投稿日:2026.10.01 最終更新日:2026.10.02
海洋エネルギーはどこまで使える?7事例で読む発電と事業化の条件
海洋エネルギーとは、波、潮の流れ、海流、海水の温度差などを使うエネルギーです。波力や潮流の発電では、すでに電力網へ電気を送った例があります。ただし、発電できたことと、修理を含めて採算が合うことは別です。
日本にも、五島列島の潮流発電や、久米島の海洋温度差発電があります。海に囲まれているから有利、と考えるだけでは足りません。場所ごとの流れ、陸までの距離、漁業との関係、保守船を呼べる条件まで見る必要があります。
新規事業の入り口は、発電所を持つことだけではありません。部材、点検、海中設備への給電などにも仕事があります。判断の軸は、海で直し、使い続ける仕事まで担えるかです。
この記事では、国内外の7事例から、各社・研究機関が何をしているかを読み解きます。発表や計画を実績と分け、自社が引き受けられる仕事と、見送るべき条件を整理します。
この記事の結論
海の力の違いと、海で設備を使い続ける条件を分けて考えます。
- 波力・潮流・海流・温度差の仕組みと場所の条件を理解する
- 国内外7事例の提供物と、実績・実証・計画を読み分ける
- 部材・保守・給電・地域の需要から、自社の仕事を選ぶ
目次
海洋エネルギーとは?波・流れ・温度差を電気にする
海は一つの電源ではありません。波の上下運動を使う方式もあれば、海中の流れや、暖かい海水と冷たい海水の温度差を使う方式もあります。
この違いを押さえると、必要な設備と、向いている場所が分かります。例えば、潮流発電に適した海峡が、海洋温度差発電にも適しているとは限りません。
波力発電:波の動きを取り出す
波力発電は、浮体の上下運動などを機械の動きに変え、発電機を回す方式です。二つの浮体の間が曲がる動きを使う装置もあります。
波は日や季節によって変わります。発電量を増やすだけでなく、大きな波を受けたときに装置を守る設計が必要です。海底ケーブルを介して陸へ送るほか、海の設備でその場の電気を使う考え方もあります。
潮流発電と海流発電:海中の流れを使う
潮流発電は、主に潮の満ち引きに伴う流れを利用します。海流発電は、黒潮などの海流を利用する方式です。どちらも海中のタービンを回す例がありますが、流れの性質は同じではありません。
潮流は時間帯による変化を予測しやすい一方、流れが弱くなる時間もあります。海流も、場所や時期によって速さや向きが変わります。「海中に置けば、いつでも一定の電気を得られる」とは考えない方がよいでしょう。
海洋温度差発電:暖かい海水と冷たい海水を使う
海洋温度差発電は、暖かい表層水と、冷たい深層水の温度差を使います。低い温度で蒸発する流体を介してタービンを回し、深層水で冷やす方式などがあります。
電気を作る設備に加えて、深い海から水を取る配管やポンプが重要です。取り出す電力と、水をくみ上げるために使う電力を分けて評価する必要があります。地域の深層水利用と組み合わせるかどうかも、事業の形を変えます。
同じ海でも、使う力と向いている場所が違う
海の力 → 発電の仕組み実例と、場所の確認条件
波力
波の動き → 浮体が動く
機械の動き → 発電機
例:CorPower・Mocean
確認:波の強さと変動荒天時に装置を守れるか
潮流
潮の満ち引きによる流れ
海中タービン → 発電
例:Orbital・Qmirai
確認:海峡の流速と時間船で点検・回収できるか
海流
黒潮などの海流の力
水中の装置 → 発電
例:IHI「かいりゅう」
確認:流速・水深・距離設備の消費電力も含める
海洋温度差
表層の暖水と深層の冷水
熱交換 → タービン → 発電
例:佐賀大学・久米島
確認:温度差と取水設備くみ上げに必要な電力
設置海域を、方式ごとに確認
米国エネルギー省も、波、潮流、海流、海洋温度差などを分けて説明しています。海上に立つ洋上風力は風を使うため、この記事では海水の力を使う発電と分けて扱います。[米国エネルギー省:海洋エネルギーの基本]
