投稿日:2026.08.31 最終更新日:2026.09.25
新規事業の失敗はなぜ起きる?5つの原因と事例・予防策
「アイデアが弱かったから失敗した」。
振り返りで、そう結論づけていませんか。
新規事業の失敗は、アイデアの良し悪しだけでは説明できません。
イノベーション総研が大企業に勤務する新規事業関係者888名に行った調査では、最大の障壁として「意思決定スピードの遅さ」が22.1%、「KPI・撤退基準の曖昧さ」が15.9%でした。売上が伸びないときも、商品だけでなく、社内で何を根拠に決めているかを見る必要があります。
本記事では、調査と支援経験をもとに、顧客理解・判断材料・組織・企画・検証計画の5つから原因を点検します。公表された撤退事例も取り上げ、次の会議で何を確かめればよいかまで整理します。
この記事のポイント
- 新規事業の失敗は、顧客理解と社内の意思決定を分けて点検する
- 5つの原因から、いま未確認の前提を見つける
- 撤退事例の公表事実を、自社で確かめる問いに置き換える
- 顧客の行動、判断基準、次の判断日を一組にして決める
目次
新規事業の失敗は、顧客理解と社内の判断を分けて点検する

同調査では、最大の障壁として「顧客ニーズの見極めの困難さ」を選んだ回答は2.6%でした。一方、意思決定スピードの遅さは22.1%、KPI・撤退基準の曖昧さは15.9%です。担当者が感じている障壁は、社内の判断にもあります。
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)
社内の遅れが目立っても、顧客理解の不足を見落とさない
「顧客ニーズが最大の障壁ではない」という回答は、「顧客の需要を十分に確認できた」という意味ではありません。たとえば顧客が価格を受け入れるかは、社内で合意できているかとは別の問いです。
イノベーション総研では、会議が進まないとき、判断者・基準・判断日と、顧客の行動で確かめた事実を分けて見ます。決裁の遅さだけを直しても、需要の根拠が弱ければ、根拠の弱い計画が早く進むだけになりかねません。
社内で説明できることと、顧客が買うことは別です。次の報告では、社内で未合意のことと、顧客について未確認のことを一つずつ挙げてください。
失敗を個人の能力や運へ帰属させると、次に何を変えればよいか分かりません。再設計できる構造として扱うことが出発点です。
「新規事業の失敗率は9割」と言い切れない理由
失敗を防ぐには、どの到達点を目指すのかを先に決める必要があります。投資回収、単年黒字化、中核事業化では判断の時期が異なるため、ここでは到達点ごとの割合を見ます。
| 調査 | 何を「到達」と数えたか | 到達した割合 |
|---|---|---|
| PwC「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025」(当該設問n=1,030) | 投資回収に至った案件を持つ企業 | 約2割 |
| アビーム「新規事業の取り組みに関する実態調査」(2023年9月調査、n=620) | 単年黒字化 | 20.8% |
| 同調査 | 累積黒字化 | 7.1% |
| 同調査 | 中核事業化 | 3.2% |
まず自社の目標に対応する段階を選び、同じ定義の割合を参考にします。未到達の案件を、すべて失敗とは数えません。検証中、条件を変えて再検証している段階、損失を限定して終了した案件では、評価する内容が違います。
出典:PwC「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年」図表2、アビーム「CSV事業開発の実態調査」p.11掲載の通常の事業開発データ
イノベーション総研の調査では、回答時点の最も進んだ到達段階として「単年度黒字または投資回収の目処が立ち、自走する事業として社内で認知されている」を選んだ割合は11.04%(98人/888人)でした。本記事では、この回答区分を「自走段階」と表記します。実現済みの黒字化だけを示す割合ではありません。残りのすべてが失敗した、という数字ではありません。自社の改善では、最終結果の割合に加えて、いまどの判断や検証が止まっているかを見ることが重要です。
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)
