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二酸化炭素除去(CDR)はどう事業になる?10事例と参入条件

CDR(Carbon Dioxide Removal)とは、人の活動によって大気中の二酸化炭素を取り除き、地中、土壌、鉱物、製品などへ長く貯留することです。日本語では「二酸化炭素除去」や「炭素除去」と呼ばれます。

木を植えることだけがCDRではありません。ほかにも、空気からCO2を直接回収するDAC、バイオ炭、バイオマスの地下貯留、岩石の反応を速める方法などがあります。

そして、方法ごとに、費用、貯留期間、必要な土地や電力、測りやすさが違います。

CDRの事業性は、装置が回収できる量ではなく、正味の除去を証明し、買い手へ納めるまでの費用と責任で判断します。本記事では国内外10事例を、実証採択、契約、設備能力、納入実績に分けて比較し、自社の参入方法を整理します。

情報確認日:2026年9月28日。

この記事の結論

CDRの事業価値は、回収装置より、正味除去を測り、長く貯留し、契約量を納め続ける仕組みで決まります。

  • CDRは、大気中のCO2を人為的に取り除き、地中、土壌、鉱物、製品などへ長く貯留する活動です。
  • 国内外10事例では、原料、装置、貯留、MRV、認証、長期購入、金融の分業が進んでいます。
  • 参入余地は、地域資源型CDR、装置・EPC、dMRV、調達・金融の四つです。

CDR(二酸化炭素除去)とは?排出削減・CCSとの違い

CDRは、大気由来のCO2を人為的に取り除いて長く貯留する活動です。化石燃料からの排出を回収するだけのCCSと区別します。

IPCCはCDRを、人為的な活動で大気中のCO2を取り除き、地質、陸域、海洋、製品へ長く貯留することと定義しています。そのため、自然に起きる森林や海洋の吸収を、そのままCDRとは呼びません。

つまり、人が意図して吸収や貯留を増やす必要があります。

排出削減は、工場、発電所、車などから新たに出るCO2を減らします。これに対してCDRは、すでに大気中にあるCO2を取り除きます。

両方が必要ですが、順番は削減が先です。実際、IPCCも、CDRは深い排出削減の代わりにならないと示しています。

CCSはCO2を回収して長期貯留する仕組みで、炭素の由来によって役割が変わります。化石燃料由来の排ガスを回収する場合は、主に排出削減です。

一方、大気から直接回収して貯留するDACCSや、植物が吸収した炭素を回収して貯留するBioCCSは、工程全体の排出や原料の持続可能性などの条件を満たすとCDRになります。

CDRと排出削減・CCSの違い
用語 CO2の出発点 主な目的 CDRになる条件
排出削減 新たに出るはずの排出 排出を減らす 大気から取り除かないため、CDRではない
化石由来CCS 工場・発電所の排ガス 排出を大気へ出さない 通常は削減であり、CDRではない
DACCS 大気 空気から回収して地中貯留 使用エネルギーなどを引いた正味除去が必要
BioCCS 植物が吸収した炭素 バイオ由来CO2を回収・貯留 バイオマスの再生と持続可能性が必要
バイオ炭 植物が吸収した炭素 分解しにくい炭へ変えて土壌などに貯留 原料、製造排出、貯留の追跡が必要

企画時は、回収設備の名称より先に、炭素の出発点が大気由来かを確認します。ここを曖昧にすると、排出削減をCDRとして売る誤りが起きます。

CDRと排出削減・CCSの境界
図1:CDRを事業として提供する際の確認事項。大気由来・長期貯留・工程全体の正味除去を確認し、クレジット化では方法論と第三者検証もそろえます。

回収量と正味除去量の違いを、説明用の仮定で考えます。大気由来のCO2を1,000トン回収・貯留しても、原料調達、電力、熱、輸送等で500トンのCO2換算排出があれば、差引きは500トンです。

実際の認証では、活動を行わなかった場合の基準線、測定の不確かさ、他の場所へ移った排出等も、適用する方法論に従って計算します。

CDRはどの方法でCO2を除去するのか

方法ごとに、原料・土地・電力・貯留先・測定の条件が異なります。確保できる資源と販売先の認証条件から候補を絞ります。

CDRには、自然の吸収を利用する方法と、工業設備を使う方法があります。ただし、片方が常に優れているわけではありません。

たとえば自然由来は比較的早く始めやすい一方、山火事、伐採、土地利用の変化で炭素が戻る可能性があります。反対に工業型は、長期貯留を設計しやすい一方、設備投資とエネルギーが必要です。