海水と淡水の塩分濃度差を使う浸透圧発電も、関連する方式です。こちらは膜と水処理の仕事が中心になるため、詳しい企業事例は浸透圧発電の記事で説明しています。
海洋エネルギーの市場は、導入計画と実績を分けて読む
市場を見る際は、将来の導入計画と、いま運転している設備を分けます。公的支援を受けた計画があることは前進ですが、その容量を現在の発電実績として数えることはできません。
欧州の業界団体Ocean Energy Europeは、2026年9月に、公的支援のある16件の発電所計画を公表しました。2030年までの導入予定は、潮流と波力を合わせて196MWです。内訳は次の通りです。
| 方式 | 発電所計画 | 装置数 | 計画容量 | 数字の読み方 |
|---|---|---|---|---|
| 潮流発電 | 11件 | 140基 | 172MW | 2030年までの導入計画。現在の稼働容量ではない |
| 波力発電 | 5件 | 66基 | 24MW | 同上。個々の装置が実際に作る電力量とは別 |
| 合計 | 16件 | 206基 | 196MW | 公的支援のある計画の集計。世界市場全体ではない |
出典:Ocean Energy Europeの2026年9月14日公表資料を基に、イノベーション総研作成。MWは設備の出力を示す単位です。運転した時間を含む電力量はMWhなどで示します。
この数字から読めるのは、単体の装置を試す段階から、複数台を設置する計画へ進みつつあることです。一方、支援や収入を支える制度も重要で、発電装置の性能だけで投資が決まる市場ではありません。[Ocean Energy Europe:欧州の導入計画]
そこで、参入する企業には二つの見方が必要です。装置メーカーの受注拡大だけを見るのか、それとも設置、点検、運転、撤去まで増える仕事を見るのかです。後者まで見ると、海の工事や船の運用に強い企業にも接点があります。
ただし、計画容量から自社の売上を計算するのは早すぎます。どの案件が進み、誰が発注し、どの仕事を外部へ出すかを確認して初めて、自社の市場になります。
海外では、発電装置から海中設備への給電まで進む
海外の事例を見ると、「海洋エネルギーを開発する会社」の仕事は一様ではありません。大きな発電装置で電力網へ送る会社もあれば、海中設備へ電気と通信を届ける会社もあります。
以下では、提供するものと、確認できる段階を分けて紹介します。装置の定格出力は設計上の規模であり、常にその出力で運転している意味ではありません。
Orbital Marine Power:点検しやすい浮体式の潮流発電
英国のOrbital Marine Powerは、海面に浮かぶ本体から、海中へタービンを下ろす潮流発電装置を開発しています。O2は全長74m、定格出力2MWの装置で、スコットランドのオークニーで2021年7月から電力網へ接続しています。
特徴は、発電部を海底に固定するだけの構造ではないことです。タービンのある脚を上げられる設計で、点検や修理の際に設備へ近づきやすくしています。装置を作る仕事と、保守しやすくする仕事を一体で考えている例です。
発電事業者から見ると、故障したときの作業方法は、電気を作る性能と同じくらい重要です。大型船が必要か、曳航して港へ戻せるか、部品をどこで交換するかによって、止まる時間と費用が変わるためです。
この設計を参考にするなら、「浮体式が常に安い」と結論づけるのではなく、対象の海域で保守をどう行えるかを見るべきでしょう。海況や港までの距離が違えば、適した方法も変わります。[Orbital:O2、技術と保守の設計]
Minesto:海中を動く装置と、保守船の制約
スウェーデンのMinestoは、海底につないだ装置を、凧のように海中で動かす発電技術を開発しています。流れの中で装置を動かし、タービンへ当たる水の速度を高める考え方です。
フェロー諸島のDragon 12は、定格出力1.2MWの装置です。2024年2月、初めて電力網へ電気を送りました。ここまでは、発電技術が実海域で働いたことを示す成果です。[Minesto:Dragon 12の初送電]
