヤー情報を結びます。体化排出量、必要証書、費用も一緒に扱います。SAP Sustainability Footprint ManagementとSAP Green Ledgerが基盤です。証書を財務上の負債として管理します。

CBAMは環境数値が費用へ変わる制度です。調達先を変えたとき、排出量と原価がどう動くかを見ます。証書価格が上がった場合の利益も比べます。ここまでつなげられることが、ERP企業の強みです。

CarbonChainは素材取引の粒度へ特化する

CarbonChain Complyは、鉄鋼、アルミ、肥料などの取引に重点を置きます。通関データの検証、サプライヤーへの依頼、回答の確認、XML出力を提供します。

同社は素材・エネルギーの資産データを蓄積し、取引単位で排出量を見る点を打ち出しています。全業種向けの広い算定より、対象業界の製造経路とデータを深く持つ戦い方です。

欧州・グローバル5社のCBAM支援アプローチ
図5:osapiens、SAP、CarbonChain、Sphera、Siemensの公式情報をもとにイノベーション総研作成。各社は規制、財務、素材、LCA、工場という異なる入口を持つ。

製造データ企業は製品別排出量の根拠を作る

SiemensのSiGREENは、製品カーボンフットプリントを計算し、供給網で共有する基盤です。CBAMモジュールも提供しています。

製造企業では、材料表、設備の消費電力、工程時間、生産量が別システムにあります。SiGREENのような製造起点のサービスは、工場データから製品単位の排出量を作り、顧客や申告者へ渡す部分を担います。

Spheraは、LCAとサプライチェーンリスク管理を背景に、サプライヤーデータ収集、排出量計算、提出様式を組み合わせます。計算式だけでなく、業界別の排出係数や方法論を持つことが強みです。

Microsoftは、Copilot StudioでEU CBAM Estimator Agentをプレビュー提供しています。企業が自社のデータ源につなぎ、対象や費用を簡易に試算する入口です。ただし、推計エージェントだけで検証済みの申告データが完成するわけではありません。根拠確認と承認を別に設ける必要があります。

国内企業は日本の工場と商流へ落とし込む

Zeroboardは、製品別・サービス別の排出量算定と、サプライヤーの一次データ収集を提供しています。日本語・英語を含む多言語対応も、海外取引を持つ製造業では実務上の意味があります。

CBAM専用の申告機能だけでなく、日常のGHG管理や製品カーボンフットプリントと同じデータを使えることが重要です。規制ごとに別の表計算を作ると、工場へ同じ質問が何度も届くからです。

BooostのサステナビリティERPは、製品カーボンフットプリントと供給網のデータを扱います。SSBJ・CSRDなどの開示とCBAM対応も、同じ基盤で扱う方向です。

NTT DATAは、原価計算の考え方を製品別カーボンフットプリントへ応用します。既存のBI、DWH、経営管理システムも使い、構築と定着を支援します。

国内勢にとっての勝ち筋は、EU制度の説明だけではありません。日本特有の多段階の商流、外注加工、品番体系、中小サプライヤーへ合わせ、計算と証拠収集を続く業務に変えることです。

CBAM対応で起きやすい5つの分断

1つ目は、対象判定と排出量計算の分断です。CNコードは貿易部門、CO2は環境部門が管理しがちです。別々に動くと、対象外の製品を計算したり、対象品を見落としたりします。

2つ目は、工場と本社の分断です。本社が計算式を決めても、工場が月次で取れないデータなら続きません。配賦のためだけに細かな計量を増やすと、現場負荷が上がります。

3つ目は、輸出者と上流サプライヤーの分断です。素材や外注工程のデータが来なければ、実測値の精度は上がりません。依頼書だけ送り、回答支援を用意しない方法は詰まりやすくなります。

4つ目は、計算と証拠の分断です。結果が正しく見えても、元の請求書、設備、係数、配分理由へ戻れなければ検証に耐えません。

5つ目は、排出量と財務の分断です。証書費用を環境部門だけで管理すると、見積価格、調達先、製品採算に反映されません。

CBAM対応で起きやすい五つの分断
分断 起きる問題 先に決めること
貿易と環境 対象品の漏れ・過剰対応 CNコードと品番の管理者
本社と工場 収集が続かず推計に戻る 月次データ、計量単位、承認者
輸出者と供給者 前駆体データが集まらない 依頼形式、支援窓口、代替値
計算と証拠 検証で根拠を示せない 原資料、版、変更履歴の保存
排出量と財務 費用が製品採算に入らない 証書価格、原価、見積への反映