CDRの主な方法と事業化条件
主な方法 仕組み 主な貯留先 事業で見る条件
森林・土壌炭素 植物の光合成と農法で炭素を増やす 木、土壌 土地権利、基準線、逆転、農家への還元
バイオ炭 残渣を熱分解し、分解しにくい炭へ変える 農地、建材など 原料の持続可能性、炉の温度、利用先の追跡
バイオマス貯留 植物由来炭素を長期貯留。乾燥・密封等は手法の一例 地下施設 原料調達、密封、地下水、長期監視
DACCS 吸着材や溶液で空気からCO2を回収する 地質層、鉱物 低炭素電力、熱、水、貯留許可、設備稼働率
BioCCS バイオ燃料・廃棄物施設のCO2を回収する 地質層 バイオマスの由来、回収率、輸送、貯留
風化促進・鉱物固定 岩石やアルカリ性材料とCO2を反応させる 炭酸塩鉱物、溶存重炭酸イオンとして海洋など 反応速度、粒度、重金属、測定方法
海洋型CDR 海水のアルカリ度や生物作用を利用する 海水、海洋堆積物 生態系影響、追加性、広域での測定

表から分かるのは、方法ごとに必要な資産が違うことです。まず自社が確保できる原料、土地、電力、貯留先を置き、成立しない方法を外します。

CDRの主な方法を貯留期間と実装条件で比較
図2:IPCC、環境省、EU CRCFの資料をもとにイノベーション総研作成。方法は、耐久性だけでなく、原料、土地、電力、測定、地域合意まで比べる。

EUのCRCF認証方法では、2026/285規則がDACCS、BioCCS、バイオ炭の恒久的な除去を対象にしています。EU域内の対象施設等に適用する自主的な認証枠組みで、日本で生まれた除去量がそのまま認証される、あるいは排出量取引へ自動的に使えるという意味ではありません。

販売先が使う制度・方法論と施設の適用条件を先に確かめます。

事業では、方法名から入らず、地域にある資源から考えます。たとえば、農林業残渣が多いならバイオ炭やバイオマス貯留、低炭素電力と地質貯留が近いならDACCS、アルカリ性の副産物があるなら鉱物固定が候補です。

ただし、資源と貯留先が離れるほど、輸送費と責任の分断が増えます。

CDRクレジットが売上になるまでの流れ

予約契約、入金、検証、証書発行、納入、償却は別の段階です。正味除去を説明できるデータを現場作業と同時に残します。

CDRクレジットでは、方法論を選び、計測計画を作り、第三者検証と登録簿での発行を経て買い手へ移転します。気候目標等への利用時には、再利用できないよう償却します。

将来分の予約契約や前払いもありますが、契約、入金、検証、納入はそれぞれ別の出来事です。売上計上の時期は契約と適用する会計処理に従います。

最初に決めるのは基準線です。これは、何もしなければ炭素はどうなったかという前提です。

たとえば、農業残渣が自然に分解していたのか、別の用途へ使われていたのかで、追加的に固定した量は変わります。

次に、工程全体の排出を引きます。具体的には、原料の収集、加工、電力、熱、輸送、圧入、監視までを含めます。

また、測定誤差が大きい場合は、安全側へ差し引く必要があります。

その後、貯留が続くことを監視します。たとえば、森林や土壌では逆転時の補填、地中貯留では漏出監視、バイオ炭では製造温度と利用場所の記録が要ります。

そして、正味除去量を説明する証拠は、現場作業と同時に集めます。

Isometricの登録簿は、証書ごとに証拠、計算、発行、移転、償却の履歴を公開しています。CDRの価値は、トン数だけでなく、第三者が後から追える状態にすることで生まれます。

二酸化炭素除去の市場は、契約から納入へ移っている

大きな購入契約は将来需要の証拠ですが、除去を実行した証拠とは別です。契約と納入の対象・期間をそろえて読みます。

CDR市場には、発行済みの証書を買う取引と、将来の除去を先に契約する取引があります。新しい施設は建設費が大きく、運転実績が少ないため、長期購入契約が資金調達の前提になります。