一方、2026年2月の公式発表では、地元の作業船の想定外の整備により、予防保守のための装置回収が遅れたと説明しています。別の船を海外から呼ぶ費用も検討し、運転を抑える扱いとなりました。3月には、10か月の電力網への接続を経てDragon 12を回収し、陸上で点検・整備すると公表しています。
この事例が示すのは、装置が発電できても、必要なときに回収できなければ事業は続けにくいことです。国内企業が入る余地を考えるなら、センサーや発電機だけでなく、船、回収手順、港での部品交換をつなぐ仕事にも目を向けられます。なお、3月の回収後の稼働状況を、これらの発表だけで断定することはできません。[2026年2月の運用報告、3月の回収・整備報告]
CorPower Ocean:大きな波では、装置を守る運転へ切り替える
スウェーデンのCorPower Oceanは、波で動く浮体を使う発電装置を開発しています。ポルトガルの実証装置C4は、2023年に電力網への送電を公表しました。
同社が重視するのは、波から多くのエネルギーを取り出す状態と、荒天時に装置を守る状態を切り替えることです。波や設備の状態を見て、発電、保護、保守などの運転を変える仕組みを説明しています。
海洋エネルギーでは、「最大の波を使えば、最も発電できる」と単純には考えられません。大きな力を受け続けると、部材や係留設備への負担も増えます。発電量を追う場面と、壊さないことを優先する場面を分ける必要があります。[CorPower:C4の送電と運転方式]
2026年7月には、第三者認証機関DNVから試作装置の証明を取得したと発表しました。安全性や設計の評価が進んだ段階として読めますが、個々の発電事業の採算を保証するものではありません。部材や制御を提供する企業も、性能の説明だけでなく、どの条件で評価・認証するかを詰める必要があります。[CorPower公式発表:試作装置のDNV認証]
Mocean EnergyとVerlume:海中で使う電気を、その場で作る
英国のMocean Energyは、二つの浮体が波で動く際の、つなぎ目の動きを発電へ変える装置を開発しています。電力網へ大量に送るだけでなく、海中設備への電気の供給を狙っている点が特徴です。
公的機関Wave Energy Scotlandは、Moceanの試作装置Blue Xと、Verlumeの海中蓄電設備Haloを組み合わせた実証を紹介しています。2024年3月にまとめた成果では、追加の12か月の海上試験を完了し、波力による発電と蓄電を接続しています。
想定する利用先は、海中の設備やセンサーなどです。陸上や大型設備から長い給電ケーブルを延ばす代わりに、近くで発電し、蓄電して使う構成を考えています。需要側にとっては、発電単価だけでなく、ケーブルの設置・交換を減らせるかも価値になります。
ここで買い手が欲しいのは、「波力発電機」そのものとは限りません。必要な場所で、設備が止まらないように電気と通信を使えることです。ただし、この実証を、広く普及した商用サービスの実績と読み替えることはできません。MoceanとVerlumeは、この共同構成を一つの事例として扱います。[Wave Energy Scotland:Moceanの開発と共同実証]
日本の海洋エネルギーは、長期運用と地域利用を試している
日本では、強い潮流や海流を使う取り組みと、深層水を地域で活用する取り組みが進んでいます。設備の規模だけでなく、実証の目的と、運転に関わる人の役割を見ると理解しやすくなります。
Qmiraiと四国電力:五島で潮流発電を長く使う条件を調べる
Qmiraiと四国電力は、長崎県五島市の奈留瀬戸で潮流発電に取り組んでいます。海底に設置する1,100kW級の装置を使う案件です。1,100kWは1.1MWに当たり、装置の定格出力を示します。
2026年6月の公表資料では、環境省の事業に採択され、2026〜2028年度に長期信頼性や保守・点検、経済性を検証する計画が示されました。公表資料にある2025年5月の実証運転開始と、今回の長期検証は区別する必要があります。