失敗の兆候を見つける4つの確認事項
失敗の兆候は、売上の不足だけに現れるものではありません。KPI、撤退基準、経営と現場の認識を合わせて見ると、判断の先送りとして進む問題も見えてきます。表の回答割合を参考に、自社の運用を4つの観点で確認します。
| 確認する運用・到達状況 | 回答割合 | 調査を踏まえた点検事項 |
|---|---|---|
| KPIの3要件を満たす | 28.6% | 合意・監視・判断の一連の運用 |
| 撤退基準を事前に明文化し、実際に運用 | 24.3% | 否定結果を判断へ使えるか |
| 経営層と現場に何らかの認識のズレがある | 76.1% | 目的・基準・期待の共有 |
| 活動継続だが未到達 | 7.09% | 次の判断日と追加検証の条件 |
| 中止・撤退 | 1.13% | 明示的な終了判断 |
KPIや撤退基準は、有無を確認したうえで、経営と現場が合意し、判断に使えているかを点検します。次の会議では、基準と判断日が共有されているかを確認してください。
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)
1. KPIを決めても、経営と現場の認識がずれている
KPIについて、経営層との合意、定期的なモニタリング、判断への活用という3要件を満たす回答は28.6%でした。
同調査の内訳を開くと、様子が変わります。KPIを設定していない回答はわずか4.2%。いちばん多いのは「設定してモニタリングもしたが、経営層と認識がズレていた」で45.5%でした。「設定したが判断に使わなかった」が14.6%と続きます。
KPIの3要件をそろえていない回答は、合わせると7割を超えます。設定の有無だけでなく、合意から判断までの運用が課題です。指標を増やす前に、経営層と何を合意できていないかを確かめる方が先です。
2. 撤退基準はあるが、結果が悪くても判断に使わない
撤退基準を事前に明文化し、実際の判断でも運用しているとの回答は24.3%でした。主な回答区分を見ると、基準を作ることと、それを使うことは別の課題だと分かります。
- 事前に明文化し、守られた:24.3%
- 事前に明文化したが、守られなかった:15.0%
- 事後に明文化し、守られた:27.7%
- 基準は未設定:9.1%
事前に明文化したが守られなかった回答も15.0%あります。「基準があるから大丈夫」とは言い切れません。まず未設定の条件を補い、そのうえで、合意した条件を実際の判断に使ったかを確認します。
追加検証が必要になること自体はあります。ただし「条件を変えれば可能性がある」と続けるなら、何の条件を変えるのか、新たに必要な費用はいくらか、いつ判断するのかを記録します。同じ基準を理由なく動かし続けないことが重要です。
3. 経営は売上を期待し、現場は顧客課題を探している
経営層と現場の認識に何らかのズレがあるとの回答は76.1%でした。これは回答者自身の認識を集計した結果です。経営は早い売上を期待する。一方で現場は顧客の課題を探している。この前提の違いがあると、同じ結果を見ても評価が分かれます。
目標の言葉だけをそろえないでください。共有するのは次の5点です。
- いまの段階
- 今回の検証で確かめること
- 判断の基準
- 許せる損失
- 次の判断の日
この一致は一度の説明では完成しません。証拠が増えるたびに更新します。
4. 活動は続いているが、次の判断日が決まっていない
回答時点の最も進んだ到達段階として「活動継続だが未到達」を選んだ割合は7.09%、「中止・撤退」は1.13%でした。これだけで活動が停滞しているとは判断できません。検証を進める途中の案件もあるためです。
点検したいのは、次に何が分かれば計画を変えるのかが決まっているかです。面談や試作が増えていても、続ける・変える・終えるの判断につながらなければ、活動を延長するだけになります。
次の会議の日付と、その日に決めることを一つ書いてください。判断できない見込みなら、欠けている事実と、それを確かめる担当者を決めます。
新規事業の失敗につながる5つの原因と見分け方
イノベーション総研は、新規事業の行き詰まりを点検する観点として、以下の5つの構造を整理しています。発生頻度の順位や失敗率を示す分類ではありません。自社でどの前提が未確認かを見分けるために使います。
1. 好意的な反応を「ニーズがある証拠」にしてしまう