Microsoftの2026年1月発表では、2025年度に21社と計4,500万トンのCDR購入契約を結び、前年の約2倍となりました。これは同年度に結んだ将来の除去の契約量です。

Frontierの2026年6月発表では購入コミットメントが総額18億ドルへ拡大しました。新しい枠は8〜10年の長期契約を軸に、2040年までの納入を対象にできる設計です。

一方、Frontierの同じ発表には、2025年に参加先7社が約2万3,000トンを納入した実績があります。2026年の5万トン超は予測です。

Microsoftの契約とFrontierの実績は集計対象・期間が異なるため、両者を割って達成率にはできません。

CDR市場の数字は、対象と意味をそろえて読む
公表された数字 対象・時点 事業判断への使い方
4,500万トン Microsoftが2025年度に結んだ購入契約 将来需要の大きさ。年度内に除去した量ではない
18億ドル Frontier、2026年6月時点の購入コミットメント総額 需要を支える枠。供給企業の計上済み売上ではない
約2万3,000トン Frontier参加先7社による2025年納入 納入実績。全CDR市場の供給量ではない

新規事業への示唆は、需要の約束と、納められる能力を別々に検証することです。Frontierも遅延や未納の可能性を開示しています。

買い手の契約だけで設備投資を決めず、原料、稼働、認証、貯留の各段階で、いつ何トンを納められるか確かめます。

そのため、CDRの市場を見るときは、四つの数字を分けます。具体的には、施設の設計容量、実際の総回収量、検証後の正味除去量、買い手へ納入済みの量です。

つまり、大きな契約があっても、最後の納入まで進んでいるとは限りません。

日本では日本CDR協議会がロードマップや測定・制度等の議論を進め、東京都もクレジット創出の実証を支援しています。制度づくりへの参加と、認証・販売・納入の実績は分けて捉えます。

CDRを進める国内5事例は、何をつないでいるのか

国内事例では、農地・残渣・素材・販売網を活用しています。実証への採択、予約契約、施設稼働を分けて参考にします。

国内では、農業、素材、DAC、商社、金融が異なる入口からCDRへ入っています。重要なのは、技術名ではなく、地域資源、測定、貯留、買い手をどうつないでいるかです。

以下のサグリ、TBM、Planet Saversは、東京都が2026年9月3日に公表した採択案件です。実証は2028年12月までの計画であり、採択を除去量の認証や販売完了と読み替えないようにします。

CDRを進める国内5社の取り組み
企業 CDR手法 現在の取り組み 事業化の要点
サグリ 土壌炭素 2026年都採択。農法転換とクレジット創出の実証計画 衛星・土壌データと農家支援を一体化
TBM 炭酸塩化 2026年都採択。バイオ由来排ガスと灰の炭酸塩化を実証予定 廃棄物処理と素材価値を組み合わせる
Planet Savers DACCS 2026年都採択。DAC・海外貯留・認証・流通の実証計画 装置の外に貯留・認証・販売網が必要
TOWING バイオ炭 2025年3月、三菱UFJ銀行と計210トン・3年間の予約契約 土壌改良と炭素価値を農業に載せる
住友商事・Graphyte バイオマス貯留 2026年6月に合弁設立合意。施設拡張と販売を計画 技術、販売、資金、長期納入を統合

これらの事例は、既存の農業、素材、地域資源、販売網をCDRへ活用する方法を示します。後発企業は、独自の除去装置を開発する以外にも、原料確保、現場支援、測定、販売を担えるか検討できます。

各社が採算を確立したことまでを意味するものではありません。

国内5社のCDR事例とつないでいる機能
図3:国内5事例の役割。サグリ・TBM・Planet Saversは2026年採択の実証計画、TOWINGは予約契約、住友商事・Graphyteは合弁設立合意で、成果の段階は異なります。

サグリは、農法転換と衛星データを一つの事業にする

東京都の2026年度採択事業で、サグリは北海道の農地を対象に、土壌炭素を増やす農法への転換を進めます。衛星、気象、土壌のデータを使い、農業の変化を測る計画です。

サグリの例からは、測定・報告・検証(MRV)を営農支援と一緒に設計する機会が見えます。農法を変える農家には、収量、肥料費、作業量、クレジット収入の変化を確認し、購入企業には農地ごとの変化を示す必要があります。