Qmiraiは全体管理や運転・保守を担い、四国電力は事業性の評価などを支援する構成です。装置を供給するProteus Marine、地域の企業、自治体、漁業者などとの連携も示しています。発電装置を作る一社だけで完結する仕事ではありません。
この取り組みから考えられる参入先は、海域の調査、部品の供給、保守作業、輸送などです。ただし、参入するには、既存の担当者がいる中で何を補うのかを具体化する必要があります。「潮流発電へ参加したい」だけでは、発注される仕事が決まりません。[Qmirai・四国電力:2026年度の採択と役割分担]
IHI:黒潮の発電量と、設備が使う電力を評価する
IHIは、黒潮を利用する水中浮遊式の海流発電装置「かいりゅう」を開発しています。同社の技術報告では、2017年と、2019〜2022年に行った実海域試験を説明しています。
装置の定格出力は100kWですが、その条件には流速1.5m毎秒が含まれます。実際に得る電力量を考えるときは、定格出力を一年分の時間にそのまま掛けることはできません。海流の速さが変わり、設備自身も電力を使うためです。
技術報告では、装置の発電特性、所内で使う電力、黒潮の流速データを用いて、運転時の性能を評価しています。発電機が回ることの確認から、実際の海域でどれだけ電力を取り出せるかへ、評価を進める仕事です。
日本企業にとっては、耐久部材や制御、海中での計測などの技術が関わる余地があります。ただし、過去の試験実績を根拠に、現在の商用発電所や購入条件が決まっているとは言えません。[IHI技報:海流発電実証試験の発電特性評価]
佐賀大学・沖縄県・久米島:発電と深層水利用をつなぐ
久米島では、海洋温度差発電の実証と、海洋深層水の地域利用が進められています。佐賀大学は2013年以降の実証などを支援してきたと、2025年の公表資料で説明しています。
温度差発電では、暖かい表層水と冷たい深層水を使います。同時に、深層水を地域の産業へ段階的に活用する考え方があります。電気だけを売る発電事業と、水の利用も組み合わせる事業では、関わる顧客や設備が違います。
沖縄県は、実証設備を研究者や事業者などが利用できる制度も案内しています。これは、設備の稼働を見学するだけでなく、部材や運転方法を調べる場への接点です。利用には県の許可などの条件があり、自由に装置を持ち込める意味ではありません。
参入案を考えるなら、発電設備、取水・配管、熱交換器、水の利用先を分けて整理できます。一方、地域産業全体の成果を、発電設備単独の売上や採算として扱わない注意も必要です。この記事では大学と地域の共同取り組みを一つの事例とします。[佐賀大学:久米島への支援と深層水の多段利用、沖縄県:実証試験装置の利用案内]
自社の強みから、検討する入り口を選ぶ
近い状況を開き、確認する条件と本文の参入案を見てください。採点する診断ではありません。
NEXT STEP
次のステップ
自社の技術を、海で必要とされる仕事へ
部材、点検、設備の制御、地域の需要。どの顧客の、どの仕事を担うかで参入の条件は変わります。イノベーション総研は、提供物と提携先、引き受ける責任を整理し、自社が入れる範囲を具体化します。
海洋エネルギーへ参入するなら、どの仕事を引き受けるか

ここまでの事例から、参入方法を四つに整理します。以下はイノベーション総研の分析であり、各社が実際に募集している仕事や、契約済みの料金を示すものではありません。
入口を選ぶときは、「持っている技術」だけでなく、「誰に、何を届け、その後の何に責任を持つか」を決めます。自社で発電設備を保有するかどうかは、その後の判断です。
1.海で使う部材と、交換しやすい機器を提供する
対象の顧客は、発電装置のメーカーや、海上設備を組む会社です。腐食に強い材料、軸受、密閉部品、電気の接続部などを、使用条件に合わせて提供する方法があります。
販売するのは、カタログ上の性能だけではありません。どの海水、圧力、荷重で使えるかという評価結果と、交換の方法まで揃えると、顧客が設計へ組み込みやすくなります。部品の販売に加え、点検や評価を受ける仕事も考えられます。