ニーズがあるという前提が、いつの間にか検証済みの事実として扱われます。好意的な反応を需要の証拠とみなし、検証目的が曖昧なまま試作品やPoCへ進み、何を否定できたかが残りません。
顧客との対話の状況も確認します。888名調査では、回答時点までの顧客対話回数の主な内訳は次のとおりでした。
- 0回:10.6%
- 1回:4.3%
- 2回:14.6%
- 3回:16.3%
- 4〜10回:22.7%
0回から3回までを合わせると45.8%、0回は10.6%でした。対話していても、誰に何を尋ねたかによって得られる情報は違います。回数と内容を合わせて見ます。
顧客対話が10回以下の群の自走段階の回答割合は8.5%、11回以上の群は18.3%でした。ただし、11回聞けば自走段階へ進むという因果関係を示すものではありません。案件の段階なども異なるため、回数を目標にするより、次の判断に必要な事実が得られたかを確認します。
「面白い」という感想と、買う・使うという行動を分けます。利用者の反応に加えて、支払う人、予算を決める人、乗り換えに伴う手間まで確かめてください。
見分ける問いは、「直近の検証で、顧客が採用しない理由まで聞けたか」です。否定的な反応がなければ、問いが誘導的でなかったか、既存の代替手段と比較できたかを確かめます。否定の件数そのものをノルマにはしません。
2. 決裁者に、基準と実測値の差が届いていない
企画が悪いのではなく、決める人が決められる形になっていません。
同調査で、失敗の予感があっても報告・進言できなかった回答は7.8%(69人/888人)、根拠や代替案などを示して報告したものの受け入れられなかった回答は13.0%(115人/888人)でした。両者を合わせた20.7%を「進言できなかった割合」とは扱えません。伝える前の障害と、伝えた後の判断を分けて点検します。
同調査では、外部支援サービスの導入承認を得るために重要と考える材料も聞いています。全888人に占める回答割合の上位は次のとおりです。実際に稟議が通った要因や、新規事業全般の投資承認を示す結果ではありません。
- ROI・費用対効果の試算:48.5%
- 他社導入事例・実績:36.0%
- 経営課題・中期経営計画との整合性:24.2%
- 無料トライアル・お試し利用の結果:22.2%
- 担当コンサルタント・営業の信頼感・専門性:21.2%
この回答から、自社の事業投資が承認される条件までは分かりません。イノベーション総研では、検証結果を「事前基準との差」「追加投資で確かめること」「推奨する判断」の形に整理して、決裁者に渡すことを提案しています。成果の紹介だけでなく、何を決めてほしいのかまで書きます。
3. 誰が何を決めるか、部門をまたぐ役割が曖昧になっている
社内の壁、役員の壁、決裁者の壁。担当者がいちばん自覚しやすいのがこの構造です。障壁データの上位を見てください。意思決定スピード22.1%、経営層の理解15.1%、全社戦略上の位置付け14.4%。いずれも社内の合意に関する項目です。
このとき、担当者の交渉力だけに原因を求めないことが大切です。たとえば現場は試験導入を決められても、有償提供の承認者が決まっていなければ、検証から事業化へ進むたびに止まります。
顧客検証を進める人、法務・情報管理などを確認する人、予算を承認する人を分け、各自が決める範囲を明文化します。兼務の場合は、新規事業に使える時間と、既存業務との優先順位も合意します。
4. 売上目標と、顧客数・単価・体制のつながりがない
企画そのものの前提がつながっていない場合です。たとえば20名の体制で売上1,000億円を目指すなら、単純計算で1人あたり50億円です。これだけで無理と決めるのではなく、顧客数、単価、供給能力、外部パートナーの役割まで分解して成り立つかを検算します。
未確認の前提があるのに、売上の数字だけを細かくしても計画の確かさは上がりません。「この単価で何社が買うか」「導入支援に何人必要か」など、結果を大きく変える前提を次の検証対象にします。
同調査では、アイデアの出発点が顧客起点の群で自走段階の回答割合は17.6%、技術起点の群では6.3%でした。出発点だけで成否が決まるわけではありません。技術から始める場合も、誰のどの負担を減らし、誰が対価を払うのかへつなぐ必要があります。企画を組み立てる型は新規事業のフレームワークで整理しています。