農家の収益改善や認証された除去量は、この採択発表ではまだ示されていません。

TBMとPlanet Saversは、回収後の出口まで検証する

TBMは、木質バイオマス発電所の排ガスと未利用の焼却灰を使い、CO2を炭酸カルシウムへ固定する方法を実証します。廃棄物だった灰に炭素を固定し、素材として使えれば、処理費と製品価値を組み合わせられます。

ただし、排ガス中のCO2が化石由来なら、それを固定してもCDRとは限りません。そのため、バイオ由来の割合、工程排出、製品中での貯留期間を分けて測る必要があります。

つまり、方法論づくりが事業の中心になります。

Planet Saversは、ゼオライトを使うDACと海外での地下貯留、認証、東京都でのクレジット流通を検証する計画です。装置に強い企業でも、貯留、輸送、登録簿、販売を組み合わせる必要がある点が参考になります。

TBMと同様、ここで確認できる成果は実証への採択であり、商用の除去量や利益ではありません。

TOWINGは、バイオ炭を土壌改良とCDRへ使う

TOWINGと三菱UFJ銀行の2025年3月27日発表では、高機能バイオ炭「宙炭」を中部4県の農地へ施用して創出するJ-クレジットを、3年間で計210トン予約販売する契約が示されました。銀行が金融面だけでなく買い手としても支える事例です。

この事例では、農地での資材利用と将来のクレジット需要を結び付けています。210トンは契約数量で、納入完了や全農地の収益改善を表す値ではありません。

事業化では、原料、製造時の排出、施用量を追える記録に加え、農家への還元額と作業負担を確かめます。

住友商事とGraphyteは、商用技術へ販売網と資金を足す

住友商事は2026年6月、米Graphyteと合弁会社の設立に合意しました。Graphyteは農林業残渣を乾燥、圧縮、密封し、地下へ貯留するCarbon Castingを展開しています。

住友商事の2026年6月発表によると、米国Loblollyは2年間の稼働実績があり、年5万トンの除去能力へ拡張中です。5万トンは拡張後の能力で、その年の検証済み納入量ではありません。

住友商事は北米での案件拡大と、日本企業を含む買い手の開拓を担う計画です。

示唆は、技術企業と商社が、原料・設備運営と、販売・資金・案件開発を分担できることです。検討時は、販売網があることに加え、実際の契約先、納入条件、拡張費用、監視責任まで確認します。

海外のCDR企業5事例は、どこまで商用化したのか

海外では商用施設の運転と実納入が進んでいます。最大の設備能力ではなく、運転中の正味除去量と改善過程を確認します。

海外では、DAC施設の運転、長期購入契約、透明な登録簿、需要集約が進んでいます。計画と実績を分けるため、設計容量、稼働状況、許認可、契約方法を確認します。

Climeworksは、DAC・再生可能エネルギー・鉱物化を一体化する

ClimeworksのMammothは、2024年5月に立ち上がったアイスランドのDAC施設です。公表された最大年3万6,000トンは総回収の設計能力で、Carbfixによる地下貯留まで含めた実際の正味除去量とは異なります。

Climeworksの運転改善報告によると、2026年上期の正味除去量は675トンで、前年同期の119トンから増えています。同社は吸着材と機械・運転方法の改良を説明しています。

これは同じ半年間の実績比較であり、年3万6,000トンという能力を達成したことを示す数値ではありません。

ここからの示唆は、装置の導入後にも改善余地が大きいことです。最大能力だけを基準に売上を作らず、停止時間、吸着材交換、実測の電力・熱、正味除去量を追い、保守や素材の改良が1トン当たり費用を下げるかを確かめます。

1PointFiveは、許認可と大口購入を先にそろえる

1PointFiveのSTRATOS事業ページは、全設備稼働時の最大年50万トンの回収能力と、2025年4月のClass VI圧入井許可を示しています。許可と設備能力は事業化の条件ですが、検証・納入された正味除去量とは別です。

Microsoft、Amazon、ANA、Bainなどが初期購入者として示されています。このように、大規模DACでは、吸着設備の性能だけでなく、EPC、電力、水、貯留井、監視計画、買い手を建設前から組みます。