必要な資産は、材料・機械の技術と、試験結果を説明できる体制です。装置メーカー、試験機関、保守会社と組み、部品の不具合と装置全体の停止について、責任の境界を決めます。使用条件が示されないまま耐久性を保証する案件は、見送るべきでしょう。
2.点検・回収・修理を、一つの運用として提供する
顧客は発電設備の運転者です。海中の状態を測る機器の設置、異常時の確認、船による回収、港での修理をつなぐ仕事が考えられます。
Minestoの例のように、船が使えないことは、設備を止める要因になります。点検会社が写真を渡して終わるのではなく、誰が異常を判断し、どの船で、どこへ運ぶかまで整理することが価値になります。
必要な資産は、海の作業経験、港や船会社との接点、機器の状態を読める人材です。装置メーカーと船会社を提携先にし、点検料、保守契約、実際の作業費を分けて設計します。荒天や船の不足で作業できない場合の費用を決められないなら、運用全体の保証は引き受けない方がよいでしょう。
発電できても、回収・修理ができなければ運転は続かない
Minestoの公表例
2026年2月:船の整備で
予防保守の回収が遅延
3月:回収し、陸上点検へ
下の工程は当社の整理。実際の契約を示さない
1 状態を把握する
担当:運転者・計測会社
異常を、次の判断につなぐ
不足:見つけても動けない
2 回収できる条件を決める
担当:運転者・船会社
天候・船・港の空きを確認
不足:必要な日に船がない
3 装置を回収する
担当:船会社・作業者
手順と安全条件を合わせる
不足:別の船では扱えない
4 港で点検・交換する
担当:メーカー・保守会社
部品と人員を用意する
不足:交換部品が届かない
5 再設置し、運転へ戻す
担当:運転者と各作業者
再開の条件と責任を確認
不足:戻す船や条件が未定
運用で停止期間が変わる
3.海中の設備へ、電気と通信を届ける
顧客は、海中設備や観測機器を使う事業者です。発電装置だけでなく、蓄電池、電力の制御、通信を組み合わせ、必要な場所で使える構成を提供します。
MoceanとVerlumeの事例が参考になるのは、電力網へ売る以外の用途を示している点です。顧客が払う理由は、電気の安さだけでなく、長い給電ケーブルや頻繁な電池交換を減らせることかもしれません。
必要な資産は、海中設備の顧客接点と、電源・蓄電・通信を組む技術です。波力装置の開発者、蓄電池メーカー、設備の運転者と組みます。機器の販売、設置、継続保守が対価の候補ですが、波が弱い期間にも必要な電力を供給できるかは別に確かめる必要があります。
顧客の負荷や、止めてはいけない時間が分からないうちは、設備全体を設計できません。その条件が曖昧な場合は、給電の保証ではなく、計測などの限定した仕事から入る方が安全です。
4.発電と地域の需要をつなぐ事業を組む
顧客は、電気を買う側や、水・熱を使う地域の事業者です。設備の開発者と需要側をつなぎ、設置場所、供給条件、許認可、地域との合意を整える役割が考えられます。
久米島の例では、発電と深層水の利用を合わせて見ることができます。ただし、電気、水、関連産業の収入を一つにまとめて「発電は儲かる」とするのは不適切です。誰がどの費用を払い、何を買うかを分ける必要があります。
必要な資産は、地域の需要側との接点、事業調整の経験、長期の資金計画です。開発者、運転会社、自治体、漁業者、金融機関などと役割を合わせます。まずは需要調査や事業調整を担い、設備の保有は、収入とリスクを確認してから判断する方法もあります。
買い手が定まらない、必要な取水設備の費用を負担できない、地域の合意を得る見通しがない場合は、設備投資を急ぐべきではありません。発電機の説明だけで済まない仕事です。
新規事業の企画をまとめる際は、これらの役割を顧客、提供物、対価、提携先に分けると、投資する理由が明確になります。新規事業企画書の構成も、その整理に使えます。
発電しても採算が崩れる、5つの懸念
海洋エネルギーの懸念は、技術が未完成なことだけではありません。海の仕事にかかる費用と、需要側から得る収入が合わなければ、動く設備でも事業は続きません。
1.定格出力を、そのまま売れる電力量にしてしまう