5. PoCを始める前に、合否基準と判断日を決めていない
検証計画がないまま走り出す構造です。活動目標はあっても、結果をどう判断するかが決まっていません。良い反応も悪い反応も、活動を続ける理由になってしまう状態です。
たとえば技術の動作確認に合格しても、顧客の導入条件を確認していなければ、事業化できるとは判断できません。今回確かめる問い、合否の基準、結果を確認する日、判断者を一組で決めます。技術・顧客・採算のうち、どの条件が未確認かを報告に残してください。
段階が変わったら、先に決めることも更新する
現在の段階に合わせて、次に決めることを変えます。表の回答割合は888名調査の結果です。点検する構造と対応策は、イノベーション総研の提案として並べています。
| 現在のフェーズ | 回答割合 | 点検する構造(当社の提案) | 先に決めておくこと |
|---|---|---|---|
| アイデア | 9.7% | 盲信したニーズ | 誰のどの課題を解くか |
| 事業計画・BM策定 | 28.7% | 企画の質 | 目標と資源の検算 |
| PoC | 24.4% | PoC計画の欠如 | 合否基準と判断日 |
| 事業化・市場投入 | 21.2% | 決裁者への情報不足 | 判断材料の型 |
| 拡大・スケール | 13.1% | 組織的な壁 | 権限と資源の再配分 |
| 中止・撤退 | 2.9% | 出口の設計 | 撤退条件と学びの記録 |
事業計画とPoCの段階では、企画の前提と検証の合否を先にそろえます。段階が変わるたびに、判断者・必要な証拠・次の判断日を更新してください。
出典:イノベーション総合研究所「新規事業の実態と意思決定に関する調査」(2026年4月、n=888、調査実施:株式会社マクロミル)
5つの構造は単独で起きるとは限りません。たとえば、ニーズを盲信したまま進むと、決裁者に出せる材料がそろわない。材料がないから組織の壁を越えられない。表面の症状へ対応する前に、最初に崩れた構造を特定します。
NEXT STEP
次のステップ
止まっている原因を、関係者の認識から整理する
顧客理解の不足か、判断基準のずれか。新規事業診断Compassでは、関係者へのヒアリングなどを通じて課題と優先順位を整理します。
撤退事例5つから、顧客・提供条件・出口の点検方法を学ぶ
撤退の発表だけでは、社内で起きたことのすべては分かりません。以下は各社の公表資料で確認できる事実と、そこからイノベーション総研が提案する点検事項を分けたものです。企業の優劣ではなく、自社で確かめる条件を見つけるために読み進めてください。
1. 技術の新しさと、顧客が乗り換える理由は別に確かめる
大手EC企業のスマートフォン事業では、2014年に在庫評価とサプライヤーへの支払確約に関連して、約1億7,000万ドルの費用が計上されました。年次報告書で公表された金額です。
イノベーション総研がここから提案するのは、機能を作れるかと、顧客が既存製品から乗り換えるかを分けて検証することです。自社の企画では、新機能への評価だけでなく、買い替える理由と、移行の手間を上回る価値を行動で確かめます。
出典:Amazon 2014年年次報告書(Form 10-K)
2. 売れるかに加えて、安全に提供できるかを公開前に確認する
大手小売グループのスマートフォン決済サービスは、2019年7月の開始直後に不正アクセスの被害が発生し、8月に廃止を発表しました。公表資料では、認証の仕組みの検討や、サービス全体の検証、リスク管理の体制が課題として挙げられています。
この経緯は、公開前に何を確かめるべきかを考える材料です。新規事業の検証範囲は「売れるか」だけでなく、「安全に提供し続けられるか」まで含みます。投入時期の決定と同時に、公開可否を判断する検証項目を明確にすることが重要です。
出典:セブン&アイ・ホールディングス「『7pay(セブンペイ)』サービス廃止のお知らせとこれまでの経緯、今後の対応に関する説明について」(2019年8月1日)
3. 利用場面が変わったら、有料で使う理由を確かめ直す
米国の短尺動画配信サービスは、2020年10月に事業終了を公表しました。創業者らの公開書簡では、独立したサービスとしてのアイデアの強さと、開始時期の両方に問題があった可能性を示しています。環境変化だけを原因と決めつけた説明ではありません。