規制対応プロジェクトのKPIを「計算完了」に置くと、この分断は残ります。「対象取引の何%を工場・証拠までたどれるか」「輸入者からの差戻しが何件か」「実測値で削減できた費用はいくらか」を見ます。

自社はCBAMのどこへ入れるか

顧客の反復業務、自社データ、責任範囲、提携が必要な部分を確認します。

01 輸出品とCNコードを管理している

品番、輸入者、数量をつなぎ、対象判定と費用試算を商品にします。

  • 輸入者を特定できる
  • 対象候補を抽出できる
  • 判定責任を分けられる
02 製造工程や設備データを持っている

業界を絞り、工場データから製品別排出量を作る基盤を提供します。

  • 工程を標準化できる
  • 月次データを取れる
  • 配分ルールを説明できる
03 多くのサプライヤーと取引している

依頼、説明、回答確認、差戻し、証拠保存を運用サービスにします。

  • 窓口を置ける
  • 回答率を測れる
  • 機密情報を分けられる
04 原価・財務・内部統制に強い

排出量を証書費用、製品採算、検証準備へつなげます。

  • 費用を製品へ配賦できる
  • 証拠履歴を残せる
  • 検証人と連携できる
05 単発の制度解説しか提供できない

計算や申告を抱えず、対象判定や収集設計に責任を限定します。

  • 翌年の更新価値がある
  • 顧客が運用責任者を置く
  • 提携先へ引き渡せる

NEXT STEP

次のステップ

CBAM対応を、毎年続く輸出・工場業務の設計図へ。

対象品、輸入者、工場データ、前駆体、検証、証書費用を整理し、自社で持つ役割と提携で補う役割を設計します。

新規事業としてCBAMへ参入する4つの方法

新規事業の入口は、制度解説ではなく、顧客のどの反復業務を引き受けるかで決めます。考えられる方法は4つです。

1つ目は、対象判定と費用試算です。通関・品番データから対象品を特定し、輸入量、排出量、証書価格から影響を見える化します。貿易SaaS、物流、商社、金融に向く入口です。

2つ目は、業界特化の製品別排出量基盤です。ねじ、アルミ加工、肥料など対象業界を絞り、標準工程、係数、前駆体、外注をテンプレート化します。設備、MES、ERP、LCAの資産を持つ企業に向きます。

3つ目は、サプライヤー回収の運用代行です。質問票送付、説明、回答確認、差戻し、証拠保存までをBPaaSとして提供します。商社、調達支援、BPO企業が入りやすい領域です。

4つ目は、検証準備と費用管理です。独立検証そのものには認定が必要です。その前のデータ整理、内部統制、証書費用の予測には参入できます。見積や調達へ反映する支援も事業機会です。

CBAMへ参入する四つの方法
参入方法 最初の支払者 自社に必要な資産 提携先 収益モデル 最初に確かめること
対象判定・費用試算 EU輸入者、商社、輸出管理 通関・品番・顧客データ CBAM専門家、ERP 診断料+利用料 対象品を正しく抽出できるか
業界特化PCF基盤 製造本部、環境、品質 工程・設備・原価の知識 LCA、MES、検証人 導入料+拠点課金 月次で必要データを取れるか
供給者回収BPaaS 調達、商社、EU販売会社 供給者網、運用、言語 算定SaaS、業界団体 供給者数・件数課金 回答率と差戻し工数が改善するか
検証準備・費用管理 財務、経営企画、内部統制 証拠管理、原価、リスク 認定検証人、会計、金融 プロジェクト+継続支援 検証前の不備と費用差を減らせるか
CBAMへ参入する4つの方法と必要資産
図6:制度の実務工程と国内外9社の取り組みをもとにイノベーション総研作成。自社の顧客接点と既存データから、責任を持てる工程を選ぶ。

制度変更だけを売上の根拠にしないことも大切です。50トン以下の輸入者が免除され、対象範囲も見直されます。顧客がCBAM以外でも使う製品別排出量、調達、原価、顧客回答へ価値を広げると、規制変更への耐性が上がります。