そのため、新規参入企業は、プラント本体ではなく、この周辺工程から入る余地があります。

Heirloomは、長期購入契約をプロジェクト金融へ変える

Heirloomは石灰石の反応を利用するDACを開発し、Tracy施設を2023年から運転しています。公表する年1,000トンは回収能力です。

一方、2023年9月のMicrosoftとの最大31万5,000トンの契約は、将来施設から複数年で納める購入契約です。

Heirloomは、予測可能な長期収入を作る契約が将来施設の資金調達を支えると説明しています。新規参入企業にも、施設完成前に買い手の品質・納期条件を固める示唆があります。

ただし、契約があることと、融資実行・納入完了は分けて確認します。

Isometricは、CDRの証拠を公開する登録基盤を作る

Isometricは、CDRの手法別プロトコルと登録簿を運営しています。具体的には、証書ごとに、計算、証拠、第三者検証、発行、移転、償却を公開します。

そのため、開発企業は、設備を動かすだけでなく、必要なデータを継続的に提出します。

この登録簿の事例は、除去設備を持たなくても、証拠の収集・計算・監査支援に役割があることを示します。実際の購入では、サービスの機能説明だけでなく、対象プロジェクトの方法論、検証報告、発行・償却履歴まで確認します。

Frontierは、初期CDR企業の需要をまとめる

Frontierは、複数企業の需要を集め、CDR企業との複数年契約を組成します。2026年6月の新たな購入枠では、商用規模の投資判断につながる長期契約に重点を置いています。

将来需要を示すだけでなく、納入可能性を審査する役割です。

同社の開示では、主なオフテイク契約は所定の節目を満たすことを購入条件とし、納入前の第三者検証と登録を求めます。一方、少額の先行購入では、供給不能時に買い手が返還等を請求できない契約もあります。

同じ「先に買う」でも、支払時期と未納負担は異なります。

海外CDR5事例を供給・認証・需要の役割で整理
図4:海外5事例の役割を並べた整理図。矢印は5社間の実際の取引関係を表しません。施設の設計能力、購入契約量、購入枠を納入実績と区別して比較します。