定格出力は、一定の条件での装置の規模です。波や流れの変動、停止する時間、設備が使う電力を含んでいません。
事業の判断に必要なのは、最終的に顧客へ渡せる電力量と、その変動です。IHIのように、流速データや所内電力も含める評価が重要になります。容量だけを比較して収入を置かないようにします。
2.海での修理を、陸上の修理と同じ感覚で見積もる
海では、故障を見つけても、すぐに現場へ行けるとは限りません。天候、船、作業員、港の設備が揃うまで待つ場合があります。
機器の交換費だけでなく、回収する費用と、止まる間の収入減も見る必要があります。保守会社と運転者の間で、作業できない条件と、その間の扱いを決めることが欠かせません。
3.送電や接続の費用を、後から足してしまう
陸へ電気を送るなら、海底ケーブルや電力網への接続が必要です。海中で使うなら、蓄電、通信、必要な出力を保つ制御が加わります。
同じ発電装置でも、利用先までの構成が違えば、全体の費用は変わります。発電装置だけの価格で、他の電源と比較しないようにします。
4.漁業や海の環境への影響を、確認したことにしてしまう
海中設備では、生物と装置の接触、水中音、電磁場、海底の変化などが論点になります。小規模な設備の結果だけで、大規模に並べた場合まで問題がないとは言えません。
米国のパシフィック・ノースウェスト国立研究所などがまとめた2024年の報告では、多くの影響に関する理解が進む一方、接触のリスクや大規模導入には引き続き調査が必要と説明しています。設置予定地の漁業、航行、環境を、個別に確認する必要があります。[PNNL:海洋再生可能エネルギーの環境影響]
5.実証の支援と、商用の収入を取り違える
補助金は、技術や事業を進める支えになります。ただし、試験の費用が出ることと、その後に売上で運転を続けられることは別です。
支援が終わった後も、誰が電気や保守の費用を払うのかを確認します。契約、運転、保守、撤去までの費用を説明できなければ、設備を保有する判断は待つべきでしょう。
自社の資産から、参入・提携・待機を決める
自社の入り口は、海洋エネルギー全体の市場規模ではなく、顧客に残る具体的な仕事から探します。まず、部材、海の作業、設備の制御、地域の需要のうち、どこに強みがあるかを確認します。
例えば、耐久材料の技術があるなら、開発会社に実際の使用条件を聞くことが先です。海の点検経験があるなら、運転者が困っている停止原因と、既存の保守体制を確認します。発電装置を一から開発するとは限りません。
判断は、次の三つに分けると整理しやすくなります。
- 参入する:顧客、提供物、対価、責任の範囲を決められ、自社で仕事を届けられる。
- 提携する:顧客の課題は分かるが、船、制御、評価などの不足を、専門会社と補う必要がある。
- 待機・見送る:買い手や使用条件が不明、停止時の責任を負えない、長期の費用を支えられない。
海の広さや技術の将来性だけでは、この判断はできません。自社が提供できる仕事と、顧客が必要とする条件が合うかを一つずつ確かめます。関連する産業全体を見たい場合は、ブルーエコノミーの記事も参考になります。
海洋エネルギーのよくある質問
発電の実績と、事業の条件は分けて読む必要があります。ここでは、商用化や参入について、混同しやすい点をまとめます。
まとめ:海で使い続けられる仕事をつくる
海洋エネルギーには、電力網へ送電した装置も、海中設備への給電を試す取り組みもあります。同じ海の電源でも、方式、利用先、開発段階、保守の方法は違います。
新規事業として見るなら、発電する技術だけでなく、点検、修理、接続、需要までつないで考えます。自社がどの仕事を担えば、顧客が海で設備を使い続けられるのか。この問いから、参入先と提携先を選ぶことが重要です。
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海洋エネルギーへ、どの仕事から入るか
発電装置を開発するだけが参入ではありません。自社の材料、海の作業経験、制御技術、顧客接点を起点に、顧客が買う仕事を整理しませんか。参入・提携・待機を分け、必要な資産と見送り条件まで検討します。