参入前に決める責任境界と見送り条件

最初に決めるのは、誰が対象品を確定するかです。SaaSが候補を出しても、CNコードの最終判断を無条件に引き受けると、通関責任まで広がります。判定支援と法的判断を分けます。

次に、排出量の正しさに対する責任を決めます。顧客が入力した活動量、提供した係数、システムの計算、専門家のレビュー、検証人の保証は別の役割です。利用規約だけでなく、画面と承認フローでも示します。

第三に、データの機密性です。材料、歩留まり、エネルギー使用量、生産量は、製造原価を推測できる情報です。EU輸入者へ渡す項目と、検証人だけが見る証拠を分けます。

最後に、次の条件なら見送ります。

  • 顧客の対象品と輸入者が特定できない
  • 工場・製品・材料をつなぐ共通キーがない
  • サプライヤーへ情報を求める契約と窓口がない
  • 算定結果を確認する責任者を置けない
  • 単発の報告書作成だけで、翌年の更新予算がない
  • 自社の役割と認定検証人の役割を分けられない

見送りは失敗ではありません。データがない段階では、対象判定と収集設計だけをサービスにし、計算や申告を提携先へ渡す方法があります。

CBAMについてよくある質問

Q. Q1. CBAMとは簡単にいうと何ですか

A. EUへ輸入する一部の炭素集約型製品について、製造時の排出量に応じた炭素費用を求める制度です。EU域内品と輸入品の炭素負担を近づけ、規制の弱い地域への生産移転を防ぐ狙いがあります。

Q. Q2. 日本企業がCBAM証書を買うのですか

A. 原則として証書を購入・提出するのは、EUの認定CBAM申告者です。ただし、日本の製造企業は、EU側が申告に使う製品別排出量、製造設備、計算根拠、検証情報を求められます。

Q. Q3. 年間50トン以下なら何もしなくてよいですか

A. 免除判定はEU輸入者単位で、鉄鋼、アルミ、肥料、セメントの対象品を合算します。自社の出荷が50トン以下でも、同じ輸入者が他社品を含めて超える場合があります。まず輸入者、CNコード、年間量を確認します。

Q. Q4. 会社全体のScope1・2・3を計算すれば対応できますか

A. それだけでは足りません。CBAMは対象製品と製造設備にひもづく体化排出量を扱います。会社全体の合計から、対象製品の材料、工程、生産量へ下りられるデータが必要です。

Q. Q5. CBAM対応ツールを入れれば申告できますか

A. ツールは対象判定、収集、計算、証拠管理を助けます。ただし、品番・工場・材料の対応、サプライヤーへの依頼、入力値の承認、実測値の第三者検証は組織の仕事です。導入前に責任者と運用を決めます。

まとめ|CBAM対応は工場データと貿易実務をつなぐ

CBAMは、EU輸入者が対象製品に含まれる排出量を申告し、証書を提出する制度です。2026年から本格運用に入り、2026年分の排出量は2027年の申告と証書費用へつながります。

対象は6分野です。鉄鋼、アルミ、肥料、セメントには、輸入者単位で合算する年間50トン基準があります。日本企業は、自社の出荷量だけでなく、CNコードとEU側の輸入者を確認します。

国内外9社の動きは、市場の変化を示します。単純な排出量計算から、貿易、工場、サプライヤー、検証、財務をつなぐ方向へ進んでいます。

参入方法は、対象判定・費用試算、業界特化PCF、供給者回収BPaaS、検証準備・費用管理の4つです。制度知識だけでなく、顧客が毎年繰り返す業務を減らせるかで事業性を判断します。

国内の排出量取引はGX-ETSの記事で説明しています。排出削減を証書化する仕組みはカーボンクレジットの記事をご覧ください。低炭素素材の供給側はグリーン水素の記事で詳しく整理しています。

参考資料

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対象判定、製品別排出量、供給者回収、検証準備、費用管理を整理し、自社が継続して価値を出せる入口を設計します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

欧州委員会、EUR-Lex、経済産業省、osapiens、SAP、CarbonChain、Sphera、Siemens、Microsoft、Zeroboard、Booost、NTT DATAの公式サイト・公表資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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