10事例から見える、価値が残る場所

事業機会は回収装置だけではありません。資源調達、運転、証拠管理、購入契約、資金のうち、顧客が費用を払う仕事を選びます。

第一は、地域資源を長期契約へ変える役割です。というのも、農林業残渣、土壌、焼却灰、低炭素電力、地質貯留は、地域ごとに散らばっているからです。

そのため、原料と貯留先を確保し、住民や地権者と合意し、買い手へ届ける事業者が必要です。

第二は、正味除去量を作る運用です。つまり、回収装置の最大能力ではなく、原料、電力、輸送、停止、漏出を引いた量を安定して出します。

そのため、技術開発より、保全、品質管理、異常対応が競争力になる段階があります。

第三は、証拠を作るデータ基盤です。具体的には、原料の重量、炉の温度、電力の由来、農地の位置、輸送距離、圧入量、貯留状態を記録します。

つまり、あとから作る報告書ではなく、現場の作業と同時にデータを残す設計が必要です。

第四は、契約量と実納入の差を引き受ける金融です。具体的には、複数の手法を組み合わせ、遅延時の代替調達、保険、支払条件を設計します。

というのも、CDRの買い手は技術リスクをすべては負いたくない一方、供給企業は完成前に資金が必要だからです。この間を埋める事業に余地があります。

第五は、買い手の利用目的へ合わせることです。というのも、自主的な気候目標、取引先からの要請、将来の制度対応では、必要な耐久性と証拠が違うからです。

カーボンクレジットの記事で整理した通り、同じ1トンでも用途に耐える証拠がなければ価値は残りません。

自社はCDRのどこへ入れるか

近い資産を開き、自社で持つ責任と提携が必要な部分を確認します。

01 農林業・廃棄物・地域資源がある

未利用資源をCDRへ変え、本業の価値と炭素価値を両立させます。

  • 原料の既存用途と追加性を説明できる
  • 事業期間に必要な原料と用地を確保できる
  • 認証と販売は専門事業者と組める
02 装置・素材・EPCに強い

回収、熱分解、鉱物化、貯留を安定運転し、正味除去原価を下げます。

  • 低炭素の電力と熱を確保できる
  • 稼働率と保守費を実測できる
  • 貯留と許認可の相手がいる
03 センサー・データに強い

現場の記録を、第三者が監査できる証拠へ変えます。

  • 欠損と不確かさを安全側へ処理できる
  • 認証方法の更新へ追随できる
  • 1トン当たりの測定費を下げられる
04 顧客・金融に強い

長期購入と設備資金をつなぎ、未納時の代替調達を設計します。

  • 買い手の利用目的を確認できる
  • 節目ごとの支払条件を作れる
  • 複数手法と地域へ分散できる
05 正味除去量がまだ見えない

契約を急がず、回収量、工程排出、検証量、納入量を分けて測ります。

  • 炭素の出発点を特定する
  • 貯留先と監視責任を決める
  • 見送り条件を関係者で合意する

NEXT STEP

次のステップ

「何トン回収できるか」から、「何トンを正味で納められるか」の事業設計へ。

原料、工程排出、貯留、MRV、認証、買い手、未納責任を一つの構造にし、参入・提携・待機・見送りの条件を明確にします。

新規事業としてCDRへ参入する四つの方法

自社の資源・装置・データ・顧客基盤から役割を選び、販売可能な納入量を分母にして全費用と責任を見積もります。 CDRへの参入方法は、自社が持つ資産から選びます。

装置メーカー以外にも、農業、廃棄物、建設、IT、金融、商社に役割があります。

CDRへの四つの参入方法
参入方法 最初の顧客 提供価値 自社で持つもの 主な提携先 最初に確かめること
地域資源型CDRの開発 農家、林業、廃棄物施設、自治体 未利用資源を除去価値へ変える 原料網、地域合意、現場運営 認証、販売、研究機関 原料の既存用途と、事業期間を通じた確保
装置・素材・EPC CDR開発事業者 回収、熱分解、鉱物化、貯留を安定稼働させる 装置、素材、保全、施工 電力、貯留、保険 正味除去原価と稼働率
dMRV・認証データ 開発事業者、登録簿、購入企業 現場データを監査可能な証拠にする センサー、計算、データ統合 検証機関、研究者 1トン当たりの測定費と不確かさ
調達・長期購入・金融 大口購入企業、CDR事業者 長期需要と建設資金を結ぶ 顧客、審査、契約、資金 保険、銀行、認証 未納率と代替調達費

参入方法は技術の新しさではなく、自社が持つ資産と負える責任から選びます。不足する機能が一つなら提携し、正味除去と未納責任の両方を説明できなければ待機します。

地域資源型では、農家への還元、廃棄物処理費、資材としての販売価値と、クレジット収入を分けて試算します。副収益があれば継続を支える可能性がありますが、それがなければ成立しないと一律に決めることはできません。

除去の対価だけで必要費用と長期責任を賄えるかも、事業ごとに検証します。

装置・EPC型は、最大回収量ではなく、正味除去原価、稼働率、保守時間、交換部品、エネルギー源を保証条件に入れます。CCUSの事業機会でも、装置の外に輸送、貯留、監視、保険があると解説しました。

そしてCDRでは、さらに大気由来炭素の証明が加わります。

dMRV型は、報告画面を作るだけでは差別化しにくいでしょう。むしろ、センサーの校正、データ欠損の扱い、不確かさの控除、プロトコル更新、監査対応まで持つ必要があります。

そして、現場機器や業務ソフトへ深く入るほど、継続収益を作りやすくなります。

調達・金融型では、前払い、建設時の資金、検証・納入後の支払いを分け、誰がどのリスクを負うかを契約にします。複数の手法や地域を組み合わせても、同じ品質・用途の代替品を必要な時期に用意できるとは限りません。

代替調達の数量、価格、期限まで確認します。

架空例:1,000トン回収しても、販売原価は1,000トンで割らない

費用の見方を示す架空例です。大気由来CO2の回収・貯留が1,000トン、ライフサイクル排出が300トンCO2換算、費用が3,000万円とします。

簡易な差引きは700トンですが、検証・発行時の調整と納入時期を反映し、当期に販売・納入できる量は600トンと仮定します。特定制度の認証計算式や市場平均ではありません。

架空例:納入できる量によって1トン当たり費用が変わる
費用を割る数量 計算 読み方
回収量1,000トン 3,000万円÷1,000=3万円 回収段階の目安。販売するCDRの原価ではない
納入量600トン 3,000万円÷600=5万円 この費用範囲での納入1トン当たり費用
納入量500トンに減少 3,000万円÷500=6万円 費用が同じでも、納入量減少で単位費用は上がる