この事例から点検したいのは、事業の前提となる生活様式が変わったとき、需要を確かめ直せるかという点です。「使ってみたい」という反応から、毎月対価を払う行動まで確かめる必要があります。資金や人材の豊富さは、支払意思の検証を省略してよい理由になりません。
出典:Quibi創業者による公開書簡(2020年10月21日)
4. 本業の強みを、新しい商品の提供条件に合わせて検証する
大手衣料品企業の食品事業では、2004年3月に事業廃止が決議されました。同社の半期報告書は、同年4月末に事業を停止し、子会社の解散を進める方針を示しています。
イノベーション総研が提案する点検事項は、本業の強みを新領域で使える条件です。たとえば生鮮品では、品質を保てる期間、調達量の変動、配送費などを確かめます。既存の顧客基盤やブランドがあることと、その条件で利益を出せることを分けて検証してください。
5. 終了するときも、利用者への対応と残す資産を決める
大手IT企業のクラウドゲームサービスは、2022年9月に終了を発表し、2023年1月18日までの提供となりました。公式発表では、期待したほどの利用者の支持を得られなかったと説明しています。指定ストアで購入した対象ハードウェアやゲーム等の返金と、技術を他の事業に生かす可能性も示されました。
この事例からは、撤退の実行方法を学べます。自社で終了する場合も、契約上の対応、利用者への案内、データの扱い、残す技術や知識を整理します。終了を決める基準と、終了後の責任を果たす手順は、別々に用意しておくことが重要です。
出典:Google「A message about Stadia and our long term streaming strategy」(2022年9月29日)
事例を、自社で確かめる問いに置き換える
5つの事例を、そのまま自社の失敗原因へ当てはめることはできません。持ち帰りたいのは、次の点を確かめる問いです。
公表された事実と自社への示唆を分けて、未確認の前提を探します。
- 顧客の価値と照らしたか
- 公開前に何を確かめたか
- 払う意思を確認したか
- 本業の勝ち筋が届く範囲だったか
- 出口を設計していたか
これらは原因を断定する診断結果ではなく、自社の検証計画を見直すための点検事項です。
事業を終えた場合も、人材・技術・顧客理解のうち何を残せるかを確認します。継続か撤退かだけでなく、終了後にどの資産を再利用するかまで整理してください。
新規事業の失敗を予防する3つの準備

予防では、5つの構造を一度に管理するより、次の判断を妨げている原因から手を打ちます。最初にそろえるのは、ニーズの行動証拠、決裁者に届く材料、撤退条件と判断の場です。以下の3段階で、検証と意思決定をつなぎます。
1. 次の判断に必要な顧客の行動を決める
まず、いま持っている材料が意見なのか行動なのかを仕分けます。アンケートの好意的な回答も、説明会での「面白いですね」も、意見です。
そこで、次の判断をいちばん妨げている仮説を1つ選びます。そして、どの行動を証拠とするかを決めます。たとえば見積依頼を出す、社内稟議に上げる、既存の代替手段を止める、といった負担を伴う行動です。
1回の検証で顧客課題、提供価値、技術、価格、売り方をすべて確かめようとすると、結果の意味が読めなくなります。問いと証拠と合否基準を一組にする手順は仮説検証の進め方で扱っています。
2. 決裁者へ渡す判断材料の型を合意する
次に、判断材料の型を先に合意します。企画の魅力を語る資料と、判断に必要な材料をそろえた資料は別物だからです。
最低限そろえるのは次の4点です。
- 何を検証し、何が否定されたか
- 事前に合意した基準と、実測値の差
- 追加投資の上限と、その根拠
- 推奨する判断と、その代替案
架空の報告例なら、「10社中3社が見積を依頼した。事前基準は5社だった。採用しなかった理由を確認し、対象顧客を絞って再検証したい」と書きます。ここに追加費用、期限、次の基準を添えれば、決裁者は継続案と終了案を比較しやすくなります。
3. 撤退条件と、判断者・判断日を先に決める
撤退の条件が文書にあっても、誰がいつ判断するかが決まっていなければ使われません。先に押さえるのは、検証結果を確認する日、参加者、決める選択肢、追加投資の上限です。