仮に販売価格が1トン6万円なら、600トンの売上3,600万円から上記費用を引いた残額は600万円です。500トンなら残額はゼロになります。

実際の投資判断には、初期投資、資金調達、税、長期監視、補填費用等の未計上分と入金時期も加えます。単位当たりの収支は、回収量ではなく販売条件を満たす納入量で確かめます。

失敗しやすい九つの懸念

採算を崩すのは、除去量の減少だけでなく、原料不足、測定費、納入遅延、補填責任です。複数の条件が悪化する場合も試算します。

一つ目は、削減と除去の混同です。工場排ガスを回収しただけでCDRと呼ばないよう、炭素の出発点を確認します。

二つ目は、総回収量と正味除去量の混同です。電力、熱、原料、輸送、貯留の排出を引きます。

三つ目は、貯留の逆転です。森林火災、土地転用、バイオ炭の不適切な利用、地中貯留の漏出に備えます。

四つ目は、原料の奪い合いです。残渣がすでに燃料、飼料、堆肥へ使われている場合、CDRへ回すことで別の排出が増える可能性があります。

五つ目は、測定費が粗利を消すことです。というのも、小さな農地や分散設備では、現地調査と検証の固定費が高くなるからです。

そのため、集約単位と自動計測を先に設計します。

六つ目は、認証前の数量を確定売上として扱うことです。というのも、検証後に除去量が減ることがあるからです。

そのため、予想量、検証量、発行量、納入量を分けます。

七つ目は、長期契約の未納です。設備の完成遅延、原料不足、許可、故障をシナリオへ入れます。

代替調達と返金条件を決めます。

八つ目は、地域合意の遅れです。たとえば、地下貯留、採石、農法転換、海洋実証では、住民、地権者、漁業者、自治体との合意が必要です。

そのため、技術検証と並行して進めます。

九つ目は、少数の大口買い手への依存です。たしかに長期契約は事業を支えますが、価格と仕様を特定企業に握られます。

そのため、用途と顧客を分散します。

見送る条件も決めます。たとえば、炭素の出発点を特定できない、正味除去を測れない、貯留先を追えない、原料を長期確保できない、未納責任を分けられない場合です。

たとえ技術が魅力的でも、売れる除去を継続して作れなければ事業にはなりません。

CDR事業の品質は、五つの証拠で見分ける

品質は価格で決めず、大気由来、追加性、正味量、貯留と補填、二重利用を防ぐ記録で確認します。 第一は、大気由来の炭素である証拠です。

たとえばDACなら、空気から直接回収します。一方、バイオマスなら、植物が大気から吸収した炭素であり、原料が再生されることを示します。

第二は追加性と基準線です。事業がなかった場合に何が起きたかを置き、炭素収入があることで増える除去を説明します。

森林・農地なら土地管理、残渣なら既存の処理・利用方法を比較し、対象制度が求める資金面や制度面の追加性も確認します。

第三は、ライフサイクル排出を引いた正味量です。具体的には、電力、燃料、装置、輸送、貯留、監視を含めます。

Microsoftの高品質CDR基準も、工程全体の気候効果を確認しています。

第四は、貯留期間と逆転時の対応です。何年保つかだけでなく、誰が監視し、炭素が戻ったときにどう補うかを確認します。

第五は、二重発行・二重利用を防ぐ記録です。プロジェクト名だけでなく、証書番号、発行量、移転・償却履歴を受け取ります。

企業の気候目標と国の排出・吸収計上は制度上の扱いが異なるため、一律に重複とみなさず、購入目的に必要な認可や調整を確認します。

高価格なら高品質とは限りません。たとえば、初期技術は高くても測定が未成熟なことがあります。

反対に、安い自然由来でも、追加性と地域便益が明確な案件があります。つまり、価格ではなく、用途に必要な証拠と責任で選びます。

自社は参入・提携・待機・見送りのどれか

参入判断は、自社が提供できる仕事と、認証・貯留・販売を含む採算で行います。補えない条件は、提携・待機・見送りへ分けます。

参入を選ぶのは、原料、装置、現場、データ、顧客、金融のどれかで強みを持ち、正味除去と未納責任を説明できる場合です。すべてを内製する必要はありませんが、自社が持つ責任は明確にします。