判断の場で必要なのは、活動量ではなく、問い、得た事実、基準との差、推奨する判断です。追加検証を選ぶ場合は、同じ活動を延長せず、何が未確認で、次はどの条件を変えるかを示します。
5つの原因を点検するチェックリスト
次の5項目で、未確認の条件を探してください。それぞれが5つの原因に対応しています。点数で案件の良し悪しを判定するためのものではありません。
- 顧客が採用しない理由も、行動や発言の記録で確認できていますか
- 報告資料に、事前基準と実測値の差が書かれていますか
- 誰が何を決めるか、役割と権限が明文化されていますか
- 売上目標を、顧客数・単価・必要な体制から説明できますか
- 次の判断日と、その日に選べる選択肢が決まっていますか
未確認の項目があれば、判断への影響が最も大きい一つから確かめます。確認する担当者、方法、期限を決め、次の会議で結果を共有してください。
自社だけで原因を整理しにくい場合は、関係者の認識を比べる新規事業診断Compassも選択肢です。顧客理解の不足なのか、組織の判断の問題なのかを整理したうえで、必要な対策を検討します。
終了・修正した案件の学びを、次の企画に残す
計画どおりに進まなかったとき、担当者の評価だけに目を向けると、失敗の構造が残りません。同じつまずきを繰り返さないためには、結果が出なかった事実と判断の妥当性を分けることが必要です。次に使える記録へ変える方法を整理します。
振り返りでは、事実・解釈・判断を分けて記録する
振り返りでは、次の3つを分けます。
- 事実:顧客の行動や検証結果
- 解釈:なぜそうなったかという仮説
- 判断:続ける、変える、終わりにする
たとえば「ニーズがなかった」「社内の協力が足りなかった」。こうした結論だけでは、次に何を変えればよいか分かりません。
「顧客が契約しなかった」という事実には、複数の解釈があります。課題が弱いのか。価格が合わないのか。決める人まで届いていないのか。追加で確認できるものと、現時点で判断するものを分けます。
外れた前提と見落とした兆候を、検索できる形で残す
記録に入れるのは、最初の仮説、確かめ方、事前に決めた基準、分かった事実、判断、そして次に避ける条件です。
ただし、成功談のようにきれいに整えないでください。どの前提が外れ、どの兆候を見落とし、どの判断が遅れたか。そこを残します。
イノベーション総研は、失敗から逆算して事業の前提を点検することを重視しています。案件名だけで保存せず、顧客課題・技術・検証した条件などを付けて記録すれば、別の担当者が似た案件を始めるときにも参照できます。
立て直す場合も、計画全体ではなく次の検証から始める
止まっている取り組みを、すぐに「撤退か継続か」の二択に置く必要はありません。
まず5つの構造のどこで止まっているかを見ます。そして残す資産、否定された仮説、追加で確かめる問いをまとめます。
ただし立て直すときも、一度に計画全体を作り直さないでください。次の判断に必要な、小さな検証を1つ置きます。
新規事業の失敗に関するよくある質問
失敗の扱い方について、よくある7つの疑問に答えます。自社で判断するときの確認事項としてご活用ください。
まとめ:次の会議で、証拠・基準・判断日をそろえる
新規事業の失敗は、アイデアや運だけでは説明できません。顧客理解と社内の意思決定を分けて点検し、再設計できる構造へ置き換えることが出発点です。今日の会議から、証拠・基準・判断日を一組にしてみてください。
原因を点検する視点は、顧客理解、判断材料、組織、企画、検証計画の5つです。担当者の能力だけに原因を求めず、どの前提が未確認で、どの判断が止まっているかを具体的にします。
立ち上げ時には、ニーズの行動証拠、決裁者へ渡す材料、撤退条件と判断の場を用意します。結果が出た後は、事実・解釈・判断を分けて記録し、次の企画に残してください。
点検は一度きりの審査ではなく、事業段階が変わるたびに行います。探索初期は顧客課題と代替行動、検証期は支払いにつながる行動、事業化前は再現性と収益条件を重く見るためです。たとえば判断基準と確認日をセットで残しておけば、担当者が交代しても検討経緯を追えます。
現在の取り組みを立て直すには、原因の点検に加えて検証の実行が必要です。顧客検証や事業化までの進め方に支援が必要な場合は、新規事業開発支援Launchもご覧ください。
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