提携を選ぶのは、地域資源や顧客を持つ一方、認証、貯留、金融が不足する場合です。その場合、初期段階では、方法論と販売先を持つ相手を先に入れます。

というのも、設備完成後に認証方法を探すと、必要なデータが残っていないことがあるからです。

待機を選ぶのは、手法の認証が整っていない、貯留許可が未確定、買い手の用途が定まらない場合です。待機中も、原料量、工程排出、顧客の支払意思を測り、将来の参入条件を作れます。

見送りを選ぶのは、必要な正味除去を示せない、価格と費用が見合わない、許認可や監視・補填の責任を確保できない場合です。クレジット以外の収益がないことだけで除外はしません。

排出削減や資源循環に価値があってもCDRの条件は満たさない計画なら、その別の価値で事業化を検討します。

イノベーション総研では、技術の魅力だけでなく、最初の支払者、現場運用、証拠、認証、契約、責任を一つの事業構造にします。参入、提携、待機、見送りを同じ表で比べると、自社が持つべき機能が見えます。

CDRについてよくある質問

CDRについて相談時に多い疑問を、事業判断に必要な範囲へ絞って答えます。

Q. CDRとは簡単にいうと何ですか?

A. 人の活動によって大気中のCO2を取り除き、地中、土壌、鉱物、製品などへ長く貯留することです。排出を減らすだけではなく、大気中の量を正味で減らします。

Q. CDRとCCSは同じですか?

A. 同じではありません。CCSはCO2を回収して地中へ貯留する技術の総称です。工場の化石由来排ガスを回収するCCSは主に排出削減です。DACCSや持続可能なバイオマス由来CO2の貯留は、条件を満たせばCDRになります。

Q. CDRクレジットは何を買うものですか?

A. 大気からCO2を1トン取り除き、定めた期間にわたり貯留した成果を表す証書です。実際には、正味除去量、追加性、貯留、第三者検証、登録と償却の証拠を確認して買います。

Q. CDRの代表的な企業はどこですか?

A. 海外ではClimeworks、1PointFive、Heirloom、Graphyteなどが除去施設を開発しています。国内ではサグリ、TBM、Planet Savers、TOWING、住友商事などが、農業、素材、DAC、バイオマス貯留で実証または商用化を進めています。

Q. CDRへ新規参入するなら何から考えますか?

A. 自社が持つ地域資源、装置、データ、顧客、金融のどれを使うかを決めます。そのうえで、炭素の出発点、正味除去量、貯留先、認証、買い手、未納時の責任を一つずつ確認します。

まとめ:売れる除去は、技術・貯留・証拠・納入で作る

CDRの事業化では、正味除去を証明し、長く貯留し、契約条件どおり納める仕組みが必要です。需要の大きさと、自社が納入できる量・費用を分けて判断します。

CDRは、大気中のCO2を取り除き、長く貯留する活動です。排出削減や化石由来CCSとは役割が違います。

DAC、バイオ炭、バイオマス貯留、鉱物固定、土壌炭素など、方法ごとに必要な資源と責任も異なります。

国内外10事例を見ると、商用化には装置だけでなく、原料、低炭素エネルギー、貯留、MRV、認証、長期購入、金融が必要です。特に、契約量と納入量を分け、正味除去を継続して証明できることが重要です。

新規事業では、地域資源型CDR、装置・EPC、dMRV、調達・金融の四つから、自社資産に近い入口を選びます。大気由来炭素、正味除去、貯留、買い手、未納責任を説明できるなら参入します。

足りない機能が明確なら提携し、除去の境界と責任を示せない計画は見送ります。

参考資料

本文の定義、制度、企業事例は、次の公式資料を中心に確認しました。

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CDRの事業機会を、自社の資産と責任から具体化する。

地域資源、装置、データ、顧客、資金の資産を整理し、誰が支払い、何を自社で持ち、誰と組むかを設計します。

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この記事の執筆・監修

執筆

イノベーション総合研究所 編集部

監修

長尾 浩平(株式会社イノベーション総合研究所 代表取締役)

外部出典

IPCC、環境省、欧州委員会、東京都、日本CDR協議会、サグリ、TBM、Planet Savers、TOWING、住友商事、Graphyte、Climeworks、1PointFive、Heirloom、Isometric、Frontier、Microsoftの公式サイト・公表資料。根拠は本文中のリンクから確認できます。

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